アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~ 作:葉川柚介
「梨璃。レギオンを作りなさい」
「レ、レギオン……はい、お姉さま!」
そういうことになった。
それが梨璃の新たな使命である。
夢結とシュッツエンゲルの契りを交わし、初陣においても見事勝利を収めた梨璃。ウッキウキでお茶会に興じる彼女の顔はとろとろりんと弛みきり、その辺を二水にスッパ抜かれて全校的に「結梨様」とかいうカップル扱いをされる始末。
彼女が製作する、生徒会公認の判も眩い週刊リリィ新聞は既にして特級のゴシップ紙としての地位を確立し、そういうものが超大好きな年頃の女の子なリリィたちから絶大な支持を受けている。
多分、夢結が抗議したとしても撤回されないだろうほどに。
これではいけない。
なったばかりとはいえ、夢結は梨璃のシュッツエンゲル。梨璃のことを
このままゴシップにエサを供給するだけのリリィにしてはいけない。
緩んだ根性を叩きなおすためにも、難題の一つも課して気合を入れねばならぬのだ。
「……ところで、レギオンってなんですか?」
「えっ」
「そこからですかぁ!?」
対する梨璃のこの知識量。本気でいろいろと育てていかねばならないな、という決意を新たにするとともに、ちょうどいいところに出てきた結梨様なるカップル沙汰を引き起こした下手人を見つけたので利用することにしよう。
どうせ、夢結と梨璃のシュッツエンゲル成立をクソデカフォントの号外で周知した時と同じようにゴシップ集めの取材をしていたのだろうし。
「二川さん、説明してあげて」
「はい、喜んで! えーとですね、レギオンというのは9人一組を基本とするリリィの戦闘単位です!」
特に百合ヶ丘女学院で重視される、ノインヴェルト戦術。
その実施のため必須に近く、他の学園でも現代のリリィにとって必須と言えるチーム。それこそがレギオンである。
その重要性は言うに及ばず。
「言うなれば運命共同体。互いに頼り、互いにかばい合い、互いに助け合う。1人が9人のために。9人が1人のために。だからこそ戦場で生きられる。レギオンは姉妹。レギオンは家族なのよ」
「あっ、つかさ様!」
「徹頭徹尾ソロでリリィをしているつかさ様が言うと説得力がありますね」
「やめて夢結ちゃん! 猜疑に歪んだ暗い瞳でせせら嗤わないで!」
なんか変なことを宣いながら話に割り込んでくる常盤つかさでも知っているほどの常識である。
「まあ、話はよくわからないけどレギオンはいいものよ。百合ヶ丘女学院でリリィやるなら所属しておいて損はないわね」
「なるほど……じゃあ、私がんばって、お姉さまのレギオンを作りますね!」
「……えっ」
「私もお手伝いします! あの夢結様と梨璃ちゃんのレギオン……見逃せませんし!」
「えっ」
そうと知っては居ても立っても居られないのが一柳梨璃という少女。
憧れの人のためならえんやこら、9人の仲間集めの旅にさっそく突っ走っていくのであったとさ。
「……いい子ね、梨璃ちゃん。
「……言われるまでもありません。少し、話を聞かないのが玉に瑕ですが」
「そのセリフ、そのうちそっくりそのまま返されるわよ夢結ちゃん。コミュ障リリィなんて、平成過ぎるんだからそろそろ卒業しなさい」
「つかさ様の言うことは時々意味が分かりません」
梨璃が去ってから、代わって席についたつかさと言葉を交わす夢結。
その所作はどこかぎこちなく、いつの間にか紅茶を口に運ぶのも止まっていた。
白井夢結は、常盤つかさと知らない仲ではない。
話もするし、訓練に付き合ってもらったこともある。戦場を共にしたのも1度や2度ではない。
ちょっと思考がどこかへカッ飛んでいるのではと思うときはあるが、リリィとして尊敬に値する実力と精神を兼ね備えている人だと思う。
孤立気味な夢結のことを気にかけてくれている人のうちの一人でもある。
だがだからこそ、夢結はどうすればいいかわからない。
親しくしてもらっていたのは「2年前」までのこと。それ以来は、どうしても、余計な何かが心をよぎる。
