黒い猟犬
技術は進化した。故に起こるのは、犯罪だ。
防弾チョッキなど意に介さない拳銃が出回った。人の脳にマイクロチップを埋め込むことで、その人自体が一つのコンピューターとなった。
苦肉の策を政府はとった。志願する死刑囚を機械歩兵とし、洗脳し、街の治安維持に貢献させた。しかし、初期の機甲…零型はトラブルが多く、犯罪者に悠々と破壊され、機甲の開発に専念せざるおえなくなったのだ。
2019年。少し急ごしらえではあるが、最新型の機甲が完成。これにより、海外の特殊部隊にも勝る……とはいかなかった。人員の不足だ。初期にあらかた片づけられ、もう死刑囚は空っぽ、水がなければコップは満たされない、それと同じだ。
ならばどうする?科学者は考えた。モルモット(死刑囚)はない、ならば他は?孤児は?政府は以外にも承認し、数多の孤児を機甲専用に改造し、殲滅に使用した。
……ようは、俺のような戸籍のない『いないはずの存在』を使っている。たった一文で表せる。泥沼のような思考から目を背け、ゆっくりと、鉛のように重い瞼を持ち上げた。
まず目に飛び込んできたのは真っ白な天井、それと、それを照らすまぶしい程に光る蛍光灯。ゆっくりと目を下に動かすと、メタリックカラーの無骨な右腕が身に入る、透明なガラスを押し開け、薬品のにおいのかおる空気を肺いっぱいに吸い込み、吐き出す。
「どう、気分は?」
「ああ、悪くはない」
白衣を着た女の問いにぶっきらぼうに答え、真っ白な、蛍光灯の光を反射する鏡のように磨かれた床のうえをヒタヒタと足音を立てて歩く。向かう先はロッカールーム。さっさと着替えて昼飯が食べたい。
そこは、数多の人でごったがえしていた。皆々同じカラーの制服を着て、手に持つトレーに思い思いの食料を置いていく。バイキング形式とランチ形式で選ぶことができ、バランスの良いランチ形式よりも、好きなものを好きなだけ載せることができるバイキング形式の方が人気だ。
バイキングの長蛇の列と違い、がらんどうとした券売機の前に立ち、硬貨を入れ、適当にボタンを押す。正直なところ、なんだっていい、ただ腹にたまればそれでいいのだ。受付に券を渡し、ほかほかと湯気の立つラーメンをトレーに乗せ、窓際の一人席に腰を下ろす。
わいわいと楽しそうに食事をとる職員達の世界と、俺の世界には、明確な境界線がある。あちらの世界は脆く、くずれやすい。いつ死ぬかもしれない命の蝋燭を掲げ、火が消えないように風から守る。だが、俺はどうだ?何度体が死のうが意識は生きている、というより複製が可能だ。ある意味死なないといっても過言ではない。
「はっ、下らねえ」
自分の思考に反吐が出る。