五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第43話 リビングルームの告白

 いよいよ明日から期末のテスト週間になる。姉妹たちのテストの伸び率を考えると何事も起こらなければギリいける。

 

 とのことを上杉に聞かされたので頑張ろうと自身に活を入れ、図書室で一花と三玖と共に上杉がほかの姉妹たちを呼んでくるのを待つ。

 

「そうそう、勤労感謝の日のお礼を持ってきたんだよ………はいこれ」

 

「なになにー?」

「……気になる」

 

 雪斗が渡してきたのは勤労感謝の日の時の写真だった。

 

「いつの間に!」

「……気づかなかった」

 

 紅葉でいっぱいの歩道を歩いている一花の写真や夕日をバックに微笑んでいる一花の写真、ハリネズミをじっくりと見ている時の三玖の写真やバスに揺られ、僕の肩で寝息を立てる三玖の写真など、全部で20枚位の様々な写真。

 

「バレないように撮るのはヒヤヒヤしたよ………盗撮されたって警察に言わないでよ」

 

 確実に事件になって退学することになっちゃう。

 

「言わないよ~、何枚かカメラ目線の写真があるんだけど………どうやったの?」

 

 この写真とか、そう言って渡してきたのは鳩が一花の頭に乗っている時の写真。

 

「ペン型のカメラとかを持ってるからそのレンズのほうに視線誘導をしたんだよ。視線誘導はマジシャンの基本さ」

 

 ドヤ顔で言う。

 

「マジシャンって何でもできるんだね~」

 

 一花と三玖が感心したような声を出した。しばらくその写真らを眺めていると、図書室の扉が開き入って来たのは、暗い雰囲気を醸し出す上杉だった。

 

 あっ察し。

 

「…………二乃たちは来ない」

 

 上杉は、はぁとため息をつきながら絞り出すように言った。

 

「まあ、明日からがテスト週間だからノーカンだよ」

 

「フータロー元気出して、明日になれば大丈夫だよ」

 

 上杉を励ます一花と三玖。

 

「そっかー、じゃあ今日は各自自習ということでいいかな?」

 

 このままマンツーマン授業でもいいんだけどね。

 

「………そうだな、人が集まらないならあまり意味はないしな」

 

 上杉が仕方がないと頷く。

 

「………そう」

 

「じゃあ………私はこれで」

 

 一花は席を立ち帰る準備をする。

 

「………本当に自習するのか? やっぱり教えようか?」

 

「あはは、お気遣いは嬉しいんだけど、私はこれから用事があってね」

 

「嘘をつくんじゃない」

 

 上杉が一花の言葉に疑いを持つ。

 

「ホントだよ。事務所の社長の娘さんを今日は預かる予定なんだよ」

 

「そんな娘が実際にいるなら俺の前に連れて来てみやがれ」

 

 あのおっさんに娘がいるなんて信じられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー。。。

 

 

 

 はい、というわけでやってきました。中野家。扉を開けて中を見るとなんとそこには本当に女の子がいるではありませんか。

 

「菊ちゃんおとなしくしてて偉い」

 

 お絵描きをしている女の子。へ~菊って言うんだ。

 

「本当にいるんだ……」

 

「失礼だけどいないと思ってた」

 

 僕に興味を示してきたし。てっきりソッチ系の人かと。

 

「急な出張が入った社長の代わりに面倒を見ることになったんだ」

 

 新しい映画でも作ろうとしてんのかな? 今回はロケ地の視察的な?

