五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 デートのシーンを書くのは難しいですね。このデート回を書くために他の人の作品を参考にしたかったんですが、これだ! と思えるような作品には出会うことが出来ず、オリジナルとなりました。難産でした。私頑張った超頑張った。
 だというのに弟からはダメ出しされました。具体的には文の始めはヒトマス空ける、要らない所に読点打たない、カッコの最後に句点要らない、一文一文に意味を詰め込みすぎ、口調を統一しろ、読み手がストレスを感じないように書け、文書構成と文書構造がおかしい、要らない所に空行入れるな、主人公の行動が急に飛びすぎ、てにをはがおかしい、言葉選びがおかしい、文脈おかしい、~した、~ったの過去形連発しすぎ実験論文の手順かよ。訂正するのが面倒くさくなってきたエトセトラエトセトラ。最後はグチグチ言われました。初期と比べて成長したと思っていたのは勘違いだったようです。


第41話 勤労感謝の日 その①

 

 カタカタとスマホの文字入力特有の音が軽快に流れているのは一花と三玖の部屋。

 

『明日休日だから一緒にどこか行かない?』

 

「あれ? なんかこれデートっぽいかも」

「よしデートっぽい」

 

「ユキト君は二人きりじゃないほうがいいかな………」

「二人きりでデート」

 

「送ってもいいよね」

「だって明日は……」

 

「「勤労感謝の日だもん」」

 

 紙飛行機のマークを押し、『送信されました』が表示される。

 

「「送っちゃった!」」

 

 バタバタと部屋を騒がしくする二人。雪斗をデートに誘ったことに対して悶えたことを表すその音は、夕食をとっている四葉の耳に届いた。

 

「急にどうしたんだろう? 楽しい事でもあったのかな?」

 

 そんな四葉の言葉を肯定するかのように、うさちゃんリボンが左右に揺れた。

 

11月22日 21:00

 

 洗濯物干した。皿洗いした。掃除機かけた。鳩たちに餌をあげた。………よし。寝る準備オッケー。

 

 一人リビングで指さし確認を行った僕は、自室のベッドに向かう。

 

 薄暗い部屋の中、程良く反発するベッドに腰掛け、スマホ画面を表示する。何か連絡とかは来てないかなーっと………一花と三玖から来てるな…………二人とも同じ内容だな。どうしようか。………電話しよ。

 

 電話帳から電話をかける人を選び、スマホを耳に当てる。

 

 プッ、ガチャ

 

 出るの早くね? プしか言ってなかったよ。

 

「あもしもし? 僕僕ー、ちょっと車事故っちゃってさ~修理代のお金が30万ほど欲しいんだけど~貸してくんね? ねっ! いいでしょ? 僕たち友達じゃん? 助け合わないとだめだと思うんだよね~…………っちょ、冗談だからお金の準備はしなくていいから。オレオレ詐欺の真似しただけだから。………それで明日の事なんだけどさ…………」

 

 

 

 

「…………うんじゃあそういうことで……ごめんね」

 

 次!

 

 プルプッ、ガチャ

 

 いやだから出るの早くね? すぐに電話に出なきゃ死ぬの? 死んじゃう病気なの?

 

「あもしもしー? 私通販の者ですけれども、ただいま“料理下手でもプロ並みに作れる料理セット!”というものを取り扱っておりましてなんとお値段39,800円で販売しておりますー…………はい、はい分かりました。ではご住所をお伺いしてもよろしいですか? ○○の△△△ですね! かしこまりましたーって警察署の住所じゃねぇか! 届けに行った矢先にそのまま牢屋じゃないか! …………ナイスツッコミだぞ! 引っかからなくて安心したよ。………それで明日の事なんだけどさ…………」

 

 

 

 

「…………うんじゃあまた明日。楽しみにしてるよ」

 

 

 

 

 翌日 勤労感謝の日

 

 僕は待ち合わせには30分前には到着し、辺りを散策して時間を潰す派。あなたは何派?

