アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~   作:葉川柚介

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銃型CHARMを使うときはなぜか積極的にインファイトを挑むリリィがいるらしい。そして、相手がバリアを張っていなくても「この距離なら、バリアは張れないな!」とか言うらしい

 ノインヴェルト戦術、開始。

 ギガント級ヒュージ前面に展開した梨璃ちゃんたちが作戦を実行したことは、周辺で他のヒュージ達を掃討している私たちのところにも伝わってきた。

 

「いや、なんでこっちにいるんですかつかさ様!? あなた百合ヶ丘の、あのレギオンの一員ですよね!?」

「だって、梨璃ちゃんたちだけで9人揃ってるし。それなら私はこっちのお手伝いしたほうがいいかなって。だからよろしくね、純ちゃん!」

 

 そんな感じで、私は大量のヒュージを撃滅するために他校のリリィたちと一緒に行動することにした。

 純ちゃんってばそんなすごい表情するくらい喜んでくれるなんて嬉しいなあ。よーしはりきっちゃうわよー。

 

「くらえ、トンボガン!」\Change! Dragonfly!/

「どこからともなく飛んできた機械のトンボがグリップにくっついたら銃になった……!?」

 

 迫りくるミドル級と、空を飛んでるドローンみたいなスモール級をまとめてバシバシ撃っていく。

 一応水中戦が得意なんだけどね、この武器。地上でも使えるというか水中戦云々はあくまで設定上の話みたいなところがあるから気にしない気にしない。

 

 ともあれそうやって、ヒュージをバスバス倒していく。

 サソリがへばりついた剣とハチがしがみついたブレスレットも駆使して、他のみんなに負けないくらいに次から次へと撃って斬って刺してと、ヒュージの数が底なしだけに大忙しだ。

 とはいえここで頑張ることで梨璃ちゃんたちが安心してノインヴェルト戦術を進められるのなら、この戦いは大いに意味がある。踏ん張りどころよ、みんな!

 

「さすが梨璃ちゃんたち。いいチャージインね!」

「マギスフィアのパスをチャージインって呼ぶのつかさ様だけですよ」

「……相変わらず、見たこともないCHARMばかり使うんですねつかさ様。というか、円環の御手を持っているわけでもないのに3つ同時に使ってません?」

 

 少し距離があるところから見ているだけではあるけれど、ノインヴェルト戦術は順調なようだ。

 なにせ、ノインヴェルト戦術のためにあるようなレアスキルである<レジスタ>を楓ちゃんが、そしてその効果範囲を広げられる<テスタメント>を神琳ちゃんが有している。

 特にそういうことを意識したわけでもなく集めたメンバーなのにそういう資質が揃っている辺り、梨璃ちゃんはレギオンを導く才能、あるいは天運を持っているのかもしれない。

 ミリアムちゃんの<フェイズトランセンデンス>を使ったらしき大威力の砲撃や、その後の梅ちゃんが縮地を使って新たに湧いたスモール級ヒュージ数十体をまとめて切り捨てるという牽制も交えた進行は、メンバーが持つルーキーの資質とベテランの経験を感じさせられる。

 

 のだけども。

 

「……パス回しが、止まった?」

「っ! この感覚、まさか!」

 

 突然、マギスフィアが飛ばなくなった。

 それでいて、ギガント級や周囲のヒュージは先ほどまでよりも勢いを増して激しい戦闘を行っている気配もあり、さらに近くにいた佳世ちゃんが驚いた様子を見せている。

 

 ……これ、もしかしてヤバいのでは?

