五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第22話 いじっぱりと夜の勉強会

 

 

~オリ主サイド~

 

 今日は家庭教師の日で上杉と共にいつも通り中野家に来ていたのだが……。

 

「どうしてこうも問題を起こすかな~。自分で自分の首を絞めてること分かってる?」

 

「白羽……。これ以上は……きついんだが」

 

「あ゛? 馬鹿につける薬はないからこうしているわけだが……なんだ? 文句でもあるのか? ほれ言ってみろ」

 

「何でもないです」

 

 雪斗は上杉の正座の上に足を置き、体重をかけて罰を与えていた。

 

 この話は数十分前に遡る。

 

「お邪魔しまーす」

 

「いらっしゃい白羽さん!」「どうぞどうぞ~」

 

 四葉と、今日は珍しく一花にも出迎えられて、リビングに移る。

 

「あれ? がぶりん大きくなってない? なってるよね?」

 

 テーブルの中央には以前の二回りは大きくなったがぶりんがいた。更に苗床はコップから植木鉢へ。ますますマリ◯感が増していた。

 

「五月が餌付けしていたらここまで……」

 

 リビングに居た三玖が恥ずかしそうにそう言った。

 

 う~む納得。五月ならやりそう。

 

「ちょっとアンタ!」

 

「ん? どうしたの二乃?」

 

 腰に手を当ていかにも怒ってますと、体現する二乃はビシッとがぶりんに指を差す。

 

「コイツ中野家の害虫駆除係なのに全然虫食べないんだけど!! 見た目ハエトリグサっぽくしてるくせに!!」

 

 指差されたがぶりんは、気まずそうに体を揺らした。

 

「そのまま何もしないなら燃やすわよ!!」

 

 びくっ! と体全体を震わせたがぶりんは、縋るように僕を見る。

 

「虫がいないからじゃないのかな? 何なら一花の部屋に置いとけば? ゴッキーとかニクバエとか出そうだし」

 

 僕はN(ニクバエ)G(ゴキブリ)もNGだけど…………。そもそも小さい虫好きじゃないんだけどね。

 

 手助けすれば、がぶりんは感謝したように首を振る。……今更ながら、コイツ人間の言葉解るんだな。それっぽいの無いのに耳どこにあるんだろう?

 

 植木鉢ごと手にとって、まさぐってみる。こら、身をよじらないでじっとしてなさい。

 

 ちなみに、一花の「ちょっと人の部屋を酷く言わないで!!」はスルーした。

 

「そうね。そうするわ」「ちょっと二乃!?」

 

 ふん、と鼻を鳴らして納得した途端、来客を告げるチャイムが鳴った。上杉だろうか。

 

 

「はーい!!」

 

 

 四葉がインターホンに駆け寄り、セキュリティを解錠して数分後、上杉がやって来た。どれ僕も迎えようか。

 

 がぶりんを抱えたまま、てってこ歩いてリビングの玄関側に寄る。

 

 そして上杉がリビングに入った途端、腕の中のがぶりんが突如として上杉に噛み付いた。

 

「痛ってぇぇ!! おい何だコイツ!!? やめろ離せ!!」

 

「「アハハハハハハハハ!!!」」

 

 

 その姿を見た二乃が腹を抱えて爆笑。一花もその場に崩れ落ちて爆笑。なお、三玖と四葉は顔をそらして必死に笑いを堪えてる。

 

 

「ア、アンタがぶりんに害虫認定されてるわよ!! ブッフ……駄目だ、面白過ぎて止まらないわ!!」「ブフッ……ごめんなさい上杉さん」

 

 やめてやれ。

 

「がぶりん、上杉は無害だから離してやりなさい」

 

 頭を撫でれば素直に牙を引っ込めた。

 

「コイツ燃やして肥料にしてやろうか!!?」

 

 わ~僕と同じようなこと言い出した。

 

「やめてやれ。五月が泣くし、生みの親として長生きして欲しい」

 

「生みの親? お前が?」

 

 訝しげに僕を見る上杉に、誕生秘話を語ってやる。題して、第一幕~がぶりんの神秘。その出生とは!?~

 

 なお第二幕は~がぶりんが大ピンチ!? バルスが迫る~である。

 

「お前人間の姿をした神様だとか悪魔だとかじゃないよな?」

 

「神様だったら既に姉妹達の頭をどうにかしてる」

 

「そりゃそうだったな」

 

 言い終わった途端、上杉の目が不審に游いだ。なんだ?

