アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~   作:葉川柚介

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最近の暴走フォームは一か月くらいで制御できるようになる傾向

 のんびりと歩きながら見る街並み。

 静かで、風が少しだけ潮の香りを含んで山へと向かう。

 私を追い越していった風の行き先に目を向ければ、そこには緑生い茂る山とその手前に陣取る白亜の園が視界に入る。

 なんだかんだこういう角度で見ることってあんまりないよな、と思いながら見上げるそれは、私の母校。

 

 

 無機質を感じるほどに整った校舎と庭。それは乙女たちを育み守る、人造楽園。

 百合ヶ丘女学院。それがこの学校の名で、そこに所属するリリィが私だ。

 

 

 この世界には、人類種の天敵がいる。

 その名は<ヒュージ>。生物が変質した存在と言われているが、その見た目は硬質かつ非生物的の極み。サイズも姿も様々なそれらはしかし、<マギ>という魔法にも似た力をもって人類に牙を剥く。

 ヒュージに対し、人類が築き上げてきた科学という名の叡智は歯が立たなかった。

 全世界的に発生するヒュージと、都度繰り返される戦い。そして敗北。

 人類の生存圏は縮小の一途を辿り、抗う術はマギをもってマギを制することのみ。

 

 <リリィ>とはすなわち、最後の希望。

 マギによって駆動し、ヒュージを葬る唯一の兵器<CHARM>と共鳴しうる十代の乙女たち。

 人類の未来は、少女たちに託されている。

 

 百合ヶ丘女学院はその最前線の一つだ。

 私を始めとするうら若き乙女たちを集め、教育し、また守る。そのために作られた箱庭として、今日も鎌倉の奥に鎮座する。

 

 かつてこの地が担っていた、防衛の役目をそのままに。

 

 

――カーーーン、カーーーン

 

「あらら、ヒュージ警報。当直は……レギオン未所属メンバー、かあ」

 

 ちょっとした野暮用で学院を離れていた私が帰ってきたまさにそのとき、ヒュージ襲撃を告げる鐘が鳴り響いた。

 百合ヶ丘女学院は由比ガ浜沖に鎮座するヒュージネストから発生するヒュージを誘引し、周辺市街地への被害を抑える役目を持つ。

 だからこういった襲撃は日常茶飯事で、それに対する迎撃の備えも常にある。

 

 私の記憶が確かなら、今日この時間帯の防衛担当はリリィで結成されたチームである<レギオン>にまだ所属していない新入生だったりわけありだったりするリリィたち。

 新人たちはさておき、レギオンに所属しないことを選ぶほどのリリィは相応の実力を持つし、全体で見れば数もそれなりに多くなる。

 

 今回出現したヒュージは遠目にだが見た感じせいぜいラージ級。十分な数のリリィたちの手に負えない道理はない。

 

 ……はずなんだけど。

 

「たぶん大丈夫だろうけど、どっかのレギオンじゃないなら私が混じってもバレないわね!」

 

 その行動がただの気まぐれだったのか胸騒ぎだったのか、私にもわからない。

 でも、そうするべきだという確信に私は従った。

 ……え、命令違反? リリィは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する権限が与えられてるからダイジョーブ!

 

 そんなわけで、私は急遽参戦してみることにした。

 身体を流れるマギの力を感じ、飛ぶ。

 マギを得たリリィの身体能力はビルを飛び越え、巨木をなぎ倒すだけの力に至る。

 とりあえず防衛担当メンバーの邪魔にならないような位置から様子をうかがおうかなー。

 

 

◇◆◇

 

 

「やけに歪な形だと思っていたけど……<レストア>ね」

「百由さま!? いつの間に……。あの、レストアって……?」

 

 補欠合格で百合ヶ丘女学院への編入を許された一柳梨璃(ひとつやなぎりり)は、新米のリリィである。

 入学に足ると認められこそしたものの、リリィとしての実力はもとより知識の面においても成長途上。

 何もかもが初めて見聞きするものばかりである。

 