 ギガント級の周りで巻き起こる土煙の高さと量。

 リリィが引き起こしたと考えるには過剰な破壊力で、あの場所でそんなことができる手段を持っているリリィの心当たりは一人しかいなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「夢結様を止めないと……!」

 

 それは、ノインヴェルト戦術の最中に起こった。

 順調なパス回しによって育ち、繋がれていた魔法球。それを夢結が受け取った直後、生じた異常。

 慟哭のような叫びと、白く染まった長髪。

 なりふり構わずヒュージに向かっていって蹂躙するその圧倒的な力はいかに夢結といえど自然なものでは決してなく、レアスキル<ルナティックトランサー>が暴走したことは明らかだった。

 

 精神に負荷をかけるルナティックトランサーと、繊細な夢結の心。

 そして、琴陽から突き付けられた過去。

 夢結の心は限界だった、ということだろう。

 

「……ノインヴェルト戦術は中止。夢結のマギが尽きて鎮静化するのを待つぞ」

 

 そこまで理解できるからこそ、梅は苦渋の決断をした。

 ただでさえ卓越したリリィである夢結がルナティックトランサーの暴走で見境なくCHARMを振るっている。それも、多数のヒュージが混在する戦場のただ中、ギガント級のすぐ近くで。

 助けに行けば返り討ちにあうか周囲のヒュージに取り囲まれかねず、危険が大きすぎる。

 

「でも! 夢結様をあのままにしておくなんて……!」

「下手したら私たちが夢結に斬られることになる! ……そんなこと、夢結にさせるわけにはいかないんだ。わかってくれ、梨璃」

 

 そして、そんなことが起こってしまえば夢結の心は今度こそ取り返しのつかない傷を負う。

 かつてシュッツエンゲルたる川添美鈴を失った夢結の悲しみにくれる背中を見た梅には、そんな選択をすることはできなかった。

 

 

「――いいえ、わかりません。わかるわけにはいきません」

 

 だが、必要なことだ。そう断じる梨璃がいる。

 恐怖を踏み越えていく勇気と、どこまでも信じる心。

 梨璃がこの場の誰よりも強く持つそれこそが、夢結を救う力になる。

 

「そうは言うけどな、梨璃。方法はあるのか? あの状態の夢結をもとに戻すことなんて、今の梅たちには……」

「はい、ありません。でも、ジーっとしてても、ドーにもならないんです。……だから」

 

 そう、梨璃は勇気をもって、覚悟を決めた。

 

 「どんな手段」を使ってでも、夢結を助けると。

 

 

「つかさ様ーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 

「呼んだ?」

「……選抜隊と一緒に戦ってたはずのつかさ様がなぜここにいるんです?」

 

 そう、たとえつかさの持つビックリドッキリ財団Bアイテムに頼ることになろうとも。

 

 

「つかさ様! 夢結様のルナティックトランサーを鎮めるアイテムありますか!?」

「落ち着いてくださいまし梨璃さん。いくらつかさ様といえど、下北沢で既に数時間戦闘してるんですわよ? それなのに、ご自分のレアスキルでもないルナティックトランサー用の装備を持っているなんてことは……」

「あるよー」

「……………………梨璃さんにああは言いましたが、そうなんじゃないかとはちょっと思ってましたわ」

「楓さん! しっかり! 目に生気がなくなってますよ!?」

 

 ツッコミを入れはしたものの、予想通り全くの無駄に終わったことで楓が負ったダメージを必死にフォローする二水の健気が輝くが、つかさは気にせず懐から一つのアイテムを持ち出した。

 

「ノインヴェルト戦術弾……ではないですね? これ、もしかして、電池ですか?」

「そ、そうかな? トゲみたいなギザギザが生えてるよ?」

 

 それは、神琳の言う通りちょうど電池ほどの大きさの円筒だった。

 ただし、雨嘉の指摘も正しくヒレかなにかのような装飾がある。

 あと、側面が透明で中身が見えている。中にはなんか恐竜っぽい絵が描かれていた。

 

「夢結ちゃんのことを思いながらこの獣電池のスイッチを押してくれるかな梨璃ちゃん」

「わかりました! ……戻ってきてください、夢結様。――ブレイブ・イン!」

 

「梨璃がなんか言っとる」

「しかも驚いてるな。自分でもなんで口走ったのかわかってなさそうだ」

 

 梨璃が思いを込めてスイッチを押した瞬間、マギの波動がつかさ曰く獣電池に込められたのを、確かに感じた。

 自然と口をついて出た言葉は謎だったが、確かに何らかの力が宿ったことは間違いない。

 

