6000文字を読み終えるのは大体10分かかると言われています。チョットした小休憩の時にでも読んで頂ければ嬉しいです。
三玖が一花に電話を掛ける二時間前、風邪で寝込んでいる一花に五月は付き添っていた。
一花は部屋の外にある、キャンプファイヤーのために組まれた櫓から目を離し、天井の木目模様に目を移して口を開いた。
「いやー、最終日なのに体調崩すなんてついてないなー」
(胸のセンサーも壊れてるし、
「不注意が招いた結果です。日中は大人しくして反省していてください」
五月は一花の左手を握って窘める。
「え~………あのね、五月ちゃんは私に付き合わなくていいからスキーしてきな。私も体調が回復したら行くからさ」
(行けたら………だけどね)
「ですが………」
決まりの悪い顔をした五月に一花が問いかける。
「………ユキト君と顔合わせづらい? それに五月ちゃん、あの旅館からずっとユキト君を警戒してたよね」
一花の脳裏には、五月がカレー作りの時も、ユキト君が一人肝試しから帰って来た時も、訝しげにユキト君を見つめていた姿が映った。
「やはりあれは一花でしたか……まだ出会って3ヶ月しか経っていないのに、まさかこんな事になるなんて………」
五月は少しため息をついて、頭を軽く抱えた。
「そんなにユキト君が悪い奴に見えるかな?」
「別にそう言う訳では……ただ、男女の仲となれば話は変わります。私は白羽君の事と上杉君の事を知らな過ぎる」
(私たちは何も知らない。少なくとも彼らの過去については。何より白羽君の家族については全くわかってません。いつか聞けたらいいのですが…………)
そして五月はかつて母親が言っていた台詞を復唱するかのように呟く。
「男の人はもっと見極めて選ばないといけません」
「………大丈夫だよ、五月ちゃん。あの二人は………お父さんとは違うよ」
一花は二人の顔を思い浮かべながら、そう断言するのだった。
場面は変わりスキー場へ。
「上杉に四葉、それに二乃、雪合戦しよー?」
三玖が来るまで暇なので雪合戦に誘う。そしてさり気なくおいかけっこから雪合戦に変える。
「いいですね!」
「いいわよ。ただし勝ったら宿題無しね」
「すまない。少しだけ休憩させてくれ。あと石入れるなよ」
え? ゴッメ~ン!! 何言ってるか分からないな~。雪合戦で石を混ぜる奴なんてそんな奴いるのかよ~。鬼畜な奴だな! 仲良くなれそうだ! それに大丈夫! 次やるときは塩を雪にかけて硬くするから! 石は入れないよ!
「ふっ、四葉ならまだしも、二乃が僕相手に勝てるとでも?」
「うっさい、やってみなきゃわからないでしょ」
無事煽りに乗った二乃のパンチやキックを躱しながら、ジーーーっと上杉を見つめる、上杉の調子がどうもよくなさそうに見える。
「おい上杉もしかして熱あるんじゃない?」
そう言いながら上杉のおでこに手を当てる。
「………やっぱり、かなり熱があるな。結構つらいだろ。コテージにいる禿ネズミ先生のところまで行くぞ」
旅館での雪合戦(一方的)をした時、顔色が悪いと思っていたけど、あれも体調が悪かったからだろうか。
「上杉さん大丈夫ですか?」
「なによ、体調管理もできないわけ?」
「上杉を運んでいくからここで少し待ってて」
上杉を取り囲み、心配の言葉をかける四葉と二乃に声を掛け、上杉を背負いコテージまで向かう。
「…………どうやら、らいはから貰ってたか………」
背中でおとなしくしている上杉の声には悔しさが混じっていた。きっと僕が思っていたよりもずっと林間学校を楽しみにしていたんだろう。
「なら早く治さないとな」
上杉に返事をするように答え、保健室をコンコンとノックする。
「すみません。病人です」
ガチャっとドアが開き先生が出てきた。
「そうか。すまないがそこのベットに上杉を横たわらせてくれ。そしたら移ったらいけないからすぐに退出してくれ。あと上杉の友達には立ち入り禁止だと伝えてくれ」
はい、と頷き言われたとおりに上杉をベッド横たわせ、退出する。この人はマダムポン〇リー先生と親しくなれそうだな。立ち入り禁止=面会禁止じゃないか。
「………今日一日では回復は無理だな。男子高校生に必要な平均栄養素も足りていないだろうし、長引いて入院なんてことにはならないでほしいが」
つい口からこぼれた。何回か理由をつけてお昼ごはん奢ったりおかずを分けたりしたんだが、足りなかったか。もう弁当作って来た方が確実か? 要検討だな。
これからの事を纏めながら二乃と四葉に合流すると、かまくらからスマホを持った三玖が出てきた。
「電話終わった?」
なら雪合戦しようぜ!
