五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 小説を読んでいると背中がぞくぞくするような、そんな素晴らしい作品と出会うことがしばしばあります。そんな作品をいつか書けたらなぁ、と出会う度に思ってしまう今日この頃。

 今回の話は時間帯がずれています。原作としては大体お昼~午後の話だと思うんですが、この話では、午後から夕方の時間帯になっています。

 1万文字書けました~!! やった~!


第39話 お見舞い申し上げます

 

 空が澄み渡り、太陽がいつもより空高く位置しているかのように見える。そんな秋晴れが続き、過ごしやすい天気となった今日は、入院することになった上杉氏のお見舞いに行くことにした。といっても今の時間としてはおやつの時間を過ぎた頃だけど………。行きは高級外車、帰りは救急車のVIP待遇。中々にない経験をしたようで羨ましい限り。勿論皮肉。

 

 とある人が救急車、警邏用緊急自動車(パトカー)、霊柩車にはお世話にならないようにと言っていた。 上杉は今ワンアウトだな。

 

 

 消毒液の香り(フレグランス)が鼻を擽る中、傍を通り過ぎていく看護婦さんや入院患者に軽く会釈をしつつ、上杉の居る入院部屋へ足を進める。上杉のネームプレートが貼られた部屋を見つけ、ドアをノックする。

 

「どう「元気ー?」ぞ……」

 

 上杉の返事を待つつもりはない。どうせ上杉しかいないのだから。

 

「返事をする前に開けるんならノックの意味ないだろ」

 

「様式美と言う奴だ。気にするな。それよりもお見舞い品を持ってきたぞ。メロンと花だ」

 

 すっかりと顔色が良くなった上杉に安心感を覚える。

 

「ああ、ありがとう。らいはにも食わせてやりたいな」

 

「そういうと思って来る前に上杉の家に行って同じのを渡してきた」

 

「わざわざありがとうございます!」って言ってた。癒されるねあの笑顔。

 

 上杉と会話をしつつ部屋を散策し、窓辺に見目の良い花を活けた。活けた花の名前はダイヤモンドリリー。ダイヤモンドリリーは、ギリシア神話の美しい水の妖精「ネーレーイス」の名前にちなんでつけられたものだ。

 

 ネリネと呼ばれることもあり、日が花に当たり宝石のように輝くことで、ダイヤモンドリリーと呼ばれている。旬の季節は秋頃。花言葉は忍耐以外にも「また逢う日を楽しみに」という意味もある。

 

 とまあ、そんなメッセージを込めて持ってきたわけだが、上杉は知らないだろうな。まぁ別にどうでもいいが。

 

 なんてったって僕は花より団子だからね。活けた花をそこそこに、早速小振りのメロンを持参したフルーツナイフで切り分け、部屋に常備されていた皿に盛りつける。

 

 皿を上杉に差し出し、一言。

 

『食え』(オールマ〇トボイス)

 

 勿論画風も違う。

 

「誰だよ! …………うん、うまいな」

 

 上杉は僕にツッコミを入れながらも、一口サイズに切り分けられたメロンを頬張る。

 

 そうだろう。そうだろう。高かったんだから。これで美味しくないなんて言われたら金をせびるからな!

 

「さて,本題に入ろう。林間学校での肝試しの時、二乃と何があった?」

 

 上杉の左隣に座り、リュックを下ろしてゲン〇ウポーズを取り、尋問を開始する。

 

 張り詰めた空気が部屋に充満する。

 

「…………」

 

 上杉はどこか思うところがあるのか沈黙を貫く。

 

 そうかそうか、君がそういう態度を取るならこちらも考えがあるぞ。

 

「別に言わなくてもいいが、……そのメロン、美味しかったか?」

 

 そう言いながら懐から空っぽの瓶を取り出し、軽く振って見せ、悪どい笑顔を向ける。

 

「おまえ! まさか!?」

 

 上杉は驚愕を露わにし、急いで既に飲み込んだメロンを吐き出そうとする。

 

「まぁまぁ、落ち着け。素直にゲロってしまえば解決する話の事だ」

 

 今度はポケットから琥珀色の液体の入った瓶を見せる。物理的に吐け。という訳ではないからな。やめろよ。

 

「言えば、それをくれるんだな?」

 

 上杉の顔色が心なし青ざめていく。

 

「約束しよう。僕は約束を守る男だ」

 

 ニッコリの音が付きそうな笑顔を上杉に向ける。

 

「………実はあの時、金髪の鬘を被ったまま二乃と話してしまい、二乃は俺だと気づかず、キャンプファイヤーのダンスを申し込んできたんだ」

 

 ふんふんそれで?