「よし、成功ね。じゃあ、次は夢結ちゃんのところにこれを持って行かなきゃなんだけど、さすがに梨璃ちゃんには難しいと思うから、私に任せてもらえる?」

「……はい。でも、私も一緒に行かせてください。夢結様を助けたいんです!」

「もちろん。というか、持って行ったあとは梨璃ちゃんの呼びかけが必要よ。――覚悟はいい(Are you ready)?」

「――できています」

 

 その言葉を笑顔で受け取ったつかさは、梨璃とともに夢結が戦う場へと駆けていった。

 

 

 

 

「あああああああああ! 返せ! 返して!!」

 

 狂乱のままにCHARMを振るい、ヒュージを屠る夢結の姿はあまりにも痛々しかった。

 圧倒的に強いがゆえに傷を負うことはなく、しかし心に刻まれた傷からは血を流し続けているような叫びがいつまでも途切れない。

 

「止めるよ、梨璃ちゃん! 一瞬でいいから夢結ちゃんの気を引いて!」

「わかりました、つかさ様!」

 

 それを止めるべく、二人のリリィが走る。

 片や梨璃が思いを込めた電池だけを握りしめたつかさと、グングニルを手に恐れず踏み込む梨璃。

 ルナティックトランサーの狂気に苛まれた夢結はそんな二人の接近を察知するや容赦なくCHARMを振るい、丸腰のつかさを守るために梨璃は迷わず前に出た。

 

「夢結様っ! 私です! 梨璃です! つかさ様もいますから、落ち着いて……きゃっ!?」

 

 打ちあいが成功したのはわずかに一合。

 ただそれだけで梨璃は押され、体制を崩される結果となった。

 追撃があれば為す術なく切り捨てられるだろうそれは、しかし必然。

 歴戦のリリィたる夢結に対し、その薫陶を受けたとはいえまだ日の浅い梨璃では到底敵うはずがなく、勝敗ははじめからわかっていたも同然で。

 

「ナイス梨璃ちゃん!」

 

 それらすべてを織り込んでいたのなら、わずか一瞬の隙をついて懐に潜り込むことがつかさにはできる。

 

 縮地のレアスキルに匹敵する踏み込みは夢結の出足を封じ、腕が絡み合うような距離まで詰める。

 こうなれば既にCHARMを振るえるような空間はなく、いっそ素手の方が有利なほどで。

 

 つかさは振りかぶった拳に握った電池をそのまま、夢結に。

 

 

「ガブリンチョーーーーーー!!!」

「んがぐくっ!?」

 

 食べさせた。

 

「夢結様ーーーーー!?」

 

 梨璃、絶叫。

 電池っぽいあの形、何にするのだろうと思っていたら叫び吼える夢結の口の中にそのまま突っ込んだのだ、そうもなろう。

 一呑みするのはさすがに難しそうなサイズだったが、つかさの容赦ない勢いとアイアンクローじみた握力が吐き出すことを許さない。

 しばらくもがいていた夢結はしかし、ついに根負けする。

 

「ン……ごくっ」

「だだだだ、大丈夫なんですかそれ!? お腹壊しませんか!?」

「平気よ梨璃ちゃん。これ、もともとこういうものだから」

「そういうものなんですか!? お薬にしても尋常じゃなく大きいと思うんですけど!」

 

 呑み込んで、しまった。

 が、つかさの言葉に嘘がないことは夢結の様子が証明していた。

 色を失っていた髪が徐々に黒く染まり始め、開いてはいても何も映していないようだった目は正気の光を取り戻しつつある。

 

「財団B製のルナティックトランサー制御アイテムの一つ、獣電池。リリィが込めたブレイブをレアスキルの方のブレイブっぽい波長に変えることができるのよ。あとは、ほどよくガブリンチョさせてあげればルナティックトランサーの狂気をだいぶ抑えることができるわ」

 