「違う。スピーカー、っと………」
『………ユキト君、フータロー君、聞こえる?』
この声は一花か。
「聞こえるぞ。あと上杉が体調不良でダウンした。そして部屋には立ち入り禁止だって」
でもコッソリ扉に『関係者以外立ち入り禁止』の張り紙を張っといたから、僕たちは入れる。だって
「そうでしたか」
「………フータローが?」
「せっかくの最終日なのに残念ね」
『………もしかしたら私の風邪を移しちゃったのかな。申し訳ないことしちゃったね』
「いや、上杉の風邪はらいはちゃんから貰ったみたいだから一花のせいじゃないぞ」
『そう、ならよかった。あと私少し咳が酷くなっちゃってね。今部屋に居るんだ。………三玖とユキト君が一緒にいるなら、ちょっと安心………かな』
「どうして?」
一花の言葉の意味が分からず問いかける。
『何でもないよ。………じゃあ、みんなにお願い。1人でいる五月ちゃんを見つけてあげて。ほんとは寂しい筈だから』
「分かった。任せなさい」
すぐに見つけてやんよ。お前ら早速行くぞ。
そして、意気揚々と食堂に来たのだが…………。
「嘘だろ。食堂に五月がいないなんて………こんなことがあってもいいのか」
五月なら絶対ここにいると思ったんだけど。そして大食いしてそう。
ショボーンとしたユキトに三玖が言う。
「五月に失礼………」
いや、五月を知っている人ならみんな思うね。
「そういえば、僕は五月の姿を1度も見てなかったんだけど。三玖たちは?」
スキー場に来てからの記憶を遡ってみると、五月を見かけたことがないことに気づいた。
「私も見てない」
「アタシもよ」
「私もです!」
「あれ? みんなまだ五月ちゃんを見つけられていないの?」
皆でおかしいと話していたところに、声を掛けてきたのは部屋に戻ったと言っていた一花だった。
「部屋に戻ったんじゃないの?」
「もう少し頑張ろうかなって思ってね。それに五月ちゃんが心配だし」
あははと頭を掻きながら言う一花。
「すぐにでも一花を部屋に戻したいところだが………事態は思ったよりも深刻かもしれないから悪いけど手伝ってもらう」
「………もしかして遭難?」
「……もしかしたらの話だけど」
二乃の言葉に頷く。広大なゲレンデとは言え、みんながこれだけ動き回って姿すら見ないのは何かあったとしてもおかしくない。僕はちょうど通りかかったゲレンデの関係者からゲレンデのマップを貰い広げる。
「一花、五月はスキーに行くって言ってたんだよね?」
「え………うん。もしかしたら上級者コースにいるんじゃないかな?」
「そこは私が行ったけどいなかったわ」
二乃ってスノボーで上級者コースまで滑れるんだね。解決したら一緒に滑ってもらおうかな。
関係ないことがフラッっと頭をよぎったが、すぐに切り替えマップを指さす。
「………ここに行った可能性は?」
指さしたところは進入禁止のゾーン。
「えっと…………先生が整備されてなくて危険だから立ち入り禁止って言ってたよね………」
三玖が先生の言葉を思い出しながら言う。
「なにかと真面目な五月がここを滑ったという事は無いと思うが、もしかしたら先生の話を聞き逃したりして誤って入り、事故ってしまった。の可能性が拭い切れない」
少しでも可能性があるなら見落とすべきではない。
「!………本当にコテージにいないか見てくる」
「私は先生に言ってくるよ!」
「僕はグレンデの放送で流せないか聞いてみる」
とそれぞれが何をするか決めた矢先に、一花がマスクに覆われた口を開く。
「ちょっと待って。もう少し捜してみようよ」
「なんでよ。場合によってはレスキューも必要になるのよ」
「その通り。雪に埋もれてしまうと自力での脱出は難しい。すぐに低体温症に陥り死んでしまう可能性もある」
