アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~ 作:葉川柚介
レギオンの結成には、当然のこととして手続きが多い。
既定の書類にはメンバーたちの合意を示す指輪の印が必要となるし、その他学院への申請、政府への報告、契約書に誓約書に各人の戦力評価、行動指針、その他諸々で立ち上げ時に忙殺されるのは基本となる。
そんなレギオン創設作業だが、実は最も困難を極める作業は別にある。
私の知る限り、例外なく全てのレギオンにおいて最も時間がかかり、議論が紛糾する作業。
「レギオンの、名前……!」
そう、レギオン名の決定だ。
例えば、百合ヶ丘女学院のトップレギオンは壱盤隊や水夕会。
だがこの名前は中心メンバーの名前などから取ったあくまで通称。正式名称は別にある。
学院によって傾向は様々だが、百合ヶ丘女学院の場合は北欧神話由来の名前が使われる。
先の例で言うと、壱盤隊は<アールヴヘイム>、水夕会は<レギンレイヴ>が対外的にも使われる正式な部隊名だ。
このカッコいい名前を決めるにあたってはレギオンメンバーどうしの個性と趣味と中二魂がぶつかり合う。
議論が紛糾して夜通し激論が交わされることは基本。決定手段としてデュエルが行われることもあるという。
「そのくらい大変なのよ。……あ、ちなみに私も候補考えてきたよ! <ヘルヘイム>と<ヨドンヘイム>でエントリーするね!」
「それは問答無用で却下します」
「夢結ちゃんひどい!」
なお、部隊名の通称は発起人である梨璃ちゃんの名前から<一柳隊>、正式名は<ラーズグリーズ>になりました。一度死んだあと英雄としてよみがえりそう。
◇◆◇
「一柳隊。……お姉さまの部隊なのに」
「実際の所、設立に動いたのは梨璃さんですから。対外的には実質梨璃さんのレギオンですよ」
レギオンには、楽屋というか控室というか部室というかたまり場として部屋が与えられる。
百合ヶ丘女学院に正式に認められた新設レギオンたる一柳隊にも当然部屋が与えられ、カーペットやらソファやらテーブルやらがおしゃれに整った部屋にリリィが集う。
今日は設立のお祝いということで、ドーナツを買い込んでのお茶会だ。
「つかさ様はドーナツどれにします? かわいいデコレーションされてるのもたくさんありますよ」
「ありがとう
「つかさ様、ドーナツは絶対それしか食べないよなー」
吉村・Thi・
でも、甘いもの食べてるとしょっぱいものとかすっぱいものとかも食べたくなるね。
「ということで。ちゅるちゅる」
「……何食べてるんですか、つかさ様? というかどっから出したんです」
「もずく酢。おいしいよ、食べる?」
「…………遠慮します。なんか、感触が苦手で」
なんかすごーく微妙な表情をしたのは、
金色の髪と白い肌がきれいな子だ。百合ヶ丘女学院スタンダードなお嬢様感が薄く、なんとなく親しみを感じる子だ。
でももずくは嫌いかー。残念。なんとなくそうじゃないかなとは思ったんだけどね、なぜか。
「と、とにかく! こうしてメンバーが揃ったわけですから、ノインヴェルト戦術ができますよ!」
「頭数が揃った、ってだけじゃろ。諸々訓練が必要じゃよ」
「ノインヴェルト……? たしか、この前もらった……」
イマイチなんの話か分かっていない感のある梨璃ちゃんだったが、ポケットをごそごそして封をされた金属筒を取り出した。
指より一回り太く、手のひらに乗せれば端がはみ出る程度の長さ。
それこそが、ノインヴェルト戦術の要となる特殊弾だ。
「扱い気をつけろよー、梨璃。それめちゃくちゃ高いらしいからな」
梅ちゃんが気楽に言い、梨璃ちゃんがびっくりして取り落としかける。
大丈夫だよ、梨璃ちゃん。貴重なのは確かだけど、実戦で使うものだからそんなにヤワじゃないから。
「ノインヴェルトっていうのは
「……つかさ様、なんか変な説明しませんでした?」
「意味は正しいはずなのに、何か雑念を感じるというかなんというか」
元々、リリィの戦闘はヒュージとのタイマン、デュエル戦術が基本だった。
……相手が小型だろうがラージ級だろうがギガント級だろうが、ね。