 その言葉がマジであると、現に落ち着きを取り戻しつつある夢結の様子からして納得せざるを得ない梨璃。

 唯一悩みがあるとすれば、夢結が正気を取り戻したときになんと言えばいいかさっぱりわからないことくらいである。

 

「とはいえ、完全な除去はできない。……だから梨璃ちゃん、あとはお願い。言葉をかけて、思いを伝えて、夢結ちゃんを助けてあげて」

「は、はい……必ず!」

「よろしくね。それじゃー私は雑魚ヒュージの掃除に戻るわ! クロックアップ!」\Clock Up!/

 

 そう言って、つかさはまた当たり前のように去っていった。

 縮地のレアスキルでもあるまいに、よく見たらやたらごついベルトを巻いた腰のあたりをパシーーンと叩き、梨璃の目では追えないほどの速さで。

 道の脇から行く手を阻むべくのそりと出てきたヒュージはつかさの姿を捉えることすらできずに五体を切り裂かれて、何が起きたのかわからないとばかりにしばらく呆けた後、バラバラに切り裂かれた体がぼとぼとと破片になって地に落ちる。

 

 そんなつかさが去り行く間際の背を目に焼き付け、梨璃は思う。

 あれもまた、リリィの姿。

 助けを求められれば駆けつけて、きっと答えてくれる頼もしさ。それは、かつて梨璃が夢結に救われたときに見たのと同じ希望の光。

 方法は少々アレながら、つかさもまた梨璃にとって、リリィにとって、救いとなり、理想となる姿なのだろうとそう思う。

 

 だから、そのことを伝えよう。

 誰かを助けようとするリリィの姿がどれほどの人に望まれ、助けになっているのかを、心の闇に飲まれそうになっている夢結に、必ず。

 

 

◇◆◇

 

 

「みんなお待たせ! 梨璃ちゃんたちの方はたぶん大丈夫だから戻ってきたよ! 私の分のヒュージ残ってる!?」

 

 最後まで見届けたい気持ちはあったけれど、あの場は梨璃ちゃんを信じて任せるべきところだろう。

 それに、こっちはこっちでギガント級の周りで次々生み出されたり出現したりするヒュージを片付けなきゃいけないから、ものすごく急いで戻ってきた。

 ざっと様子を見た感じ、全員けがなく戦闘を続けているみたいだけど……少しだけ様子が変だ。

 

「も、もう行って帰ってきたんですか? ……ま、まあいいですけど。それより、今は少し手こずっています」

「見てください。あのヒュージ、ミドル級だというのにこちらの攻撃が全く効いていないんです」

 

 楪ちゃんと椛ちゃんの隠れる瓦礫の影に潜り込んでみたら、そんなことを聞かされる。

 こっそりと顔を出して見てみれば、確かにそこにはせいぜいミドル級のヒュージが1体。

 手足らしき構造がなく、サナギの背中に4本の羽というか棒が生えたような非生物的な造形でふわふわと浮かび、散発的に打ち込まれる射撃を避ける様子もなく直撃しているというのにダメージを負った様子がない。

 

 ……ってことは、まさか。

 

「……もしかして、ですけど。あのミドル級は『特型』では?」

「なんですそれ!? 初耳です!」

 

 佳世ちゃんの推測が、たぶん当たっている。

 

「一葉さんが知らないのも無理はありません。最近稀に確認されているヒュージで、シールド能力<マギリフレクター>を使うミドル級ですわ」

「そうです。通常火力では歯が立たなくて、1件を除いて他は全てノインヴェルト戦術でしか撃破できていません」

 

「1件を除いて? その1件はどうやって撃破したのです?」

「えーっと、私も記録でしか確認できていないんですが…………つかさ様が、マギリフレクターの内側に潜り込んで『この距離なら、バリアは張れないな!』とゼロ距離射撃を敢行したらしいです」

「つかさ様……」

「え、マジ? ごめん、その技は割とよく使うからどれが特型だったのかわかんないや」

 

 なんか、みんなから変なものを見る目が突き刺さって痛いんだけど! ヒュージからの攻撃よりも後輩たちのドン引きの方がダメージ多いわよちくしょう!