 

「そうか、……そんな事より子どもは静かにさせて勉強を………」

 

「おいお前」

 

「! どうしたの?」

 

「お前、アタシの遊び相手になれ」

 

 急にこっちに来て話しかけてきたのかと思ったらそんなことを言いだした。

 

「………わかった。何して遊ぶ? 人形遊び?」

 

 ハチミツが大好きな黄色いクマのぬいぐるみを持って『やぁ、僕、プ〇だよ。ハチミツ大好き~♪』(プ〇さんボイス)

 

 と言いながらクマを菊ちゃんに近づけると、

 

「子ども扱いすんな!」

 

 とパチーンと叩き落とされた。………嘘だろ!? みんな大好きディズニ〇キャラだぞ!? 叩き落とすなんてなんて罰当たりな奴だ。ファンを敵に回したな。帰り道に気を付けろよ。

 

「人形遊びなんて時代遅れなんだよ。今の流行はおままごとだ」

 

 ………へ~、遊びに流行なんてあるんだ。やりたいやつをやればいいのに。

 

「お前アタシのパパ役。アタシ、アタシ役。お前アタシのパパの秘書役」

 

 菊ちゃんの采配により僕はパパになった。上杉は秘書になった。

 

 上杉はおままごとにあまり乗り気じゃないのか、鳴ってもいない携帯を取り出し、

 

「おっと、彼女からのメールだ」

 

 と言ってきた。

 

「落ち着け上杉。それは現実世界のバグだ。帰ってこい」

 

 お前に彼女が出来るなら僕にもできるわ。見え見えの嘘なんてつくなよ。せめてらいはちゃんと言え。

 

「あ! じゃあ私ママ役やる」

 

 白々しい嘘を吐く上杉を傍目に、三玖がママ役をやると名乗り出た。しかし、

 

「うちにママはいない。ママは浮気相手と家を出て行った」

 

 なんてこともない風に言う菊ちゃん。

 

「そこはリアリティー求めるんだ」

「あのおっさんの過去なんて知りたくなかったぞ」

 

 おっさんも苦労してるんだな。今度労わってあげよう。

 

「まあいい、所詮は子供の戯れだ。俺たちが相手をしているからお前たちは勉強してろ」

 

『んん゛……菊。幼稚園はどうだった? 楽しかったかい?』(髭のおっさんボイス)

 

「! あいつらガキばっかだ」

 

 一瞬目を丸くし、驚いた菊ちゃん。へへっしてやったぜ! クマさん、仇は取ったぞ!

 

『そうか。そういえば私の新しい秘書なんだがデリカシーに欠ける発言を繰り返してね。うちの女優達からの苦言が多いんだよね』

 

 在りもしない髭を摩り、遠い目をしてクビにしようか。と言うと上杉が「デリカシーには気をつけてるぞ!」と言ってきた。フン、どうだか。

 

 そんなことをしていると、

 

「ガラガラガラ」

 

 菊ちゃんがそう言い目の前にドアがあることを示すかのように右手を横にスライドさせた。

 

「へーここがパパの会社かー」

 

「会社来たんだ」

「そこの二人は事務員さん」

 

 一花と三玖に指をさし告げる菊ちゃん。

 

「私たちもやるの?」

 

 三玖は若干消極的な言葉を口にした。

 

「そう、二人ともパパに惚れてる」

 

「「!!」」

 

 何やら思うことがある様子。

 

「何言ってんだ、こいつらは勉強しなきゃいけないんだ」

 

 菊ちゃんに向かって勉強の大切さを語る上杉の事を見ていると、

 

「社長、いつになったらご飯に連れて行ってくれるの?」

 

 三玖が今夜行こうよとグイグイと来た。

 

(三玖は本当に素直になったね。……でも演技だったら負けないから)

 

 一花はチラッと自身に視線を向けてきた三玖に思う。

 

「ねぇ菊ちゃん。新しいママ欲しくない?」

 

「あ、ずるい」

 

 ママにどちらが成るかという争いを始めた一花たちに菊ちゃんが口を開いた。

 

「じゃあ、パパのどこが好きか言ってみろ」

 

 う~ん。それは難しんじゃないかな? 一花ならともかくあまり面識のない三玖にはあのおっさんの好ましいところなんて見つけられないだろう。

 

「す……」

「好きなところ」

 

 悩み始めた二人をよそに上杉はあくびをしていた。お前も関係者だろ!