 

「どうしたの?なんか目が凄い動いてるけど」

 

「まぁ、その、なんだ。怒らずに聞いてくれるか?」

 

「ものによるな。でも、話さずに後からそれを知った場合、がぶりんをけしかけるからな」

 

 しゃー! と口を開いたがぶりんを目の前で揺らす。

 

 

「分かった話す。だがちょっと離れよう。お前達はこれをやっててくれ。途中で休憩しても良いからな」

 

 あ、何だか嫌な予感。

 

 端っこによって詳しく聞けば、なにやら売り言葉に買い言葉。五月と喧嘩して教えないっと。

 

「よしそこに直れ貴様」

 

 

 ここで冒頭に戻る。

 

 

「……二乃がこの事を知ったら間違いなく妨害か勉強を全くしなくなる。よって二乃にこの事を知られないこと。五月と関係を修復すること。一番守らねければならないのは二乃に知られないことだ。この二つを必ずやる事。いいな?」

 

 

「……」

 

「返事は?」

 

「了解です!」

 

(赤い目がより恐怖を煽ってきやがる。怖すぎる!)

 

 上杉は震えながら返事をしたが、雪斗は心配になりながら溜息を吐いた。

 

 一方で姉妹達は……。

 

「結婚しました~! ご祝儀ください!!」

 

 休憩という名目で人生ゲームで遊んでいた。

 

「って、エンジョイしている場合かー!!」

 

 上杉は、事が重大のあまり叫んでしまい三玖から僕たちに心配の目を向けられた。

 

「……ユキト、フータロー。私たち、そんなに危ない?」

 

「いや、その……」

 

 三玖は心配な表情を浮かべながら上杉を見て、上杉は思わず言葉を詰まらせた。

 

 雪斗はこの様子を見ながらどうするか悩んでいた。

 

 下手に打ち明けると二乃にバレる。五月は無駄に意地を張って頑に教えて貰うつもりはないと。まあ最悪僕が教えるからいいとして……手のかかる姉妹だこと。 

 

「なんだー勉強サボって遊んでるんじゃない。アタシもやるわ。がぶりん変わりなさい」

 

 そう言いながらがぶりんと二乃が変わり、二乃が人生ゲームで遊び始めた。そう、がぶりんも参加していた。蔦を生やして。そのうち火を吐くんじゃないか? 

 

「あんたも混ざる?」

 

 五月に話しかける二乃。

 

「五月……昨日は……」

 

 どもってないで謝りなさい!

 

 視線と心の中で発破をかける雪斗。が……

 

「私はこれから自習があるので失礼します」 

 

 そう言い五月は、素っ気ない態度で自室に戻った。

 

 こりゃ無理だな。ダメだこりゃ。

 

 僕は五月の態度を見て直ぐに関係を修復するのは無理だと諦めた。

 

 少なくとも今日では無理だな。

 

「よし、そろそろ本格的に勉強を始めるぞ!!」

 

 このままダラダラと流れていたら終わらない。手を叩いて切り上げた。

 

 

 

 

 

─────………

 

 

 

 

 

「ほら、アンタたちも今日のカテキョーは終わったんでしょ。帰った帰った」

 

 本日の家庭教師が終わった上杉と雪斗を、二乃は追い払おうとするが、そこに一花が待ったをかける。

 

「待ってよ二乃。2人とも約束が違うじゃん」

 

「「は?」」

 

「何よ?」

 

 上杉と二乃は頭に疑問符を浮かべ、雪斗も疑念の声をあげた。

 

「今日は泊まり込みで勉強教えてくれるって話でしょ?」

 

『えぇーーっ!?』

 

 よくわからんがナイスだ一花!

 

 僕は一旦自宅に宿泊用の衣類を取りに行き、荷物をまとめ、もう一度中野家に戻った。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい白羽さん!!」

 

 出迎えてくれたのは、四葉だった。

 

 すると、浴室から二乃が何やらご機嫌な表情を浮かべながら出てきた。

 

「二乃。ご機嫌だねー良いことでもあった?」

 

「ええ。良・い・は・な・しを聞けたからね」

 

 もうバレたのか。もう一度罰を与えなければならないな。

 

「ところで、上杉はどうした?」

 

「アイツならまだお風呂に入ってるわ」

 

「さんきゅ」

 

 二乃に感謝を伝えすぐさま浴室に向かう雪斗。

 

『……やあ上杉君……一花君から聞いたよ。今日は泊まり込みで勉強を教えるそうだね』(マルオボイス)

