アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~   作:葉川柚介

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新人リリィを育てるのが上手いと言えば上手いけど、対ヒュージ対G.E.H.E.N.A.に関しては「何事も暴力で解決するのが一番だ」で済ませるリリィがいるらしい

 幸恵ちゃんたち5人と合流してからの進撃は極めて順調だった。

 なにせ、揃いも揃って東京屈指の名門校トップクラスのリリィたち。ラージ級もズンバラリで、スモール級すら逃しはしない。

 何なら周囲の瓦礫以上にヒュージの残骸を積み上げていく破竹の勢いで進んでいく。

 

 のだが、好事魔多し。

 

「……ねえ、琴陽ちゃん知らない?」

「そういえば、姿を見ませんね」

 

 強いリリィたちばかりとはいえ、いやだからこそヒュージとの戦い以外に対する注意が欠けていた。

 普段からの戦いも激しいものなうえ、同格のベテランたちと一緒にいることが多い弊害だろう。

 気付いた時には、琴陽ちゃんの姿が見えなくなっていた。

 

「琴陽ちゃん! どこー!?」

「聞こえたら返事をしなさい!」

 

「す、すみません……ここです」

 

 リリィで、戦場に出てくる覚悟もあるし、手合わせしたときの感触からしてこの程度のヒュージ達に後れを取るはずがない。そう信じてはいたけど、大声上げて探し回り、ようやく姿が見えて安心する。

 廃ビルの中から申し訳なさそうに顔を出している琴陽ちゃんは、どうやら戦わずに隠れていたようだ。

 

「あなた……まさか、戦っていなかったんですか!?」

「す、すみません。実は私、ヒュージが……っ」

 

 おずおずと出てきて、さっきまでヒュージだったものが辺り一面に散らばっている様子に後ずさりしかける様子を見れば、理由は察せられる。

 リリィであるならば、ヒュージに襲われた民間人や新米のリリィ、あるいはかつての自身がそうであった光景を容易に思い出すことができるから。

 

「まさか、ヒュージが怖いんですか?」

「それは、知らなかったわね。ならばなぜここに? 戦場に出ることだけがリリィの戦いではないのよ」

 

 同じルドビコ女学院に所属する佳世ちゃんと幸恵ちゃんたちこそ、驚きは強かったようだ。

 今日私にしたのと同じように、普段から優秀なリリィにとりあえず手合わせを挑んでみる好戦的なタイプだという琴陽ちゃん。

 そんなあの子がヒュージを恐れて戦えないというのは、確かに違和感を覚える話だろう。

 

「……戦いたいんです。戦えるようになりたいんです。2年前、私は甲州崩壊のときヒュージに襲われました。あの時の恐怖を、乗り越えたいんです……っ!」

 

 でも、今は今、現実は現実。

 琴陽ちゃんの気持ちはわかり、わかるからこそ無理に戦場に出すべきではないという空気がじわりと広がった気がして。

 

 

「じゃあ、今日はちょうどいいわね琴陽ちゃん!」

「えっ」

「うわあ」

 

 あえてその空気を壊しに行った私に驚く叶星ちゃんはいいとして、またなんか言い出したみたいな顔しないでくれるかな一葉ちゃん!

 

「琴陽ちゃんはリリィとして筋がいいし、戦う理由もある。あとは勇気さえあればイケるイケる」

「いやですからつかさ様、彼女はその勇気がないと……」

「誰にでも正義の心はあるし、戦う勇気は眠ってるだけよ。私たちと一緒にいればヒュージに襲われることなく戦場の空気が味わえるから練習にぴったりじゃない。……じゃ、手始めにヒュージの解体とかしてみましょう。死体(練習材料)はそこら中にしこたまあるし」

「えっ。……えっ、ちょ、待っ! いやあああああ! つかさ様私の手を掴まないで! ヒュージの死体にCHARM突き刺させないでえええええ!?」

 

 これも教育。多少荒療治でもこの手に限るのよ。

 琴陽ちゃんの後ろから抱き着くようにしてCHARMを握らせ、そこらに転がっているヒュージの残骸をバラさせる。

 なぁに、ほんのり生物っぽいから気持ち悪さに吐くかもしれないけど、3回も吐けば体も心も慣れるって!