パニックに陥ることもあるしね。
「えっと………五月ちゃんもあんまり大事にしたくないんじゃないかな、って」
「大事って…………五月の命が掛かってるのよ!」
「っ…………ごめんね」
今のやり取りで僕は一花に感じていた違和感がより強くなったため、ジーーーっと穴が開きそうなほど一花を見つめつつ、一体どこから違和感を感じ始めたか、記憶を遡った。……………………! なるほどね。ということは五月と一花は共犯者だな。
「もういいわ、私が先生を呼んでくる」
二乃が歩き出そうとするのを、僕は立ちふざかった。
「ちょっとあんた!まさかあんたも一花みたいな事を言うわけ!?」
「いや、五月の居場所が分かったんでね」
「「「「「!?」」」」」
ニヒルに笑うと目を丸くした姉妹たち。おお~。驚いた顔もそっくりだ!
「僕に任せろ。問題なく見つけてきてやる。すまないが一花ついてきてくれ」
「………信じて良いのよね?」
「ああ、ノルマントン号に乗ったつもりで待っていろ」
「…………なら、さっさと行ってきなさい」
「………ノルマントン号って沈んだよね」
ボソッと呟く三玖の言葉は聞かなかったことにして一花と共に歩き出す。
「行ってくる」
ーーー………
ゲレンデに響き渡るBGMに心躍らせつつ、口を開く。
「高いねー。関係ないけどさ~、リフトに乗るとき毎回緊張するのって僕だけ?」
何回も立ち位置とか大丈夫かなって不安になるんだよね。
「それはよくわからないけど。まさかここから五月ちゃんを見つけるの?」
「That's right! あとゴーグル外してね。見えずらいと思うし」
一花はゴーグルを外し、なんとなく前を向くと、前に乗ってるリフトのカップルがイチャイチャしているのが目に入った。
「やっぱやめない?」
「見つけた!」
「え、どれ?」
雪斗は下の方を指差す。
「あそこで肉まんを頬張っている女性だよ」
「そ、そうかなぁ………」
「絶対そうだね! アホ毛揺らしているし、肉まん食べてるし」
アホ毛と肉まんに絶大な信頼を置いている雪斗。
「うーん………違うような」
「だろうね。だってあれおっさんだし口に手を当ててるけど何も口にしてないし」
「…………え?」
雪斗は一花の頭に手を置くと、フードを外した。
「見ーっけ! 五月。僕からは逃げられないぞ」
「!」
五月は驚きを露わにしていた。いくら人の癖や表情をよく見ているこの男でも、同じ姉妹に変装したら分からないだろうと高をくくっていたからだ。
「五月は眼鏡がないと遠くとかよく見えないだろ? ただでさえ授業中黒板を見る時に目を細めることがあるくらいだしね」
さっきも目を細めていたし。一花の場合は眼鏡じゃなくてコンタクトにするだろうし、眼鏡にするならお洒落でつけそう。といっても一花が目が悪いのかどうかは知らないんだけど。
「…………………」
「………大事にしちゃってごめんね。あの場では言えないよな」
ニシシと四葉のように笑う雪斗に訊く五月。
「……いつから気付いていたんですか?」
「最初からなんとなく違和感はどことなく感じてたんだ。ただ、スキーウェアを着こんでいてかつマスクをし、咳もしていたから気のせいかなと思ってたんだけど、それが確信に変わったのは僕が五月から逃げたときに、僕のことを『白羽君』と呼んだからね。それに一花はコテージに戻っていて,あそこからここまで来るのにいくら近いからと言っても最低でも10分以上はかかる。それなのに五月は5分くらいで来たよね? 今考えるとそこもおかしいよね」
意外と気づかないもんだよな。と苦笑する雪斗は再び口を開く。
「きっと上杉が僕と立ち位置が変わったとしても必ず気づいたと思うよ。それぐらい上杉は五月たちのことをよく知ってるからね」
