「面白いものが出来たよ!盟友!」   作:黒夢羊

10 / 10
明けましておめでとう御座います。

感想と評価、お気に入り登録が何よりの喜びです。




第10話 傷ついた永遠

迷いの竹林。

 

その名は数多くある幻想郷の名所の中でも、人妖問わず高い知名度を誇る場所の1つである。

地理としては里から見て妖怪の山の正反対に位置しており、常に深い霧が立ち込め、緩やかな傾斜によって方向間隔は狂い、周囲の竹に傷をつけて目印にしようとも、ここの竹の成長は早く、下手をすれば帰りにはその目印は消えていることもあるため、アテに出来ない。

 

この迷宮と呼ぶに相応しい性質から自然から生まれる妖精ですら迷うとされ、余程の強運があるか、ここの地理を熟知している者に出会わなければ永遠に脱出することは出来ないと言われており、この場所の知名度が高いのも、不用意に近づき誤って立ち入らないようにするためだとされている。

 

 

かつては竹林の中にある永遠亭と呼ばれる日本家屋があり、そこのとある人物と取り引きを行った竹林の持ち主を自称する妖怪によって近づくことが出来なかった。

しかし不完全な満月と終わらない夜を生み出した『永夜異変』が解決して以降は人里では対応できない重患や、症状に対する診療所として解放されている。

 

また、狼女である今泉影狼を始めとした月に関わる妖怪が住み着くようになった。

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああ!?」

 

自身が踏みしめてきた竹林にそんな歴史があることを知らない真上は、この地で迷う心配よりも、今現在、己の目の前で起こされているこの処刑をどう止めるべきかに思考を割いていた。

 

──どうしてこうなったのか……と言うと、それは定期検診のため、里で薬を売り終えて帰路に着こうとしていた鈴仙に偶然出会い、道案内を頼み込んでいざ永遠亭にやって来た時のこと。

 

「ただいま帰りました~」

 

そう玄関の引戸を開けながら鈴仙が帰宅した意を告げ、中に入ろうとしたその時。

ガシッ!と、開いた玄関の向こうから延びてきた手が鈴仙の頭を掴む。

掴まれた鈴仙は抵抗する素振りすら見せず、身体中の水分を出し切るかの如く冷や汗をダラダラと流し、心なしかその体は小刻みに震えているように見える。

 

「し、師匠……?あの「随分と遅かったわね、鈴仙」

 

先ほどの浮わついた声は何処へやら。

完全に恐怖に染まった声色で必死に弁明をしようとする鈴仙の言葉を遮り、穏やかな……されど何処か威圧感のある声で師匠と呼ばれた相手は鈴仙の名を呼ぶ。

 

名を呼ばれた彼女はビクッ!と体を跳ねる。

急転直下とはまさにこの事。幸せの絶頂から地獄へと見事に叩き落とされた彼女は、これから自分に降りかかるであろう制裁を回避するため、この手を離してもらおうと諦めることはなく、弁明を続ける。

 

「待ってください師匠!帰りが遅れたのは事情がありまして!」

「……じゃあ聞かせてもらおうかしら?午後の診療の準備の手伝いに遅れた事情とやらを」

 

もう後がないから当たり前ではあるのだが、切羽詰まった様子で喋る彼女に師匠は渋々、といった感じで弁明の余地を与える。

たった一度、目の前の静かに怒れる修羅が自身に迫り来る制裁を避けるために与えてくれた唯一無二のチャンス。

ここは慎重に言葉を選んで──

 

「実は真上さんと「そう、なら大丈夫ね」っちょ、まっ──いだだだだぁ!?