つかさの顔を見るたびに、言葉を交わすたびに、夢結の心にはどうしても一人のリリィが浮かび上がってしまうのだから。
「……失礼します」
「ん。ああ、そうそう夢結ちゃん」
だから、夢結は席を立った。
それが逃げだと分かってはいるが、立ち向かえない。
そんな弱さが自分の中にあるなど、2年前まで思いもしなかった。
「今度、『墓参り』してもいい?」
「……ご自由に」
決然と身を翻し、夢結は食堂を去って行った。
◇◆◇
うーん、やっぱり夢結ちゃんとのお話は緊張するなあ。
私としては夢結ちゃんのこと嫌いじゃないわ! って感じだし夢結ちゃんから嫌われてもいないと思いたいけど、まあ昔色々あったからね。割り切れってのが無理な話か。
とはいえそれはそれ。過去のことは過去のこととして、とりあえず今の現実に目を向けよう。
夢結ちゃんのシルトである梨璃ちゃんがレギオンを作る。
もう6月で、主要なレギオンは既にめぼしい新入生を確保しているころだけど、百合ヶ丘女学院に入学できるような子たちはみんな優秀だから残ってる子たちでも十分やっていけるだろう。
この期に及んで既存のレギオンに入ることを選ばないくらい根性座った個性的な子たちを集められるなら、そりゃあもう立派な
「……ということで、つかさ様! お姉さまのレギオンに入ってくれませんか!?」
「そうきたかー」
とか思っていたら、さっそく新入生に勧誘されたでござるの巻。
いやまあ、確かに私はレギオン所属してないけども。
「たしかに良い手ですわね。常盤つかさ様といえば百合ヶ丘女学院でも屈指のリリィ。どこのレギオンに所属していないわけですし、とてもお買い得ですわ」
「はい! つかさ様は経験豊富で優秀なリリィですから、単純な戦力としてはもちろん連携や訓練でもご指導いただけると思います!」
うーん、期待が重い。
なんとなく梨璃ちゃんとの距離が無駄に近い気がする子は、楓・
でも、梨璃ちゃんを見るときの目が知り合いに似ている。アレは大分ヤバい女の目だ。
もう1人は二川二水ちゃん。
先日乱入したレストア戦のときに私のことを説明してくれたありがたい子。
梨璃ちゃんと夢結ちゃんのシュッツエンゲル結成を報じた週刊リリィ新聞なんてものも作ってるし、そのテのジャンルの話がとても好きなんだろう。
この子になら私が昔書いてたリリィ情報誌<LILYジャーナル>の後継者を任せられるわね。
ともあれ、レギオンへの参加かー。
「うん、いいよ」
「……でも、やっぱり無理ですよ梨璃さん。つかさ様はこれまで本当に一度もレギオンに参加したことがないんです。きっと深いお考えがあるからこうやってお誘いしてもえええええええええええええええ!? 入ってくれるんですか!?」
「入るよー」
「二水さんのノリツッコミが大分長くなってましたけど、滅茶苦茶あっさりしてますわね。なんでですの?」
二水ちゃんがめっちゃ驚いとる。
まあ確かに気持ちはわからなくもない。実際私、マジでこれまでレギオン参加してなかったし。
「いや別に、誘われたら入るよ? これまで、私自身がレギオン作ろうと思わなかったし、なぜか誰も誘ってくれなかっただけだし」
「……あっ」
「おいちょっと待ちなさい後輩。『あっ』てなによ『あっ』て」
目を反らすな楓ちゃん! ちくしょうユグドラシル……じゃなかったグランギニョル絶対に許さねえ!
「え、つかさ様、レギオンに誘われたことなかったんですか……? そういえば、シルトがいるって話も聞いたことないような……」
「それね。これまで気になった子とか将来有望な子とか放っておけない子がいたんでシュッツエンゲルになろうかって誘ってみたことはあるのよ? ちゃんと『袖が片方ないコート着て白夜を見に行こう』って誘ったのに……」
「……えーとですね、百合ヶ丘の先輩リリィに取材したところによると、まさにそんな感じで誘っていたのだそうです。つかさ様がまた何か新しい遊びを始めたのだろうと微笑ましく見守っていたようです」
ちなみに、気になった子たちは他にちゃんとしたリリィの子を紹介してシュッツエンゲルになってもらいました。結果として今でも元気にリリィしてるから別にいいんだけどさあ!
