五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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この前バスの献血に行って来たんですけど、採血の仕方変わったんですね。中指の先端に針を刺して採取するという形でした。聞いてみると去年の10月(?)から変わったらしいです。


第37話 結びの伝説 3日目 ③ 

 周囲がキャンプファイヤーに色めき出す頃。僕と五月はコテージに帰って来た。五月と一緒に上杉の部屋に入ると、上杉の荷物をまとめていた四葉に出会った。

 

「………どうしたの?」

「どうかしましたか?」

 

 なんとなく雰囲気が暗い四葉に、五月と共に話しかける。

 

「………私、上杉さんは体調が悪いのに気付かないで振り回して……林間学校を台無しにしちゃった。こんなに楽しみにしていたのに」

 

 そう言いながら四葉が見せてくれたのは、付箋やメモでびっしりの上杉の林間学校のしおり。皺だらけになっていて、何度も読み返し頭に入れていたことが分かり、誰もが楽しみにしていたんだろうと推測がつく。

 

「………誰のせいでもないさ。少なくとも上杉はそう思っているはずだよ」

 

 僕は上杉のしおりからはみ出ているメモを抜き取り、開いて見せた。

 

 上杉が旅館で寝る前に、何かメモしていたのを目にしていたのだ。

 

「「「!」」」 

 

 そこに書いてあったのは『らいはへの土産話』と題した林間学校の感想だった。

 

「『車内で五つ子ゲームをした。指で見分けるのは難しくないか? 親指ならまだしも………だがこういうのも悪くない』………確かに親指は他の指と違い、短いし太いですからね」

 

 

「『四葉と白羽とやった肝試し。終わった後の泣いていたやつを見ると何をしたのか気になってくる』……あとで教えてやらんとな」

 

「『四葉が教えてくれたスキー。だが、四葉が止まり方を教えそびれてて木にぶつかったが楽しかった』………そう言えば上杉さんに教えてませんでした。………これ、本当なのかな……? 上杉さん、楽しかったのかな?」

 

 メモを読んでもまだしょんぼりとしている四葉。

 

「楽しかったって書いてあるんだからそうに決まってるでしょ! それでも気になるなら本人でも訊いてみなよ」

 

 自分しか読まないであろうモノに嘘なんて書かないさ。其処に書いてある言葉が上杉の本心そのものだと思うよ。

 

「…………じゃあ、今訊いてきます!」

 

 すぐさま行動かよ。気が早すぎるだろ。

 

「いや、上杉の部屋には先生がいたはずだよ?」

 

 禿ネズミ先生が居たはずだが……。

 

「こっそり行けば大丈夫ですよ!」

 

「ストレート………」

 

「取り敢えず行くだけ行ってみるか」

 

 四葉、君の熱意には完敗だよ。

 

 結局上杉の部屋まで行くことにした僕たち。

 

 通り過ぎてく先生の服装と顔つきを覚えておく。

 

「うーーー、ここまで来たのにどうしましょう」

 

 四葉は部屋の中の様子が把握できないため、もしかしたら扉の真ん前に先生が陣取っている可能性に気づき、歯痒く廊下の角から上杉が居る部屋を睨む。

 

「なら僕が時間を稼ぐからチャチャっと確認してきな」

 

 そのうち特攻かましてきそうなので、僕が行くことにする。

 

 上杉の部屋に入る前に先ほど通り過ぎて行った先生に変装し中に入る。

 

『主任、キャンプファイヤーのことで話があるんですが………』

 

 申し訳なさそうな顔をして中に入ると、壁際で電気のスイッチを探している先生の姿があった。

 

「そうかすぐに行く」

 

『どうせ寝てたんでしょ』

 

 光に目が眩む主任に、さり気なく毒を吐きながらも無事に部屋から連れ出し、四葉と五月にアイコンタクトを送る。

 

(今です!)

