五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第28話 結びの伝説

 

 

~学校の図書室にて~ 

 

「僕たちが肝試しの実行委員になったからには恐怖の夜をプレゼントしてやらないとな!」

 

 ~ドキドキが止まらない!? 恐怖の夜を貴方に!~ 提供元 U&S なおこの作品はフィクションです。

 

 その時が待ち遠しい。どのように怖がらせてやろうか。

 

「そうだな………クラスの奴ら俺に押し付けやがって」

 

 生徒会の倉庫から持ってきた、お化け屋敷などで使われる衣装道具などをガサガサ漁ると、金髪のかつらに奇怪なお面を見つけた。ペニーワイ〇いけんじゃね?You float too!!

 

「おっこれ上杉にいいんじゃないか? 着けてみて」

 

「……なかなかよさげじゃないか。気に入ったぜ」

 

 ………無いな。うん。

 どんな風に驚かすかなどを話し合っていると、ご機嫌な鼻歌が聞こえて来た。

 

「林間学校♪ 林間学校♪」

 

 誰なんだろうな、と思い入口に目を向けると、今にもスキップしそうなほど上機嫌な四葉がいた。

 

「「………」」

 

 互いに目を合わせ、同時に頷いた僕たちはスチャッと、お化けの衣装を着ける。

 

「上杉さんと白羽さん! もうすぐ林間学校ですよ」

 

「「四葉」」

 

「うわあああああーーー!!」

 

 衣装を外す。

 

「僕と上杉だよ」

 

「上杉さん! 白羽さん!」

 

 着ける。

 

「誰ーーッ!?」

 

 外す。

 

「俺たちだ」

 

「よかった~」

 

 着ける。

 

「助けて!!」 

 

 リアクションの良い四葉で遊んでいると、「う゛っう゛んっ!!」という咳払いが聞こえてきた。やべ、騒がしくし過ぎた。

 

「図書室ではお静かに!」

 

『すみません』

 

 思った通り司書さんに怒られてしまった。あと三玖もやって来て、胡散臭げな視線を寄越したあと、僕の隣に座った。 

 

「その金髪のカツラ絶妙に似合ってますよ。こんなに仮装道具を持ってきてどうしたんですか?」

 

「肝試しの実行委員になったんだ」 

 

「へー上杉さんが珍しく社交的ですね!」

 

「白羽に嵌められたんだよ」

 

 忌々しげに僕を睨む上杉の隣で、えっへん、と胸を張る。

 

「それはねー………」

 

 

 

ーーー…………

 

 

 

 時は遡り、席替えの後の林間学校の役割決めの時。ちなみに僕の左に上杉、僕の右に通路を挟んで五月がいる。

 

「…………最後に肝試しの実行委員を決めたいと思います。誰かやりたい人はいますか?」 

 

 そう言った委員長の言葉に誰も反応しないクラスの人。誰も彼も目を逸らし、身を縮める。僕もそれに漏れず、限りなく影を薄くしております。あ、良い事思いついた。上杉に立候補させてやろ。自分には関係ないって思って自主勉していることを恨め!

 

 勉強をしている上杉に話しかける。

 

「なぁなぁ」 

 

「なんだ? 俺は今勉強で忙しいんだが」

 

「さっきから気になってたんだけど、右脇の所に赤い糸くずがついてるよ」

 

「ん? どこだ?」

 

 見事僕の策略に引っ掛かり、ありもしない糸を取ろうとする上杉。

 

「おや、上杉君やってくれるのか。ありがとう。では後もう一人だな」

 

 唐突に黒板に上杉の名前を書き始めた委員長。

 

「は? 俺は手を上げていないんだが」

 

「何を言ってるんだい? 自分の右手を見てみなよ」

 

 上杉が自分の右手をみて見ると確かに手を上げていた。しかし、そこまで高く上がってはいない。普段の授業だったら絶対に指されることは無いくらいの高さだ。それでも周りの生徒が体を縮こませているせいで高く上がっているかのように委員長は錯覚し、肝試しの実行委員長を立候補したのだと判断したのだ。

