五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 夏休みなのにバイト三昧の日々を送っています。


第32話 結びの伝説 2日目 ②

 一花達を見送りながら走って来た道を戻る。凸凹とした山道を気をつけながら歩く。まったく歩きづらいったらありゃしない。なんでこの山を肝試しの会場にしたのか、甚だ疑問。夜の山は危険なんだぞ。いざというときどうしてくれる。

 

 それはさておき、三玖と一花の次のペアで最後だから、次にやって来るのは二乃と五月のペアだな。肝試しがもうすぐ終わってしまうことに侘びしさを感じつつ、すぐに血だらけの髪の長い女性に変装し、所定の位置に向かう。

 

「うぅぅぅぅ…………やはり参加しない方が良かったのかもしれません…………噂ですがこの森には出るみたいです。森に入ったきり出てこなくなり、探してみると目が無くなった人が恐怖の表情を残したままの状態で発見されると」

 

 二乃にくっつきながら話す五月。くっつき虫だ。

 

 良い時に来たな。丁度僕の手にはくっつき虫がある。ならバレないようにしながら背中に投げるしかないな。

 

 五月の背中にポイポイ投げる。たまに二乃にも。五月ならばれても怒られずに済みそうだけど、二乃の場合は雷が落ちそう。でもそのスリルが堪らない。

 

「ちょっと、離れなさいよ。危ないじゃない。それにデマに決まってるでしょ………はぁ、林間学校ってもっと楽しいと思ってたんだけどなぁ」

 

 五月がくっつき虫の如く二乃にくっついていので、二乃は足が地面に取られそうになるも、寸前で堪えた。

 

「? まだ始まったばかりじゃないですか」

 

「始まりから躓いてたでしょ!」

 

(バスの中で友達と楽しく談笑するはずだったのに………)

 

「あいつらと同じ部屋に泊まることになるし………何もなかったから良かったけど……」

 

(部屋の雰囲気と食事については良かったわね。アイツらが居なければもっと良かったのだけれど)

 

「! ………と言うことは、昨日のは二乃じゃないんですね」

 

「え? 何のこと?」

 

 そしてちょうど、2人に第一の刺客が襲いかかる。

 

「勉強しろやァーーーー!」

 

「食べちゃうぞォーーー!」

 

 上杉は木に足を紐で結びつけて木の枝から、四葉は近くの茂みから現れた。おお! 随分とダイナミックな登場の仕方になったな。

 

「わ、わあああ、もう嫌ですぅぅぅぅ!!」

 

 五月が叫んだと思ったらすぐさま走り去って行った。

 

 待てい! 今〇×ゲーム(三目並べ)やってんねん。落ちるなよくっつき虫! 根性見せろ! ………あ゛あ゛~、落ちてしまった。…………ってかそろそろ切り替えないと。少し先に行こう。

 

 雪斗は音を出さないよう忍びつつ、五月の先回りした。

 

「五月! 待ちなさい! 転ぶわよ!」

 

 二乃はすぐさま五月を追いかけに走り出す。

 

 五月、泣きながら逃走。だがしかし、残念ながら恐怖はまだ終わらない。過ぎ去っていく景色を視界に収めながら,一枚の何か文字が書かれている看板に目が留まる。 

 

「何か書いてありますね。 出口への道筋が書いてあればいいんですけど……………………な、何ですかこれは!!」

 

 一筋の希望を胸に読んだ五月だが驚愕の色に顔が染まる。チャ~ンス!

 

 

『ねえ』

 

 ゆっくりと恐怖感を煽るかのように五月に近づいていく。

 

「ひいっ!? こ、来ないで下さいぃぃぃぃぃ!!」

 

 暗闇から聞こえる不気味な女性の声に五月は一時は冷静になった思考が再びパニック。

 

 茂みを揺らして出てきたゆらりゆらりと近づいてくる血だらけの髪の長い女性を目にした瞬間。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────!!」

 

 そしてまた全力疾走。速っ! 今の四葉と同じくらいのスピードじゃないか? 少し追いかけよ。泣きわめき、取り乱す表情はぐっとくるものがあるな! 知り合いなら尚更だ!

 

「来ないで下さいーーー!! 私は美味しくないですぅぅ!!」

 

 ヤバい、笑っちゃいそう。一回止まるか。っていうか、二乃がまだ来ないな。早く来いよ。五月に追いつけなくなるだろ。

 

 一旦木に隠れ、来るであろう道の向こうに視線を漂わせると、丁度二乃が走って来ていた。

 

 来た来た。看板の所から離れちゃったからあまり意味無いかもしれないけど取り敢えず。

 

『ねえ』

 

「五月、待ちなさいよ!」

 

 僕の声は五月を追いかける二乃には届かなかったみたいだ。全く、お別れの言葉は無しか?

 

 まあ、とりあえず追いかけないとね。…………あれ?