 

──選んで、生き延びることに見事に失敗した哀れな月兎に、無情にも刑は執行された。

 

 

 

 

 

そして、今に至ると言うわけである。

 

ミシミシと、玄関の奥から伸びた手に捕まれた頭からは、決してその部位からは出てはいけない音が現在進行形で聞こえており、彼女の悲鳴も相まって相当な力が加えられていることが容易に想像できる。

 

他の師弟、主従組であれば只のじゃれあいだと眺めることが出来るのだが、如何せん刑を執行している相手が相手である。

そのまま鈴仙の頭部が握りつぶされることもあり得ない話ではない為、真上は己の用件を済ますためだけでなく、彼女を助けるためにも未だに鈴仙の頭に力を加え続けている手の主の名を呼ぶ。

 

「お取り込み中すいません、八意さん。定期検診に来たのですが……」

 

真上に名を呼ばれた手の主。不死の存在である蓬莱人にして永遠亭の凄腕薬師、八意 永琳は真上の存在に今気づいたといった風に「あら、」と小さく声を漏らし、その姿を玄関の外へ現す──鈴仙の頭を掴んだまま。

 

霧に包まれながらも、空に伸びる竹と竹の合間から差し込む日の光に当たる銀髪は淡く光り輝き、彼女の美貌に磨きをかけている。

そんな永琳は真上の方へ顔を向けるとその整った顔に、にこやかな笑みを浮かべながら彼の来訪を歓迎する。

 

「いらっしゃい、真上さん。定期検診でしたよね、少々準備があるので、中の待合室に案内させて頂きますね……優曇華、行くわよ」

 

そう言うとようやく鈴仙の頭から手を離し、真上を連れて歩く永琳。

解放された鈴仙は頭を押さえながらもホッとした表情を浮かべ、次いで慌てて2人の後を追って永遠亭の玄関の奥へと消えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これぞ日本家屋といった外見をしている永遠亭。

その中も木板で出来た床や、和室など昔ながらの和を感じさせる作りになっている。

その数ある部屋の1つである待合室にて待機していた真上は、暫くして部屋を訪れた鈴仙に連れられ診察室へと案内された。

 

消毒液の独特の匂いが漂う診察室で永琳は服を脱ぎ、さらけ出された真上の背中を看ながら険しい表情を浮かべており、隣で助手として控えている鈴仙に至っては見ていられないのだろう、時折り目を背けている。

 

 

平均的な男性よりも背が高く、やや筋肉質な彼の背中には肩から腰まで届く程に巨大な獣の爪で引き裂かれたような傷がその存在を主張している。

以前起きた異変、「霊奇狂異変」の際にある人物を首魁の放った一撃から庇った際に出来たもの。

見るからに痛々しいその傷を永琳は見落としがないように慎重に観察する。

 

(傷口もだいぶ小さくなってきているわね……化膿もしてないようだし、渡した薬の副作用もなし、と……)

 

真上への問診の結果を含めて現状は問題なし、そう判断した永琳は傷へ近づけていた顔を離す。

すると視界は当然、傷だけでなく彼の背中全体を収めることになるのだが、永琳の表情が更に険しくなる。

 

 

治りかけている傷の周囲、そこには所狭しに無数の傷跡が彼の肌に刻まれており、今看た傷と似た切創だけでなく、刺創や肌の変色から裂挫創や打撲傷も確認できる。

 

それぞれの傷単体で見れば、外の世界でも出来うる可能性があるものであり、それだけであれば彼女がそこまで気にすることはなかったし、鈴仙も眼を背けることはなかった。

問題なのはその量。背中だけでなく、肩や腕、そして着物に隠れている腰辺りにも見えることから、恐らく全身にあると思われるその傷跡達は、永い時を生き、多くの傷つく者を見てきた永琳でさえ始めて目の当たりにする量であった。

 

(──傷自体はもう塞がっている、壊死している訳じゃないから、人体の回復能力で治る範囲の傷……だけど、これは……)

 

 

「…………八意さん?」

「……っ、失礼。診察を続けますね」

「?はい、お願いします」

 

