メジロマックイーンの甘え方   作:PFDD

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今回のガチャ結果:
ゴルシ、ミホノブルボン、チケゾー×2、マヤノ、ネイチャ、ウオッカ、マチカネフクキタル!、タイキ、ダスカ

マックイーンが来なかったのでむしゃくしゃして書いた、今は反省している。


河川敷で

「んーいい試合でしたわ」

 

 タマ川沿いの河道を歩きながら、隣のマックイーンがぐっと背伸びをしている。陽光をちらちらと反射する芦毛の髪が川風で靡き、河川敷に設営された各種運動場から響く声にツンと突っ張る耳がぴくぴく反応していた。その様子に、いい休日になったと素直に溢すと、マックイーンも微笑みを返してくれた。

 

「ええ、ライスさんたちには感謝しないといけませんわね」

 

 季節は春風が吹く頃となり、河川敷の土手では緑が僅かずつだが萌えはじめ、花壇の花も蕾をつけていた。その若草の色合いにも負けぬ色彩がマックイーンの笑みにはあった。

 本来、この時期はウマ娘とトレーナーにとって、大阪杯や皐月賞、さらには天皇賞・春といった重要な重賞レースに向けた最終調整を行わなければいけない。チームシリウスでも、マックイーンの代わりに3度目の制覇を為そうと奮起するライスシャワーがおり、他人事ではないはずだった。しかし今日はマックイーンが休日を潰して顔を出すと、数日前にチームメンバーが知るや否や妙なことが起きた。

 

「なんか近くで野球のオープン戦がやるらしいよ。マックイーンさんって野球好きだったし、連れてってあげれば?」

「れ、練習はメニューはもうもらってるし、今日のメニューはトレーナーさんがいなくても問題ない内容だから大丈夫です、がんばります!」

「マックイーンさんだってお家の事情でストレス溜まってるのかもしれないよ? せっかくの休日なんですから、付き合ってあげてください」

「ちゃんと男見せろよ〜」

 

 なんと自分とマックイーン以外のウマ娘全員に、よく分からない理由で練習から追い出されてしまった。挙句の果てに野球のオープン戦を見てこいと誘導されて、流されるままに野球観戦となってしまったのだ。マックイーンもそのことにしばらく唖然としたが、しかしライバル球団の試合も気になるのか、数分ほどの熟考の末にオープン戦を選んだ。

 完全なオフと決まってから、マックイーンは練習着のジャージではなく、メジロの実家から引っ張り出してきたような、新品同然に見える若草色のワンピースと、寒さを気にしてかニットのカーディガンをその上に羽織って現れた。一目見るだけでお嬢様然とした服装と、それに見合う彼女自身の貴き雰囲気は、文字通り絵になるものだ。これで先程まで球場で「かっとばせー」と怒号を立てていたのだから、傍から見ればギャップは凄まじいものだろう。自分もこうしてトレーナーという深い付き合いがなければ、メジロ家のお嬢様という幻想が粉々に砕かれて意気消沈していたかもしれない。

 

「何か失礼なことを考えています?」

 

 じろりとこちらを睨むマックイーンに、表情から心を読まれたかと焦って周囲を見渡すと、家族向けに出店しているクレープ屋を見つけた。早速そのことを彼女に伝えると、目を一瞬輝かせたが、しかしすぐにヘソを曲げてそっぽを向いた。

 

「またそうやって何か誤魔化しますの? この前みんなに渡した食事メニューだって……」

 

 彼女の文句がぐだぐだと続きそうな矢先、抗議の音が彼女自身から鳴った。家でよく聞く可愛らしくも暴力的な腹の音だ。羞恥で桜色になるマックイーンの横顔に、何味がいいかと聞いた。

 

「……バナナとニンジンとバニラアイス、チョコとホイップクリームはマシマシでお願いしますわ」

 

 時間帯的にはおやつの時間ということもあり、マックイーンも我慢せずなチョイスをしてくれた。任されたと胸を叩き、近くのベンチに座って待っててくれと告げてクレープ屋に向かった。

