アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~   作:葉川柚介

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マギクリスタルを舐めるとちょっと甘い、とかいう噂を広めているリリィがいるらしい

 戦場において、十分な視界が確保された状態というのは贅沢品だ。

 リリィが持つレアスキルのうち、俯瞰視点を確保する<鷹の目>や正確な位置関係を把握する<天の秤目>を持つなら話は別だが、そうでなければ障害物に、土煙に遮られて何が起きているかわからない、ということも多々ある。

 

「お姉さま! お姉さまー!」

「よくは見えませんけど、ルナティックトランサーで戦っているようです。速いし、強い……けどめちゃくちゃです」

「あんなもん、近づいたらわしらまで斬られるぞ!」

 

 空気が震え、閃光が煙の中に散る。

 ギガント級ヒュージがいるだろう辺りに今も残る夢結ちゃんの戦闘は、見えはしなくともはっきりと感じられた。

 

 おそらく、梨璃ちゃんのピンチを目の当たりにしてルナティックトランサーが発動してしまったのだろう。

 幸い梨璃ちゃん自身は梅ちゃんがレアスキル<縮地>の高速移動で助けてくれたけど、多分夢結ちゃんはそのことをわかっていない。

 そして、ルナティックトランサー中のリリィに話は通じない。もし梨璃ちゃんが目の前に飛び出しても無言で斬り捨てるだろう。

 

 ああなってしまったリリィを元に戻す方法は3つ。

 疲れて動けなくなるまで放っておくか。

 殴ってでも止めるか。

 財団B謹製のルナティックトランサー制御アイテムを使うか、だ。

 

「梨璃ちゃん、またこれ行っとく?」\ドォン! ドォン!/

「え、その音前回と違う。まさか、タンク……!? い、いえ今回は私が助けます! だって私は、お姉さまのシルトですから!」

 

 そしてそれ以外の奇跡にも似た選択が、「リリィの絆の力に賭ける」という方法だった。

 ……かわいくて肝が据わってるのね! 嫌いじゃないわ! 嫌いじゃないわ!

 

「いま行きます、お姉さま!」

「あ、ちょっ、梨璃さん!? ……あー、もう仕方ありませんわね! みなさん、わたくしたちはヒュージを抑えましょう!」

「オッケー楓ちゃん。梨璃ちゃーん、ヤバそうだったら言ってねー。ルナティックトランサー抑える本貸してあげるから!」\エーレーメンタル、ドラ、ゴーン!/

 

 そして、梨璃ちゃんは迷わず飛び込んでいく。

 夢結ちゃんの前へ、戦場の只中へ。

 

 

「お姉さま! しっかりしてください! ……でないとつかさ様がまたあのボトルを!」

「あああああああああああ!!」

 

 梨璃ちゃん決死の呼びかけも、夢結ちゃんの心へは届いていない。

 通常のルナティックトランサーは、マギの力を暴走させて絶大な戦闘能力の底上げしながらも精神を保った状態で戦うものだ。

 だけど、夢結ちゃんは融合係数が高すぎる。精神までマギに飲み込まれた狂乱は、自分のシルトのことさえ認識できない。

 だからヒュージに対していたのと全く変わらず、梨璃ちゃんにまでもCHARMを振るう。

 

 だが、梨璃ちゃんはそれを受けることができている。

 

 その理由は、おそらく梨璃ちゃんと夢結ちゃんの特訓の賜物だろう。

 シュッツエンゲルとして、梨璃ちゃんの訓練に何度となく付き合っていた夢結ちゃん。

 梨璃ちゃんはリリィとして成長しているし、夢結ちゃんの動きは目に焼き付いている。だからこそ、お世辞にも互角とは言えないが傷を負わずに戦えている。

 

「お姉様! 正気に戻って! これ以上傷ついたら……っきゃあ!?」

 

 でも、長く続くものではない。

 絶対的な技量の差は覆ることなく、数合の打ち合いの後、最初に限界を迎えたのは梨璃ちゃんではなく、グングニルだった。

 

「なっ、梨璃さんのCHARMが!」

「折れたァ!?」

 

 私だって思わず声を上げもする。

 夢結ちゃんのブリューナクと打ち合った梨璃ちゃんのグングニルが、折れた。

 あれは、ヤバい。リリィがヒュージと戦えるのはマギを扱えるからで、マギを扱えるのはCHARMを持っているからだ。

 正確にはCHARMに内蔵されているコアクリスタルの力なんだけど、どちらにせよCHARMがへし折れた状態で変わらず能力を発揮できる理由はない。

 

 梨璃ちゃんの位置は、ヒュージにも近い上に夢結ちゃんの間合い。CHARMなしでいていい時間なんて1秒もない。

 ……ああもう、しょうがない!

