五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第33話 結びの伝説 2日目 ③

 雪斗と別れ、三玖の後ろを歩いていた一花は、三玖が突如振り返って来たことにより足を止めた。訝しげに思う一花に向かって、三玖は口をもごもごさせたが、意を決したかのように頷くとおもむろに口を開いた。

 

「………一花はユキトのこと、どう思ってるの?」 

 

(私の想像通りなら、多分一花もユキトのことを…………)

 

「そうだね……………一言で言えば、ユキト君は変わったマジシャンかな。あんなマジックやら変装やらを犯罪に使ったらなんか人気が出そうでお姉さん心配だよ」

 

(ただでさえ同じ女優仲間の人から目をつけられているのに…………)

 

 一花は以前共演した下野さんを思い浮かべた。私たちが試験を受けていた時に、ユキト君と遊んだ時の事を話す彼女の目は、うっすらと彼の事を思う感情が見えた気がした。それが恋幕かどうかは判らないけど………。

 

「……そういうことじゃなくて、一花はユキトを……」

 

 そんな三玖の様子を見た一花は提案をする。

 

「……ユキト君とのダンス、代わる? 心配なんでしょ?」

 

(長女なんだから………我慢しないとね)

 

「……平等…。一花が相手をしてあげて」

 

「……そう、後悔しないようにね。今がいつまでも続くとは限らないんだから」

 

 そう微笑んだ一花は、肝試しの出口に向かって歩き始めた。

 

「私は大丈夫……姉妹だから平等にしないと……」

 

 少しずつ小さくなっていく一花の背中にかけられた呟きは、届くことなく夜の風に紛れた。

 

 こうして、肝試しが終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 肝試しを終え、コテージに戻って来ていた一花たちは、集会場に向かっていく上杉と姉妹たちを見かけた。

 

「あれ? フータロー君、二乃、五月ちゃん。ユキト君はどうしたの?」

 

「ユキトは?」

 

 外灯の、淡いオレンジ色が夜の暗い色を塗り替えている中、集会場の前で上杉たちは一花たちと合流した。

 

「ちょっとアクシデントでな。遅れてくる」

 

「そう、それならよかった」 

 

 雪斗の話をする中、どこからともなく三枚のカードが飛んできた。

 

「………このカードは?」

 

「なによこれ」

 

「なんか見覚えがあるような無いような」

 

「カードの裏側に文字が書いてありますよ!」

 

 上杉たちよりも一足先にコテージに戻っていた四葉が合流した。

 

 三玖、二乃、一花のところに順に飛んできたカードには四葉の言葉通り、裏面には英語が書かれていた。

 

「これを読めばいいのかしら」

 

「…………丁寧にカタカナで読み方まで書いてあるし。そんなに馬鹿だと思われてるのかな?」

 

 一花は文字をなぞりながら、そっと呟いた。

 

「……取り敢えず読もう。three」、「two」、「one」

 

  一花の言葉の後にポンッと音を出して見覚えのある兎のような見た目をしている人物が立っていた。

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 僕生還!」

 

 明るい声が、聞きなれた声が六人の耳に届いた。

 

「あ、お帰りー」「無事で良かったです」

 

 ほかにも同じようなことを口にするみんな。

 

「結構危なかったよー」

 

 その言葉を始めに雪斗から語られる、落ちた後からの出来事。

 

 

 

ーーー…………

 

 

 

『ちっ! 先に戻ってろ! すぐに戻る!』

 

 すぐに懐からワイヤー銃を取り出し、崖から飛び出ている木の枝に巻き付け、スイングをする。心の中で『あ~ああ~』とターザンの様に叫ぶのは忘れない。遊び心を常に持つことが大切。そうすれば何時だって冷静に居られる。遊び心を保てなくなったらそれは非常事態に成り変わる。

 

 そして残念ながら、崖の上に戻れるほどの勢いはなかったので、プロペラ付きのハンググライダーを展開し滑空する。

 

『ふー、危なかった…………夜に白いハンググライダーは目立つから、上杉たちには僕が無事だということにすぐ分かるだろう。………早く戻ろー』

 

 早く戻って安心させないとなー。プロペラあると便利だな。風が無くても問題なしだ!