 

「うしっ、到着っと」

 

 時刻はただいま朝の7:30になったところ。

 

 『今日は気持ちの良い秋晴れに恵まれました、しかし所により曇りとなるでしょう。今日の降水確率は……』

 

 自販機で買った缶コーヒーに舌鼓を打ちつつ、朝のニュースで言っていたことを思い返しながら集合場所の図書館の外周を歩く。

 

 秋を迎えた木々は、葉を黄色や赤色で埋め尽くす。それをぼんやり眺めながら図書館を一周すると、入り口付近には珍しくヘッドホンを外した三玖が立っていた。まだ集合時間の10分前なのに……。

 

 葉々が風の悪戯によって舞い散り、三玖へと落ちていくその様子は、言葉として紡ぐには表せない美しさがあった。

 一枚の赤が水たまりにふわりと落ち、それは沈むことなく落葉舟となって水たまりに浮かんだ。その水面に映る天上の彩が、その風景をより美しくさせる。そして三玖の羽織る朽葉色の上着と、鮮やかな瑠璃色の瞳がとてもよく映えている。

 

 彼女の足元に赤と黄色の葉が重なることで、紅葉筵を作られていく。その中に佇み、一人舞い散る紅葉を眺める三玖の姿に、僕は思うことがあった。

 

 悪戯しよ~って。

 

『あれ? 三玖? こんなところで何してるの?』(一花ボイス)

 

 後ろからそっと近づき両手で三玖の目を覆う。

 

「え? 一花? どうして………」

 

 狼狽え始まる三玖に今度は上杉の声を出す。

 

『感心したぞ三玖! 休みの日でも勉強しようとするとは!』(上杉ボイス)

 

「フ、フータローまで」

 

「なんちって」

 

 両手を外し三玖の前に顔を出す。

 

「ユ、ユキト! ……騙したんだね。切腹」

 

 ポカポカと殴ってくるが痛くもなんともない。こんな他愛もないやり取りを、僕だけでなく三玖も楽しく感じているのだろう。

 

「切腹したら、今日は遊べなくなるぞ? いいの?」

 

 ニヤニヤしながら三玖に訊くと、

 

「私を楽しませてくれたら切腹は免除してあげる」

 

「自信ないかなー、僕はこういうのは初めてなんだよね」

 

 微笑みながらそう返す三玖に素直に言う僕。

 

「なら一緒に楽しむ」

 

 三玖は頬を膨らませていた表情から一転し、口元に弧を描く。

 

「そうだね! じゃあ行こうか」

「うん、いざ出陣」

 

 朝食は互いに食べてきたので、昨日の電話で三玖が決めた動物園に向かうとする。………朝から動物園って色々と大変じゃないかね。

 

 すぐそこにあるバス停まで向かい時間を確認すると、既にバスの予定時刻を1分程過ぎている。

 

「もう行っちゃったのかな?」

 

 三玖はバスの時刻表とスマホの時計を交互に確認し、乗り遅れてしまったと落胆する。

 

「いやもうすぐ来るんじゃないか? バスは予定時刻より少し遅れてくるらしい。道路交通状況や気候などに左右されるし、何より乗客がお金の準備をしていなかったり、乗り降りの遅い高齢者だったり、IC残高が不足していたりして、遅れるんだって」

 

 こんな客ばかりで定刻通りに来れるわけないやろ。定刻で行ったら行ったでいつもは遅れてくるのにと不条理を言ってくる人もいるしな。

 そんなバス運転手の心の叫びをキャッチしました。運転手さん、いつもありがとうございます。ストレスで胃に穴が開かないことを祈っております。

 

 そんなことを話していると早速バスがやって来た。

 

 バスに乗り込むと、休日とはいえ朝早いからか、バスの中には数人の乗客しかいなかった。

 

 後部座席に向かう。

 

「僕乗り物酔いしやすいから窓際の方に座っていい?」

 

 いわゆる匂い酔いってやつなんだけどね。

 

「大丈夫だよ」

 

 やったー。これ幸いと窓際の席に腰かける。

 

『次は~~、~~、〇〇病院をご利用のお客様は次の~~でお降りになったほうが便利です。お降りの際はお手元の降車ボタンをお押しください』

 

 体が後ろに引っ張られる感覚がした後、ゆるりとバスは出発した。

 

 窓の縁に肘をついて頬をつき、次々と後ろに流れていく街路樹や人々を車窓から眺め、車窓に反射して映るつり革が、バスの揺れによって踊っているのをぼんやりと俯瞰する。今日も平和だな~と感じていると、三玖が横腹を突ついてきた。

 

「何か話そうよ」

 

