五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 続いて一花とのデートシーンです。やりきった~~!! そしてつっかれた~~!! キェイ!!


第42話 勤労感謝の日 その②

 三玖と別れた後、僕は今日来た時と同じように図書館の外周を歩いていた。

 

 湿った地面は元の地面の色が見えないほど、落ち葉で埋め尽くされている。しかしそれにも関わらず、木々にはまだ沢山の葉がつき、冷たい秋風にそよいでいる。

 

 …………地面に落ちている葉っぱの量と木についている葉っぱの量、合わなくね? 一本の木くらいは寂しくなっていてもおかしくないと思うんだが。世の不思議だなー。

 

 地球の謎に触れつつ、スマホを取り出し時間を確認する。

 

「今の時間は13:55かそろそろかな」

 

 お目当ての相手が来ているか辺りを見渡すと、満開の笑顔を咲かせた人が小走りで向かって来た。鏡の破片を振りまくような秋の陽が、相手の顔を照らしている。その人、一花は秋を意識したのか、ベージュのカーディガンを羽織り、ダークブラウンのベレー帽を被っていた。

 

「やっほーユキト君! 三玖とのデートは楽しかった?」

 

 一花は少し乱れた呼吸を整え、訊いてきた。

 

「うん、楽しかったよ。久しぶりに動物園に行けて楽しめた」

 

 小学生の時に行ったきりだったしね。

 

「でも驚いたよ! まさか三玖もユキト君を誘ってたなんて」

 

「僕も驚いたよ。ほとんど同時にメールが来てたんだから」

 

「そうだったんだね。でもまぁ、これからは私とデートだしいっか!」

 

 モテモテだね~ユキト君は! そう言い肩を叩いてくる一花。

 

「そうだね、お陰様で充実した休みになってるよ。………そんな事よりデートプランをそっちに任せてよかったのか?」

 

「大丈夫! 任してね!」

 

 胸を張って気合十分な一花の帽子に、色づいた一枚のイチョウが舞い落ちた。小さいそのイチョウは帽子の模様として飾るに相応しい。

 そう思った僕はそのイチョウを手に取り、太陽へと翳した。陽射しによってさらに明るくなった紅色を目に焼き付け、握り拳の中にイチョウを入れる。

 

「どうしたの?」

 

「まあ見てて、1、2の、3!」

 

 その言葉と同時に開かれた手のひらには、一つのアクセサリーがあった。そして一花へと差し出す。

 

「うわ~。綺麗! くれるの?」

 

 イチョウの美しさを表現したアクセサリーを手にした一花は、嬉しそうに訊いてきた。

 

「うん。あげる。きっと似合うよ」

 

 一花は見目秀麗だしね。何でも似合うと思う。

 

「どう? 可愛い?」

 

 一花は嬉しそうにしながら髪飾りとして耳元の髪につけた。…………帽子の模様としていいかなと思ったんだけど、一花が嬉しそうならいっか。

 

「うん可愛いよ。よく似合ってると思う」

 

「ありがと! 大事にするね!」

 

 少し顔を赤らめた一花は、それじゃあさっそく行こー! と、軽い足取りで歩き始めた。

 

 

 オリマ〇(一花)の後をついていく白〇クミン(僕)。頭の中でピクミ〇の音楽を流しながら、僕を食べたら死ぬぞ? とくだらないことを考える。

 

「………あのさ、なんでずっと私の後ろを歩いてるの?」

 

 まぁ5分位この状態が続けばそう思うよね。むしろよく5分間訊いてこなかったね。

 

「隣を歩いてると嫉妬や妬み、憎悪の視線が向けられるから………」

 

 でも後ろを歩いていたらストーカーって思われちゃうかな? 気になってしまったので一花の隣を歩くことにしよう。

 

「私ってそんなに魅力的?」

 

「そうじゃなきゃドロドロとした視線は感じないよ」

 

 まったく怖いわ~。男の嫉妬は醜いわ~。

 

