アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~   作:葉川柚介

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財団Bの新作アイテムで新しいことができるようになると「だが、今は違う!(ギュッ)」とか言い出すリリィがいるらしい。

「ごはんの時間だ! おにぎりなら作れるよ! それも早く!」

「なぜか妙に嫌な予感のする宣言はやめてください」

 

 あれから大変だった。

 私が一緒にいた東京のリリィの子たちも特型相手にノインヴェルト戦術を使ったからCHARMにもマギにも大きな負荷がかかっているのに、梨璃ちゃんたちの方でもノインヴェルト戦術でギガント級を仕損じた上に逃げられた。

 純ちゃんはキレるしフォローに入った楪ちゃんが軽く煽ってケンカになりかけるし、楓ちゃんの旧友である相模女子高等学館の石川葵ちゃんが合流して二水ちゃんと佳世ちゃんが揃って鼻血を出すわ、それはもうしっちゃかめっちゃかだ。

 

 状況は混乱しているが、一つ間違いないのはギガント級ヒュージの健在。

 下北沢の街中でスモール級、ラージ級のヒュージが減る様子は見られず、それはすなわちギガント級の撤退があくまで一時的な物であるという証明に他ならない。

 

 また、来る。

 その時に今度こそ倒し切るための休息と補給と整備と作戦会議が、私たちの急務となった。

 

 

「だから仕方ないの。こういう時はおにぎりが一番ぐっとくるの。豚汁もあるよ!」

「つかさ様、お料理上手だったんですね……」

 

 梨璃ちゃん辺りなら、丸くなればすっぽりおさまるくらいドデカい寸胴鍋で豚汁を作る。ぶっこんだ豚肉の量はキロ単位だったかもわからんね。

 そんな風にご飯を用意して、食べてもらう。情報の精査と分析もしてもらわなきゃいけないけど、ギガント級の再来までにお腹を満たして仮眠を取ってとやって体力とマギを回復しないことには話にならないのよ。

 今回、情報処理に強い子たちがいるから料理は私。役割分担ってやつね。

 

「じゃ、夢結ちゃんたちに届けがてら作戦会議混ざりに行ってくるわ。みんなもしっかり食べておいてねー」

 

 でもそれはそれとして作戦会議の内容が気になるからちょっとお邪魔しようかな、ということで作ったおにぎりを人数分と、豚汁を分けた小鍋を抱えて防衛軍の人たちが用意してくれたテントの一つへと差し入れに行く。

 

「うっ!? な、なんだか急にいい匂いが!」

「そういえば、すごくお腹空きましたね……」

 

 行き詰っているのか、難しい顔してタブレットやらモニタやら睨んでいる知性派の子たちのところへてってこ入っていく私。

 先輩の立場はこういうときに遠慮しないためにあると言っても過言ではない。おなかが空いてると頭回らないからね。

 

「調子は、あんまりよくないみたいね。おにぎり食べて一休みしましょ」

「ありがとうございます、つかさ様」

「……違和感が、あるんです。今回のノインヴェルト戦術、フィニッシュショットが直撃したときの感じが、過去の事例と違うような気がして」

 

 二水ちゃんは筋金入りのリリィオタクだ。

 普通のリリィでも勉強の一環として他レギオンを含めたノインヴェルト戦術を調べることは多々あるが、趣味として好き好んで漁っている二水ちゃんが言う。

 ノインヴェルト戦術が、その直撃した瞬間がおかしいと。私が口元に差し出したおにぎりを半ば反射でもしゃもしゃしながらも、ギガント級との戦闘データが映し出されるモニタから目を離さない。

 

「直撃の瞬間……音?」

「待って、この音は……!」

「はい。私たちが特型ヒュージを、(・・・・・・・・)マギリフレクター(・・・・・・・・)ごと貫いた時の音(・・・・・・・・)に、似ていませんか?」

 

「――ビンゴです。ギガント級にマギスフィアが着弾した瞬間の、頭部拡大スロー映像。間違いありません」

 

