五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

39 / 77
 がぶりん、イケ鳩さん、鴉についての閑話を書きたくなり、衝動的に書いたこの話。

あっそうそう、コロナワクチン二回目打ってきました。お陰様で状態異常を掛けられまくったボスキャラの気持ちが分かりました。


第38話 友人の交流

 私は鳩である。名前はまだない。主人からは『イケ鳩さん』と呼ばれているが、多分名前ではないと思う。恐らく性格の事でも示しているのだろう。そして、今日はこうして顔見知りの友人の下に遊びに来た。

 

 開け放たれた窓から音もなく静かに着地し、友人に挨拶するために口を開いた。

 

『こんばんは』

 

 翼を撫でる冷たい風を感じながら、身だしなみを整える。

 

『こんばんは、今月も来てくれたのね。歓迎するわ。アタシはここから動けないから、月一のこの日をとても待ち遠しく思ってるのよ』

 

 何を隠そう、友人とは主人が生み出した、ハエトリグサの突然変異と思われる、変わった植物の事だ。

 

 暫く談笑をしていると、カーテンが揺れ、もう一人の友人が私の傍に降り立った。

 

『ごめ~ん。遅れちゃった。綺麗な満月だったから、眺めながら飛んでたら通り過ぎちゃって………』

 

 夜空よりも暗い漆黒を身に纏った彼が、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

『気にするな、まだ集まったばかりなのだから』

『そうよ~』

 

 つぶらな瞳をぱちくりとさせる彼を撫で、今日はいつもよりも大きく見えるお月様に感嘆をついた。

 

 そのまま3人で暫くお月様を眺める。そして一通り堪能した後、私は口を開く。

 

『そうそう、お土産を持ってきたんだよ』

 

 そう言って脚に付けてもらった袋から木の実を取り出した。

 

『晩餐でもしようか』

 

 木の実の数粒を彼女と、彼の足元に置いた。

 

『あら、いつもありがとうね』

『わ~! アリガトー♪』

 

 彼女は蔓を伸ばし、一粒取って木の実を齧り、彼は器用に中身を穿り出した。

 

『今日は何について話す?』

 

 彼女が葉っぱを揺らしながら訊いてきた。

 

『そうだな………私と主人の出会いを話そうか』

 

 そういって、私が主人に拾ってもらったあの日に、記憶を飛ばした。

 

 

 

ーーー…………

 

 何分子供の頃でな。身から溢れる好奇心に突き動かされた青い鳩だったんだよ。でもそのおかげで主人と出会えることが出来たんだからな。困ってはいないさ。

 

 

 あの日は稀にみる嵐の日だった。其処らを行き交う人間たちが、必死に彼らの寝床に帰っていたのを覚えている。

 

 私は雨風にさらされて翼に怪我をし、巣に帰れなくなり、身を縮ませて凍えていた時の事だ。もう二度と巣に帰ることが出来なくなると思った。翼が折れてしまったのか、動かしずらいから。

 

 巣に帰れば温かい翼で温めてくれる母親、いつも不機嫌な顔をしているが、実は家族にどう話しかけようか悩んでいる父親、そしてどこに行くも、いつも付き添ってくる可愛い妹たちと弟たち。

 

 そんな愛しい家族たちと、触れ合い、語り合うことが二度と出来なくなる。そう思っていた。

 

 脳を駆け巡る家族との思い出に涙を溢しつつ、必死に生きて帰ろうとして、一時休んでいた木から飛び出し、空を駆けていた。痛みを訴えてくる自身の翼に鞭を打った。本能が警鐘を鳴らしていることに気がつかないふりをして。

 

 

 やっぱりと言うべきか、自身に鞭を入れ、活を入れても自然には勝てなかった。我が身に降り注ぎ、体温を奪おうとする氷よりも冷たい雨、四方八方から叩きつけてくる風の暴力。気づいた時には、目の前に人間が建てた、灰色の石で出来た棒状のものにぶつかり、そこで意識が途絶えた。

 

 薄れゆく意識の中で家族の事を思った。もう母親に甘えることが出来ない。父親と語り合えない。可愛い妹、弟たちと遊べない。不出来な兄でごめんなさい、と。

 

 

 次に意識が戻った時にはなにやら温かいものに包まれていた。まるで母親の翼に包まれているかのような安心感があった。

 

 まだはっきりしない視界の中で捉えたのは手当されていた私の翼。このことに気づいた時は本当に嬉しかった。また家族に会いに行けるとな。温かさを感じれるとな。

 

 そうして、安心したのかまた意識を失った。

 

 

 

 再び意識が戻った頃には,嵐が止んでいた。忌まわしき風の暴力は消え去ったのだ。我が身を弄んだ憎き風はな。

 

 ならば家族に会いに行こうと思い、翼を広げ、声高に鳴き、いざ飛ぼうとした時、急に体を掴まれた。

 

 自身を拘束するナニカに目を向けると人間の手があった。そう今の主人の手だ。しかし、当時の私にとって人間など私たちの生活の邪魔をしてくる存在でしかない。だから逃れようとその手を突つき回した。

