「面白いものが出来たよ!盟友!」   作:黒夢羊

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第9話 知外の産物、潜む謀略

何処にあるとも知れない場所にポツンと佇む、古き良き日本家屋、その居間で八雲 紫は困惑した表情を浮かべていた。

それにはつい先程までこの場に居た夢子が彼女に提供した情報が原因。

 

──『私が以前追跡した者が使用していた転移術ですが……私達、魔界人が造り出したモノと酷似していました』

 

 

あり得ない。

夢子から告げられたその内容に対して、紫の心の中での結論はその一言に尽きた。

 

 

魔界と幻想郷が関わりを持ったのは幻想郷に魔物と呼ばれる存在が定期的に現れることになったのが切欠であった。

 

それらは当時既に博麗の巫女であった霊夢が退治していたが、幾ら倒せど倒せど魔物は一定の期間を経て現れる。

これではキリがないと霊夢が原因を探ると、魔界へ通じる扉がとある洞窟にある事が判明し、魔物はその扉を経由して幻想郷に現れていることも。

 

事態の収束を図るためにその扉から魔界へと向かった霊夢と、観光ついでに着いてきた魔理沙。そして、各々の事情で魔界へと同時期に向かっていた魅魔と幽香の手によって解決し、魔物が出現していた扉の封印と、ついでとばかりに魔界人が幻想郷にやってくることを禁じることを約束させた…………前者はともかく、後者は末端の制御に創造神とは言え手が回っていないのか、時折幻想郷に魔界人がやって来てはいるために守られてはいないが。

 

 

その為、魔界の住人と幻想郷の交流は──向こうが無理矢理押し掛けてきている形ではあるが──未だに続いている。

そこまでで紫は気になったことが2つあった。

1つ目は何故、魔界へと通じる扉がひっそりと、それこそ霊夢が原因を探るまで気付かないような場所にあったのか。

さらに扉を通じて現れる魔物はどれも危険なものだった、それこそ、博霊の巫女が出向かなければ行かない程に。

下手をすれば幻想郷のバランスを崩しかねないそのようなものが創設当時にあれば、間違いなく紫は排除していたであろう。

……だが、その扉はいつの間にか存在していた。

忘れ去られたものを受け入れるのが幻想郷だが、その扉は『忘れ去られたもの』というにはかなり無理がある代物であった事。

 

 

2つ目は、魔界の住人は何時、何処で幻想郷の存在を知ったのか。魔界と幻想郷は外の世界のように結界で区切られているわけではない、完全に別の異世界である。本来であれば魔界の住人は幻想郷という場所があることすら知らないのが当たり前なのだ。

紫もその時はじめて魔界という異世界があることを知ったのだから。

 

 

ここから見いだされる答えは1つ。

扉を設置し、幻想郷の存在を魔界の住人に教えた何者かがいるということ。

前者と後者が同一人物なのかは分からない。だが、前者の行動に関しては明確な悪意、もしくは敵意を感じていた。

 

 

だが、いったい誰が?

両方とも幻想郷と魔界、それぞれの存在を知らなければ出来る芸当ではない。

 

 

(そう考えるのは早計かしら?でも……)

 

扉に関しては偶然、こちらの世界と魔界を繋ぐ扉を作ってしまった、あるいは繋がってしまったと考えることも出来る。

 

もしそうであるなら、妖怪に対抗するために里の人間が何らかの呪術、もしくは儀式を行った結果に出来たもの?しかし里ではそのような報告は上がってきている様子はなく、それに置かれていたのは里の外、それこそ妖怪が跋扈する場所。

扉自体、魔方陣のようなもので持ち運びは恐らく不可能。だとするならばその場で『何か』を行った……わざわざ危険を冒して?

里を危険に晒さないために、敢えて人間の被害が出ない場所で行ったと言うのなら説明はつく。報告が上がっていないのも、その『何か』を行った者自身が、里での居場所を失うことを危惧したのだとしたら一応の納得はできる。

 

 

……だがそうなると、その人物はどうやって、その『何か』を見つけた?