 佳世ちゃんの閃きに基づいて映し出された映像は、多少不鮮明ながらはっきりとわかるほどにギガント級の頭部とそれに迫る眩いマギスフィア。

 そして、マギスフィアを阻む光のハニカム構造。

 <マギリフレクター>が展開されている光景を映し出していた。

 

 

◇◆◇

 

 

「ただでさえ特型まで現れた上に、これまで未確認のマギリフレクターを使うギガント級……!?」

「つまり、事実上の『特型』ギガント級ヒュージだったということですね」

 

 ノインヴェルト戦術が効かないヒュージ、そのタネと仕掛けは明らかになった。

 ただ、どうすればいいかについてはさっぱりだ。

 

「普通に考えて、マギリフレクターの強度も選抜隊のみなさんが撃破した特型以上のはずです。しかも一旦退避したのですから、再び同程度の出力で展開可能な状態になってくると思われます」

 

 二水ちゃんの分析が悲観論として否定されないのは、これまでに確認されたヒュージの生態的に十分あり得る話だから。

 いやむしろ、特型と判明した以上さらに想像を超えてくることすら覚悟しなければならない、そういう事態だ。

 

「対大型ヒュージ用の固定砲はどうです? 百合ヶ丘の真島様なら……」

「あんまりオススメできないわね。百由ちゃんなら用意できるとは思うけど、ギガント級、それもマギリフレクターブチ貫いて倒す威力となったら多分下北沢が更地になるわよ? そうならないよう財団Bがギガント級と殴り合える巨大人型ロボCHARMを開発してるけど、完成にはまだ時間がかかるらしいわ」

「何してるんですか財団B」

 

「では、ノインヴェルト戦術の威力を上げるのは? リリィの数は十分にいます。倍の人数なら威力も倍に、と言えるほど単純にはいかないでしょうが……」

「それも難しいわね。確かに威力は増すでしょうけれど、CHARMへの負荷も高くなって破損する可能性が高いわ」

 

 ああでもないこうでもないと意見は出るが、どれもこれも利点もある代わりに割と致命的な問題点も抱えている。現実的な案となると中々出てくるものではなかった。

 

「逆に考えるんだ。『バリアなんて近づけばスルーできる』と考えるんだ」

「それができるのはつかさ様だけです」

「……でも、発想を変えるという点は正しいと思います。そもそも、あのギガント級ヒュージ。マギリフレクターがあるならノインヴェルト戦術ですら脅威ではないはず。なのに、逃げた」

「つまり、私たちが思っている以上に追い詰めることができていた……?」

 

 こういう時に必要なのは、根本から考え直すこと。

 現状、リリィが出しうる最大の攻撃力をすらしのいでのけたギガント級が、出がらし同然の状態に陥っていた私たちを前に何を恐れることがあったのか。

 逃走を選んだということはすなわち、あの瞬間ギガント級もまた命の危険のただ中にあったという推測は、的を外れたものとは思えない。

 

 

 

「――そこから導かれる有効な戦術は、『ノインヴェルト戦術の連撃』です」

「つまり、2つの魔法球をぶつけるということ?」

 

 それが結論だった。

 

「そうです。マギリフレクターを使うギガント級が撤退を選んだのは、おそらくマギの消耗で防御力が低下した状態にあったからだと思われます」

「一度は弾いたとはいえ、同等の威力をすぐに再び防ぎきれる状況ではなかった。なら、連続してもう一発撃ち込めば……!」

 

 作戦が決まる。

 ノインヴェルト戦術が可能なリリィが2組揃っているからこそ可能なこの戦い。チーム内のみならずチーム同士の連携すらも必要となる困難を乗り越えた先にのみ勝利がある。

 だがそれを恐れる子はいない。強い意志を込めた目で、覚悟を決めた。

 

「ギガント級出現までの間、下北沢の守備と監視はルドビコ女学院で行います。みなさんは少しでも回復できるよう休息に努めてください」

 