 

「助けてください幸恵さまああああああああ!?」

「…………有効な方法であることは認めます。ルドビコのカリキュラムに組み込むつもりはありませんが」

「あはは……頑張ってくださいね」

 

 幸恵ちゃんと佳世ちゃんからもお墨付きをもらったし、ヨシ!

 ヒュージの体を解体するザクブシュいう音と琴陽ちゃんの元気な悲鳴が、いまだヒュージとの戦闘の最中である下北沢に響き渡った。

 

 

◇◆◇

 

 

 そんな激闘を経て、下北沢に集った精鋭リリィたちが集うことになったのだった。

 

「あなた方は! 御台場女学校生徒会長の月岡(もみじ)さんに、川村(ゆずりは)さん! お会いできて光栄です! 私、ルドビコ女学院の松永・ブリジッタ・佳世と言います! ……あと、あちらで虚無になっているのは後輩の戸田・エウラリア・琴陽さんです」

「本当に魂抜けたみたいな顔してるな!? 何があったんだ!?」

 

 厄介なラージ級ヒュージを中心に討伐しながら進むという方針は、色々な意味を持つ。

 まずは、被害の低減。町にも人にもラージ級ヒュージの存在は危険だし、リリィでもなければ討伐できない。下北沢防衛のために動いてくれている後方支援中のリリィや防衛軍のためにも、数を減らしておいて損はない。

 そしてもう一つ、ラージ級相手ともなればその戦闘は目立つ。

 そこそこ近くで戦っているリリィがいれば、気になって様子を見に来るくらいに。

 ということで派手にドンパチやった結果、御台場女学校の椛ちゃんと楪ちゃんが合流してくれた。

 楪ちゃんは御台場迎撃戦で幸恵ちゃんとも一緒になったことがあったから、とても嬉しそうにしているのが微笑ましい。

 

 なお、琴陽ちゃんはさっきのヒュージ解体練習からこっち、疲れてしまったようでぐったりしてます。

 

「…………的確なご指導だった、と思います。ヒュージ相手とはいえその遺骸を弄んだのではなく、急所や刃筋の立て方その他とても勉強になりましたほら見てくださいスモール級ヒュージがこんなにきれいな三枚おろしにぁぁぁぁぁぁぁ」

「なんかうわごと言ってるよ!?」

「足元に散らばっている、やけに切り口がきれいなスモール級ヒュージ、まさか……」

 

 うんうん、やっぱり筋がいいよね琴陽ちゃん。

 解体練習の成果をもとに、ほどよく弱らせたスモール級ヒュージをけしかけたら的確に斬ってくれたし。

 あの様子なら、そう遠からずヒュージの1体や2体は一人で狩れるようになるだろう。私のお墨付きあげるよ。

 

 そして、そういった作戦による効果以外にもリリィは特有の「引力」を持っているのか、時に引かれあうように集うことがある。

 

 

「何をしているのかと思えば、暢気に自己紹介……でもないですわね。本当に何をしてますの?」

 

 たとえばこうやって、純ちゃんと初ちゃんが再び合流してくれたり、なんてことも。

 

「またつかさ様の仕業ですか……! 状況がわかっているんですの!? ここは東京、私たちの守るべき土地です! 鎌倉のリリィに頼るのではなく、私たちで勝利し、戦いを終わらせなくてどうするというの!?」

「地球は我々人類、自らの力で守り抜かなければならない、ってヤツね。そういう考え方、私も好きよ純ちゃん」

「ダメよ、純。つかさ様には何を言ってもつかさ様自身が望むように変換されるわ」

「くっ……!」

 

 純ちゃんたちの気持ちもわかる。

 リリィとして戦って守るために通すべき筋というものは確かにある。

 ただ、それにしても焦って見えるというかなんというか。もともと頭平成の傾向のあった純ちゃんだけど、ちょっと磨きがかかっているような?