 店主にマックイーンの分と自分用な簡単なものを一緒に頼むと、「彼女さんにですか?」とにこにこと問われた。彼女の部分は否定しつつできたクレープを受け取ると、そのまま踵を返してマックイーンの元へ走った。

 マックイーンは先程の場所から少し離れたベンチに座っていた。直ぐ側には河川敷には珍しく枝垂れ桜があり、早くも一分咲きとなってその名と同じ桜色の花で目を楽しませてくれる。そしてその側に座り、どこか一点を見つめるマックイーンは、不思議と儚さを纏っていた。そのような空気感はエースになる前のライスシャワーにはよく見受けたものだが、マックイーンもそれを持っているというのも意外に思いつつ、同時に納得していた。

 何故納得したかと、自分自身に疑問を抱きながらも、詮無きことだと思って首を振り、マックイーンの側に寄った。

 

「あら、おかえりなさい」

 

 ただいまと返しつつ彼女のご所望の品を渡す。目を輝かせて受け取ると、ありがとうございますの感謝の言葉も即座に終わらせて、すぐに頬張りはじめた。

 相変わらず甘いものに目がないんだな、と苦笑しつつ、自分用のクレープ生地を齧る。味はいたって普通だが、まだ温かいことと、陽気の下でマックイーンと一緒にという状況がいいのか、味以上に美味しく感じた。

 

「たとえみんなバラバラになっても、俺たちチームの心は一緒だからなっ!」

 

 不意に、そんな少年の叫びが聞こえた。頭を上げてみると、河川敷の草野球上で、リトルリーグの少年たちが円陣を組んでいた。一様に涙ぐんで同じようなことを言い合っているのを見ると、何が起きているのかすぐに察することができた。

 

「卒業、らしいですわね」

 

 食べるのを一時中断して、マックイーンの目が自分と同じ場所へと向けられた。いや、その方向を見れば、先程彼女が見ていたのはまさにあの景色だったのだろう。

 

「この季節ですからね。学校も終わり、最上級生は卒業して、次のステップへ進む。残った選手もまた、卒業した子達の意思を受け継ぎつつ、自分たちの世代を作る……ウマ娘にも適用される、世の条理ですわ」

 

 少年たちの円陣の中には、片足をギプス固定し、松葉杖をついた子もいた。もしかしたら最後の試合には出られなかったのかもしれない。それでも同じユニフォームを着ていることが、彼らの仲間としての証なのだろう。

 

「私もいずれ、オグリ先輩のようにドリームトロフィーリーグへと移籍することになりますわ。そうすれば、また色々と最初からになりますわね」

 

 マックイーンの口調は柔らかいが、しかし隠そうとしている揺れを感じ取れた。どうしてそのようなものが彼女が発するのかを、ただ黙って聞いて受け止める。

 

「エースはライスさんが引き継いでくれましたし、チームの和もゴルシさんが何だかんだいってまとめてくれます……後輩に託す、という意味では私はもう卒業する準備は整っているということですわね」

 

 そうは言うが、年齢的にも彼女の意欲としても、まだまだマックイーンはトゥインクル・シリーズでの活躍を続けられる。卒業を考えるにはまだ少し早いだろう。そう言うが、しかしマックイーンは首をゆるりと横に振った。

 

「卒業、いえ、ウマ娘で言えば"走らなくなる""走れなくなる"というのは、そういう穏やかなものだけではありませんわ。急な怪我や病気だって考えられますもの……その時、何を残せて、何が残るかを考えると、少し……」

 

 言葉尻が窄み、無言となるや否や、彼女はクレープに再び口をつけた。

 どうしてか、彼女にしては珍しく弱気になっているようだ。メジロ家の事業は詳しく聞けていないが、気が滅入るようなことがあったのかもしれない。それに加えて、卒業という意味の居場所から自ら去ること、そして怪我を連想というウマ娘として致命的な出来事を連想できてしまうのが、今の彼女の感情に繋がってしまったのかもしれない。

 いや、もしかしたらこの気持は、ずっと奥深くに眠っていて、周囲の雰囲気に釣られてたまたま表に出てきたのかもしれない。メジロマックイーンという女の子は、貴きをよしとし、鉄のような芯を根本に持ったウマ娘だ。常日頃の振る舞いにもそれは出ており、弱気はほとんど見ることがない。

