五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第40話 高校生探偵とその助手が暴く真実

 今日は家庭教師の日でエントランスから中野姉妹の家までの間に上杉かららいはちゃんの話を聞いていた。この前のメロンのお礼がしたいらしい。別にいいのに。

 

 そして中野姉妹の家に着きインターホンを鳴らし上杉と共に入る。リビングへの廊下を歩いているとバスタオル姿の中野姉妹の誰かに出くわした。

 

「またかよ」

「………ごめん」

 

 上杉のその反応はどうかと思うぞ。

 

「変態!」

 

 と罵倒されながら、投げてきた紙袋を難なくキャッチしスタコラサッサとまた外に出る。

 

「ピンポン押しただろ」

「それな…………! おい、これ見てみ?」

 

 壁に立てかけた紙袋が倒れて全教科0点のテストが出てきた。しかも名前が破られている状態で。ほほう。喧嘩売って来てんな。言い値で買おうじゃないか。いくらだ? あん?

 

「………あいつら「お待たせしました! 中に入ってください!」」

 

 上杉が何か言う前に四葉が出てきて中に入れてくれた。リビングに着くと勢ぞろいした姉妹たちがいる。

 

「お前たち同じ髪型にしてくれ」

 

 リビングに着くやいなやそう告げる上杉。少ししてみんながポニーテールの髪型にする。

 

 上杉は五つ子たちを全員視界に収められるように少し離れた位置から観察し始めた。

 

「急にどうしたの?」

「同じ髪型にしろって」

「今日は家庭教師の日じゃなかったの?」

 

「珍しいな。二乃が協力的なんて」

 

 上杉はそう言って三玖の方に話しかけた。

 

「上杉、そいつは三玖だぞ。二乃はこっち。なっ二乃?」

 

「まったくよ。いい加減区別できるようにしなさい」

 

 それはまだ厳しいんじゃないの?

 

 そして上杉が目を光らせて口を開く。

 

「左から順に一花! 二乃! 四葉! 三玖! 五月!」

 

「じゃあ僕も当てる………左から順に二乃、三玖、五月、四葉、一花だね。服は変わってないんだからどうして間違えるんだ? 四葉なんて服に428って書いてあるじゃん。ちゃんと見なよ。”ウォー〇ーを探せ”より簡単でしょ? 一緒に眼科行くか?」

 

 髪の長さも違うのに。わざと間違えてるのか?

 

「ユキト正解」

 

「髪を見ればわかるでしょ!」

 

 それな。

 

「………と、まあ俺にはヒントがなければ何もわからん。最近のアイドルのように」

 

「それは興味ないからでしょ」

 

 僕もアイドルはよくわからないけどね。そもそも芸能界に興味ないし。俳優は楽しかったけどね。

 

「バスタオル姿で分からなかったがこの中に犯人がいる。ご丁寧なことに名前を破ってな」

 

 上杉はテーブルに先ほどのテスト用紙を置き犯人探しを始めた。

 

「僕がショックなのは数学の因数分解の解答を間違えてること。因数分解はサービス問題の様なものじゃないか。もったいないぞ。しかもこれ選択問題じゃないか。最悪全部展開すれば答え分かったろうに」

 

 枕元にもったいないオバケが出てくるぞ。

 

「さて、私が犯人だよって人ー! 今名乗り出たら許してあげなくもない事を検討しなくもない」

 

『…………』

 

 沈黙が部屋を包んだ。シーーンっていう文字が見えそう。ツッコんでほしかったな。

 

「四葉自首しなさい。自首をすると罰が軽くなるよ」

 

 容疑者最有力候補の四葉の肩に手を置いて言う。

 

「当然かのように疑われてる!」

 

 当たり前だろ。なんなら全員疑ってるけどな。一人が全教科0点なんて思えない。みんながそれぞれ0点取ったほうが信用できる……残念なことにな。

 

「それでこの髪だったんだ」

 

「顔さえ見分けられるようになれば、今回の件で誰だかすぐにわかったんだがな。…………ところでお前らはどうして見分けられるんだ? ついでに白羽も」

 