 

「それでも俺はやら「上杉やるじゃん!」「上杉君カッコイイ!」…………」

 

 上杉の言葉を遮ってヨイショするクラスメイト。皆がみんな上杉を辞めさせないと必死である。

 

「白羽………俺を嵌めたな」

 

 恨みつらみの目を僕に向ける上杉。そんなもんどこ吹く風よ。僕には効かんぜ。

 

「上杉がやるなら僕もやるよ」

 

 僕も手を上げる。なんだかんだ僕はなんの委員会にもなってないしね。

 

「そうか! やってくれるか! じゃあこれで終わりだな。みんなもう帰っても良さそうだ」

 

「いやー上杉の御蔭で早く帰れるよ。ありがとな」

 

 クラスメイトの一人が上杉に声を掛けて帰って行った。「面倒事を引き受けてくれてありがとさん」っていう副音声が聞こえたぞ。

 

 

 

ーーー…………

 

 

 

「……っていうことがあったんだよ」

 

「お気の毒に」「自業自得」

 

「とびっきり怖がらせて忘れない夜にしてやるぜ」

 

 クックックックとどこかの悪者みたいな笑い方をする上杉。

 

「ノリノリだね……ユキトはなんの格好してるの?」

 

「これ? 口裂け女。どうよこの鋏。手入れが大変なんだー」

 

 鈍い光を放つ少し大きい鋏を撫でながら、口裂け女が絶対に言わないであろうセリフを吐く。あの鋏って研いでるのかな?   ワタシキレイ?

 

「作り物だろ」

 

「そういう冷静なツッコミは求めてない」

 

「そうだ! 林間学校が楽しみになる話をしましょう。最終日に行われるキャンプファイヤーのダンス。そのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは生涯を添い遂げる縁で結ばれるというものです」

 

 胸元で両手を握り、目をキラキラさせながらロマンチックに語る四葉だが、

 

「非現実的だ。くだらない」

 

「へー至極どうでもいい」

 

「うん」

 

「冷めてる! 現代っ子!」

 

 取り付く島も無し。

 しおりを読んで気分を高めておくように! と四葉からの課題? を出された。

 そして隣にいた三玖が零すようにポツリと言った。

 

「…………なんで好きな人と付き合うんだろ」 

 

「「「え?」」」

 

「それはねその人のことが好きで好きでたまらないからだよ。三玖にも心当たりあるんじゃない?」

 

 そう言いながら会話に入って来た一花。

 

「そうそう、今日私仕事が入ってるからごめんね! …………あっそうだクラスの子に呼び出されてるんだよね。三玖いつものお願い」

 

「わかった」

 

「「いつもの?」」

 

 上杉と目を合わせ、互いに頷く。

 

 おっしゃ尾行するか。

 

 

 

 

 

 

 

 柱の陰に隠れ、ロッカーの陰に隠れ、たまに天井に張り付きながらも、対象を捕捉し続ける。

 

「ザザ……こちらS班。ターゲットはトイレに入っていた。どうする指示をくれU隊長!」(無線の声)

 

「…………普通に喋れよ隣にいるんだから。あと待機に決まってるだろ。無線の音まで再現するな。それに目立ってるから降りてこい」

 

 通りかかる生徒たちの視線を感じたので素直に降りるとしよう。先生にバレたら反省文を書かかされそう。

 

「はっ」

 

 ひらりと飛び降り、上杉の隣に着地&敬礼。

 

「しかしU隊長。私は女性にも変装できますが………」 

 

「中身男なんだからアウトだろ」 

 

 いや怪盗は女子トイレにも入ってたぞ。財閥のお嬢さんが服を渡すときにね。だから僕も大丈夫。なにより、バレなきゃ犯罪じゃないっていう名言(迷言)があるしね! 