 

「だが俺は踊る気は無かったから帰ろうとしたんだが、名前を聞かれてな。咄嗟に”金太郎”と名乗ってしまったんだ」

 

 ……へー。で?

 

「それで帰ろうとしたんだが、二乃が震えていてな。らいはから貰ったミサンガを二乃に貸したんだ。今はこうして手元にあるわけだが」

 

 ………なるほどね。二乃がそのミサンガを気に入っていた理由が分かったよ。

 

「それくらいなら黙ろうとしなくても良かったじゃないのか?」

 

「……その……」

 

 言い淀む上杉に早く続きを言うように促す。

 

「…………出来れば二乃に一緒に謝ってくれるか? もしくはこのまま欺き通すかを一緒にして欲しい……と思っていました」

 

 僕の身を案じてくれていたのか、それとも共犯友達を作りたかったが言い出せなかったからか……どちらにせよ大変なことになりそうだな。

 

「それよりも解毒剤をくれ!」

 

 一人目を瞑って考えていたら上杉が僕の懐に手を伸ばしてきた。

 

「そんなものないよ」

 

「え?」

 

 上杉は僕のあっけらかんとした発言を信じられないのか、手を伸ばした体勢で固まった。マネキンみたい。

 

「あくまで薬を盛ったかのように振る舞っただけ。上杉の勘違いだよ」

 

 いや~上杉の慌てふためく様子は見ていて楽しかった。またやりたいな。

 

「騙しやがったな!」

 

 上杉はベッドから身を乗り出し、服を掴んでくる。

 

「どうどう。落ち着け。きちんと協力してやるからさ」

 

 上杉を引き離し、乱れた服装を整える。皺になったらどうしてくれるんだ!

 

「………そうか、ならいい」

 

 随分と聞き訳がいいな。珍しい。…………はっは~ん。さてはお見舞いに来てくれた唯一の友達だからか? うぶな奴だな~。も~。

 

 一人ニヤニヤしていると、突然病室のドアが開き、誰かが入って来た。誰かと思い振り向くと、息を切らした二乃がいた。

 

「誰もいないわね………」

「いや僕いるんですけどー?」

 

「あらいたのね」

 

「『あらいたのね』じゃないよ! 目の前にいたじゃん! コンタクト付けてないの?」

 

 居ることをアピールするために二乃の眼前まで行き、これでもかと手を振る。

 

「見えてるわよ! しつこい!」

 

 二乃はそう言いつつズカズカと部屋の中に入ってくる。

 

「お、おい、ここは俺の部屋なんだが」

 

 上杉は遠慮の欠片もない二乃の態度に口を出した。

 

「別にいいじゃない。誰がお金を払ってやってると思ってるのよ」

 

「大げさなんだよ! 俺が医院長の隠し子なんじゃないかと、根も葉もない噂が看護師の間で流れてるんだ」

 

 上杉は身振り手振りで必死に説明する。

 

 僕の時もそうだったな。顔とか全然違うのにね。やっぱり女性、特におば様連中は噂話が好きなのかね。

 

「しょうがないじゃない。あの子たちアンタが死ぬんじゃないか心配してたんだから」

 

 そう言った二乃の目線の先には、上杉のミサンガが映っていた。

 

「と言っても治療費などを払ってくれているのはお前たちの親父だろ?」

 

 上杉は心配されていたことにむずがしさを感じたのか、そっぽを向いて答えた。

 

「そうよ! つまり私たちが払ったのも同然よ!」

 

 清々しく言い切るなあ。

 

「「お嬢様っているんだな」」

 

 二人して頷いた。

 

「しかし、よりにもよってお前が見舞いに来るなんて思ってなかったぜ」

 

 上杉はうなじを掻きつつ、少し照れくさそうに言った。

 

「え、……ええ、そうね」

 

 なんか歯切り悪いな。

 

「それよりも、いい? 私がここに居るのは黙ってなさい」

 

 二乃はそう言うや否や、カーテンの陰に隠れた。

 

「上杉さん。ここに二乃が来ませんでしたか?」

 

 二乃が隠れた直後、四葉が開け放たれたドアからひょっこり顔を出して訊いてきた。そのまま四葉に続いて一花と三玖が入って来た。

 

「やっほー、林間学校ぶりだね」

「体調は大丈夫?」

 

「ああ、問題ない」

 

「良かった! ご無事で一安心です」

 

「全く………誰が来いって言ったよ」

 

 とか言っちゃて~。ホントは嬉しいんでしょ? そういうのは、その口元に浮かんでいる、ゆるりと浮かんだ弧を真っすぐにしてから言いなさい。僕の目は誤魔化せないで!

