五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 前回の話はクソつまんなかったですが、今回は違います。なぜならスランプに陥っていた弟を使って無理やり書かせたからです。やはり持つべきは優秀な弟ですね。とある人は兄より優れた弟など存在しないとか言ってましたが……きっと彼らは兄弟仲が悪かったんでしょう。
 因みに骨組みは私(骨髄だけ)で、(骨髄以降の)肉付けは弟です。要は9割方弟作です。リハビリじゃ書けオラァァ!! 


第46話 七つのさよなら その③

 翌日の月曜日

 

「五月起きてる? もう朝だぞ。僕はもう行くから遅れないようにね。朝ごはんはもう出来ているから」

 

「はい…………ありがとうございます二乃……」

 

「二乃じゃないぞ」

 

「あっ、その…………おはようございます」

 

 五月は寝ぼけて二乃と呼んでしまったことに恥ずかしく感じながら挨拶をした。

 

『まったく起こすのめんどくさいんだから、ほら、早く顔を洗ってきなさい。朝ごはんはもう出来てるから』(二乃ボイス)

 

「二乃の声で言わないでください! 恥ずかしいんですから!」

 

 途中で中野家に寄り、朝ごはんを差し入れてから学校に向かう。

 

 

 

 

「おはよう上杉」 

 

「おはよう。悪いが放課後の勉強会は一旦任せてもいいか? 四葉の所に行きたくてな」

 

「別にいいよ~」

 

 特に断る理由もないので快諾し、勉強会の内容を考え始める。取り敢えず予想テスト問題でも解かせてみようかな。

 

 

時は過ぎ、放課後の図書室

 

 一花と三玖のカリカリと問題を解く音にうつらうつらしていると上杉がやって来て僕を呼び出した。

 

「実は四葉が試験週間に入ったのに部活を辞めてくれなくてな。どうにか辞めさせたいんだがどうすればいいと思う?」

 

「まじでか」

 

「マジでだ」

 

「それと二乃にも会ったんだが試験なんてどうでもいいと言われた」

 

「やっぱりか」

 

 二乃と五月は喧嘩して家出して、四葉は試験週間に入ればやめると言っていた陸上部の手伝いを続けている。勉強しなければならないというのに………全く頭が痛い。五月は戻る意思があるぶん楽だけど。

 思わずため息が出てくる。

 

「よし上杉、とりあえずお前は二乃を連れ戻す方を頼む。僕は四葉にかかる」

 

「ああ、分かった。何かあったら連絡しろよ」

 

「分かってるよ。そっちもな」

 

 一花たちに各自自習と伝えて、僕は陸上部の部室の前にやって来た。

 

「すみません。部長はいらっしゃいますか?」

 

「うえ!? 白羽さん!?」

 

「私に何か用事でも?」

 

「はい」

 

 部室の奥にいる四葉に一旦視線を向け、すぐに部長に戻す。

 

「四葉は勉強しなくてはいけません。しかしあなた方から無理に連れ戻すと険悪な関係になるでしょう。そして四葉は極度のお人好しです。困っている人を見捨てることはできません」

 

「君は何を言いたいの?」

 

「僕は四葉を勉強させたい、しかしあなたは四葉を部活をさせたい。この両方を成すために、僕がこの部活に入ります」

 

「はあ?」

 

 他の部員からも同じような視線が集中するが、気にしない。

 

「言っておくけどここ、女子陸上部だよ? 男子はいらない」

 

「部員として活動する必要はありません。マネージャーとして働きます。これなら文句は無いでしょう。もちろん、マネージャーになったからには部員の体調に気を使い、最高のコンディションを整えます。必要なことは全てします」

 

 僕をマネージャーにしてください、と頭を下げる。

 

 しばらく悩んでいた部長だったが、よし、と呟くと僕の肩に手を置いた。

 

 

「いいでしょう。君はこれからここのマネージャーだ」

 

「はい、お願いします」

 

 そこで一旦体の向きを部室へと向ける。 未だ困惑の表情を浮かべている部員たちに、僕は再び頭を下げる。

 

「男がマネージャーとして働くことに関し、幾ばくか不安があると思いますが、この白羽雪斗、粉骨砕身、全身全霊で支えます。短い間ですが、よろしくお願いします」

 

「じゃあ早速ドリンク作って用意、それが終わったらタイマーと記録紙を持ってトラックに来て」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

