翌日
「…………………眠い」
昨日なんとかやることをすませて寝たが正直寝足りない。ソファーで寝たからかもしれないが………。
また寝ようと二度寝を決め込んだところで着信が来た。まだはっきりとしない視界の中、誰からだろうとスマホの画面を確認してみると三玖だった。
「………三玖か」
内容はなんとなくわかるが取り敢えず電話に出る。
「………もしもしー?」
『もしもし、ユキト? 朝からごめん。実は二乃と五月が─────』
「………わかったすぐに行くよ」
話しながら支度は済ませたのですぐに行ける。
「…………行ってきます」
小声で言い姉妹たちの部屋に向かって歩き始める。
姉妹たちの部屋に着いた時にちょうど上杉も同タイミングで到着した。来るの早すぎじゃない? 近くにいたのかな?
「2人ともごめん。日曜日なのに呼び出して」
「大丈夫だよ」
「それよりも2人揃って家出って本当か!?」
上杉は取り乱しながら三玖に問い詰める。
「お、落ち着いてフータロー。全部話すから」
「…………わ、悪い。それで、何でそんなことになった?」
「えっとね………」
三玖の話によると、僕たちが帰った後に喧嘩は一度収まったのだが再び夜に喧嘩。その結果二人は出て行くことになったらしい
「一花と四葉が説得したんだけど、お互いに意地を張って先に帰ったら負けみたいになってて…………」
「へー」
うん予想通りだったね。
「ちなみに一花と四葉は?」
「外せない用事があるって。一花は仕事だと思うけど」
四葉は絶対に部活だな。お昼ご飯を賭けてもいい。
「こんな時に限って…………試験勉強はどうするつもりだ」
「それな。……昨日までは5人一緒だったのにね」
「うん…………こんなに部屋が広いと感じたのは久しぶり」
サラッと部屋を見回すと確かに部屋が広く感じる。僕の部屋みたーい。
「まずは二乃を探しに行くぞ、当てはある」
「そうなのか!?」
「ホントに?」
「取り敢えず行くよ」
取り敢えず近くの立派なホテルに足をのばす。
「どうしてホテル?」
「二乃が野宿なんてするわけがないから。あとこのホテルにあるスパは評判がいいらしい。それに近くで美容関係の店がホテルに入っているのはここだけだし」
至極簡単なことを説明する。
「………確かに、あいつが野宿する姿なんて思い浮かばねえ」
いざホテルに入ろうとしたときにホテルから出てきたおばちゃんがあら? と三玖の顔を見て言ってきた。
「さっきあなたとすごく似た女の子がいたんだけど、もしかして姉妹なの?」
「間違いねぇ、そいつが二乃だ!」
しょっぱなから当たりを引くとは今日はツイてるな!
「じゃあ三玖、ホテルマンに鍵を忘れてしまいましたって言ってきてくれる?」
「うん、任して」
特に何の変装もしてないけど大丈夫だろ。最悪姉妹ですって言えばいいし。
無事部屋のカードキーを入手し二乃の部屋に入る。
ピピッ、ガチャ
「広い部屋だね。一泊いくらするんだろ」
部屋に入りキョロキョロと部屋を物色しているとパックを顔に貼っている二乃と目が合った。
「…………お邪魔してます」
こりゃ失礼、お邪魔しております。
「え? なんであんたたちが………ってか鍵は……」
「鍵を部屋に忘れたって言ったらスペアキー貰った。後で返しといて」
カードキーを二乃に渡しながら言う三玖。
「セキュリティガバガバすぎでしょ!!」
二乃の魂の叫び。
「二乃が野宿なんてするわけないし美容関係のお店が入っているホテルはここしかないからね。すぐに二乃の居場所を特定できたよ」
先ほどした説明をもう一度する。
「…………二乃。昨日の事は」
「出てって! 私たちはもう赤の他人よ! 帰って!」
部屋の外まで追い出される僕たち。
ドアが閉まる前に足を何とかねじ込み、二乃に話しかける。
「………二乃、どうしてそこまで姉妹から離れようとする。姉妹をほかのだれよりも好きだったはずなのに………」
「……だから、知ったような口きかないでって言ったでしょ! こうなったのは全部あんたらのせいよ!」
目に涙を少し浮かばせながら二の句を続けた。
「あんたらなんか来なければ良かったのに!!」
「「……………」」
明らかな拒絶の言葉を口にした二乃。
「ま、待ってくれ!他に出来ることなら何でもする!」
しょうがないと僕が帰ろうとすると上杉が食い下がる。
「すみませーん、部屋の前にヤバい奴らがいるんですけど」
二乃は立ち去ろうとしない僕らに痺れを切らしたのか、部屋に取り付けてある電話でチクリ始めた。
「「!!」」
「ユキト、フータロー、一時撤退」
「仕方ない」
「くっ、やむを得ん!」
ホテルから出てマンションへの道を歩きながら会話する。
「二乃は見つかったが、五月の方は手掛かりなしか………」
「それに財布も持って行ってないんだよ」
「あ、そういえば言ってなかった気がする」
「何をだ?」
「五月は既に昨日保護したよ」
今は僕の所にいるよ。とそこまで言うと、
「はぁ!? 昨日の今日だぞ!? 見つけるの早すぎるだろ!」
「未来でも見えてるの?」
驚いた様子の二人がいた。
