アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~   作:葉川柚介

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どんなに困難な状況になろうとも、たとえギガント級を相手にタイマンを挑まなきゃならなくなっても、最後まで諦めず不可能を可能にするリリィがいるらしい

 作戦開始。

 下北沢の街を駆ける18人のリリィが目指すのは、マギリフレクターを展開する特型ギガント級ヒュージ。未知の存在を前にして、しかし誰一人臆さず突き進む。

 

 狙うはギガント級ただ一体。

 瓦礫の山と化した下北沢の街を突っ切って、邪魔するヒュージ達を蹴散らしながらまずは近づかなければならない。

 ノインヴェルト戦術は一撃必殺。マギリフレクターの存在を抜きにしても、必中が可能な距離までたどり着くことが基本中の基本だ。

 

「ノインヴェルト戦術、開始します! 梅!」

 

 始動は夢結ちゃんから。

 名を呼ぶ一声だけで意図するところが伝わったようで、長い付き合いを感じさせる梅ちゃんはさっそく走り出す。

 目標への接近が第一の課題となるノインヴェルト戦術序盤において、縮地の使い手にパスを回すのは極めて安定性の高い定石と言える。

 

「よっしゃ、受け取った! そうだ、つかさ様。せっかくだから久々に一緒に行くかー?」

「いいわね、付き合ってあげる。……10秒間だけね」\Start Up!/

「つかさ様!? なんで制服の胸元をちょっとはだけるんですか!?」

 

 この加速装置使うとめちゃ暑くなるから排熱のためよ琴陽ちゃん。

 今は説明している時間も惜しいからその辺の話はあとですることにして、梅ちゃんの縮地に合わせて起動。体感で通常の1000倍くらいな気がするスピードでギガント級に向かって突っ走る。

 私も梅ちゃんも道中届く範囲にいるヒュージは軒並み切り捨てて、こちらを認識したギガント級が目から放つビームもさくっと避けて、そこを狙って夢結ちゃんが放ったマギスフィアを梅ちゃんは危なげなく受け取った。

 これで、十分に距離を稼ぎ、ギガント級付近の濃厚なマギを蓄積することができるだろう。

 

 

「こちらも始めましょう。スタートは任せます、楪」

「オッケー! ガンガン行こうか! テスタメント!」

 

 百合ヶ丘組も東京組も順調にマギスフィアのパスが回り、ギガント級の周囲に展開できている。それぞれの特性とレアスキルを活かした見事な立ち回りだ。

 

「雨嘉さん! 2時から飛行型です!」

「あと左右からも包囲しながら近づいてるみたい! 一旦そこ離れて!」\タカ!/

「……つかさ様、なんで赤いメダル握るだけで鷹の目みたいな俯瞰視点を得られるんですか?」

 

 雨嘉ちゃんからの、ギガント級の体をかすめるような遠距離パスを受け取った二水ちゃんと一緒に戦況を確認して情報を共有する傍ら、私たちがいるビルの屋上までよじ登ってくるヒュージを琴陽ちゃんが死んだ目でしばきながら呟いている。

 わかるわ、ぼちぼち嫌気がさしてくるころよね。でもまーしょうがないの。こういう戦場では、とにかくヒュージが多いものだから!

 

「なんだかんだで琴陽ちゃんもヒュージ相手に戦えてるみたいね。もしまだ怖いようだったらこのマスク貸してあげようと思ってたんだけど」

「つかさ様の使う道具にしては物々しいですね。ちょっとバッタみたいに見えます」

「バッタモチーフだからね。このマスクつけると暴力に抑えが効かなくなるからルナティックトランサー並みに容赦なく戦えるわよ。……あ、でもセットのベルトも忘れないでね。マスク外せなくなるから」

「なんでそういう恐ろしい装備ばかり持ち込んでいるんですか!?」

 

 

「ふはははははは! 隙だらけじゃのうデクの棒! いい的じゃぞ!」

 

 ミリアムちゃんのCHARM<ニョルニール>からの砲撃がギガント級に炸裂する。

 小柄な体にクソデカ武器という実に趣のある組み合わせに、火力特化のレアスキル<フェイズトランセンデンス>。ノインヴェルト戦術を例外とすれば単純火力は一柳隊どころかいまこの戦場に集ったリリィの中でも屈指かもしれないだけに、極めて派手だ。

 

――!

