アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~   作:葉川柚介

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戦技競技会になるとめちゃくちゃ張り切って財団B製のCHARMをしこたまデモンストレーションしたがるリリィがいるらしい

 由比ヶ浜は、鎌倉の正面に位置する海岸だ。

 往時は夏場に海水浴場も開設されて賑わい、それ以外の季節でもウィンドサーフィンやらのマリンスポーツが盛んに行われていた人気の観光地で。

 

 

「こいつはくせえッー! お排泄物以下のにおいがプンプンするぜッー!」

「つかさ様、言葉が汚いですよ」

 

 今日、一柳隊がパトロールがてら来た海岸は異臭立ち込める地獄のような有様になり果てていた。

 

 昨晩の天候は、かなり強い雨風の吹いた嵐。

 そうなると漂流物が海岸に流れ着くのはよくあることだが、あからさまに肉片とかそういう感じのものが腐敗臭を放つこの有様だから酷い。

 しかも、由比ヶ浜は水平線の向こうあたりから空まで伸びる巨大なヒュージネストがある都合上、まともな生物はほとんどいない。大抵がマギに汚染されてヒュージに変質してしまうせいだ。

 

 だからきっと、この汚物の山もヒュージの成れの果てなのだろう。

 

「そもそも、ヒュージってこういうものでしたっけ」

「ヒュージの体はマギで出来ています。活動を停止すればマギが失われ、崩壊と分解が始まります」

「つまり、今のこれがその真っ最中ってことか……」

 

 雨嘉ちゃんたちが口々に言う。

 たしかに、これはおかしな現象だ。

 

 ヒュージがくたばるのは、まあいい。リリィならよく遭遇する。

 だけど昨日はヒュージの襲撃があったわけじゃないし、ヒュージは仲間割れなんかしない。

 そして、嵐に巻き込まれてこんなに大量死するほどヤワだったらリリィはいらない。

 「ヒュージの残骸が漂着する」ということはありえるけど、そもそもヒュージが漂着するような状態になるのは何があったのか。それがさっぱりわからなかった。

 

 とはいえ、特別の危険もなさそうだ。

 今の時代、鎌倉は百合ヶ丘女学院以外に人の住む場所がないから悪臭を放置しておいても問題ない。……百合ヶ丘女学院が数日呼吸したくないくらいの臭いに苛まれるかもしれないけど、まあそれはそれ。もう少し見回って何もなければ放っておいていいだろう。

 

 

「……あれ?」

「梨璃ちゃん?」

 

 そんなときだった。

 ヒュージの残骸の陰をのぞき込んだ先で、首をかしげる梨璃ちゃんと。

 

 人の一人くらいならたやすく収められそうな繭っぽいナニカを見つけたのは。

 

「あ、つかさ様……なんでしょう、これ?」

「なにかしらね……? 私も見たことないわ。――気を付けて! もしかしたらおカネを食べるカエルかアンコウみたいな生き物が出てくるかも!」

「なんですか、その生き物!?」

 

 梨璃ちゃんは手に持ったグングニルの先っちょで繭を突こうとしてるけど、私はそれを止める。

 いやだって、あからさまに怪しいやん? デカい蛾とか出てきたらどうしよう。

 

「……よし、とりあえず一緒にちょっとだけ触ってみましょう。梨璃ちゃんはグングニルで、すぐ離れられるようにしてね」

「は、はい。……つかさ様はそのカードで触るんですか?」

「うん、念のためね」

 

 そうは言っても、めちゃくちゃ気になる。

 とりあえず危険物じゃないかくらいの様子は見ておいたほうがいいので、2人でとりあえず触ってみることにする。そのくらいなら大丈夫でしょ、たぶん!