 

「梨璃ちゃん! これ使って!!」

「きゃっ! ……え、これ、つかさ様の!?」

 

 あからさまに梨璃ちゃんの首を狙っていた夢結ちゃんのブリューナクめがけて、私はCHARMをぶん投げた。

 狙いは違わずブリューナクと激突。弾き飛ばして夢結ちゃんもたたらを踏んで後ずさる。

 あとには、梨璃ちゃんの目の前に突き立つ私のCHARM。

 

 本来、CHARMはリリィの分身、専用装備の類だ。

 他のリリィと交換して使えるなんてものじゃない。

 でも今はそんなこと言ってる場合じゃないし、なにより。

 

「大丈夫、梨璃ちゃんなら使える! ……ラムネが大好きな梨璃ちゃんなら!」

 

「……CHARMってそういうものでしたっけ」

「さ、さあ……?」

 

 周囲を旋回しながら狙ってくるヒュージの触腕を銃撃で牽制しながら、神琳ちゃんと雨嘉ちゃんがなんか言ってるけど周りがうるさくて聞こえないなー。

 

「あ、ありがとうございます、がんばります! ……って、つかさ様はどうするんですか!? さっそくヒュージの触手が!」

「大丈夫! ふんっ!」

 

 心配しないで、梨璃ちゃん。小賢しくも後ろから狙ってきてるのはわかってるから。

 そこまで読んで、考えた上で私はここに降り立った。

 

 震脚一発、大地を揺らし。

 バンッ、と音を立てて浮き上がったのは、もしかするとCHARMよりも頼りになる、大きく重く、丸いあいつ。

 

「うおりゃあ!」

 

 それを空中で掴み、盾としてヒュージの触手にブチ当てる。

 力加減と角度と速度、うまいこと揃えば一撃を逸らす程度はたやすいことだ。

 

「……すみません、梅様。いま、つかさ様がマンホールの蓋でヒュージの攻撃を弾いたように見えたのですが」

「気にするな! つかさ様はちょいちょいやる!」

「やるんですの!? あれを!? わたくしが自分の正気をちょっと疑ったようなことをちょいちょい!?」

 

「と、とりあえず大丈夫なんですね……? じゃあ、ちょっとここをお願いします! 私はお姉様をなんとかしてきます!」

「うん、よろしく!」

 

 いやあ、マンホールの蓋は万能でしたね。

 これまでも、ヒュージの攻撃を何度となく防いでくれた私の頼れる相棒は今日も絶好調だ。

 重いし邪魔だからすぐ捨てるけど。なあに、マンホールの蓋なんてそこら中にあるから使い放題よ。

 梨璃ちゃんはなんか大人しくなった夢結ちゃんを抱えて後方に下がったし、たぶんそのうち正気に戻してくれることだろう。夢結ちゃん、ああ見えて大概ちょろいし。

 

 

「い、いやいやそれでもダメじゃろつかさ様! 攻撃手段もないならさっさと下がってもらわんと……!」

「いいえ、大丈夫! たとえCHARMがなくても、ヒュージを倒せるはず! 私に……リリィの資格があるなら!」

 

「いや、CHARM手放した時点でリリィ失格なんですけど」

 

 えぇいうるさいぞダディヤナチャン! ……じゃなかった鶴紗ちゃん!

 リリィってのはCHARMを持つ人じゃなくてヒュージと戦って人々を守る戦士のこと! だからCHARMなんてなくてもできるっちゃできるのよ!

 

 ……こんな風にね!

 

「はぁぁぁぁぁ……!」

 

 両手を広げ、腰を落とす。

 目の前には、巨大なヒュージ。触手の攻撃は、何かを察した一柳隊が引きつけてくれている。

 つまり、好機。叩くは今だ。

 

 体の中をマギが巡るのを感じる。

 気息に混ぜて整えれば、その力は熱く熱く、右足へと集中していく。

 ――いける。

 

「はあああああああ!」

 

 疾駆。

 目指すはヒュージ。狙うは胴体。

 一歩ごとに燃えるような滾りが唸る足先に、持ち得る全ての力を込めて!