「ぐえっ!?ラージ級3体も出しよった!?」

 

 そして、当然大きなヘイトを向けられる。

 ただでさえヒュージを生み出すギガント級がミリアムちゃんに差し向けたのはラージ級3体。

 

「ここはルドビコ女学院の守備地域! ヒュージの好きにはさせない!」

「そうじゃの、地元のリリィに先手を譲るのが礼儀じゃろう。……まあ、わしも黙っとるつもりはないがのう!」

 

 そこに割り込む幸恵ちゃんは、2機のCHARMを同時に操る円環の御手使い。

 攻防一体にも火力重視にもなれるそのスタイルは強力で、ミリアムちゃんを狙っていたラージ級たちも一瞬狙うべき相手を迷うほど。

 

「じゃあせっかくだし、私も強めの行きますか!」\Full Charge!/

 

 さらに私まで割り込んだのだから、数の有利すら一瞬で消え去ったラージ級たち。

 ネストを介して空中に呼び出されたのは落下の勢いで攻撃するつもりだったのかもしれないが、ここに至ってしまえば逃げようもないというだけの話であって。

 

「はああああ!」

「ふんにゃあああ!」

 

 幸恵ちゃんの連撃が切り刻み、ミリアムちゃんの大斧が叩き潰し、私の斧型CHARMによる脳天からの斬撃で、ラージ級は地に足つけた次の瞬間には消え去った。

 

「――ダイナミックチョップ」

「……CHARM名なのか技名なのか知りませんけど、あとで言うんですね」

 

 

◇◆◇

 

 

「はぁ……♡ <円環の御手>に<フェイズトランセンデンス>、それにつかさ様のなんだかよくわからないCHARMから繰り出される技! すごい威力です」

 

 他方、その様子を別の場所から眺めていた佳世ちゃんはリリィオタクらしく恍惚の表情で鼻血をたらし、多数のリリィが入り乱れる戦場を堪能している。

 

「……佳世、次あなたに繋ぎたいのだけど」

「は、はいっ! どんとこいです! ルドビコの意地を見せてやりましょう!」

 

 幸恵ちゃんからの軽く引き気味なパスを気合十分で受け止めて、メガネに指をかける。

 それは、佳世ちゃんがルナティックトランサーを起動する際のルーティンだ。

 一歩間違えれば敵味方の区別すらつかない狂乱に陥るレアスキルに向き合う勇気と覚悟を湧きたたせるための習慣で。

 

「やったらぁ! どおぅりゃああああああ!」

「がおああああああああ!」\プーリーミーティーブ! ドラ、ゴーン!/

 

「えっ、つかさ様? さっきまで向こうにいませんでしたか?」

「なんでCHARMの刀身部分を素手で掴むんですか!? 危ないからやめてください!」

 

 そんな佳世ちゃんのルナティックトランサーは激しくありながらもどこか冷静で、せっかくだから暴走スキルの一つも使いたくなった私と並んで戦っていてもこちらに刃が向くことは決してなく、向かってくるヒュージを二人で微塵に切り裂き突き進む。

 

「これでラスト……! 葵さん、頼みます!」

 

 そして最後のパスが回り、ノインヴェルト戦術も大詰めだ。

 梨璃ちゃんたちの方の様子を見れば、鶴紗ちゃんがギガント級の攻撃を搔い潜って接近して最大限にマギの濃い領域でマギスフィアをチャージしている。

 あちらも残すところあとわずか、双方すぐにも射程内に入ってフィニッシュショットの準備を完了させる必要があるだろう。

 

「みんなが伝えてくれたこのマギスフィア……! 必ず叩きつける! ファンタズム!!」

「手伝うよ、葵ちゃん!」\ジオウ! Ⅱ!/

 

「つかさ様、なんでファンタズムにしれっとついていけてるんでしょうね」

「眉毛がぐりぐりしてたしそのせいじゃないですか」

 