 そう話しかけてきた三玖から、どことなく焦っているような雰囲気を感じる。

 

「そうだね~、何話そうか」

 

 腕を組んで思案していると、もうすぐ期末テストが来ることを思い出した。だがしかし、今は休日でお出かけなのだから期末の事を口に出すのは憚れるよな。戦国武将の豆知識でも話そうか。

 

「じゃあ戦国武将の豆知識でも話そうかな。将棋に関することなんだけど、一説によると「王将」という駒を作ったのは、とある有名な戦国武将らしいよ。将棋の駒には「王将」と「玉将」の2種類あるけど、将棋が誕生したばかりの頃には「玉将」しかなく、対戦中は双方とも「玉将」で将棋を指していたんだって。けれど、豊臣秀吉は戦いで争うべきは「玉=宝石」ではなく、一番偉い「王様」なのではないかと考えて、しかも「王は一人でいい」と対戦の一方の駒だけを「王将」に変更したと言われているんだって」

 

 もしかしたら豊臣秀吉は将棋を戦争の略図として扱ってたのかもしれない。豊臣秀吉は敵側の人間を味方にして戦争を進めていたんじゃないかね。将棋は相手の駒を取ったら自身の駒として使うことが出来るからね。相手の駒を使えるか使えないかがチェスとの大きな違いだしね。

 

 戦国時代にチェスがあったのかどうかは知らんが。

 

「そうだったんだね。将棋にも戦国武将が関わってるなんて、流石戦国の人間。考えることが違う」

 

 今日の三玖はよく喋るな。いつもは喋る前に少し間があるのに今日は全然ないぞ。調子いいんだな。

 

「次は私の番ね。上杉謙信が死んだ場所ってトイレだったんだって。上杉謙信の最大の敵は自身の高血圧らしいよ」

 

 えっまじで? 上杉謙信トイレで死んだの!? うわ~、死に場所は選べないっていうけど、それはキツイな。武士なんだから戦死したかったんじゃなかろうか。なのに力んでそのままぽっくり逝ってしまったとは可哀想に。そしてその話が今の世まで伝わっていることが一番可哀想。天国で泣いてそうだな。僕だったら泣くわ。天国で引き篭もってるわ。そしてそれを伝えた人間を全身全霊魂の限り呪ってるわ。

 

 そんな感じで交互に豆知識を話し合っていると、間もなく到着するとのアナウンスが流れた。一旦話すのを止めて降車ボタンを押し、財布を取り出してICカードの準備をしておく。

 

 スピードが落ちたことを感じさせない運転手の技量に舌を巻きつつ、停車したので清算するために立ち上がる。いつの間にか乗客が増え、少し歩きずらい通路を人の間を縫って歩く。

 

 バスに乗ってから40分ぐらいで動物園に着いた。思いの外近いんだな。

 

「ふぅ、やっと着いたね」

 

 無事清算を終えバスを見送った後、動物園の入場ゲート前の広い駐車場のど真ん中、僕たちは朝の陽差しが差し込む中一息ついた。

 

「そうだね………早く入ろう」

 

 楽しみな気持ちを溢れさせながら、三玖が僕の腕をつかんで入場券売り場まで引っ張っていく。

 

「…………すいません、入場券を二枚下さい」

 

「いらっしゃいませ、大人二名で1,460円です………デートですか?」

 

「……まぁそんなもんですね………お願いします」

 

 手を口に当ててニヤニヤしているおばさんへの返事を濁し、お金を払う。付き合っていない男女二人でのお出かけはデートに入るのだろうか? …………取り敢えず気持ちデートだと思っておこう。気持ちだけなら罰は当たらないだろうし。リア充の気持ちを味わらせてくれ。

 

「………ちょうどですね、ではお楽しみください」

 

 入場券を持ち少し離れたところにある入場ゲートを通り中に入る。

 

「……私が払いたかったのに」

 

(勤労感謝の日だから私が払いたかったな。………それにデートだって! そう思ってたのは私だけじゃないんだ。嬉しい)

 

 おばさんの言葉がまだ三玖の頭に残っているのか、若干顔を赤くしながらもそう言ってきた。

 

「そう? ならお昼ごはんの時に払ってくれる?」

 

 入場券が一人730円だったし昼ごはん代もそれくらいかな。

 

「! そうする。好きなもの頼んで」

 