 

◇◆◇

 

 

「つかさ様」

「どったの叶星ちゃん」

 

 作戦会議が終わり、割り当てられた仮眠部屋でも行こうかなとてってこ歩いていると、叶星ちゃんに声をかけられた。

 割かし真剣な表情。あまり、いい話を持ってきてくれたわけではなさそうだ。

 

「戸田さんのことです。……彼女は、本当に弱いのでしょうか?」

「……」

 

 弱い、という言葉が意味するのがなんなのか。

 単純に力や技の強い弱い、判断の速さと正確さ、あるいは敵に向かっていく勇気の多寡。

 何をもって弱いと評するかは、状況によって変わってくる。

 そして、少なくとも叶星ちゃんは弱いから悪いとか、そういう単純な話をする子じゃない。

 純ちゃんはそういう話しかしないという説もあるけど、それはそれ。

 

「夢結さんを狙った一撃は、それまでの彼女の印象からはかけ離れたものでした。ノインヴェルト戦術中にマギスフィアを受け取ってヒュージに狙われた時の動きも、なにかちぐはぐな気がして……」

 

 そんな叶星ちゃんの目が見た琴陽ちゃんの姿に、いくつか腑に落ちないところがあるというのは、相応に根拠と説得力のある話で。

 

 

「そうよ。琴陽ちゃんの強さは、最低でも夢結ちゃんにして見せたくらいの動きを基準にした方がいいわね」

 

 私の抱いていた見解と、同じだった。

 

「やはり……そう思いますか」

「あと、戦い方がルドビコだけで習った子じゃないわね。百合ヶ丘の流儀が混じってる……ような気もするんだけど、なんかしっくりこないかな。百合ヶ丘からルドビコに転入した子がいても、ああはならないと思う」

「そ、そこまで……?」

 

 そう、琴陽ちゃんは本人が言うような新人リリィではないっぽい。

 少なくとも実力と経歴のどちらか、あるいは両方を隠している。

 

「ま、いいんじゃない? 謎のリリィとかカッコいいし! あとで仮面でもプレゼントしようかしら」

「……G.E.H.E.N.A.の関係者、とは考えないのですか?」

 

 その隠された経歴に、良くない何かが紛れ込んでいるのではないか。

 叶星ちゃんの懸念は神庭女子藝術学校で隊長としてトップレギオンを預かる責任感からは当然のものであり。

 

「考えるけど、気にしない。私、G.E.H.E.N.A.のことは許さないけど、リリィは仲間よ。たとえ、どんな考えと力を持っていても。リリィである限り、守るし信じるし、守って欲しいし信じて欲しい」

「……変わりませんね、つかさ様」

 

 それでも、理想論じみた私の言葉に笑ってくれる辺り、本当に優しい子だと思う。

 

「つかさ様は、戸田さんと一緒にギガント級周辺ヒュージの掃討をされるのでしたよね。……お気をつけて」

「うん、ありがと。叶星ちゃんも、ギガント級の相手をお願いね」

 

 そう言葉を交わせば、必要なことは余さず終わる。

 何が起こるかはわからないのが戦場の常。

 言うべきことは言っておき、別れる時は笑顔と信頼を。それがリリィの心がけ。

 

 さあ、私も少し寝るとしよう。

 下北沢近辺で割と無事に済んでいる施設を防衛軍がいくつか確保してくれていて、私に割り当てられたのは元はライブハウスだったというビルで、かつての屋号は「STARRY」と言ったらしい。

 

 

◇◆◇

 

 

「寝られるときに寝ておくこともリリィの仕事だぞ、梨璃」

「……梅様」

 

 梨璃たちに割り当てられたのは、戦域から外れていたため施設が生きていたホテル。

 そのロビーで、梨璃は物思いにふけっていた。

 初めての実戦、他校のリリィ、琴陽から告げられた夢結の側面と、ルナティックトランサー。考えることが多すぎた。

 