思考の海に沈みかけていた永琳の意識は、突如止まった彼女の気配に疑問を覚えた真上の声によって急浮上し、慌てて診察を再開させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、真上に補充用の薬を手渡し、違和感を少しでも感じたら出来るだけ早く此処に来るようにと何時もの注意を伝えた後に鈴仙ら因幡に道案内を任せ、彼を帰路に着かせた永琳は診察室の椅子に深く腰掛けながら思案する。

 

(あの傷の量と深さ……何度見ても同じことを思うけど、やっぱり普通の日常生活で出来るものじゃないわ)

 

傷自体は治っている為に化膿などの心配はないが、それでも傷痕が残り続けていると言うことは、それ相応の深さや強さでつけられたということ。

真上の過去を知らない永琳が、その傷がどうしてついたのかという答えに辿り着くのは難しい。だから彼女に出来るのは傷の形状などから想像することのみ。

 

(考えられる中で一番可能性が高いのは妖怪との戦いによるものかしら……ただ、そうだとしてもあの量の傷が残ることには色んな観点から疑問が残るけど)

 

神秘の薄れた外の世界で、未だに活動を続けている妖怪やそれら人外の存在が居ることは以前から知られている話で、真上の力と彼の性格から考えれば、それらから知人や周囲の人間を守るために戦っていたとしても何ら不思議ではない。

……最も、生きるのがやっとの外の世界で、ただでさえ少数の妖怪の中に、進んで人を襲うような、それもあれほどの量の傷を真上につけることが出来る者がどれだけ居るのか甚だ疑問ではあるが。

 

 

 

他ならば親の虐待を受けていたという線があるが、以前聞いた限りでは、真上は育ての親の事を尊敬しているそうだし、そう言った事が行われていたとは思えない。

となれば、産みの親だろうか。

 

 

 

 

 

 

「真上!来たのね!!」

 

彼女がそこまで考えていた時、ドタドタと慌ただしく近寄ってくる足音が聞こえ、やがて診察室の扉がバン!と力強く開けられる。

永琳は考察を止め、その扉を開けた人物の方にため息を付きながら向き直り、淡々とした口調で話す。

 

「残念だけど、もう彼は因幡達と一緒に出ていったわよ……輝夜」

 

彼女に"輝夜"と呼ばれた相手は、余程急いで来たのだろう。ゼーゼーと息は荒く、その艶やかで腰よりも長く伸びた黒髪は乱れ、ピンクの上衣や、赤く日本情緒を連想する金色の模様が描かれたものを初めとした三重のスカートといった、和風仕立てのドレスのような服は所々が乱れている。

 

「全く、はしたないわね」と呆れ混じりに嗜める永琳に、息を整え終えた"輝夜"は俯いていた顔を上げて永琳を睨んだことで、髪に隠れていたその美貌が明らかになる。

 

絶世の美女という言葉すら彼女の美しさを表現するには足りない……そう思わせるような、極限まで高めた美しさと可愛さを合わせた彼女の名は蓬莱山 輝夜──かの有名な日本最古の物語、「竹取物語」に出てくるかぐや姫その人である。

 

「何でもっと早く教えてくれなかったのよ……こうしちゃ入られないわ、今すぐ──」

「待ちなさい」

 

そんな老若男女を問答無用で魅了してしまう程の顔で永琳を睨む輝夜だったが、それすらも時間が惜しいとばかりにそのまま玄関の方へと走りだそうとする。

しかし、輝夜が目を離した一瞬の間に、音もなく近づいた永琳が彼女の肩を掴んで阻止する。

 

掴まれた輝夜は最初は恨ましげに永琳の方へ顔を向けていたが、その表情には諦めの色が次第に浮かんでいき、最後にはため息を1つ。

いかにも不服だ、と分かるような声色を出す。

 

「……分かってるわ、冗談に決まってるでしょ」

「その割には随分と焦ってたように見えたけど?」

「………………気のせいよ」

「そこはせめて即答しなさいよ……」

 