「……予算オーバーしちゃうかもよ?」

 

「大丈夫、カードがある」

 

 そう言い財布から黒光りのカードを出してきた。

 

 そ、それはお金がなくても使うことが出来る夢のカード!? しかもブラックだと!? 専用のコンシェルジュが付くなどの様々な特典があり、富裕層のみが持つことが出来る幻のカードじゃないか。あの人娘にそんなもの渡していたのか。親馬鹿だな。

 

「…………絶対失くすなよ」

 

 サラッと出してきたその余裕に戦慄を抱きながらも忠告する。マジで失くすなよ。失くしたら僕が殺されそう。人体実験とか称してバラバラにされて内臓売り飛ばされそう。

 

 冷や汗を流しつつ話しながら歩いていると、早速動物が見えてきた。

 

「ここは日本の動物エリアみたいだね」

 

 富士山や日本の建築物などをモチーフとしたデザインがされている。

 

「…………見て見て! あのシカみたいなの寝てるよ」

 

 指さした先には、まるで死んでいるかのように横たわって寝ている動物がいた。

 

「んーっと、あれはエゾシカっていう北海道に生息している動物だね」

 

「へーそうなんだ、よく知ってるね」

 

 三玖は感心したかのように言った。

 

「説明が書かれてたからね」

 

 目の前にある説明書きを指さす。

 

「うっ、気づかなかった」

 

「ほかにも色々な動物、例えばニホンカモシカや二ホンリスなどもいるみたいだけど…………全然見当たらないね」

 

「………うん、やっぱりみんな寝てるのかな?」

 

「フフフ、かもね。…………動物園での楽しみ方の一つとして動物の寝相を見るっていうものがあるんだけどね、例えば草食動物だと基本的にはすぐに立ち上がれる姿勢で寝たりして、すぐに逃げられるような状態で寝るんだけど、動物園には天敵がいないからさ野生を忘れるんだろうね。さっきのエゾシカなんて食ってくださいって言ってるようなもんだよね」

 

「そうだね。次行こ」

 

 クスッと笑いながら肯定してくれた。続いてのエリアはゴリラとトラが住んでいる森。ゴリラとトラの生息地の自然に限りなく近づけた展示がされている。

 

「ここの動物たちはみんな起きてるみたいだね」

 

 柵から身を乗り出し、キョロキョロと見渡し、ゴリラやトラに視線を向ける三玖。

 

「みたいだね…………あそこのトラは寝てるけど……」

 

 目線の先には仰向けになって手足を放り出して腹をさらけ出しているトラがいた。

 

「肉食動物も餌が勝手にやってくるから狩りの仕方とか忘れてんだろうね」

 

「おもしろいね。………あのお腹五月みたい」

 

 もこもこしていてお腹周りが出ているトラの様子を五月に重ねる三玖。

 

「…………あそこまでは出ていないと思うんだけど」

 

「そうかな。二乃は肉まんオバケって言ってるくらいだからそうでもないんじゃない?」

 

 つまめるくらいだし、と呟く。

 

「そんな情報は知りたくなかったかなー」

 

 それを聞いてどうしろと………今度会った時にお腹に目が行ってしまうじゃないか。料理を作ってあげる時はカロリーを気にしてあげたほうがいいのだろうか。

 

「そういえば、三玖たちってなんの動物が好きなの? ちなみに僕は猫。可愛いから」

 

 そう訊けば三玖は思い出すために虚空を見つめ始め、直ぐに口を開いた。

 

「一花はカバで、二乃はうさぎ、四葉がらくだ、五月はカンガルー」

 

 うさぎは分かるよ。もこもこしてるし可愛いし。けれど二乃以外なんでその動物が好きなのかわからん。

 

「三玖のは?」

 

「見てからのお楽しみだよ」

 

 僕の手を掴んで次のコースへと足を向ける三玖。……パパっと見ていくスタイルなのね。

 

 途中にあった大きな池に鯉が泳いでいるのを眺めつつ、橋を渡り小獣館に着いた。

 

 『小獣館は、ユニークな姿で人気を集めているハダカデバネズミや、近年はペットとして人気のミーアキャットなどが勢ぞろいした、屋内型の展示施設です』

 

 へー。ミーアキャットペットにする人なんているんだ。どんな人なんだろうか。そして何食べるんだろう。コオロギ?

