五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第31話 結びの伝説 2日目 ①

 

 

 待ちに待った林間学校がついにスタートした。

 

 まずはカレー作りからである。

 

 周囲にいるほかの班たちの話声をBGMに、トトトトトトと軽快なリズムで野菜を切っていく。

 

「わー雪斗君は料理もできるんだね」

 

 同じ班員の女子A、Bが話しかけてきた。ちなみに班員は僕、上杉、五月、女子A、女子Bの五人班だ。

 

「まあね、一人暮らしは全部自分でやらなきゃいけないから、必然と出来るようになった」

 

 しかしカレーだけっていうのもつまらないな。どうしようか。…………あっそうだ、カツカレーにしようかな! ね? 君もカツ好きだろ? いや~うまいよなあ! あれ。…………だよな! 好きだよな! だって豚の命の味がするもんな!

 

 とまあ、豚の命の味うんぬんについては置いといて、油を使ってもいいのだろうか? 一々許可を取りに行くのもめんどくさい。今回はやっぱりやめておこう。豚の命の味はまた今度語ろうぜ!

 

「あと、カレーはすべて僕が作るから片付けとかその他よろしく」

 

 料理は好きだけど片付けとか面倒くさいんだよね。

 

「仕方ないなー……美味くなかったら承知しないからね!」

 

「大丈夫! 失敗しても食べてくれる人がいるから」

 

 五月を見ながら言う。僕の手つきを見て味を想像していたのだろうか、口の端に光るものがあった。

 

「……はっ! 白羽さんの料理は美味しいから大丈夫です!」

 

 あまり過度な期待はしないでほしい。…………待てよ? そもそもこの量(一般的な鍋)で足りるのか? いやおそらく足りないだろ! お客様を満足させないで何が料理人だ! お客様を満足させられないような料理人なんて意味がねえ! 至急何か別のものを作らなければ!

 

 何を作ろうか、カレーももうすぐで煮込むだけの手順となる。そんな短時間で作れるもの。…………炒飯でいこう! お米も肉も野菜もある。卵ならどこかの班が持ってるだろ。これならいける!

 

「ちょっと今から炒飯作るから、卵を貰いに先生もしくは別の班の所に言ってきてくれない?」

 

「今から!? まぁ別にいいけど」

 

 女子A,Bは渋々といった感じだが行ってくれた。ありがたい。

 

 すぐさま野菜と肉を怒涛の勢いで切り刻み始め、下準備が終えた頃に女子達が戻って来た。

 

「貰ってきたよ~」「助かる!」

 

 材料がそろったので炒飯を作り始める。

 

 

 

 

 

 10分後

 

 野菜と肉と卵を入れて炒めるだけだったし、意外と早くできたな。

 

 無事、炒飯を作り終え、テーブルに突っ伏していると、五月に任していたカレーが出来上がった様子。うちの班はこれでもう食べられるのだが、みんな揃って食べると言われているので冷めないようにカレーを弱火に切り替え、焦げないようにたまにかき混ぜておく。これを五月に伝え、よその様子を見に行く。だって暇だから。

 

 何か面白いことないかな~…………おや、あれは三玖かな? ………って、早速何か入れようとしてるな。

 

「三玖ちゃん、何入れようとしてるの!?」

 

「味噌。隠し味」

 

 三玖はお玉いっぱいの味噌を入れようとしている。味噌汁でもそんなに味噌は使わんぞ。

 

「お邪魔しますね。三玖、ちゃんとほかの班員の許可を取るんだよ。あと最後に入れな。それと多い。味見しながら少しずつ入れるんだよ?」

 

「……わかった、入れるね」

 

 お玉の味噌と鍋のカレーを交互に見た三玖は、流石に量が多いと思ったのか、今度はアドバイス通りに少しずつ入れようとしている。

 

「いいけど入れるのは自分のだけにして!」

 

 …………班員の人たちガンバレ! ネバギバ!

 

 ちなみに僕はいつもカレーを食べる時にスライスチーズを入れる。米の熱によって溶けて、トロ~っとなるのがいいんだよね。オススメ。

 

 三玖に別れを告げ、少し離れたところにある、水汲み場の所に行き、水を飲んでいると、

 

「おいコラ、白羽」

 

 と、話しかけられた。水を飲み終えるまで待たんかい! 邪魔をする奴は誰かと目を向ければそこにはコラが居た。

 

「い、一……中野さんとは順調なんだろうな?」

 

「まーね」

 

 まだ一花のことを名前で呼ぶか名字で呼ぶか悩んでんのか。もういっそ本人に聞けば?

