アサルトリリィ ~生まれ変わったら財団Bの手先になりました~   作:葉川柚介

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これまでに何度か死亡判定されているが、そのたびに水落ちしたから無事だったとか言って生還したリリィがいるらしい

 そのヒュージ自体は動かなかった。

 移動しないどころか、可動部すらほぼない。周囲に浮遊する9つのビットにマギを注ぎ込み、制御するための演算ユニットとしての役割が主なのだろう。

 莫大なマギを注ぎ込み、破壊の力へと練り上げて解き放つ。

 単純明快にして強力無比。それが、このヒュージの戦法だった。

 

 ビームが放たれる。

 海を割り、空を裂き、百合ヶ丘へと迫る。

 

「たっ、退避ー!」

 

 迎撃に出ていたのはレギオン<レギンレイヴ>。

 だが、何もできない。

 隊長である六角汐里は為す術なく身を守ることを指示するのが精いっぱい。

 

 そもそも、超威力のビームを前に避ける以外の選択肢はなかった。

 雲が散り、青い空が見える有様に対して、講じられる手段を持ち得るリリィはいない。

 

 リリィは強大な力を持つが、どこまで行っても白兵戦を主体とする陸上戦力だ。

 海上、それも水平線の先にいるようなヒュージから、超威力の遠距離攻撃のみで攻められると反撃の方法が何一つない。

 それを意図してのことなのかヒュージの変化による偶然なのか、いずれにせよ防衛のために鎌倉市街地へ展開したリリィ達は何一つ対抗手段がないまま廃墟の陰に隠れていることしかできなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「なんだあれ、無茶苦茶だ……」

「マギを、直接攻撃に使ってるようです。そんなことをしたら、すぐにマギが尽きるはずなのに」

 

 その巨体は、鎌倉から離れた梨璃ちゃんの潜伏先近くの海岸からも見て取ることができた。

 海上から動くことなくアウトレンジからの攻撃オンリー。芋スナにも劣る外道戦法が過ぎる。呆れるほど有効な戦術だなちくしょう。

 

「ねえ、梨璃。あれがヒュージ?」

「そっか、結梨ちゃんは直接ヒュージを見るのははじめてだったね。……そうだよ、あれがヒュージ。たぶん、だけど。あんなに大きいのなんて初めて見たよ」

「それだけじゃないわ。ヒュージはマギに操られるもの。マギを駆使して戦うなんて、どうして……」

 

 夢結ちゃんの疑問はもっともだ。

 本来のヒュージは荒ぶるマギという現象のようなもの。意思を持った行動とは無縁のハズなのに、あのヒュージはその辺の主従が逆転している。

 ……なんか、最近それに近いことをするヒュージがいたような気がしなくもないんだけども。

 

「ヒュージは、やっつけるんだよね」

「うん、そうだよ。だから、私たちも百合ヶ丘に……って、結梨ちゃん!?」

 

 そんな風に考えている間に、海面が爆ぜた。結梨ちゃんが、走り出した。海面を。

 

「結梨!? ……あれ、縮地じゃないか! 梅のレアスキル!」

「え、レアスキル使ってる? リリィなら普通に水面走るくらいできるでしょ。中国拳法の達人でも15mまでなら水面走れるし」

「そう言うのならできるんでしょうね、つかさ様は」

 

「というか、それをあんなに長く……フェイズトランセンデンスも組み合わせとるのか!? そんなことしたらすぐにぶっ倒れるじゃろ! 少なくともわしならとっくにばたんきゅーしとるころじゃ!」

「……その気配はないですね。あれほどのマギをどうやって……?」

 

 しかもそのまますごい速さで、江の島の先に見えるギガント級すら超えていそうなヒュージへ突っ走っていく。間違いない。戦うつもりだ。たとえ、結梨ちゃん一人でも。

 

「結梨ちゃん、戻って! いきなり、それも一人で戦うなんて無理だよ!」

「梨璃さん!? いまから走っても追いつけませんわ!」

 

 それを、黙って見過ごせる梨璃ちゃんではなかった。

 結梨ちゃんと同じように海面を走って追いかけるが……だめだ、速度が圧倒的に足りていない。

 身体能力とマギを駆使すれば普通のリリィでもある程度海面を走ることはできるけど、縮地まで使っている結梨ちゃんに追いつける道理はない。

 しかも、次々飛来する迎撃の弾幕がかすってバランスを崩し、海中に没する。

 直撃ではないし、梨璃ちゃんはリリィ。あの程度で死ぬとは思わないけど……結梨ちゃんを1人にしておけないわね。

 