 

 雪斗が看板にあった説明に目を向けているとき、三玖は別の小さな看板を見ていた。

 

 『なお、小獣館には、地中で暮らす動物や夜行性動物が住んでいます。そのため、施設内の照明はかなり暗め。さりげなく手をつなぐなら、ずばりここ小獣館がおすすめ! 真っ暗な中で、ちょっとドキドキする雰囲気を味わってみてくださいね! スタッフ一同あなたの恋を応援します!』

 

(………手をつなぐ、ユキトと、………えへへへ)

 

 頭の中でユキトとイチャイチャする妄想を広げる三玖。

 

「……えへへへへ」

 

「? どうしたの?」

 

 急に笑い出したぞ。早起きのせいで頭いかれてるのか?

 

「! な、なんでもない」

 

(つい声が漏れちゃったけど……頑張って勇気を出そうかな)

 

 心の中で覚悟を決めたところで、雪斗と繋いでいた手が引っ張られる。

 

「ひゃっ」

 

(いつの間にか手、繋いでたんだ)

 

「? 変な声出すなよ。早く行くぞ」

 

 気になってる動物がいるんだろ?

 

「うん! 私見たいものがあるんだ」

 

 急に三玖のテンションが上がったぞ。どんな習性をしてるんだ? 

 

 三玖の横を歩いていると、一つの展示場所で三玖が足を止めた。その動物が見たかった奴か。どんな動物なのかとガラスの壁を覗き込むと、そこにいた動物はハリネズミだった。

 

「三玖はハリネズミが好きなの?」

 

 こちらに背を向けて針を尖らしているハリネズミを見ながら訊く。なんだか見ていたら変な俳句が浮かんできたな……。

 ハリネズミ 脱毛したら ハゲネズミ

 ……早起きのせいで頭いかれてんのは僕だったかもしれない。

 気を取り直して三玖の方を向く。

 

「うん、私みたいで親近感がわく」

 

 なんでだろうかと疑問に思っていると、続きを言い出した。

 

「ハリネズミって外敵に会うと背中の針を逆立てて身を守るでしょ。そこが布団を被った私みたい」

 

 お、おおぅ。そうだったのね。何とも答えに困る理由だな。

 

「そうだったんだねー、たしかに布団を被っているみたいに見えなくもない」

 

「でしょ」

 

 ハリネズミの後ろ姿がブラシにしか見えない。ハリネズミが寒くて出れなかったらブラシを置けば誤魔化せそう。…………これはブラシじゃないよね? ハリネズミだよね? コイツピクリとも動かないんだけど。

 

 僕たちのほかにお客さんはいなかったので三玖が満足するまで小獣館にいた。小獣館には蝙蝠とかもいて頭上を飛んでいた。………目の前に飛んできてつい叩き落そうとしてしまったが、蝙蝠はギリギリ躱してくれたので助かった。たかが空を飛べる哺乳類だからと言って、生物の頂点に君臨する人間様に楯突こうとはいい度胸してるじゃねぇか。

 

 そして小獣館を出るころにはお昼になっていたので、レストランで昼食をとることにした。

 

「三玖は何食べたい?」

 

 色々な食事処が見える地点で話しかける。

 

「なんでもいいよ」

 

 その返事は困るな。僕もどこでもいいからな。どこか良さそうなお店を探そうとぐるりとその場で一回転すると、三玖が気に入りそうなレストランを見つけた。

 

「じゃああそこにしようか。抹茶パスタが食べられるんだって」

 

 レストランの外にあった幟には『ここでしか食べられない美味しい抹茶パスタが食べられます!』の文字と抹茶のイラストが描かれていた。

 

 京都とかでも食べられそうな感じするけどな。この地域ではここでしか食べられないのだろうか。

 

「! じゃあそこに行こ!」

 

 抹茶を味わえると知った三玖はいつもより少し早い歩調でお店に向かった。

 

 来客を告げるベルが鳴り、店員さんに席を案内されて早速何を食べようかメニュー表に目を通す。

 

「僕はたらこスパゲッティとカルボナーラにしようかな。三玖は何にする?」

 

 三玖はカランと氷を鳴らし、喉を潤していた。

 

「抹茶パスタ。これを食べずんば、三玖に非ず」

 

 抹茶を食べなければ三玖ではないって、そこまで言い切っちゃうんだ………。

 