 

「ん? やはり二乃の匂いがします」

 

 ピーンと、妖怪アンテナの様に立ったうさちゃんリボン。あのリボンはやっぱり意識あるんじゃね?

 

 そろ~りと触ろうとすると、逃げられる。やっぱりコイツ意識あるって! 捕まえて学会に発表しようぜ! 新発見だ! 名前は何にする? うさちゃんリボン? それでもいいけどどうせならもっと違う名前にしようぜ!

 

「あいつそんなに体臭きついのか。可哀想に」

 

 僕がリボンに目をキラキラさせていると、憐憫を込めた上杉の声が聞こえた。

 

「どう考えても香水の匂いだろ? なあ、二乃?」

 

 そう言って二乃が隠れているとは別の方向に目を向けた。

 

「そっちに二乃が居るんですか!」

 

 四葉は僕の思い通りに、二乃の居るカーテンとは真逆の方向に探しに行く。

 

「なんで位置ばらすのよ!……あ」

 

 二乃は居場所をばらされたと思って自分から姿を現した。折角遠ざけてやったのに。

 

「二乃み~っけ!」

 

 はい容疑者逮捕。四葉隊員。容疑者を連れて行きなさい。

 

「ほら行きますよ!」「離しなさい! せっかく逃げてきたのに!」

 

 四葉は二乃を羽交い締めをして病室の外に連れ出した。

 

「じゃあ、私たちも」

「フータロー、早く元気になってね」

 

 そう言って一花と三玖は、少しずつ遠ざかっていく二乃の甲高い声を追いかけ始める。

 

 一通り騒いでいった五つ子たちを見送り、僕も病室を離れる準備をする。

 

「じゃあ、ぼちぼち僕も行くわ。また来るね」

 

 背負ってきたリュックを再び背負い、そう微笑んで病室を出た。

 

 

 

 さ~てと、予防注射に行くか。刺されるとなんか笑っちゃうんだよね。なんでだろう? 別にMでも何でもないのに。

 

 

 

 上杉が入院している棟とは別の棟で予防注射を受けるので、脳内マップを広げ待合室まで向かう。階段を降っていると、廊下の突き当たりに出た。廊下の端まで視線を漂わせてみるとみると、どうやら人気のない場所に出てしまったようだ。

 

 あれ? こんな場所あったんだ。ここはどこなんだろうか。

 

 足を止め、入り口で見た病院内の案内図を詳細に思い出すために思考の海に潜り込む。

 

 …………こんな場所は書いてないな。迷い込んでしまったのか? とりあえず適当に歩けば誰かしら出会うだろう。

 

 小気味よく反響する自身の靴の音を聞きながら薄暗い廊下を歩いていると、待合室のような場所で五月がこちらに背を向けていた。これ幸いと話しかける。

 

「あれ? 五月。こんなところで何してるの?」

 

「貴方もこんなところでどうしたんですか?」

 

「道に迷っちゃってさ。困ってたところだったんだよ」

 

 頭を掻きながら言う。

 

「私も迷っちゃったんですよ。一緒にいきましょう」 

 

 五月はそう言って立ち上がり、僕の手を握ってきた。

 

 …………手が冷たい。 一人が怖くて震えていたのだろうか。なら出来るだけ早く他の姉妹の所に連れて行かないと。

 

「じゃあ行こうか」

 

 最悪非常口から出れば何とかなるかな。怒られるかもしれないけど。取り敢えず僕が降りてきた階段まで戻り、降りようとすると、五月が手を引き、口を開いた。

 

「ここの階段は途中で無くなりますから違う階段で行きましょう」

 

 そうだったのか。五月はよく知ってるな。案内図を見ていたのかな?