 

 跳躍。

 回転。

 

「おりゃあああああああああああ!!!」

――!?!?!?!?!?!?

 

 放った一撃は、蹴り。

 ヒュージの本体に直撃した瞬間、巨大な爆発が巻き起こり、一気に数十mを吹き飛ばす。

 

「ええええええええええ!?」

「徒手空拳でなにしてますのつかさ様」

 

 なんか二水ちゃんと楓ちゃん辺りが言ってる気がするけど気にしない! シュタッと着地。

 

「ちっ、まだ動いてるとは……コアには届かなかったか」

「いやいや、ヒュージの本体が半分近く吹っ飛んでるじゃないですかどうなってんですそれ」

 

 ヒュージの身体が裂けていたことが災いした。

 私のキックはダメージこそ与えたものの、もう片方の半身には届かなかったらしい。結果としていまだ健在、触手もうねうね動いている。

 

「って、うわあ! こっち狙ってきた!」

 

「それはまあ、あれだけのことをすれば狙われるのは致し方ないかと」

「神琳、援護しないとっ」

 

 

「ええい、こうなったら……ふんぬらばっ!」

 

 触手がこちらを狙うこと、2度3度。

 しゅぱぱっとステップして避けているけども、こいつ完全に私を狙ってやがる。

 それはそれで一柳隊のみんなが安全になるからいいんだけど、CHARMを梨璃ちゃんに渡した素手でというのはさすがにキツい。

 ……ので、武器を調達することにした。

 そこらの廃ビルの壁を張っていた、おそらくなんぞの配管の成れの果てを引っこ抜き、構える。

 

「いやいやいや、いくらなんでも鉄パイプでヒュージの相手は……!」

「せいっ!」

「なんか鉄パイプがロッドに変わったー!?」

「心なしかつかさ様の目の色が青くなった気がするんじゃが!?」

 

 そして、鉄パイプがロッドに変わる。

 これもまた、ある種のCHARM。ヒュージの触腕を薙ぎ、打ち払い、まっすぐに突けばはね飛ばす。

 ついでに、さっきまでは紙一重でかわしていた相手の触腕の叩きつけは裏まで回り込む勢いで回避して、飛び上がれば真上を取ることもたやすい。そういう武器なのよ、これ。

 

「あれ……まさか、アルケミートレース?」

「んー? 知ってるのか、鶴紗?」

「マギクリスタルさえあれば、血を媒介にして擬似CHARMを作ることができるスキル。……いや、マギクリスタル持ってないっぽいけど。血でもないけど。なんなんだ一体……」

「つかさ様のやることは気にしないのが正気を保つコツだゾ」

 

 うーん、でもイマイチ埒が明かないな。

 このロッド、機動力は上がるし使いやすいんだけどどうしても決定的な攻撃力はない。

 その辺は一柳隊のみんなに任せるという手もあるんだけど……やっぱり私ももうちょっと暴れたいなー!

 そのためにはアレが、アレさえあれば……あったな、そういえば!

 

「二水ちゃーーん! ごめん、ちょっとそこにある『ソレ』こっちに投げてー!」

「えっ!? は、はいつかさ様! そ、ソレって…………え?」

 

 後方でレアスキル<鷹の目>を使って戦況を俯瞰して指示を出してくれていた二水ちゃんに頼む。ちょうどいい、そこに「アレ」がある! だからちょっとこっちにちょうだい!

 

 

◇◆◇

 

 

 なんだかわからない、というのが二川二水の正直な感想だった。

 二水はリリィが好きだ。どのくらい好きかと言うと、百合ヶ丘女学院で日々起きるあれこれを週刊リリィ新聞としてまとめて刊行するくらいだ。だから、つかさのことも入学前から知っていた。

 経験豊富、武勇絶倫。それでいて奇妙なCHARMを普通に使い、味方からすら変な目で見られる極めて珍しいタイプのリリィである、と。

 

 だが、これほどとは。

 CHARMなしでヒュージに蹴りをかまし、そこらに落ちていた棒をCHARM化する。いずれの場合でも戦闘能力は尋常ではない。極めて強い。

 だからきっと、「ソレ」とやらを投げてよこしてくれというその言葉にも意味があるのだろう。多分。

 二水の常識に照らし合わせると、どーーー考えても意味のあることとは思えないが。

 