「! 魅力的だと思ってるんだー、嬉しいな~」

 

 一花は笑顔を咲かせる。今日はいつもより笑顔が多いな。当社比1,5倍だね。

 

「お! 着いたよ!」

 

 一花に連れてこられた店は会員制のスパ。へ~、この建物スパだったんだ、へ~。建物の風格からして、明らかに僕みたいな一般ピーポーには縁のない場所だ。

 

 中を覗いてみると受付の人と目が合ってしまい、会釈をされた。ああ、どうもどうも。

 

「ほら行くよー!」

 

 入り口で会釈をして、立ちすくんだ僕を中に引っ張て行く一花。 なんか力強くね? 気のせい?

 

 

 

…………。。。

 

 

 

 暖かい間接照明が照らす部屋で、僕たちは並んで施術台に横になり、スパのマッサージを受けていた。

 

 

「ユキト君どう? ここのマッサージは? 気持ちいいでしょ?………あとこっち見ないでね」

 

(顔赤くなってないよね?)

 

「先ほど四葉様がいらっしゃいましたよ。男を連れて」

 

 一花をマッサージしていた女の人が言ってきた。

 

「へ~。四葉にも春が来たんだね~。お姉さん嬉しいな~。」

 

 一花の顔を見ることはできないが、顔を綻ばせていることを感じる。

 

「ちなみにその男はどんな奴でしたか?」

 

 どうせ上杉だろうけど。念のため。

 

「そうですね……確か上杉風太郎というお名前でした。ご友人ですか?」

 

 僕にマッサージをしてくれていた人が手を止め、少しして口にした。

 

 やっぱり上杉だったか。

 

「はい。同じクラスメイトで家庭教師を一緒にしています。とても手のかかる姉妹のね」

 

 意識を一花の方に向けてみるとビクッとしていた。自覚があるようで。

 

 そんなことよりも。

 

「一花ヤバい」

 

「どうしたの?」

 

 一花はどことなく切羽詰まった声を出す雪斗を心配する。

 

「覚悟して聞いてくれ………気持ち良すぎて眠くなってきた」

 

 もう瞼が半分まで下がってきている。これがゴッドハンドか!?

 

「あはは、寝てもいいんじゃない?」

 

「寝たら最後戻ってこれなくなりそう」

 

 ………あぁ、……僕はそろそろ……そちらに行くみたいだ………待たせて悪かったな…そっちに着いたら……たくさん話そう。

 

 なんとなく意識が無くなって行くのを感じる。が「ユキト君!」の一声で戻ってこれた。危なかった~。

 

「今口から白い煙みたいなのが出てたよ」 

 

「助かったよ………一花はここの会員なの?」

 

「うん。ここのスパはお気に入りなんだ」

 

「そうかい、そうかい良いとk………………」

 

 話しが途中で途切れたのでユキト君のほうを向くとまた口から白いのを出していた。

 

 

「ユキト君ーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………。。。

 

 

 

 

 施術が終わり、店員さんに感謝の言葉を言ってから建物の外に出た。体感してマッサージの仕方等は頭に入ったので家に帰ったら練習しよ。

 

 肩が軽い! 腰が軽い! 力が溢れ出てくるみたいだ! 今なら何でもできる気がするぜ! 早速一花をからかおうではないか!

 

 ぐりんぐりんさせていた体を一花に向け、口を開く。

 

「意外と疲れってたまってるもんなんだね。思いのほか気持ちよかったよ。もうこの気持ち初めてだよ。僕をこんな風にしてどう責任取ってくれるの?」

 

「せ、責任?」

 

 一花は少し顔を赤らめた雪斗に詰められて考え出す。

 

(………ここはやっぱり結婚? いやでも学生結婚だなんてそんな///………女優になったばかりなのに……でも)

 

 一花は思考がぶっ飛び始め、体をくねくねさせている。

 

「おい、固まるなよ。冗談に決まってるだろ。それよりも次行こうよ」

 

 なんでこうも固まるのだろうか。三玖も固まってたし。冗談なのに。

 

「固まってないよ! 驚いただけだよ!」

 

 一花は雪斗からジーーーっと疑いの目を向けられ、誤魔化すように口を開く。

 

「次は私達が出ている映画を見に行くよー! この前の試写会の奴が公開されたんだ!」

 

 そう言って一花は僕の背中を押して映画館へと足を進める。

 

 試写会で見た映画と同じ映画が見れるんなら行く意味ないんじゃね? どこかしら違くなってんのか? 

