波の国は『ガトー』という悪徳商人に支配されていた。
道中襲って来た忍はそのガトーの手下だった。
目的はタズナの暗殺。ガトーにとって、タズナは消し去りたい存在だったのだ。
ようやく真実を知らされた第七班の前に、『桃地再不斬』が現れた。彼もまたタズナの命を狙っている。
かつてない強敵との戦いが始まった……。
「まずはオレと戦え……」
そう言って、カカシは額当てをずらした。
そうして露あらわになった彼の左目。
それを見て、一同は別々の反応を示す。
その中で、密かに最も動揺していたのは、ナナだった……。
(あれは……)
背筋に、一本ハリガネが通ったような、そんな感覚だった。
(同じ……)
押さえ込んでいた記憶が、嫌がおうにも蘇よみがえる。
(……イタチと……同じ
キレイだから好きだった。
怖いなどとは思わなかった。
せがんで、ねだって、見せてもらっていた『あの瞳』が、ここに現れる。
(イタチの紅い眼……)
ナナの心は、惚けたようにそう繰り返す。
しかし、動揺している場合ではなかった。
敵の攻撃は、もう始まっている……。
水辺
カカシが捕まった。
再不斬の造り出した『水の牢』だ。
ナルトとサスケは再不斬に対抗しようと意気込むも、突破口が見つからない。
膝の震えを抑え、懸命に背後のタズナを守ろうとするサクラと、どこか集中力を欠いたナナ……。
この場を支配しているのは再不斬だった。
「おい、ナナ!」
再不斬の水分身が、最も貧弱そうなナナへ向かう。
「え……」
サスケに声をかけられるまで、ナナは反応さえできなかった。
ただ突っ立って、再不斬の水分身の攻撃を待っている格好のナナを、サスケがポンと押した。
サスケが代わりに再不斬の蹴りをくらい、サクラが悲鳴をあげる。
「……サスケ……!?」
ナナは目を見開いた。
血を吐いて立ち上がるサスケが、黒い眼で再不斬の分身を睨んでいる。
カカシが彼らに向かって叫んだ。
「お前ら、タヅナさんを連れて逃げろ!!」
しかし……。
「まっすぐ自分の言葉はまげねー。それがオレの忍道だ……!!!」
ナルトがもっと大きな声で叫んだ。
しかし再不斬は、皮肉たっぷりに笑う。
カカシが『強い』と認めた男は、カカシを捕らえたまま水分身を操る。
そして、分身はサスケに襲い掛かった。
ナルトはまっすぐそれに向かっていき、得意の影分身で再不斬を取り囲む。
が、再不斬の大刀によってそれらは全てなぎ払われた。
「ナルト!!」
一瞬でナルトが全滅した光景に、サクラが悲鳴に近い叫びをあげる。
後ろでタヅナも息を呑んだ。
その時、ナナの目は弾き飛ばされたナルトがリュックから取り出した『大手裏剣』を捉えていた。
ナルトはそれをサスケに投げ渡す。
受け取ったサスケは、『風魔手裏剣・影風車』を発動させた。
それは彼らを攻撃していた水分身でなく、カカシを捕らえている本体へと向かっていく。
再不斬は、飛んできたそれを片手で難なく受け止めた。
しかし、もう一枚が影から再不斬を襲う。
「……フン……」
が、それも再不斬にとっては怖くも何ともない「子供だまし」だった。
彼は片手をカカシを捉える『水の牢』につけたまま、飛び上がって軽くそれをかわす。
だが次の瞬間、かわしたはずの手裏剣は形を変え、『ナルトの姿』に戻った。
再不斬は思わず動揺した。
「サクラちゃん。おじさんお願いね」
戦況を見つめていたナナが、突然サクラにそう言った。
「ナナ?!」
サクラが止める間もなく、ナナは再不斬本体がいる川へと走り出す。
その再不斬を、
「……くっ……!!」
再不斬はそれを、鼻先のところで持っていた大手裏剣で振り払った。