 戦場をあっちこっち暴れまわる私に、なんだかんだしっかりついてきてくれていた琴陽ちゃんがぼちぼちやさぐれ始めているが、これも修行なのよがんばって琴陽ちゃん。

 リリィ活動してるとそこそこ理不尽に襲われることもあるから、その辺に慣れるか受け流すことができるようにならないとやってられないのよ。マジで。

 

 

 そんなこんなでパスは回り切る。

 鶴紗ちゃんから梨璃ちゃん、夢結ちゃんへと百合ヶ丘組もパス回しが完了して、あとはギガント級に命中させるだけだ。

 

「余計なお世話かもだけど、様子を見に行こっか琴陽ちゃん」

「……今はつかさ様の指示に従うつもりです」

 

 その結末が、ちょっとだけ気になった。

 信じてはいるけれど、それはそれとして。

 

 

◇◆◇

 

 

 最後の一撃を決めるため、夢結はルナティックトランサーを起動した。

 梨璃はそれを背後から見守っている。

 

 深い集中のための瞑目。

 じわじわと白く染まり行く髪。

 

「――」

 

 開いたその目に宿るのは、紛れもない不安の色で。

 

「夢結様! よく見てください! いまここにいるのは私です! 百合ヶ丘のみんなです! 夢結様の強さをみんな信じています!」

「だめ……無理よ……! たとえ誰が信じてくれても、私が私を信じられない……! きっとこの力は、私は、これまでにたくさんの命を失わせてきた……!」

 

「まあ、そうかもね」

 

 その絶望を、いつの間にか近くに来ていたつかさが肯定した。

 

 

「つかさ様!? 一体何を……!」

 

 声がしたのは夢結より前方、ギガント級ヒュージのまさに正面。

 相手の巨体を思えば間合いの内。

 梨璃たちに背を向け、ヒュージと向かいあうその立ち姿は、まさしく人類最後の希望のようで。

 

「私たちリリィは、神様じゃないから。どんなに頑張ろうと、救えない命もあれば、届かない思いもある」

 

 その言葉は諦観のようだった。

 リリィとして長く戦い続けるということは、救えない数が増えるということなのかとすら思わされる重みが籠っていて。

 

「だから」

 

 否、とその背が叫んでいる。

 ギガント級を相手に立ち向かうなどという酔狂が、ただの臆病によってできる道理などあるはずもなく。

 

「大切なのは、最後まで諦めないこと。最後まで諦めず、不可能を可能にする。――それが、アサルトリリィよ」

「アサルトって言葉どこから出てきたんですか?」

「……諦めるな!」

「誤魔化そうとしないでください」

 

 梨璃と琴陽による怒涛のツッコミもなんのその、自身の言葉を証明するかのような勢いで、つかさはギガント級に向かって走り出す。

 

「私がちょっと時間を稼ぐから! 夢結ちゃんの説得がんばってね、梨璃ちゃん!」\MARK Ⅸ! SET IGNITION!/

 

 どこからともなく取り出したバックルを2つに分けてベルトにつけてくるりと180度回転させてと無駄にギミックを駆使した直後、背中から白い羽にも尾にも見える何かを9本マントのようになびかせて。

 

 

「……あれどういう原理なんでしょうね、夢結様」

「昔からああいうのばかりなの、あの方は……」

 

◇◆◇

 

 

 戸田・エウラリア・琴陽はG.E.H.E.N.A.に与するリリィである。

 甲州撤退戦の折りに夢結と出会ったこと、親友ともども救われなかったこと、それによって夢結に恨みを抱いていることに嘘はない。

 だがそのあとの人生がそれだけであった、とも言えない。

 

 その後の紆余曲折が今の琴陽の状況を作っている。

 G.E.H.E.N.A.の指示を受け、情報を流し、この下北沢での戦いにおいても暗躍した。

 まあ、途中からそれどころではなくなった面もあるのだがそれはそれ。

 立場上、琴陽はいまもG.E.H.E.N.A.の側にこそ近い。

 

「琴陽ちゃん! ちょっと小さいヒュージの相手してられなくなりそうだから、そっちはよろしく!」

「……はいっ!」

 