 

 月明りを頼りに瓜二つの足跡を見ながら追いかける雪斗だが、進入禁止の方向に足跡がついていることを発見する。

 

 

「……まさか………こんな予感は外れてくれよ!」

 

 木の幹を蹴り、雑木林の中を加速していく雪斗。木々の間を縫うように走りながら、懐から複数の鳩を取り出し、五月を見つけるように伝える。頼んだぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ……、疲れ、ました……」

 

 恐怖の余り、全力で走っていた五月も流石に疲れて大きく息を吐きながら立ち止まる。

 

「ま、まったく…………上杉君に四葉も本気で怖がらせに来すぎです! ………あの女性はもしかして本物の幽霊だったんでしょうか。どう思いますか二乃………?」

 

 そう尋ねながら五月は振り返る。しかし、後ろにいると思われていた二乃の姿は影の形もない。

 

 暗闇にたたずむ五月の頭の中には迷子の二文字が浮かぶ。

 

「……あ! スマホで今いる位置を確認すれ……………ば………」

 

 ポケットから震える手でスマホを取り出し、見てみると圏外の文字。

 

「……なんて使えないスマホでしょうか。………ど、どうしましょうかとりあえず来た道を引き返しましょう。…………あれ私どちらから来たんでしたっけ」

 

 周りは同じような景色であり、脇目も振らず走って来た五月は帰り道がわからない。

 

「………と、とりあえずこちらのほうに行きましょう」

 

 何となくの方向で歩き出す。

 

「うぅ………こんなことになるなら肝試しに参加しなければよかったです………どこに行ったんですかぁ……二乃ぉ」

 

 半べそをかきながら二乃の名前を呼ぶが、当然応える声はない。

 

 クルッポー

 

 今にも泣きだしそうな五月の腕に、一羽の白い鳩が留まった。

 

「! この人懐っこい鳩は白羽君の鳩ではありませんか。申し訳ないですが、白羽君の所に案内してもらってもいいですか?」

 

 その言葉を聞いた鳩は飛び立ち、旋回を描きながらそのまま五月の頭上でとどまった。

 

「…………案内してくれませんね。このまま待機と言うことでしょうか? ならそうしましょうか。きっと見つけてくれるはずです」

 

 暫くの間、旋回していた鳩を眺めていた五月の耳を、震わす音が聞こえて来た。

 

「! い、いったい何の音でしょうか?」

 

 五月の耳に入ってきたのはダンダンと森の中では聞こえるはずのない音。そんな音が徐々に近づいてくる。

 

「………ま、まさか幽霊でしょうか」

 

 その声に答えるかのようにザザッと雪斗が五月の前に現れる。

 

「いや、幽霊じゃないよ?」

 

 そもそもこんな暗闇で音出して近づいてきたら幽霊じゃなくてむしろ不審者だろ。…………あれ? そうなると僕不審者になっちゃう? 違うよね? 僕たち友達だもんね。あっぶね。

 

「し……白羽君?」

 

 五月は両手を目の前に翳し、指の隙間からこちら覗き見る。

 

「やっほー、五月。大丈夫?」

 

 なんでそんな見ちゃいけないものを見るかのような格好してるの? …………え? まって? もしかして社会の窓開いてた?

 

 チラッと自分のを確認してみると開いていなかった。良かった。セーフ。開いてたら友達から不審者に関係がメタモルフォーゼしていたところだった。…………言い訳するとしたら換気です。って言い張ろ。たまには窓を開けて新鮮な空気を取り入れないと、体に悪いからね!

 

 そんなずれた思考をしていると、

 

「だ、大丈夫ですぅ………」

 

 五月は安心したのかポロリと涙を流した。

 

「はいはい泣くなって」

 

 ハンカチを渡し泣き止むまで待つ。そして五月を見つけてくれたイケ鳩に餌を与える。助かったよ。

 

 ここで一つ宣伝。

 

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 途中集まって来たその他の鳩にも餌(通常より1.25倍の量)(時間外手当)を与えて労わった後、また懐にしまった。

 

 

「さーて、最後は二乃か」

 

 二乃を探しに足を進め始める二人。

 

「………すみません、ご迷惑をお掛けして。この森は出ると噂を聞いていたのでつい………」

 

 五月が目の端を赤くしながら言った。

 

「……ああ、ごめん。その噂は僕が流した」

 

 ごめんごめんご~。

 

「えぇ!?」

 

 思わぬ所から噂を広めた犯人が自首してきた。

 

「リアリティーを出そって広めてたんだよねー」

 

 腕を組み頷きながら言う。

 

「…………も、もう! ほんとに怖かったんですからね!」

 

「大変だったわー、いろんな人に変装して広めたからね。時には先生に、ある時には男子生徒に、はたまたここの関係者に。まあ全て存在しない人でやったからバレないと思うけど」

 

 バレたら詐欺罪とかで捕まるな。でも効果抜群だったから後悔はしない。

 

「はぁ………それを聞いたら全然怖くなくなりました」

 

 苦労を語ってくる雪斗を見て、五月はため息をついた。

 