 

 そして梨璃ちゃんはグングニルの切っ先を、私は懐から取り出したカードをそっと近づけて。

 

 触れる。

 

 

――キィン

 

「えっ、マギが……!?」

「反応、した……?」\スピリット!/

「なんかつかさ様のカードから声がしませんでした!?」

 

 そしたら、なんかマギが反応したっぽい。

 この漂着物はヒュージ由来のものだろうからそのこと自体はさほど不思議じゃないんだけど、ほとんど死体みたいなものなのになぜ。

 うーん、わからん。こういうのは百由ちゃんに丸投げするしかないかなあ。

 

「梨璃さーん、つかさ様ー。どうかしましたかー?」

「二水ちゃん! あのね、いまCHARMが反応して……」

 

 そんな私たちの背後から二水ちゃんの声。

 振り返ればひょっこりと姿を現しこちらをのぞき込んでいた二水ちゃんの顔が見え、そしてすぐに青ざめる。

 

「りっ、梨璃さん! 後ろ後ろー!」

「へ、後ろ……?」

 

 なにかあった、と二水ちゃんの顔が雄弁に語る。

 特に殺気の類は感じないし、いまさらヒュージが湧くわけもなし。

 さてはあの繭から巨大な蛾でも羽化したか、と思いながら振り向いて。

 

「……ぁー」

「ひゃああああ!? お、女の子!?」

 

 長い髪、白い肌、紫の瞳。

 透き通るように儚げで、天使のように無垢な目をした女の子が、梨璃ちゃんに抱き着いていた。

 

 全裸で。

 

「梨璃さん、また女の子にモテてる……」

「っ!」

「やめろ、楓! なんで制服を脱ごうとする!?」

 

「へぷちっ」

「え……えーと……?」

「私もリリィやって長いけど、海辺で全裸の女の子拾うのははじめてだわ」

 

 突如現れた全裸の女の子。

 なぜか梨璃ちゃんにしがみついて離れようとせず、私のことをじっと見てくる謎の子。

 楓ちゃんは対抗して服を脱ごうとしているし、それを取り押さえる梅ちゃんたちもわーわーと騒がしい。

 どうやらまた、楽しいことになりそうだ。

 

 

◇◆◇

 

 

「えっ!? あの子、梨璃さんがお世話することになったんですか!?」

「う、うん」

 

 数日後。

 由比ヶ浜で見つかった女の子は、とりあえず百合ヶ丘で保護されることとなった。

 検査の結果リリィであることが判明し、ならば保護する合理性があるということになった、らしい。

 その辺の基準と言うかなんというかは政治的なあれこれもたくさんあるっぽいので、私はあんまり気にしないことにしている。全部理事長代行に任せておけばいいのよ。

 

 ともあれ、現状わかっているのはあの子がリリィであることと、なんだか妙に梨璃ちゃんに懐いていて、結果梨璃ちゃんがお世話係に任命されたということだけだ。

 あと記憶喪失。自分の名前すらわからないのだとか。

 

 レギオン設立直後でいろいろと大変な時期ではあるんだけども、梨璃ちゃんはこういうときに知らん顔できるような子じゃあない。

 そして夢結ちゃんを始めとした一柳隊の面々も、梨璃ちゃんのそういうところが嫌いじゃない。

 

「あの子の助けになりたいという梨璃ちゃんの欲望、実に素晴らしい! ハッピーバースデー!」

「大丈夫よ、梨璃。あなたのその気持ちは欲望ではなく優しさだから。思う通りになさい」

 

 ちくしょう、夢結ちゃんが私の発言を全否定してきやがる!

 クールで美人で辛辣とかポイント高いなもう!

 

 ともあれそんな感じで、一柳隊のメンバー全員の合意もあって梨璃ちゃんは例の子のお世話係として旅立っていくのでありましたとさ。

 

 

「……でも、どういうことなんでしょう」

「と、仰いますと?」

 

 あの子のいる病室へと梨璃ちゃんが飛んで行ったあと、二水ちゃんが難しい顔でタブレット端末をいじりだした。

 覗き込んでみると、表示されているのは現在判明しているあの子の情報だ。

 ヒュージのうろつく海を漂流したショックもあってか、名前や出身地といった当人に聞くしかないパーソナルな情報は不明のままだが、身長体重推定年齢、そしてあの子がリリィであると判断された根拠となるスキラー数値なんかがわかっている。

 