 

 背中に触れる温かい感覚に意識を割かれながらもそう思った。

 

 

 

 

 

…………。。。

 

 

 スパを体験した場所から歩いて20分経つ頃。映画館が収納されているデパートに着いた。ちなみに試写会で行ったデパートとは違う。

 

「着いたー!」

 

「そうだねー、ちょっと疲れたなベンチで休もうよ」

 

「上映時間までまだ余裕あるから、休もっか」

 

 一花も結構歩いているのに疲れを微塵に感じない。

 

 取り敢えず休める許可を頂いたので、デパート前の広場にあるベンチに腰掛ける。

 

「ぶへぇ~~」

 

「お疲れだねー」

 

 一花は僕の隣に座り、ベンチに体を投げ出して疲れを取る僕を微笑ましく見てきた。

 

「まあね~。今日は朝から歩きっぱなしだしね。そりゃ疲れますとも」

 

 斜めになっている僕の視界に映る一花の足元に一羽の鳩が降り立った。

 

「あれ? この鳩やけに人に慣れてるけどユキト君の鳩?」

 

 一花は、自身の足元を何気なく歩く鳩を見て訊いてきた。

 

「人懐っこい鳩=僕の鳩にしないでくれ。そもそも僕は白い鳩しか飼ってない。ここは人通りが多いから餌をあげる人が多くいるんでしょ」

 

 通りかかった親子連れがあげたりしてるんじゃないか。

 

「ふ~ん。それもそっか」

 

「それよりもはい。餌あげてみる?」

 

 僕は懐から、鳩たちによくあげている餌の入った袋を取り出し、一花へと差し出した。

 

「うん! やってみる」

 

 一花は餌を受け取って立ち上がり、鳩にあげ始めた。あげていくうちに多くの鳩が集まってきて一花を取り囲んだ。

 

「わわっ、ちょっと、助けて」

 

 足元に多くの鳩が集まってしまったのでその場から動けなくなってしまったみたい。

 

「ほれ」

 

 斜めにしていた体を元に戻し、僕も餌をあげ始める。すると一花を取り囲んでいた鳩は僕の方にも流れてきた。

 

「いや~助かったよー」

 

 そう言ってきた一花の頭には鳩が乗っていた。

 

「助かったようでなによりだが、頭に鳩乗ってるよ」

 

 何食わぬ顔している鳩を指さすと、一花は重さを認識したのか、勢いよく頭を振った。

 

「びっくりしたー。餌やりに集中してて気づかなかったよ」

 

 一花は頭に乗られたことが恥ずかしいのか、早口口調で説明した。

 

「アハハ。ええもん見れた。ごちそうさん」

 

「も~、最初から気づいてたでしょ!」

 

 当たり前やん。だって僕がそこに誘導したんだし。

 

「三玖に聞いたんだけど、一花の好きな動物ってカバらしいじゃん。なんでカバなの?」

 

「なんでって、…………そうだな~、カバって温厚だけど怒らせたら怖いらしいじゃん? そこが私に似ていると思うんだよね~」

 

「ふ~ん、カバの睡眠時間が12時間くらいだから、そこに親近感でも湧いていたのかと思ってたよ」

 

 一花って怒ると怖いタイプなのか。怒らせないように注意しとこ。

 

「…………そこもちょっぴりあったり」

 

 一花はてへっ、と舌を出してウインクしてきた。わー。かわいいねー。

 

「さて、疲れも取れたから映画館に行くか」

 

 ベンチから腰を上げて提案した。

 