「全く、部長ってホント突然だよね。よく分からない生徒をマネージャーにするなんて。しかも男」

 

「まぁまぁ、あの人もちゃんとやっていることだし、そんなに尖らないでよ」

 

「そうそう、あの人良い人だし」

 

 休憩中、日陰に休む女子部員の三人。もちろん話題は今日突然入部した白羽雪斗のこと。当の本人は四葉と並走し、問題を出している。

 

「じゃあさ、白羽雪斗ってどんな人?」

 

「五つ子姉妹と同じ時期にやって来た転校生で成績は上杉風太郎と並んでトップ。運動神経も抜群で明るく活発的。そのくせどの部活にも所属してない。中野さんみたくいつもニコニコしてる。特技であろう手品はタネが見破れない。更に変装技術もあって、前の林間学校の肝試しで、生徒たちを恐怖のどん底に叩き落とした」

 

「へー、随分と知っているわね」

 

「私、こういうの好きなんで」

 

 眼鏡をピカーン、と光らせた部員の隣で、ショートヘアーの生徒が大丈夫かなぁ、と呟いた。

 

「「何が?」」

 

「学年1位を取るのは難しいことだし、その分努力しないといけないのに、白羽さん、自分も勉強しなくちゃいけないのに大丈夫なのかなって。噂じゃあの五つ子ちゃんたちの家庭教師も務めているというし、いずれ潰れちゃうんじゃないの」

 

「………まぁ、白羽さんは赤点は逃れられると思うから大丈夫なんじゃないかな。1位は逃すかもしれないけどさ」

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 やるからには徹底的に。それが僕のモットーである。故に、マネージャーになったからには徹底的に行う。

 

 さて、人間であろうとなかろうと、その体は摂取したもので構成される。より質の高く、より栄養価の高いものを摂取すれば部員たちの力の底上げが望めるだろう。

 そして食事は日々の生活の活力になる。だから適当な物で済ませる奴は大体三十歳過ぎてから身体に病気となって現れる。そう、生活習慣病としてな。……そうだとしたら僕は糖尿病になりそう……キヲツケナイト。

 

「あのー、何してるんですか?」

 

「仕込み」

 

 帰宅途中で寄ったスーパーで、大量に買った食材を調理していく。

 マネージャーとして働くと言っても、テストの関係上長くて一週間だと思うが、やらないよりはマシだろう。微々たるものでもそれが勝敗を分けるかもしれない。

 カウンター奥にいる五月のお腹空きましたー、という視線を受け流し、僕は黙々と手を動かした。

 

30分後………

 

「お腹ペコペコです!!」

「ごめん、もう少しだけ待って」

 

 あとちょっとだから。

 

火曜日

 

 

 眼鏡をした女子、ショートヘアーの女子、うっすらとウェーブをかけた女子、この三人は4時限目の授業が終わった後、陸上部の部室へと足を進めていた。

 

 

「ねえ、今日からお昼ごはん持って来なくて良いんだよね?」

 

「そうだよ。メールにもそう書いてあったし、大丈夫でしょ」

 

「お腹空いたー、何でもいいから腹に詰め込みたい」

 

 メール本文には弁当はいらないこと、そして昼は部室に集まること、という旨が書かれていた。

 

「こんにちは、これ、弁当です。これを食べてください。味は保証します」

 

「「「えっ?」」」

 

 部室の扉を開けてみれば、そこには4人分の弁当と笑顔で挨拶してくる白羽雪斗がいた。

 

 

「ええと、どうして弁当を?」

 

「栄養価が高いものを食べ、適度な運動をすることで体は強靭に仕上がります。僕がマ

ネージャーとしている以上、みなさんの体調、食事、その他諸々管理します。嫌であれば除外しますが」

 

「いやじゃないし、とてもありがたいけれど、大丈夫?」

 

「何がです?」

 

「ほら、食費とかかさむでしょ?」

 

「大丈夫です、貯金はまだまだ沢山ありますし、それに作っても4人分なので、困窮するようなことは無いですよ!」 

 

 はい、召し上がれ、と三人に渡された弁当は、不思議と温かく、そして胸の中も負けないくらい熱くなった。

 頑張ってくださいね、と手を振られて部室を出た三人はしばらく歩いた後、互いに見つめ合った。

 

「「「頑張ろう!!」」」

 