 

「お、お父さん!?」

 

『君にお父さんと呼ばれる筋合いは無い……二乃君に聞いたが、このまえ学校で勘違いされるような発言をして二乃君から反撃を食らったそうだね。もしまた娘たちに何かするようなことがあれば家庭教師としての話は無しだ。肝に銘じておくように』

 

「は、はい!」

 

(やばい! これで五月から金のために働いてるという話をお父さんにされてしまったらおしまいだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー………ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……上杉ホントに何やってんだよ」

 

「滅相もございません」

 

 雪斗は上杉を再び正座をさせていた。

 

「普通謝る時は、面と向かってするもんだろ。どこに扉越しで謝罪するんだよ……」

 

「い、いや、アレは、格好がだな……」

 

「隠しているだけマシだろ」

 

 雪斗は上杉の言動に文句しか出なかった。

 

「まあ、バレたのはどうしようもない」

 

「あとお父さんがさっき来たんだ! 五月からお父さんに何か言われたら家庭教師としての話は無しになってしまう!」

 

「それは僕の声真似。こうでもしないと危機感持たないだろ。……もう手遅れ気味だが」

 

 雪斗の声真似だと聞いて明らかにホッとする上杉。

 

「とりあえず切り替えてみんなの赤点回避に専念するぞ」

 

「あ、ああ」

 

「さて、ここからどうやって挽回しようかねー。いっそ学校に何かあって、テスト延期しないかなー」 

 

 雪斗はこれからどうするか考えつつ風呂場に入った。

 

 

 

 

ーーー…………

 

 

 

 

 風呂から出て勉強を再開した一同。

 

「教えてほしいことは何でも聞いてくれ!」

 

「上杉さん! 討論って英語でなんて言うんですか?」

 

「それはdebateだ。でばてと覚えておけ!」

 

 上杉が四葉に教えてる一方で、僕は一花に教えている。

 

「一花そこは“a”じゃなくて“the”だよ」

 

「あっそっか。既に分かってるもんね」

 

 消しゴムで消し、書き直す一花を見て、三玖がこっちを見た。分からないとこがあったのかな?

 

「教えてほしいこと……ねぇ。ユキト」

 

「何ー?」

 

 どんとこい! いまならなんでも答えてやろう。

 

「そのTシャツに書かれてある単語の意味は何?」

 

 僕の着ている無地の黒Tには、胸元に意匠の施された白い文字で“Carpe diem”と書かれてある。

 

「これはねーラテン語で、カルペ・ディエムって読むの。その日を掴めって意味だよ。赤点回避してほしいとの、一種の願掛けだよ」

 

 良くない? このTシャツ。結構良さげだと思う。

 

「それと……好きな女の子のタイプは何?」

 

「え? 急にどうした?」

 

 ハンドル操作見誤った? ちゃんと信号見なきゃダメだぞ?

 

「……気になった。教えてくれない?」

 

「それ、そんなに知りたい?」

 

 どうでもよくね?

 

「はいはーい! 私は俄然興味あります!! もちろん上杉さんのもです!!」

 

「お、俺も!?」

 

 四葉の発言で思わず素っ頓狂な声を上げた上杉だった。

 

「女子のタイプねー。あ、そうだ。ならゲーム形式で教えようではないか! 三玖たちがノート1ページ進めていくとその答えを教えるっていう感じね! 先に上杉が発表しまーす!」

 

 言い切ると同時に真面目にノートを埋めていく一同。

 

「できた!」

 

 最初にできたのは一花だった。

 

「それでは第3位は……いつも元気!」

 

 次にノートを埋めたのが……。

 

「できました!!」

 

 四葉だった。

 

「第2位は・・・料理上手!!」

 

 最後の1つを知る為、みんなが進めていき……。

 

「……できた」

 

 今度は、三玖が出来上がった。

 

「それでは、第1位! ジャララララ………………ジャン!! お兄ちゃん想い!!」

 

「ってアンタの妹かい!!」

 

 思わずツッコミを入れた二乃。

 

「な、なんだよ二乃盗み聞きなんかして……一緒に勉強するか?」

 

「聞きたくなくても耳に入るわよ!」

 

 などと、やり取りをしている時だった。

 

「騒がしいですよ。勉強会とは、もう少し静かにするものだと思ってましたが」

 

「ごめんね~」

 

 上杉たちのやりとりが騒がしかったようで部屋から五月が出てきた。

 

