五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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今日は一日早い投稿です。

その理由は後書きで


第19話 赤くて白斑の有名なアイツ

「お疲れ様でしたー!!」

 

「お疲れ様ー」「お疲れ様でーす」

 

 今日の撮影が終わり、帰り支度を終わらせた私は、仕事仲間に声をかけて家に帰る。

 最後に社長のところで挨拶をすれば、ちょっと待ってと引き留められた。

 

「一花ちゃんお疲れ様、引き留めて悪かったね」

 

「いいえ、それより何か用事でも?」

 

「ああ。最近近くで不審者が出始めただろう? 気を付けてくれよ、君は大事な看板女優なんだからね」

 

 君だけじゃなくて皆もだけどね、と付け足した社長はこちらに身を乗り出した。

 

「ところであの人はどうだい? ちょっと聞いてみて貰っても良いかな?」

 

 社長はどうやら彼が気になるらしい。

 

「あの人ってユキト君のことですか?」

 

 十中八九そうだと思うけど、一応聞いてみる。

 

「そうだよ。君のあの顔を引き出した彼のことだ。彼は磨けば光る。私には解るのだよ」

 

 キラーンって音が鳴りそうなキメ顔した社長は、よろしくね、と言って帰っていった。

 私聞いてみるって言ってないんだけどなぁ……。

 

 でも、もし彼が仕事仲間になったら、きっととても楽しいんだろう。

 

 ……聞いてみようかな。

 

 ポケットからスマホを取り出し、指を滑らせる。

 

『ねぇ、俳優になる気はない?』

 

 

─────………

 

 

「おっすおはよう雪斗!」

 

「おはよ~」

 

 登校してきた雪斗に、クラスメイトの男子生徒が勢いよく頭を下げた。

 

「お願いだ雪斗! 俺に教えてくれ!」

 

「しょうがないなぁ」

 

 やれやれ、といった様子で鞄からコップを取り出した雪斗は、それを彼に渡した。

 

「?」

 

「いいか、それを頭の上に乗せるんだ」

 

 その男子生徒は困惑しながらも、取り敢えず言う通りに頭の上に乗せる。

 周囲に居た他のクラスメイト達も、好奇心に押されて注目する。

 

「そのコップに種を一回で投げ入れると、あ~ら不思議! にょきにょきと花が生えました!!」

 

 おおっ! と周りがざわめく中、彼は「ん゛ぬう゛っ」と、コップを机に思いっきり叩き付けるように置いた。

 そして一言。

 

「マジックじゃねぇよ!!」

 

「宴会芸だけど?」

「マジックでもないんかい!!!?」

 

 雪斗の胸に押し付けられた花は、雪斗が指を鳴らすと瞬く間に燃えて消えた。それに再びざわめく周囲。

 

「すごいよ! もうホントすごい! けど! 俺が教えて欲しいのは勉強であってマジックでも宴会芸でもないから!! てか宴会芸とマジック一緒だろ!!」

「さぁ?」

「知らないんかい!」

「まぁまぁ落ち着いて」

「お前のせいだけどな!?」

 

 はぁはぁ、と肩を上下させる彼は、まだ朝なのに夕方のように疲れた雰囲気を出している。

 

「話戻すぞ。俺に化学を教えて欲しい」

 

「良いよー」

 

 そう声に出して首で頷いた雪斗は、教科書とノートを取り出した。

 

「どこ?」

 

「この前やった完全気体のとこ」

 

「おっけー」

 

「あ、それなら俺も良い?」「私も構わない?」「俺も俺も」

 

「ええよー」

 

 他にも集まってきたクラスメイト達にも、快く頷いた雪斗は、教科書片手に教壇に立った。

 

「えー、割りと人が多くなったので、黒板使うね」

 

 チョークを持って、完全気体の状態方程式(PV=nRT)を書き出す。

 

「最近習ったこれは、ボイルの法則とシャルルの法則、アボガドロの原理をひとつの式にまとめたものだってのは、良いよね?」

 

 皆が頷くのを見た雪斗は続ける。

 

「実際に計算する際に、単位を残してる人はいる? ……居ないのか。じゃあ問題です。圧力の定義は何ですか? はい君!」

 