それが改められたのが割と最近。百合ヶ丘女学院の先代アールヴヘイムが集団戦闘、並びに必殺のノインヴェルト戦術の運用ノウハウを蓄積してその情報が各ガーデンに共有されて今に至っている。
あの頃は被害もヤバかったのよねー。ぶっちゃけ、私も何回か心臓止まるレベルで死にかけた。
「ちなみに、ノインヴェルト戦術用の弾はこんなのもあるよ」
「え、大きい……なんですかそれ。ラグビーボール……?」
なお、私もその辺の初期研究に協力していた。
これはそんな時期に提供されたノインヴェルト戦術用の試作弾だ。
小型化前のものなのでラグビーボールのような形をした爆弾型をしている。
9人揃わなくとも5人で、それもCHARMを介さなくても蹴り飛ばせばマギを込められるという仕様になっているのだが、嵩張るしそもそもCHARMなしで戦うようなリリィはそうそういないので無駄ということになりこの仕様はお蔵入りとされた。
……じゃあなんで持ってるかって? 使う機会もなかったから死蔵されてたんだよ!
「私たちに、できるのかな……」
「できるわ、いずれ。チームワークが必要な戦術だから、すぐにというわけにはいかないだろうけど」
雨嘉ちゃんと神琳ちゃんが感慨深げにつぶやいている。
ヒュージという脅威を、簡単ではないものの一撃で葬り去るという切り札の存在、アルトナイトでは大きく違う。
「そうそう、練習あるのみよ。ノインヴェルト戦術の本体ともいえるマギスフィアにはパス回しに参加するリリィのマギに影響されるから互いの性質を把握することが重要なの。つまり、パーフェクトハーモニー。完全調和よ」
「完全調和……! がんばりましょうね、お姉さま!」
「ええそうね、梨璃」
「でもつかさ様、前にG.E.H.E.N.A.絡みの面倒ごとに巻き込まれて機嫌悪かった時に『パーフェクトもハーモニーもないんだよ……!』って言ってたぞー」
「それ、多分梨璃には言わないほうがいいですよ」
おい聞こえてるぞ梅ちゃん鶴紗ちゃん。
人間だれしもヤサグレる時期くらいあるしいいじゃん!
◇◆◇
そんなレギオン結成記念お茶会の数日後。
一柳隊がレギオンとして本格稼働するためにも訓練その他が必要になるのだが、目指すべき姿をはっきり思い描いた方がいいということになり、夢結ちゃんがこっそり張りきった結果。
「私たちの戦闘を見学するのなら、特等席からでないと。割と見晴らしいいでしょ、ここ」
「まさか、あの夢結がシルトのために私たちの所へお願いしに来るなんて、変わったものねえ」
なんと、百合ヶ丘でもトップのレギオンであるアールヴヘイムの戦闘を見学できることとなった。
オシャレな椅子とテーブル、巨大なパラソル。
フルーツも色とりどりのサイダーを手に手に、まるでうららかな午後のお茶会のような支度を万端整えてはいるがその実、ここはヒュージ襲来の際には最後方とはいえ戦場になる。緊張感を忘れてはならない。
「……ところでつかさ様、なにしてるんですか?」
「え、農作業?」
まあ、私は畑仕事してるんだけどね!
……いや待って欲しい。訳を聞いて欲しい。別に、伊達や酔狂やボケでこんなことをしているわけじゃないんだ。
「ここら辺、私の家庭菜園なのよ。今はネギが食べごろだし、ヒュージが来る前に収穫しちゃおうかなって。吹っ飛ばされたらイヤだし」
「そもそも、なんでこんなところでネギ育ててるんですか……?」
緑の葉に沿って鍬で土を削ると、真っ白な根深ネギが姿を見せる。
薬味によし、そのまま食べてよし、実にいい出来だ。
趣味で家庭菜園的なことを始めたのはリリィになったのと同じころ。なんだかんだで荒廃している地域も多いこの世界、手軽に美味しい野菜を食べたくなったら自分で作るのが一番手っ取り早いまであるから困る。
まあ、そのおかげで結構楽しんでたりもするんだけどね、私。土いじり、結構好き。
「しかも、制服のスカートの下にジャージを履いて……生徒会に見つかったら怒られますよ?」
「大丈夫! そういうときは即座に
「そういう問題ではありません」
鍬をその辺の地面に突き立て、収穫したネギをバサバサと束ねていく。うん、食堂に持ち込んで料理してもらおう。今夜はネギ尽くしもいいかもね! みんなもおすそ分け食べて行って!