 

「と、とにかく! それならやることは一つです! ちょうど人数も揃っています。いけますね、皆様方?」

 

 ともあれ、こういうときに純ちゃんの決断は早い。

 これだけのメンバーが揃っているのだし、誰かしらノインヴェルト戦術弾の一つや二つ持ってきていてもおかしくない。そして、なんだかんだ私を含めて10人のリリィがいる以上、その選択は必然だ。

 

「では、つかさ様も……」

「よし、頑張ってね琴陽ちゃん!」

「えっ、私ですか!?」

 

 そう、琴陽ちゃんがノインヴェルト戦術のメンバーになることも必然なのだ。

 なのだったらなのだ。

 

「私たちの後輩を引き立ててくれるのは嬉しいですが、よろしいのですかつかさ様?」

「もちろん。特型とはいえ相手はミドル級だし、リリィ側のメンバーは豪華。こういうときにノインヴェルト戦術の経験を積むことは琴陽ちゃんにとってすごく為になると思うから。……あと一応。この中で、私が参加しても問題なくノインヴェルト戦術が成功すると思う人!」

 

「……」

「…………」

「………………」

 

「……少しは気を使いなさいよぅ!?」

「自分から提案しておいてキレないでください」

 

 それに、どうせこうなるしね! 泣くぞ!

 

「ほら、私ってCHARMも戦い方も独特でしょう? ただでさえレギオンでもないこのメンバーでぶっつけ本番なら、いっそ基本の動きができてる琴陽ちゃんの方がいいと思って」

「理屈はわかりますし、その理屈を発揮できる冷静さも評価しますがそれならそれで他のリリィに合わせられるようにするべきでは?」

「正論は下手なCHARMよりダメージデカいこともあるのよ初ちゃん」

 

 そんなやり取りもありつつ、特型ヒュージに対するノインヴェルト戦術を実施するのは私以外の9人で行われることになった。

 出身校はバラバラで、連携どころか顔を合わせるのすら今日が初めての子たちも多くいるこのチーム。琴陽ちゃんを含めて、私の方でフォローしていけたらいいんだけど……。

 

 

◇◆◇

 

 

「純! 百合ヶ丘のみなさんの戦域まで来てしまっているわ! 下がりなさい!」

 

 うん、ダメだったわ。

 ある程度パスをつないで、純ちゃんが魔法球を受け取った。そこまではいい。

 その直後、何を思ったか特型ヒュージを追い立ててギガント級の元へと向かうとはさすがの私も見抜けなかったわ。

 

 飛んでる特型を追ってビルの上を飛び回る純ちゃんのちょうど真下辺りに鶴紗ちゃんの金髪がちらりと見える。ギガント級が手を伸ばしたら、無駄に長い指先がこの辺りまで届いてしまいそうでもあるし、かなりリスクの高い選択なことは間違いない。

 

「ヒュージは大きければ大きいほど、強ければ強いほど周囲のマギも濃くなります。そのマギを使って魔法球を育てた方が効果が高いですわ」

 

 マギインテンシティ。

 純ちゃんの語った通り、ヒュージの、そしてリリィの力の源であるマギは強大なヒュージによってまき散らされるという側面が少なからずある。

 ギガント級ほどのヒュージとなればその放出量も莫大で、マギを駆使してCHARMやレアスキルの出力、魔法球の威力を上げることができるリスクが高い代わりに多くのリターンを得られる戦術が可能となる。

 

「そうなの! マギインテンシティなの! だから、銃系のCHARMを使ってるのにインファイトするのは仕方ないの! 大人の事情じゃないの!!」

\ファイア!/\ドロップ!/\ジェミニ!/

\バーニングディバイド!!/

「誰になんの言い訳をしているんですかつかさ様」

「分身してヒュージにオーバーヘッドキックしてることにもツッコミ入れたいのに追いつかない……!」

 