「あの子はリリィなわけですから、どこかのガーデンに登録されているはずなんです。なので各ガーデンのデータベースや行方不明者のリストと照会をかけてみたんですが、該当するリリィが見つからなくて……」

 

 その特徴が、既知のリリィのそれと一致しないのだという。

 なんだかんだで、この世界の人類は存亡の崖っぷち。

 主に戦闘中などで「行方不明」になったリリィは多数存在するが、その中にすらあの子らしき人物の情報がないという。

 

 つまりあの子は、あの日どこからともなく降って湧いたようなリリィ、ということになる。

 

「最近、それこそ百合ヶ丘で目覚めてからリリィとして覚醒したのではないですか?」

「なるほど、それなら理屈に合いますね。……でも」

 

 しかし、神琳ちゃんの言う通り最近覚醒したばかりのリリィだというのなら、リリィでもない常人だった頃のあの子がどうしてヒュージの勢力圏である鎌倉の海にいたのか、という疑問が出てくる。

 ヒュージの残骸が散乱していたことも考えると、前日夜にヒュージに襲われたことは間違いない。 

 そのとき迎え撃ったリリィがあの子だったという考察もできなくはないけど、それならそれであの子の記録がどこにもないという点と矛盾する。

 本当に、謎の多い子だ。

 

「では、わたくしの方でもお父さまに聞いてみますわ。グランギニョル社の情報網でなら何か手掛かりがみつかるかもしれませんし」

「そう言えば社長令嬢だったよね、楓ちゃん。百合ヶ丘にいるときは梨璃ちゃん限界オタクな姿しか見てないから忘れてたけど」

 

 しかし、それもいずれわかってくることだろう。

 どうも理事長代行は割と本気であの子のことを調べているような雰囲気だし。

 

 ……やけに真剣過ぎるようなのが、気になるっちゃ気になるんだけどね。

 

 

 

 結果として、私がこのとき気にしたことは正しかったと言える。

 それがわかるのは、まだしばらく後のことになるのだが。

 

 

◇◆◇

 

 

 そこから、またさらに数日後。

 梨璃ちゃんは例のあの子のお世話とリハビリの手伝いに奔走し、一柳隊は隊長なしの状態で日々の学園生活と特訓に精を出すこととなった。

 ヒュージの襲撃も特になく、平和と言っていい日が続き。

 

 夢結ちゃんの梨璃ちゃん分がそろそろ枯渇するかなというそんなとき。

 

 

「……お姉様、ごきげんよう。お隣、いいですか?」

「ええ、いらっしゃい」

 

 ようやっとひと段落ついたらしき梨璃ちゃんが、テラスで夢結ちゃんとお茶をしにきた。

 なんだかんだで、本当に久しぶりのこと。感極まった梨璃ちゃんがスリスリと甘えに行き、近くで様子をうかがっている楓ちゃんが全力で嫉妬に燃える今日この頃。

 

「ん!」

「……あなたは?」

 

 いつの間にか、梨璃ちゃん、夢結ちゃん、そしてもう一人の女の子が座っていた。

 

「その髪の色……あの繭の子!」

「元気になったんじゃな! しかもその制服、百合ヶ丘のリリィになったか!」

「こ、これはニュースです!」

 

 その子が例の繭から出てきた子であることは一目瞭然。

 なんというか、すごく素直そうな子だ……。見た感じは梨璃ちゃんたちと同年代くらいなんだけど、まるで赤ちゃんみたいな目をしている。

 

「ほら、ご挨拶して。この方は、夢結様」

「ゆゆ……」

 

 うーん、人の言うことを聞く、というか頭の中に何も入ってないみたいな感じがする。

 OSインストールしてません、みたいな。

 

 

「ところで梨璃、この子の名前は?」

「それが……まだ記憶が戻っていなくて。わからないんです」

 

 梅ちゃんが聞いたところによると、この子が何者かはいまだ不明らしい。

 記憶喪失で浜に流れ着き、そのまま今日に至るとは……。

 

「じゃあ、とりあえず仮の名前が必要よね! 『津上翔一』と『桐生戦兎』どっちにがいい!?」

「つかさ様、そういうあからさまにアレな名前は……」

 

 なによう、私のネーミングセンスに文句があるとでも!? 記憶喪失な子にはぴったりじゃない!