「レストアード。リリィと戦い、傷を負いつつもネストへ帰還して、修復と再出撃をしてきたヒュージのことよ」

「リリィとの戦闘を生き残れるスペックがある上に、リリィとの戦いを学習しておる。厄介なんじゃよなあ……」

 

 海から姿を見せた巨大なヒュージは、その形状があからさまに歪だった。

 バランスに欠ける外殻はつぎはぎと間に合わせのような装甲が梨璃の素人目にも見て取れて、いつの間にか隣にいた工廠科所属の真島百由(ましまもゆ)と、同じく工廠科兼リリィであるミリアム・ヒルデガルド・v(ふぉん)・グロピウスが語る通りのものであることに疑いの余地はなかった。

 

 しかし、そんな強力だというヒュージであっても。

 

 

――ズズン!!

 

「夢結さま、1人で圧倒しておるのう。冗談みたいな光景じゃ」

「いやー、相変わらずすごいね。さすが夢結」

 

 山と人、とすら言えるほどかけ離れた体躯の差を押して、一人の少女が優勢だった。

 その少女の名は、白井夢結(しらいゆゆ)

 百合ヶ丘女学院2年生にして、一柳梨璃のあこがれの人。そして今は、梨璃のことを(シルト)として守り導く守護天使(シュッツエンゲル)でもある。

 

「お姉さま……」

 

 かつて梨璃はその強さに憧れた。

 2年前、梨璃の故郷をヒュージが襲った甲州撤退戦の折り、命を救ってくれたのが他ならぬ夢結だった。

 あの日見た美しいリリィの姿が胸に焼き付いて、その熱に導かれて今ここに立っている。

 リリィを育てるガーデンの名門、百合ヶ丘女学院のリリィとして。そして白井夢結のシルトとして。

 

 

 夢結がただ一人ヒュージと対峙する戦場のはるか後方で。

 それは、本当になりたいと望んでいた姿だろうか。

 

 

「……ん? あの爆発、夢結がわざとやったみたいね。ヒュージの装甲は吹っ飛んだみたいだけど……なっ!?」

「おいおいおい、あんなん聞いとらんぞ……!」

「えっ……え?」

 

 そんな梨璃の心にちくりと刺さる無力感の棘を吹き飛ばす爆発音。

 そして、直後にざわめく周囲のリリィたち。

 何かがおかしい。梨璃をしてそう察するに足る異常な雰囲気だった。

 

 咄嗟に、夢結が戦っているヒュージへ目を向ける。距離はあるが、リリィならばそれでもわかる。

 ヒュージが放ったミサイルを逆に叩きつけることによって吹き飛んだレストアの装甲の内側。

 歪に歪を重ねたその形の意味。

 

 

 巨大なヒュージの背が妙に尖っていた理由。

 その理由に、あらわになった形に、梨璃は見覚えがあった。

 

 

 CHARM。

 それはヒュージに致命傷を与えうる人類唯一の決戦兵器。

 十全に扱えるのはリリィのみ。ゆえにCHARMはリリィの分身であり、幾度となくヒュージを斬り、突き刺さってきた。

 

 だがヒュージに突き刺さったままリリィと離れ離れになる理由など、一つしかない。

 無数のCHARMが突き刺さったレストアヒュージが意味することなど、一つしかない。

 

「あのヒュージは、あのCHARMの数……いえ、きっともっとたくさんのリリィを……」

「思っておった以上の相手じゃの」

「あ、あ……!」

 

 華やかな学園にて学び、育まれるリリィたち。

 しかし彼女たちが真に役目を果たすのは、ヒュージとの戦場において。

 そこには情けも容赦もない、人類種の天敵との存亡をかけた戦いのみが横たわる。

 失われた命の数は、そのままヒュージと人間の戦いの歴史だった。

 

 

 そんなものを見て、CHARMとの親和性が最も高い十代の少女が心揺らさずにいられるわけもなく。

 