 そうなったことに後悔はない。

 恩人もできた。その人のため、見ようによってはこの場のリリィたちを裏切るようなこともする。

 

 だが、もしも。

 

「せりゃあああああ!」\GEATS BUSTER QB9!/

 

 ギガント級は巨大で重厚。

 小石でも放るようにして、近くのビルをワンフロアまとめて握り込んで投げつけるようなことをする規格外。

 それに対して避けも守りもせずむしろ加速して行くつかさの背を見て、ありえたかもしれない未来を夢想する。

 

 あの日。

 琴陽の人生が変わった始まりの夜(ビギンズナイト)

 G.E.H.E.N.A.の研究所に現れたのがつかさだったなら。

 きっと特に理由もなく施設を破壊して、強化手術を施された琴陽のことを見つけ出し、放っておけずに連れ帰っていただろう。

 助け出された琴陽はその後百合ヶ丘に所属することになって、何くれとなく気にかけられて。

 なんなら、おもしれーリリィ扱いされ続けるつかさを見かねてシュッツエンゲルの契りを交わすという未来も、あるいは。

 

「――ふっ!」

 

 ありえなかった。しかし可能性はあった未来を、目の前のヒュージもろとも切り捨てた。

 つかさはギガント級に立ち向かっていったのだ。

 ならばその他のスモール級もミドル級も、一匹たりとてノインヴェルト戦術中のリリィたちには近寄らせない。

 それこそが、今の琴陽の誇りだった。

 

 

 つかさは投げつけられたビルの瓦礫を避けるのではなく、その隙間をすり抜けることを選んだ。

 まるで<ファンタズム>でも使っているかのように、大きさも軌道もバラバラの瓦礫にかすりはすれども直撃することはなく、大きな瓦礫は足場にすらして使い、ギガント級の腕を3歩駆けて頭部へと迫り。

 

 その時、不思議なことが起こった。

 つかさがギガント級に迫る道中無駄に殴った瓦礫が突如空中で停止し、まるで時間を巻き戻したように、レアスキル<Z>を受けたかのように元の位置へと戻り始めた。

 それはちょうどギガント級の進行を妨げる位置であり、ギガント級をしてすら意表を突かれる現象だったのか、つかさに向かっての歩みを止められつんのめり。

 

\BOOST TACTICAL VICTORY!/

 

 その隙を逃さず、つかさはどこかグングニルに似た紅白の銃型CHARMを剣型に変形させて切りつける。

 その一刀に込められたマギの威力、ギガント級すら怯えたか。たった一人のリリィを前に、マギリフレクターを発動するに至るほど。

 

「それじゃあみんな! あとよろしく!!」

 

 ギガント級が展開するマギリフレクターの出力は高い。ノインヴェルト戦術ですら貫けない。

 ゆえにつかさの一撃も何一つダメージを与えることはなく、しかし同時にマギリフレクターは長続きするものではなく、ギガント級自身も消耗を強いられるもので、それでもつかさの一撃を前に使わなければその瞬間の敗北が待ち受けていて。

 

 この戦場に多数存在するリリィの中でたった一人、睨んだつかさが勢いを失って落下していくのを目で追う余裕が、ギガント級にはなかった。

 

 目の前に、「死」が迫る。

 それはリリィたちの力と祈りを込められた魔法球の形をして、マギリフレクターに直撃。

 眩い光が一瞬の停滞ののち。

 

「いけえええええええええ!」

「終わりよ!!!」

 

 梨璃と夢結、二人のリリィが手を携えて、CHARMもろとも叩きつける追加の一撃が、1発目のマギスフィアもろともマギリフレクターを突き破り。

 

 

――ズドン!!!!!