 逃げる特型ヒュージに蹴りを叩き込んで梨璃ちゃんたちの方へ向かわないよう、純ちゃんの進行方向に沿うようさりげなく誘導しつつ、それでも少し不安はある。

 確かに純ちゃんは海外の激戦地も渡り歩いた百戦錬磨のリリィだから決して無茶な選択じゃないと思う。

 とはいえ、それが純ちゃん以外の子たちにも求めていい水準かと言えば別の話だ。まして、慣れない急造チームなら。

 

「そこのあなた! 行きますよ、受け取りなさい!」

 

 そして、次にパスを回されたのはよりにもよって琴陽ちゃん。

 幸い地上で足場もしっかりしていたおかげか無事に魔法球を受け取ることができた。

 

 その成功のおかげか、うっすらと自信の感じられる笑みを浮かべているのは琴陽ちゃんの成長か。

 ……あ、まずい。

 

「きゃああああ!?」

「琴陽さん!」

 

 ギガント級ヒュージ、特に今回出現したギガント級に近づくということは、生み出された大量のスモール級、ミドル級の密集地帯に飛び込むということで、周囲を飛んでいたドローンっぽい形のスモール級の集中砲火が琴陽ちゃんを襲った。

 魔法球を受け取った直後という一番反撃しづらいタイミングを狙われてしまえば仮に熟練のリリィであったとしても避けづらい。

 偶然であれ必然であれ、それは琴陽ちゃん一人では切り抜けられるような状況ではなく。

 

「ヒュージェ……琴陽ちゃんになにしてんのよコラァ!」

「つかさ様!? 琴陽さんを守ってくれたのですか!?」

「メロンみたいな模様をした盾型のCHARM……? 珍しいものを持ってきてますねつかさ様」

 

 めちゃくちゃ急いで間に合うことができたが、ギリギリだった。

 こんなこともあろうかと用意しておいた、縁が刃になっていて武器としても使えるこの盾でヒュージの射撃を受け止めて琴陽ちゃんを守る。

 そして、刀と銃が一体になったCHARMでヒュージどもを撃ち落とす。これ、地味に便利なのよね。御台場女学校がヨートゥンシュベルトをとりあえず標準装備として配るのもわかるってもんだわ。

 ……あっちは普通の剣型で、射撃機能はないらしいけど。

 

「ふぅ……大丈夫、琴陽ちゃん!?」

「は、はい、なんとか……」

 

 さすがに怖かったのだろう。ものすっっっごい怯えた顔で見てくる琴陽ちゃんを抱きしめたりとかして安心させてあげたいところだけど、今は早く魔法球を他の子に渡したほうがいいだろう。

 ヒュージでもわかるくらいに莫大なマギをため込んだ魔法球はヘイトを集めてしまうから。

 

「琴陽ちゃんにケガはないみたいだから心配はいらないわ。魔法球をお願いできるかな、椛ちゃん」

「ええ、任せてください」

 

 そんな魔法球を椛ちゃんに託して一安心。正直、私も結構ほっとした。

 リリィがケガをするのは、いつ見ても肝が冷えるからね。

 

「おめでとう、琴陽ちゃん。ノインヴェルト戦術しっかりできたわよ」

「ぁ、ぇ……いえ。つかさ様に助けていただかなければ、きっと負傷して戦線を離脱していましたから……」

「そこを助け合うのがリリィの戦い方よ。誰かに助けてもらったリリィは、次に機会がきたときにリリィを助けてあげればいいの」

 

 

 だから、琴陽ちゃんも誰かを助けてあげてね。

 そう語ったその時、琴陽ちゃんの目が見開かれた理由を私は知らない。

 でも一つだけ。この時から琴陽ちゃんの笑顔が少しだけやわらかくなった。そんな気がした。

 

 

◇◆◇

 

 

――コオオオオオオオオン!