 

「――あ、ああ……ああああああああああああああ!!!!!」

 

「お姉さま!?」

 

 戦場を見守る誰の目にも明らかだった。

 夢結の様子が、それまでと違う。

 

 白い喉も裂けよとばかりの咆哮が鎌倉を囲む山々に反響し、思わず後退りしたリリィは一人や二人ではない。

 しっとりと濡れたように輝く黒髪がざわざわと白く染まっていく。

 俯いた顔の奥で、紫の瞳が赤く輝く。

 

「ルナティックトランサー。マギを暴走させて絶大な戦闘力を得る代わりに、正気を失って敵味方区別なく目の前の全てを攻撃する夢結のレアスキルよ。……2年前、夢結が自ら封印したはずなんだけどね」

 

 夢結の動きが、変わった。

 それまでも激しくはあったが同時に流れる水のような柔軟さも併せ持っていたスタイルが、烈火の猛攻へと染まる。

 リリィかくあるべしという姿が、憎しみのままに敵を屠るだけの殺戮機械に変わってしまったとしか思えない。

 

 あの、白井夢結がである。

 一柳梨璃のシュッツエンゲル、白井夢結がである。

 

 

「――止めないと」

「止めるってお主、どうするつもりじゃ? ルナティックトランサー状態の夢結さま相手には近づくことすら難しい上に、スキルを解除する方法もないじゃろ!」

「……っでも!」

 

 止めねばならない。

 シュッツエンゲルとは、きっとそういうものだ。

 シュッツエンゲルが下級生を守り導くものならば、シルトもまた上級生を救わなければならない。

 

 一柳梨璃はごくごく自然に、そして心の底からそう思う。

 だが、力が足りない。手段がない。

 たとえ今すぐ夢結の元へ駆けつけたとしても、声を届けたとしても、正気に戻せるという保証がどこにもなかった。

 遠目に見てもわかるほど狂乱する夢結の姿。

 それに恐怖を覚えないといえば嘘になるし、声の限りに叫んだとして、その耳に、心に響いてくれるかは全く分からない。

 

 だが、行く。

 

「……それでも、行きます。私はお姉さまのシルトだから。たとえ、元に戻す方法がなくても……!」

 

 それこそ、シュッツエンゲルの意味。

 それこそが夢結と梨璃のあるべき姿だと信じ。

 

 

「方法、あるよー」

 

 

 なんか、片隅とはいえ戦場とは思えないほど気の抜けた声が、湧いた。

 

 

◇◆◇

 

 

 振り向いた先にいたその人は、美しいリリィだった。

 

 いつの間にか梨璃の隣に立っていた、百合ヶ丘女学院の制服に身を包んだ女性。

 スラリと背が高く、細いのではなく鍛え抜かれ、研ぎ澄まされた刃のような鋭さを備えた美を感じる。

 

 あと、リリィなら必然的に身につけている指輪がなんか違う。梨璃もつけている指輪はルーン文字が刻まれた白いリングが金のリングに挟まれた形なのだが、この人の指輪は妙にデカい。

 赤い宝石が仮面をつけているような形だった。アレ、本当にリリィの指輪なのだろうか。新人である梨璃には判断がつかない。

 

 だがそれでも、美しい。

 鎌倉の町を吹き抜ける潮の香りを含んだ風が後頭部でひとまとめにされた長い髪をなびかせる。

 

 後方とはいえ戦場の只中だというのに、緊張も恐怖も感じない。

 恐れる必要はないだけの力が自分にはある、と言わんばかりの笑みを浮かべている。

 梨璃の知らないリリィだった。百合ヶ丘女学院に在籍してまだ日が浅いとはいえ、こんなにも鮮烈な印象を与えるリリィを今日まで一度も見なかったとは。

 

「あれ、帰ってたんですか?」

「うん、いまさっき。そしたらなんか変なヒュージが湧いたみたいだし、様子見に来たら夢結ちゃんがルナティックトランサー使ってるじゃん? ……なに、暴走スキル祭り? 私も参加していい? 新作あるんだけど」\プーリーミーティーブ! ドラゴーン!/