 

 

◇◆◇

 

 

「――はい。ええ、そうです。……いや、本当なんです嘘じゃないですCHARMからのデータもほぼリアルタイムで送りましたよね!? 捏造でも勘違いでもないから休暇なんて勧めないでください! そ、それよりどうするんです? あのギガント級がこんなに早く撃破されることは想定外でしょう。得られたデータを見れば実験は成功と言っていいと思いますが……」

 

 ギガント級の撃破を確認し、琴陽は通信を入れた。

 その相手がリリィでないことは話す内容からも明らか。

 ノインヴェルト戦術に参加していたリリィは近くにおらず、ギガント級に突撃をかましたつかさも姿が見えない。おそらく百合ヶ丘の仲間と合流したのだろう。

 半ば以上廃墟と化した下北沢なら見通しもよく、通信の内容を聞き咎められる心配もそうそうあるまいと判断し。

 

「……なるほど、予定通りに」

『琴陽ちゃーん』

 

「ええ、確かにいいデータが揃いました。当然、白井夢結のデータも」

『いないのー?』

 

 話は終わった。首尾は上々。

 計画は着実に進行し、G.E.H.E.N.A.にとって都合がいい。

 

「……そして、あの方にとっても」

 

 それのみならず、琴陽にとって何より重視するべきこともまた。

 夜明けの空へ、祈るように感謝を捧ぐ。

 琴陽の、そして琴陽の信じる者の願いが叶う日は、きっと近いだろう。

 

 

『誰かー』

「……ん?」

 

 それに気付かなかった理由を挙げるなら、声の主が瓦礫に半ば埋もれて声がくぐもっていたことが一つ。

 こんなところに他の誰かがいるわけないだろうという油断が一つ。

 さらにあえて挙げるなら、払暁の闇はどうしても常より色濃く、崩れかけたビルのかろうじて残った壁の影、瓦礫から突き出ていたアレがまさか人の尻だなどとは想像もつかず、それがリリィであるならばあの程度の瓦礫は普通に跳ね飛ばせるはずであり。

 

「つかさ様!?」

『あ、もしかして琴陽ちゃん? たすけてー』

 

 まさかつかさが割と近くにいようとは、想像もできないことなのだった。

 

「何してるんですかそんなところで!? 早く出てください!」

『それがさー、あのバックルって使ったらすごく眠くなるやつでね? それでも我慢してがんばったから、もう疲れちゃって全然動けなくてェ……』

 

 G.E.H.E.N.A.の計画はおおむね達成できた。そういうことになった。

 そして達成できなかった部分は、大体常盤つかさに、目の前で瓦礫から尻と足だけ突き出ているリリィに阻まれたも同然だった。

 G.E.H.E.N.A.の意図を察していたわけではないだろうが、それでも暴れ倒したこのリリィに対して抱くべき感情はなんなのか、わからない。

 

 琴陽はそのことを改めて噛みしめながらつかさを引っこ抜き、肩を貸して百合ヶ丘のリリィたちの集合地点まで連れて行った。

 白井夢結が頭を抱え、吉村・Thi・梅が腹を抱えて爆笑し、一柳梨璃と王雨嘉が何度も頭を下げて感謝と謝罪をしていたのが印象的で。

 

「あのっ、戸田さん! もしまたどこかで一緒に戦うことがあったら、その時はよろしくお願いします!」

「……ええ、よろしく」

 

 最後は琴陽も少し笑って、この不思議なリリィたちとの別れを済ませた。

 

 

◇◆◇

 

 

「梨璃。――ありがとう。これを返すわ」

「それ、は……」

 

 後日、百合ヶ丘女学院。

 夢結ちゃんは、呼び出した梨璃ちゃんに髪飾りを返した。そういえば、ギガント級との決戦前辺りから梨璃ちゃんの四葉の(ラッキー)クローバー型の髪飾りを夢結ちゃんがつけていたような。

 どうやら、なんやかんやの末にお守り的なものとして夢結ちゃんにあげていたらしい。

 それを返すと言われて、梨璃ちゃんの顔は不安に染まって瞳が揺れる。

 決別の気配を感じてしまえば無理もなく、だけど夢結ちゃんの本意がそれでないことは、そっと梨璃ちゃんの手を取る優しさからも明らかで。

 

「これからは、あなた自身がそばにいてくれるのでしょう? ――シュッツエンゲルの契りを交わしましょう」

「夢結様……いえ、お姉様!」

 

 ここに、幸せなシュッツエンゲルとシルトが誕生した。ハッピーバースデー。

 

――バシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!