 

「――あ、もしもし? 私。……あ、そう? 助かるわー。で、ちょっと水上戦になりそうだからスプラッシャー用意しといてくれる? ……了解。待ってるね」

「……あの、つかさ様? 誰と電話を?」

「すぐにわかるよ、雨嘉ちゃん」

 

 問いかけてきた雨嘉ちゃんに、ぱたんと携帯を閉じながら応える。

 いま必要なのは、とにもかくにも結梨ちゃんに追いつく手段だ。

 それも、ただ速いだけではなく海岸から数kmの距離に鎮座するヒュージまで辿り着けるような方法で。

 さすがにリリィであっても、それに向いたレアスキルがあっても無理がある。

 だが私なら話は別。方法は、ある。

 

 

ドドドドドドド……!

 

 

「な、なんですか!? なんの音ですか!?」

「振動……まさか、ヒュージ!?」

 

 背後、陸側から迫る何かの気配に警戒する一柳隊のみんな。大丈夫、心配いらないよ。私が呼んだだけだから。

 

――ドガァンッ!!

 

「なんかでっかい車がきたのじゃー!?」

「……あ、アレ多分つかさ様の仕業ですね」

 

 10秒と経たずその正体が飛び出してくるなり、神琳ちゃんが私の関係だと悟って警戒を解いた。

 この子、クールで頭が良くて私の扱いが雑なことにかけては一柳隊でもトップクラスだよね!

 

「やー、ありがとありがと。早くて助かるわ――ギャリーさん」

――ブォン!

 

 それは、巨大な装甲車。

 図太い8輪、黒い車体。赤い複眼のようなキャノピーと、背負った円筒に備えた3つの特殊ユニット。

 これこそ私の頼れる相棒、ギャリーさんである。

 

「あー、見たことあるな、アレ。つかさ様の外征用機動装甲車だ」

「外征用ですの!? アレが!?」

 

 そう、どんなところも走れるパワーとヒュージに体当たりかませる頑丈さを備えている、お出かけのときの足だ。

 しかも。

 

「……なんで、装甲車の中にバイク入ってるんですか? それも、前輪がなんか倒れてるし後ろ半分はなにその……なんなんです?」

「スプラッシャーユニット。水上、水中移動用のユニットよ。――これなら、結梨ちゃんにも追いつける」

 

 色々装備があるから、こういうときにも便利なのよ。

 

「さすがに、途中で梨璃ちゃん拾ってる暇はないからそっちはみんなでお願い。私は結梨ちゃんと合流するから、みんなはギャリーさんに乗って追いかけてきて!」

「え、これに乗るって……あの、さっきまでバイクの乗ってた空間に私たち詰め込まれるんです?」

 

 おっと、こうしちゃいられねえ早く追いかけないと! ということでバイクにまたがり、さっそくアクセル全開。湘南の海に飛び出して、結梨ちゃんの向かう先へと私も急ぐ。

 

「あっ、逃げた!?」

「……仕方ないわ、みんなも乗って」

 

 

◇◆◇

 

 

(あそこ……つながってる!)

 

 海上を走りながら、ヒュージに近づくにつれて一柳結梨には状況がわかるようになってきた。

 無尽蔵に等しい出力を見せるあのヒュージ、どこにそれほどのマギがあるのかと思えばそのからくりは近くのネスト。

 なんと、ネストから直接マギの供給を受けることで規格外の遠距離攻撃とその連射を可能としていた。

 つまり、エネルギー切れを待つ持久策は使えない。

 百合ヶ丘女学院を守る方法は、速やかにあのヒュージを倒すことだけだ。

 

「なら……がんばる!」

 

 周囲に無数の光弾が爆ぜ、水柱が上がる。

 だが結梨はそのことに恐れもしなければ構うことすらなく、身をかがめて溜めた力を跳躍へと変え、空へと舞う。

 目の前には、ヒュージを取り巻くビット。百合ヶ丘を狙う超威力砲撃の砲口の一つ。

 

「やあああああ!」

 

 振り抜くグングニル。砕けるビット。

 本体にも効くかはわからない。だが、百合ヶ丘を守れる。いける。

 しかし、反撃もある。

 