 しかし、信じる以外に道はない。

 正気こそ取り戻したとはいえ、夢結と梨璃が戦線離脱中。戦力的な余裕などありはしないのいだから、戦えるようになる、というのなら信じるしかない。

 

 なので。

 二水は足元に積み上げられていた「ソレ」を1本掴み、振りかぶる。つかさの口ぶりからして、これのことを言っているとしか思えない。

 リリィの腕力はマギによって強化される。少女の細腕とはいえ、数十メートル先へ遠投する程度のことはたやすい。まして二水のレアスキルは<鷹の目>。位置関係の把握も十分ならば、外す道理もありはせず。

 

 放り投げたそれは戦場の空に弧を描き、ゆるく回転しながらつかさの元へ。

 

「っしゃあ! これなら斬り倒せるわよ!」

 

 それを認めたつかさはヒュージの腕を足場に蹴り飛ばしながら飛びあがって掴み取り、雄々しく振りかざした。

 二水の手により届けられた。

 

 

 

 

 ネギを。

 

 

 

 

「………………つかさ様?」

 

 ツッコミどころに迷うような鶴紗の戸惑う声。

 ヒュージとの戦場で、ネギを構えるリリィがいる。

 そんなことを宣えば、まず医務室行きを薦められるのは疑いない。

 最悪、いつの間にかG.E.H.E.N.A.に強化された(ナニカサレタヨウダ)と疑われてしまいかねない。そのくらいトチ狂った話である。

 

 たしかに、つかさは先ほど鉄パイプを擬似CHARMへと変化させて見せた。

 だから今回も似たようなことが……と納得しようと努める一柳隊の面々。

 しかし、失敗した。ネギが武器になるとかねーよそもそもカテゴリなんやねん。そんな気がしてならない。

 

「っ! つかさ様、ヒュージの触腕が!!」

 

 リリィ達の戸惑い(なお、元凶は同じリリィ)もどこ吹く風、ヒュージは構わずつかさを薙ぎ払うべく触腕を振るう。

 いくつものパーツが連なった鎖のような形状は、一つ一つのパーツが関節として振る舞い、加速と遠心力で先端部の破壊力を絶大なものとする。地を這うように飛んでくる、音速にすら迫るその一撃は万全のCHARMを持った熟達のリリィであったとしても回避がかなうかどうか。

 本来のCHARMを梨璃に貸した状態の、ネギしか持ってない状態ではひとたまりもない。

 

 

 はずだった。

 

 

――斬!

 

 

 それは、全てのリリィにとって手本となるような一閃だった。

 脱力と全力の間に、踏み込みと旋転と太刀筋とが完全に噛み合った。

 訓練の一環として素振りをするならば、この動きをこそ手本としてなぞるべきと誰もが称賛するだろう動きにて、振るう。

 ネギを。

 なぜかネギを。

 

 そして、切り裂かれるヒュージの触腕。

 踏み込みで打点を外された状態で斬られて宙に舞う。

 積み重ねられた加速は斬り捨てられてなお消えることはなく、ほとんど一直線にすっ飛んで激突した廃ビルを瓦礫の山と変える。

 

「ふっ、やっぱり切れるわね……このドンパッチソード(ネギ)は」

 

「それ剣扱いだったんですのーーーーー!?」

 

 決まったぜとばかりにポーズを決める、瞳が紫に輝くつかさの手の中、いつの間にか紫の刀身を持つ両刃の剣と化したネギを煌めかせているのが、どうにも腑に落ちなかったわけなのだが。

 

 

◇◆◇

 

 

「お待たせしました!」

「梨璃! 夢結を正気に戻したか!」

 

「……ちっ」

「つかさ様、舌打ちしながら前回夢結様のルナティックトランサー解除したアイテムしまうのやめてくださいよ」

 

 そんな感じでヒュージをボコっていたら、梨璃ちゃんと夢結ちゃんが帰ってきた。

 夢結ちゃんの髪も元に戻ってるし、説得によって正気に戻すことに成功したのだろう。良かった良かった。一応、財団Bから最近送られてきた正気に戻す本もあるんだけど使わずに済んだのならなによりだ。

 

 なら、あとはあのヒュージをしばき倒すだけだ。

 

「死守命令、しっかりと果たしましたわ梨璃さん! ご褒美をくださってもよろしくてよ!」

「アッハイ」

「ついでに、ダインスレイフも取り返したぞ! ……やっぱり夢結のだな、これ。傷に見覚えがある」

 