 上杉は二乃と三玖に問いかけた。ついでに僕にも。ついでって何だ。ついでって……。そもそも僕が今回分からなかったのは一瞬しか見ていなかったからだ! じっくり見れれば分かったわ! でももしそうしてたらごみを見るような目で見られたろうけど……。

 

「は?」

「なんでって……」

 

「「こんな薄い(うるさい)三玖(二乃)しかいない」」

 

 互いの顔に指さし言い合う二人。

 

「薄いって何?」

「うるさいこそ何よ!」

 

「それで白羽は?」

 

 上杉は言い争う二乃と三玖を横目に訊いてきた。

 

「雰囲気? オーラ? 声? 髪色? がみんな少しずつ違うんだよね。決定的な違いは意識の波長だね。これに関して説明すると、三玖だと乱れが少なくて、四葉が乱れが激しい。そんな感じ。まぁ、注視しなきゃわからないんだけど」

 

 もし本気で一花や三玖が他の姉妹に変装した場合、僕にはたして見分けがつくか……。

 

「お前に訊いた俺が馬鹿だったわ」

 

 聞いてきたくせになんなん? 

 

 頭を抱えた上杉に四葉が話しかけた。

 

「そんな上杉さんに良いこと教えてあげます! 愛さえあれば見分けられるんですよ! そうお母さんは言ってました! ………白羽さんはちょっと違うと思いますが………」

 

 ……たしかに。だが、僕にだって愛はあると思うぞ。……友愛だけど。でも一応愛だから良いよね?

 

「道理で分からないはずだ。……しかし何度見ても顔は同じ。…………ん? シャンプーの香りがするな」

 

 そう言って上杉は、髪型を元に戻そうとしていた二乃に顔を近づけた。

 

「なんかキモ……」

 

「これだ! お前たちに頼みがある! 俺を変態だと罵ってくれ!」

 

 二乃の言葉に上杉は何か閃いた様子。

 

「あんた……手の施しようのない変態だわ」

 

 二乃はブリザードのような冷たい目を送った。

 

「違う。そういう心にくるような言い方じゃなくて」

 

「上杉、お前そこまで追い詰められていたのか。友達なのに気づけなくてごめんな。それと取り敢えず病院行こうか。頭の病院。特に心療内科と精神科な。はしごしてこような」

 

 お金は出すから治してもらおうな。 

 

「生温かい目と微笑みを止めろ! 俺は正常だわ!」

 

 正常にも関わらず、そんなことを口走ったのか? それ酔っ払いが酔ってないって言ってるようなもんだぞ。

 

「フータロー、ほくろで見分けることもできるよ」

 

「「お手軽ぅ!」」

 

「どこにあるん?」

 

 場所さえ覚えてしまえば次からは楽だな。少なくとも三玖に関しては。

 

「え? えーっと……ユキトだったら見してもいいよ」

 

 三玖はそう言って羽織っていた薄着に手をかけ始めた。

 

「ダメです! そもそも犯人のほくろを見ていないと意味がないでしょう」

 

 五月が三玖を庇いながら説明する。

 

「………でもフータロー君、もしかしたらこの中にいないかもしれないよ」

 

「どういうことだ?」

 

 ?を浮かべる上杉に続けて言う一花。

 

「私たちには隠された六人目の姉妹、六海がいるんだよ」

 

 一花は真剣な顔持ちで告げる。

 

「なんだってー! 六海は今どこに………」

 

『呼びましたー?』

 

 呼ばれて飛び出て私参上! とバカ丸出しで出てきたのはいつぞやの子。

 

『上杉さん! 初めまして! 私は六海と言います! これからはよろしくお願いします!』

 

 四葉のような元気さでかつ五月も思わせる敬語。四葉と五月を足して二で割ったみたいな中野姉妹にそっくりな白髪の子。ちなみに髪は一花のようなショートヘアでイルカのヘアピンをつけている。

 

「ホントにいましたー! 私は四葉です!」

 

 快活な挨拶をする四葉。

 

『あれ? 四葉ねぇには一度旅館で会いましたよ! もしかして忘れちゃったんですか?』

 

 ウルウルと涙を溜め始める六海に四葉が冗談です! と慰める。

 