自分から目を剃らした上で、暫し悩んだ後に永琳の質問にも答えた輝夜。

その答えにより一層呆れた様子でため息を吐き、こめかみを押さえる永琳だったが、「ちょうど良いわ」と呟き輝夜を診察室の中へ入れる。

彼女に腕を引かれるままに輝夜は後を追うように部屋の中へと消えていく。

 

 

 

 

 

「ねぇ、たいして変わらないから別に見せなくても良いんじゃないかしら?」

「いいから、見せない」

 

渋々といった様子で、永琳の指示に従い着物の袖を捲り、包帯が巻かれた右腕を彼女の前に付き出すように見せる。

包帯を取ったそこには陶器のように決め細やかな柔肌。何も描かれていないキャンパスに絵の具をぶちまけたかのように、1つの傷跡がそこには刻まれていた。

獣の爪で引き裂かれたかのような形状をしているその傷は、つい先程つけられたばかりではないかと言うほどに新しく、今にも傷口から血が流れそうである。

 

「……やっぱり、まだ治りそうにはないわね」

「そうね~痛みとかはもう感じないんだけど」

 

それを目にし、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらそう悔しそうに呟く永琳と、それと反対になんてことはない様子と反応を返す輝夜。

 

永琳がこんな表情を浮かべるのにも訳がある。

蓬莱人とは『肉体が滅んだとしても飲んだ者の魂を主体として即座に好きな場所に肉体を作り直し、生き返ることが出来るようになる』という効能を持つ薬である『蓬莱の薬』を服用することで、文字通り不老不死となった者達の呼び名であり、永琳と同様に輝夜もこの薬を服用している。

先に説明した効能から分かる通り、彼女たち蓬莱人の不死性は単に自己再生能力の極限化といった類のものではない。

不老不死は変化を拒絶するという事であり、その性質上、傷の治りは早くなるし年も取らなくなり、例え髪の毛一本すら残っておらずとも効能によって別の場所に肉体を再生するのも可能になる。

 

要約すれば現状、あらゆる手段を費やしても蓬莱人である彼女達を殺すことは不可能である……という話である。

勿論、心理的に痛め付け廃人にする。封印の術を施し封じ込めるといった方法を取ることで実質的に殺害することも出来なくはないが、片や退屈を壊すために禁忌を置かした姫と、片やその姫に付くためにその場に居合わせた同郷の者を皆殺しにした薬師である為、実質無理な話だ。

 

辛うじて可能性があるのは、八雲 紫の境界を操る能力だろうか。

 

 

そんな蓬莱人である輝夜が傷を負う。

それ自体はたいした問題ではない、直ぐ様にその受けた傷は修復される筈なのだから。

しかし、二人の眼前に見えるその傷は今しがた付けられたモノではなく、先の異変の首魁との攻防の最中、相手によって付けられたものである。

 

人間である筈の真上が受けた傷は、時間はかかっているが、それでも回復の傾向にあるのに対して、輝夜が同じ相手から受けた小さな傷は一向に治る気配を見せていない。

 

「これじゃ、薬師失格ね……」

 

そう思わず永琳は呟く。

あらゆる薬を作る事が出来る彼女は、無論今まで培ってきた全ての知識と経験を用いてこの傷を修復させる薬を作ろうとした。

しかしそのどれもが効果を見込めず、未だに直すことが出来ずにいた。

 

過去に輝夜と共に禁忌とされる薬を作った際に、自分は服用しなかったとは言えど、彼女だけが罪を負ったことに責任を感じ、立場を捨て去り従者となるだけでなく、同じ禁忌を犯すほどの行動を起こした永琳としては、教え子の身に起きた異変すら直せないのかと、己を責めていた。

 

