『ごちそうさまでした!』
「お粗末さまでした」
食器の片づけをし一息ついたところで本題に入る。
「誰か僕の生徒手帳知らない?」
「それならアタシが持ってるわよ。……だけどただでは返さないわよ」
ひらひらと僕の生徒手帳を掲げる二乃。しかし目の前にあるのならば余裕で取れる。
僕は懐からトランプ銃を取り出し狙いを付けて撃つ。そして発射されたカードは、見事に僕の生徒手帳にあたり、僕の手に戻ってくる。
「残念だったね二乃。ありがたく返してもらうよ」
「っ……手伝ってもらおうと思ったのに」
「普通に手伝ってと言えば手伝うよ。わざわざこんなことしなくても。……で何すればいいの?」
「ピアス、あけてほしいの」
ピアッサーを僕に渡しながら答える二乃。
「……僕が?」
「違うわよ! 私にあけてほしいの!」
最初からそう言えよ。口下手か。二乃の部屋に入り二の句を告げる。
「開けたらしばらく痛いんじゃないの? 最近のはあけないタイプのもあるんだからそっちにすればいいじゃん」
「いいからやりなさい」
よし、からかいながらやるか。
「カウントダウンでやるからな。……5……4……3……2……1……0! であけますからねー」(上杉ボイス)
「さっさとあけなさいよ! 上杉の声真似が腹立つわ!」
僕のすねを蹴ってきた二乃。痛い。すねはやめて。
「てか私だけ痛い目みるのに腹立ってきた。あんたもあけなさい!」
「痛いのは好きじゃないからヤダ」
「大丈夫! 優ーしくやってあげるから」
「やめ、やめてー! 襲われるー!」
ドタバタとしているうちに僕のポケットから生徒手帳が落ちてしまった。しかもよりによって保護者欄のところを開いて。
「……ねえ、……なんで親御さんの名前とか電話番号とか書いてないの? こういうのっていざってときのために書かなきゃダメなんでしょ? 先生も言ってたし……めんどくさいからっていう理由じゃないでしょ。なんだかんだ言って君真面目だし」
落ちた生徒手帳を僕に差し出し、二乃が尋ねる。
その真剣そうな目で問いかけられて、脳裏に過るは秘密事。誰にも話す訳にはいかない隠し事。
さて、どう答えたものか。
束の間の逡巡。
僕はやはり隠すことにした。
「……はあ、この前二乃をかばって怪我した時、五月が僕の親に会いたいって言ってたでしょ」
「そうね、それが何か問題でもあるの?」
「だって無理だから。……僕の両親は僕が物心つく前に死んでるんだよ。だから書けない。そもそも顔も知らないしね。……天涯孤独なんだよ僕は」
嘘でもなければ真実でもない。
「……ごめん」
謝れても困る。
「気にしなくていい、僕にとっては赤の他人のようなものだからね」
(便宜上の)両親の墓参りにはちょいちょい行ってるけど。そう言いながら生徒手帳を受け取ろうとすると、今度は三玖からの手紙が落ちてきた。
そういえば挟んだままだったな。
落ちた紙に視線を向けた二乃が目ざとく反応する。
「なにこれラブレター? ……これ三玖の字じゃない! 告白されたの?」
内容を見られる前に回収する。
「されてないよ。それはメールアドレスを交換してなかったときに貰ったの。学校で僕に用があったみたいだけど、その時に僕が居なかったみたいだから机の中に入れたらしい。ちなみに内容は授業で分からないところがあったから聞きたかったみたい」
嘘をつくときは多少の真実を入れるといいらしい。
「そういえばピアスはいいの?」
「今回はいいわ……別に花嫁衣装を着る時までにあけられたらいいから」
「そっかー」
一時はどうなるかと思ったが、何とかなってよかった。
ふつうは子供が親を亡くしてしまった場合、親戚に引き取られるか、施設のお世話になると思いますが、まぁご都合主義ということで。あまりツッコまないで下さい。結構無理やりかなと思っていますので…………。 かしこ。
タイトル変えました。前のは誇張表現かなと思ったので。