自己満足のつもりで書き始めた作品が3000UA行くとは思いませんでした……。
これからもなるべく続けていきたいと思うので宜しくお願いします。
「なにも反応がないと思えば、見えないところで人物観察と来ましたか、妖怪の賢者は随分と良い趣味をお持ちのようですね」
「ええ、それぞれ千差万別の反応があるのでやめられませんわ」
皮肉を言ったのに、それを全く意に介することなくさらっと受け流される。
相変わらず食えない性格をしている──内心舌打ちをしつつ、到底自分の想い人には見せることの出来ない険しい顔をした夢子を見て紫はあらあらと余裕たっぷりの笑みを浮かべ。
「あら、怖い怖い。そんな顔をしていたら彼に逃げられるわよ」
「胡散臭い笑みを浮かべ続ける怪しさ満点の少女よりかは幾分かはマシだと思いますが」
そう言った瞬間、たった一瞬だけだが紫の眉間にシワが寄ったのを夢子は確かにその眼で捉えた。
「ふ、ふふ……冗談が下手ね。普段の真面目さが仇となったのかしら」
「冗談もなにも、ただ単に事実を述べただけですが」
ぐはっ。
そう一言、鋭い一撃を貰ったかのような反応をしたのは夢子の眼前で先ほどまで、余裕綽々と言った雰囲気を醸し出していた紫。
よろよろと足下が小鹿のように震えているは決して幻覚などではないだろう。
「た、例えそれが事実だとしても対した問題ではありませんわ、彼は貴女が言った胡散臭い笑みに対して「綺麗ですね」と返してくれたのですから」
「能力を無駄使いして少女の見た目から妙齢の女性に姿を変えていた時の話ですよね、それ」
「な、なんでそれを!?」
あまり起伏のない胸を張りながら語るその顔はやけに自慢げであり、何故かは分からないが少しむかつくので、先程真上との思い出に浸っているところを覗き見していた分も含めてとある筋──九本の尾を持つ女性がうっかり溢した愚痴──から手に入れたカウンターを叩き込む。
対する紫は大小なりとも悔しがると思っていた所に、それを躱された上に繰り出された見事な返しの一撃に驚愕する。
「素敵に思われたいと言うのは分かりますが、体全体を作り替えるのはどうかと思いますし」
「がはっ!」
「着飾ると言えば聞こえは良いですが、貴女の場合それは詐欺の手口ですよね」
「ぐほっ!」
「そうなると貴女は姿を偽って男を騙そうとする胡散臭い笑みを浮かべる隙間妖怪ということになりますが、そこら辺はどうお思いで?」
「げぶらっ!」
ここぞとばかりに畳み掛けてきた夢子の言葉の弾幕に全て被弾してしまった紫は下が土であるのにもお構いなしに膝を付き、ガックリと落ち込む。
それを見て溜飲がある程度下がった夢子は今回紫が自らを呼び出した要件に話を切り替えることにする。
「話は変わりますが──それで、妖怪の賢者様が魔界のメイドごときにいったい何のご用でしょうか」
その一言を聞いた途端、先ほどまでショックを受けていた少女の姿は消え去り、再び大妖怪、八雲 紫としての姿に戻る。
その代わり様は先程までが全てがお遊びの演技であり夢子の口撃に敢えて相手をしていたと言われても何ら違和感は抱かない──その割りにはショックを受けていた時の反応は中々に真に迫っていたが。
夢子は氷点下の視線を向けるが、そんな視線を向けられてもなお、その胡散臭い笑みを今度こそ崩さない紫はわざとらしく「あら、そうでしたわ」と口にすると。
「以前貴女達の魔界で起きた事件について、再度少々聞きたい事がありますの」
「……と言うことは例の件について何か進展があったと言うことでしょうか」
「ええ、とは言っても相手方がこう言うことに手慣れているのか、集まってくる情報はまだまだ断片的ですが」
「分かりました、改めて此方の情報を提供したいと思います」
感謝致しますわ。そう感謝を告げた紫がおもむろに指をパチンと鳴らす。
すると何もなかった空間に先程同様の切れ目ができ、開いたその中から無数の眼が此方を世界を除く。
「取り敢えず、立ち話というのも何ですので……場所を変えるとしましょうか」
桜の花弁がまだ空を舞う姿を見ることが出来る、暖かい気温の中で肌に触れる春風が心地良い朝。
満点の青空の中で存在感を示す太陽に照らされた紅魔館の門前で、私はこの館の門番である
互いに動かないままの時間が暫く経過していたが、私が少し大きめに息を吸った瞬間、妖怪としての身体能力を駆使してだろうか、約10mは離れていたであろう此方との距離を一気に詰めてくる。