 

「分かった。じゃあ引き返すか」

 

 ここの病院は複雑に作ってあるんだな。もしかしたらここの棟だけかもしれないけど。

 

 来た道を引き返し、五月と出会った待合室まで戻ると、さっきまで点いていた電気が消えていた。節電かな? 人が少ないところは必要以上には電気を点けないようにしているのだろうか。意識高いんだな。

 

「この病院は節電に力を入れてるのかね」

 

「そうかもしれませんね」

 

 なんとなく待合室を見渡していると、エレベーターを見つけた。

 

「なんだ、ここにエレベーターあったんだ。乗ろうぜ。…………ん?」

 

 エレベーターのボタンを押すが、動く気配がない。ふざけんな! エレベーターまで止める必要はねえだろ!

 

「ったくしょうがねえ。階段探すか」

 

「さっきそういったじゃないですか」

 

 そうだね。五月がここに居たのなら気づいてないわけないもんね。取り敢えず分かったのは、ここの病院はケチということだな。節電の心がけは素晴らしいと思ってたんだけど、撤回するわ。金にがめついだけだわ。この病院。

 

 待合室のその先にまで足を進め始めると、斜陽が人気のない白い廊下を、黄金色に廊下を塗り替えしており、美しい景色を作り出していた。

 

「わ~! 綺麗! 写真撮ろ」

 

 スマホを取り出し、パシャパシャ撮っていると、五月が口を開いた。

 

「じゃんけんしませんか? そろそろ時間ですし。貴方が勝てばここから出る方法を教えてあげます。負けたら私のいうことを聞いてもらいます」

 

 急にどうした? 負けても特に痛手なんてないから別にいいけど。

 

「「最初はグー、ジャンケンポン」」

 

 五月が出した手はパー、僕の出した手はチョキ。

 

「はい僕の勝ち。急に変なこと言いだしてどうしたの?」

 

 五月の手から顔を上げ、五月の姿を捉えようとする。が、

 

「あれ? どこ行った?」

 

 目の前から五月がいなくなっていた。いつの間にそんなマジックを身に着けていたんだ? 五月の姿を探そうとキョロキョロしていると、

 

「すみませーん! 急患です! どいてください!」

 

 そんな看護師の声が聞こえて来たのですぐに廊下の端にずれ、道を開ける。いつの間にか僕の周りには多くの患者さんや看護師さんなどで溢れ返っていて、人気の無かった廊下ではなくなっていた。

 

 …………もしや恐怖体験とかいう奴だったのか?

 

 時間を確認してみると上杉の病室を出てから3分しか経っていない。明らかにおかしい。僕は一体どこから不思議体験したんだ? 3分というと………僕が階段を降り始めてからじゃないか?

 

 すぐに僕が降りてきたはずの階段を探しに廊下の端まで足早に行くと、そこには何もなく、ただの壁しかなかった。近くを歩いていた看護師さんに話を聞いてみると、夕方の時間になると人が神隠しに遭うことがあるらしい。戻ってくるにはあの世に誘ってくる妖に勝負に勝てばいいらしく、負けるとあの世に連れていかれるとか。問答無用で連れて行かれる訳ではないのね。良識があるのかないのか……。

 

 五月?の「一緒に行きましょう」は“行く“じゃなくて“逝く“だったのかもしれない。会話もおかしかったしね。僕の名前は言わず、僕が言ったことを繰り返してるようなものだった。体温が低かった理由は既にこの世の者じゃないからかな。

 

 

 黄昏時は逢う魔が時とも言われ、この世あらざるものに出会うことがあるらしい。あの五月? も、もしかしたらそういった類の妖だったのかもしれない。

 

 

 寄りてこそ それかとも見めたそかれに ほのぼの見つる花の夕顔

 

 誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ

 

 そんな歌が思い浮かんできた。

 

 しっかりと今日のこの不思議体験を心のメモ帳に記載し、鍵をかけて脳内の机の中にしまっておく。皆に話そ~。

 

 不思議体験しちゃったぜ! と浮つく気持ちを押さえ、診療棟に向かう。今度は迷わないように看護師さんに連れて行ってもらう。

 

 予防接種を受ける診察室まで連れてきてくれた看護師さんに礼を言い、診察室の前の緑色のソファーで待っていると、僕が来た方とは逆の方から五つ子姉妹がやって来た。

 

「やっほー、みんなも予防接種しに来たの?」

 

 右手を振って話しかけた。

 

「そうだよー、隣に座るね」「……私も座る」

 

 一花が手を振り返し、僕の右隣に座り、三玖が左に座った。

 

 そのまま他愛もない会話に花を咲かしていると、二乃が僕の前で仁王立ち、小刻みに体を揺らしてきた。

 