「うっ……きゃああ!」

 

 単純な弾幕だった。熟練のリリィならばそれをすり抜けたうえで反撃をすることもできるだろう。

 いかに莫大なマギを使えようとも、複数のレアスキルを使いこなせようとも、戦闘勘という一点だけはいまだ結梨が持ち合わせていない。

 それがなければ、このヒュージには勝てないだろう。結梨一人では、勝てない。

 バランスを崩して海面に向かって落下しながら必死に体制を立て直そうとして。

 

 

「結梨ちゃん!!」

「つかさ!?」

 

 そこにつかさが、来た。

 結梨は見たこともない謎の乗り物を駆り、落水寸前だった結梨の手を掴み、追撃の弾幕を潜り抜けて海面を走る。

 

「ど、どうして、っていうかこれはなに……?」

「話はあと! とりあえずあのビットを砕くわよ! ……ちょうど残り8個だし、4つずついきましょうか。私と結梨ちゃんならいけるわ……どう?」

「……うん、がんばる!」

 

 力強い結梨の返事に、つかさは歯を剥いて笑う。

 アクセルをひねって加速。大きな弧を描きながらヒュージに再び接近する。

 高揚に舌なめずりをすれば、跳ねた海水の塩気が強い。

 敵は強大。だが恐れは二人の心に欠片もなく、負ける気も全くしなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

 一柳結梨と常盤つかさ。

 たった2人によるギガント級ヒュージとの戦闘は苛烈を極めた。

 ただでさえ人と比べて圧倒的な巨体。攻撃するべきビットは通常ならば手の届かない高所。海上で、しかも空中戦を強いられるという状況でありながら、2人は優勢に戦い抜いた。

 

 結梨の動きは、水上だと思えないほどにリリィの基本に忠実なもの。

 時折海面に足をつくことはあっても、すぐまた飛びあがってビットを狙う。

 当初は2度の跳躍に1つの撃破がやっとだったのが、3つ目を破壊するころには1度の跳躍で撃破するようになっていた。

 

 対するつかさは、遠目に見ていたリリィたちが「なんかいつも通りだった」と証言している。

 なんか、カードをCHARMに読み取らせてふわーっと浮かんだり、腕を突っ込んだCHARMがロケットになってそれで空を飛んだりといったよくわからない方法を駆使してビットを破壊していった。

 

 ヒュージは瞬く間にビットの数が減り、結梨とつかさの迎撃に手いっぱいで百合ヶ丘への攻撃もままならない。

 百合ヶ丘のリリィたちは加勢こそできないものの誰もが固唾をのんで勝利を祈り、見守っていた。

 

 

 そして、最後に。

 レアスキルとして<鷹の目>や<天の秤目>を持つリリィたちは目撃した。

 ビットを破壊しつくし、結梨がグングニルに莫大なマギを注ぎ込んで作り出した巨大な刃で。つかさがそれまで使っていた手甲と剣と斧とトンファーとバトンを突然合体させた巨大な剣からさらに伸びるマギの刃で。

 

 二刀にてヒュージの脳天から十字に裂いて、百合ヶ丘を救った。

 

 

 

 

 その直後、規格外のマギを取り込んでいたギガント級ヒュージの爆発に巻き込まれたことまで、知覚系レアスキルによって確認された。

 

 

◇◆◇

 

 

 材木座海岸は由比ヶ浜の東側、滑川の向こうに位置する。

 かつての景色も今はなく、廃墟に飲まれつつあることは由比ヶ浜と変わらない。

 だから、そこに流れ着くものが掻き立てるのは好奇心と興味ではなく、悔恨と絶望だけだった。

 

「……今朝、結梨ちゃんの髪を切っていたんです。前髪が少し、伸びてたから」

 

 一柳梨璃の声。

 震えて掠れ、誰もが寄り添うことすらできないほどに、壊れかけている。

 触れればそれだけで砕けてしまいそうだった。

 

「そのあとで、つかさ様がお化粧もしてくれるって。嬉しいねって、話して……」

 

 そんな梨璃が伸ばした指先が、触れる。

 CHARM、グングニル。砂浜に突き刺さったそれが結梨のものであることをよもや見間違える梨璃ではなく、リリィと一心同体であるCHARMのみがこうして流れ着いたこと、その中枢であるマギクリスタルが砕け散っていることが意味する所は、誰も口にできなかった。