 

 

(……不透明な事が多すぎるわね)

 

答えにたどり着くための証拠は数多くあるが、しかしそのどれもが決定的なものには至らない。

まるで、拾いあげ悩むこちらを嘲笑っているようなそれら全てがその何者かによって意図的にバラまかれたかのように。

 

 

言い表しようのない気持ち悪さが頭の中に浮かぶのを紫は感じつつも、自身の手元に揃っている情報から、彼女は魔界に関する一連の出来事は同一人物によるものではと睨んでいる。

……確かに、先の"扉は第三者による偶然の産物"という説のように全て異なる原因があり、それぞれは全くの無関係ということも充分にあり得る。

 

だが、それでも長い時間を生き、培ってきた本能とも言える第六感が警鐘を鳴らし続けていた。

 

カチコチ、カチコチと壁にかけられた時計の針の音だけが響く時間がしばらく続いたかと思うと、溜め息と共に紫は閉じていた目を開く。

 

「……ふぅ、駄目ね。情報が揃ってないんじゃ、幾ら考えたって限界があるわ」

 

正直なところ、今回起きた異変……『霊寄狂異変』についてすら未だに分かっていない部分があるのだ。

異変を起こした存在は全て消滅し、残ったのは霊夢との死闘の末に倒された首魁と思われる異形の天の邪鬼の死体と、決して小さくない傷を負った幻想郷。

 

異変を起こした目的を知ろうにも首魁らしき者は既にこの世に居ないため聞き出せない……もっとも相対した霊夢の話を聞くに、仮に生きていたとしてもマトモに話せるかどうか怪しかったが。

 

「なんにせよ、ここまでしてくれたんですもの。相手が誰であろうがそれ相応の罰は受けて貰わないと……ね?」

 

自身の愛する幻想郷を傷つけた者に対する紫の怒り。言葉に込められたその思いに呼応するように、彼女の周囲にどす黒い妖気が集まり始める。

可視化したそれは、例え幻想郷屈指の実力者である者達であろうと冷や汗を流し、その重圧に屈するであろうもの。それを察知し逃げ去ったのであろう。先ほどまで聞こえていた鳥達のさえずりは聞こえなくなり、その気配も消え去っていた。

 

次第に集まった妖気だけでガタガタと家具だけでなく家全体が紫に恐怖しているかのように震え始めたその時。

 

 

「まっ、それは後にしましょう………それよりも」

 

そう言うと集まっていた妖気は一気に消え去り、周囲の気温も心なしか元に戻っているような気がする。そんなことはお構い無しに、紫は鼻唄を歌いながらおもむろに空中に手を伸ばし、その先にスキマを広げる。

本来であれば無数の眼が動くその空間に、どういった原理かとある家内の映像が映し出される。

 

そこには、そわそわと落ち着かない様子の自らの式である藍と、反対に落ち着いた物腰で彼女の相手をしている外来人の真上の姿があった。

2人の姿を捉えた紫はニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべながら、楽しげに2人のやり取りを見つめる。

 

「藍ったらそわそわしちゃって……そこは昔やってたように積極的に行きなさいよ」

 

ああでもない、こうでもないと、まるで初々しい乙女のような態度を取っている己の式を、もどかしそうにしつつもニヤついた笑みを浮かべながら覗き見をしているその様子は、端から見れば不審者でしかない。

 

しかし、何時もその行いや表情を指摘する式はスキマの奥で、自らの旧友や同格の存在はここには存在しない。

その為、紫は存分に出歯亀行為を楽しむ。

 

 

紫自身、真上には好意を抱いてはいるが、彼女の中でもっとも大切なのは幻想郷であり、どちらか片方を選べと言われれば、彼女は後者を選ぶだろう。

だからこそ、周りとは違って一歩引いた状態で接するというスタンスを貫いている。

 

別に嫉妬しないという訳ではない。

自分の以外の女性と真上が接しているのを見ると羨ましく思うし、自分もあのように隣に立ってみたいと願うこともある。

だが、あくまでその程度だ。どっかの誰かみたいに専用のポジションが欲しいわけでもないし、あわよくば付き合いと、虎視眈々とその瞬間を狙っているわけでもない。

 

 

それに紫から見れば藍も可愛い、可愛い己の式であり、そんな藍と彼が結ばれれば、必然的に紫とも家族となる。

そうすれば彼とも居られるし、藍も幸せであろう。

寿命についての問題だって彼の境界を弄るか、藍と同じように式にしてしまえば解決する。

 

だからこそ、紫は藍を応援するためにスキマに映る光景を眺める。

 

 

(それにしても、彼の話し方というか雰囲気、どこか見覚えがある気がするのよね……誰だったかしら)

 

そんな違和感を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバの頭は絶頂の時を刻んでいた。うっかり時を飛ばしたり、未来を見てしまう能力を得てしまったのかと感じるほどに彼女は歓喜していた。