「そうだね、そろそろ時間だし行こっか」

 

 上映までの少しの間餌やりを一緒にした僕らは映画館へと向かった。

 

 

 

 映画館に着いて席に座り、映画が始まるまでの間に、僕たちは会話を楽しんでいた。

 

「ねぇ、もうすぐクリスマスだけどさ、ユキト君は何かする予定あるの?」

 

 薄暗くなって一花の顔をはっきりと見えなくなっている中、口を開く。

 

「ないね。強いて言えばケーキを食べるくらい」

 

 一人でホールケーキを全部食べてみたい。それか色々な種類のケーキを食べるか。ん~どちらも捨てがたい。いっそ両方食べるか。ただ糖尿病になりそうで怖い。…………手遅れだって? 例えそれらしき症状が出ても、病院で診断されるまでは糖尿病じゃないから大丈夫。

 

「そうなんだね………」

 

(ユキト君はまだ彼女は居ないんだね。良かった)

 

「私たち去年のクリスマスは南の島で弾丸冬忘れツアーだったんだー」

 

「クリスマス感zero~♪」

 

「一昨年は北の島で超ホワイトクリスマス」

 

「仙人にでもなりたいのか………?」

 

 より寒いところ行ってどうする。炬燵でぬくぬく過ごすのが至高の過ごし方だと思うけど。

 

「でもね、場所とかはどうでもいいんだって。お母さんが言ってた。『大切なのはどこにいるかじゃなく、5人でいること』だって」

 

「一花たちのお母さんはイイこと言うよね。きっと素晴らしい人だったんだろう」

 

 そこまで話しているといよいよ映画が始まる時間になった。

 

 

 

 

 

………。。。

 

 

 

 

 二時間後

 

 映画の上映が終わり、シアターに電気がつく。一花は目を少し細めながらを隣の雪斗を見ると、よくわからない顔をしていた。

 

「ど、どうだった、ユキト君?」

 

 一花はドキドキしながら感想を尋ねる。

 

「ラスト15分の展開はとても感動した。………が、…一花は開始20分であっさり死んだな。ゾンビになって撃たれて死ぬんじゃなくてまさかの事故死とは………監督の意向が分からん」

 

 一花は事故死だったんだ。知らなかった。試写会の時とは結構内容違くなってたな。撮り直したんだ。それアリなのかよ。御蔭で楽しめたけどさ。

 

「ユキト君は泣かなかったね。少しくらいはウルッとしてくれるかなと思ったんだけど………」

 

「なんだろう、一花がすぐに死んじゃったから見る意味ないなって思ったからかな。あと展開知ってるし。それに僕は一花が見たかったからね」

 

 一花はその言葉に胸が暖かくなる。

 

 僕だったら何か意味ありげな言葉や行動をさせてから一花を死なせるけどね。この映画では伏線らしきものも特に感じなかったし。巧妙な伏線でも入れればもっと人気が出ると思うんだけどな。まぁ素人感想だけど。

 

 そんなことを考えているといつの間にか映画館の外に出ていて、すでに真っ赤な夕日が顔を覗かせていた。秋の陽は釣瓶落としってやつだな。

 

「もう夕方になって日が暮れるが時間は大丈夫?」

 

 日が沈んだらすぐ寒くなってくるし、風邪引いたら困るしね。

 

「7時までに帰れば大丈夫だよ。………もしかしてこれから用事がある感じ?」

 

「そうなんだよね。できれば早めにやっておきたいからさ、今日はもう解散で良いかな?」

 

 申し訳なさそうな顔をする雪斗。

 

「……そっか、なら仕方ないね」

 

(まだ一緒にいたいけど迷惑にはなりたくないしね。笑顔で別れよう)

 

「ありがとう。………今日はほんとに楽しかったよ。三玖にもお礼を言っといて」

 

 一花が悲しい顔を笑顔で隠そうとしている事に気づき、心が痛くなり、やっぱりもう少し遊ぼうか、と言いだしそうになるのをぐっとこらえた。

 