 

 そんなやり取りを柱の陰でしていると一花の変装をした三玖が出てきた。おお、クリソツやん。 

 

「嫌な予感しかしねえ」

 

 そのままついていくと三玖は一花の教室に入っていった。 

 また僕たちは互いに頷き、耳をすます。 

 

「…………俺とキャンプファイヤーで踊ってください!」 

 

「私が? なんで?」 

 

「それは……好き…だからです」 (そうなんだ、一花はかわいいからよくあるのかな) 

 

「ありがとう、でも返事はまた今度……」

 

「今答えが聞きたい!」 

 

「ごめんね! すぐには答えは出せないかな」 

 

「………あれ? 中野さん雰囲気変わりました? そういえば中野さんって五つ子でしたよね? もしかして……」

 

 おっとこれはまずい。

 

「一花こんなところにいたのか」

 

「他の妹ちゃん達が呼んでたよ~。行ってきな」

 

 上杉と共に教室に入り、言葉を遮る。

 

「ユキトにフータロー………」

 

「何勝手に登場してんだコラ。誰だよお前らコラ。お前たちが中野さんを下の名前で呼ぶんなら、お、俺も名前で呼んでもいいのかなコラ」

 

 なんでいちいち語尾に“コラ”をつけるんだ? 名前呼びは好きにしろよコラ。

 

「返事くらい待ってやれよ少しは人の気持ちを考えろ」

 

 上杉が言うと説得力がない。こんなに説得力がないのは二乃が進んで勉強するみたいなもんだ。 

 

「行くぞー」 

 

 一花を連れて行こうとすると、出口を塞がれた。 

 

「待てコラ! 俺は、い…中野さんと踊りてぇだけだお前たちは関係ないだろ」

 

「一応関係者だ」

 

 まあそうだけどさ……。 

 

「お、落ち着いて!」 

 

 少し剣幕な雰囲気になって来たのを止める一花(三玖)。 

 

「一……中野さんすぐに終わらせるんで暫しお待ちください。オラ出てけ!」 

 

 そんな強く押すなって。どうでもいいけど一花(三玖)を名前で呼びたいのか名字で呼びたいのかはっきりしろよ。

 じとーっと見ていたら、「私この人と踊る約束してるから」と一花(三玖)が僕の腕を掴んだ。 

 

「およ?」 

 

「嘘だ! こんな奴と中野さんは釣り合わねえ!」 

 

 こんな奴で悪かったなコラ。

 

「そ、そんなことはないよ。…………ユキトは……ユキトはかっこいいよ……」

 

 顔を若干赤くし、小声でそう呟いた。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。まぁいいや。

 

「………じゃあ帰るかー」 

 

「うん! 帰ろ!」 

 

「ちょっと待て! 恋人同士なら手をつないで帰れるだろ」 

 

 しつこっ! アンタモテないっしょ(二乃風) 

 

「わかったよ。はい! これでいいでしょ」 

 

 恋人つなぎをした手を見せつける。 

 

「………くそー! 林間学校までに彼女を作りたかったのに、結局このまま独り身かよー!」

 

 残念がるコラ(もうこいつの名前コラでいいや)に一花(三玖)が問いかける。

 

「………ねえ、なんで好きな人に告白しようと思ったの?」

 

「………そーだな、とどのつまり相手を独り占めしたい。これに尽きる。ったく中野さんを困らせるんじゃねえぞ」

 

「当たり前だろ」

 

 結局名前呼びは諦めたんだね。コラは。

 

「ほら、ユキト行くよ。フータローも」

 

「はーい、………そんなにくっつかなくてもいいんじゃない?」

 

 教室の外に出たんだし。

 

「私は今一花だもん。これくらいはするよ」(私は大丈夫)

 

「キャンプファイヤーの時どうするんだか」 

 

 肩をすくめ、一抹の不安を抱えながら三人で廊下を歩いた。

 




上杉を罠にはめた赤い糸くずの話は「都会のトム&ソーヤ」(はやみねかおる/にしけいこ作)から頂きました。平凡だがサバイバル能力に長けた内人と、頭脳明晰な創也がタッグを組み、究極のゲームを作っていく物語です。興味のある人はぜひ読んでみてください。

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