 

 

 上空から見える、煌びやかな光を放っているコテージに向かって風を切る。

 

 

 

ーーー…………

 

 

 

「って感じー」

 

 ケタケタと笑う雪斗。

 

 思いのほか大丈夫そうで、呆れてものも言えない六人。

 

「………はぁ、なんか言ってやりたくなるんだが……」

 

 でも流石にコテージのど真ん中に着地するわけにもいかないので、少し離れた空き地みたいなところで着地して、広場に向かって歩いた。

 

「上杉たちを探しに集会場まで足を運んだ時に、一花たちを見かけたから、トランプ銃でカードを飛ばしたの。読み方書いたのは念のためだよ。僕もね、流石に読めるだろうと思ってたけど、万が一があるじゃん? だから書いた。善意だよ? 悪意じゃないから。そこんとこ間違えないよーに」

 

 念には念をってやつよ。声に出して読まれなかったら登場できないじゃんか。だから、ね?

 

「それくらいの英語だったら読めるから!」

 

 一花は、どうやら雪斗に読めないと思われていたことに憤慨した。

 

「だから念のためだって言ったでしょ。それに林間学校はこれからだ。楽しんでいこーぜ!」

 

 そう言い残し、喉が渇いたので自販機に向かう。

 

 自販機までの道のりで、通り過ぎていくクラスメイトの会話に耳を傾けていると、話題はこれからのキャンプファイヤーのことばかり聞こえてくる。伝説に一縷の望みを掛けている一部の男子。伝説にロマンチックを感じる多くの女子。う~ん。実に興味深い。

 

『一夜のイベントを通して、若き男女は結ばれるのか。その真相は………!?』そんなテレビ番組ありそうだな。

 

 そんなことを考えていると、目当ての自販機に辿り着いた。

 

 赤い自販機の前に陣取り、どんな飲み物を売っているか品定めをする。欲しいものがあったので財布を取り出し、自販機に千円入れて指を宙に漂わせる。

 

「さてと…………まずはコーラと………」

 

 ポチ。

 

 …………? もう一回押すか。

 

 ポチっとな。

 

 …………。 応答なし。

 

 すうぅぅぅぅ………ははっはーん。さては照れ屋か? そんな照れ隠ししなくていいんだぜ? 大人しく出て来いよ。

 

 ポチポチポチポチポチポチポチポチポチ。

 

「なんだ? おいコーラ。出ねーぞおいコーラ。……ったくしょうがねぇ奴だな」

 

 諦めて返金レバーを下げる。他の自販機の所に行こ。

 

 ガチャン…………ガチャガチャガチャガチャガチャ。

 

「こんにゃろ、金まで返さないなんてどういう了見だおいコーラ。守銭奴かテメェは………そうか、君がそういう気なら経絡秘孔の一つ。”出すっきゃないでしょうのツボ”おりゃ~!」

 

 自販機のツボを全力で叩く。ここで大事なのは思い切って叩くこと。人によっては機械が可哀想だから諦めると言う人もいるでしょう。その機械を思いやる気持ちは素晴らしいですが、金も商品も出さない機械は鉄くずと一緒。思い切ってやっちゃいましょう。大丈夫! 機械に感情なんてありませんから! 自身の心を傷つける必要はありませんよ!

 

 思い切って叩くと自販機から沢山の飲み物と、お金が出てきた。

 

「うはははは~。そんなチップまでサービスしてくれなくたって~」

 

 目の前にお金と飲み物の山が出来ていく。

 

「何かやってると思ったら、泥棒はいけないぞ、白羽」

 

 出てきた飲み物を袋に詰めてると、上杉が白い目をしながら話しかけてきた。

 

「ちゃんとお金も入れたよ?」

 

「千円な」

 

 よく僕が千円入れたって分かったな。見てたのかな?