「……お話はそこまでよ。来たわ」
「じゃあ、行ってくるわね。でも、ノインヴェルト戦術を使うまでもなく終わっちゃったらごめんなさい」
鎌倉の海をざわめかせて、ヒュージの気配が近づいてくる。
そのことに気付けないアールヴヘイムではなく、ヒュージ接近警報の鐘が鳴るより早く動き出した。
手に手にCHARMを持って、ヒュージの予想進行経路上にフォーメーション通りの配置で展開する。
これを自然となせるということこそレギオンという戦術単位の基本。それを見られただけでも、今回の見学は価値があったと言えるだろう。
今回のヒュージは、かなりの巨体だ。
形としては鎖のような細かいパーツの連結した触腕が漏斗から生えた、とでも形容すべき姿で、サイズもそこらで朽ちているビルの残骸に匹敵する。
区分で言うなら、おそらくギガント級。これより上のランクはヒュージネストの主であるアルトラ級しか存在しない。
だが、アールヴヘイムなら十分対抗しうる。
それだけの実績が、あの子たちにはある。
はずだったんだけど。
◇◆◇
「こいつっ! リリィ慣れしてる!?」
「また!? またレストアなの!?」
「押されてるな」
「リリィを、天敵を恐れていないわね、あのヒュージ」
サイズ、重量、攻撃能力。
それらはいずれもギガント級ヒュージの範囲を逸脱するものではない。
違いがあるとすれば、動きの一つ一つ。人で言うところの立ち回り。それが上手い。
振り回す触腕による攻撃に恐怖による無理はなく、殺意だけの無鉄砲もなく、勝利に向かって積み上げられる理があった。あれは、ただのヒュージに持ちうるものではない。まず間違いなくレストアだ。
「――私たちアールヴヘイムは、これよりヒュージにノインヴェルト戦術を仕掛ける!!」
だから、対抗手段としてノインヴェルト戦術による有無を言わせぬ一気呵成の必殺を期すのは適切な戦術判断だ。
打ち出されたマギスフィアはヒュージを取り巻いて展開したリリィたちの間で速やかに回され、9人分のマギを取り込んで。
「不肖、
最後の一撃、フィニッシュショット。
ギガント級ヒュージは巨体と破壊力と引き換えに俊敏な動きとは縁遠い。それこそがノインヴェルト戦術を対ヒュージ戦線における最大の切り札足らしめている弱点であり、今日も高速で飛翔するマギスフィアはヒュージにとって回避しようのない必殺の一撃となり。
――ギィン!!
「なっ……!?」
「ノインヴェルトを、止めた……?」
バリア、だと……?
見学していた一柳隊のメンバーにも驚愕が走る異常事態。
ヒュージが展開したバリアが、マギスフィアを受け止めた。こんなの、私も見たことないわよ……!?
