五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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という訳でもう一話投稿しました。この話も短いんですけどね。


第26話 ……ころっけ? え? コロッケ?

 

~中野家~

 

 今日も今日とて中野家にて勉強を教えに来たのだが、三玖が料理を作ったので味見をしてほしいと言われた……。

 

「何これ?」

 

 そう呟いたのは誰だったのだろうか。少なくとも僕の心の内を見事に当てて見せた。

 

「炭?」

「コロッケ、味には自信ある食べてみてほしい」

 

 …………この暗黒物質(炭モドキ) はコロッケだったんだ。初見じゃわかんねえよ。

 

「……いただきます」

 

「……じゃあ食べるよ」

 

「おはぎ作ったのか? いただき」

 

 僕、四葉、上杉が食べたその感想は……

 

「まあ不可もなく可でもなく…………味見した?」

 

「あんまりおいしくない!」

 

「普通にうまい! コロッケだったんだな!」

 

 歪みそうになる表情をこらえつつ、僕は濁したがほかの二人は直球で言った。

 

「なんだ、四葉はグルメなんだな」

 

「上杉さんが味音痴なだけですよー。あんちー」

 

「じゃあ、僕と一緒に作ろうか」

 

 上杉の事を四葉があんちーと言ってからかっているところを見つつ、キッチンに行き三玖に呼びかけた。

 

「うん!……メモするから待ってて」

 

 パタパタと自室に走っていく三玖を笑顔で見送り、視界から三玖が消えたのを見計らって水を飲み、苦みを胃の奥に放り込んだ。…………コッロケの残骸が歯の隙間に入り込んでしまった。

 

 取り除こうと舌を動かす。こういうのって爪楊枝とか使うと早く取れるんだけど使ったら負けな気がするんだよね。この気持ちわかる?

 

 結果上手く取れなかったので最終兵器(爪楊枝)を使って取ろうとすると舌で把握していた場所とどうやら違う様子。…………これが所謂、思ってたのとチガゥ!! 現象。あるあるだよね。きっとみんなもそんな経験があると思う。

 

 取れた残骸をティッシュに包みゴミ箱に向かって放り投げる。奇麗な放物線を描き見事にゴミ箱(ゴール)に吸い込まれた。ナイッスゥ~!

 

 清々しい気分で並々とコップに水を注ぎこみ一気飲みをしていると丁度三玖が帰って来た。

 

「おまたせ」

 

「ゴクン。……お帰り、それじゃあ始めようか。…………食べて思ったんだけどコロッケの中身については問題ないと思うんだよね。だって上杉が食べてコロッケだと思ったんだから、少なくとも肉やジャガイモについては大丈夫と思う…………何か質問ある?」

 

 メモを取りながら頷いている三玖に問いかける。

 

「なにかアレンジしたりはしなくていいの?」

 

「しなくていい……レシピにはない手順を行うことで失敗するリスクが増える。もちろんプロの人だったり常日頃料理をする人とかの場合は別ね。あくまで初心者に対することだから」

 

「なるほど」

 

「あとできる限りレシピに忠実であることね。今回三玖が失敗したのは揚げている時間が長いことがわかるよね。上杉におはぎって言われたし」

 

 僕は炭かと思ったけどね。そんな思いは口に出さないようにお口ミッフィ〇にします。

 

「……確かに」

 

 納得した表情をした三玖。

 

「百聞は一見に如かずって言うし早速作ってみようか」

 

 肘まで手を洗い作っていく。

 

 

ーーー………

 

 

「じゃあ揚げていこうか。油がはねないように気を付けてね」

 

 ゆっくりと油に入れていく様子を見守る。

 

 ジュワーー。

 

 揚げている音ってテンション上がるよね。ええ音や。

 

「それじゃあきつね色になったから油をきって皿に移してねー」

 

「これで完成! さっきとは違って食欲をそそる色でしょ?」

 

「うん……さっきとは全然違う」

 

 僕と三玖が作ったコロッケをみんなに食べてもらう。

 

「なにかいい匂いがします! 今日のお昼ご飯はコロッケですか? 美味しそうです!」

 

 テーブルに置いた瞬間に五月が下りてきて聞いてきた。

 

『いただきます!』

 

「とても美味しいです! このサクサク感が堪りません!」

 

「中々美味しいじゃない」

 

「普通にうまいな」

 

「これなら食べられます!」

 

「……だってさ三玖。良かったね!」

 

 大絶賛だ!

 

「……うん!」

 

 

ーーー………

 

 

『ごちそうさまでした!』

 

「さて腹も満たされたことだし勉強するぞ!」

 

 四葉がやる気に満ちた上杉に声をかける。

 

「上杉さん気がつきましたか? 上杉さんたちが家にいるのに二乃が追い出そうとしなかったです」

 

「……たまたまだろう。それよりもほかの姉妹たちがお前のようにまっすぐで素直であってほしいよ」

 

 なんかいい雰囲気なので片隅でこっそりと見守ろう。ニヤニヤするのも忘れない。

 

「なんで私が上杉さんの味方をしているかわかりますか?」

 

「なんだそれ? 成績上げたいからだろう?」

 

「違いますよ……私が上杉さんを好きだからです!」

 

「え? は? ちょっ?」

 

 困惑する上杉を見つめる四葉。

 

「う~そ~。……嘘でーす! やーいひっかかりましたね! 私も白羽さんみたいに驚かせることはできるんですよ!」

 

「……もうだれも信用しない」

 

 上杉の心が少し閉ざされた。

 

 嘘でも告白したからか四葉の顔がほんのり赤い。

 

「嘘告にしてはまだ顔が赤いぞ四葉。切り替えが足りんな」

 

「赤くないですよ! 夕日のせいです!」

 

「そっか」

 

 ならそういうことにしておいてやろう。僕は優しいからな。

 

 窓の向こうでは大きな夕陽が沈み、名残惜しそうに消えていく。

 

 




炭かと思ったことは口に出していないと思っている雪斗。ポロっと零してるんですけどね。

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