驚く私を気にすること無く迫ってくる右拳を己の体を左にずらしつつ、左手で彼女の右腕をいなし彼女の側面へと回り、拳をいなされた事でほんの少し崩れた体制を立て直した紅さんが、軽く後ろへ下がったこと思えば直ぐ様回し蹴りを此方の頭部めがけて放ってくる。
それを右腕で防ぐが、人外である妖怪の脚力から出されるその蹴りの威力は非常に強く、それを受け止めた右腕はビリビリと痺れる。
今現在紅さんは片足を蹴り上げたままの隙だらけの体制ではあるが、彼女の高い身体能力と格闘家としての技術を持ってすればこの状況から立て直し、次の攻撃へと移ることは比較的容易になる。
なら、その攻撃に移る前に仕掛けるべき。そう判断した自分は彼女の胴体に潜り込もうと一歩踏み出したのだが──
「ッ!?」
直後、己の直感がそれは危険だと桁まししく警鐘を鳴らし、それに従うように大きく後ろに跳ねるように退けると先ほどまで自身の頭部があった場所を紅さんの空いていた方の脚が蹴り上がっていくの様子が視界に入ってきた。
何が起きたのか一瞬理解できなかったが、その後紅さんの視界の下から上半身が現れるのを見てどうやら体を後ろに倒して縦回転を行い、その勢いで蹴り上げようとしたのだろう。
人間であれば視界が反転する上に相手を見失い、それ故に蹴り上げた脚が当たるかどうかも運の要素が入る為にいまの状況で使うかといえば怪しいが、紅さんであれば私にそれ相応のダメージを与えることは充分に可能
──それに、仮にあの蹴り上げた脚を上手く避けて下で体を支えている両腕や上半身を脚払い等で狙おうとしても、それすらも上手くかわされていたような気がする。
ともあれ私が後ろに退けたことで密着した状態から一転、最初の時のように互いの間に距離が出来る。
再び互いが相手を見つめあうという時間が流れるが、次に仕掛けるのはこちら。
神経を紅さんの観察に集中させ、一瞬の隙も逃すまいとしていたら、彼女がこれ見よがしに、素人目の私でも分かるような隙を晒した。
まるで「攻めてこい」と言わんばかりに作られたその隙だが、このまま膠着していては先と同じような結果が生まれるだけ。
だとするなら攻める他ない。
大地を蹴り紅さんに接近すると拳を左、右と次々に繰り出すも体を反らす、受け流すと言った最小限の動きで躱されていき、しまいには脚払いによって体を中に浮かされる。
そのままだとそこからの追撃をまともに受けて終わってしまうので、浮いて横になりかけている体を全身を使って回転させ、その勢いにのせて彼女に向けて蹴りを放つ……が、それすらも受け止められ、逆に伸ばした脚を捕まれ地面に叩き付けられる。
肺から一気に空気が抜ける感覚に動きが鈍くなるが、直ぐに追撃を避けるために横に転がり立ち上がろうとした眼前には紅さんの拳が。
ここまでかと思った私は両手を上げ、未だに拳をこちらに突きつけたままの彼女に向かって降参の意を告げる。
「参りました」
「……はい、お疲れさまでした」
すると、先程までの鋭い雰囲気はあっと言う間に消え、そこには頬に一筋の汗を流しながらも穏やかな笑みを浮かべる人の良さそうな方しか居なかった。
「立てますか?」
そう言って差しのべてくれた彼女の手を「少しきついかもしれません」なんて良いながら握ると、「仕方ないですね」と、言葉とは裏腹に何処か嬉しそうな声色で引き上げてくれる。
──さて、改めて私こと葛之葉 真上は前からこうして紅さんに格闘戦の修行を付けて貰っている。
理由としては自分の経験不足とダウンした戦力を補うため。
自分がこの幻想郷にやって来てから起きた最初の異変。その首魁とも言える存在との戦いで、自身の式であるシドとサジが弱体化してしまった。
こちらに来る以前、つまり外の世界で時折不穏な気配を纏った物の怪と戦う事があったけれど、その殆どが接近戦は己の式神であるシドやサジに任せ、自分はそれを支援するというもの。
現に外の世界では大体がそれで問題なく片付き、少し手強かった相手も自分の支援によって対処できていた。
だが、今はそうもいかない。
確かに妖怪の山や時折人里を襲おうとする低級妖怪であれば弱体化しているとは言え、今までの戦い方でもさほど問題は起きないが、問題なのは中級・上級クラスの妖怪と相対した時。
以前であれば拮抗した勝負を繰り広げられた相手とも戦えるか怪しく、その上術者である自分を狙って来るならば防戦一方になってしまうだろう。