 とか思っていたのだが。

 

「ゆり」

「えっ」

 

 どうやら、梨璃ちゃんは既成事実を作る方向に走っていたらしい。

 

「そっ、その名前は! 私が週刊リリィ新聞で提唱したカップルネーム!」

「なるほど、つまりこの子は夢結様と梨璃さんの子供のようなものなのですね」

「梨璃ちゃんがママになるんだよぉ!」

「つかさ様、お静かに」

 

「やっ、あの、それは本当にふと思いついた仮の名前というか!」

「はーい、それじゃあレギオンに登録しちゃいますねー」

「苗字は一柳でいいじゃろ」

 

「……まあ、いいんじゃないかしら」

「さりげなくまんざらでもない顔しないでくださいますかしら夢結様っ!? きいいぃぃ!」

 

 そんな感じで、ドタバタしつつも一柳隊に所属することになった謎の女の子改め一柳結梨ちゃん。

 

 ……ちなみに私の経験上、このタイプの子はなにかしらヤバい背景抱えていることが多いんだけどなー。

 

 

◇◆◇

 

 

 そして、少々変則的ながら結梨ちゃんは百合ヶ丘女学院のリリィとなった。

 一柳隊の預かりとして、CHARMとリリィを繋ぐ指輪も支給されている。このまましばらくしてマギが馴染めば立派なリリィとなるだろう。

 

「ちょっとー、なんでグングニルなのよー。私があげたドリルな剣とドリルな銃になるCHARMはー?」

「あれはボツです」

「初心者リリィにつかさ様が使うようなのは無理じゃろ。このグングニルもわしら工廠科が全ての部品を一から組み上げたんじゃから、新品よりも扱いやすいぞ」

「そんなー」

 

 そういうイレギュラーな事態にも見舞われつつ、百合ヶ丘女学院の日常は回っていく。

 具体的に言うと、毎年恒例の戦技競技会の日が近づいてきた。

 

「戦技競技会、ですか?」

「リリィの運動会みたいなものです。日頃の鍛錬の成果を示す場、ということになっています」

「普段は禁じられてるけど、この日だけはリリィたちを戦って戦って戦い合わせ、リリィ・ザ・リリィの称号を得るものを決める戦いなのよ」

「例によってつかさ様の言うことだから信じちゃだめだぞー」

 

 そう、戦技競技会。

 基本的に戦うことが禁止されているリリィどうしでのリリィバトルができるし、工廠科が作った新型CHARMのデモンストレーションなんかもあるとても楽しい日。今からワクワクが止まらないよね!

 私も、財団Bに頼んで新し面白いCHARMを送ってもらわないと!

 

「リリィ、戦っちゃダメなの?」

「ダメじゃないよ。リリィどうしでは戦っちゃダメってだけ」

「ええ、私たちの敵はヒュージだけですから」

「……みんな、悲しそうな匂い」

「匂いでわかるのか」

 

 私が近づく戦技競技会への期待で胸を膨らませている一方、結梨ちゃんたちはなんかシリアスな空気になっていた。

 

 

 リリィとは、何か。

 マギと共鳴し、CHARMを駆使してヒュージと戦う人類最後の希望、という説明はできる。

 だがそれは字義的な説明に過ぎず、リリィ自身が、そしてリリィを取り巻くリリィではない人たちがどういうものと受け取るかは、また別の話だ。

 CHARMは日進月歩で改良が続けられ、ノインヴェルト戦術を始めとした戦い方も洗練が進んでいる。すぐに、とは言えないが人類はヒュージに勝利しうるだろう。

 

 では、その先は?