 

 手の至る所から赤い血が流れ、無事なところを探す方が難しいほど、突つき回した。それでもその手が離れることは無かった。そのうち、私の方が根負けし、大人しくした。どことなく、人間の手が母親と同じ温かさを持っていたからだ。この人間は信用してもいい、そう思った。

 

 

 だって

 

 

 突つくのを止め、大人しくした私に、まだ血が流れるその手で震えながら、ご飯をくれた。

 

 その行動が私と同じだから。お腹すいたと喚く、妹、弟たちに自分のご飯を分け与える自分に。妹、弟たちの為に野良猫と戦い、傷だらけになりながらご飯を持ってきた自分に。 

 

 その手には、確かに私と同じ、愛する者に対する『慈しみ』と『親愛』があった。だから信用してもいいと思えた。

 

 そうして数週間、人間のお世話になり、翼も治り、無事家族の元に戻ることが出来た。

 

 家族の元に行き、無事家族の暖かさに身を投じ、姿を眩ましてからの出来事を話した。そしてどうしたいのかも。

 

 父親はいつもより不機嫌な顔をし、妹、弟たちは泣き、母親は「自分の好きなようにしなさい」と許してくれた。

 

 泣いている妹、弟たちは「いつもわがまま聞いてもらっているから、今度は私たち(僕たち)が聞く番」と言ってくれた。

 

 渋る父親に「子どもが旅立つ時が来たんさね。父親らしく黙って見送りな」と父親の腰を叩いていた。私の家族はどうやら嫁関白らしい、この時初めて知った。

 

 そして旅立つ日、父親はまだ渋っていたので、見送りには来なかった。残念に思いながらも今までの感謝を伝え、空に飛び上がった。

 

 空に飛び上がった瞬間「風邪、引くなよ」と声が聞こえた。姿は見えなかったけれど、この胸に響かせる声は父親しかいない。

 

 涙が溢れ、視界が歪みながらも、後ろは振り向かず、ただただ真っすぐ、主人の下に向かった。

 

 

 

 この日は今までで一番よく晴れた日だった。

 

 

 

ーーー…………

 

 

 

『簡潔に言うとこんなところかな』

 

 思い出すと家族に会いたくなってきたな。今度有給でも取って会いに行こう。お土産は何がいいかな。

 

 懐かしさに胸が暖かくなるのを感じつつ、友人たちに目を向けると、

 

『いい話じゃあ゛な゛い゛』

『ホワホワするね!』

 

 彼は翼を広げ、感情を爆発させていた。彼女は体をくねくねさせ、葉っぱから水を出して言ってきた。涙だろうか。

 

『そんなに水を出して大丈夫か?』

『枯れちゃうよ?』

 

『大丈夫、大丈夫! アタシは今猛烈に感動しているわ!』

 

 ブシャーと勢いよく飛び散る水が、植木鉢の周りを濡らした。部屋の主人が朝起きたら怒られるぞ。彼も引いてるし。

 

『このままじゃ枯れちゃうわ。死因が感動死なんて笑えないもの』

 

 そう言って彼女は側にある水差しに口を突っ込み、水をがぶ飲みし始めた。満タンに入っていた水がみるみるうちに無くなっていき、残り3分の1になった頃にようやく飲むのを止めた。

 

『ぷっは~! 飲まなきゃやってられないわね!』

 

 水酔いか? 心なしか彼女の体が赤くなっている。

 

『次はアタシの番ね! アタシはね~』

 

 そう言った彼女は部屋を照らすお月様に顔を向けて語り始めた。

 

 

 

ーーー…………

 

 アタシはね~実は元々ただのハエトリグサだったのよ。だけど、クッパとかいう奴の魔力を浴びていたらこんな姿になっちゃてね。思考に霧がかかったように何も考えられなくて、クッパの奴に好き勝手命令されて従う日々だったわ。

 

 なにやら好きな人と結婚したいから、好い人を奪いに来る赤い帽子を被った奴を足止めしろって。そう命令されて、道の途中にある土管に配置されたわ。周りにある土管にもアタシと同じような子もいて、親近感がわいたのを覚えているわ。

 

 配置されてから半年くらいは特に何もなくて、たまに来る歩く亀みたいな奴とおしゃべりしたり、頭上を飛び交う流れ星に心を奪われていた頃もあったわ。

 

 そしてあの日。とうとう奪いに来た、赤い帽子を被った人が来たの。ソイツは慣れた仕草で襲い掛かる亀みたいな子や、きのこみたいな子を倒していったわ。

 

 もう恐ろしかった。何も感じていないあの冷たい目。命を何とも思わず、踏み潰して行く様子。「通行の邪魔になるから排除しただけ」そんな声が聞こえてきそうだったわ。機械の様に命を散らさせていくその様子は、まるで悪魔のようだった。

 

 殺されるから襲いたくなかった。皆そう思ったに違いないわ。それでもアイツの命令には逆らえなかった。だって心優しいアタシと同じ見た目の子が、人格が変わったかのように襲ったんだもの。彼女は、悪魔の手から出された火の玉で焼き尽くされたわ。一片の炭も残さずに。

 

 この世のすべてを恨んだわ。彼女が何をしたっていうの? 彼女は常々「家に帰りたい」、「誰も傷つけたくない」って言っていたのに。どうして優しい子が殺されなきゃいけないの? 優しい子が損しなきゃいけないの? これが世の理なの? 