……元々、幻想郷にやって来てからは自分の力不足を強く感じていて、特に4人に増える事が出来るフランドールさんと戦った時は、彼女を搦め手で落ち着かせるという方法を取ることしか出来なかった。
私の育ての親の叔父さんは古くから続く対魔師のような家系の者で、私とは比べ物にならない程の実力者らしい。現に数回程だけ叔父さんが実際にその力を振るう所を見たことがある。
そのどれもが圧倒的で、対峙していた物の怪を一瞬で蹴散らしていた……あれで準備運動だと聞いた時には思わず聞き返してしまったのは仕方ないと思う。
自分も叔父さんとまでは行かなくとももう少し術師としての力を強めたいと思っている。
それに関しては博麗さんに修行を付けて貰おうとしたのだけど、どうやら自分と博麗さんの扱う力の類いが別物らしく今は時折側で見てもらい、それに対して彼女がアドバイスをするという形に落ち着いている。
そして次に問題となるのが自分の接近戦の経験不足で、先にも話したが、これが紅さんに修行をつけて貰っている理由である。
フランドールさんの時には既に分かっていた事で、術者の自分の身体能力がある程度あれば、狙われたとしても対処が出来る事が増えるだろうし、何よりもシド達を守りに下がらせなくても良いので手数が増える。
紅魔館の皆さんと関係を持つようになってから紅さんには相手をして貰っていたけど、異変が終わってからはより一層この修行に打ち込むようにしている。
しかし、現状は未だに紅さんから1本を取ることが出来ておらず、その上種族としての身体能力の差があるとは言えある程度の手加減をして貰っている。
確かにそういう事をあまり今までやってこなかったとが無かったとは言え、手加減をされているのに1本も取れないというのはなんとも情けなく感じる。
……いや、それは紅さんに対して失礼だな。
確かに身体能力の差はあれど彼女が培ってきた技術があってこそのあの強さだ。手加減されるのも、1本も取ることも出来ないのも当たり前で、それを情けなく感じるのは違う筈。寧ろほんの少しでも、遥かに開いている差を詰めることが出来たと喜ぶべきだろう。
それにしても幾ら負け続きとは言えそんな失礼な事を考えてしまうとは、まだまだ修行不足ということか。
そんな自分に対して思わず小さいため息が漏れてしまい、それが聞こえたのか紅さんが首をかしげながら聞いてきた。
「どうしたんですか?真上さん」
「……いや、改めて自分の軟弱さに対して嫌気がさしまして」
「そんなこと無いですよ?確かにまだ大きな動きや迷いがありますけど、最初の頃よりも格段に良くなってますよ」
そう言う意味での軟弱という言葉を使った訳ではないのだけれど……いや、実際にまだまだ弱いというのは事実だが。
自分としては今はまだそう言う実感がわかないが、彼女がそう言ってくれるのなら、きっと良くなっているのだろう。
よし、と自分の頬を軽く叩くと再び体に気合いを入れ、自分とは反対にまだまだ余裕がありそうな紅さんと再び向かい合い、修行を再開する。
結局。太陽が頂点に登り、自分も仕事に向かわなければ行けなくなる昼頃まで彼女との修行は続いたが、今日も1本を取ることはおろかまともに一撃を与えられることも出来なかった。
修行を終え、体中から吹き出る汗をこちらが渡したタオルで拭き取る真上さんを横目で見ながら私──紅 美鈴は考える。
外来人のこの人が幻想郷にやってきてからどれだけ経つでしょうか。初めて会った時に困ったような笑みを浮かべながら「一晩だけで良いので、宿を貸してはいただけませんか」と、真上さんがそう言わなかったら紅魔館はどうなっていたのでしょうか。
きっと今のようにお嬢様と妹様が手を取り合って笑い合い、時に喧嘩し、仲直りしてまた笑い合う。そんな夢のような光景は見ることが出来なかったような気がします。
成り行きとは言え、お嬢様と妹様の擦れ違った思いを戻してくれたのは事実で、この人には感謝してもしきれないですね……当の本人はその時の方法が余程納得いかないのか、未だにお嬢様達に対して引け目を感じているようですが、私としては結果として皆幸せになれたのでそこまで申し訳ないと感じる必要はないと思うんですけど……。
そんなことを以前、真上さんに言ったら全力で否定されたのはビックリしましたね。この人、何処か自分や自分の行動を卑下しやすい所があるのが難点ですよね~。
まぁでもそれを補える程に優しいですし、卑下しやすいものこっちが肯定してあげれば良いだけなのでそこまで欠点ではない気もしますね。
「そう言えば今日咲夜さんの姿が見えませんが……」