 

 結論を語ろう。

 特型ヒュージに対するノインヴェルト戦術は成功した。

 幸恵ちゃんの手によるフィニッシュショットはマギリフレクターに真正面からぶち当たり、突き破り、胴体ド真ん中を貫いて撃破した。

 鐘を突くような澄んだ音は、きっとマギリフレクターの悲鳴だったのだろう。

 案外きれいな音で、それはつまりマギをかなり強固に練り上げていたという証拠でもあり、特型ヒュージが今後増えるようならそれなり以上の苦戦が待ち構えていることもまた予想される。

 

 ともあれ、わずかに遅れてギガント級に梨璃ちゃんたちが育て上げた魔法球が炸裂するのを、確かに目撃した。

 レギオンの正式な結成すらまだ完了していないとは思えないほどに練り上げられた魔法球が、おそらく雨嘉ちゃんによって放たれたフィニッシュショットはギガント級の眉間へと正確に突き刺さり。

 

――コオオオオオオオオン!

 

「なっ! 外れた……!?」

「ギガント級、健在! ノインヴェルト戦術による損傷認められません!」

 

 魔法球が、外れた。

 本来なら、ノインヴェルト戦術はギガント級ですら貫いて撃滅するだけの威力がある。

 だが、直撃しなければどうということはないのは世の真理。そうして失敗したノインヴェルト戦術の例もなくはない。

 

 

 ……だけど、おかしいな? ちょっとつっついてみるか。

 私は、こんなこともあろうかと持ってきておいたCHARMを構え、マギを注ぐ。

 

「琴陽ちゃんどいて! ヒュージ(そいつ)殺せない!」

「へ? ……ッ!」

 

 そのとき、私とギガント級を結ぶ射線上には琴陽ちゃんがいた。

 まあ、ちゃんと頼んだら全力ですっ飛んで避けてくれたから問題ないんだけど。助かるわ、そのくらい移動してくれるとギリギリ当たらないからね!

 

\Maximum Hyper Cyclone!/

 

 まな板のように、これまで使っていた虫型CHARMを3匹乗せた剣のような銃のようなCHARMから放たれたごん太ビームが下北沢のビルの上を貫いて、ギガント級ヒュージへ突き進み。

 

 

 その時起きたことを、私は目に焼き付けた。

 

 狙ったのは頭部。

 下手な銃弾よりも速く空を突き進む光条はノインヴェルト戦術には及ばないものの、CHARM換算で4機分くらいの威力はあり、ギガント級相手でも傷をつけるくらいのことは十分に可能で。

 

 

 迫りくるビームを目の当たりにしたギガント級は。

 

――!!

 

 慌てたように、身をかがめた。

 

 直撃はせず、ヒュージを生み出す肩の球体を片方かすめ、半分ほど燃やすに留まる。

 そしてそのまま、体が不自然なほど沈み込んでいく。

 おそらくアレは、体が崩壊しているのではなくケイヴを介したワープに近い移動。

 端的に言うと、「逃げた」のだと思う。

 

 ノインヴェルト戦術には遠く及ばない、一人のリリィが放った攻撃を必死で避けて。

 

 見たことのない現象、聞いたことのないヒュージの反応。

 どうやら、ここが今回の鍵になるようだ。リリィ的直観がそう囁くのを感じながら、私はギガント級ヒュージの消えた下北沢の街並みを眺めていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「つかさ様!? 神妙な顔してますけどなんですかそのCHARM!? 剣のような銃のようなCHARMにメカの虫がたくさんくっついてますが!?」

「やめておきなさい、佳世。どうせいつものつかさ様よ」

「たまにノインヴェルト戦術に代わる次世代高火力CHARM使ってますよね。……なぜか、複数人運用を前提にしてるはずのものを一人で」




財団Bのルナティックトランサー研究。

 強大な戦闘能力と引き換えに精神の不安定を引き起こすルナティックトランサーのことを、財団Bはかなり熱心に研究している。
 ヒュージを倒すため、そしてリリィの心身を守るためにこのレアスキルの抑制や安定化、狂乱に陥った状態から回復させるためのアイテムをいくつか作成し、主につかさに持たせて実地試験を依頼している。
 なお、治療の元となる状態を発生させるためと称してルナティックトランサーじみた暴走状態を引き起こすヤベーイトリガーとか銀色イナゴのキーとか本とかスタンプとかも作っているらしい。
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