 

 せっかく集ったリリィたちの間にざらつく気配が流れ始めた、ような気がしたそんな時。

 

――ズンッッッッ!

 

 地震、ではない。

 空気、いや空間そのものさえも震えるような衝撃が走った。

 リリィとして長く戦場に身を置く者ならば一度ならず覚えのあるその現象に晒され、私たちが揃って顔を向けたのは全員同じ方向。

 ビルが一つ、新たに崩れている光景が遠くに見える。

 夜の暗さに加えて瓦礫と砂煙で判然としないが、何か「いる」。

 それも、相当に巨大な何かが。

 

「……さて、ここからが本番みたいね」

 

 私が口に出したその言葉がきっかけとなってか、みんなの間に緊張が走り、マギがざわめく。

 

 下北沢防衛戦、最大の戦いの始まりは、近い。

 

 

◇◆◇

 

 

 人が、生物が、似た形のものに親しみを覚えるのはごく自然なことだ。

 手があり足があればそこはかとなく人に似たものとして認識するというのは何もおかしくない。

 目が2つついててアンテナはえてりゃ大体男の子の好きなものになるという説も有力だ。

 

 だがそれにも限度がある。

 細い胴体。異様に長い腕。

 指先は爪のような部位がどこか柔軟性を保った様子で地面へ着くほどに伸び、両肩には巨大な球体が張り付いているそれを、人型と見なすのは無理がある。

 まして、周囲のビルと肩を並べるほどに巨大なのであれば、もはや弁護の余地なく「異形」と呼ぶより他にない。

 

「あれが、ギガント級……」

 

 髑髏のように全ての牙がむき出しになったその顔は、人類種の天敵と呼ぶにふさわしい恐れを抱かせるものだった。

 

 ヒュージを蹴散らしながら下北沢の街を進撃してきた梨璃たち百合ヶ丘女学院のリリィたちが目にしたのは、明らかに他のヒュージとは格の違う一体。

 佇むだけで動きは見せないが、それだけで周囲を支配する威圧感はただただ純粋に「勝てない」という確信だけを強く植え付けてくる。

 

 ギガント級ヒュージ。

 いかなリリィとはいえ、単騎での戦闘ではどうあっても倒しようのない存在である。

 

「予想はしていましたが、本当に出てきましたわね。どうしますの? あれほどのヒュージ、リリィの数を揃えただけでは勝てませんわよ」

「揃えただけ、でなければいいのよ。方法はあるわ、ここにね」

 

 だが、希望は存在する。

 人という生物の規格ではどうあっても倒せないだろうその存在を撃破せしめる唯一の手段が、ここにある。

 

 夢結が取り出したそれは、梨璃がアールヴヘイムから託されていた弾丸。

 魔術的な封をされているのは伊達ではなく、こういう時にこそ使うためにある。

 

「ノインヴェルト戦術か! ……え、それどこから仕入れてきたんだ? 梅たちまだレギオン認可されてないのに」

「……まさかとは思いますけど、つかさ様からもらったとかないですよね? もしそうだったら、ロクでもないことになりそうだからヤなんですけど」

「…………気持ちはわかるけど違うわ。ちゃんとした出どころのものだから安心して」

 

 その出自に一抹の不安を感じるリリィもいたようだが、そこはまあ気にしないでもらいたいというのが夢結の本心だ。

 一応、これがあのギガント級を撃破しうるのだからして。

 

「ノインヴェルト戦術って、確か……」

「マギをため込むその特殊弾を使い、リリィ9人のパス回しによって魔法球を作り上げ、ヒュージにたたきつける攻撃です」

「直撃すればギガント級でも倒せる、けど……」

「そうです! もし失敗すればリリィの消耗とCHARMの損傷が蓄積して戦えなくなる可能性もあります!」

 

 自分が託されたものの意味を知り、不安に曇る梨璃。

 神琳たちの言う通りのことを授業で聞かされてはいたが、実際に戦場の空気を知り、ギガント級を前にしてみると思っていたのとはまるで違う。

 この一発の弾丸に込められた希望と期待、責任の重さ。

 それこそが人類の希望を託されたリリィの本当の意味なのだと、改めて思い知る。

 