「あー……」
そう言ってキョロキョロと辺りを見回す真上さん。
私が真上さんの修行に付き合っている時ほぼ必ずといって良いほど咲夜さんがやって来るが、その理由は勿論真上さんとの関係を改善するためだ。
先の一件の際、真上さんはお嬢様の本当の気持ちを妹様に聞かせるため、お嬢様と咲夜さんに妹様が無惨にも真上さん達に殺されるという内容の幻覚を見せた。
それに対してかつてない、激怒という言葉が生温い程の怒りをお2人は見せたようなのですが、全てが終わった後にどうやら言い過ぎたと反省しているようで。
真上さんは真上さんで幻覚とはいえ、お二人にとって大切な妹様を殺したことに関してかなり負い目を感じてるので何処か距離を置いている。
それが咲夜さんやお嬢様にとっては真上さんから苦手意識を持たれてると思っているようで。お嬢様はことある事に真上さんを夜のパーティに招待しようとしていますけど、長い間お嬢様に仕えている咲夜さんはともかく、人間と吸血鬼は生活リズムが違うので真上さんがパーティに参加することは殆どなく。
お嬢様がパーティの招待状を咲夜さんに託して、咲夜さんがそれを持って真上さんに会いに行って招待状を渡し、それを見た真上さんがやんわりと不参加を伝え、それを聞いた2人は落ち込む……というのが最近の紅魔館で良く見られる光景になりつつある。
咲夜さんに関しては真上さんとの関係を改善……元々悪くはないんですけど、交流を通じて良い印象をもって貰おうと人里によく行くようになりましたし……まぁ、単に改善改善の為だけに行ってる訳じゃないと思いますけど。
確かにライバルは多いですし、焦る気持ちも分かるんですけど、焦った所で良いことなんてあまりないと思うんですよね。
それに結局どれだけアプローチしても気付かれなかったら意味がない上に変に勘違いされる可能性もあるから、こういうのは確実にコツコツと距離を詰めていくのが一番なんですよきっと。
……なんて恋愛初心者の私が行っても説得力無いですよねぇははは。
──それにしても。
こう、好きな人だから贔屓目に見ているというのを考慮しても真上さんの成長速度はかなり早いと思う。
始めた当初は初撃すら耐えることが出来なかったのに、今ではその何十倍ものやり取りを行えるようになっている事には素直に称賛の言葉を送りたい。
更に、本人が無意識で行っているのか分からないですけど、最近は私が扱う気のようなものを身に纏うことが時折見かけられるようになってきました。
……改めてこう考えると、式神を従えていたり、霊夢さんのような術が使えたりと本当に外来人なのか怪しく思えますよね。
私達の周りにいる人間が霊夢さんと魔理沙っていう半ば人間離れした人しかいないので忘れそうになりますけど真上さんだって充分人間という種族のなかでは強い部類に入る。
格闘術だって我流でしかも初心者ではありますが、決して悪くない線を行ってますし、元々の身体能力も決して低くは無いですから。
そう思えば、私って真上さんの過去とか殆ど知らないんですよね。
私がそう言うのをあまり気にしないっていうのもありますけど、真上さん自身が過去というか外の世界にいた時のはなしをまったくと言って良いほど話そうとしない。
以前、何時だったか妹様に外の世界での生活について聞かれていた時も、此方で言う寺子屋の様なところに通いながら友人の探し物に付き合っていたと言うことしか話さず、それ以外の事ははぐらかしていた。
そうなると、私だけでなく幻想郷でこの人と関わっている全員が彼の過去について知らないのでは。
うーん、謎は深まるばかり……です……か。
ただ、話さないってことは恐らくはあまり良い思い出がなかったのかもしれませんね……もしそうならその思い出が薄れていくのを願うばかりですね。
ふと空を見上げれば暖かな春の陽気にぴったりの青空が広がっており、もしあの人の心に曇りがあるならこの空のようにいつかは晴れると良いな思いつつ、私は帰路に付く真上さんを見送った。
今後の展開の優先度について
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幻想少女とのやり取り重視
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異変について
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外の世界の友人達との再開