「……やめてください。絶対やめてください。収拾つかなくなりますから」

「そんなー」

 

 うん、間違いなく見たことないなと梨璃は確信する。

 暴走したいとばかりのエキセントリックな性格も、どこからともなく取り出したなんとなく禍々しい感じがする小さい本のようなナニカも、間違いなく見たことがない。

 だが、だとしたら誰なのだろう。2年生の百由の話し方からするに最上級生のように思えるが……。

 

 

「もしかしてあなたはああああああああ!?」

「ひゃっ!? ふ、二水ちゃん!? この方のこと、知ってるの……?」

 

 とかなんとか考えていたら、後方からすさまじい速度で迫りくる仲の良い同級生、二川二水。

 リリィのことが好きで、百合ヶ丘女学院にて生徒会公認の掲示物、週刊リリィ新聞を一人で刊行している猛者でもある。

 なるほど、そんな二水なら知っているのかもしれない。

 なんかめっちゃ鼻血垂らしてるし。二水がああなるということは、相当有名なリリィなのだろうし。

 

「ご存知、ないんですか!? レギオンに属さず、でもたった1人で外征任務を担う世界屈指の実力派リリィ! 数々の試製装備のテストに協力している、百合ヶ丘女学院3年生! 常盤つかさ様です!!」

「常盤、つかさ様……」

「通りすがりのリリィよ、覚えておいて!」

 

「や、百合ヶ丘の3年ってことは別に通りすがりじゃないじゃろ」

「なんでかあの名乗りが好きなのよね、つかさ様」

 

 

「まあそれはそれとして、夢結ちゃんのルナティックトランサーを止めたいんでしょう? なら、はいこれ」

「あっ、ありがとうございます! ……えっとこれは、棒?」

 

 なんだかよくわかんないけどすごそう、という表情を浮かべていた梨璃の手の中に放り投げられたのは、思わず口をついて出た通り棒状の何かだった。

 CHARM、とは違う。だが似たような気配は感じる。これが、夢結を救う鍵となるのだろうか。

 

「まずはその先端を回して」

「こう、ですか? くいっと」

「で、振る」

「ふ、振る……? わっ」\ピョインピョイン!/

「そしたら真ん中から折り曲げる」

「えっと……こう!」

「あとはそれを夢結ちゃんのCHARMに刺せば、ルナティックトランサーの暴走状態を制御して戦えるようになるよ」

 

 本当に大丈夫なんだろうか、という気持ちがないと言えばウソになる。

 だが、相手はリリィだ。ならば信じる。梨璃は、そう決めた。

 

「……ん、いい目ね。がんばって、夢結ちゃんを助けてきなさい。私も手伝うから」

「えっ、力を貸していただけるんですか……?」

 

 暴れるヒュージと激闘を繰り広げる夢結たちとの距離は決して遠くない。安全とは言い切れないこの場所でありながら、梨璃にかける声と笑顔はとても優しい。

 きっとこれが強いリリィというものなのだろう。梨璃はふとそう思った。

 

「もちろん。リリィは助け合いでしょ――いくぜ?」

「――はい!」

 

 ちょっとワイルドな口調もカッコいい。でもなぜかキャラが固まってない感があるのはなぜだろう。

 ともあれ、行かねばならない。夢結を助けるために、初めての戦場へ。

 リリィにとっての分身たるCHARM、ユグドラシル社製の高い汎用性を誇る<グングニル>を握りしめ。

 

「ガングニールだとぉ!?」

「ぴえっ!? だ、ダメでしたか……?」

「ううん、全然。私の癖だから、気にしないで」

 

 癖とは。

 突然叫んだつかさに、梨璃の困惑は深まるばかりだった。

 なぜグングニルのことを微妙に違う言い方するのかもさっぱりわからない。リリィは奥深いなあ、という感慨に浸る。隣にいる二水も同じように思っているのだろう。鼻血がさっきから止まらないし。