 

 四葉と五月が部屋に忍び込む様子を見られないように体で防ぎつつ、視線誘導を少し先の廊下で走っているクラスメイトに向かって行う。

 

「こら! 走るでない!」

 

 無事視線誘導が成功し、完全に部屋から意識が逸れたのを確認。

 

『まぁまぁ、生徒たちは林間学校を楽しみにしていたんですから、少し多めに見ましょうよ。』

 

「……それもそうだな」

 

『それと少し暑くなってきましたね。窓でも開けましょうか』

 

 窓を開けると流れ込んでくる生徒たちの楽し気な話声と、炎の爆ぜる音。

 

「……中々乙なものだな。酒でも飲んでゆっくりしたいものだ」

 

『そうですねぇ、生徒たちが寝静まったら月見酒でもしましょうかね』

 

 天高く昇った三日月を眺めた主任は、月を肴に飲むお酒を想像したのか、どことなく顔が赤い。

 

 そんな感じに道中どうでもいいことを話しながらキャンプファイヤーのところに向かう。

 

 広場まで足を運び見世物をやっている生徒たちに目を向け、眉尻を下げて口を開いた。

 

『あれ? すみません主任。どうやら問題は解決していたみたいで』

 

「そうか、ならいい散歩になったな。また誘ってくれ。それと今日はお疲れ。缶コーヒーで悪いな」

 

 僕にフォローを入れ、缶コーヒーをくれた主任。イケメンやん。

 

 上杉の部屋に戻っていく主任を見つめて、缶コーヒーのプルタブを鳴らし、口に含んだ。うん、やっぱり苦い。

 

 これだけ時間を稼げば大丈夫だろう。それにもうすぐにフィナーレの時間だ。きっと主任はまたここに来ることになるだろうから僕も別ルートで上杉の部屋に行くとしよう。

 

 すぐに道中窓を開けた場所まで走り、外側から人目につかないよう隠れながらその窓から忍び込み、上杉のいる部屋に向かって足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一花は独りでキャンプファイヤーに盛り上がっている生徒らを見つめていた。すると、後ろから『抹茶ソーダ(あったか~い)』が差し出される。

 

「風邪は水分補給が大事」

 

「………ホットもあるんだ………まぁ、ありがとね三玖」

 

「ユキトがくれたから探してみた」

 

「そう……あと、ごめんね」

 

「?」

 

 三玖は、一花の唐突な謝罪に首を傾げた。

 

「ユキト君とのダンス、断るべきだった。もっと早く気づいていれば良かったのね………伝説のこと、三玖の思い」

 

(そしてこの気持ちにも)

 

「…………」

 

 三玖は唐突に無言で一花を抱きしめ、ずっと思っていたことを語り始める。

 

「ずっと気にしてた。私だけ特別なんて『平等』じゃないって思ってた」

 

「そんなこと………」

 

「でも、もうやめた」

 

 

 

 

 

 独り占めはしたい。

 

 

 

 

 

 この感情に嘘はつけない。

 

 

 

 

 

 だけどそれは今じゃない。

 

 

 

 三玖は微笑を浮かべながら一花に『宣戦布告』する。

 

 

 

「私はユキトが好き。だから好き勝手にするよ。その代わり一花もみんなもお好きにどうぞ。………負けないから」

 

 一花はその言葉を聞くと自然と笑みが浮かんだ。三玖にいつの間にか恋心を悟られ、妹の成長を噛み締めながらホットな抹茶ソーダを開けて1口飲む。

 

「うーん…………絶妙に不味い………けど、効力バツグンだよ。ありがとね」

 

「……うん、じゃあ行こうよ」

 

「そうだね」

 

 並んで立った、二つの揺らめく長い影は瓜二つ。その影は手を繋ぎながらコテージへと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 一足先に上杉が寝ている部屋に戻ってきた僕は息を潜め、やってくるであろう主任を待ち構えた。部屋に入られると困るからね。ちなみに待っている間に缶コーヒーは飲み干した。お残しは許しまへんで!

 

 廊下の端に視線を漂わせていると主任の姿を捉えた。すぐにまた別の先生に変装し、主任に向かって足を踏み出した時、主任はちょうど別の先生に呼び出されそのままどこかに行ってしまった。ラッキー。

 

 主任が立ち去ったのを確認し僕は部屋に向かう。そして張り紙を回収。入ったのと同時に部屋の明かりがつけられたので、壁にあるスイッチのほうに目を向けると、僕を見て固まった中野姉妹たちがいた。一花、二乃、三玖はいつ入って来たのだろうか。っていうかまだ電気付けてなかったのね。結構時間あったと思うんだけど………。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 一瞬空気が固まったのを感じたとき、五月が口を開いた。

 

「え、えーっと、別に忍び込もうなんて思っていなくてですね。ただどんな部屋なのかと気になっただけで決して上杉君の見舞いに来たのではなくてたまたま、そう! たまたま入った部屋が上杉君のいた部屋だっただけです!」