 

放課後

 

 

「ファイトファイト!! ラスト一周!!」

 

 タイマーで記録を取りながら、走っていく部員たちを応援する。

 それにしても、みんな気持ち速くなってる気がする。早速効果が出て来たのかな? んなわけないか。

 

「頑張れ四葉!!」

 

 手を振り返さなくていいから。ちゃんと前見て走りなさい。

 

 さて、みんなが走り終わったら10分休憩、その後外周に移る。これはタイムを測らなくていいから、僕も参加していいことになっている。

 

「はいお疲れー、お疲れ様ー、ナイスファイトー」

 

 続々とゴールしていく部員たちに労いの言葉をかけ、最後を走っていた部員にナイスガッツと言ったあと、僕はレモンの蜂蜜漬けを持ってきてタッパーの蓋を開ける。

 

「食べ過ぎると走っているときにお腹痛くなるので、気を付けてくださいねー」

 

 うまうまと食べてくれる部員の人たちにほっこりしながらも、頭の中では四葉にどんな問題を出すか考える。………昨日は歴史やったから今日は理科にするか。

 

 スタート地点で僕を待つ四葉の所に行き、口を開く。

 

「では、よ~い、スタート!」

 

 互いに走り出し、ある程度のペースまで体を慣らしてから問題を出す。

 

「よし、じゃあ四葉これから問題出しだしていくぞ。第1問、イオン化傾向とは何ですか?」

 

「え? えーっとですね………問題集に乗っていた気がします。つまり私は一度は解いたことがあるということで…………えーーっと、はっ! 陽イオン? になりやすい金属を順番に並べたものです!」

 

 悩んでいた四葉は天啓を得たかのようにハッキリと答えを言ってきた。

 

「正解! 補足説明すると、イオン化傾向が大きいほど、反応性が大きいんだ。すなわち、水との反応性も空気中の酸素との反応性も、酸への溶解性も大きい。詳しくはこの前渡した問題集に書いてあるから読んでね。そして表ごと覚えて。この問題はおそらく出してくるから覚えておくように」

 

 覚えていれば解けるような問題が、共通テストであれ二次試験であれそのまま出題されるからね。ラッキー問題だよ。

 

「分かりました! 覚えておきます!」

 

「それでは次の問題。デデン! リチウム、ナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの炎色反応を答えなさい」

「分かりません!」

 

 即答でそこまではっきりと言われるとむしろ清々しいな。

 

「少しは考える素振りを見せなさい。答えはそれぞれ赤色、黄色、紫、緑、橙、紅、黄緑。だよ。覚え方は、リアカー なき K村 動力 借りるとう するもくれない、 馬力 で行こう! だよ。元素記号も答えられるようにしてね。こういったちょっとした点が赤点回避に繋がるから、ちゃんと覚えておくんだよ」

 

 たかが5点だと思って油断しないよーに。

 

「第3問、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸の4つの中で一番強い酸は?」

 

「えー………強そうな過塩素酸!」

 

「まぁその考えはあながち間違ってないな、正解。解説すると、酸素は電気陰性度(電子を引っ張る力)高く(強く)、酸素の数が多ければ多いほど、水素イオンの放出が簡単になり、酸性度が増すため」

 

 そんな感じで最後まで走り、問題を出していった。四葉は暗記系がごちゃごちゃになっていたが本質的なところはきちんと覚えていたので今は良しとしよう。この土日で間違いを直さないとね。

 

 

 

 

 そして期末試験まで残り5日となった木曜日、上杉から連絡があった。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 二乃が架空の存在である金太郎に会いたいと言い出し、それを上杉が承諾。上杉が金太郎を演じ、その間僕が上杉を演じるという工作をし、金太郎に扮した上杉が二乃の未練を失くせるように付き合う、もしくは正体を明かすとのこと。できれば後者が望ましいが、それをやったら二乃が怒髪天を衝く勢いで怒りそう。………うまくいくといいんだが。

 

 二乃がいるホテルに到着すると、ホールに居た上杉が手を挙げて合図をしてくれた。

 

「よし、その服僕が着るから脱げ。で、上杉はこれを着ろ」

 

「おう、サンキューな」

 

 トイレに入り、僕は上杉に扮し、上杉は金太郎に扮した。一応念のために上杉の携帯も預かる。

 金太郎は意を決して二乃が居る階まで昇っていき、俺はホテル近くの公園で待機することになった。

 

 公園に到着するやいなや、早速電話がかかって来た。一体誰だと思い名前を見れば相手は二乃。まさかなにかやらかしたのかと冷や冷やしながらも電話に出る。

 

『もしもし上杉? キンタロー君ちょー優しいんですけどー!』

 

 どうやらそういう訳じゃないようだ。

 

『っていうか緊張してまともに顔見れないわ!』

 

 そうですか。で、要件は?