 上杉が五月に声を掛けようとしたが顔を合わせると気まずいみたいだ。クビがかかってんだから素直になればいいのに。

 

「三玖、ヘッドホンを貸してもらってもいいですか?」

 

「? いいけど……」

 

 ヘッドホンを借りた五月は、部屋に戻ろうと引き返したところで雪斗が声をかけた。

 

「ねえ五月」

 

「何ですか?」

 

「僕が教えてもいい?」

 

「……いいえ。自分の力でどうにかします」

 

 とてもヤバい状況なんだけど、五月は真面目だしやる時はやる人だから、 

 

「……信じて良いんだね?」

 

 そう聞いた。 

 

「……足手纏いにはなりたくありませんので」

 

 五月は、こちらに振り向かずそのまま部屋に入っていった。

 

 こうなった以上はもう無理か。テストは厳しくなるな。

 

 

「再開するか」 

 

「……白羽、だが!」

 

「ねぇ、ユキト君、フータロー君。ちょっと休憩しない? 星が綺麗だよ」

 

 僕は歓迎。そのまま僕の好きなタイプについての話を有耶無耶に出来るし。

 

「一花。また突飛なことを……」

 

 一花は上杉の静止を振り切ってベランダに向かった。

 

「まあまあ一足早い休憩としようよ」

 

「そうだな」 

 

 僕と上杉はベランダにいる一花のもとに向かった。 

 

 ベランダに出ると満天の星空と街の明かりが煌々と光っていて見事な絶景を作り出していた。

 

「キレイだねー」

 

「最上階も捨てたもんじゃないでしょ。そう言えば、オーディション受かったよ」

 

 もう受かってからその先を知っているけど、流石に映画の内容を第三者である上杉に言うわけにはいかず、僕は知らない体で一花に合わせる。

 

「すごいじゃん! おめでとう一花! いつから?」

 

 いつから上映会が始まるの? 言外にその言葉を滲ませる。

 

「テスト後だよ。だから安心しなよ、フータロー君?」

 

 テスト後のいつ? そこが肝心なんだけど、一花は汲み取ってはくれなかった。単に気付かなかっただけだとも思うけど。

 

「……まぁ、それならいいが」

 

「それで僕たちを呼んで何が言いたいの?」

 

「相変わらず鋭いね。……フータロー君、五月ちゃんと喧嘩しちゃった?」

 

「! ……いつもの事だ」

 

 喧嘩をいつものことにしないでほしい。

 

「今日はいつもと違う気がした。2人には、仲良く喧嘩してほしいな」

 

「……矛盾してない?」

 

「そう? あの子も意地になってるんだと思うよ。昔から不器用な子だったから素直になれないだけなんじゃないかな。きっと今も一人で苦しんでる。私もやれるだけやってみるけど、フータロー君やユキト君にしか出来ない事もあるから。そこはお願いね」

 

「上杉に出来ることかー。まず謝罪だよな」

 

「っ、善処する」

 

 善処じゃなくてやるって言ってほしいな。

 

「ほぼ同時に生まれたとは言え、長女の責務を全うしてるんだね。えらいえらい」

 

 そう言って僕は一花の頭をわしゃわしゃ撫でる。ついでにほっぺたも。よーしよしよしよし。

 

「んもー、子供扱いしてるでしょ!」

 

「いや、犬扱いしてる。ほらお手!」

 

「人でもないの!?」

 

 からかいつつ、手櫛で一花の乱してしまった髪の毛を直していると、

 

「…………それにしても秋なのに暑いねー」

 

 もう寒い頃なのに暑いとか言ってきた。

 

「普通に寒いよ。部屋に戻ろうか」

 

「いい加減戻るぞ。そろそろ再開しないとな」

 

 上杉の後に続いて僕も中に戻って行った。

 

「寒い……かなぁ…?」

 

 頬をほんのり赤く染めて、白い息を吐いている一花に気付かずに。

 

 ちなみにどこで寝るかでひと悶着あり、結局僕は三玖のところ、上杉は四葉のところで寝ることになった。

 

 このまま何事もなく明日を迎えられると思っていた。けれど、みんなが寝静まった深夜にそれは起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく見付けたぞ……一花ちゃん」

 

 

 

不穏な影が、迫っていた。

 

 

 

 





ニクバエは人家の周辺、特に便所やゴミ捨て場によく見られます。雪斗は遠回しに一花の部屋をゴミ捨て場のようだと言ったんですね。辛辣ゥ~!

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