 

「なら、わたくしたちが代わってあげてもよくってよ?」

 

 そこに響く自信に満ちた声。

 瓦礫から生まれる土煙の向こうに浮かび上がる十の影。

 下北沢に集っていた、東京のガーデンに所属するリリィたちだ。

 

「……なんでその中に交じってポーズキメてるんですかつかさ様」

「いやだって、敵幹部大集合初登場! みたいな感じだし?」

 

 当たり前のような顔をしてそちら側に紛れ込んでいるつかさもてててて、と歩いてきて合流する。

 これで、現在の下北沢に揃っている主要なリリィが揃ったのだ。

 

 

「夢結! 久しぶり!」

「楪、幸恵……!」

 

 その傍ら、旧交を温める者もいる。

 彼女らは御台場迎撃戦の死線を潜り抜けた仲間たち。

 背中を預け合い、戦場を駆け抜けたリリィたちの絆は距離や時間を隔てても途切れはしない。

 

「これが、夢結のレギオンか」

「ええ。でも、作ったのはこの子よ」

「ひ、一柳梨璃です! よろしくお願いします!」

 

 友であればこそ知ることもあれば、触れられない部分もある。

 白井夢結というリリィの強さと優しさ。

 儚く繊細な心の奥底についた傷。それを癒す術を持たない不甲斐なさを悔しく思うとともに、未来への一歩を踏み出しつつあることが何よりうれしかった。

 

 

「でも、素人さんなのでしょう? そちらの隊長さんは」

 

 その喜びに冷や水を浴びせる一声に、梨璃の体はビクリとすくむ。

 声の主たる船田純の視線は険しく、容赦の色は微塵も見えない。

 リリィとしての経験の浅い梨璃が、それを受け止めることも受け流すこともできずに気圧されることは必然だった。

 

「わ、私は……」

「状況がわかっていまして? 見ての通り、相手はギガント級。それに対してノインヴェルト戦術を成功させる自信があるのか、と聞いているのです」

「っ!」

 

 梨璃は震えた。

 この場に居並ぶ歴戦のリリィを前にすると、この場に自分がいるという不相応さが身に染みる。

 いまだレアスキルも持たない自分が、本当にレギオンの隊長でいいのか、ノインヴェルト戦術を担当していいのか。

 

 

「お言葉ですわね! そういうそちらはレギオンですらない寄せ集めでしょう!」

「それはそちらも同じでは? つかさ様に曰く、まだレギオン結成を承認されていないとか」

「うぐっ」

 

 言われることはことごとくが真っ当なものばかり。

 努力はする。食らいついて見せる。夢結に恥じないリリィになる。

 その決意は今も揺らがないが、この瞬間に自分の意地を張ることが正解なのだとは、どうしても言えなかった。

 

「――みなさん、見てください! アレは……!」

 

 そんな葛藤の中に生まれた静寂を壊したのは、鷹の目のレアスキルで今も周囲の状況を探ってくれていた二水だった。

 緊迫したその声に誰もが一斉に振り向く先は、当然ギガント級ヒュージ。

 出現以降沈黙を保ち、佇むだけだった巨人が、咆哮を上げている。

 

 そして、両肩の巨大な球体が震えたように見えた、直後。

 

「なんです、アレは!?」

「まさか、ヒュージを生み出している……!?」

「へぇ、母艦(カブラカン)タイプとは珍しい。……妙にヒュージの数が多いし増援の底が見えないと思ってたけど、そういうことだったのね」

 

 球体から零れ落ちた大量のものはおそらく「卵」。

 中からスモール級やラージ級のヒュージが同じ数だけ現れて進軍を開始する。

 生産速度がどの程度かはわからないが、あのギガント級の討伐が急務であることは間違いない。

 