「えーと、単位面積当たりの力?」

 

「その単位面積って具体的には?」

 

「えーと、分かんない」

 

 それにふんふん、と頷いた雪斗は黒板に書き始めた。

 

「さて、圧力の定義は、1平方メートルに掛かる力のことだ。力の単位はN(ニュートン)。つまり、圧力の単位PaはN/m²から、(Kg・m/s²)/m²と書き換えられる訳だ。他にも圧力定数(R)に含まれるJ(ジュール)は、定義より、N×mと変換出来る。ここから更にKg・m/s²×mとも変換出来る」

 

 黒板に書き出された内容を、各々がノートに書き写す。

 

「ここで大事なポイント1つ目!それは、定義をよく理解していること。定義が分かっていれば、出される問題の単位に振り回されることは無くなります。例えば、m²のところが、cm²と問題文に書かれていたら、直せば良い」

 

 黒板に書かれた『cm²→m²と直す』が赤のチョークで囲まれた。

 

「そして大事なポイント2つ目! 単位は計算出来るから残しておくこと。例えば1atmは何Paですか? と聞かれた際に、ほとんどの人が単に1×1.013×10⁵とやって計算していると思うけど、これを単位付けて計算するとこうなる」

 

『1atm×(1.013×10⁵Pa)/1atm』

 

「これよく見ると、分子と分母のatm同士が消えて、Paが残るよね」

 

『1atm×(1.013×10⁵Pa)/1atm

 

「よって答えは」

 

1atm×(1.013×10⁵Pa)/1atm=1.013×10⁵Pa』

 

「こうなる。ここでひとつ問題を出すぞ。気体分子運動論の圧力はこう表される」

 

『P=(nMV²rms)/3V』

 

「ここでnは物質量mol、Mはモル質量kg mol⁻¹、Vは体積m³。Vrmsはまあ、実際は違うけどただの速度Vだと思ってくれてかまわないから。それじゃ、この式を変形して、P=N/m²であることを示してね」

 

 朝とは思えないほどの静寂が教室を包み、おしゃべりしていた他のクラスの人たちは、空気を読んだのか、空気に耐えられなくなったのか、教室の外に出て行った。

 

「………そろそろ解説を始めるぞ。この式に単位を全て書くとこうなる」

 

『P=(mol・kg mol⁻¹・m²/s²)/3m³』

 

「これの分母分子のmolと、速度のmと体積のmをひとつ消す。すると」

 

『P=(kg・m/s²)/3m²』

 

「こうなり、kg・m/s²は力を表し、分母の3m²は面積を表す。書き換えると」

 

『P=N/3m²』

 

「と、言うことで、確かに圧力の定義通りの式が出ました。なお、ここの3はさっきのVrmsが関係して出るんだけど、今回は意味ないので説明はしません」

 

「良いか? 全ての計算は、単位を残して計算することで、ミスが減らせる。ここ大事だぞー。そして、単位は別の単位に変換出来る」

 

 気付けばクラスメイト全員がノートを取り出し、しっかりと聞いていた。

 

「最後に大事なポイントをもう一度言うぞ。一つ目、定義を覚えておくこと。二つ目、単位は残して計算すること。以上」

 

 そう締めくくった直後、朝のSHRを告げるチャイムが鳴った。

 

 

 

 その姿を見る人影がひとつ。

 

「むむむむ!」

 

 そして、そう言い残して去っていった。

 

 

 

─────………

 

 

 

 その日の昼休み、図書室で勉強していた五月は、何か気になる様子でチラチラと雪斗の方を見ていた。

 

(気になりますね……)

 

「どうしたの?」

 

 その視線に気付いたのか、雪斗は読んでいた本から目を離し、五月の方を見た。

 

「この本でも気になった? 借りてこようか?」

 

「いえ、それも気になると言えば気になりますが……」

 

 雪斗が読んでいた本のタイトルは、『友達の法則』

 その隣には、『植物は友達』『植物だって生き物』『ヤバい花一覧』が積まれていた。

 

「まぁ、その……何ですかそれ」

 

 五月が指を差した方には、白い斑模様のある赤い花があった。

 