 ヒュージがいなくなり、しかしマギというエネルギー、リリィという力を手に入れた人類は、その先どうなるか。何をするか。

 未来のことはわからな過ぎて、誰もはっきりしたことは言えない、しかし考えずにはいられない話題だった。

 

「でも、つかさからはそういう匂いがしない」

「やめて結梨ちゃん! 私が難しいことなんも考えずに暴れ倒してるみたいだから!」

 

「え、違うんですか?」

「神琳ちゃん!?」

「だ、大丈夫ですよつかさ様! つかさ様の迷いない戦いはリリィの励みになってますから!」

「二水ちゃんのフォローが身に染みるわよう……」

 

 くそう、このレギオンの子ら、先輩に容赦ねえ!

 私の扱いが日に日に雑になっていく気がするの……。

 

「……うん、だいたいわかった。結梨もリリィになる。ヒュージと戦う!」

「え、でも……無理しなくていいんだよ? 記憶喪失のままだし」

「記憶喪失でも戦えるよ? バイクの免許も取れるし」

「つかさ様は黙っていてください」

 

 そして、なんやかんやで結梨ちゃんもリリィとなることを決めた。

 楽しいばかりじゃあないだろうけど、歓迎するし、応援するよ。

 

 

◇◆◇

 

 

 抜けるような晴天の空の下、百合ヶ丘女学院のグラウンドにリリィ達が集う。

 今日は楽しい楽しい戦技競技会。

 ウキウキ顔のリリィがたくさんである。

 

 百合ヶ丘の戦技競技会は、クラス部門、レギオン部門、個人部門などなどの各種競技で成績を競うという形式。

 いわゆる運動会的なポジションのイベントながら、参加者はその気になれば人類をはるかに超越した身体能力を発揮できるリリィ。そして名目上「リリィとして鍛え上げた能力を示す」という都合上、競技は一般のそれとは異なるものとなる。

 

 たとえば、マギを駆使して飛びあがり、電柱のてっぺんくらいの高さにあるフラッグを取る競技。

 たとえば、棒を倒すか棒の先端についた的を撃ち落とすかを競う競技。

 

 そして、もう一つの目玉がデモンストレーション。

 曲芸じみたCHARM捌きであるとか、新型試作CHARMの性能のお披露目だとか、そういうものが楽しめる。

 

「えーと、次は工廠科による新世代CHARMですね。精神連結式起動実証機、ヴァンピールです。百由様の自信作らしいですよ!」

「それ、ダメなやつじゃね?」

 

 

「CHARMから、光が逆流する! きゃああああああ!?」

 

 

「ダメなやつじゃん」

「メディック! メディーック!」

 

 あくまで新型、試作型なのでトラブルが起きることもまーあるというのが困りものだ。

 精神連結式なんてあからさまにヤバそうなのを使ったせいか、2年生の長谷部冬佳ちゃんが担架で運ばれて行ってしまった。

 もー、これで終わったら空気悪いじゃーん。

 

「仕方ない、それじゃあ私がこの新型、『マルチ、パワー、スカイの3タイプに変形するCHARM』のデモンストレーションを!」

「……あの、つかさ様? そのCHARM、わたくしのジョワユーズにとてもよく似ている気がするのですが」

「違うよ? ほら、ソード形態とアロー形態だけじゃなくてクロー形態にもなるし、後ろのカウンターウェイトみたいなのもないし!」

「クロー形態とやら、中途半端にブレードが展開しているだけではありませんこと?」

 

 

 と思ったのに止められちゃった。

 大丈夫だって、GNソードとMURAKUMOくらい違うから! もし似すぎてたとしても、どうせ悪いのは財団Bだし!

 

 

 そんなこんなで楽しい戦技競技会。

 レギオン対抗的当て棒倒しも賑やかに終わり、最後のエキシビジョンマッチの時間がやってきた。

 

 例年だと試合形式のリリィバトルや訓練用のダミーヒュージを使われるのが常なのだけども、今年は。

 

 

「ほえー」

 

「ちょっ、なんですかあれ!? 私が百合ヶ丘に編入した日に襲われたヒュージとそっくりなんですけど!」

「あれ、たしか百由様が研究用に捕獲しておいたヒュージでしたわよね」

「情報が入ってきました。百由様が今回のエキシビジョン用に作ったヒュージロイドくんだそうです」

 