「……迷っている時間はありません。我々が周囲の小型を掃討しますので、百合ヶ丘のみなさんでノインヴェルト戦術を実行してください」

「ちょっと、勝手に決めないでくださる!?」

「私たちはたしかに腕に覚えのあるリリィが揃っていますが、足並みを揃えられるかは別の話です。ノインヴェルト戦術にこだわるより、掃討戦の方が個々の実力を発揮しやすいでしょう」

 

 そう、議論する余裕はなかった。

 叶星の提案は理にかなったもので、百合ヶ丘のみならず東京のガーデン所属リリィたちの間にも納得の空気が流れていることを、察せられない純ではなかった。

 

「そうですね。ギガント級の出現時、より近くにいたのは百合ヶ丘さんですから。そちらにお任せするということで。――いいわね、純」

「……っ」

 

 姉の言葉は、強制ではなく納得しかけていた純の背中を押すもので。

 

「私はっ、自信がなさそうだったので引き受けようと思っただけです!」

「ちなみに、今のが純ちゃんの本音ね。この子、かなり平成してるからこういう言い方になっちゃうけど優しい子なのよ」

「人の内心を勝手に解釈しないでいただけますか!?」

 

 そして、つかさの言葉はさらに背中を突き飛ばして崖下に叩き落すタイプものだった。

 こんにゃろー、とばかりに純が振るうCHARMは割と必殺の間合いだったが、つかさは笑ってかわす。

 声だけ聞けばじゃれあい程度のやり取りだが、目を開けてしまえば命を賭けるような無駄にレベルの高い攻防にドン引きする梨璃。

 

 

「――梨璃、行けるかしら?」

 

 そんな状況でも、夢結の声は優しかった。

 心配ではなく、逃げ道を作るのではなく。

 未熟でも、経験が浅くても、これが初めての戦いであっても。

 梨璃なら一歩を踏み出せる。その勇気がある。

 そう信じてくれているからこその優しさなのだと、梨璃は信じた。

 

「私は、今日ここに来ました。戦うために。守るために。……リリィとして、あるために」

 

 胸に手を当て目を閉じれば、心に浮かぶのは2年前の記憶。

 夜の闇の中、迫るヒュージの恐怖とそれを切り裂いて救ってくれた夢結の雄姿。

 あの日見た背中に憧れて、追いつきたくて、今日まで歩いてきた。

 リリィになって、夢結を知って、その道のりの遠さを思い知らされる毎日だが、それでも一つだけ確かなことがある。

 

 たとえ一歩ずつでも、進まなければ近づけない。

 どれだけ進んでも辿り着けないかもしれない。

 行きつく先は違う形かもしれない。

 

 でも。それでも。

 

 一柳梨璃というリリィは、憧れた光に向かって進み続ける。

 そういう生き方を、何より尊いと信じるリリィだ。

 

「――やります」

 

 

◇◆◇

 

 

 梨璃ちゃんの決意を、素人の無謀と笑うようなリリィはいなかった。

 

 たしかに素人、たしかに新設レギオン。

 実力と実績に不安がないとは間違っても言えないが、それは最初の一歩を踏み出すという決断をしたからこそ。

 

 マギ、それは聖なる力。

 マギ、それは未知への冒険。

 マギ、そしてそれは勇気の証。

 

 その力を信じて戦うことこそリリィのあり方なのだから、覚悟と決意を止めたりなんてなぜできようか。

 

「では、皆様。よろしくお願いいたします」

 

 そして夢結ちゃんが丁寧に礼を尽くし、作戦は決まった。

 

 

 

 

 この場に集ったリリィたちは優秀で。

 決まったからには迅速に動くためにギガント級へ、その周囲のヒュージへと意識を向け。

 

 

 全員の意識が遠くへ向けられるその瞬間を狙い澄ましたかのように。

 

 

――ギャリィン!

