『最後のゲームよ、菜々葉……』
モウ終ワラセテ……
そう願っているのに……
『この私の結界の中で死にかけてるアナタを……誰かが見つけられるか……』
楽しそうな姉の声。
『……それとも、誰にも気づかれずにこのまま死んでいくか……』
耳元に、悪魔のような冷たい吐息……。
『さぁ……結果はどっちかしら……』
笑い声とともに、姉の魂はナナの身体から離れて行った。
結果なんてどうだっていい。彼女がどこへ行ったのかも。
そう思いながら、目を閉じた。
痛みなどなく、ただ寒かった。
身体が凍り付いていくのを感じながら……何も願わなかった。
目が覚めてからのことは、よく覚えていなかった。
不思議だったのだ。
何故、また“ここ”にいるのか……。
刻印を壊されて存在意義を失ったはずなのに、まだ存在している。
何も願わなかったはずなのに。
まるで悪夢でもないおかしな夢の中にいるようで……。
それでも、カカシが語った“あの戦い”の果てはちゃんと耳に届いた。
だが、それもまた現実でなく物語のようだった。
あの岸には倒れたナルトがいて、サスケは居なかったという。
倒れたままのナルトをそのままにして、サスケは去ったのだ……と。
その事実を、ナナは受け止めかねていた。
結局、サスケはナルトを殺さなかった。
アレだけの決意をし、あんな姿になってまで、ナルトを殺さなかったサスケ……。
彼の変わりきれなかった心を、喜ぶべきか、悲しむべきか、それとも、哀れむべきか……。
何故か客観的に、冷めた心で、それだけをずっと考えていた。
夢とうつつの狭間のようなところで。
だが、ナルトの姿を目にした瞬間に、
あの時の光景がよみがえり、あの時と同じ
それは恐怖と絶望だった。
ただ『ナルトが生きている』という事実に救われた。
その想いのひとかけらで、かろうじて人間らしさを保てているような気がした。
だが、何ひとつナルトに伝えられなかった。
悲しみも、恐怖も、喜びも、ナナの中で跳弾するばかりで、言葉にすらならなかった。
それはきっと、彼との“繋がり”を奪われてしまった絶望のせい。
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それでも、生きなければならなかった。
再び目は覚めてしまったから。
奪われたもの、迫り来るもの、それらから逃げられないと悟った時……、仲間たちが現れた。
皆、手を差し伸べてくれた。強い言葉もくれた。ナルトは抱きしめてくれた。
自身の“血”と“名”を明かしても。敵の存在を明かしても。
そして、まだ秘密を抱えたままでも……。
彼らは側にいてくれた。
だからもう、目を閉じることはできなかった。
イロも、カタチも、全てのものが、以前とまるで違って見えても。
「ナナ!」
窓から見える景色を、無理やり目に映していたナナのもとへ、サクラがやって来た。
1輪の花を手にしてニコリと笑う。
「具合はどう?」
ナナは笑みを返した。
サクラにはまだ伝えきれていない想いがあった。
サスケを連れ戻せなかったことを謝ったとて、辛いのはサクラも同じ。
だから、ただ約束を守れなかったことを、一言『ごめんね』と、そう言うことしかできなかった。
たぶん、ナルトも同じ……。
サクラが、無理に明るく振舞っているのはわかりきっている。
何もできなかった……サスケを連れ戻すために、なにひとつできなかった自分だから、サクラの考えていることはよくわかる。
でも、サクラは……。
「ナナ、私ね、ツナデ様の弟子にしてもらっちゃった」
窓辺に一輪挿しを置きながら、少しはにかむように笑うサクラ。
「『今度は、私も』……ってね」
喉の奥が引きつった。
ナルトも、自来也との修行を再開すると言っていた。
二人とも、もう前に進もうとしていた。
そして、シカマルの瞳も、チョウジやネジ、キバの瞳も、もう“次”を見据えていた。
「私は……」
未だ癒えぬ傷のせいか、ナナの呟きはサクラには届かなかった。
「なに?」
なんでもない……と、ナナは笑った。
ズキンと痛む胸の傷。
「そういえば砂の3人、明日帰るって言ってたわ」
ベットの脇に腰掛けて、サクラがそう告げた。
ナナは胸を抑えかけた手を、さりげなく毛布の中に隠した。
「うん。さっき我愛羅たちが来て教えてれた」
「そう。ちょっと寂しい気もするわよね」
彼らが、ナナの回復を見届けるまで木ノ葉に留まっていたことは、誰もが知っていた。
ナナ自身も、それを知っている。
『借りを返しただけ』と言われるだけだったが、彼らの存在は大きかった。
我愛羅という、一時心を通わせた者と、彼と共に変わり始めたその姉兄。
そしてこの里を外から見る立場の彼らが居てくれたのは、なんだか少し嬉しかった。
きっと、彼らとの出会いを経たということが、少しだけでも前に進んで来たことを実感できるからだろう。
そのくらいでしか、感じられないのも事実だが……。
サクラはしばらく、他愛もない話をして帰って行った。
これからツナデの初めての講義があるのだと、嬉しそうに。
サスケの話はいっさいしなかった。
再び静寂に包まれた病室で、ナナは深く息をついた。
焦りはなかった。
先へ先へと進もうとする仲間たちを見て、気持ちを追いつかせようという気はなかった。
焦りなんかじゃなく、もっと大きなものに包まれていたからかもしれない。
不安……とも違う。
それは多分、“あの日”以来続く……絶望……。