「ん? これ? 見れば分かるでしょ?」

 

 その花は葉っぱが二つしか付いてない。けれども一番の特徴は、人でいう口のところにあたるであろうところに、牙らしき白いものが生えていること。

 

 これはアレ。赤くて白斑の有名なアイツ。

 その名は────

 

「マ○オのパック○フラワー。なかなか可愛いでしょ」

 

「いえ、それは知ってますけど、どこでそのオモチャを?」

 

「オモチャじゃないよ?」

 

「え?」

 

 信じられないものを見る目で雪斗を見つめる五月。

 

「ほら朝にさ、僕コップに種を入れて花出したじゃん? あれ、一発で入れないとたまに奇妙なモノが生えてくるんだよね」

 

「マジックじゃ無いんですか!!?」

 

「マジックだよ?」

 

「……もう良いです。何だか頭が痛くなってきました」

 

 こめかみを指で押さえ、思考を放棄した。現実逃避とも言う。

 

「コイツの名前付けないとなー」

 

「名前付けるんですか……」

 

「うん。気に入ったし。……そうだなぁ…よし、君の名前はパッ○ンフラワーのパックンだ!」

 

 がぶっ。

 

「手が噛まれてます噛まれてますぅぅ!! あぁ、血が出てますよ!!!」

 

「はは、こ奴め。照れてるのか? お前見かけによらず、うぶな奴だなぁ」

 

「絶対違いますよそれ!! 絶対その名前気に入ってませんよ!!!」

 

「じゃあ、何か案ある?」

 

 デコピンでパックンの頭と思われし部分を弾いた雪斗は、血を拭き取ったあとにそう訊いた。

 

「えぇと、それじゃあ……」

 

 ふと、さっきの噛まれていた光景が頭に浮かんだ。

 

「がぶりんで」

 

 あむっ。

 

「あ」

 

「どうやら気に入った様ですね。良かったです」

 

 あむあむ、と五月の指を甘噛みするパックン改め、がぶりん。

 

「……何だかジェラシー」

 

 じぇらった雪斗はがぶりんの入っているコップを持ち上げ離そうとするが、茎を伸ばして離れない。むしろ葉っぱで手をはたいてきた。

 

「コイツ消し炭にしてやろうか!?」

 

 ガブリッ!!

 

「痛ッ! コイツ反抗してきた! にゃろ、生みの親に対して牙を剥くとか許せん!! 例え御天道様が許そうと私は許さんぞ!! バルスを喰らえ!!」

 

「やめて下さい。かわいそうです」

 

 『植物は友達』の本で叩こう(バルス)とした雪斗は、五月の制止で手を止めた。

 『植物は友達』の本が植物の汁(血)で汚れなくて良かったな。危うく『植物の凶器』になるところだった。おかげで司書さんに怒られずにすんだ。もっと雪斗は五月に感謝した方がいい。

 

「五月、コイツあげる。がぶりん五月に懐いてるし」

 

「じゃあ、貰います」

 

 五月も気に入ったのか、素直に受け取ると袋を軽く被せて鞄に入れた。

 

「あ、もうお昼が終わっちゃうね。戻らないと」

 

「そうですね」

 

 

 

「えぇ……持って帰るのそれ……」

 

 見ていた彼女は、そう溢してクラスに戻る。

 

 

 

 

─────………

 

 

「ちょっと何よこれ!!?」

「わわわわ!?」

「……パックンフラ○ー?」

「う~ん……間近で見るとそんなにだなぁ」

 

 家に帰り、鞄からがぶりんを出した五月は、雪斗から貰ったことを説明した。

 

「捨ててきなさいよ!! それか返してきて!! 私は反対! 断固拒否!」

 

 二乃は胸の前で腕を交差し、バツ印を出した。

 

「いけ! がぶりん! 君に決めた!!」

 

 どこぞのマサラ人の真似をしている四葉は、がぶりんをボケットなモンスターとして遊び始めた。

 

「がぶりん! このプリントに“かみつく”攻撃!!」

 

「それ小テストの紙じゃん」

 

 どうやらがぶりんを使って証拠隠滅を計るらしい。

 指示を出されたがぶりんは、案外ノリノリで食い散らかした。

 

「二乃! がぶりん面白いです!! 私飼うのに一票入れます!!」

 

「私は賛成」

 

「い・や・よ!!」

 

「もぅ! 良いじゃん! 二乃のケチ!!」

 

 むぅ、と頬を膨らませた四葉はピコーンと閃いた。

 

「がぶりん! 二乃にダイレクトアタック!!」

 

「それポケ○ンじゃなくて決闘者!!」

 

 そのツッコミと共に、二乃のチョップががぶりんに炸裂。

 

 効果は ばつぐん だ! 