 

 

 

 

時を少しだけ戻すと、その日鈴仙は薬を売りに里へ足を運んでいた。

里の人間との交流が妖怪の中でも多い鈴仙は、多くの里の者から歓迎され、特別これといったアクシデントもなく昼前には薬を売り終え、自らの住みかである永遠亭に戻る前に雑貨屋等で品物を眺めていたその時だった。

 

「何か良いものが見つかりましたか?」

「そうですね~この髪飾りなんかきれ、い……で?」

 

ふと投げ掛けられた問い、鈴仙は店主だと思い何気なしに言葉を返すが、よくよく考えれば自身の背後……より細かく言えば左斜め後ろから聞こえた上に、40代と言っていた店主の声にしてはやけに若く感じた声。

不思議に思い、後ろを振り返ってみるとそこには見覚えのある容姿の青年が1人。

 

穏やかな笑みを浮かべながら鈴仙を見つめていたのは、外来人の真上。

 

「……真上さん?」

「はい、そうですが……どうかしましたか?」

 

思わぬ人物が居たことに動揺し、確認の意味を込めてその人物であろう名前を呼ぶ。

すると目の前の青年はやや不思議そうに小さく首をかしげつつ、返事をする。

 

そこでようやく鈴仙の思考は正常に稼働し始め、青年を正しく捉えつつも、それと同時にこちらに返された問いに返答してないことを思いだし、慌てて答える。

 

「いや、あの、えっと……その、な、何でここにいるのか、なぁって」

 

──訂正。慌て、そして物凄ーく吃りながら真上へ答えた鈴仙。

その様子と返答に何時ものようにマイナス方面に捉えたのであろう、申し訳なさそうに。

 

「今日は森近さん……私の働き先から1日お暇を頂きまして。何をしようかと里を歩いていると鈴仙さんを見かけましたので声をかけさせていただいたのですが……折角の買い物中にお邪魔をして申し訳ありません」

 

そしてペコリと頭を下げる真上。

またしても慌てながら鈴仙はそれを否定する。

 

「そんなこと無いですよ!寧ろ良いのが多くてなや──」

 

そこで鈴仙の頭に電撃が落ちる。

場所は人里の雑貨屋、目の前には身につける装飾品が並んでいる。そして店には店主と自分、そして真上の3人しかいない。

 

(こっ、これは……っ!)

 

瞬く間に周囲を眼だけを動かし確認。自分及び彼の知人となる幻想郷の著名人の存在を視認せず。時間帯とこの店の立地を考慮しても既に里内部に入っていない限り、ここに到達することはない。

耳を澄ます。もしも近くにいるのであれば周囲の人間が話題に出しているはずだが、それも聞こえないためにこの付近にそれらの人物がいない事はほぼ確定された。

 

思考から行動を終えるまでの時間、約十数秒。

永琳や輝夜の影に隠れがちではあるが、彼女のスペックはエリートと称されるだけあってかなりのもの。それこそ偵察のための思考と行動をバレずに、かつ同時に行いつつ他者の相手をすることなど、頭がオーバーヒートさえしなければ余裕で行える。

 

(今なら邪魔は入らない……ならやるしかない!)

 

「……鈴仙さん?」

「あっ、えっと良いのが多くて私だけじゃあ決めきれないので、真上さんにも選ぶの手伝って欲しいなぁって」

 

喋っている途中、突如として停止した鈴仙に困惑と心配が混じった声で呼び掛ける真上に、何事もなかったかのように話の続きを始める鈴仙。

 

「私、そういったモノを選ぶセンスは無いのですが……」

「大丈夫ですよ、私も一緒に選びますし!それに師匠達にもお土産で買っていきたいので、お願いします!」

 

そう言い切り、最後に頭を下げる鈴仙。

真上の平時は押しに弱いというのと、先程抱いたであろう罪悪感を利用した真上に装飾品を選んで貰おうという作戦。

更にここで自分1人ではなく、他の永遠亭の者達の分も頼むことで後々の制裁を回避しようとしている辺り、実にズル賢い。

 

真上も鈴仙を始めとした永遠亭のメンツにはお世話になっているため、そこまで頼まれれば断ることは出来なかった。

 

「……分かりました。ただ、期待はしないでくださいね」

「はい!」

 

 

 

 