 

「くそっ、フォークダンスの相手を見つけられないままこの日を迎えちまった。お前は良いよな、中野さんと踊れて。そりゃあ、俺は喧嘩ばっかりして怖がられるのは当然だが、俺だって……」

 

 長い。自分語りか? 3分間だけ待ってやるからその間にすべて話せ。

 

 あ~空気がうまいな。気分がスッキリする。森林浴も悪くはないな。木々の中から聞こえてくる虫や、鳥の鳴き声に耳を澄ませ、清涼感を味わう。

 

「…………せっかくの高校生活を恋人なしで過ごすのはしたくねえんだ」

 

 あ、終わった? ゴメン全然話聞いてなかった。でもまぁなんとなく言いたいことは分かった。要は恋人がほしいんだな? 任せとけ!

 

「一応チャンスは作ってやるからさ、諦めるのはまだ早いぞ」

 

 諦めたらそこで試合終了ですよ? って安〇先生も言っているぞ。

 

「何! どうやってだ!」

 

 待て、そんなに近づいてくんな。近い、離れろ。鼻息が当たってんだよ! ヤメロォ! お前もソッチの人か! 

 

 少しづつ距離を取り、ホッと一息してから続きを話す。

 

「肝試しでつり橋効果を狙う。ただ一過性のものだから早めの内にアピールしとけ」

 

「ありがとうございます!」

 

 ブォンと風切り音を出しながら頭を90度に下げてきたコラ。そんなに必死だったのか。なんかすまんな。

 

「そんなわけで今日の肝試しにクラスの女子でも誘ってきな。あとはこちらでやるから」

 

「ああ! もう少し頑張ってみるよ」

 

「応援してるよー」

 

 両手で手を振り見送ってくれるコラ。結局名前がわからないまま終わったな。帰ったら調べとこ。

 

『自称元ヤンキー 恋人募集中 口癖 コラ』で調べたらヒットするかな?

 

 

 

ーーー………

 

 

 そして夜になった。ふっふっふっ、殺戮の宴の始まりだ!! ちなみに三玖は一花、二乃は五月と行くことになっている。四葉は上杉の応援に行った。相変わらずのお人よしのようで。あっそうそう、炒飯は全部五月が食べました。作っといてよかった。

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』『来ないでぇぇぇぇぇ!!』

 

 

「す、凄い悲鳴だね…………」

 

「うん………」

 

 入り口で待機している一花たちの耳に届いてくる、木々の中からの悲鳴。それを聞いた一花の呟きに三玖が同意する。

 

「よし、次のグループ行って良いぞー」

 

 肝試しの実行委員の人がライトを頭上で振り回しながら声を掛けた。

 

「あ、私達の番だ」

 

「い、行こう」

 

 入ってしばらくし最初の恐怖ゾーンに入った。

 

 

「や、やってやらぁ!」

 

「食べちゃうぞー!!」

 

「「………………」」

 

 茂みから飛び出してきた四葉と上杉に無反応を返す一花達。

 

「一花に三玖!」

 

「………何だ、ネタがバレてる2人か」

 

「あ、……ごめん」

 

「わぁ、びっくり! 予想外だー」

 

 上杉と四葉に気を遣い、三玖は謝り、一花は驚いたふりをする。

 

「嘘つけ………この先には白羽が待機している。どんなことをしてくるのかは俺にもわからん。せいぜい気を付けるんだな」

 

 上杉たちと別れ再び歩いていく一花たち。少し先に光を当てると赤い手形がついた看板が立っていた。

 

「これペンキで塗ったのかな。それにしてはやけにリアルなような……」

 

 よく見ようと屈めるとその手形にはウジ虫がこびりついていた。

 

「うわ! 気持ち悪い!」

 

「…………ユキトは意地悪」

 

 腕を摩り、鳥肌立っちゃったと言いながら再び歩き出す。すると、また少し先にも看板が立っているのが見え、今度は何か書いてあるみたいだ。

 

「何が書いてあるんだろうね」

 

「ただの注意書きじゃないの?」

 

 注意書きだったら念のため読んでおこうということになり、一花達は看板に顔を近づける。

 

 雨風にさらされていたんだろうか、かすれていたが何とか読める。

 

『信頼していた人に裏切られた。一体何がダメだったの?ねえ教えてよ。ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ』

 

「ユキト君は悪趣味だね」「同感」

 

 二人して頷く。どうやらそこまで恐怖感は無いみたいだ。一花は女優の仕事でこういったホラーには慣れているのだろうか。三玖の場合は戦国ゲームの影響か? だとしたら間違いなくR15の作品だろう。

 

 

『ねえ』

 

 看板から目を逸らし、道を歩み始める二人に、少し湿っぽい、女性の声が聞こえて来た。

 

「「…………」」

 

 誰かの声が聞こえたので辺りを見渡してみるが、誰もいない。ホッとしなんとなく横を向くとわずか数メートル先に血だらけの髪の長い女性が立っていた。その女性はゆっくりと右手をこちらに伸ばしながら近づいてきた。