 

 五月はまるでマシンガンのように言い訳を展開した。

 

「あ」

 

 そういえば先生の変装したままだった。

 

 すまんすまんと謝りつつビリっと人工皮膚を剥ぎ、変装を解く。

 

「ユキト君!」

「雪斗!」

「……ユキト」

「白羽さん!」

「白羽君!」

 

 一斉に僕の名前を呼ぶ姉妹たち。そんなに熱く僕の名前を呼んでくれるなんて……モテる男はつらいね~。

 

「すぐに変装解きなさいよ! びっくりしたじゃない!」

 

 二乃は目を吊り上げて怒ってくる。

 

「まぁまぁ、そうカッカしなさんな。ほくろが増えるぞ」

 

「そんなわけないでしょ!」

 

 増えるのは皺でしょ! とまだ吠えてくる二乃をスルーし上杉のところに行き、上杉の右側に座ってゴミ箱に缶コーヒーを捨てた。

 

「早く風邪を治していつも通りの勉強バカを見してくれよ」

 

 僕が上杉に話しかけていると、姉妹たちは上杉の左側に座り一花が親指、二乃が人差し指といった感じに上杉の指を掴んだ。

 

「もっと私が周りをみえていれば良かったね」

「早くいつもの調子に戻りなさい」

「私たち六人がついてるよ」

「私のパワーを使って元気になってください!」

「あなたはこの林間学校で何を感じましたか?」

 

 五月が言い終わると同時に上杉が上体を起こした。

 

「………るせぇ……」

 

『え?』

 

 なんて言った? ハッキリしゃべろや。

 

「うるせぇ! 寝れねえだろう! さっさと出て行け!」

 

 上杉に怒られながらバタバタと部屋から出て行く僕たち。

 

 折角看病していたのに、ドライアイスの様に冷たい奴め。凍傷させて友だちなくすぞ。

 

 キャンプファイヤーの温かいオレンジ色の光が上杉の部屋を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

ーーー…………。

 

 

 

 遥か先の未来において

 

 今日はよく晴れた天気に恵まれ、絶好の結婚式日和となった。今日は上杉の結婚式。僕は朝から上杉のお家でお邪魔になっていた。

 

「お邪魔します」

 

「いらっしゃい! 白羽さん! お忙しいのに来てくれたんですね!」

「よく来たな! なんもねえがゆっくりしてくれ」

 

「お邪魔します。これ、お土産です。忙しくても、友だちの結婚式には駆けつけるに決まってるデショ」

 

 温かく迎えてくれた二人に手土産を渡し、居間に足を運び胡坐をかいて座った。

 

「聞いてよ白羽さん! お兄ちゃんったら結婚指輪を家に忘れたっていうんだよ! こんな新郎他にいないよ!」

 

 長い髪を揺らしながら力説してきた。

 そうだな。そんな新郎いるわけないよな。上杉が特殊なだけだよな。

 

 大変な兄を持ったなぁ、と頷いていたら勇也さんが口を開いた。

 

「ふっ、血は争えんな」

「もう一人いるんかーい」

 

 何キメ顔で言ってんだ。誇ることじゃねえだろ。

 

「決めた! 私お兄ちゃんやお父さんよりも素敵な人と結婚する!」

 

 らいはちゃんはフライ返しを片手に一念発起した。正直いいお嫁さんになると思うね。それよりも、

 

「彼氏は? 彼氏はまだいないんだよな!? 俺を一人にしないでくれ!」

 

「え? 彼氏いるの?」

 

「白羽さんも気になるんですか?」

 

 気になる。めっちゃ気になる。

 

「それは……」

「早く続きを!」

 

 それは!?