 

「なのに、なんで……私は、何も……何もして、あげられなくて……!」

 

 涙はこぼれている。だが慟哭はできない。

 重く黒い悔悟が渦巻く胸からは、ただ結梨との思い出しかこぼれてこなかった。

 

 

 

 

 百合ヶ丘女学院。健在。

 リリィ、数人の負傷者はあれど重傷者なし。

 

 しかし、2名。

 

 一柳結梨。

 常盤つかさ。

 

 複数の知覚系レアスキル保有リリィの証言により、ギガント級ヒュージの爆発に巻き込まれたものと認定。

 

 死亡、と断定された。

 

 

◇◆◇

 

 

 百合ヶ丘女学院で最も景色のいい場所は、と問われれば多くのリリィがこの場所だと答えるだろう。

 鎌倉の町と海を一望できる山の一角。空が広く、風はそよぐ。

 ヒュージの跳梁跋扈によって気候が狂ったためいつになるかはわからないが、時折桜も咲く。

 そんな最高の景色は彼女らのためにあるべきだと、誰もが思うからこそ。

 

 ここは、リリィ達の墓地となった。

 

 シンプルな墓標に、名前だけが刻まれるのが常。

 そして幾列も並ぶその数が、ヒュージとの戦いの苛烈さを示すなにより明確な血の証だった。

 

 

 そこに今日、2基の墓が加わった。

 見送りに参列したリリィたちの表情は沈痛。何度経験しても慣れることは決してないが、それに増して今回は一度に2人。

 それも、ヒュージ扱いされかけた一柳結梨と、何考えてるか全くわからないものの頼りになり、助けられたリリィも多い常盤つかさの2人が命を落とした。

 

 2人だけ、だ。

 普通のリリィでは手の出しようがない遠距離からの攻撃を繰り出すギガント級ヒュージに百合ヶ丘女学院が直接狙われるという未曽有の事態において、犠牲は「たったの」2人だけ。大戦果、と言ってもいいだろう。

 

 結梨の、つかさの笑顔を知らない者たちならば、そんなことを言うかもしれない。

 それを知っている百合ヶ丘のリリィたちは、失われたものの重さに打ちひしがれる。

 

 これは式典ではない。ただ、別れを惜しみ、少しでも近くにという願いがこの場に足を運ばせた。それだけである。

 

 空は晴れている。だが心は重く暗雲立ち込め、言葉もなく。

 

 

 

 

「――誰か、死んだの」

「……はい。お2人」

 

 隅にいた参列者はその声をかけられたとき、素直に答えた。

 何か事情があって来るのが遅れたのだろう。ままあることだ。

 誰が犠牲となったのか知らないのも無理はない。戦場は混乱しているのが常だから。

 

「2人……? 死んじゃった?」

「ええ。……ほら、お祈りしましょう。2人がゆっくり眠れますように、って」

「本当に、惜しい方たちを失くしました。結梨さんも、つかさ様も、素晴らしいリリィでしたのに……」

 

 だから改めて、目を閉じ手を合わせ、安らかな眠りを祈る。ヒュージの撃滅と、人の世の平和を誓って。

 嘆き、立ち止まることなどきっと彼女らだって望んでいない。

 倒れたリリィの分も戦い抜くという決意こそがリリィを強くする。

 それだけが、いつかの終わりのその先で再会した時の祝福になるだろうから。

 

 今は、祈る。

 

「ゆっくり休んでね。結梨ちゃんと、私。……………………ん?」

「つかさと私、死んじゃったの?」

 

 はずだったのだが。

 

 

「ん?」

「へ?」

「は?」

「なんて?」

「ちょっとまさか」

「いやそんなそんないくらつかさ様でも」

 

 全員一斉に振り向いた。

 墓地の入り口近く、集ったリリィ達の端。

 そこにいたのは、ちょっとボロついた百合ヶ丘の制服を着た2人のリリィ。

 

 

 常盤つかさと一柳結梨である。

 

 

「ギャにィィーーッ!? なんで私の名前が墓に刻んであるの!? ま……まさか! この葬式は!?」

 

「つかさ様ーーーーーー!?」

「結梨ちゃんんんんんんん!?」

「正直ちょっと生きてるんじゃないかなって気はしてました! 特につかさ様!!」

 