 

「なんの用だ?」

 

『あ、ごめんごめん。キンタロー君ってシュークリーム嫌いじゃないよね?』

 

 つまり上杉がシュークリームが好きかどうかってことだろ? 生魚以外嫌いな物無かったから食えるだろ。

 

「大好きだと思うぞ………多分」

 

 嫌いだったらごめん。意地でも食べてくれ。

 

『オッケー』

 

 ふう、と一息ついて、公園のベンチに座る。

 最近あまり寝てないせいか、うつらうつらとしてくる。

 幸いにも二乃からの再びの電話で目が覚めた。

 

『会話が続かないんだけどキンタロー君の趣味って何?』

 

「本人に聞け! 勉………読書かなんかだろ………多分」

 

 そんなことで電話してくんな!!

 ブツッ、と電話を切り、僕はベンチに深く腰かけた。頬を撫でる冷たい風が心地良い。

 

 そのままぼんやりとしていると再び電話が鳴る。

 

「なんだ?」

 

『あんたホテルの近くにいる?』

 

「ああ」

 

『一階のカフェにすぐ来て』

 

 おい一体何があった?

 まさかバレてやばいことになったんじゃないかと冷や汗を搔きながらホテルに到着すると、二乃は一番奥の席に座っていた。どうやら俺たち以外にお客さんはいないようだ。

 

「遅いわよ」

 

「どうしたんだ急に」

 

「それになんでそんなに汗かいてるのよ」

 

 冷や汗です。

 二乃はただの汗だと思ったのか、店員さんにアイスコーヒーを頼むと足を組んだ。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「私彼にコクられるかも」

 

「はぁ………あ?」

 

 彼って金太郎に? あれ上杉だぞ? 自分が風邪にかかってることすら気付かなかった鈍感上杉だぞ? その上杉が二乃に告白するだと? んなわけあるか。

 

「だってあんな真剣な顔をして大切な話って何よ。そんなの一つに決まってるわ」

 

 ああ、そういうことか。正体をばらすことだな。

 

「あんたはどう思う?」

 

「え? 俺は「あんたの意見なんてどうでもいいわ」………」

 

 じゃあ聞いてくんなよ。

 そんなことは口が裂けても言えないので、代わりにアイスコーヒーをちゅーちゅー吸う。…………ガムシロップとミルク追加で貰えないかな? カフェオレにしたい。

 

「ただ人に聞いてもらって自分の状況を整理したかっただけ。これから彼の話を聞くことにするわ」

 

 そう区切ると、二乃は右手を差し出した。

 

「今日は彼に会わせてくれて感謝しているわ」

 

「なんだ。らしくねぇ」

 

「この先どういう結果になっても、彼との今の関係に一区切りつけるわ」

 

「そうか、何もできずに悪い。頑張れよ」

 

 差し出された右手に、俺の右手を重ねる。その途端、二乃の表情から危険な気配がした。

 

「くっ、なんの真似だ?」

 

「なんで逃げるのかしら?

 

 本能のままのけぞれば、二乃の左手は俺の顔を外れて空をきった。

 

「ちょっと頬を抓らせてよ。それか引っ張らさせて。それだけで済むから」

 

「意味がわからん」

 

 まずいまずいまずい!! どうやってか二乃は俺が上杉じゃないと見破った!!

 更に追い打ちをかけてくる二乃の左手を掴む。

 

「嫌がるってことは………あれぇ? もしかして君上杉じゃないの?」

 

 一つもへまはしてない。口調も素ぶりも上杉のままだぞ!!

 一体どうやって………!!?