「未来なんて読めないよ。ただ絶対家出するだろうと思ってたから昨日マンションの入り口を見張ってたんだよ。そしたら案の定五月が出てきたから保護した」
残念ながら二乃は見逃してしまったみたいだけど………トイレに行ったときかな? どうせならイケ鳩さんに見張ってもらえばよかったかも……
「お前の頭はどうなってんだ?」
「………人間やめてる」
ヒドイッ! 僕のおかげで五月の行方が分かったって言うのにこの仕打ち。血も涙もないな。
「………まぁ白羽のところなら安心だな」
「うん」
今日は二乃と五月の居場所が分かり、もうすることはなくなったので解散ということになった。
「ただいまー」
「おかえりなさい! 白羽君!」
部屋に入った途端に声を掛けてきた五月。
「出かけるなら声を掛けてください! 家主を置いて眠ってるなんて罪悪感があるじゃないですか」
「寝てたからしょうがないじゃん」
そのまま他愛もない会話をする僕たち。一時的とはいえ、家に誰かいるというのはいいもんだな。いつも居るのはペットの鳩たちだけだもんな。
そして夜も更けてきて今日も今日とてソファーに寝そべり目をつぶる。…………二乃はどうすればいいのだろうか。………五月はめちゃくちゃおかわりしたな。寸銅鍋をわざわざ買ってきて、カレーを作ったのにもう半分しかない。……半分もあるって考えたほうがいいかな。
不意に外からの明かりが感じなくなったので片目を開けてみると五月が立っていた。
「…………夜這い? 頭イカれた?」
「違います! それにセクハラですよ! …………まったく、今日は月が綺麗に見えるので散歩に誘おうかと思ってきただけです」
あっそう。まあ暇だし行くか。
と、いう訳で、池のある公園にやって来た。月が池に反射していてとてもきれい。
「…………あ、せっかくの月が雲で見えなくなってしましました」
少ししょんぼりとしている。
「大丈夫だよ。またすぐに見えるようになるさ。それに星が綺麗だね………にしてもよく食べたね驚いたよ」
「べ、別にいいじゃないですか。白羽君の料理が美味しいのが悪いんです」
そう言ってくれると料理人冥利に尽きるね。別に料理人じゃないけどさ。……デジャヴ。
「上杉の家に行かなくてよかったよ。お嬢様にはきっと色々と負担になってしまうだろうし」
「…………わ、私はお嬢様ではありません」
「え? そうなの?」
「はい………数年前まで私達も上杉君の家と似た生活をしていたんです」
「………なるほどね。通りで初めて上杉の家に入った時に懐かしいような顔をしていたんだね」
てっきりらいはちゃんを慈しんでいたのかと思ってたよ。
「相変わらず人の事をよく見てますね…………話を戻しますが今の父と再婚するまでの私たちは極貧生活を送っていました。子ども五人を育てていたのですから当然ですよね。けれど、女手一つで育ててくれたお母さんは体調を崩して入院しそして…………」
「…………うん」
「だから私はお母さんの代わりになると決めたんです……………決めたんですけど、うまく行かない現状です…………」
なるほどね…………あのビンタも母を真似てやったのね。ナイスなビンタだったよ。きっと世界を狙える。そんなビンタだった。二乃のを貰ったから分かるぞ。
「母親代わり……か………なら僕は父親の代わりになろうかな、僕が父親で五月が母親ならきっとうまくいくんじゃないかな? なんつって…………何そのよく分からない表情」
「………白羽君が父親だとみんながどうなるのか想像できなくて………」
確かに想像できない。まぁ少なくともみんな手品が出来るくらいになるな。
「あ、見てください!雲が晴れて月が見えてきましたよ。本当に今日は月が綺麗ですね」
きっと他意はないんだろうな。
「あなたと見る月だから。…………『月が綺麗ですね』をあとで僕の言葉と一緒に調べてみ………五月はもっと勉強した方が良いよ」
「どうしてですか?」
「これから先に恥をかかないようにね」
「? よく分かりませんがあとで調べてみます」
ーーー…………
五月はベッドに潜り、頭から毛布を被ってスマホで早速調べ物をする。
ブルーライトに照らされながら文字を入力する。
え~と、確か『月が綺麗ですね』でしたね。…………こ、告白の言葉!? どど、どうしましょう!? すぐに訂正してこないと………いえ落ち着きなさい私! 白羽君の反応は淡白としたものでした。きっと私の言葉が勘違いだと気づいてくれたんです!! …………ホッとしましたがそれはそれで何か釈然としませんね。まぁいいです。後もう一つが『あなたと見る月だから』でしたね。…………『あなたとずっと一緒に見たいです』という意味みたいですね。…………これはある意味告白は成功と捉えてもいいんじゃないでしょうか? !! いえ別に私は白羽に恋心は持ってません! 勘違いしないでください! ………私は一人で何でこんなことをしているのでしょうか? さっさと寝ましょう。
この胸のモヤモヤはきっと勘違いです。寝れば治るでしょう。
――――おやすみなさい。良い夢を。
二乃がこのホテルにした理由は明確されていなかったので捏造です。