 

◇◆◇

 

 

「いや、なんで生きてるんですかつかさ様」

「んーとね、ヒュージを結梨ちゃんと二人でぶった切ったら爆発しそうになったのよ。危ないから結梨ちゃんを抱えて真下の海に飛び込んで爆発から逃れたってわけ。……水落ちできなければ即死だったわね……」

「水に沈めば死なないってどういう理屈ですか」

「ちょっとさむかった」

 

「で、そのあとは少し流されて江ノ島に上がって。携帯が死んでたから連絡もできないし、結梨ちゃんが結構怪我してたから応急処置して、動けるようになったからようやく百合ヶ丘に戻ってきたのよ」

「な、なるほど……でもよく治療できましたね」

「うん、その辺はどんな怪我でもすぐ治るように包帯を『ニチアサ巻き』したらすぐ治ったわ」

「……たまにその応急処置しますよね、つかさ様。引くほど効くらしいですけど」

「わたし、げんき!」

 

 

◇◆◇

 

 

「……と、いうことがあったのよ。だから心配しなくていいわ、梨璃」

「えぇ……」

 

 百合ヶ丘女学院、地下隔離室。

 そこは今、梨璃を収容する独房となっていた。

 

 最終的に人として認められたとはいえ、結梨が拘束命令の対象となっていたこと、梨璃がそんな結梨を連れて逃走したことは事実。命令違反に対する処置は必要ということで、この隔離と相成った。

 夢結が状況を知らせに来たのも、シュッツエンゲルとしての立場を利用したグレーに近い行動だ。

 だが、どうしても知らせたかった。結梨もつかさも無事であることを。誰も欠けることなく、あの戦いを乗り越えたのだと。

 

「良かったです。本当に。……でも、私は何もできませんでした」

「梨璃……」

「正直説明を聞いても何がどうなったのかはよくわかりませんけど、きっとつかさ様がいなかったら、結梨ちゃんは……なのに、私は……」

 

 そこに、自分は何一つ関わることができなかった。

 幸せな結末を喜ぶとともに、ふがいなさだけは消えなかった。

 

 

 

 

「……だから、梨璃を元気づけたいの」

「そのために、髪飾りを探すわけですのね。……海に落ちたものを」

「さすがに難しそうですね……」

 

 なんだかんだで久々な気がする、一柳隊控室。そこに、梨璃ちゃんを除くレギオンメンバーが揃っていた。もちろん、私と結梨ちゃんも一緒。

 シュッツエンゲル権限を駆使して短時間ながら梨璃ちゃんと会ってきた夢結ちゃんが私と結梨ちゃんの無事を伝えてくれたらしいけど、梨璃ちゃんは自分の無力を嘆いているらしい。

 ……まあ、よくあることよね。ああしていれば、こうしていれば。そう思わずにいられるリリィなんて、この世に一人もいないでしょうよ。

 でもだからといってそれに囚われてはいけない。自力なり、仲間の力を借りるなりして乗り越えなければ戦えなくなるだろう。

 

 梨璃ちゃんが乗り越えるためのきっかけとして夢結ちゃんが考えたのが、先日の戦いで失われた髪飾りを探してあげることだという。

 

「髪飾りってアレでしょ? 梨璃ちゃんがいつもつけてた四葉の(ラッキー)クローバー。少し時間は経ってるけど、レアスキルを駆使すれば何とかなるかもね」

「失せ物探しにレアスキル、ですかつかさ様」

 

 そうよ鶴紗ちゃん。ドーナツ両手に持ってもっしゃもっしゃ食べてる鶴紗ちゃん。

 私らが行方不明になってから心配であんまりごはん食べられてなかったって二水ちゃんから聞いたわよ鶴紗ちゃん。

 

「二水ちゃんの<鷹の目>と雨嘉ちゃんの<天の秤目>、楓ちゃんの<レジスタ>なんかは知覚力が向上できるし、神琳ちゃんのテスタメントはその効果を拡大できる。普通の人海戦術なんて目じゃない捜索ができるはずよ」

「他にも使えそうなスキルは……」

「わしの<フェイズトランセンデンス>は短時間の出力アップじゃし、レアスキル使用時のマギ供給役じゃな」

「私はファンタズム。未来予知みたいなものだから今回は使えないか」

 