ナルトの作戦が、失敗に終わったか……という時。
ナルトに注意を払っていた再不斬の背に、新たな殺気が注がれた。
「なにっ!?」
慌ててそれに振り向いた再不斬に、クナイが突きつけられた。
彼はまたも持っていた手裏剣でかわそうと試みるが、ガードが中途半端になる。
クナイを手にしていたのは、ナナだった。
キーンと、金属同士がぶつかり合う音が響き、再不斬の方が力負けしてよろめいた。
全力で突っ込んでいったナナの体も、勢い余って川へと落ちる。
「ナナ!!」
ナルトが沈みかけたナナを水面へと引き上げた。
その二人へ、怒りを露わにした再不斬が大手裏剣を振り下ろす。
が、それを片手で受け止めるものがあった。
「カカシ先生!!」
ナナの攻撃で再不斬がよろめいた時、カカシを捕らえていた『水牢の術』は完全に解かれていた。
「よくやった、お前たち」
カカシはナルトとナナ、そしてサスケの作戦を褒め、再不斬に再び対峙する。
二人の忍による強大なチャクラは、辺りを揺るがすほどだった。
「す、すげえってばよ……」
次第に大きくなる川の渦に、なんとか体を浮かせながら、ナルトは目の前で繰り広げられる『上級忍者』の戦いにそうつぶやいた。
「う、わぁ……っ」
その彼の耳に、そばで緊張感のない声が届く。
一時、戦況から目を離してそちらを向くと、ナナが半分溺れかかっていた。
「ナナ……?」
先程の、自分の作戦を瞬時に瞬時に適応したすばやい状況判断と、再不斬の術を解くほどの攻撃をしておいて、今は「たかが川の水」に溺れかけている。
ナルトは半ば呆れ、ナナの腕をつかむ。
「だ、大丈夫かってばよ……」
「けほっ」
ナナは波間に見え隠れしながら咳き込む。
「ほら、つかまれってばよ」
ナナは差し出された腕につかまるが、カカシと再不斬の戦いが佳境に近づくにつれてさらに激しくなる波に、これでもかというほど揉まれている。
向こうも半分気になるが、とにかくナナをなんとかしなくてはと、ナルトは細い体を抱えるようにして支えた。
その直後、彼の頭上にもすさまじい波が押し寄せた。
そして、ものすごい力で岸へと打ち寄せられる。
ナルトは、ほうっておけばどこまで流されるかわからないナナを離さぬよう、しっかりと抱きかかえた。
「ケホッ、ケホッ……」
ナルトによって岸に引き上げられ、ナナはようやくまともに息をする。
意識まで朦朧しているようだった。
そうしている間に、肝心の敵……再不斬は何者かによって仕留められ、死体も持って行かれたらしい。
「お前ら、ほんとによくやったな」
戦い終え、写輪眼を収めたカカシが言った。
「だよな、ナナが飛び込んできた時はすっげービックリしたってばよ」
ナルトが興奮して話す。サスケが自分の作戦を汲み取ったことなどには、もちろん触れなかった。
「そうよね、ナナったら急に走っていくんだもん」
サクラもびしょ濡れでまだ咳き込むナナに言う。
「やるのぉ、チビ」
タヅナがナナの頭をグリグリとなでた。
ナナは嬉しそうに笑ってみせる。
とりあえず、役に立てて良かったと、そんな「ホッとした」ような笑みでもあった。
「でも、ナナがカナヅチだって知らなかったってばよ……」
そんなナナに、ナルトが横目でつぶやいた。
「ハハ……」
ごまかすようにナナは笑った。
「もともと泳ぐの得意じゃなくって……」
ナルトとサクラ、そしてタヅナは、そんなナナを見てあきれた様に笑った。
カカシとサスケは、また別の思いでナナを見ていた。
泳ぎくらい……人よりできなくて、「少しホッとした」という、そんな思いだった。