 取り敢えず注文をし、雑談を始める。5分程すると料理が運ばれてきた。

 

 それでは早速。

 

「「いただきます」」

 

 フォークにスパゲッティを絡めて口に運ぶ。

 

「うん、美味しい」

 

「………抹茶パスタ食べるのは初めてだけどすごい美味しい」

 

 僕も初めて見たよ。前の世にもなかったんじゃないかな。知らんけど。少なくとも僕がよく行っていたお店にはなかったな。

 

「ユキトも食べてみて」

 

 そう言いパスタを絡めたフォークを差し出してくる三玖。

 

「いいの? ありがとう」

 

 大きく口を開けて一口で食べ、味わう。

 

「んー、………僕はそもそも甘党だから抹茶とかはそんなに口にしないんだけど、この抹茶は食べやすくて箸、ならぬフォークが進むね」

 

 そう評価し三玖に目を向けると、少し顔を赤らめていた。

 

 やっぱり無意識だったか。新しいフォークを持って来よう。

 

 そう思い席を立ちあがり取りに行こうとすると、

 

「だ、大丈夫だよ。私は気にしないから」

 

 まだ微妙に顔が赤い三玖がそう伝えてきた。

 

「そう? 無理するなよ」

 

(ついあ~んをしちゃったけど、これって間接キスだよね/// ………気にしない、気にしない)

 

 平静を保って何口目か分からないパスタを口に運ぶ。

 

(………味が分からなくなっちゃった。けど、これが幸せの味なのかな。………自分で何を言ってるかわからなくなっちゃった)

 

 なんやかんやで昼食を終えて外に出た。

 

「お昼奢ってくれてありがとね」

 

「ううん、勤労感謝の日だもん。感謝の気持ちだよ」

 

 ありがたや~。と言っても僕は働いている感覚は無いんだけどね。

 

「もうじき時間だし。お土産屋さんでも行く?」

 

 隣に位置していたお土産屋さんを指さす。

 

「行く」

 

 三玖はそう言ってお店の中に入り、物色を始めた。僕も何か良さげなものがないか探すか。

 

 ぬいぐるみのコーナーに足を運ぶと、手触り最高のぬいぐるみがあった。

 

 ふああぁ~。めっちゃ肌触り良いな! …………買いたいけど家にはイケ鳩さんたちがいるんだよね。頼めば触らせてくれるし、何より買って帰ったらぬいぐるみが悲惨な目に遭いそう。

 

 バラバラに分解されて、あちこちから綿が飛び出したぬいぐるみの姿が目に浮かんでしまったので、泣く泣く手に持っていた鳩のぬいぐるみを棚に戻す。浮気、ダメ、ゼッタイ。

 

 食べ物だと何かいいものあるかな?

 

 僕の後ろにあった食べ物コーナーに目を通す。

 

 あっ、これ美味しそう。値段は…………うん違うのにしよ。お! これは…………あ~~ん~~、でもな~、これくらいだったら自分で作ったほうが安上がりか? 最悪二乃に頼めば作ってくれそう。

 

 鳩などの動物の形をしたクッキーを見てそう思った。

 

 このままだと埒が明かねえ。諦めて三玖の所に行こ。

 

 物色を始めてから10分経つ頃。三玖が手のひらに小物をいくつか抱えて立っていた。

 

「何買うの?」

 

「ハリネズミのストラップを五人分。あそこにあった」

 

 三玖の視線の先には様々な動物たちのストラップがあった。

 

 五人分も買うのは店員さんから変な目を向けられそうだな。

 

「確か三玖の部屋にはハリネズミのぬいぐるみがあったよね?」

 

 膝の上で愛でていた覚えがある。あれも手触り良かったな。出来ればまた触りたいものだ。

 

「うん。でもそれとこれは別」

 

 あらそう。家に居るハリネズミが嫉妬しないように気をつけるんだぞ。要らないなら僕が貰うから。

 

「ユキトは何か買わないの?」

 

 色とりどりのハリネズミのストラップを手にした三玖が訊いてきた。

 

「うん。僕はこういうのは買わないんだ。一目見て心から欲しいって思わない限りね」

 

 買うときに本当にこれが必要なのかって考えちゃうんだよね。その結果買わないという判断になる。そのせいか中学生の時の修学旅行では何も買わず家に帰ったよ。大人からは楽しめなかったのかと心配された。

