メジロマックイーンの甘え方   作:PFDD

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前回の話を投稿した後、仕事中にふと思いました。
「あれ、なんでこんな微シリアスでオチつけるような話にしてるんだ?」
最初の話みたいなオチなしヤマなしイチャイチャ微(?)エロを書きたかったんだよっ!!

そんなわけでリベンジしました。

※このSSはオチなしヤマなしの恋バナ描写です。マックイーンとこんなイチャイチャしたいという願望や、糖分とスイーツ脳を求めている方向けです。



ケーキバイキングで

「……着きましたわね」

 

 神妙な面持ちで呟く私服姿のマックイーンに、自分も首肯する。目の前にあるのは最近オープンしたカフェ、元2つ星パティシエだったマスターが務める、スイーツ好きには非常にホットな店だ。自他共にケーキ好きであるマックイーンとしても以前から目をつけており、家のポストに値引きチラシがないか、部屋に入る前にいつも確認するほどだ。

 今までは何かとプライベートの事情とその合間の練習で行くタイミングがなく、ベッドの上で掛け布団を噛み締め耐えていたのをよく見ていた。しかも今はレース復帰のため、過食による体重増加はトレーナーとして非常に避けたいのだ。特にマックイーンはトレーナーの家に入り浸るようになってから、とても緩やかだが、体重が増加傾向にあった。ウマ娘用の体重計の上で、片足立ちで現実に立ち向かおうとしていた姿を忘れるわけがない。

 本来ならば近寄ることすら、彼女の制限のためにはよくない。だがしかし、あることで彼女の中にあるタガが外れてしまった。

 

「あの店のケーキバイキングに当たったんだけど、誰か行く?」

 

 チームシリウスのあるメンバーが、その店が月に不定期にしか行わないケーキバイキングの優先招待券を、商店街の福引で当てたのだ。本来ならば当てた当人が行くべきだが、それは"カップル限定"という制限がかかっていた。ゴールドシップが条件にヒットしないメンバー全員を代表して「なんだぁ、てめぇ……」と混乱の源を引き裂こうとしたが、最近筋力トレーニングを中心にして鍛えていたライスシャワーによって未遂となり、すぐに取り扱いが宙ぶらりんとなってしまった。

 そこにたまたまマックイーンがチームに顔を出し、その券を視界に納めてしまった。

 

「言い値で買いますわ!!」

 

 四の五の言わさずといった勢いで、条件も見ずにその券を欲したのだ。あちゃあ、とゴールドシップが肩をすくめるのを視界に認めたが、しかし所有者当人はうーん、と悩む素振りを見せると、そのままチケットをマックイーンに渡してくれたのだ。

 

「マックイーンさんがもらってくれるんならOKです、その条件も簡単ですしね……あーあ、私もトゥインクルシリーズ終わったら彼氏作ろうかなぁ」

 

 現役のトゥインクル・シリーズウマ娘による不純異性交遊は、トレーナーとして悩ましい問題だが、とにかくマックイーンはタダ同然でバイキング券を入手し、即座にスケジュールを調整した。

 招待券の条件であるカップルについては、自分が偽装彼氏となってついていくことになった。同じ男性でも、執事の爺やさんやメジロ家の使用人の方々では年齢に差がありすぎ、マックイーン自身にこういう気安いことを頼める親しい男性が他にいなかったので、消去法となった形だ。

 念の為、本当に自分でいいのかと、前日の就寝前に聞いてみたが。

 

「……貴方以外では考えられませんわ、バカ」

 

 そういって、膝上に乗られたまま、足を抓られてしまった。

 兎に角、そのような経緯でバイキング当日になったが、もうひとつの懸念である、過食に対しては、予想が当たってしまった。

 

「ああ、あの木苺のミルフィーユ、クリームの色がすごくいいですわ! モンブランも盛り付けが……サバランも、ショコラも……ダメですわメジロマックイーン、ここで食べすぎてはまたあの夜のように……けど、こんなにも美味しそうなのに……」

 

 案の定、マックイーンが暴走一歩手前に陥ってしまった。彼女自身がまだ耐えているからマシだが、既にトレーには全種1個ずつ置かれていた。頑張って耐えているのは、食べることだけは決めていたからだろう。後はその量をどうやって制限するかだが、そこは既にある方法を取り決めていた。

 

「く……トレーナーさん……やはり、あの方法を……その、甘えるようで卑怯ですけど、お願いいたしますわ」

 

 とても、とても悔しそうな顔でマックイーンが配膳台から離れ、予め定められたテーブルへと座った。ドリンクは別注文なので2人分のストレートティーを頼み、フォークは1つだけ用意する。そしてケーキ全種はテーブルの上一面に置かれ、それぞれがスイーツとして珠玉の輝きを放ち、メジロマックイーンという乙女を誘っていた。

 

「……うう、今更ながら恥ずかしくなってきましたわ。やはり普通に食べては……」

 

 椅子に座ってから今まで興奮でピンと立っていた耳を垂らし、気恥ずかしげに顔を赤らめるマックイーンに、ダメだ、と強く否定する。そうしてフォークを取り、彼女がまず最初に選んだショートケーキにフォークの歯を通し、ひと掬い。そのまま彼女の目の前に持っていく。