「ともあれ、レギオン入るよ。……でもごめん、メンバーは私以外で9人揃えてもらっていいかな。実は、百合ヶ丘を留守にすることが結構あって」
「そういえば、お姉さまを助けてくれたときもどこかから帰ってきたところだって百由様が言ってましたっけ」
「うん、それ。結構長いことリリィやってるせいか、色んなところに知り合いがいて、その伝手で他のガーデンから呼び出されること多くてさー。この前も東京のルドビコ女学院に呼ばれてたのよ。あそこ、デュエル戦術を重視してるからたまに呼び出されて特訓相手にされるの。今回もワンターンスリーキルゥとかしないといけなくて大変だったわー」
「は、はあ……? ワンターン……?」
<外征>という制度がある。
主に規模の大きなガーデンに所属するリリィが、他のガーデンへと出向くこと。
交流だったり訓練だったり、あるいは援軍だったりと理由は様々で、行先も目的も色々だ。
とはいえ、私はレギオンに属さないぼっちリリィなので、援軍としてではなく訓練の相手役として呼ばれることが多い。
その最中にヒュージが襲撃してきてなし崩し的に参戦することもよくあるけども。
そうやってしばき倒したヒュージも何体になるか。もう数えてないです。
「そんなわけで、私のことは追加戦士みたいに思ってもらえるかな。もちろん、百合ヶ丘にいるときはレギオンに参加するから」
「はい、よろしくお願いします!」
そんな感じでレギオン所属することになりました。
高校3年生にして、人生初。笑えよオイ。
とはいえ、これなら色々気になる夢結ちゃんたちの様子をうかがうこともできるだろう。
なんとなく、色々起きそうな気がするのよね。
……気になるのは、この前のレストア。ああいう変なのが出るときって妙なことが起きるもんだし。
◇◆◇
その後。
梨璃ちゃんたちは少し出遅れたもののレギオン結成のためのメンバー集めを続けた。
夢結ちゃんと梨璃ちゃんは中核メンバーとして、仲のいい二水ちゃんと楓ちゃん、そして面白がった工廠科のミリアムちゃんも入ってこれで私を除いて5人。
これであと4人揃ってリリィ戦隊レギオンジャーが完成する。
と思っていたら、さくっと話が進んだらしく同じく1年生の有望株、
なぜか、狙撃合戦したうえで。
「普通よ、普通。リリィってヒュージと戦うものだから。リリィ同士でも戦うことでしか分かり合えない! みたいになるのってよくあるの。最近はそういう頭平成なリリィも少なくなってきたんだけど」
「あ、頭平成……?」
とはいえともあれあと2人。こういう残り少しってなってくるとまた面倒なんだけど、だからこそ梨璃ちゃんには頑張っていただきたいところだ。
そういう段階を経てこそ、リリィの絆ってのは強くなっていく物だから。
◇◆◇
「で、今日は梨璃ちゃんの誕生日なわけでしょう?」
「あ、はい。そうです……」
「だっていうのに夢結ちゃんどっか出かけちゃってるんだからもー。こういうところあるわよねあの子」
後日。
朝から夢結ちゃん見かけないな、と思ったらなんか外出届を出してどこかへ出かけているらしいということが二水ちゃんの調べで分かった。
よりによって、梨璃ちゃんの誕生日に。
……多分だけど、そのことを知らないとか知ってて無視したとかじゃないと思う。
知った上で、梨璃ちゃんのために何かしてあげたくて、プレゼントとか用意しようとしてそれが全力で空回ってるんじゃないかな。そういう子なんだよねーあの子。
リリィとしては超絶一流なんだけど、それ以外の部分で必要な要素をどこかに落っことしてきちゃったタイプ。リリィも極まってくるとそんな感じになる子ってちょいちょいいるのよ。
……私は違うよ。本当だよ。
「ともあれ、お誕生日おめでとう。これ、知り合いの会長さんから贈られてきた梨璃ちゃんのバースデーケーキ。どうぞー」
「わ、すごくおいしそうなケーキ! ありがとうございます! ……あの、ところで知り合いの会長さんって……?」
「財団Bの支援を受けてるファウンデーションの会長さん。やたらめったら人の誕生日を祝うのが好きで、この前梨璃ちゃんのことを話したら勝手に誕生日まで調べたみたいで、今日いきなりこのケーキ送り付けてきたの」
「ええ……その方、大丈夫ですの?」
「大丈夫じゃないよ。大分ヤバい人。世界が滅んでる最中でも構わずハッピーバースデーの歌を歌いながらケーキ作りそうな感じ?」
いかん、つい正直に話したら梨璃ちゃんたちにドン引きされてる気がする!
まあでも仕方ないよね、財団B関連の人たちってマジで変な人たちばかりだし!
梨璃ちゃんたちも使ってるグングニルと同じユグドラシル製のCHARMも使ってるけど、なぜかそういう正統派なのとは違うタイプのヤツばっかだし!
……まあ、私はそういうヤツの方が使いやすいんだけど!!