 ……? ! ああ、席を譲れってことかな。

 

 すくっと立ち上がり、席を差し出す。

 

「これはこれは失敬。私は次の駅で降りるのでどうぞ座ってください。ちなみに今お幾つですか?」

 

 二乃をお婆さん扱いする。席を遠回しに強請ってくるお婆さんなんて見たことないが。

 

「私はまだ高校生よ! 年寄り扱いしないで!」

 

 とか言いつつちゃっかり座ってるじゃん。二乃に呆れた視線を送って立っている四葉に顔を向ける。

 

「私は大丈夫ですよ! 私は鍛えてますからね!」

 

 四葉はフフンと胸を張り言い切った。

 

 妹に負ける姉か~。可哀想に。二乃に向けていた呆れた視線を止め、”強く生きろよ”の意味を込めて微笑みを送る。

 

「なによその微笑みは」

 

 僕は立ち、二乃は座っているので必然的に二乃は上目遣いとなり、怖さが全然ない。むしろその吊り上がった目に愛嬌を感じるぞ。

 

『白羽さーん、白羽雪斗さーん、診察室Aにお越しください』

 

 おっともうそんな時間か。

 

「じゃあ呼ばれたから行くねー」

 

 そう言って背中を向けて診療室に向かう。

 

 

 

 

 特に何事もなく予防注射も終わり、診療室を出ると何やら表が騒がしい。

 

「どうしたの? こんなに騒いで、迷惑になっちゃうよ?」

 

「! おい白羽! お前は予防接種のついでにお見舞いに来たのか!!」

 

 そんな大声出さんでもはっきり聞こえとるわ。耳遠くねえよ。

 

「なわけ。きちんとお見舞い品を持って行っただろ。むしろ予防接種がついでだわ」

 

 あほらし。お見舞いがついでだったらメロンなんて持ってかねえわ。自分で食うわ。

 

「こいつらなんて、見舞いがついでだったんだぞ!」

 

 へー。そうなんだー。

 

「違います! 病院に来てから思い出したなんて、そんなことは無いです!」

「四葉バレバレ」

 

 四葉はやっぱり嘘下手だな。

 

「君が裏切り者だ!!!」

 

 !! びっくりしたー。急に驚かさないでくれよ。顔には出てないと思うが、今心臓バクバクしてるからな。高血圧でぶっ倒れたらどうしてくれるんだ。

 

「ほら! 病人は静かにしてる!」

 

「え? いや、ちょ……」

 

 乱入してきた研修生みたいな人は上杉の背中を押してフェードアウトした。

 

「嵐みたいな人だな。ところで五月は?」

 

 先ほどまでいた五月がいないんだが。

 

「あ! あの子逃げたわよ!」

「探さないとね~」

 

「僕は上杉の所に行ってるね~。見つけたら連絡するね」

 

 再び上杉の病室へ向かう。

 

 

 

 

 

 上杉の病室に着き、何の断りもなく入る。

 

「おい、とうとうノックさえしなくなったか」

 

 上杉はベッドに寝転んだまま顔だけこちらに向けた。

 

「別にいいじゃん。こうして来てあげたんだから」

 

 今日は歩き回って疲れてるんだ。許せ。

 

「へいへい。………ところであの人どこかで見覚えがあるんだよな」

 

「あの人って誰? 名前は?」

 

 誰? 名前言ってよ。医療従事者なんだから名札付けてたでしょ。

 

「知らね」

 

 使えねー! 名前くらいは確認するだろ。

 

「あっそ。じゃあ僕にも分からん」

 

「だよな」

 

 上杉はそれっきり目を閉じて沈黙した。

 

 寝るのかな? 折角五月が来てくれたのに。

 

 五月は足音を殺して入って来た。

 

「…………!! なんであの時の事を…」

 

 上杉はそう言って体を勢いよく起こした。

 

 静かになったり、急に起き上がるし、忙しないな。

 

「あっ、…………なんだ五月か。驚かすなよ」

 

 上杉は五月に、誰かの姿を重ねたのだろうか? そうじゃなきゃ”なんだ”なんて言わないよな。他の姉妹とかだったら”お前か”とか”誰だよ”とか言いそう。

 

「! それはこちらの台詞です」

 

 五月はびっくりしたからか、顔が赤く見える。夕焼けのせい? 奇妙体験した時の太陽は黄金色だったが、今は真っ赤に燃え、もうすぐ地平線に沈もうとしている。

 