「うん、私も楽しかったよ。こちらこそありがとう」

 

(どうせユキト君には悲しいことがばれてるんだろうけど、私のこの笑顔は本物だから、気にしないでほしいな)

 

 

 夕焼けをバックに微笑む一花は写真を撮りたくなるほど魅力的に見えた。

 

 

 どちらとなく互いに反対向きに歩いていく二人。 一花の長い長い影が雪斗の足元から離れる時に一花はくるりと雪斗のほうに体を向けた。

 

「ユキト君! またデートしようね! 約束だよ!」

 

 いつの間にかカーディガンのポケットに入っていたカードには、

 

『そういえば言ってなかったね。今日の服も一花にとても似合ってたよ。

     また遊ぼう。今度はみんなでね』

 

 と書かれていた。

 

(もう、一体ユキト君は何回私のセンサーを鳴らせば気が済むのかな)

 

 一花は大事そうにカードを胸に抱いた。

 

 声が聞こえたであろう雪斗はこちらを振り向かないまま右手を軽く振り、一人の通行人が雪斗の姿を遮ったその一瞬で雪斗の姿はなくなっていた。

 

 

 

 

 その日の夜、一花の部屋。

 

 一花は最近気に入っている洋楽をスマホで流しながら、英語っぽい日本語を口ずさんでいた。なおリスニング能力は皆無。

 

「~ユウコゥミアイラビュ♪ ウゥゥウウッウッウッ~♪」

 

 一花はご機嫌に歌い、ベッドに全身を投げ出して今日貰ったアクセサリーとメッセージカードを、天井のライトに翳し眺めていた。昨日と同様足をばたつかせて。

 

 うふふ。今日はいい1日だったな。普段では見られないユキト君を見れたし。

 

 一花は掲げていた腕を下ろし、アクセサリーとメッセージカードを胸に抱く。一息つくと今日の反省点が自然と頭に浮かんだ。

 

 ユキト君は一日中歩いていたから徒歩よりもバスとかタクシーの方がよかったかな。映画は違うのを見たほうがよかったんじゃないかな。もしかしたら見たい映画があったかもしれない。

 

 一花は不安に襲われ布団の上をゴロゴロし始める。

 

 あ゛あ゛~、思い返せば思い返すほどダメな点が浮かんでくるよ~。これで嫌われたらどうしよう。でもユキト君は優しいから嫌わないよね大丈夫だよね? 家庭教師に来なくなったらどうしよう姉妹に顔向け出来なくなるよ~。

 

 反省している頭をよぎるのは、ユキト君から言われたスパでの一言。『とても手のかかる姉妹のね』…………手のかかる姉妹だって言われてしまった。せめてそこから脱却できるようにしないと。

 

 そう思い立った一花は布団で寝転がるのを止め、いつ勉強したのか分からないほど前に使った、自身の勉強机に向かった。

 

 …………まずは掃除からしようか。

 

 目の前にある、物で溢れて勉強できるスペースのない机を見て思った。

 

 一花は一つため息をついて、方付けようとする自身の行動を可笑しく思いながら手を動かし始めた。

 

 

 

 続いて三玖はと言うと、風呂上り、脱衣所で思案していた。

 

 

 いつも洗顔だけで終わらせてたけど、これからは美容にも気をつけてみようかな。

 

 そう思った三玖は洗面台の脇に置いてある二乃の化粧水に手を伸ばした。

 

 …………どれくらいが適量なんだろう。まあ塗れればいいよね。

 

 手のひらに500円玉位の量を取り、肌に馴染ませる。

 

 これでいいのかな? 二乃はいつもどんなのやってたっけ。他にも塗ってた気がする。

 

 化粧水が乗っていた台に目を凝らすともう一つボトルが置いたあった。

 

 ? これは乳液って言う物なのか。…………一応乳液とやらも塗っておこ。

 

 10円玉位の乳液を出し、肌に塗っていく。

 