 そうやって力を合わせれば大体何とかなるのよ、リリィって。

 自分のレアスキル<ルナティックトランサー>が今回役に立たないスキル筆頭だということを思い知って闇に沈んでる夢結ちゃんと、それを慰める移動系スキル<縮地>使いの梅ちゃんはまあ置いとくけど。

 

「……すみません、ふと気付いたんですが、つかさ様のレアスキルってお聞きしても?」

「そ、そういえば……! つかさ様の活躍はたくさんん聞きますけど、レアスキルは私も知らないです!」

 

 そういう話題になると、やっぱこう来るよねー……。二水ちゃんもさっそくメモ片手に興味津々だし。まあそうなるだろうとは思ってた。

 いや、別に隠してたわけじゃないから普通に答えるんだけど。

 

「私のレアスキル? わかんない」

 

「……はい?」

「わから、ない……?」

 

 うん、そういう反応になるよねー。

 

「いや、マジの話よ。隠すとかじゃなくて。……スキラー数値ってあるじゃん?」

「は、はい。マギをどれだけ出力できるかを表した、リリィにとってすごく大事な資質です」

 

 スキラー数値。

 1~100で表される資質で、マギをどれだけ扱えるかを示したもの。

 CHARMの起動に50、高レベルのレアスキルの保有には80以上の数値が必要とされる、というのが研究と実例から分かってきていること。

 ちなみに現役最高のスキラー数値は98で、これ以上になると人間には耐えられないと言われているわけなんだけども。

 

「私、これまでスキラー数値計測した時、ことごとく『555』とか『913』とか『753』とかのわけわかんない数値が出るのよ。たぶんそのせいで、まともなレアスキルが使えないみたい」

「えぇ……」

「つかさ様マジつかさ様」

 

 おうこら鶴紗ちゃん、人の名前を何かの概念に使うんじゃねーわよどういう意味を乗せたのか言ってみなさいよ!

 

「ま、まあでも! 財団Bから贈られてくる装備を使えばレアスキルっぽいこともできるからいいの! このメダルで鷹の目みたいな視点は得られるし、こっちのメモリ的なキーを使えばファンタズムみたいな未来予測も使えるし、どこからともなく飛んでくる銀色のカブトムシを捕まえた時はZみたいな巻き戻しもできるもん! あっ、結梨ちゃんもよかったら使ってね!」

「一つ、変なものが混じっていませんでした?」

「神琳、違う。変なのは全部だ」

 

 へーんだいいもんねーだ。別にレアスキルなんて使えなくたって戦えるもんねーだ!

 だから見てろよ、梨璃ちゃんの髪飾り探しでもめちゃくちゃ活躍してやるんだから!

 

 

 

 

 なお、実際の髪飾り捜索においては。

 

「とりあえず視力と聴力を強化してみよっかなー。50秒以上やるとめっちゃ頭痛くなってぶっ倒れるけど」

「あとが面倒なので大人しく待っていてください」

 

 普通に夢結ちゃんたちと同じ、レアスキルが役に立たない組扱いされました。解せぬ。

 

 

◇◆◇

 

 

「ごきげんよう、梨璃さん」

「みんな、どうして……? 結梨ちゃんも」

 

 地下隔離室から出てきた梨璃ちゃんの表情に、生気はなかった。

 こんな暗くて狭い部屋に押し込まれていたのなら、そりゃあ気も滅入るだろうから仕方のない話。しかもそんなところに抱えて行ったのは暇つぶしの道具ではなく、結梨ちゃんを守れなかったという無力感だけだったというんだからなおのこと。

 

 そのままならば、リリィを続けられなくなることもありうる。そういう子を、私は何人も見てきた。

 乗り越えるために必要なのは、強い決意かたしかな勇気。

 

 あるいは、支えてくれる大切な、たくさんの仲間たち。

 

「梨璃さんのつけていた髪飾り、見つけてきましたわ。わたくしたち、みんなで」

「髪飾り……?」

 

 最終的に髪飾りを見つけた楓ちゃんが、梨璃ちゃんの手に髪飾りを返す。

 百合ヶ丘のたくさんのリリィたちが協力して、梨璃ちゃんのために頑張った。そのことはきっと、梨璃ちゃんを支える理由になるだろう。

 

「……よく似てますね。どこで買ったんですか?」

「え゛っ」

「楓ちゃん?」

 

 なるだろう、と思ったんだけどなんか雲行き怪しいなあ!?