 

「ぐぅ………」

 

 逃げようにもここで逃げたら不審過ぎる。それに上杉は手品が出来ない。故に煙幕を張って逃げることが出来ない。更に眠気が異常なほど高まっている。これじゃあ本来の力の半分も出せない。

 だんだんと力が抜け、押さえていた二乃の左手は俺の頬を掴み、そして。

 

「………やっぱり」

 

 破られた上杉の皮膚から、僕の素顔が覗く。

 

「ごめん、だけどこれは………」

 

 ふと視界にアイスコーヒーのコップが映った。まさか睡眠薬を盛ったのか? そうかそれで、元々寝不足だったから余計にわからなかったのか………!! っていうかそもそもこんなに即効性のある薬物を持ち歩いてんじゃねえ!

 そんなことを思いながらも視界が傾く中で、呂律が回らなくなった舌を動かし、最後に言いたいことを残す。二乃がまだ近くに居てくれるといいが……。

 

「五人で一緒にいてほしかったんだ………」

 

 そして僕の意識は闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ………!!」

 

 目覚めてすぐに周囲を確認したけれど、そこには二乃の姿は欠片もない。テーブルの上にある無残になった上杉の変装マスクを回収し、ホテルの人に訊いてみれば案の定二乃はチェックアウト済み。

 

「それと、あちらのソファーに眠っておられる男性ですが、あなたのご友人ですか?」

 

「あ、すみません。すぐに連れて帰ります。ありがとうございました」

 

 恐らく上杉は部屋で眠らされてから連れ出され、ソファーに寝かされたのだと思う。

 きっと二乃がホテルマンにお願いしたのだろう。大変迷惑お掛けしました。

 

「上杉起きろ、帰るぞ」

 

 ………反応なし。コイツ寝たら全然起きねえな。ったく仕方ない。

 

 その日は上杉を背負ってタクシーで帰った。

 これから一体どうすべきか。二乃の攻略が今まで以上に難しくなったのは間違いない。二乃のこちらに対する壁はウォールマリ〇の壁のようだ。早く壊れてほしい。

 

 

 それに明後日からは土日。陸上部の合宿が行われるらしい。

 というのは、この前部長の江端さんから個人的にメールが来て、土日で合宿したいから良い所はないかと尋ねられて黒薔薇女子学園はどうかと提案したのだ。以前知り合った下野さんに連絡してみたところ、快諾してくれたのでそこで行われることとなった。江端さんは喜んでた。猫のスタンプをスタ爆するくらい。

 他校との交流は良い刺激となるだろう。それに施設が良いし。

 ………今更だけど、ここの顧問って誰だろう? まあ居ない方が僕的に良いから探そうとはしないけど。

 

 

 

金曜日

 

 今日は朝6時から朝練があるので、それに間に合うように家を出発し、誰よりも早く着いた僕は缶コーヒーを飲みつつ、ドリンクを作り始める。

 作り終えたら簡単なグラウンドの整備をし、コーンやらなんやらを体育倉庫から引っ張り出して準備しておく。この頃になると部員がほぼ揃い始める。

 

「おはよう四葉、良い朝だね!」

 

「おはようございます白羽さん! 今日も早いですね! 白羽さんが缶コーヒーを飲むなんて珍しいですね! 」

 

 柔軟をしていた四葉にドリンクを届けるついでに軽く挨拶をしておく。尚、飲み終えた缶コーヒーは四葉の近くのゴミ箱に放り込んだ。

 

「まぁね。それより問題集は進んでる?」

 

「もちろんです! 昨日終わりました!!」

 

 それは重鎮、と頷いていると部長から「集合!!」との集令がかかり、僕と四葉は急いで集まる。

 ちら、と隣の四葉を見れば、いつも通りの元気溌剌! という感じだが、四葉は心の奥で溜め込む癖があるからな、表面上大丈夫に見えてもそうじゃないこともあるから、四葉には気を配っておこう。

 

 途中で上杉の乱入があったものの、朝練は無事に終わり、僕は一人水道に残ってみんなのウォーターボトルを洗っていると、四葉が近づいて来た。

 

「どうした四葉? なにか忘れ物でもしたのか?」

 

「違いますよ、ただ一つ聞きたいことがあって」

 

 いつものお転婆さはなりを潜め、こういっては失礼だが四葉が珍しく真面目な顔をしているので、僕は洗い物から手を止めて四葉の目を真っ直ぐ見た。

 

「なんでそんなに私のことを気遣ってくれるんですか? 家庭教師だからですか? それも既に白羽さんは終わってるはずです。私のために時間をかける必要は無いと思います」

 

 ふむふむ。

 