「あ! やっぱり私には妹がいたんですよ! 六海! 私の名前を呼んでみてください!」

 

 五月が目をキラキラさせながらやって来た。

 

『えーーと、五月ねぇ?』

 

 五月は小首をかしげながら言う六海にキュンキュンする。

 

「はぁーーー! いいですね!」

 

 あとで一緒にお昼寝しましょう! とハイテンションとなっている五月に一花が割り込む。

 

「いやここは長女である私の部屋に来るよね!」

「………汚い部屋で寝る必要はない。私と寝るべき」

「アンタたちそいつが誰だか分かって言ってるの?」

 

 一人冷静な二乃がツッコむ。

 

「………もうわからん! この紙には先ほどの0点の問題を集めた問題集だ。これが解けなかった奴が犯人だ」

 

 カオス状態となっていたリビングに上杉の声が響き、場が落ち着く。

 

「そんな無茶な!」

「私分からない自信があります!」

 

 そんな自信なんて持つんじゃねえ。

 

「一番最後の奴を犯人に断定します。では始め!」

 

 上杉は文句を言い始める姉妹たちにとどめを刺した。

 

「いい判断だ。上杉。筆跡ならたくさん見てきたもんな。顔が分からないなら筆跡を見ればいいじゃないってか」

 

「マリーアントワネットの言葉を改悪すんな」

 

 上杉はしれっと変装を解き隣に座った雪斗に言う。

 

「ちなみに犯人は分かったか?」

 

「もちろん! 何なら入ってすぐわかったよ」

 

 IQ200の灰色の脳細胞が唸ってますから。

 

「何! 誰だ!?」

 

「それは小テストの後な。上杉も分かるように説明するし、きっと筆跡見れば上杉にも分かるさ」

 

「………そうか」

 

 上杉って自分で見破ろうとする努力をするんだよね。僕だったらすぐ人に聞いちゃうね。

 

「………できたー! 私一番だね!」

 

(あの短時間で髪を乾かすことが出来るのは私だけ。四葉もできるかもだけど………ただ服を着る余裕がもう少しほしかったな。………気になるのはユキト君なんだけど、さすがに分からなかったかな?)

 

 一花はニコニコしながら上杉に小テストを渡す。

 

「お前が犯人か………一人だけ筆記体で英語を書くことは覚えていた」

 

「え? ………そんな、やられちゃったよ。ちなみにユキト君は分かってたの?」

 

「うん。考えを纏めるのに時間かかったけどね。………わかりやすく説明しよう」

 

 ゴホンと咳ばらいをし説明を始める。

 

『理由は二つある。一つ目は四葉に連れられてリビングに入った時に姉妹たちの髪の毛はみんな乾いていたこと。一花と四葉以外はみんな髪の毛が長いからあの短時間で乾かすことは不可能。よって犯人は一花か四葉となる。そして最後に四葉自身が迎えに来た時だ。四葉は嘘がつけないことはみんな知っている。つまりバスタオル姿という限りなく裸に近い姿を見られたにもかかわらず、顔を赤くさせないで僕たちと接することはできないんだよ。前に四葉が上杉に嘘告をした時に顔がしばらく赤かったのを確かめたからね。すぐに顔の赤みを消すことが出来るのは女優で表情を操ることが出来る人物。そう犯人はあなただ!』(工藤新〇ボイス)

 

 ビシッと一花に指をさす。真実はいつも一つ!

 

「………最初っから分かってたのね」

「なるほどな」

 

 悔しそうな顔をする一花に近づき小声で話す。

 

「本当は違うんだけどね」

 

「えっ?」

 

「だってみんな薄着なのに一人だけ暑そうな毛糸のセーターを着てるんだもん。髪は乾かしたものの時間が無くて、取り敢えず全身が隠れて透けないセーターにしようって思惑だよね。まぁ部屋が汚いから目についたものを取って来ただけっていうこともあるかもだけど…………ちゃんと服を着なきゃダメだぞ。ズボンも履こうな♪」

 

(うぅ………恥ずかしい。考えていたこと全部お見通しだったのね。………まって、ていうことはユキト君は私が今下着以外つけていないことがわかったの!? ………もう顔を見れないよ)