 

 

「私の髪飾りには、傷が入ってたんです。でもこれにはそれがないから」

「あ、あらー……よく覚えてらっしゃいますのね梨璃さん……おほほほほ」

 

 話を聞くところによると、梨璃ちゃんの髪飾り自体は割と早い段階で楓ちゃんが見つけていたのだという。

 ヒュージの攻撃が直撃して、ズタボロになった状態で。

 ただでさえ精神ギリギリな状態の梨璃ちゃんにそんなもの見せたらそれこそファントムが湧くと心配した楓ちゃんは、こっそりと六角汐里(ろっかくしおり)ちゃんにお願いして設備を借りて、髪飾りを自作したらしい。

 ……なんつーか、本当にド根性よね楓ちゃん。

 

「……ありがとう、楓さん。みんなが心配してくれて、力を貸してくれてる。だから私、すっごく嬉しい。思ってくれた分、きっと強くなるから……!」

「梨璃さん……!」

 

 そしてその心は梨璃ちゃんにもしっかりと届いた。

 瞳に戻った光と決意の色。そういうリリィは強くなる。そういう子も、私はたくさん見てきたから。

 

「よかったね、梨璃。また一緒にがんばろう」

「結梨ちゃん。……うん、うん! 今度こそ、絶対に私が守るから!」

 

 

◇◆◇

 

 

「さーて、とりあえず『さっさと結論を言え』という目を向けられているので結論から申し上げましょう。ヒュージの中から見つかった、夢結のダインスレイフ。こちらを解析した結果、術式が書き換えられていることが判明しました」

 

 理事長室。

 高松咬月と生徒会三役に加え、報告に来た真島百由の5名が一振りのCHARMを見つめている。

 元々は白井夢結の持ち物であり、2年前の甲州撤退戦の際に失われ、数か月前にヒュージの中から回収された、あのダインスレイフである。

 

「術式が書き換えられた結果、マギに、そしてヒュージに影響が出たと?」

「CHARMというのはそもそも人がマギを操るためのもので、ヒュージはマギに操られた事象です。現状確認されているヒュージの異常行動に対して最も説明がつきます」

 

 それは、ただ単に失われたものが戻ってきたというだけでは済まないことになりつつある。

 

「説明がつくとはいえ、そんなことが可能なの? 夢結さんは工廠科じゃないのだから、戦場で術式の書き換えができるとは思わないけど」

「ええその通り。やったのは夢結ではありません。解析の結果判明したのは、このCHARMの現在の、つまり最後の契約者が夢結ではないということです」

 

 甲州撤退戦は激しく、辛い戦いだった。

 失われた土地は多く、故郷を追われた人は今も避難先での生活を余儀なくされている。

 壊れたCHARM、命を落としたリリィもまた然り。

 

 この戦いにおける白井夢結の戦闘や行動については詳細が不明な部分もあるが、それでもできる限りは調べられている。

 最後にどんなヒュージと戦ったのか。その時何が起こったのか。

 それらと照らし合わせれば、このダインスレイフを最後に振るったリリィとして、必然的に一人の名前が浮かび上がる。

 

 

「――川添くんか」

「はい。当時の夢結のシュッツエンゲルにして、百合ヶ丘トップクラスのリリィ。……つかさ様とも親交の深かった、川添美鈴様です」

 

 それが一連の事象に対する答えとなるのか。

 なったとして、2年前に死んだ少女に答えを求めることが正しいのか。

 

 何も言えない沈黙こそが、抱える迷いの証明だった。




ギャリーさん

 常盤つかさ専用の外征用機動装甲車。
 通常の外征はレギオン単位でガンシップに乗って行くが、つかさは一人なのでギャリーさんを使っている。
 廃墟となった街でもごりごり進める走破性と、ヒュージの攻撃を弾くレベルの装甲を有している。
 学習型AIを搭載しているので操縦は基本的に必要なく、ピンチのときにすっ飛んできてくれたりもする。ギガント級ヒュージに体当たりかまして吹っ飛ばしたこともあるとかないとか。
 普段からそこはかとなくつかさの近くにいるらしく、携帯で連絡されると駆け付ける。その際は普通に会話しており、つかさ曰く「とってもハードボイルドなイケボ」の持ち主らしい。
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