 

「それじゃあ、私もユグドラシルのCHARM使おーっと」\火縄大橙DJ銃!/

「えっ、ユグドラシルの……?」

 

 しかも、そんなつかさがどこからともなく取り出したCHARMは見慣れない形状のものだった。

 なんかしゃべるし。光るし。

 形としては、両手で抱えるほど巨大な銃。全体的に黒いパーツが多いが、鮮やかなオレンジ色が刃を彩る、美しいというか男の子が好きそうなカッコいい系のCHARMだった。

 

 あと、なんかトリガーのすぐ前に円盤がついている。その円盤を擦ってなんか軽快なビート音を鳴らしているし、どういう思想の元に開発され、どういう運用をするCHARMなのか想像もつかない。

 これが同じメーカー製なのだろうか、と梨璃は真剣に疑問だった。

 

「さ、それじゃあ早速行きましょうか。ヒュージの相手は私がしておくから、夢結ちゃんのことを助けてあげてね」

「はっ、はい!」

 

 そして、飛んだ。

 一足で驚くほどの距離を飛び、地に降りるなり目を疑うような速度でヒュージへ向かって駆けていく。梨璃では、とてもではないが追いつけない。

 

「うぅ……? うあああああああ!」

「はいはい、今日の相手は私じゃないよー。ダメでしょ、夢結ちゃん。シュッツエンゲルなら、シルトを守護(まも)らなきゃ。……あいつみたいに、ね」

 

 つかさと先に接触したのは、ヒュージの一撃を力任せに押し返したトランス状態の夢結。

 まっすぐ迫る夢結が振り下ろすブリューナクの斬撃に迷わず踏み込み、銃モードのCHARMを突き出し、その背で受けた。

 飛び散る火花は遠目にもわかるほど眩しく散り、しかし慌てることなく身をひねって回避し、そのまま夢結を後方へ蹴り飛ばす。

 間違いなく、梨璃の元へ近づけるためのことだろう。

 

 事実、つかさはそのまま夢結に構うことなく再び振り返り、ヒュージと対峙する。

 火縄大橙DJ銃、と叫んだCHARMから迸るのは無数の光弾。マシンガンよろしく放たれる弾幕がヒュージの動きのことごとくを潰していく。

 目まぐるしい立ち回りは反撃を許さず、おそらくヒュージはつかさを視界にすら捉えられていない。

 

「す、すごい……お姉さまみたいに、一人でヒュージと戦ってる……!」

「あれが常盤つかさ様なんです! つかさ様を支援する組織<財団B>からもたらされる試製CHARMの数々を使いこなす規格外のリリィ! その実力はデュエル世代としても指折りで、単騎でのラージ級ヒュージ撃破数もすごいんですよ!」

「そんなに……! でも、今はお姉さまを助けないと!」

 

 先ほどまでの夢結に勝るとも劣らぬ勢いで、単騎にてヒュージを圧倒するつかさ。

 ならばこそ、梨璃は夢結を救わねばならない。

 蹴り飛ばされた結果敵を見失っていた夢結が、梨璃をその目に捕らえた。すぐにもこちらに襲いかかってくるだろう。

 

 好都合だ。

 手を伸ばし、手を掴み、そうしてはじめて救えるのなら、梨璃はそれをためらわない。

 

「お姉さまーーーーーーーー!!!」

「――!」

 

 飛び込む先に、夢結がいる。

 白い白い髪の奥に赤く光る瞳。

 だが不思議と恐怖はない。必ず救うと伸ばしたCHARMは、人類を救う最後の希望。

 ならば必ず、夢結のことも救えるはずだ。

 

 

◇◆◇

 

 

「うん、あっちは大丈夫そうね。……じゃあ、改めてあんたの相手させてもらおうじゃないの。――百合ヶ丘女学院3年、常盤つかさ! タイマン張らせてもらうよ!」

 