 

 

 CHARMが瓦礫を擦る音。

 夢結ちゃんの右後方、CHARMを携えてはいても振るう勢いをつけられない位置。

 いつの間にか行動における死角と言えるその位置へと飛び込んでいた琴陽ちゃんが、グングニル・カービンを振るって夢結ちゃんに迫っていた。

 

 踏み込みは深く、勢いは強い。

 寸止めの意思は感じられず、相手の意識も間合いも初動も潰した奇襲は完璧で、夢結ちゃんを驚愕のまま縫い留める目線に乗った殺意は鋭く。

 

 凶刃が、振るわれた。

 

 

 

 

「夢結様!」

 

 その太刀筋を止めることができたのは、いつも夢結ちゃんを思う梨璃ちゃんのグングニルだけだった。

 ガンモードからランスモードへと遅滞なく変形を済ませ、琴陽ちゃんの勢いを完全に止めるその動きの良さは、今日まで見てきた梨璃ちゃんの動きの中でも最高のそれだ。

 琴陽ちゃんの蹴りで弾き飛ばされてこそしまったが、少なくともあの一瞬の攻防において梨璃ちゃんは間違いなくこの場の誰より速かった。

 

 そして、結果として琴陽ちゃんの奇襲はすぐに潰えた。

 ただならぬ気配を察した純ちゃんと幸恵ちゃんによるインターセプト。

 私を含めた他のリリィも注目している今の状況では、さすがに動きようもないだろう。

 

「あなた、いったい何を……!」

「ごめんなさい、この子はリリィに手合わせを挑む悪い癖があって……」

「ああ、つかさ様みたいな?」

「……それよりは、マシだと思いたいけれど」

 

「これは手合わせなんかじゃない!!」

 

 琴陽ちゃんの叫びに、怒りと恨みとついでに私みたいと言われたことに対するめっちゃ真剣な否定の意思を感じたのは気のせいだっただろうか。

 今日何度か見た「手合わせ」とは様子が違うと思ってはいたけど、じゃあ一体何が起きているのか。その答えを、誰もが固唾を飲んで見守る中、琴陽ちゃんは叫ぶ。

 

 

「白井夢結ゥ!」

 

「2年前の甲州で! あなたは私と親友を……見殺しにした!!」

 

 2年前、甲州。

 甲州撤退戦という言葉は、多くの人に、リリィに悲劇として刻まれている。

 故郷を失ったもの。

 その後、リリィになった者。

 友を、大切な人を失った人達。

 その悲しみは今もまだ消えずに残っているのだと、琴陽ちゃんの目が炎となって吼えている。

 

「そんな、夢結様がそんなことするはずありません! だって、私のことを……!」

「じゃあ、私が嘘をついてるって言うんですか?」

 

 体験から得た事実という確信が、琴陽ちゃんから説得を受け入れるという選択肢を奪っている。

 夢結ちゃんが何者であろうとも、梨璃ちゃんを救っていたとしても、見捨てられたという琴陽ちゃんの中にある事実が揺るがないようだ。

 

 

 そうなのかもしれないと、私は思う。

 私だってリリィをやって長い。

 ヒュージと命のやり取りをする最前線で生きていれば、割り切れないことがたくさんあるという事実をいやというほど知っている。

 

「いいこと教えてあげるわ、琴陽ちゃん」

 

 でも、だからこそ救いたい。

 私は、リリィにあんな目をして欲しくない。

 ならば伝えよう、世界の真理というものを。

 

「なんですか、つかさ様。なんと言われようとあの日私たちに起きたことは……」

「うん、過去は変わらない。でも過去の『原因』を知ったら、変わることもあるよ」

「過去の、原因……?」

「そう。覚えていて、琴陽ちゃん」

 

 ヒュージが現れ、人類が存亡の危機にある今、明日には全てが変わっていてもおかしくない世の中で、それでも間違いなくそこにある、事実。

 

 

 

 

「それも全部G.E.H.E.N.A.ってやつらの仕業なのよ」

 

 

「なん、ですって……?」

 

 それは本当かい!? と続けて欲しいところだけど気にしない。

 琴陽ちゃんはとんでもなく予想外のことでも言われたかのように怯えた表情でよろめいているけど、そんなに驚くようなことだったかな?

