~オリ主サイド~
「一花が女優だって?」
「そうなんだー。……それでこの修羅場ね」
納得。でもおっさんが一花を連れて行こうとしてるけど……。
「行こう一花ちゃん」
「待てって!」
「止めないでくれ。人違いをしてしまったのは本当にすまなかったね。でも一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ」
「そんな急な話があるか。こっちの約束のほうが先だ。一花、花火いいのかよ」
おっさんとは話が合わないと感じた上杉が一花に訊くが、
「………みんなによろしくね」
断られてしまった。どうも帰ってくる気はなさそうだ。
「一花ちゃん急ごう。会場は近いから車でなら間に合う」
そうして一花を連れて行くおっさん。
「あいつ……」
「ユキト、フータロー、足……これ以上無理っぽい、一花をお願い。私はもう大丈夫だから」
(花火が終わるまであと10分……白羽にも来てほしいしどうすれば……)
「どうやらお困りのようですね」
声が聞こえて来た方向を見ると、頭にでかいリボンを付けた女性が立っていた。
「! お……お前は……!!」
バレバレェェ~!!
ーーー………
~バス停にて~
「一花! 本当に戻る気はないんだな?」
階段を下りながら問いかける上杉。
「フータロー君もう一度聞くね。ユキト君も。なんでただの家庭教師の君たちがここまでお節介を焼いてくれるの?」
「俺とお前が協力関係にあるパートナーだからだ」
「僕の大切な友達が悩んでいるんだ。お節介ぐらい焼くさ。力になりたいからね」
僕たちの答えに満足したのか台本のページを開いたタブレットを僕に渡してきた。
「フータロー君にやってもらうのもいいんだけど苦手そうだしね」
確かにそうだなと頷き。台本の内容に目を通しながら一花の言葉を聞く。
「半年前に社長にスカウトされてからこの仕事に就いたの。名前のない役をちょいちょいやらせてもらってたんだけど、大きな映画の代役オーディションがあるってさっき教えてもらったの……そしていよいよ本格的にデビューかもってとこまで進んでるんだ」
「それがお前のやりたいことか」
「そう!だから練習相手になって」
「アドリブ入れるからね」
学園物のアニメで先生役のキャラクターと言えば…………。
「あまり変えないでよ。……じゃあよろしくね」
「ヌルフフフフ、一花さん卒業おめでとうございます。あんなに授業に取り組んでくれなかった一花さんが無事卒業を迎えることが出来て、先生泣きそうです。」(殺〇んせーボイス)
それは学園物の映画でクライマックス感動のシーンだった。
「先生。あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった」
「はい。先生もあなたが先生の生徒で嬉しく思います。……気が向いたらまた暗殺しに来てください。いつでも待っていますよ。また手入れしてあげます。…………ヌルフフフ、成績が悪かった生徒が有名大学に進学したことが広まれば、先生の元には巨乳の女子大学生が来ること間違いなしです!」(殺せ〇せーボイス)
殺せん〇ーの声真似が終わった頃に、向かい側から一台の車がこちらにクラクションを鳴らしながらやって来た。
「あ、社長の車だ。とりあえず役を勝ち取ってくるよ」
車道に降りようとする一花の頬を上杉がパンっと両手で挟む。
「ほえ?」
「その作り笑いをやめろ」
一花に顔を近づけ言い放つ上杉。
「ははは……え?」
「お前はいつも大事なところで笑って本心を隠すムカッとくるぜ。お前をパートナーだと言ったよな。俺の家には借金がある。その借金を返すために家庭教師をやっている。だが、お前たち五人には手を焼きっぱなしだ。いや白羽も入れて六人か。……結局何の成果もあげられないまま給料を貰っちまった。せめて貰った分の義理は果たしたい。それが俺の本心だ! 以上! お前はどうなんだ、余裕あるフリしてなんであの時震えてたんだよ」
髭のおっさんから隠れ、誤魔化すために恋人のように抱き合った時を思い出す。
「……この仕事を始めてやっと長女として胸が張れるようになれると思ったの。でも花火の約束もあるのにもしこれで落ちちゃったらみんなに合わす顔がないよ。もう花火大会終わっちゃうのにね」
花火大会が終了に向かうにつれて打ち上がる花火の量が増え、漆黒の夜空を鮮やかに染め上げている。
「それにしてもまさか君が私の細かな違いに気がつくなんて思わなかったよ。お姉さんびっくりだ」
お兄さんもびっくりだ。
「俺がそんなに敏感な男に見えるか?」
なにちょっとキメ顔で言ってるんだ。胸張って言えることじゃないだろう。
「お前の些細な違いなんて気づくはずもない。ただあいつらと違う笑顔だと思っただけだ。」
上杉って意外とみんなの事ちゃんと見てんだよな。
「……っ、まいったな……フータロー君一人騙せないなんて自信なくなってきたよ」
「演技の才能ないんじゃね」
ストレートじゃなくて変化球で投げろよ。
「わーお、直球だね」
「言っておくがその方が俺にとって好都合だ。寄り道せずに勉強に専念してくれるからな」
「よ、寄り道なんかじゃない。これが私が目指している道だよ」
言い争いをしているところをおっさんの車のクラクションが止める。
「一花ちゃん何やってんの早く乗って!」
「は、はーい」
一花が車に向かうところで声をかける僕たち。
「まぁあいつらに謝るときは付き合ってやるよパートナーだからな」
「もちろん僕もね!あとこのタブレット返すよ」
「ありがとう。行ってきます」
「いってらっしゃい。結果を楽しみにしているよ」
ーーー………
~オーディション会場~
~一花サイド~
「では最後の……中野一花さん」
ドクン、ドクンと心臓の音が周りにも聞こえるんじゃないかと思いながらも返事をする。
「はい、よろしくお願いします」
「卒業おめでとう」
「先生、今までありがとう」
上手く笑えてるかな。ああ……みんなはこんな時どうやって笑うんだろう。
四葉なら、三玖なら、五月なら、二乃なら。
頭によぎるのはフータロー君の言葉とカードに書かれていたユキト君からの言葉。
浴衣から着替える時にいつの間にか帯にくっついていた一枚のカード。
『僕が言いたいことはたくさんあるけど少しだけ言うね。
一花なら大丈夫、必ず役を取れるよ。
だって姉妹たちと笑ってる時の笑顔ならみんな一花の虜になっちゃうからね。
応援してるよ。
既に一花の虜になってる5人目のファンより』
「……先生、あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった」
彼女が見せた笑顔は嘘偽りの笑顔とは程遠い、満開の笑顔だった。
If.殺せんせーが死ななかったverをさり気なく導入! こんな感じになるんじゃないかなと思い書いてみました。
私としては殺せんせーは生きてE組のみんなと一緒にいてほしかったです…………。