「気にしない方がいいわよ?……むしろ永琳は、この程度の傷でどうにかなるほど私が弱いと思ってるのかしら?」

「……そうね。いつだったか、酒に酔った振りをして惚れた相手に弱々しいアピールをしていたから、ついね」

「ぶっ!?…………どこから見てたのよ」

 

そんな彼女の心中を察してか、どこか揶揄うようにそう口にする輝夜。

聡い永琳には、その気遣いが伝わったのだろう。

以前、真上がここに入院していた際に偶然目にした光景を語ると、輝夜は予想外の反撃に思わず吹き出す。

「汚いわね」と、何時もの調子で飛んできた飛沫を払う仕草をしつつ、主である少女の追求を躱すかのように新しく作った薬を塗った後に、再度傷を隠すように包帯を巻いていく。

 

「しっかし、驚いたわね。まさか蓬莱の薬が効かないような事が起こるなんて、長生きはしてみるものね」

「…………ええ、本当にそうね」

 

巻かれた包帯に眼をやりながら感心した様子でそう呟く輝夜に同意する永琳。

その様子にもう大丈夫だろうと判断した輝夜は用が終わったとばかりに診察室から出ていく。

……そしてそのまま永遠亭の外へ行こうとして永琳に再度止められるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

子供のように駄々を捏ねる輝夜を「今度、真上と会う機会を設ける」と、とうの本人を無視して勝手に取り付けてどうにか宥め部屋に返した後に自室へと戻った永琳。

棚に納められた一冊の本を手に取り、座布団の上に腰を降ろすと、パラパラと捲っていく。

 

中身を見ると帳面なのだろう。

白紙の紙の上にびっしりと、それでいて分かりやすい配置で文字や図などが書かれており、その内の1ページに手を止めるとまだ空きのあるそこへ筆を取り、書き込んでいく。

 

(炎症を改善させる薬を少々弄って塗ってみたけど効果は無しで、炎症の線も消えた……と)

 

炎症?と書かれた文字列に線を引き、再びパラパラと帳面をめくり、まだ何も書かれていないページを広げる。

そこへサラサラと書き込んでいく。

 

(ある程度候補を絞って試したけど、輝夜の傷にはどの薬も効果は無かった……けど、彼には塗り薬の効果はあった)

 

そこでピタリ、と彼女の手が止まる。

真上と輝夜の違いは上げれば多くある。性別、年齢、瞳や鼻といった体を構成する各パーツの形状に骨格、背丈、思考……その中でも最も異なる事はなんだ。

 

(やはり蓬莱人だからということかしら?……だとすると今回の件、何時もの騒ぎだと片付けるのは危険ね)

 

そもそもの話、永遠亭が襲撃されること自体が珍しいケースなのだ。

ここの存在が明らかになって以降、一般公開しているとは言え、たどり着くには迷いの竹林という迷宮を乗り越えなくてはいけない。

例えば竹林に住む妖怪や、永琳達と同じく蓬莱の薬を服用した白髪の少女に頼めばたどり着く事はできる。

 

彼女は襲撃してきた者達の様子を思い出す。瞳は血のように真っ赤に染まり、口からは獣のように涎を垂れ流しながら暴れ狂う。

その姿に理性は無く、とてもではないが案内を誰かに頼めるような状態ではなかったように思えるし、そして何よりも、そんな者の案内係を努めるような者も居ないだろう。

 

 

確かに、迷いながらも出鱈目に走り続ければいつかは此処へたどり着けるかもしれない……だが、それが数十体も同時に起こり得る現象なのか?