 

 勇也さんとドキドキしながら続きを促す。

 

「内緒です!」

 

 らいはちゃんは人差し指を唇に押し当て、笑顔を咲かせる。

 

「「内緒かーい!」」

 

「………そうか。内緒なら仕方ないな。ただ彼氏が出来たときはどんな人間かどうかは教えてくれよ? らいはちゃんに変なことをしたらすぐに教えてくれ。社会的に抹殺してあげるから」

 

 その後に去勢してオカマバーに送ってやる。新しい世界の扉を開くといい。刑務所にぶち込むのはその後だ。僕の今までに築いてきた人脈を舐めるなよ。

 

「う、うん」

 

 黒い笑顔を浮かべる雪斗に、らいはちゃんはどことなく歯切れの悪い返事をする。

 

「それよりも、あんなんでいい旦那さんになれるか心配だよ」

 

 らいはちゃんは、今結婚式場にいるであろう兄に思いを馳せた。

 

「まぁ、大丈夫だよ。きっとそこも織り込み済みだからね。そんなところも彼女にとっては魅力的なんじゃないかな?」

 

「お兄ちゃんが離婚しないようにしてくれないと」

 

 上杉の奴、妹にまだ結婚してないのに離婚の心配されてるぞ。身の振る舞い方をもう一度考え直しときな。

 

「ん! おい朝ごはんがこれだけって、そんなに家計やばいのか!」

 

 勇也さんは目の前に出された、目玉焼き一つにレタスが乗った朝食を見て叫んだ。

 

「確かにやばいけど。今日のお昼はすっごい豪華なんだから。満喫しないともったいないじゃん」

 

 確かに。結婚式で食べる食べ物は普段口にしないからね。その気持ちよく分かる。

 

「それじゃあ、食べ終わったら行きましょうか。もうすぐ時間ですからね」

 

 スマホの時計を見せつつ言った。

 

「そうだな。さっさと腹に詰めて行くか!」

 

 勇也さんは勢いよく食い始めた。そんなに急がなくても………。

 

「ゴホォ! み、水をくれ」

 

 ほら、詰まらせた。冷たい目をするらいはちゃんから水を貰う勇也さんの背中を撫でる。

 

「フゥー、助かった! 早速行こうぜ!」

 

「まだ歯磨きしてないでしょ!」

 

 らいはちゃんは玄関に向かおうとする勇也さんの背中をひっぱたいた。

 

 締まらないなぁ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎて場面は変わり、結婚式場

 

『新郎の登場です』

 

 教会の鐘の音と、アナウンスの音と同時に扉が開き、頭を下げ、入場してくる上杉を眺める。

 

 少し歩いた上杉に話しかけた一組の夫婦。………あれは前田(コラ)夫妻か。一言二言交わして上杉は再び歩き出した。

 

 

『新婦入場』

 

 上杉が神父さんの前まで来た時、次のアナウンスが流れた。 純白の花嫁衣装に身を包んだ彼女はいつもに増して綺麗に見える。僕がそう見えるのだから、上杉には天使、いや女神に見えるんじゃないかな。

 

 上杉の下にゆっくりとした歩調で歩いていく彼女を見て、キャンプファイヤーの伝説を思い出した。

 

 結びの伝説、キャンプファイヤーの結びの瞬間、手を結んだ二人は生涯を添い遂げる縁で結ばれるという。

 

 今思うと信じれるな。こうして体験すると……ね。

 

 

 

 

ーーー…………

 

 

 

『新郎の登場です』

 

 いよいよ俺の出番が来た。開いていく扉を見て頭を下げる。頭を再び上げたときには、眼前に沢山の友人たちと家族のみんなが拍手をして迎え入れてくれた。

 

 緊張で足と手が同時に出てしまわないように意識していると、前田が話しかけてきた。こいつと関わったのは林間学校の時からだな。白羽と普段から一緒にいたから、白羽に絡みに行くコイツとも自然に話し合う中になった。

 

 懐かしさを感じつつ,短い会話をし、再び神父の下に足を運んだ。後ろから聞こえてくる前田の話に耳を傾けて。

 

 

 

 

――――あの時の事は正直よく覚えてない。

 

 

 

――――だが災難続きだった林間学校には 不思議と嫌な覚えもなかった。

 

 

 

――――ほろ苦い思いでさえ幸せに感じるのも 多分みんながいたから

 

 

 

――――今なら言えるかもしれない あの時言えなかった一言

 

 

 

 

 傍にいてくれてありがとう

 

 

 

 

 こうして今日、一組の若い夫婦が誕生した。

 

 

 

 




 勿論二乃にも飲み物を渡してあります。

 キャンプファイヤーの伝説って色々ありますよね。踊った相手と結ばれるとか、末永い関係になるとか、踊った相手とは将来結婚するとか、結びの瞬間手を握っていた人と結ばれるとか。………すうぅうーー、全部恋愛じゃねぇか!!(クソデカボイス)

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