 

「えーっとなんだろう…………こう見えて周りがよく見えているところ……」

 

「頭がいい。頼りになる(フータローよりも)。カッコイイ」

 

 …………自意識過剰でなければその意見は僕に対してかな? だったら嬉しい。そして()の中の言葉が聞こえてきたような………。

 

「パパそんなに背は高くないけど」

 

「そうだったね」

 

「菊ちゃんはどっちが良いと思った?」

 

 選択肢が現れた!

 

 1.一花

 2.三玖

 

 菊ちゃんがどちらを選ぶか頭の中でルーレットを回していると、

 

「私は………ママなんていらない」

 

 選択外の「いらない」を選んだ。イカサマカジノか!?

 

「どうして?」

 

「………寂しくないから。ママのせいでパパはとっても大変だった。パパがいれば寂しくない」

 

 …………

 

「……菊ちゃん。大人ぶらなくていい。強がらなくてもいい。ただ元気な姿を見してくれればパパは嬉しいんだよ」

 

 そう穏やかな口調で言い、菊ちゃんと目を合わせながら頭を優しく撫でる。

 

「な、何をする!」

 

「お母さんがいなくて寂しくないわけないだろう、菊ちゃんはまだ幼稚園児なんだ。大人ぶろうとするな。そんなもの子供のすることじゃない。わがままを言って親を困らせるのが子供のやることだ………正直に、心の思うままに言いなさい。………ママが欲しいか?」

 

 

「…………………………………欲しい」

 

 二、三秒空けて意を決したように本音を伝えてくれた。

 

「だよね。………じゃあ家に帰ったらママが欲しいことをちゃんとパパに伝えな。必ず前向きにとらえてくれるさ」

 

 菊ちゃんのパパは良いパパだからね。そこまで言うと涙を少し溢しながらも頷いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ユキトのこういう所だ。まるで心を読んでいるかのようにその人に必要な言葉をかけてくれる。寄り添ってくれる。─────そんな温かい心をユキトは持っている。

 

 そんな温かい心で凍っていた私の心を溶かしてくれた。よくわからないけれどきっとそういうところに私は惹かれたんだ。

 

 きっと一花もそういうところに惹かれたんだろう。なんて罪深いユキトなんだ二人も惹からせるなんて。

 

 目を閉じればあの日の言葉が鮮明に思い浮かぶ。

 

『自分の趣味に対してよく知らないくせにあーだこーだ言ってくる奴なんて無視してしまえ。周りの目なんて気にしなくていい。ありのままでいいんだよ。』

 

 今も部屋に飾ってあるマネッチアも。

 

───たくさん話しましょう───

 

 

 

───そして、気づけば秘めた思いが零れ出ていた。

 

 

「ねぇユキト…………私と付き合おうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇユキト…………私と付き合おうよ」

 

 急に袖を引いてきたかと思うとそんな事を言う三玖。なんだ思ったよりままごとにノリノリだな。しかし甘いぞ!

 

「付き合うじゃないだろ。結婚しようよ!」

 

 あ……えっと……と顔を赤くしている三玖に告白する。

 

「………けっ……こん、えぇっ!?」

 

 あたふたとする三玖を尻目に菊ちゃんに話しかける。

 

「菊ちゃん、これでママができたな! まぁ、おままごとの中だけどね」

 

「………え?」

 

(………そっか、ユキトはおままごとだからそうとらえたんだね。ちょっぴり安心した。………残念だけど)

 

 あたふたとしていた三玖が目を丸くしたが少しすると少しだけため息をついた。何かの心の整理だろうか。

 

「ただいまー! ってあれ? 可愛い女の子だ!」

 

「何でうちにいるのよ」

 

「何をしていたんですか?」

 

 外に出かけていた四葉、二乃、五月が帰って来た。 

 

「おままごとだよ。さっき三玖と結婚したところなんだ」

 

「ホントに何をしていたんですか………」

 

 だからおままごとだって。なんで冷たい目で見てくるんだよ。

 

「それより菊ちゃん。残りの3人にも配役どうする?」

 

「………じゃあ、リボン着けてる人はうちのワンちゃん」

 

「ワンワン!」

 

 四葉にぴったりの配役だな。しっぽまで振られてるように見えるぞ。

 

「そこの2人はおばぁちゃん!」

 

「あらー私たちも入れてくれるのー?」

 

 二乃は黒い笑顔を張り付けて言う。

 

「それで私がなんだって?」

 

 菊ちゃんのほっぺたをつねりながら凄む二乃。 二乃姉貴の登場だ!