とはいえ、最終的にマギスフィアはアールヴヘイムの主力である天野天葉ちゃんが無理矢理叩き込んでヒュージに直撃させた。
……でも、まだ仕留めてないわね、アレ。バリアによる減衰が大分威力を落としてる。ギガント級相手じゃさすがに倒せてないと思う。
「くっ……! 残念ですが、ノインヴェルト戦術の反動でCHARMが限界です。アールヴヘイムは撤退します!」
そして、ノインヴェルト戦術を使うということはリリィ側にとっても後がなくなる、ということに他ならない。
ヒュージを一撃で葬るだけのマギを練り上げる過程でCHARMに蓄積するダメージも並ではなく、事実無理をした天葉ちゃんのCHARMは最後の一撃で砕け散った。
アールヴヘイムのように強力なリリィ揃いのレギオンだとノインヴェルト戦術は威力と共にリスクもまた大きくなるせいだ。
「どういたしましょうか、アレ。ヒュージ、まだ動いてますわよ」
「アールヴヘイムのノインヴェルトでも仕損じた、ヒュージ……」
この場に展開しているのは一柳隊のみ。
あくまで見学のためにいるだけだから後詰のレギオンは用意もあるだろうけれど、即応可能かどうかはわからない。
そして私たちは数こそ揃っているものの結成したばかりのレギオン。アールヴヘイムと互角以上に渡り合ったヒュージを相手に戦えるかと言えば、疑問だ。
「……行きます! ヒュージがいるのに、黙って見ているなんてできません!」
「梨璃ちゃんのそういうところ、私は好きよ」
「! わたくしの方が好きですわ! 超好きですわ!!」
「張り合わないで、楓ちゃん」
そこで躊躇わず立ち向かうことを選べる辺り、梨璃ちゃんはリリィ歴こそ浅いもののとてもいい資質を持っていると思う。
かつての生で私が憧れたみんなも、そういう魂を持っていた。
私もそうありたいとかつて、そして今度も思った。
だから、戦おうじゃないの!!
「よっし、今日はこれだ!」\解き放て、オーブの力!/
「つかさ様、そのCHARM変形機能ついてないのかー? 射撃は私がフォローしようか」
「大丈夫、弾は撃てないけどビームは出るから!」
「なに言ってるのかちょっとわかりませんわ」
◇◆◇
「まさか、ノインヴェルトが無効化される日がこようとはな」
「――状況の確認が取れました。アールヴヘイムに人的被害なし。ですがCHARMは半壊6に全損が1。しばらくはレギオンとしての活動ができなくなります」
百合ヶ丘女学院の校舎は山肌に建てられている。
学校としては特別異常な立地でもないが、リリィの育成と保護、そして対ヒュージ戦闘の拠点たることを旨とする為、その立地には別の意味合いもある。
すなわち、戦況の俯瞰。
校舎の高層、鎌倉の街を一望できる位置に据えられた理事長室はこういったときに高所から戦場を直接視認して状況把握と指揮を下すという使命もあった。
だからこそ、この部屋には二人の人物がいる。
一人は生徒会に所属する3年生、
もう一人は百合ヶ丘女学院では極めて珍しい高齢の男性、理事長代行の
「リリィの身が無事ならばなんとでもなる。……バックアップは?」
「アールヴヘイムの撤退で少々の動揺が見られますが、現在急ぎ編成中です。直接戦闘は見学中だった新設レギオン、一柳隊が引き継いだようです」
眼下に戦場を見下ろしながら、咬月の表情に揺らぎはない。
リリィたちを守り育てるガーデンの長たる者として戦場で動揺しないことは当然であり、さらに言えば彼は対ヒュージ戦の最前線に立ち続けてきた戦士。それはいまも変わっていない。
「一柳隊……たしか正式名はラーズグリーズ。レギオンとして稼働しているのか?」
「メンバー全員、一応の実戦経験はありますがレギオンとしてはこれが初陣になります。準備不足は否めませんから、まだ機能していないでしょう。ですが個性派な実力者が多いので、時間稼ぎに徹してくれればなんとかなるかと。……つかさ様とかいますし」
「…………常盤くんか」
そんな歴戦の勇士、咬月と百合ヶ丘女学院全リリィに責任を持つ生徒会長、出江が渋い顔をするリリィ、常盤つかさ。
アールヴヘイムなどの有力レギオンとは性質が異なるが、単騎での外征任務なども受け持ってくれる、最強というよりは規格外のリリィ。
対ヒュージ戦において頼りになることといえば無類であり、何やらかすかわからない度でいえば世界レベルでぶっちぎり。そういうリリィだった。