 

「え、なにこのエグいシャッター音」

「いい写真いただきました! また週刊リリィ新聞の一面が華やかになりますよー!」

 

 そして、幸せはおすそ分けされるべきもの、なんだろうねうん。

 二水ちゃん、レギオンの仲間でも情け容赦なくニュースのネタにする辺り実はこのレギオンの中でも一番警戒するべき人物なのかもしれない。

 まあ? 私はスッパ抜かれるような後ろ暗いところなんてない清廉潔白なリリィなんだけど?

 

「ときに夢結様? 今日は私たちも呼ばれたわけですが、まさか梨璃さんとのシュッツエンゲル成立を見せるためだったのですか? そちらで脳を破壊された楓さんが泡を吹いて倒れていますが」

「楓! しっかりせんか! ほれ、二水がくれた梨璃の隠し撮り写真じゃ!」

「あ、あば、あばばばば……梨璃、さん……」

 

「……いえ、違うわ。私たちのレギオンが学園から正式に認可されたわ。今日から、本格的に活動開始よ」

「わあ、よかった……!」

「やっとか。まあ、そのおかげで下北沢に行けたからありがたいけど」

 

 ともあれ、嬉しいことが二倍になった。

 梨璃ちゃんと夢結ちゃんの関係は丸く収まったし、レギオンの発足も認められた。

 ……正式な発足前にレギオンじゃないですタダの通りすがりですって面して学園が遠征を禁じた戦いに殴り込みをかけたのにすんなり許可が下りるあたり、あの戦いって本当に背後がいろいろあったんだろうなと思うけど今は考えないことにしよう。

 

「よかったな、みんな! ……そういえば、レギオンの名前はどうしたんだ?」

「それは、最初から決めていたわ」

 

 だって、夢結ちゃんがすごく晴れやかな顔をしているし。

 あんな表情、この2年間とんと見られなかったものだから、私はそれが本当にうれしくて。

 

 

「私たちのレギオンは――<一柳隊>よ」

 

 

 それは、笑って受け入れられる名前だった。

 梨璃ちゃんが驚き、夢結様のレギオンなのにとおろおろし、みんなが梨璃ちゃんのために集まったのだとその背を押して。

 

 私たちが誇りとして名乗るレギオンが、今日ここから始まった。

 

 

◇◆◇

 

 

「めでたい日に水を差すようで悪いけど、本格的にリリィやっていくなら気を付けることもたくさんあるわよ梨璃ちゃん。死んだはずのリリィによく似た仮面リリィが出てきてもついていっちゃいけないとか、自分にそっくりなワームリリィを見かけたら絶対に逃がさず仕留めるとか」

「えっ、リリィってそんなことが……?」

「ちょっと何言ってるんですかつかさ様。いくらヒュージ相手に戦ってるって言ってもそんなことあるわけが……」

「G.E.H.E.N.A.と関わるときは特に」

「……………………」

「鶴紗さん!? あなたがそこで黙るとつかさ様の言葉に説得力が出てしまうのですけれど!?」




 ブーストマークⅨリリィバックル

 財団Bの主要研究目的の一つである「外部機構によってリリィにレアスキル相当の能力を付与する」ためのアイテム。
 通常時はブーストマークⅢリリィバックルであり、それを分割してヴァルキュリアスカート・マギ・リンカネーションシステムに両方装填することにより能力を発揮する。
 その名の通りブーストマークⅢは3種、ブーストマークⅨは9種のレアスキルを同時に発動可能とする……ことを最終目標としているが、現状ではランクの低いサブスキル程度の能力が限度となっている。
 はずなのだが、つかさが使うと全てフルスペックにレアスキルを使っているとしか思えないような戦闘力を発揮する。
 つかさに曰く「レアスキルって生き様が反映されるって言うでしょ? 私の生き様桶狭間だからじゃない?」とのこと。

 なお、発現するレアスキルはブーストマークⅢ時の3種が<縮地><フェイズトランセンデンス><ルナティックトランサー>。ブーストマークⅨ時の9種が先の3種に加えて<ファンタズム><鷹の目><ヘリオスフィア><円環の御手><Z><この世の理>となっている。
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