雪斗もテストは終わった体でいきます。テスト内容は同じですし……。
週が変わり、テスト返却日の放課後。僕たちは図書室に集まっていた。
「……うんみんな集まったね。悪いね、集まってもらって」
「どうしたの? 改まっちゃって」
「水臭いですよ」
「間違えたところ、また教えてね」
「……まずは……答案用紙を見せてくれ」
「はーい。私は………」
上杉の言葉に一花が喋ろうとする。が、
「見せたくありません」
五月の拒否の言葉が遮る。
………そうか駄目だったんだな。
「テスト結果なんて他人に教えるものではありません! 個人情報です! 断固拒否します!」
「……………ありがとな。だが、覚悟は俺も白羽もしてる。だから教えてくれ」
「っ………!」
結果として、一花は数学。二乃は英語。三玖は社会。四葉は国語。五月は理科。それが赤点を回避出来た科目だった。それ以外は人によってはギリギリだったり惨敗だったりするが赤点だった。
「うーん……そんな短期間に実力はまだ身につかないか…」
「改めてこいつらの頭の悪さを実感して、落ち込むぞ……」
受け取ったテストを広げて見比べつつ言う。あれだけやったのにね。
「うるさいわね」
上杉の酷評に二乃がムッとした表情で言葉を返す。
「まあ、合格した教科が全員違うなんて私たちらしいけどね」
「それに最初の五人で100点のときに比べたら……」
「……ああ確実に成長してる」
さっき短時間で実力は出てこないと溢したが、もしかしたら次のテストでは赤点回避を成し遂げられるのかもしれないな。ゆくゆくは笑って卒業もできるだろう。上杉の腕にかかっているが…………。
「……三玖、偏っているけど、今回の難易度で68点は凄い。これからは姉妹に教えられる箇所は自信を持って教えてやってくれ」
「えっ?」
僕の言葉に不安そうな表情を浮かべる三玖。
「四葉はイージーミスが目立つぞ。もったいない。焦らず、慎重にな」
「了解です!」
上杉の言葉に四葉は笑顔で答える。
「一花は一つの問題に拘らなさ過ぎ。最後まで粘れよ。見る限りもう少し点は取れそうだぞ」
「はーい」
次は上杉から二乃への一言である。
「二乃。結局、最後まで俺たちの言うことを聞かなかったな。……きっと俺たちは他のバイトで今までのように来られなくなる………俺たちがいなくても、油断すんなよ」
「ふん」
「ま、待って!」
ここで三玖が会話に入ってきた。
「他のバイトって、どういうこと? 来られないって………なんでそんなこと言うの?」
「…………三玖。今は聞きましょう」
三玖が目に不安の色を浮かばせながら訊いてきたが五月が抑えた。
「五月。一問一問に時間をかけすぎだよ。最後まで解けてないじゃないか。数秒考えて解く方法が出てこなかったら次の問題に行くっていうのも考えてみて」
「は、反省点ではあります………」
「わかっているのならそれでいい。あと『プルルル』」
「……父からです」
僕の言葉を切ったのは中野さんからの電話。
「……失礼」
上杉が手に取るよりも早く僕は五月のスマホを取って電話に出る。みんなが聞こえるようにスピーカーにするのも忘れない。
「こんにちは。白羽です」
『ああ、五月君と一緒にいたか。個々に聞くよりも君の口から聞こう。嘘は分かるからね』
いやバレない自信あるぞ。しないけど。
「つかないですよ…………この前話した条件を覚えていますか?」
「条件? いったい何の話だ? 俺は何にも聞いてないぞ。どういうことだ白羽」
問い詰めてこようとする上杉を押さえながら中野父の言葉を待つ。実はクビの条件を突きつけられた後にまた連絡したのだ。
『ああ覚えているよ。今回のテストで全員が赤点を取ることは不可能に近いとね。そこで君が出した条件はもし娘たち全員が少なくとも一つずつ赤点を回避した場合はクビにするのは君だけにしてほしいとね。……しかしいいのかい? 君は事情持ち(天涯孤独の身)だろう。私が言うのもなんだがかなりの給料を与えることが出来るが』
「かまいません」
ぶっちゃけお金は株とかでもそこそこ稼いでいるし。バイトもしてるし。
「上杉は優秀です。僕なんかよりも」
『…………つまり結果は?』
「結果はですね、娘さんたち全員の赤点回避は不可能でした。ですが幸いにも一人ずつ一教科の赤点を回避しました。ですので条件通りにお願いします」
『わかった。なら君はクビだ。…………今までの業務ありがとう』
そうして通話は終わった。
途中で二乃が電話を取ろうとしたが動きが鈍かったので普通に躱した。残念だったな。僕から物を取ろうなど片腹痛いわ!
「………アンタ今なにしたのか分かってる?」
「分かってるよ。二乃が庇おうとしたの。ありがとね」
みんな何もしゃべらない。いつも元気な四葉でさえリボンを垂らして口を噤んでいる。
そんな暗い雰囲気の中、上杉が口を開く。
「クビについては何も言わん。白羽のことだ、何か考えがあるのだろう」
確信を得た眼差しに、僕ははっきりと頷く。
それに声を挙げてきたのは三玖。
「………ねぇ、ユキト。これからも勉強、教えてくれるよね………?」
「当たり前だよ!」
『え?』
一瞬間を置きみんなが口にしたのは疑問の声。
「いやだって、クビになっただけで教えてはいけないなんて言われてないしー。これからも行くよ! 五月に勉強教えてないしね! それに三玖の美味しい手料理を食べる約束もあるんだから」
それを聞くと三玖は不安そうな表情から一転、嬉しそうな表情を浮かべる。
嘘はついてない。屁理屈だけどね。そして暗い雰囲気も払拭したしこれで万事解決!
「じゃあ、このまま復習しちゃいましょー!」
「そうだね! …………と言いたいところだが、復習は後だ! パフェ食いに行くぞ! 今ならなんと僕が全額奢っちゃいま~す! ……だから上杉お前も来いよ」
今回は逃がさねぇよ? 中野姉妹たちは見目秀麗だからこの前一緒に食べに行ったときに、他の男性からの嫉妬と憎悪と殺意マシマシの視線を食らってたんだから。背中刺されないよな? と思って何度後ろを振り向いたことか。
それと、飛び交う合う視線のレーザービームを潜り抜けるのに苦労したんだから。あと、すれ違う時にさり気なく足を踏まれたし。勿論その後は烏をけしかけておいた。やられたらやり返す、倍返しだ!!
「いいんですか!」
「ユキト君太っ腹だね~」
「……抹茶パフェ食べたい」
「なら私は特盛で!」
「みんな行くならアタシも行くわ」
「ふっ、しょうがないな。なら俺も行くことにしよう」
全員参加ということで。7名入りま~す!
ーーー………
~パフェを食べた後の帰り道にて~
「そう言えば、上杉さんと白羽さんは何点だったんですか?」
「うわっ、やめろ! 見るな!」
「えーっと、上杉さんは………ひゃ、100点!?」
「あー、めっちゃ恥ずかしい!」
「その流れ、気に入ってるのですか………?」
「ではユキト君はどうなのかなー?」
「うわっ、やめろ! 見るな!」(上杉ボイス)
「えーっと、ユキト君は………こっちも100点!?」
「あー、めっちゃ恥ずかしい!」(上杉ボイス)
「わざわざ上杉君の声で言う必要ありました?」
「単にやってみたかっただけ」
気にしないで。いつものヤツよ。