 それでも、彼女にだって弱音を吐きたくなるときぐらいあるのを知っている。天皇賞・秋での斜行や、天皇賞・春での敗北。他にも細かなとこで彼女は気丈に振る舞う意思に、弱さをぽろぽろ零していた。

 だから、そんな時にはトレーナーの出番だ。

 

「ん……どうしたのですか?」

 

 ちょうどマックイーンが食べ終わるのに合わせて、彼女の方を向いた。

 ただ彼女の目を見つめて、大丈夫だ、と伝える。

 マックイーンが折れそうな時は、自分がいる。一人で泣きたくなっても泣けない時は、すぐ側にいって泣けられるようにする。立ち上がりたいと願った時は全力で支える。走り続けたいと思う時にはその方法を考え続ける。1人が寂しいという時は、他の子も連れて駆けていく。できる限りの全部をやって、君を支え続ける。そして何より、1人ぼっちには絶対にさせない。

 自分はそんなトレーナーだから、安心していい。

 

「……急になんですの、それ? 貴方は私の専属ではなく、チームシリウスのトレーナーでしょう? 私が卒業したら、そういう訳にもいきませんわよ」

 

 憮然とした調子でそっぽを向いたマックイーン。表情は分からないが、その耳はこっちを向いてるから、まだ聞く気はあるようだ。

 確かに自分も、先輩からシリウスを継いだ身だ。まだまだ至らない点も多く、トレーナーとしての後進もできていない。それでも、メジロマックイーンを支えたいという気持ちは本物だ。2足の草鞋大いに結構、やり甲斐がある。

 そんな苦労をするだけで、マックイーンの弱さを守れるというのであれば、トレーナーとしては上出来だろう。

 よく、トレーナーにとっても初めての担当ウマ娘は、たとえどのような形であれ、特別なものだと聞く。自分にとって、それがメジロマックイーンなのだ。

 

「…………あいも変わらず、無責任で向こう見ずで夢見がちなことを仰るのね」

 

 そう指摘されると、春の陽気にやられたのかもしれない、と自分自身の言葉に呆れを零した。だが偽りのない本音だ。

 

「……本当、こういう所が、卑怯なんですから」

 

 ぽつり、とマックイーンが何事かを呟いた。さすがにクサすぎて呆れてしまったのかと思いきや、彼女の上半身が倒れ、ポスっと自分の膝の上に乗った。紫水晶にも似た瞳が潤んでいるのがわかったが、しかしすぐに瞼が閉じられて見えなくなった。代わりにサクラ色になった頬が膨らみ、ふふんと鼻を鳴らして萎んだ。

 

「何だか私、最近夢見が悪くて寝不足が続いていますの。なのでしばらくこのまま寝かせていただけますね」

 

 拒否権を許さない調子だ。しかし、さすがに男の膝枕は寝心地が悪いだろうと懸念したが。

 

「いえ、これがいいんです。それに、支えてくれるのでしょう? これくらい"甘えさせて"くださいな」

 

 どうやら、一本取られたようだ。仕方ない、と彼女の好きにさせようとすると、マックイーンが再び口を開いた。

 

「私、実はまだお腹もちょっと空いてますの……だから、分けていただけます?」

 

 どうやら、今日は本当に春の日差しが強く、マックイーンの調子も可笑しいらしい。そういう時のウマ娘の調整もしなければならないのも、トレーナーの務めだ。

 自然とはにかみそうになる顔の表情筋を男の意地で抑えつつ、残ったクレープを小さく千切る。

 

「あーん」

 

 そうして、甘える、いや支えられ方を知った女の子に、クレープを食べさせてあげた。

 もにゅもにゅと口を動かすマックイーンに合わせて、枝垂れ桜の蕾が、またひとつ咲き始めようとしていた。

 




ゴルシ「くそっ…じれってーな アタシちょっとうまぴょいできる雰囲気にしてくる!!」
ライス「ゴールドシップさん!!」(無言の絶拳

(続きはもう)ないです

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