「四葉たちが探してたよ? 行かなくていいの?」

 

「はは…………何のことでしょう」

 

 五月白くなってるし。そんなに注射が嫌いなのか。

 

「ん゛ん゛…………それよりもお尋ねしたいことがあってここに来ました。教えてください。上杉君がそこまで勉強する理由を」

 

 五月は咳払いをし、厳かな雰囲気を出してきた。

 

「そして、白羽君には、貴方の家族の事を」

 

 ! ついに話す時が来てしまったのか………。だがすぐには諦めんぞ! 早く駆けつけてきてくれ! 他の姉妹たち!

 

 『メールを送信しました』の表示が出ているスマホの画面を握りしめた。

 

 

 静寂が部屋を包む中、五月は上杉と僕を見つめてきた。

 

「………話さない限り、見つめてくるってこと?」

 

「そうです。それと見つめてはいません。睨んでます」

 

 五月はそう言うが、口から洩れる「むむっ」の声が、睨みとは思わせてくれない。

 

「そうか、なら俺はお前が諦めるまで睨み続けてやろうか」

 

「! いいでしょう.どちらが先に音を上げるか勝負といこうではありませんか」

 

 ”勝負”? この五月は妖じゃないよね? そんな心配をする僕をよそに互いに睨み始める二人。

 

「お若いね~」

「アツアツだね~」

 

 ちょうど通りかかった看護師が冷やかしてきた。

 

 声が聞こえた瞬間二人は、残像が出そうなほどの速さで顔を逸らした。そんなに速く動かして頸逝かれない?

 

「教えてくれるまで離れませんから」

 

「勘弁してくれ……………………はぁ、あれは五年前の事だ」

 

 上杉は五月に根負けして、重い口を開き始めた。勉強に打ち込み始めたきっかけとなる出来事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上杉の話を要約するとこんな感じ。

 

 

 小学校の修学旅行の自由行動の時、思うことがあってあえて独りになり、黄昏つつ辺りの写真を撮っていると、盗撮犯と間違えられてしまった、しかし撮った写真を見られたくなかったため、カメラを渡すのを躊躇ってたら知らない女の子が無実を証言してくれた直後、将棋星人が攻めてきて地球は爆発したとかしなかったとか。

 

「……………こうして、俺の修学旅行は終わった」

 

「なんですかそれ! 最後地球は結局どうなったんですか!? 気になります!」

 

 僕も少しだが気になる。

 

「最後誤魔化しすぎだろ」

 

 なんで将棋? 将棋星人地球大好きすぎじゃないか? 好きが高じて侵略するとか、ヤンデレもびっくりだ。

 

「話すとは一言も言ってない。元々話したくなかったしな。それでも言うことを聞いたのはこの前のお礼だ。…………だが、5年前の京都であの少女と出会ったことで俺は救われた。だから俺は勉強するんだ」

 

 へー。将棋星人以外の話は真実か。カメラを渡したくなかったのは気になる子でも撮ってたのかな?

 

「とにかく、今のあなたと昔のあなたが大きく違うことは分かりました。その子との出会いがあなたを変えたんですね」

 

 人との出会いが大切なんだな。一期一会を大事にしないと。

 

「……………私も、変われるでしょうか………もし出来るなら、変わる手助けをして欲しいです。あなたたちは、私たちに必要です」

 

 ホォー。五月からそんな言葉が出るとは思わんだ。その言葉が出る時点で少しずつ変わって来てると思うけどね。

 

「……俺たちに教わってどうにかなるのか? 平均29.6点」

 

 平均が赤点なんだよなー。

 

「うっ………どうにかします! 昔持っていたお守りを引っ張り出してきました!」

 

 細長い筒みたいなお守りを見せてきた。少し汚れているが、大事にされていたのが分かる。効果があるかは知らないけど。

 

「神頼みかー」

 

 そこは努力じゃないんだと呆れていると、上杉が体を起こして五月の持つお守りを指差す。

 

「…………それって何処で買ったんだ? 俺の記憶だと出会った少女は同じお守りを沢山買ってたんだが……」

 

「これですか? 買ったのか貰ったのかは記憶が曖昧ですが……………京都で5年前に」

 