 

「な、何を言っているんです、つかさ様。証拠……証拠はあるんですか!?」

「ないよー」

「ない!? ないのにそんな重々しく断定したんですか!?」

「うん。……でも、私の経験上結構な確率で大体合ってるわよこれ。ヒュージの襲撃全部がそうだとまでは言わないけど、変なところに変なヒュージが出てきたら、少なくとも私はG.E.H.E.N.A.が何かしら絡んでると思って出撃してる。……例えば今日、この下北沢とかね」

 

 妙におどおどしてる辺り、思った以上に琴陽ちゃんにとっては衝撃的な話だったらしい。

 いやまあ確かに証拠出せと言われたら何もないと真顔で答えるしかないんだけど、それでも私にとってこのテの事案にG.E.H.E.N.A.が関わっているというのは限りなく事実に近い確信だし?

 

 

 ともあれ、緊迫した空気は雲散霧消した。

 毒気を抜かれたというか憑き物が落ちたような琴陽ちゃんが夢結ちゃんに謝り、ひとまずこの場はそれで終わりという形だ。

 

 もちろんそれで全て丸く収まった万々歳とはいかないだろうけど、それでも時間は待ってくれない。

 今も健在なギガント級がこれから先も次々にヒュージを生み出しかねないことを考えれば、一刻も早い撃破は必要不可欠だから。 

 

 

 私は今日会ったばかりの琴陽ちゃんのことを何も知らない。

 ここに来るまでに聞いた話から、甲州出身で、甲州撤退戦でヒュージに襲われたことがリリィになった理由ということくらいが精々。

 

 それでも、夢結ちゃんに襲い掛かって純ちゃんと叶星ちゃんに止められている琴陽ちゃんが本気で夢結ちゃんを害そうとしていたのではないことくらいは、わかる。

 

 確かに奇襲としては完璧だった。でも完全に不意を付けたわけではないし、そもそもこの場は他にもたくさんのリリィがいる。

 戦闘のどさくさ紛れでもなく、完全に不意を衝くわけでもない。そんなやり方で夢結ちゃんをどうにかできるなんて、琴陽ちゃんだって思ってはいないだろう。

 

 それでも抑えきれないものが、あの子の中には渦巻いている。

 それは力になるかもしれないし、重石となって苛むかもしれない。

 吐き出すべき、とまでは言わないけど何らかの形で「答え」 を見つけないと琴陽ちゃんのためにはならないだろう。

 

 そして幸いなことに、答えは今日、ここにある。

 

「大丈夫よ、琴陽ちゃん」

「つかさ様……」

「今日はちょうどギガント級もいるし、リリィがギガント級と対峙するのがどういうことかよくわかるわ。……最前列で拝みに行きましょうね!」

「えっ」

「ノインヴェルト戦術叩き込む前に、雑魚ヒュージを片付けながら近づかなきゃだから結構ハードね……がんばるわよー!」

「……えっ」

 

 あれ、おっかしーなー。幸恵ちゃんと佳世ちゃんがすごくかわいそうなものを見るような目で私の周辺を見てるんだけど、そんなかわいそうな子なんていないはずよね?

 

 

 

「あああああああああああああ!!」

 

 

「琴陽さん……ごめんなさい、私たちが力不足なばっかりに」

「し、仕方ないですよ! 相手はつかさ様ですし! どういうわけかヤバい戦場であればあるほどテンション上がって戦果も上がる傾向あるみたいですから!」

 

 

◇◆◇

 

 

「梨璃さん。あんなことがあったけど、あなたは夢結のことを信じてくれているのね」

「幸恵様……。私は、戸田さんとは逆に甲州で夢結様に助けてもらったんです。だから……」

「いいのよ。あなたが得たあなただけの宝物、大事にするといいわ。……というわけで、夢結をよろしく。はいこれ」

「アッハイ。……なんですこれ、飴?」

「幸恵キャンディよ。……友人のことを頼むときはキャンディをあげるのが百合ヶ丘のマナーだってつかさ様に聞いたんだけど、違ってた?」

「ど、どうなんでしょう。私も高等部から入学したばかりなので……」

 

「つかさ様?」

「糸目でキレないで神琳ちゃん! ちょっとしたお茶目! 百合ヶ丘ジョークだから!」

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