「ともあれ、夢結ちゃんのことは気にしなくていいと思うよ。あの子のことだから、たぶん梨璃ちゃんへのプレゼントでも買いに行ってるんでしょ。そういう子だから、あの子」
「そうだったら、嬉しいです。……つかさ様は、夢結様と昔からお知り合いだったんですか?」
「私と夢結ちゃんは友達じゃないけど、私の友達と夢結ちゃんはシュッツエンゲルしてた、って感じかしら。……いや、あいつと私って友達だった……か?」
なんだかんだでいまこうして梨璃ちゃんと夢結ちゃんのレギオンでメンバー面してるけど、実は私と夢結ちゃんとの関係ってそんな感じなのよねー。縁があるんだかないんだか。
◇◆◇
そして、その日の夜。
「お姉さまが、私のためにラムネを……!」
「え、ええまあ」
梨璃ちゃんと夢結ちゃんは当然として、レギオンメンバーの二水ちゃん、楓ちゃん、ミリアムちゃん雨嘉ちゃん神琳ちゃんがいる。
あとなぜか夢結ちゃんの側に2年生の梅ちゃんと、梨璃ちゃんたちのクラスメートでもある鶴紗ちゃんが。なんだろう、梅ちゃんはともかく鶴沙ちゃんとも友達だったんだろうか。
「これ、正門のそばにある自販機のラムネですよね!」
「……………………ええ、そうよ」
「あ、やっぱり知ってたんだな、梨璃」
さて、どうやら色々がんばって梨璃ちゃんの誕生日プレゼントを用意しただろう夢結ちゃん。なんかめっちゃ疲れた顔してる。
こう、「灯台下暗し」という言葉の意味を魂で理解しました、みたいな?
「お休みの日によく買いに行くんです。あのラムネの自動販売機はつかさ様の要望で維持されてるらしくて、時々ご一緒します。……ラムネを買いに来るつかさ様は、なぜかいつも革のジャケットを羽織って帽子を被ってハーモニカを吹きながら現れるんですが」
「それがラムネを買うときの正装なのよ」
「正装ってなんじゃい」
そんなこんなの楽しい誕生日パーティーが開催されることと相成りました。
昼間にケーキを食べたんじゃないかって? リリィは訓練も実戦も厳しくて消費カロリー半端ないからセーフ!
「――あははっ、夢結も楽しくやってるみたいだな! じゃあ、せっかくだし梅も梨璃のレギオンに入れてくれ! 鶴紗も一緒だぞ!」
「はぐれ者だが、よろしく頼む」
「いやあの、だから私じゃなくてお姉さまのレギオンで……って、2人が!?」
「ということは……これで9人ですよ梨璃さん! つかさ様も合わせると10人ですけど!」
そして、梨璃ちゃんのレギオンが完成する。
百合ヶ丘女学院で、実力はあるくせにレギオンに所属しなかった3人。
そして新入生にして逆シュッツエンゲル要望出した梨璃ちゃん、リリィ新聞編集長の二水ちゃん、実戦十分の実力派にして梨璃ちゃんガチ勢の楓ちゃん。
自信はなさそうなんだけどその実やり手の雨嘉ちゃんに、なんか達観してる感があるけど多分怒らせたらヤバいタイプの神琳ちゃん。
更に、ちょっとぶっきらぼうで百合ヶ丘女学院では少ないタイプの、色白でお人形さんみたいな鶴紗ちゃん。
……うん、楽しいメンバーになってきた!
◇◆◇
「それじゃあ、レギオン結成のお祝いに私の持ってるCHARMあげよっか? 一杯あるよ!」
「つかさ様の持ってるヤツはどれもこれもヤバくて並のリリィじゃ使えないのでナシですわ」
「そんな! 大丈夫だよ!? 滅茶苦茶切れ味いいけどマギに過剰反応して喰いに行って資格者として認められないと暴走しちゃう、砥石的なパーツがセットの剣とか、地面に手を突っ込んで抜き出すと見た人が本能的な畏れを感じる斧とか、その程度だし!」
「十分すぎるほどヤバくないですか? もしかして、つかさ様のいるこのレギオンって相当……」
「しぇ、神琳! 多分そこは気にしちゃダメ……!」
常盤つかさ
百合ヶ丘女学院3年生。
所属レギオン:なし。
ポジション:レギオンに所属してないからこれもなし。
レアスキル:???
サブスキル:???
使用CHARM:財団B製の色々
かなり幼いころからリリィをしている現役最古参。結構強い。
実戦デビュー当初から謎のCHARMメーカー支援組織<財団B>に実力を見込まれ、試作装備の実戦テストを任されている。財団B製、とはいうが実際には財団Bが資金提供などによって技術を共有する企業群が作ったCHARM。
量産にこぎつけるものもあるが、なんか他のCHARMとあまりにも雰囲気が違うのであんまり使われないらしい。
戦闘能力や仲間への気遣いなど十分立派なリリィなのだが、時々周囲にはわけのわからないことをしゃべるので微妙に距離を置かれている。
ヒュージのいない平和な世界で、特撮大好きな女として生きてきた記憶を持っているリリィ。
そのことを人に語ったことはない。当人、特に気にしていないから。
財団B製のCHARMはその記憶にとても近いので素晴らしく使いやすいから情け容赦なく使っている。
リリィとしての戦闘方法はかつての記憶で見た財団B製CHARMっぽい武器を使っていたヒーローのそれに準じている。