「つまり四葉のために時間をかけるのはやめて、他の姉妹に時間をかけたり自分の勉強をしろと?」

 

「そうです」

 

「嫌。遠慮しておく」

 

 断固拒否です。お金積まれてもお断りです。

 

「なんでですか!? このままだと白羽さんは学年1位を逃しますよ!!? もしそうなれば私は白羽さんに顔向けできません!!」

 

 慌ただしく迫ってくる四葉を軽く手で制止し、僕は笑顔で理由を告げる。

 

「だって、今回僕が学年1位をとるのはもう諦めてるから」

 

 そう言えば、四葉はぎゅっと制服の裾を握りしめた。

 そんな四葉の心の声が聞こえてきそうである。

 やっぱり私のせいで………とか思ってそうなので、僕はすぐに二の句を継ぐ。

 

「というか、そもそも1位に固執してないし、それより大事なことがあるから」

 

 1位を目指すのは僕の性格というか気質というか、なんであろうと手抜きが出来ないから頑張って、その結果1位となるわけです。つまりやむを得ない状況なら諦められるのです。………やっぱ諦められてないわ。普通に夜遅くまで勉強してるわ。ちなみに徹夜は効率が悪いのでしないタイプです。寝る寸前まで勉強しているせいか、夢にまで数式とかが出てくる。

 

 とまぁ、そんなことは置いといて。

 

「みんなには笑顔でいて欲しいし、五人一緒でいて欲しいから。そのためなら学業は二の次三の次、最終的に学校を笑顔で卒業できていれば、それでいいの。そう約束したしね」

 

 上杉も似たようなこと言ってたぞ、と言えば、四葉は嬉しさと申し訳なさが混ざったような顔で笑った。

 

「ありがとうございますっ!!」

(赤点とらないように頑張らないと! この土日でみんなに追いつくんだ!!)

 

 しかしその放課後のこと。

 

「朝の乱入者はあったものの、今日は一日お疲れ様、だけどみんなまだまだ伸びしろがあると感じたよ」

 

 練習が終わった後の部室で、部長はみんなの顔を見ると、そこで、と言った後に言葉を続けた。

 

「この土日、黒薔薇女子学園で合宿を行う」

 

 しかし本来ならば土日は休みだ。もちろん他の部員から休みたいとの願望があったが、部長はそれは甘い考えだと切り捨て、助っ人であるはずの四葉にさえそれを強要した。

 部員の人にだけかと思い提案したのだが、四葉も混じることになるのは流石に困る、と思ったけれど、僕の今の立場はマネージャー。四葉を助けることはできず、部室の隅っこで歯痒い思いをした。

 

 こうなってはもう、僕一人の力じゃ無理だ。四葉が無理をしているのは火を見るよりも明らか。すぐにでも解放してやらないと、必ずどこかで倒れてしまう。

 

 ジャージのポケットからスマホを取り出し、僕は二人へと電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 その日、夜を迎えた中野の家。

 

 風呂上り、四葉は鏡の前で歯磨きをしていた。鏡に映るその顔は普段の四葉とは思えない程消耗しきっており、心ここにあらずと言った感じで片手に持ったスマホで文字を打ち込んでいた。

 

 

『今日はすみませんでした。私本当は

(………)

 

『今日はすみませんでした。私

(こんなの送ったって迷惑なだけだよね………)

 

「送らないの?」

「うわあっ!!?」

 

 誰もいないと思っていたから、四葉は思わず本音を書いていたのに、そこに背後から一花が現れたら二つの意味でびっくりするのも無理はない。

 

「私も歯磨き~」

 

(見られてないよね?)

 

「じゃあうがいしよーっと」

 

「待って」

 

 ここから逃げるために、早々と歯磨きを切り上げようと自分のコップに手を伸ばしたところで、一花にその腕を掴まれた。

 そのまま流れで一花に歯磨きをしてもらう羽目に。

 

「ふふ、体だけ大きくなっても変わらないんだから。ほら、無理してるから口内炎できてるよ」

 

「私、無理なんて「こーら、喋らない」……」

 

「どれだけ大きくなっても四葉は妹なんだから、お姉ちゃんを頼ってくれないかな?」

 

 一花が浮かべた笑みは妹への慈しみと愛情に満ちたもので、四葉は無意識にぽろっと零してしまった。

 