群を作って行動していたなら納得はできる。しかし、あの理性を失った状態の者達が隊列を成して行動するとは考えにくい……となれば。

 

(何者かが呼び寄せたという風に考えるべきでしょうね、問題なのはあれだけの量の狂った妖怪達を従えられる奴が居るってこと)

 

一応、異変の首魁とされる者は判明はしているが、実際に合間見えた霊夢や輝夜達によると襲撃を仕掛けた者達と同じような状態であったという。

そんな奴が他の妖怪を従えられるかと言われれば、否と言わざるを得まい。

ならばソイツとは別にあの異変を裏で起こした黒幕がまだどこかにいる筈で、今のところは動きは見られないが、それでも虎視眈々と次の機会を狙っていることは明白である。

 

(永遠亭を意図的に襲撃させたと考えるなら、あの子が受けた傷が治らないのも、あくまでも推測の域を出ないけど分かってくるところがある)

 

あらゆる薬を作る程度の能力を持っている永琳だが、その能力はあくまでも膨大な年月から得た知識から来るものであり、無から薬を作ることも出来ない。

故に彼女の知らない未知の毒や病原菌に効く薬を作ることは出来ない……最も、その知識量と天才と言われる頭脳を用いて原因を突き止めることが可能なために大抵の場合は問題はないのだが。

 

そんな永琳でもほんの僅かではあるが得手不得手がある……その1つが鬼や霊などに対抗するために、人が編み出した呪術や陰陽術と呼ばれるもの。

平安時代以降、月を離れ地上で身を隠しながら過ごしていた為に多少はそれらに関しての知識は存在するが、それでも行動を制限された状態で得られる知識量は限られてくる。

更には使い手によって術が大小異なる変化を見せるというのも彼女が知識を得る為の障害となっていた。

 

なんにせよ、蓬莱人に傷を残し続ける特異性や同じ相手から攻撃を受けた筈の真上が癒えている点から、そういった類いのモノではないかと予測できる。

 

……ただし、もし本当にそうであるのなら。

偶然かどうかは分からないが、それを作り出した相手の実力は底知れない。

何せ月の戦力は昔の、そして博麗の巫女などが参加していなかったとはいえ、幻想郷の妖怪達が束になろうとも撃退できる程である。

そんな月の住民達が幾ら手を尽くしても殺すことが叶わなかった蓬莱人に(治療の目処が立っていないだけとは言え)治ることの無い傷を負わせたのだ。

 

たったそれだけでも、警戒するには充分すぎる理由である……それに。

 

「今度、スキマ妖怪に改めて話をするべきね」

 

そう言って帳面を閉じて元あった棚に戻した永琳。

その瞳には輝夜を傷付けた相手に対する怒り──だけでなく、異変に関する一連の情報に違和感を感じさせていた。

 

(なんなのかしらね……この何処かで感じたような違和感は、ここまで引っ掛かってるのなら、何かしら覚えてる筈なのだけど)

 

 

そんな疑問はその後、帰路の案内にしてはやけに時間をかけて戻ってきた鈴仙の声で頭の端にへと追いやられる。

笑みを浮かべ自身の部屋を出る永琳。

 

その後、鈴仙の悲鳴が竹林に響き渡ったのは言うまでもないだろう……合唱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございました。

永琳さんが輝夜さんの受けた傷を治せない点について、この方の技術や実力面からして「おかしいのでは?」と思う方もいらっしゃると思います。
本作では薬作り出す際に調合元の薬品や元材料は必須であり、無から作り出すことは不可能であるとしています。

また、永夜抄のEDにて「あらゆる薬の知識を持っている~」との発言があり、膨大な知識がある為にあの回復が行えるのならば……薬の知識外の呪術などにはそれほどの知識がないのでは?と考えました。

……まぁぶっちゃけ天体を操ったりする術を使う方が人間の編み出した術を知らないというのも無理があったりしますし、なんなら雲隠れは永琳さんの結界で出来ていたので、あの方の実力なら情報収集も以外と余裕出来ていたかもしれません。


そうなってしまうとかなり後々に響いてしまうので、永琳さんと輝夜さんは、公式の情報などから見える実力からやや弱体化をさせて頂いています。
ファンの方には大変申し訳ありません。




今後の展開の優先度について

  • 幻想少女とのやり取り重視
  • 異変について
  • 外の世界の友人達との再開
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。