 

「いいじゃん。良いじゃん。コイツが持ってけって言うんだからさ」

 

「ダメなもんはダメだろ?」

 

 上杉はそう言ってスポーツドリンクを持って立ち去ろうとする。

 

「おい。そう言いながらお前も泥棒してんじゃねえか。って一本だけでいいのか? もっと持ってけよ~! 共犯友達しようぜ~!」

 

 そして一緒にコンクリに囲まれた部屋に住もうぜ~。セキュリティー抜群だから安心して眠れるよ? まあ、見張りがつくけど……。

 

「泥棒はだめだ。そしてこの飲み物はお前が俺たちの分を買おうとしていた物だろ? だからありがたく貰っておく」

 

 上杉はそう言って今度こそ立ち去って行った。

 

 …………ったくこっちの思惑までお見通しか。上杉が人の思惑を看破するなんて嵐が来ちゃうよ。

 

 そんなことを思いながらも出てきた飲み物を再び袋に入れ始める。後お金も。

 

「…………これで全部かな?」

 

 念のため自販機の下も目を通し、何もないことを確認。そして袋に入れた飲み物を掲げつつ、先生の居るコテージに足を向ける。

 

 

 職員会議がちょうど終わったのか、ぞろぞろとコテージから出て行く先生たち。その内の一人に話しかける。

 

「すいません。あそこの自販機壊れてるみたいで、沢山飲み物とお金が出てきました。集めておいたので業者さんに連絡お願いします」

 

「ん? めんど…………んん゛、分かったご苦労さん」

 

 渋る先生にさり気なくお酒の缶ビールを差し出すと、コロッと上機嫌になった。賄賂? いいえ違います。生徒からの嬉しい贈り物です。

 

「では失礼します」

 

 先生とのお話が終わり、広場に行こうとしている雪斗に男子の声がかかる。

 

「おーい! 雪斗! 良ければキャンプファイヤーの丸太を運ぶのを手伝ってくれないか?」

 

「いいよー」

 

 だって暇だし。

 

 コテージから少し離れた倉庫に行くために、再び凸凹とした道を歩くこと数分、鈴虫の鳴き声に心を洗われていると、古ぼけた倉庫が見えてきた。 

 

 中に入り、どの丸太を運ぼうか悩んでいると、見覚えのあるリボンをつけた人を見かけた。

 

「あ、四葉」

 

「白羽さん! お手伝いありがとうございます!」

 

「暇だし頼まれたからね」

 

 そう言って一つの丸太に手を置き、持ち上げる。他の丸太より少し短いから多少は軽いだろう。

 

 ………む、意外と重い。だが四葉も1人で持ち上げているから。重くないかのように振る舞う。負けないぞ四葉! そしてそのまま四葉と運びながら肝試しの事で会話を咲かせる。

 

「来年から肝試しが廃止になりそうで怖いよ」

 

「ええ!?どうしてですか?」

 

「『友情にヒビが入ったどうしてくれるんだ!』『噂は本当だった!』『俺もう二度と肝試ししねぇ』とかいう話を聞いた。しかも先生からも『泣きながら出てくる生徒が多すぎて心配になった』とか言われた。まぁ正直、反省はしてるが後悔はしてない」

 

 恐怖に負けて相方を置いて逃げる人が多くて面白かったし。ちなみに"コラ"は相方を背負って逃げたため、『目を~』の下りは迷子になった同級生のふりをして脅かした。吊り橋効果抜群だったと思う。いい仕事したわー。こんな肝試し、よそでは見れないぜ!

 

「そ、そうだったんですか。まぁ、流石に廃止にはならないと思いますよ」

 

「それなら良いんだけどねー、相方を見つけて安心したが、その相方に目を取られそうになる時の、『希望から絶望に叩き落されるあの表情……最高にいい気分だ』(〇リオダスボイス)」

 

「白羽さんが悪い顔を浮かべてます……! その顔にある痣のようなもの何ですか?」

 

「これ? 魔人化した時に出る紋様」

 

 翼や武器にもできるんだよー、とそんな会話をしながら僕と四葉でポンポン運んでいく。

 

「そうそう、これ上げる。ミカンジュース」

 

 そう言って懐から取り出したミカンジュースを四葉に差し出す。

 

「わっ! ありがとうございます!」

 

 ミカンジュースを受け取り、笑顔を咲かせる四葉に女子が声を掛けてきた。

 

「中野さん、ちょっと良い?」

 

「あ、はーい!」

 

 そんな訳で四葉は同じキャンプファイヤー係の人に呼ばれてそちらに行く。四葉を見送り、倉庫に戻って中を覗くと、残り1本だった。

 

「あれ、ユキト君?」

 

 最後の一本頑張るかーと気合を入れ、持ち上げようとするところにやって来たのは一花だった。あれ、一花はキャンプファイヤー係だったっけ?