「夢結のルナティックトランサー、今日のは特に大暴れだったからな。気になるのも無理はないか」

「……はい。あんなに強くて、取り乱すなんて」

 

 直接CHARMを交えた今なら一層わかる。

 夢結の秘めた力と、それを際限なく引き出し、振るわせるルナティックトランサーというレアスキルの強さと怖さ。

 もしも、自分がレアスキルに目覚める日が来たとして、それがルナティックトランサーだったなら。不安を抱かずに想像できる未来ではなかった。

 

「だからこそ、ルナティックトランサーを使うリリィには仲間が、信頼できる人が必要なんだ」

「信頼できる、人……」

「夢結のお姉様、……あー、実の姉って意味じゃなくシュッツエンゲルの川添美鈴様がそうだった。傍から見てても二人は仲が良くて、幸せそうだったよ」

「そんなことが……」

 

 過去形で語られるその理想が失われて久しいと、遠くを眺めるような梅の目線が言外に語る。

 

 甲州撤退戦。

 梨璃にとっては失ったもの以上に今へとつながる未来をくれたきっかけが、夢結にとって、琴陽にとっては絶望への入り口だったという事実が胸の奥で重石となるようだった。

 

「夢結とシュッツエンゲルの誓いを結ぶってことは、そういうことだ。……だから、最初に梨璃が夢結のシルトになりたいって聞いた時は正直不安だったよ」

 

 梅の言葉に嘘はないだろう。

 梨璃の考えは変わらないが、ただ無邪気に憧れるだけでは足りなかったのだと思い知らされる。それだけの重みがそこにはあった。

 梨璃を見つめる梅の眼差しはどこまでも、どこまでも真剣で。

 

 

「――でも、今は違う」

「……っ!」

 

 ギュッ、と思わず両手を握りしめる梨璃。

 そういえば初代アールヴヘイムであった甲州撤退戦のときの夢結はマントを羽織っていたな、となぜか関係ないことを思い出した。

 

「あの日起きたことは辛いけど、きっとそれだけじゃない。救えなかった人もいたけど、救われた人もいた。梨璃なら、そのことを夢結に教えてやれるはずだ」

「……はい、必ず」

「ん。期待してるぞ。……まあでも、難しい話をしちゃったからな。寝る前に外の空気を吸って気分転換するといい。――ウッドデッキとか、いいと思うぞ」

「っ! ありがとうございます、梅様!」

 

 駆け出す梨璃の背を、梅はその場で見送った。

 信じるように、励ますように、縋るように。

 かつて自分が友に与えられなかった救いが、どうか今度こそもたらされることを、祈るように。

 

 

◇◆◇

 

 

 結局、一晩眠ることすらできなかった。

 地下ライブハウスの程よいソファでぐだぐだうとうとしていたところを通信でたたき起こされ、外に出てみれば夜明け前の薄暗い街並み。

 情報端末を確認してみれば、現在下北沢防衛中のルドビコ女学院所属リリィたちにより、ヒュージの出現数の増加とマギ濃度上昇が報告されている。

 ギガント級再出現の兆候、と見ていいだろう。

 集合場所へ向かい、出撃だ。

 

 

◇◆◇

 

 

「ノインヴェルト戦術は梨璃ちゃんたちと幸恵ちゃんたちがやってくれるから、私たちはザコ掃除しよっか。行くわよ琴陽ちゃん!」

「えっ。あ、あの、私は足手まといにならないように見学を……」

「見学ならちょうどいいわね! 近ければ近いほど勉強になるし、実戦経験も積める。せっかくだから、私も財団Bのできたてほやほや新作使っちゃうわよー!」\BOOST MARK Ⅲ!/

「ヴァルキュリアスカート・マギ・リンカネーションシステム!? なんだか他のものより倍くらい分厚くないですかそのバックル!?」

「こーん」

「なんか唐突に白いメカ狐まで出てきたんですけど!?」

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