「部活辞めちゃダメかな……」

(もう、辛いんだ。このままじゃ、また……私だけ………)

 

「辞めてもいいんだよ」

(これが四葉の本音なんだね)

 

「や、やっぱだめだよ! みんなに迷惑かけちゃう」

 

 本音が漏れて慌てた四葉は隠すようにうがいをする。

 

「勉強とも両立できてるんだ。一花がお姉さんぶるから変なこと言っちゃった。同い年なのに」

 

「あははは、こんなパンツ穿いてるうちはまだまだお子様だよ」

 

「わーーーっ!! しまっといて! 上杉さんと白羽さんが来た時は見せないでね!」

 

「はーい」

 

 羞恥心で逃げ出した四葉を愉しげに見送った一花は、通話中のスマホを取り出した。

 

「ちゃんと聞こえてた?」

 

『お子様パンツ』

『ばっちり……おい上杉そこは黙っておくとこだぞ』

 

 スマホを手にする一花は、その瞳に強い意思の炎を宿す。

 

「明日、陸上部のとこに行こうと思う。君たちはどうする?」

 

『『行くに決まっている』』

『四葉を解放してやるぞ』

『おう!!』

 

 頼もしい二人の声を聞き、通話を切った一花は気合を入れた。

 

 

 




 走りながら問答していく雪斗と四葉。走っているペースが遅いとはいえ、息切れをしないとは恐るべき体力。

 実情(優れた弟妹を持つ兄姉の悩み)

 君たち(弟妹)があんまり優秀だと、我々(兄姉)の立つ瀬が無いんですよ…。ほんの2、3年とは言え、我々は先に生まれて君たちが辿ってきた道を一足先に歩んで来たんです。

 時には成功し、時には失敗し、君たちの通る道の露払いをしてきました……。その姿を見て何をすれば成功するのか? 何をしたら失敗するのか見てきたハズです。すごく勉強になったでしょう。

 我々は君たちに負けない為に、あらゆる努力しました。良く「自分自身がライバルだ」なんて言いますがそれはあくまで体の良い建前に過ぎず、真のライバルは君たちでした。体力で、知力で、経験で、技術で、頭脳肉体共に君たちに負けぬよう、兄姉としての威厳を保てる様に精一杯頑張りました。

 そんなある種の開拓者である我々の頭をヒョイと飛び越えられてしまっては、ホント立場が無いんです。

別に今更敬えだとか跪けだとか言いません。ちょっと気に掛けてもらえればそれで構わないのです。大人になってお酒が飲める年になったら親の偉大さが分かるように……我々の事も……。

…。

……オイ、やめろ!

そんな目で我々を見るな……! 我々が惨めにみられてしまう!

 ……なんてね。↑ネットに載ってたので少しだけ書き加えて挿入しました。面白いですねコレ。


 さて、ここから先は恒例の作者語りなので興味のない人はブラウザバック推奨。


 化学の分野は計算も多いですが暗記も多いです。特に無機化学や電池、高分子の分野などは暗記が必須です。大変だぁ~。毎日毎日何かしら覚えなければいけないという地獄。と言っても試験が終われば忘れるんですけどね。

 高校生でこれから理系を目指そうとしている皆さん、暗記は意味を理解していると覚えやすいです。語呂合わせでも良いですね。世の中様々な覚え方があるので色々試してみるのもアリですね。もう無理! と思ったら文転すればよいので。

 理系か文系かで悩んでいるのでしたら私的には理系をお勧めします。なぜなら理系は大体学年の4分の1しかおらず、それがそのまま日本の縮図なので、就職もしやすいですし、行きたい大学の幅も広がります(理系の大学だけでなく、文系の大学も受けれるので。また、ライバルが理系しかいません)その点文系は大学進学の時、理系の人も来る可能性があり、少し受かる可能性が低くなってしまいます。(ライバルが理系と文系の人になる)それらを踏まえた結果個人的には理系がお勧めという事になります。突き詰めれば、今苦労()するか将来(苦労)するかの違いですかね。自分の将来を大きく左右する決定なので、是非家族と話し合ってくださいね。

 また、大学からは暗記ではありません(勿論暗記もありますが)。高校で暗記した内容を理解し、自分なりに考えることが求められます。例えば炎色反応やイオン化傾向などの無機化学は、突き詰めると原子核による電子の束縛のされやすさで決まります。

 

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