 

「私も頼まれてお手伝いに来たんだよ」

 

 なるほど。っていうかキャンプファイヤー係の人頼みすぎじゃね? あらかじめ人数確保しとけよ。

 

「じゃ、いちにのさんで持ち上げよう」

 

「わかった」

 

 互いに丸太の端に手を置く。

 

「いくよー、せーのっ!」

 

 掛け声とともに持ち上げる。

 

「いや、いちにのさんで持ち上げるんじゃなかったの!?」

 

「持ち上げられればなんだっていいんだよ」

 

 なんだかんだちゃんと持ち上げた一花に言う。楽だわー。

 

「ねえちゃんと持ってる? なんか重く感じるんだけど」

 

「ちゃんと持ってるし~、別に徐々に力を抜いて楽しようなんか思ってないし~」

 

 下手な口笛を吹きそっぽを向いて答える。

 

「ちゃんと持ってよ!」

 

 はいはい。今度はふざけないでちゃんと持ち、気を付けながらゆっくりと亀の歩みで蔵の扉の方へ歩いていると、一花が話しかけてきた。

 

「………なんか、踊るみたいだね、私達」

 

「………そういえばそうでした」

 

 明日踊るんでしたね。忘れてた。

 

「どうする? 練習でもしとく?」

 

「んー、みんな自分たちのことでいっぱいいっぱいだと思うから、しなくてもいいと思うけどね」

 

 高校生でフォークダンスを踊り慣れてる奴なんて見たことない。

 

「それもそうだね」

 

 みんなの表情を見て楽しも。みんなペアの足踏むんだろうな~。それはそうと、

 

「この月下の奇術師と一夜の幻を見ましょう」(キッ〇ボイス)

 

「楽しみにしてるよ。月下の奇術師さん♪」

 

 

「よーし、全部運んだわね」

 

 

 唐突に声が聞こえてきた瞬間、僕は丸太を音も立てずに壁に立て掛け、一花の手を掴んで丸太の陰に隠れる。もちろん視界に映るようなへまはしない。

 

「あはは……隠れる必要あった?」

 

「………それな」

 

 思考も某怪盗のようにしていたためつい隠れてしまったが、確かに隠れる必要ないな。出よーっと。

 

 別に隠れてなんかいませんでしたよ。ただちょこっと隅にいただけでと考えながら一歩を踏み出したとき、

 

 ギィィィ───ガシャン、ガチャ。

 

「…………ガシャン?」

 

「…………ガチャ?」

 

 え? まじで?  もしかして鍵が閉まった音だったりする? そんな馬鹿なと思いつつ、扉を押してみるがびくともしない。引いてみてもびくともしない。………スライド式だった? そんなわけもなく閉じ込められる僕たち。 

 

 

「中をちゃんと確認してから閉めてよー!」

 

 普通確認するだろ! 

 

 どうしようかと互いに目を合わせあははと笑いあう。

 

「「はぁー」」

 

 同時にため息をつく僕たち。

 

 暗い倉庫の中で二人っきりという状況で何もなく脱出できるのか! 脱出ゲーム開催!

 




上杉が雪斗の思惑を看破した理由としては、雪斗がブツブツ「上杉たちの好きな飲み物は~」と呟いていたのが聞こえたからです。千円入れたところを見たのはたまたまです。

 書きながら、一人で丸太を運ぶことが出来る雪斗と四葉。人間やめてるな。でもとあるマサラ人も出来るから似たようなものか。と一人納得してました。
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