 

「お、おば」

 

「聞こえなーい」

 

「あはははは!」

 

 仲がよろしくて何より。楽しい日常だ。

 

「そうだ! 菊ちゃん、利き手を出して」

 

 二乃の魔の手から逃れた菊ちゃんに話しかける。

 

「何?」

 

 とか言いつつもしっかりと右手を出す菊ちゃん。その手を両手で包み込み声を掛ける。

 

「ワン、トゥー、スリー!」

 

 両手を外すのと同時にポンッと音が鳴り、菊ちゃんの手には黄色い一輪の花があった。

 

「その花はデイジーって言ってね。黄色のデイジーは”自分らしくあれ”っていう意味を持つんだ」

 

「…………それで?」

 

 小さい子にまだ花は早かったかなと思いつつも話を続ける。

 

「その花が枯れてしまったらまた来なさい。今度は違う遊びをやろう。勿論枯れていなくても…………ね?」

 

「…………うん」

 

 僕の言いたいことがわかったのか少し涙声になりながらも頷いてくれた。よく泣く子は育つよ。

 

 

 

 

 少し心地よい沈黙が部屋を包む中、一筋の涙を流し、落ち着いた様子の菊ちゃんは少し口をもごもごさせて、口を開いた。

 

「お前はまるで魔法使いだな」

 

「…………ちょっと違うな。いいかい。"どんな物事も必ず理由があって起こる。偶然はあり得ない。"だから、僕は魔法使いではないんだ。ただの奇術師さ」

 

 少し笑いかけながら答える。

 

「きじゅつし?」

 

「ああ。魔法使いは、無から有を生み出すし、運命までも捻じ曲げ、思い通りの世界や現象を創り出す。だけど奇術師は違う。元々あった物を、別の物に見せているだけに過ぎない。つまり、人の目を盗んで弄ぶペテン師――所謂嘘つきなんだよ」

 

「でも、嘘つきは、泥棒の始まりだって、パパ言ってた」

 

「ああ。確かに世の中には、君のような子供をだましたり、善良な人を騙して、お金を奪ったりする悪い嘘もある」

 

 握り拳を菊ちゃんの前に掲げ、二の句を続ける。

 

「だけどね、1、2、3!」

 

 ポンと色とりどりの紙吹雪と、鳩が菊ちゃんの視界一面に広がった。

 

「おお!」

 

「こんな風に、人を喜ばせたり、誰かを守るためにつく、優しい嘘もある。そんな優しい嘘つきが、奇術師なんだよ。だから菊ちゃん。君も、どうせ嘘をつくなら、誰かを守るための優しい嘘をつこうね?」

 

 まだ幼い菊ちゃんにはこの話は難しいかなと、自身の頭に乗ってる鳩に手を伸ばす様子を見ながらそう思った。

 

 

 

───ほんと、こういうところ。

 

 

「………ねぇ一花」

 

「………なに?」

 

「ユキトを独り占めしたいはずなのに、こんな風に7人で一緒にいるのも嫌いじゃないんだ…………変かな?」

 

「…………ううん、私もそう思う。このまま皆で楽しくいられたら良いね」

 

 

 秋から冬に変わる日光のお知らせがやって来た。

 

 




予め全ての物事はそうなると決まっているという話。再現性が無くて非科学的、でも運命が存在しないと断ずるのもまた非科学的。どんな事象も起こりえないことでない限りは起こり得る。結局のところ運命とは起きてしまったことをどう呼ぶかに過ぎない。桃喰綺羅利

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