 

 そうしている内に私の番が来たわ。襲いたくない。その一心で土管の奥に引き篭もっていたのに、迫りくる足音が徐々に大きくなるにつれて、思考に霧がかかり、人格が無くなっていくのを感じたわ。アタシがアタシじゃなくなるのを。

 

 そしてついに襲い掛かったわ。どこか薄い膜を通して自身を見ているかのように感じながら、目の前の人間を食らいつき、殺そうとした。勿論本心じゃないわ。避けてって叫んだもの。それでも口から出てくるのは気味の悪い蛇のような声。

 

 そして彼と目が合ったのを最後に意識が暗転したわ。最後に思ったのは………そうねえ……感謝かしら? 頭の中を覆っていた霧が晴れてアタシに戻った気がしたのよ。だから感謝。

 

 

 願わくば、クッパの奴をぶちのめしてくれたら嬉しいんだけど。どうせその好い人は誘拐してきたんだろうし。まっ、結果は分からずじまいね。

 

 そして亡くなってしまった友人たちには天国で楽しく過ごしてもらっていたいわね。

 

 

 

 そして意識が浮上してきたのを感じて辺りを見渡してみたら、人間がアタシに名前を付ける所だったのよ。驚いてつい噛んでしまったのだけれど。まあ、些細なことよね。

 

 それからは知っての通りよ。ここで中野家の害虫駆除係として居候させてもらってるの。

 

 

 

 

ーーー…………

 

 

 中々に重い話。だけれども、そう重く感じていないように思えるのは、彼女の竹を割ったかのような性格ありきだろう。

 

『君も色々あったのだな』

『大変だったんだね』

 

 ”人生には何があるか分からない”そんな人間の言葉があるが、まさにその通りだと思える。本来なら交じることのなかった出会いが、こうして体験しているのだから。

 

『ええ、それでもアタシは幸せよ。こうしてお月様を見ながら友とお喋りして、感情を揺らして、そして、一喜一憂出来るのは生きていないとできないから』

 

 お月様に雲がかかり、部屋が薄暗くなってから、彼女はこちらに振り返り、そう話してくれた。

 

『次は僕の番だね!』

 

 彼は満点の星空に思いを馳せた。

 

 

 

ーーー…………

 

 

 みんなもご存じの通り、僕と君の言う主人とは、ビジネスパートナーな関係なんだよね。だからそういう関係になった事の顛末を話そうかな。

 

 

 あの日は普段よりお日様の光が強くて、体調が悪くなって人間の建物の中にコッソリ入って涼んでいた時の事。ほら、()は黒いでしょ? だから体が熱くなりやすいんだよね~。そこで冷たい風が出る人間の所に行ったんだ。

 

 

 入ってみると、その場に人間は居なくて,鳥籠ばかりの部屋だったんだよね。それでラッキーって思って、心地よい風が出てくる四角い奴の所で留まっていたら、話しかけられたんだよね。君に。

 

 びっくりしたよ。急に『主人の下に就く気はないか?』って聞いてくるんだもん。面白そうだから話を聞いてみると、ますます興味が湧いてきて、君の言う主人に会ってみたいと思ったんだよね。

 

 暫くそのまま部屋に居ると人間が入って来たから、交渉は君に任せてのんびりしていたんだ。結果としては、人間が僕を必要だと思った時に手を貸す。そんな形になったんだ。

 

 最近必要とされたときはあの時だね。駅と呼ばれている所で、悪さをしたらしい人間を突つき回したのと、その後に人間がその場から逃走するときに、彼の姿がほかの人間に映らないように仲間たちで動き回った事かな。結構楽しかったな~。それから数日経って報酬としてもらったパンは美味しかった。また食べたい。

 

 まあそんな感じ?

 

 

ーーー…………

 

 語り終えた彼は喉が渇いたのか、残り3分の1となっていた水差しを全部飲み干した。体が重くなって飛べなくなるぞ。

 

『ぶへぇ、話すのって結構疲れるね。文脈ぐちゃぐちゃになっちゃったよ』

 

 口を濡らした彼は側にあった布で口を拭いた。………朝になる頃には乾くか。

 

『アナタと彼はそんな関係だったのね。意外だわ~』

 

 彼女は蔓を口らしき部分に当てて話した。

 

 お月様にかかっていた雲が晴れ、再び淡い月光が部屋に降り注いだ。3人は窓際に並んで立ち、夜景を眺めた。

 

 そして互いに沈黙を貫き、最後の木の実を喉下した時,

 

 

『『『ではまた今度の満月の日に』』』

 

 

 示し合わせたかのように同じ言葉を言い、彼らは満月を背負って飛び立ち、彼女は部屋の隅にそっと戻り、部屋には毛布の擦れる音だけが残った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。