鈴仙と真上の出会いは、彼が幻想郷に入ってから1ヶ月ほど経過した時である。

突如凶暴化した妖怪達との戦いで傷を負い、里の医師では治療をすることは難しいと判断され、永遠亭に運び込まれてきたのが真上であった。

 

治療は無事成功し、彼の回復力が高かったものあってか1週間で入院を終えた。

そこでは鈴仙と彼は入院患者と看護師のよう関係で、特段これといった会話をすることはなかったのだが、その後一応の経過観察ということで師匠である永琳の命で彼の家を訪ねた。

2人が本格的な関わりを持ったのはその時からである。

 

薬の売り込みという目的もあったが、その他にも別の理由で彼の体調が気になっていた鈴仙の勧めもあり、永遠亭の薬を定期的に家に置いて貰うことにしたのだ。

そこからはまぁ、互いに話すようになり親交を深めていった。

 

 

彼女の感情が明確な好意に変わったのは、先の異変『霊奇狂異変』の時である。永遠亭に無数の凶暴化した妖怪が襲撃を行い、それを永琳らと共に迎撃していた鈴仙であったが、数の暴力によって鋭い一撃をまともに受けてしまい、倒れてしまう。

絶体絶命の彼女を助けたのは、本当に、たまたま偶然、異変の首魁を追っていた真上であった。

 

助けて貰ったから惚れるなぞ、人によれば吊り橋効果だと鼻で笑われるかもしれない。それも偶然その場に居合わせた人物が相手であるなら尚更。

しかしだとしても、その時普段聞くことの無い焦った口調でこちらに呼び掛ける真上に、自らの命が危ない状況であるにも関わらず胸が高鳴ったのは事実なのだ。

 

それにその後、しっかりと時間を置いて、考えを落ち着かせてから彼と会った時も確かに起きたその胸の高鳴りは、決して鈴仙自身が抱いた恋心が、吊り橋効果によって生まれた一時的なモノではないと証明していた。

 

それからは彼女は他の少女達同様にアピールをしているが、これまた何時ものように彼には通じない。

だが、諦めることはしない。

月を救った己が1人の青年を落とすことが出来ないなんて事はないと、鈴仙は今日も彼に接するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──なんて、ここまではそれなりにまとまってはいるが、彼女も例に漏れず恋というものは初体験であり、存分にポンコツと化している。

 

 

 

現に真剣にどれを選ぼうかと悩んでいる真上の横顔を眺めているその表情はだらしなく、店の店主もやれやれと呆れている。

以下は会話の抜粋である。

 

「八意さんにはこの首飾りで決めてもいいですかね?」

「そうですね~」

「次は蓬莱山さんですよね、やはり黒髪で和服美人ですし……簪とかの方が似合うでしょうか?」

「そうですね~」

「白の髪飾り……これも良いですけど、鈴仙さんの髪色的にやはりこっちの髪飾りの方が……鈴仙さんはどう思いますか?」

「そうですね~」

 

鈍感な真上も流石に違和感を感じたのだろう。

「鈴仙さん?」と先程よりもやや大きめの声で呼び掛けると、ハッとし慌てて答える。

そのやり取りを彼女を見て慌ててばっかだなこの嬢ちゃん、なんて店主が思ってることは露知らず。

 

どうにかこうにか永遠亭のメンバー分を買い終えた2人。それじゃあ私は帰りますので、と満足げな表情で里を出ようとした鈴仙に更なる幸運が舞い降りた。

 

「この後、永遠亭へ定期検診に行こうと思ってたので、着いていっても大丈夫でしょうか?」

「…………あ、はい!大丈夫ですよ!」

 

まさかの延長戦。

鈴仙の心の中ではファンファーレが鳴り響き、天使の翼と輪っかを着けた因幡達が彼女の頭上を回っていた。

大袈裟と思われるかもしれないが、恋する彼女にとって好きな人と共に歩けるのは幸せなことなのである。

 

むふふふ、と思わず笑みがこぼれてしまいそうになるのを必死に堪え、里の男なら間違いなく惚れるであろう笑みを作ると、隣に立ち共に歩く真上の存在を感じ心の中で悶えつづけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んでいただき有り難うございます。

他の話と比べると今回はかなり短いですがご了承ください。本当はもっと長くする予定だったのですが……。

評価、お気に入り登録してくださった皆様、本当に有り難うございます!
これからも出きる限り皆さんに読んでいただけるように書いていくので宜しくお願いします。

今後の展開の優先度について

  • 幻想少女とのやり取り重視
  • 異変について
  • 外の世界の友人達との再開

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