 

「「キャーーーーー!!」」

 

 一花は脇目も振らず一目散に走る。しばらくして後ろを振り返ってみると追いかけてくる人影はおらず、振り切ったと思う。

 

「ハァ、ハァ………な、なんだったんだろうあの人……ねえ三玖」

 

「…………」

 

「三玖?」

 

 隣にいる筈の三玖に話しかける一花だが、そこに三玖の姿は無かった。

 

「……み、三玖? どこに居るの? ふざけてないで出てきてよ」

 

 生温かい風が頬を撫で、一花は少し涙声になりながら辺りを見回す。 

 

 すると、視界の隅でガサガサと茂みが揺れる。目を向けると、どうやら人がこちらに来ているようだ。

 

 少しして出てきた人を見てみると、その人は俯いた三玖だった。

 

「合流できてよかったよ三玖」

 

 一花はすぐさま三玖に駆け寄り声を掛ける。

 

「…………ねえ、どうして私を置いていったの?」

 

 三玖は俯いたままの状態で話す。

 

「置いて行ってなんてないよ。三玖の足が遅いんでしょ」

 

 一花は三玖の体に着いた葉っぱを取り除きながら言った。

 

『信頼していた人に裏切られた』

 

 三玖は一花が自身の目の前に来るやいなや、そう呟き顔を上げた。

 

 月が照らした三玖の顔には目が無く、ぽっかりと開いた暗闇がこちらを見つめていた。

 

「イヤーーーーーーーー!!!!」

 

 一花は絶叫し腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。

 

 三玖は座り込んだ一花に手を伸ばしながら近づく。一歩踏み出すたびに顔の皮膚が剥がれ、地面に落ちていく。

 

 何とか離れようとする一花だが恐怖によって腰が抜けているため立ち上がれず、なんとか腰を浮かしながらズリズリと下がるが木にぶつかってしまいその場から動けない。

 

『私の目、私の目』

 

 三玖はそう言いながらゆったりとした歩みで確実に一花に近づいていく。

 

 そしてとうとう三玖が目の前にやってきて一花の目に指を向ける。

 

『一花の目、私に頂戴。姉妹だからいいよね』

 

 もはや顔の原形もとどめていない筋繊維むき出しの顔が近づき、一花は目を取られないように固く目をつぶった。

 

『私の目…………私の目』

 

 声は聞こえるのにいつまでたっても触れてくる気配を感じないため一花は恐る恐る目を開けた。すると、

 

「……してやったり」

 

 と言う雪斗が変装を解いて顔を見せていた。

 

「なんだユキト君か良かったー、死ぬかと思った。…………それより三玖は! さっきから三玖がいないの!」

 

 一花は、犯人が雪斗だと分かった瞬間、すぐに立ち上がり、雪斗に詰め寄った。

 

「三玖ならここにいるよ。出ておいで」

 

 本物の三玖は雪斗が出てきた茂みからガサガサと出てきた。

 

「よかったー。……もしかして三玖も一枚噛んでた?」

 

 一花がタイミングよくいなくなった三玖に疑いをかけた。

 

「………噛んでないよ。私もさっきやられた」

 

 …………若干目が死んでいる三玖に言葉が出ない。驚かせすぎた。

 

「ここから先にまっすぐ行けば出れるから気を付けてねー」

 

「ほんとー? 騙してない?」

 

「騙してないって、デジャヴか」

 

(ユキトは家庭教師で友達でもあるはずなのに胸の奥がおかしい、苦しく感じる。ただ一花とユキトが話しているだけなのに)

 

「…………………………」

 

「玖…………三玖?」

 

「! …………な、なに?」

 

 胸の奥の苦しみを考えていた三玖は、思考の海に沈んでいたが、自身の呼ぶ声に意識を浮上させられた。

 

「この先、崖があるからルート通り進むんだよ」

 

「…………分かってる。行こ、一花」

 

「え? あ、うん……………」

 

 胸の苦しさを紛らわすように早足で歩く三玖。 そんな三玖に一花が話し掛けてくる。

 

「三玖、早いよ~。………それにしても、折角だからもう少し一緒にいれば良かったのに」

 

「………私、変かも」

 

「?」

 

「ユキトはみんなの家庭教師なのに………一花は、ユキトの事をどう思ってる………?」

 

 三玖のその小さな声は、鈴虫の輪唱に紛れども、はっきりと一花の鼓膜を震わせた。




 豚の命の味~は妖怪ウォッチのえんえんトンネルに出てくるとんかつおじさんのセリフです。少し変えていますが。

 三玖を驚かした時は、三玖はその場で腰を抜かしてしまったため、そのまま髪の長い女性姿で行いました。

 書いてて思ったんですが、カレーに炒飯って合うんでしょうかね? 

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