そんなつかさがはじめて所属するレギオン。
白井夢結、吉村・Thi・梅といった優秀なメンバーが所属していることを差し引いて考えても、何が起こるか全く想像がつかない、というのが本音だった。
「……見守るとしよう。これも彼女らのレギオンを成長させる試練になる。後詰だけは準備を」
「はい、手配します」
結果、とりあえず任せてみるというのが常なのだった。
◇◆◇
「いくわよ、梨璃! タイミングを合わせて!」
「は、はいっ!」
瓦礫を足場に飛び回り、ヒュージへと接近する夢結と梨璃。
レギオンの仲間たちは周囲に展開して射撃で牽制してくれている。結果、3本の触腕は梨璃たちを捕捉していない。本体まで、がら空きだ。
「おりゃー、くらえー!」
つかさは今回もガンガンに攻めている。
使っているCHARMは前回とも違っていて、鍔の部分が刀身と柄に沿う巨大な円盤になったような形の剣。
円盤部分を回すたびに土とか火とか水とか風とかの属性の攻撃を放っている。
どうやら変形機構はないようだが、「弾が撃てなくても剣からビームが出せればいいんじゃね?」的な意図が透けて見える。
ともあれ、みんなが作ってくれたチャンスは生かさなければならない。
梨璃は夢結と呼吸を合わせて飛び出し、ヒュージへ迫る。
「はああああああああ!!」
「ええええええええい!!」
斬撃は、2振りで1度ずつ。
回避も防御も全て封じられたヒュージの本体に直撃し、その巨体をほとんど真っ二つにまで切り裂いた。
「よしやったな! ……って、ん?」
切り裂きざまに通り過ぎ、着地した地点にはレギオンの仲間たちが揃っていてくれた。
振り向けば、そこには致命傷に近いダメージを追ったヒュージがいる。
だが、そこには。
「光……? まさか、CHARM!?」
真っ二つに裂けたヒュージは、その根本近くが繋がったままになっている。
その、辛うじてつながっている部分に光が見える。
青く、強く、そしてリリィの心に響く色。
CHARMのコアクリスタルの、輝きだ。
「あの形……もしかして、ダインスレイフ?」
それは、一世代前ながら高い威力と信頼性で人気の第2世代CHARM。
先日のレストアのように、リリィとの戦闘を生き延びたヒュージであればたしかに突き刺さっていても不思議はない。
しかし、それは。
「あれ……私の……?」
白井夢結にとって、決して忘れられないものだった。
記憶が、心が過去へと連れ去られる。
2年という月日の重み。
シュッツエンゲルとシルト。
夜、甲州撤退戦。
ヒュージ、CHARM、そして川添美鈴。
夢結にとっての、大切な人。
夜の冷たさが混じった風と手にしたCHARMの重さ。
闇の中に月光を弾くヒュージの装甲。
美鈴の匂いと血の匂い。
よく知る温かさと知らない生暖かさとそれらが失われていく絶望に指一本動かない。
息すらまともにできない。
怖い。怖い。失ってしまう。
「お姉さま、危ない!!」
目の前で、梨璃が戦っている。
呆然とした夢結を守るためにヒュージへと立ち向かい、空中で迫りくる触腕を弾く、弾く、囲まれる。
梨璃は、どうなった?
ヒュージにやられた……?
また、あの日のように。
失わせるヒュージが、憎い。
記憶と感情が、かつて使っていた、失われたCHARMを目の当たりにして蘇る。
「――――!!!!!!」
ルナティックトランサー、起動。
復讐と憎悪の乙女が、咲く。
財団B
常盤つかさを支援する財団。
現在主流となっているものとはなんかあからさまに違う試作CHARMの数々を実戦テスト用と称して提供している。
実際にCHARMを製作しているわけではなく、メーカーに対して資金援助と技術共有をして、その成果をフィードバックすることを目的としている。
ただ、どういう経緯で設立されたのか、資金源がどうなっているのか、などなどさっぱり不明なの秘密結社扱いされている。つかさもその辺全く把握していない。
財団Bが支援しているメーカーは、「スマートブレイン」「BOARD」「猛士」「鴻上ファウンデーション」「ユグドラシル社(の、中でも飛び切りマッドなプロフェッサーがいる部署)」などなど。
その他個人レベルの骨董品屋、時計屋なども支援している。
本拠地は静岡にあり、ヒュージに襲撃された際に備えて地下に巨大人型機動CHARMが隠されているともっぱらの噂。