 じゃあ出会ってるな。誰に出会ったかは分からないが、確実に五人のうちの誰かには出会ってる。同じお守りを沢山買う人なんてそうそういない。しかも小学生の時でしょ。お小遣いが限られてるのに沢山買う意図が分からない。それこそ家族のため以外には。クラスへのお土産だったらお守りなんて買わないしね。

 

「ってことは、俺たちは出会ってるかもしれないな」

 

「偶然に決まってます! そんな事よりも白羽君の番です!」

 

 偶然の一言で終わらせようとするなよ。もっと上杉の話で盛り上がろうぜ。そして僕の話なんて忘れてくれ。

 

「確かに。俺も気になってはいたんだよな」

 

 二人して僕に顔を向けてきた。そこまでして知りたい事だろうか。

 

「…………あまり話したくないんだよね。別に隠していたい訳ではないんだけど。こう、なんていうか、話しずらいから。気まずくなりそうだし。……あ! 二乃なら知ってたはず。だから二乃に訊いてみれば? 僕が良いよって言ってたって伝えれば教えてくれると思うけど」

 

 気まずくなってしまうなら、僕の知らないところで気まずくなってほしい。

 

「大丈夫です!」

「ああ俺もだ」

 

 あっそう。ここまでして話したくないオーラ出してるのに、追及しちゃうのね。嫌いじゃないよその姿勢。今出されても困るけど。

 

 ………しょうがない。

 

「僕に家族は居ない」

 

「え?」

「は?」

 

 二人して口をポカーンと開ける。閉めてあげよっか?

 

「五月が僕の親に会いたいって言った時、居ないって言ったでしょ? あれは家に居ないという訳ではなくて、この世に居ないという訳だったのさ。祖父母も、両親も、兄弟も、姉妹もいない。究極の一人っ子。それが僕」

 

 はい気まずくなる~。

 

「気にしないでね。僕は別に寂しくなんてないから「あ、五月! ここにいたんだー!」……」

 

 助かったのか? ギリギリアウトな気がしないでもないが。

 

「ユキト君、遅れてごめんねー。遠いところまで探しに行ってて遅れちゃった」

 

 一花は両手を合わせて謝って来た。

 

 大丈夫ではないけれども、気まずい空気がほんの少しで終わったのだから良しとしよう。

 

「五人揃ったから今度こそ行くよ。看護師さんに迷惑が掛かっちゃう。というか今も掛けてる。予約の時間に大幅に遅れてる」

 

 三玖は二乃を見て言うと、二乃は悔しそうに口を歪めた後口を開いた。

 

「五月! アタシは覚悟を決めたわ! どうせ打たれるなら、あんたも道連れよ!」

 

 二乃はそう言って四葉にされたように五月を羽交い絞めして引きずって行った。

 

「い、嫌ですぅぅぅぅ! 白羽君! 貴方は一人じゃないですからねー!」

 

 遠ざかって小さくなっていく声でも、女子特有の甲高い声は真っすぐに僕の耳朶を揺らした。

 

「……寂しくなったらいつでも遊びに来いよ。歓迎するぜ」

 

 上杉は珍しく僕に気を遣ってきた。

 

「そうだな………たまになら遊びに行くよ。またお土産を持って」

 

 何を持って行こうかね。出来るだけらいはちゃんが喜ぶようなものを見繕っておかないと。

 

 穏やかな空気が流れる中、夕日は完全に沈み、夜の幕が下がり始めた。

 

 

 




 私は中学卒業までは毎年インフルに罹っていたのですが、高校生になったら風邪も引かなくなり、健康体へと進化しました。そのおかげで高校では皆勤賞を取ることが出来ました。
 うれぴー。

 念のための説明ですが、肝試しの時、上杉が二乃を探しに行った理由としては雪斗の鳩が連絡をしたからです。

 雪斗が持っていた空の瓶は栄養剤が入っていました。また、液体の瓶は唯のオロナミンCでした。

 折角の病院なのでちょっとしたホラー? を書いてみました。

 前書きに書いた背中がぞくぞくするような~の部分はホラーの意味はないです。


 寄りてこそ それかとも見めたそかれに ほのぼの見つる花の夕顔

 の意味は、近くに寄って見なければ、誰かとはわかりませんよ。黄昏時にぼんやりと見たのだから。美しい花の夕顔を

 と言う意味です。こちらは雪斗の事を指しております。

 誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ

 の意味は、私のことを問わないでください。 九月の雨に濡れつつ、あなたを待っている私なのです。

 と言う意味です。こちらは妖の事を指しています。
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