 なんと、百由ちゃん謹製のヒュージロイドだった。

 見た目は正しくヒュージで、機械製のようだけども動きはなかなか力強い。

 

 それに相対しているのは、ぽやっと眺めている結梨ちゃん一人。

 そう。対戦相手は、結梨ちゃんだった。

 

「ダメですよ! 結梨ちゃんはまだリリィになったばかりなんですよ!? こういう無茶は私の役目でしょう! もしくはつかさ様!」

「梨璃もつかさ様のことがよくわかってきたなー」

「しまいにゃ私も泣くわよ梅ちゃん」

 

 いつの間にか地面から伸びてきた鉄線が絡み合い、結梨ちゃんとヒュージロイドを取り囲んで金網デスマッチの様相を呈し始める。

 結梨ちゃんのことが心配で仕方ない、過保護のケがある梨璃ちゃんは金網にしがみついて泣き言を叫んでいるが、ヒュージロイドとの戦闘から周囲を守るという名目だろう金網は頑丈でびくともしない。

 

「梨璃! 私、やるよ! 私もリリィになって、みんなと一緒にいたい! ……だから、見てて。私の――変身!!」

 

「……つかさ様、結梨ちゃんに何を教えたんですか?」

「ヒエッ。ベ、別に変なこと教えてないよ!? ただちょっと、先輩としてリリィの心構えを説いただけで!」

 

 頼もしい結梨ちゃんの言葉と、その元凶が私にあると即座に察して据わった目で追及してくる梨璃ちゃん。怖い!

 

 いや本当に何もしてないよ!? 記憶喪失だからって料理を教えたりヒュージと戦う仮面リリィに育て上げようなんて、そんなことはこれっぽっちも! 精々サムズアップとか教えただけだし!

 

 

 

 

 結論として、結梨ちゃんは立派に戦った。

 

「やああああああああ!」

 

「そうよ、常に動き続けなさい!」

「百発のスリケンで倒せない相手だからといって、一発の力に頼ってはダメ! 千発のスリケンを投げるのよ!」

 

「相手を崩して、隙を作って、最後に立っていたものが勝者よ!」

「リリィは地水火風のマギと常にコネクトして操る存在よ! これがフーリンカザン!」

 

「たとえ自分はどれだけ動いても、相手の状態は常に把握しなさい! 目を離したら負けよ!」

「迷っちゃダメ! 敵の姿が見えないなら、邪悪なヒュージソウルの存在を感じればいいわ!」

 

「マギを感じて、その流れを支配しなさい! それこそがリリィの戦いよ!」

「ヒュージソウルに飲まれないで。手綱を握るのは、結梨ちゃん自身よ!」

 

 

「……つかさ様、いちいち合ってるようで変なアドバイスばかりですね」

「たぶん本人は言ってることを実践してあの強さなんだろうけど、他のリリィがマネできると思わないで欲しいな」

 

 どこで覚えたのか、あるいは記憶喪失前に体が覚えていたのか、夢結ちゃんや梨璃ちゃんに近い動きでヒュージロイドと互角以上に渡り合う。

 

 そして結梨ちゃんは、百由ちゃんがアホほど強くなるようチューンナップしたヒュージロイドを見事撃破し、百合ヶ丘女学院のリリィとしてみんなにその力を示した。

 勝利を喜び、仲間と分かち合うその姿。それこそがリリィの理想の一つだ。

 

 だから、誰が何と言おうと、結梨ちゃんはリリィなんだよ。

 

 

◇◆◇

 

 

「結梨ちゃんのDNAの解析が完了しました。解析科のおかげですね」

 

 夜。理事長室。

 部屋の主たる理事長代行、高松咬月と報告に来た真島百由。そして生徒会長の出江史房の3人のみ。最低限の人数なのは、この情報をあまり広めないため。極秘の報告会だ。

 

 結論を促す咬月の無言に、百由はわずかに表情をしかめながら現時点で判明している事実を述べる。

 