 トリガー前のディスクをスクラッチして、ツマミをいじって射撃モードを変更。

 大威力の大砲モードで迫りくるヒュージの腕を迎え撃つ。

 一撃で吹き飛ばされた腕はくるくるとゆるく周りながら宙を舞い、廃ビルに命中してガラガラと崩れ、ほこりっぽい匂いが押し寄せてくる。

 あー、これは帰ったらシャワー浴びないとなー。そんなことを思いながら、首を振って絡まる髪を背後に流す。

 だが相手の武器の一つは削った。

 

「よっし、あとは一気に間合いを詰めて切り落とす!」

「えっ、つかさ様その武器でどうやって」

「大丈夫! CHARMって変形がデフォでしょ?」

「……えっ、2つめのCHARM!? ……合体したー!?」

 

 さっき二水ちゃんと呼ばれていた子がそりゃあもう面白いほどリアクションしてくれる。

 そんなにおかしなことしたかなあ。

 

 ただ、無双セイバーと火縄大橙DJ銃を合体させただけなのに。

 

「いやっ、え、なんで!? CHARMは一人一つですよね!? つかさ様がいくつも使い分けるって聞いたことありますけど、同時に2つ……円環の御手(サークリットブレス)のレアスキルですか!?」

「まあまあ、気にしない気にしない」

 

 細身の刀状の無双セイバーを火縄大橙DJ銃の銃口から挿入し、大剣モードへと合体させる。

 こうなると、ただでさえ割と巨大な火縄大橙DJ銃は重量級のCHARMと化し、当然威力もそのサイズと重さにならう。

 最後にセーフティ解除用の<ロック>を取りつけ、マギを全力励起する。

 

 

「いっくわよー……セイハーーーーーーーーーーー!!!」

 

 力いっぱいに振り抜いたのは、CHARMの間合いの遥か外から。届くはずのない位置だ。

 だが、実のところ私の使う武器の全力に距離はあんまり関係ない。

 斬撃は炎を生み、炎は巨大に燃え上がる刃となって軌跡を走る。

 

 飛び出した巨大な斬撃はヒュージのド真ん中に直撃し、その表面装甲を溶断し、半ばまで抉りぬいた。

 

「さすがレストア……! まさか、つかさ様でも倒しきれないなんて!」

「大丈夫、もう勝負ついてるから。……でしょう?」

 

「はいっ、任せてください!!」

「いくわよ、梨璃!」

 

 私がするのはそれで十分。

 トドメは、今日を初陣とするらしい新たな姉妹に譲るべきだろう。

 

 ルナティックトランサーの狂気から解き放たれた夢結ちゃんと、彼女を救った梨璃ちゃん。

 手をつなぎ合い、重ねたCHARMの間にマギスフィアの光を灯し、リリィの絆がヒュージに終わりを持ってきた。

 

 

◇◆◇

 

 

「ふぃー。お疲れ。夢結ちゃんのこと、正気に戻せたみたいね」

 

 ヒュージは骸を残さない。

 マギによって変質した、変質しすぎた元生物は生命活動の終了と共に塵と化してこの世から消える。

 このヒュージも同様で、夢結ちゃんと梨璃ちゃんの一撃で倒されてすぐに崩壊し、風に流されて消えて行った。

 多くのリリィを散らせただろうレストアも、今日この地で命運が尽きた。

 

「はい! ありがとうございます、つかさ様!」

「いやいや気にしなくて大丈夫よ。……あれ、どうしたの夢結ちゃん怖い顔して」

「………………梨璃に手を貸していただいたこと、感謝しています。でも、これは……これは一体……!?」

 

 だってのに、なんで夢結ちゃんはそんな風に私を睨んでくるんだろうね? 顔真っ赤だよ?