「それは何より………あれ? あそこにいるの二乃じゃないか?」

 

 少し先の開かれた部分で二乃らしき人物を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけた~。大丈夫だった?」

 

 ヨッ! っと片手をあげて合流した。

 

「あら、雪斗じゃない。問題なかったわ」

 

 手にミサンガのようなものを巻き付けて言う二乃。

 

 ガサガサとと揺れた藪のほうに目を向けると何やら草臥れた様子の上杉が出てきた。

 

「あっ、上杉も来てたんだね」

 

「ああ、ついさっきな。…………五月と二乃のペアで肝試しは終わりだし、このままコテージに向かおう。地図は持っていないが、南側にコテージにあるのは覚えていたからな」

 

 上杉が方位磁石を持っていたのでそれを頼りにコテージに向かう。方位磁石は持ってるのに地図は持ってこないなんて、準備がいいのか悪いのか。

 

「そういえば、二乃はなんだか調子が良さそうだね。何かいいことでもあったの?」

 

 鼻歌を歌っている二乃に話しかけた。

 

「やっぱり分かっちゃう? でも内緒」

 

 二乃は手首につけているミサンガを撫でながら笑顔で言った。

 

「内緒か。なら仕方がないな」

 

 不自然に肩が揺れた上杉を目の端で捉えた。…………訳アリか? 後で聞かないと。

 

 しばらく歩いていると、五月が獣道を指さした。

 

「この道からのほうが楽そうですよ。方位磁石もそちらを示しているようですし。こちらから行きましょう。少し汚れるかもしれませんが、背に腹は代えられません」

 

 そう言って五月はガサガサと獣道に入っていった。そのまま後ろについていく。順番としては、五月、僕、上杉、二乃の順。

 

 そして背中にわずかに残っていたくっつき虫を払い落とした。完全犯罪成功!

 

 五月の「蛾が目の前に飛んできました~! あっ! 蜘蛛の巣が服に! この服お気に入りだったのに!」の叫び声を聞きながら、山の地図を思い出す。…………等高線と緑しかないな。でもその中で一番目を引くのは、山の中腹だとみられる辺りに赤い文字で「崖あり、迂回すべし」の文字が躍っている。……タップダンスしてんじゃねえよ!

 

 踊り狂っている赤い文字を彼方に蹴飛ばし、思考を戻す。

 

 …………今僕たちがいるのは山の中腹付近だよな。てっことはその先って確か…………

 

 彼方に蹴飛ばしたはずの赤い文字が『危ないぜ』のプラカードを首から下げてどんぶらこと流れてきた。

 

「ほら! 森もすぐ抜けそうです!」

 

 五月は服に着いた蜘蛛の巣に四苦八苦していたが、獣道が途絶える所が見え、走り出した。

 

「……! 待って五月! そっちは……」

 

 急いで追いかけ、その背に手を伸ばす。

 

「へ?」

 

「……っ、このっ馬鹿!」

 

 五月が崖から落ちる寸前で五月の手をつかみ、僕と五月の位置を入れ替え、僕の前には深い闇が広がる。

 

「白羽! 掴まれ!」

 

 上杉が僕に手を伸ばしてきたが、上杉が僕の手を掴むには一足遅く、空を掴むだけに終わった。

 

「ちっ! 先に戻ってろ! すぐにもどr……」

 

 雪斗が言いながら暗闇に落ちていき、上杉たちが崖の下を覗いても暗くて何も見えず、ただ漆黒の闇が広がっていただけだった。

 

 

 

 

 沈黙が辺りを包む中、バババババと微かな音が聞こえ、そちらの方に目を向けると、見覚えのある白いハンググライダーの姿があった。

 

「あれは白羽君です!」

「よかった。無事だったか」

「ホッとしたわ」

 

 良かったと胸をなでおろす一同。

 

「…………それじゃあみんなの所に戻ろう。アイツもすぐ戻ってくるだろう」

 

 上杉の一言に、足を森の方向に向けて歩き出す。




原作で二乃が崖から落ちそうになっていたシーンを見て、場所は山だろうと思いました。肝試しで頂上まで行くのは不自然だと思いましたので、中腹あたりかなと思いました。

また、二乃と上杉が止めようとしなかった理由は、二乃については金太郎に思いを馳せていたため、上杉については近道になるなら良いか。と思ったからです。

 イケ鳩さんは8時間勤務で1時間休憩の計9時間働いてもらっています。勤務時間は大抵8:00~17:00です。たまにクローズまで入ってもらっています。

山に入ると大抵服にくっつき虫がついていますよね。そしてそれを弟に投げていた事を思い出します。相手にバレずにどこまでくっつけることが出来るか。そんな遊びをよくしていました。懐かしい。


 前話の後書きで炒飯にカレーは合うのかどうかわからないと書いたところ、読者様からお便りが届き、カレーに炒飯は合うと仰っていました。美味しかったらしいです。
そのほかにも色々と試したらしいです。カレーは万能ですね!

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