 まあ、どういう経緯で夢結ちゃんが2年前に使ってたCHARMをあのヒュージが手に入れたのか気になるところだけど、今はそんな場合じゃない。

 半分に裂かれてCHARMを引っこ抜かれてなお動き続けているしぶといヒュージ、倒しておかなきゃ何をするかわかったもんじゃない。

 ただ、しぶとすぎて普通に戦ったんじゃ倒せないような気もする。

 

 ということは。

 

「じゃあ……アレ、使ってみませんか?」

「アレってなんですの?」

 

「ノインヴェルト戦術です!」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

「この距離なら、パスは外れないな!」

 

『1、2、3……Rider Kick!』「おりゃっ!」

「つかさ様! マギスフィアを蹴らないでください!」

 

 なお、ノインヴェルト戦術はマギスフィアを飛ばさず直接相手のマギへ叩きつけるような勢いで回すという型破りな方法で成功しましたとさ。

 

 

◇◆◇

 

 

「あーもー! CHARMを使うわノインヴェルトを無効化するわ、なんなのよあのヒュージ! それにアールヴヘイムのCHARMがほぼ全滅するし!」

「ごめん百由。ほら、ケーキあーん」

「あーん! 次、チーズケーキがいい!」

「はいはい」

 

 ヒュージ撃破後。

 工廠科、そしてその中でも中心的存在である真島百由はフル稼働を強いられていた。

 修理が必要として担ぎ込まれたCHARMは全損含む7本。

 いずれも百合ヶ丘のトップレギオンが使うものなので、単純な修理のみならず使い手に合わせたチューンナップなども必要になり、複雑にして繊細な作業がある。

 それはつまり、どこかしらで必ず百由の手が必要になるということで、アールヴヘイム復帰がいつになるかは百由の手にかかっていると言っていい。

 結果、アールヴヘイムのメンバーは百由のご機嫌を取るべくケーキ持参で両手に花のあーん攻勢に出ることとなった。

 

(CHARMを使って、ノインヴェルト戦術に干渉するヒュージ……? いやいやおかしいでしょ。ヒュージがマギを使うんじゃなくて、マギがヒュージを動かしてる。なのに、マギを使うためのデバイスであるCHARMを、ヒュージが? ……なにか、状況を把握するために必要な要素が足りない気がする)

 

 そうして左右から差し出されるケーキをもしゃもしゃしながら、得た糖分で思考を回す。

 人類はヒュージのことを理解しきれているとはとても言えないが、それでも観測と研究の結果わかってきたことはある。

 

 ヒュージとマギの関係は、マギこそが主。

 マギによって駆動している、マギに支配されるものこそがヒュージというのが現在最も有力な説だ。

 

 だからこそ、人がマギに干渉するために作り出されたCHARMをヒュージが利用するというのは腑に落ちない。

 以前、一柳隊結成前に現れたレストアのようにCHARMが突き刺さったヒュージ程度ならばこれまでも例はあった。だが、CHARMを操って自身の性質を変化させたヒュージなど、前例がない。

 

 「何か、これまで確認されていない事態が起きている」と、そう結論付けざるを得なかった。

 

「……気になるねえ、調べてみないと」

「百由?」

「――次、パンケーキ! メープルシロップマシマシで!!」

「はーい、メープルマシマシ一丁ー!」

 

 だが、ともかく今はCHARMの修理が先だ。

 「ヒュージを調べる」「工廠科の仕事もする」。両方しなきゃならないというのが天才の辛いところだと、百由はとにかく手を動かした。

 

 

◇◆◇

 

 

「そういえばつかさ様、あの……棒とかネギとかをCHARMに変えてたのは一体……?」

「ああ、あれ? 昔、飴と間違えてマギクリスタルを舐めて飲み込んじゃって。以来、長き物とか射抜く物とか切り裂く物をCHARMに変えられるようになったのよ」

「言っときますけどネギは切り裂く物じゃないですからね? てーかマギクリスタルを飴と間違えないでください」

 

「あと、心臓止まるくらい死にかけたときに電気ショックで蘇生されてからはキックに雷の力を籠められるようにもなったよ。全力でやると周囲一帯吹き飛ばしちゃうからあんまり使わないけど」

「百合ヶ丘の近くでは絶対に使わないでくださいましね!?」

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