 

「あの、つかさ様に貸していただいたCHARMの拡張パーツ? で夢結さまのルナティックトランサーを鎮めることができました。……でもその、なぜかこんなことに」

 

 プルプル震えて涙目になりつつある夢結ちゃんは、両手で自分の頭を押さえている。

 たんこぶでも出来たのかと思えばさにあらず。

 

 ピクピクふわふわと動いている、しっとり黒い。

 

 

 ウサミミが生えていた。

 

 

「ああ、それ? フルフルラビットタンクフルボトルの作用だから気にしなくて平気よ。そのうち消えるし」

「えっ」

「そもそも……! なんでこんなことに……!」

「あのボトルに封じ込められた通常の2倍のラビット成分がルナティックトランサーを制御してくれるんだけど、そのとき余剰マギがそういう形になっちゃうの。ちなみに、タンク側の成分を使うと額から砲塔が伸びるわよ」

「梨璃……! ウサギの方を使ってくれてありがとう! あなたをシルトにして本当によかったわ……!」

「アッハイ」

 

 梨璃ちゃんをぎゅっと抱きしめる夢結ちゃん。

 うん、最近色々こじらせてた夢結ちゃんがシュッツエンゲルになったらしいけど、シルトである梨璃ちゃんに心からの感謝を捧げるこの光景、感動的だな。だが無意味じゃない。

 

「あの、えっと……本当にありがとうございました、つかさ様。おかげでお姉さまを助けることができました」

「うん、無事でよかった。いやー、夢結ちゃんがシュッツエンゲルになるとか本当に感慨深いわー」

 

 梨璃ちゃんから感謝される一方、夢結ちゃんがなんとなくじっとりした目で私のことを見てるけど、よくあることだから気にしない。

 私ってば、よくリリィたちから変なものを見る目で見られるのよねー。

 

 

 

 

 ちょっと、特撮大好き女だった前世の記憶を持ってるだけの普通の女の子なのに。

 

 

 なんか気付いたら死んで生まれ変わり、物心ついて人類が滅亡の危機に瀕していると知ったときはショッカーかグロンギかゴルゴムの仕業か思ったものの、その実態はヒュージなるどこから来てるのかわからない謎の敵。

 リリィになればそれに対抗できるというのなら、躊躇う理由などありはしない。

 今世の私は、かつて憧れた彼らのように生きることを決めた。

 

 ……と思っていたら、なんか財団Bなる謎の組織から声を掛けられ支援を受けて、あからさまに前世で見覚えのあるCHARMを使って思ってた以上に彼らのような有様になりつつ今日に至る。

 

 色々辛いこともあるけれど、私は元気です。

 誰かが生きるために誰かが血を流すこんな世界、私が前世で愛した彼らならきっと命の限りに抗うだろう。

 ならば、私もそうしてみせる。

 人類の脅威を討つ。リリィを、人を守る。

 

 

 幸い、私には力があった。

 リリィとしての資質、どういうわけか私に目を付けた財団Bからもたらされる数々の装備。

 

 力の使い方の参考になる例は、いくらでもあった。剣でも棒でも銃でも弓でもハンマーでもギターでも、魂に焼き付いた戦い方を思い出せば使いこなしていける。

 人を、世界を救うために戦い抜く。それが私の、常盤つかさの、儚くも美しく戦う物語だ!

 

 

◇◆◇

 

 

「ところでつかさ様。工廠科としての興味なんですが、さっき使おうとしてた暴走しそうな本みたいなのを使ったらどうなってたんですか?」

「ごく普通よ? ルナティックトランサーと同じように、見るもの全てを敵とみなして破壊本能のままに暴走する上に、私の体力使いきるまで暴れ続けるだけで」

「普通でもない上にあの状況でそんなもの使おうとしないでくださいよ!?」

「大丈夫大丈夫、制御の方法はあるから。できたばっかりでまだ私はもらってないけど」

「ダメじゃろ、それ」

 

 なお、このあと理事長代行から制御方法の確立してないルナティックトランサー系のアイテムは使わないように言われました。

 暴走フォームも華なのにちくしょう!

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