 

 がぶりんは戦闘不能になった。

 

「え~ん二乃ががぶりん倒しちゃったぁ!!」

 

 目の端に涙を湛えた姿を見て、姉妹思いの二乃は心にくるものがあった。

 

「あ~もう、分かったわよ! 飼っても良い!!」

「ほんとう!? やったぁ! 二乃大好き!!」

 

 瞬時に泣き止んだ四葉は、二乃に抱き付いた。

 一方で、がぶりんにエサを与えようとした三玖は首をかしげた。

 

「エサはどうするの?」

 

 その問いに、確かに、と思う。

 

「虫で良いじゃないかな? ほら、見た目派手なハエトリグサだし」

 

 こんな活発的なハエトリグサはいない。

 

 でも、もしかしたらパ〇クンフラワーはハエトリグサの突然変異の可能性があるかもしれない。

 

「もしかしたらゴキブリとか食べてくれるかもしれない」

 

 また、リアルなゴキブリホイホイになる可能性はゼロじゃない。

 

「そうですね、じゃあがぶりんの家の役割は、害虫駆除係で」

 

 任命を受けたがぶりんは、器用に葉っぱで敬礼した。

 

 

 

─────………

 

 

 自分の部屋に戻った一花は、スマホを開く。

 

『ねぇ、俳優になる気はない?』

 

 昨日送ったその内容に返信は無く、一花はため息を吐いてスマホをベッドに放り出した。続いて自分もベッドに倒れ込んだ。

 

(なんで返信くれないんだろう………)

 

 脳裏に蘇るのは、今日の出来事。

 今日一日ユキト君のことを観察してみた。

 

(教師を目指してるのかな………教え方うまかったし)

 

 家庭教師もある意味その練習かもしれない。

 もしかしたら返信しないのはそういうことなのかなぁ………と思って、気が沈んだ。

 

(………寝よ)

 

 

 

 

 

 

 

 ピロン

 

 

 

─────………

 

 

「おはよー一花! 昨日はごめんね!」

 

 一花がいる教室に入ってきた雪斗は、一花を見つけると頭を下げた。

 

「スマホを充電し忘れてたからメール来てたの分からなかったの!!」

 

「え?」

 

 急いでスマホを取り出すと、確かにメールが返って来てた。

 

「取り敢えず会うだけ会ってみたい」

 

『遅れてごめん。取り敢えず会うだけ会ってみたい』

 

 メールの内容と同じことを言った雪斗に、一花は安心したように息を吐く。

 

「うん! じゃあ後々連絡するね!!」

 

「うん、よろしくね」

 

 バイバイと手を振った雪斗は自分のクラスへと帰っていった。

 

 

「よしっ!」

 

 承諾を得た一花は小さくガッツポーズをし、軽い足音を鳴らしながら自分の席に戻った。

 

 

 




 今回の話は弟作! 気づいた人もいるかな?



 ここから先は弟(千月)作のうちはによる鬼狩り物語について話そうかと思いますので、興味のない方は飛ばしてください。

 私の作品を読んでくださっている方の中には、知っている方もおられるかと思います。この度、うちはによる鬼狩り物語が完結いたしましたのでその旨の報告と、読んでみたいと思った方には連絡をいただければ送ることが出来ますので、直接私のメールボックスに送るなり感想欄で教えていただければ幸いです。

 ここでコソコソ裏話   弟は原作を一巻も持っていないのに関わらず完結いたしました。  走り切ってやったぜ! だそうです。


 それでは最愛の友よ。また会おうーーー。(活動報告と本文より引用) 
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