 

「………でもやっぱり僕もハリネズミのストラップ買おうかな」

 

 そう言って恐らくアルビノを表しているのだろう白色のハリネズミのストラップを手にレジに向かう。

 

 無事お土産も買ったので二人そろって動物園を後にし、行きと同じようにバスに乗る。

 

 再び後部座席の窓際に座る。

 

 そうして感じる発車の振動。体を伝っていく心地よい振動に目を閉じて身を任せていると、左肩に重みを感じた。感じた原因を探すために目を開けると、僕に寄りかかって寝ている三玖が居た。

 

 …………やっぱり朝からはキツイよな。普段から四六時中眠たそうにしているもんな。それが寝不足のせいかどうかは知らないけど。

 

 三玖の長い髪の毛を撫でつつ、体勢が苦しくならないように少し身動きをして、寝やすいようにする。

 

「ゆっくりお休み。よい夢を」

 

 そう言って車窓の景色に視線を漂わせた。

 

(あわわわ。つい思い切ってやっちゃったけど重くないかな大丈夫かな。……はっ私汗臭くないよね? 大丈夫私は汗をかかない系女子だから。だから大丈夫。…………でも離れたくないんだから仕方ないよね。今だけは誰にも邪魔されずにユキトを独り占めできるんだから。折角のチャンスを活かさないと。思い出せ私。昨日のネットの記事を参考にしてユキトに少しでも近づくんだ!)

 

 穏やかな雰囲気がバスを漂っている中、三玖の心の中は慌ただしかった。

 

「フー、フー」

 

 なんか三玖の呼吸が荒くなってるな。夢の中で運動でもしてるのか? 落ち着け~。

 

(…………! これは頭を撫でてくれている! 気持ちいいな。一花の言っていた通りだ。本当に寝ちゃいそう。昨日遅くまで起きちゃってたし、少しくらいなら寝てもいいよね。おやすみ…………ってダメダメ起きてないと頑張れ私。一花に負けないようにしな……い……と)

 

「スゥ―、スゥ―」

 

 呼吸が安定してきたな。そのままゆっくり眠りな。さて、写真を撮ろうではないか。

 

 スマホのカメラ機能を呼び出し、自撮りの体勢を取る。カメラ目線を意識して~っと。ハイチーズ。………よし。後で三玖にあげよー。

 

 そうして時間は流れ再び図書館に着く。

 

 図書館に着いた頃には時計の針は13:45を示していた。

 

「ほら起きて。着いたよ」

 

 涎が肩に垂れそうだなと思いながらも三玖を揺らす。

 

「あれ? いつの間に………」

 

(…………寝ちゃってたか。まぁこうして独占できたんだし、まあいいか)

 

 どこかスッキリした顔の三玖を見て、起こさずにいたせいで強張ってしまった筋肉が解れる気がする。頑張ってよかった~。

 

「さ、降りるよ」

 

「うん……わっ」

 

「おっと、気いつけてな」

 

 三玖は寝ていたからか、体がまだ起きていないせいで足がもつれて転びそうになった所を支え、バスを降りる。

 

 バスを見送って三玖に振り返り、口を開く。

 

「今日は楽しかったよ。また行こうね」

 

「うん。約束。破ったら切腹だからね。じゃあ、はい」

 

 三玖が左手の小指を出してきた。それが何を示しているかなんてすぐに分かった。僕も同じように小指を出して三玖の指と絡める。

 

「嘘ついたら?」

 

「針千本………と言うよりも僕の骨をちりばめて中庭に撒いてやるよ」

 

 僕が骨になったら撒けないからその時は三玖が撒いてね。

 

「上杉謙信だね」

 

 よくお分かりで。

 

 三玖とのこの会話が出るあたり、流石と言うべきだろう。

 

「それじゃあまたね」

 

「うん。また学校でね」

 

 バイバイと互いに手を振り合い、人混みに消えていく小さな三玖の背中を見送った後、僕も踝を返して図書館へと向かった。




 三玖がハリネズミが好きな理由は捏造です。

 この時雪斗が三玖が狸寝入りに気づかなかった理由としては顔が見えなかったからです。

 秋を飛ばして冬が来たかと勘違いする位最近寒くなってきましたね。風邪を引かないようご自愛下さい。

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