「DNAは間違いなく人間の女性のものでした。……ただ、不自然です。あまりにもはっきりと『人間の女性のDNA』過ぎるんです。まるで、人類の始祖の遺伝子パターンでも見せられているみたいに」

「……それを元に、真島くんはどう考える?」

 

 百由が、単なる事実の報告程度に躊躇いを覚えることはない。

 そして、百由ほどの研究者が不可解な事実に対してなんの仮説もなしにいられるはずもない。

 

「おそらく、結梨ちゃんはその出自をヒュージに由来する。そう考えられます」

「やはり、か」

「……どういうことでしょう、知っていたのですか、理事長」

 

 百由の推測をそのまま信じるならば、ヒュージが学院に入り込んだことになる。

 そしてそれを否定もせず受け入れる様子の理事長代行に、史房はさすがに黙っていられない。

 問いかける言葉は怪訝な顔から発せられ、対する咬月は疲労を隠せないうんざりとした表情だった。

 

「一手遅かった、といったところか。G.E.H.E.N.A.と、そしてCHARMメーカー<グランギニョル>が共同研究の内容を報告してきた。曰く、ヒュージから作り出した幹細胞を使って生み出した人造リリィ。その実験体が紛失したのだそうだ」

「……っ!」

 

 倫理、人道という言葉はどこに消えたのか。

 史房が息を呑むのも無理がない外法の沙汰を記した報告書が、咬月の机から現れた。

 そこには件の一柳結梨こそがまさしくその実験体だという証拠が記されているという。

 

「ヒュージの内なる系統樹には、地球上全ての生物の遺伝情報が備わっているという。だが……可能なのか?」

「具体的な方法はわかりませんし、試したところで実現できるかはわかりませんが、理屈の上では『試すことすら無駄だと断じる理由はない』ですね。そして実際にああして結梨ちゃんが生きているということは不可能じゃないってことで、そしてなりふり構わず回収しようとする程度は実用化に程遠いということなんでしょう」

「……だから、彼女を分析して研究を進めると?」

 

 G.E.H.E.N.A.が汚点でしかないこの報告を国連に届けたのはそのためだ。

 一柳結梨、ヒュージから生まれたリリィを解析して量産を目指す。

 そこに、人の姿と心を持った存在に対する敬意は存在しない。

 ヒュージ打倒、人類存続のためにあらゆる手段を許容するのが、G.E.H.E.N.A.という研究機関だ。

 

「我々百合ヶ丘女学院が彼女を保護しているのは、彼女が人であり、リリィであるからだ。ヒュージであるというのなら、その対象とすることはできない」

「……」

 

 ヒュージと戦う希望の乙女、リリィ。

 彼女たちを外の世界のしがらみから守るためにこそある白亜の城壁、ガーデン。

 だからこそ守るべきもの、庇護の対象とできるものはリリィのみ。

 明かになった全ての情報が、一柳結梨を守ることはできないと告げている。

 

 咬月たちが、百合ヶ丘女学院のリリィたちがそれを望むと望まざるとに関わらず。

 

 

 

 

 「ヒュージに由来する人造リリィ捕獲」の命令が下されるまで、そう時間はかからなかった。




安藤鶴紗

 一柳隊に所属する1年生リリィ。
 透き通るような白い肌と色素の薄い金髪、赤い瞳を持つ美少女。
 性格は少々取っつきづらい感はあるが根はやさしく、キャラ崩壊するレベルで猫が好き。
 かつてG.E.H.E.N.A.によって改造を施された強化(ブーステッド)リリィであり、生来のレアスキル<ファンタズム>の他に強化リリィ特有のブーステッドスキル、超回復能力<リジェネレーター>と擬似CHARM生成スキル<アルケミートレース>を有する。
 超回復能力を頼りとした負傷を恐れない戦い方により、<血煙のリリィ>と呼ばれる。

 常盤つかさはその辺の事情も大体知っているので何かと気にかけている。
 ただし、興奮していると滑舌が悪くなって鶴紗のことを「ダディヤナチャン」と言い間違える。

 苦手な食べ物はもずく。なんか、変なトラウマがあるらしい。
 
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