 

 耳まで顔を真っ赤にする一花にとどめを刺す。

 

「ヌルフフフフ……下着に毛糸のセーターとは何とも男心をくすぐるアブナイワードですねぇ。先生興奮してきました」(ころせんせ〇ボイス)

 

 どこからともなく取り出した黄色い触手を口元に持ってきてヌルフフフフと笑う雪斗。

 

 とうとう一花はプシューと空気が抜けた風船みたいな音を出して気を失ってしまった。………起きるまで待つか。

 

「………一花に何をしたの?」

 

「とどめを刺しただけ。まあすぐに気がつくさ」

 

 三玖の疑問をサラッと流し一花に膝枕をしていると、一花以外のみんながテストが終わったみたいで上杉に提出している。

 

「………みんな犯人と同じ筆跡をしている。………お前ら……一人ずつ0点の犯人じゃねえか!!」

 

 やっぱりそうだったのか……残念だ。姉妹に対する僕の好感度が下がったぞ。

 

「バレた」

 

「すまん上杉。お前が入院してた時にもやったんだが僕一人じゃダメだったわ。分身が出来たらなって思ったよ」

 

 愕然とする上杉に謝る。

 

「はぁ、……ちなみに、この中で昔俺に出会ったことがあるよーって人、いるか?」

 

「何よ急に」

「どういうこと?」

 

 …………少なくとも聞き返した二乃と三玖は外れだな。五月も同様。すると残りの一花と四葉が怪しい。今度聞いてみるか。ここで手を上げないということは訳アリなんだろう。

 

「……まっ、そんな都合の良いことなんてないか。何よりあの子がお前たちのように馬鹿なはずがない」

 

 ……! ”馬鹿”が上杉から発せられた瞬間、不自然に四葉の意識の波長が乱れた。これは確定だな。

 

「馬鹿とは何ですか!?」

 

「間違ってないだろ五月。それよりもよくも0点のテストを隠していたな。復習が終わるまでは眠れないと思え」

 

 そう言って上杉は三玖の肩を叩いた。

 

「もしかしてわざと間違えてる?」

 

 頬を膨らませる三玖。

 

「…………」

 

「フータローなんてもう知らない」

「わ、悪い!」

「まずは上杉さんが勉強しないといけませんね!」

 

 

(こいつらを見分けるのは今は諦めよう)

 

 

 期末試験の日が徐々に迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 その後の一花。

 

 なんだか頭の部分が柔らかいけど固いようなものに包まれているような…………私は何をしていたんだっけ? …………! そうだ! あまりの恥ずかしさで気絶しちゃったんだ。あちゃ~やらかしちゃったかな。とりあえず起きよう。

 

 目を開けてみると目の前には憧れの人の顔があった。しかも頭を撫でてくれている。

 

「あ、起きた。良く眠れた?」

 

「…………う、うん」

 

 つい飛び起き、後頭部の温かさが失われていくのを感じるが、胸のセンサーが大きく響き渡り、顔が、体が熱くなるのを感じる。

 

「じゃあ、僕は帰るね」

 

 一花はバイバイと手を振りながら玄関に向かう雪斗を見つめる。

 

「………うん、また来てね」

 

 小さく手を振り見送る一花に三玖が話しかける。

 

「………良かったね」

 

 三玖は羨まし気な表情をする。

 

「ふふふ、三玖もしてもらいなよ。気持ちいいよ。じゃあ私は部屋に戻るね」

 

 またしてもらいたいなと思いながら無意識に撫でられていたところを触ってしまうのは乙女ゆえか。多幸感に身を包まれるのを感じながら部屋に戻る一花であった。

 




 今回の話を書くために漫画に目を通していました。そこで不思議に思ったシーンがありまして、全教科0点といって上杉がテーブルに解答用紙を置くシーンがあるんですが、そのシーンでは解答欄は全部空白なんですよね。しかし、上杉が手に取って筆跡を確認するシーンでは、解答が書かれているという不思議。

 下着にセーターって普通? 部屋着だとしたら普通だろうけど他の人が居たらしないよね……。

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