「んじゃ、気ぃつけてな」
里の門まで見送りに来て、シカマルは簡潔にそう言った。
今更改まって礼を言うような、小さな借りではなかったから。
初めて木ノ葉で出会ったころと、ずいぶんと変わった砂の三兄弟とは、不思議な絆ができたと思う。
今日から修行を再開するチョウジやネジ、リー。
今日からツナデの本格的な修行を受けるサクラ。
そして、今日から自来也との修行の旅に出るナルト。
自分も、今日から中忍としての任務が始まる。
彼らを見送ることで、自分の再出発を改めて意識した。
不思議と縁のできたテマリと最後のやりとりをしたその時
「待って!」
シカマルの上空から声がして、
タン……と白い影が彼の横に着地した。
「ナナ……?」
我愛羅が初めにそう口にした。
「お前、まだ絶対安静じゃ……」
ナナは片方だけ松葉杖をつき、そこに立っていた。
「どうしても、見送りたくて」
笑ったナナに、我愛羅が組んでいた腕を下ろした。
「我愛羅、カンクロウ、テマリ……」
三人を見回して、ナナは改めて言った。
「ほんとうにありがとう」
青白い顔で、包帯だらけの手足で、ナナは笑った。
「お前、まだフラフラじゃん……」
「さっさと怪我を治せよ」
「…………」
そのナナに、カンクロウとテマリが言って、我愛羅は何も言わなかった。
誰も、ナナの戦った姿を眼にしてはいなかった。
が、どれほどの修羅場だったのかは、そこにいる全員が感じていた。
我愛羅はほんの一瞬、シカマルに何か言いたげな視線を投げ、すぐに背を向けた。
2人の姉兄は黙ってそれに続いた。
ナナは、ずっとその背を見送った。
シカマルは、そんなナナの横顔と、三人の背を交互に見ていた。
ナナが何を思って遠ざかる3人の忍を見つめているのか、シカマルにはわからなかった。
ナナのまとう複雑な空気は、到底理解できそうにもなかった。
いや、理解していいはずがなかった。
ただ、ナナは、
「ねぇ、シカマル」
3人の影が消え去ってから、彼に呟いた。
「私、『里』に帰って修行しようと思ってるんだ」
「里……か……」
唐突な言葉でも、全てを理解することはできないのだとわかってしまえば、驚くことはなかった。
「和泉の里ってコトだろ?」
「うん」
ナナは改めて彼を向き、うなずいた。
まっすぐな瞳……とは言いがたかった。
色を定めないナナの瞳を探るのは、無駄な努力。
だから彼は、単純に予想しうることだけを口にする。
「お前の“姉”ってやつを倒すための修行か……?」
「…………」
しかし、ナナは答えなかった。
微笑。
それが答えだといわんばかりに、謎めいた微笑を返される。
「それとも……」
とうに諦めのついている彼は、明け透けにこう言った。
「サスケを連れ戻すために、もっと強くなりてぇからか……?」
やはり返されるのは、微笑のみ。
最初の予測が正しかったのか、次の予測が正しかったのか、それともどちらでもないのか……。
秘められたナナの心はわからない。
シカマルは小さくため息をついた。
身体の力が抜けていく。無意識に緊張していたらしい。
「帰って来るんだろ?」
少しだけ祈る気持ちで、ナナを見た。
「帰って来るよ」
儚い笑顔で、ナナは言った。
そして、フラリとよろめいた。
「おっ……と」
片手で支えきれるほどに細い、ナナの身体。
「ほら、さっさと病院に戻るぜ」
「うん」
シカマルはそのままナナを背負い、無言で里を駆け抜けた。
儚い笑みで返した言葉が、儚い約束にならないことを願いながら……。