 ん~、肌がベタベタする。洗い落としたい。二乃はこんなの毎回やってたんだね。

 

 鏡に映る、肌がテカテカしている自分の顔を見て、姉の努力を思い知る。

 

 …………でもまぁ、ユキトに近づく為にも我慢しよう。

 

 鏡の前でユキトに心惹かれてから始めた、日課の笑顔を作る練習をしてから脱衣所の扉を開ける。

 

「上がったよ。次の人どうぞ」

 

「次は私が入ります! ……あれ? 三玖の顔がいつもより光ってますね! 何か塗ったんですか?」

 

 四葉は手を挙げて脱衣所に向かってきて尋ねた。

 

「うん。二乃の美容液? を借りた。ベタベタする」

 

 ソファーに座り髪を乾かしていた二乃は、しれっと使った宣言をした三玖に怒りを向ける。

 

「なんでアタシのを使うのよ! 自分で買ってきなさいよ!」

 

「少しだけだからいいでしょ」

 

「良くないわよ! あれ高かったんだから!」

 

 二乃は、一つ数千円もするのよ! と値段の高さを説いてくる。

 

「まぁまぁ、姉妹なんだから許してあげなよ」

 

 四葉は口喧嘩をし始めた姉たちの間に入り、落ち着かせようとする。

 

「それはそうと一花がどこか上機嫌でしたね! 何か良い事でもあったんでしょうか?」

 

 四葉は喧嘩から意識を遠ざけようと思い、帰って来てからご機嫌だった長女を話題に出す。

 

「まったく、今回に関しては四葉に免じて目を瞑ってあげるわ。感謝しなさい。今度の休みに買いに行くわよ。服も新調しないと」

 

「うん。二乃ありがとう」

 

「あれ? 一花の事は……?」

 

「気になるなら訊いてみればいいじゃない」

 

「それもそうですね! お風呂上りにでも訊いてみます!」

 

 ピコーンとうさちゃんリボンを動かした四葉は、そのまま脱衣所へと入って行った。

 

「私は部屋に戻るね」

 

「え? あうん。ちゃんと髪の毛乾かしなさいよ。折角美容に気を遣い始めたんだから、髪にも意識しなさい」

 

「うん」

 

 二乃への空返事を返し、自室へと向かう。

 

 ハリネズミのクッションを抱きながら、今日の事をもう一度振り返ろう。

 

 電気を点けて部屋に入り、お気に入りの物が入っている引き出しを開け、今日買ったハリネズミのストラップとマネッチアの押し花を取り出す。

 

 椅子に座ってハリネズミのクッションを胸に抱き、机に置いたストラップと押し花を眺める。

 

 …………今日は恥ずかしい事ばかりだったけど、良い一日だったな。…………恋愛の記事に乗っていたことは何一つ実行できなかったけど、ユキトが楽しめていたから別にいいかな。

 

 目を閉じて今日の出来事を振り返った三玖は、スマホを取り出し、雪斗から送られてきた写真を表示した。

 

『眠れる美女とのツーショット』

 

 その文言と共に送られてきたそれは、帰りのバスでつい寝てしまった時の写真だった。

 

 写真を一通り眺め、ストラップと押し花を引き出しの中に戻し、立ち上がり、ベッド脇に向かう。

 

 ストラップと、ユキトとのツーショットの写真をスマホのホーム画面に設定し直し、枕の下に置く。

 

 これできっといい夢が見られるはず。

 

 一人笑顔を浮かべた三玖は、髪を乾かしにリビングへと向かった。

 

 人が居なくなり、再び暗闇が部屋を包む中、机の中のストラップが人知れず揺れた。

 

 

 

 




前話よりも内容が薄くなってしまった。一花推しの人申し訳ございません。私の拙い文章表現ではこれが限界でした。おかしいな、三玖だったら書けるんですけど……。

 一花がカバを好きな理由はこちらも捏造です。睡眠時間の部分だけですが。それ以外の部分は春場ねぎ様の設定らしいです。
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