「すみま……せんでした……私……確かめたくて……」
下を向きながら言う五月。
「………確かめる、ね……だからわざわざ一花に変装したのか。……あとで一花には頭グリグリしてやろ」
「……怒らないんですか」
「こんなんで僕が怒ると思ったら大間違いだぞ」
そう言って五月の頭をチョップする。
「痛いですー! やっぱり怒ってるじゃないですかー!」
「些細なことだ。気にすんな。むしろ違和感が無くなってスッキリした。ずっと喉に小骨が刺さっていた感じがしてたんだよね」
五月はむぅと頬を膨らませて不満そうな表情を浮かべ、雪斗は違和感を解消出来た事に満足。
「それとコーヒーあげる」
懐から取り出した温かいコーヒーを差し出す。流石に自販機にカレーは売ってない。カレーを飲みたいなら食堂へどうぞ。
五月はありがとうございますと呟き、プルタブの音を響かせ、コクリと嚥下した。
「…………ところで一体どうやって温度を保ったまま持っていたんですか?」
ホッと一息ついた五月が質問してきた。
「それは内緒」
そう言って肩をすくめた。企業秘密だよ。
そんな和やかな雰囲気のままリフトの終点に到着した。
「さてと、五月も見つかったので滑るぞー! 今度はスキーだ!」
雪斗はスキーを装備し、やる気満々。
「え? 滑るんなら教えてくださいよ! 置いて来ちゃったじゃないですか」
「大丈夫! 僕が連れて行くから」
ストックは持ってきていないので五月を横抱きにし、滑り始める。もちろんキッ〇の変装をしてだ。
「え? ちょ! 前にも似たようなことをしませんでしたか!?」
『大丈夫ですよお嬢さん。私が無事に下まで送り届けて差し上げます』(キ〇ドボイス)
「自分で滑るよりもこっちのほうが怖いんですが!?」
マントをはためかせながら滑っていると大きなジャンプ台があった。…………二ヤリ。
『大きく飛びますよ』
「え? ちょ、待ってください!」
五月はもう眼前に迫ってきているジャンプ台を見て顔を青くする。
『よーい、しょっと♪』
五月を抱えたまま大きくバク宙を行い、怪我をしないように気をつけて着地。周りの人の驚いた声と拍手を聞きながら 下まで滑り降り、まだ固まっている五月を剥がしゆっくりと地面に降ろす。五月の反応を楽しんでいるとあっという間に下まで着いてしまった。
「楽しかったね! また行かない?」
「行かないですぅ! 心臓に悪すぎます!」
すごい怖かったです! と若干涙目になりかけてきている五月。
『ふっ、そんなんじゃまだ俺を捕まえられないぜ♪ 警部♥』
パチンとウインクを飛ばして一瞬で元のスキーウェアに戻る。
「それじゃあ、みんなの所に戻ろうか」
まだ地面で震えている五月に手を差し伸べ、立ち上がらせ、何気なく空に目を向けた。
「? どうかしたんですか?」
「いや、何でもない。それより姉妹に怒られる準備は出来たか?」
コテージへと戻る道に足を動かし、まだ手を繋いでいる五月に笑いかけた。
「………。 ゆっくり帰りましょう」
「君がそう言うならのんびり帰ろうか」
五月の元気のなくなったアホ毛を撫でながら、姉妹に囲まれ怒られる五月の姿を思い浮かべた。
二乃が怒ってそれを四葉と三玖が宥めて、一花が五月を抱きしめるんだろうなぁ。そしてなんだかんだ許すんだろうな。美しい姉妹愛と言うものか…………。
いつの間にか吹雪は止み、大いなる太陽は地平線に隠れ始め、温かな三日月がその姿を色濃くし始めた。
こうして無事五月は見つかり、残るはキャンプファイヤーのイベントのみになった。
4月に怪盗キッドのスキーシーンを考えてみてほしいと感想をいただいた時、当初はそのシーンを書くつもりはありませんでした。でも折角感想をいただいたので挿入しました。気に入っていただければ幸いです。