 これこそ今回の苦肉の策、食事方法の制限だ。フォークをトレーナーである自分が握り、口に運ぶまでを行う。マックイーンはケーキを選ぶだけで、後はトレーナーが口元に運ぶケーキを食べるだけだ。これの利点は食べるペースを十中八九暴走するマックイーンではなく、食事量も普通な自分が握ることで、体に負荷を駆けず、かつ時間をかけて食べさせることができることだ。この方法を最初に提案してきたのはマックイーン本人であり、自分も最初は難色を示したが、どうしてもという彼女の弱気で潤んだ瞳に耐えきれず、請け負うこととなった。

 正直な話、今はそのことを後悔し始めている。

 

「え、もしかしてあれ、あーんってやつ? マジでやる人いるんだ」

「いや、すごい度胸だなあの彼氏」

 

 意外と目立っていた。彼女の口に食べ物を運んであげることは度々あったが、こうした衆目の場では初めてだった。だいたいがアパートか人通りが比較的少ない場所だ。

 改めて行うと、とても恥ずかしい。安請け合いしてしまったと後悔しているが、フォークの先のマックイーンも顔を赤らめ、ぷるぷると震え始めていた。こうなるかもしれないと予想はしていたが、当時この方法を思いついたマックイーンはケーキにばかり思考を集中してしまっていたのだろう。それこそレース出走直前の集中状態に匹敵していたかもしれない。

 さすがに不憫に思い、やはりこんなアホな方法は止めて、なんとか会話でペースを握ろうかと考えていた矢先、意を決したような表情でマックイーンが口を開いた。

 

「あ、あ〜ん……」

 

 まだ羞恥が勝っているのか、開いた口は小さい。彼女本来の口の小さなもあいまって、豆一つが入るか否か。だが彼女が覚悟を決めた以上、こちらもトレーナーとして心中するつもりだ。あーん、とこちらも口に出しつつ、そっとケーキを彼女の口元に寄せ、ちょんと生クリームの端を柔らかな唇に触れさせた。

 

「ん、あむ……ふぁ、美味しい、ですわ」

 

 するりと舌が伸びると、ケーキの欠片は彼女の口の中に絡み取られ、ぺろりと平らげられてしまった。漏れた感嘆の吐息には、生クリームと苺の香りが混じり、色香のように彼女の艶やかな表情を彩った。ほう、とこちらの様子を伺っていた。逆に自分はその様に、ようやくいつもの調子に戻ったかな、と僅かだが冷静さを取り戻せた。

 あえてゆっくりとした所作で別のケーキにフォークを刺し、あえて大きな動作で一口大にすくう。それをじっと見ていたマックイーンの喉がこくりと鳴ったのを聞くと、再び彼女の目の前にやった。

 ほら、あーん、と口にすると、はむっとマックイーンがフォークの先ごと頬張った。そして舌でクリームごと舐め取ると、顔を離して一息つく。

 

「すごく……すごく、美味しいですわ」

 

 うっとりとした表情の彼女に、心の底から安堵と喜びを抱いた。作戦がうまくいきそうなことと、メジロマックイーンという女の子を少しでも幸せにしてあげれたことが、自分自身で考えているより嬉しかった。頬が自然と緩んでしまうのが自分でもわかった。

 

「……どうせなら、食べさせあいっこしませんか?」

 

 そんな担当トレーナーの隙を見つけたとばかりに、マックイーンが微笑みながらフォークをひょいとこちらの手から盗み取ると、そのまま手近にあったケーキに刺し、そのままこちらに差し出した。

 

「ほら……あーん、ですわ」

 

 される立場になるとわかった。

 これは、かなり、恥ずかしい。

 だが、メジロマックイーンというウマ娘の担当になった以上、こういう羞恥の状況にも応えられなければならない。何より、期待と悪戯っ気を混ぜ合わせた目の輝きを向けてくる彼女に、素直に応えたいと思ってしまった。

 慣れぬことに緊張しながら口を開き、彼女の差し出したケーキを食べた。チョコレート主体だが、複数種類ごとに作られたブラックベリーのクリーム層によって複雑な酸味を持つ、上品な甘さだ。

 

「やっぱり、可愛いですわね、貴方も」

 

 そんなことを言ってきた彼女に、それは君の方だ、と答えると、目をしばし瞬き、ばっと顔を背けた。

 

「ふ、不意打ちでそういうことを言わないでくださいますか! 耐性ができないというか、耐えられないというか……とにかく、早く次を食べさせてくださいっ!」

 

 確かに自分で言っててこっ恥ずかしいが、マックイーンが気品を持ちながらも可愛らしいのは事実だ。そこを指摘するだけで、綺麗な芦毛ごと染まるような勢いで赤面されるのは意外だったが、とにかく今はこの複雑なお姫様の機嫌を取るべく、彼女の細やかな指からフォークを取り、また別のケーキを取った。

 

「…………あーん」

 

 口ではちょっとした怒りを示しつつ、しかし隠しきれない気持ちの嬉しさとを柔らかさを耳や尻尾で示す自分の担当ウマ娘に苦笑しつつ、三度甘い欠片をあげるのだった。

 

 

 

 余談だが、その日から件のカフェではカップルでケーキを食べさせあうのが流行ったらしいが、それを知るのは大分後のことだった。




ゴルシ「うまぴょいさせるべきか、させないべきか、それが問題だ」
ライス「ゴールドシップさん!」(無言のバーニング・ブレイカー

ここまで書いててなんですが、怪文書の方がいい意味で湿度高いの多くてほっこりします。今度のイベントでは是非マックイーンを引き当てたいです(フラグ設置

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