五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 今回の話も8割弟です。


第47話 七つのさよなら その④

 

 

土曜日の早朝、ホテルにて。

 

 

 二乃を連れ戻すという任務を背負った三玖は、ホテルのセキュリティーを二乃に変装することによって突破し、二乃の部屋に入ることに成功した。

 

「お邪魔します」

 

「私にプライバシーは無いのかしら」

 

 とりあえず鬱憤を吞み込んだのは良いが、お茶を飲もうと湯沸かし器をガチャガチャし出した三玖に、今度は鬱陶しさが募った。

 

「あーもう、私がやるわ。紅茶でいいわね」

 

「緑茶がいい」

 

「図々しいわ!!」

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 四葉を解放する策として、四葉成り済まし策が練られた。内容は上杉が四葉に変装した誰かを連れてきて、その変装した人が部活を辞めたいと申し出る、という単純明快な策。

 僕は上杉が連れてくるまでの時間稼ぎとして、さり気なく時間を潰す。

 いつもより入念に備品のチェックをし、家から持ってきた調理器具と調味料を確認し、今日と明日の天気を確認し、黒薔薇女子学園までのルートを検索し、と時間を稼いでいたら、歩道橋の方からで「痴漢が出たぞー!!」と声がした。上杉の声だ。

 

「そこの人、止まりなさーい!」

 

 その声に釣られた四葉が階段を駆け上っていく。

 

 う~む、ようやる。 

 まさか四葉をおびき寄せるために痴漢の真似をするとは思わなかった。もっといいいやり方あっただろうに。それこそ『年寄りのお婆ちゃんが荷物を運べなくて困ってる!』って叫べばよかったのに。

 

 そして飛び出していった四葉の代わりに、四葉に成り済ました五月がやってきた。

 しかしなぜ五月なのか。こんなのすぐにバレるに決まっている。

 

「わ、私は四葉ですよー。ほら、このリボンを見てください」

 

 五月はそう言ってリボンをぴょこぴょこ動かした。

 

「うん。似てるけど違うよ。髪の長さが違うもん」

 

 当たり前だ。髪の長さが違うんだから。思わず天を仰ぎそうになる。三玖が一花に変装した時は髪の毛をキチンと見えないようにウイッグの中に入れてたんだから五月もそうしてよー。もー。

 ため息をついてその場にしゃがみ込むと、別の人の足音が聞こえてきた。

 

「お待たせしましたー! 皆さんごめんなさい! 五つ子ジョークです」

 

「中野さん!」

 

「今度は本物だよね?」

 

 ……いえ、これは二乃ですね。しかしどんな心変わりだ? 二乃が手伝うなんて。

 

「あはは。ちょっとしたドッキリです!」

 

「なんだ冗談だったんだね。でも笑えないからやめてよ。中野さんの才能を放っておくなんてできない。私と一緒に高校陸上の頂点を目指そう」

 

「……………まぁ、辞めたいのは本音ですけどね」

 

 部長の言葉に二乃が冷たい笑顔で返した。

 

「な、中野さん? なんで………」

 

「なんでって、調子のいいこと言って私のことは考えてくれないじゃないですか、そもそも前日に合宿を決めるなんてありえません」

 

 そう言いながら四葉に扮した二乃は、ゆっくりと部長に近づいてナイフのように鋭く、冷たい言葉を放つ。

 

「ホントマジありえないから」

 

 うむ、正に二乃クオリティー。言葉のナイフは部長を突き刺したようだ。

 

「はい……ごめんなさい」

 

 恐怖が腰に来たのか部長は地面に崩れ落ち、それを見た二乃は歩いて去っていった。

 

「まぁ、江端部長は確かにやり過ぎてはいましたけれど、安心してください。江端部長の気持ちはちゃんと四葉もわかっているので」

 

「………うん。ありがとう。………でも、駅伝どうしよう………」

 

 ぺたん座りから体育座りに変わった江端部長は組んだ腕の中に顔を(うず)めた。

 確かに。四葉がいてこそ駅伝に出られるのだ。つまり四葉がいなくなった今、人数不足で駅伝に参加する資格がなくなってしまった。

 四葉の代わりを早急に見つけなければ。でももし見つからなかった場合は……。

 

「どうしよう………四葉さんの代わり誰がいる? 四葉さんくらい運動ができる女子がいないと………」

「うーん………足が速くてペースが分かってて、あと緊張しない人がいいよね………」

 

 部員たちが各々考えているが、ここで蹲っていた江端部長がボソッと呟いた。

 

「中野さんの名前でもう出場登録だしてるの。だから四葉さんがいないと、どうしようもない」

 

 ええええ………。それもう終わってるじゃん。

 お通夜のような雰囲気が漂う中、あっ、と閃いた顔をした眼鏡をかけた女子が僕に指さした。

 

「いるじゃんここに。四葉さんくらい足速くてペース分かってて緊張しない人」

 

 ………今なんと?

 

「ああ、確かに白羽さんなら変装できますよね!」

 

 わいわい言い寄る部員たちに、ちょっと待ってと水を差す。

 

「えっまさか僕に出ろと? 無理です。それは流石にルール違反です。せめて中野姉妹たちから選んでください。彼女たちなら四葉に変装できます」

 

 男子が変装して出るなんて前代未聞だろ。

 

「でも遅いよね?」

「すぐにスタミナ切れるよね?」

「ペース分からないよね?」

 

 女子達は矢継ぎ早に言って説得しに掛かって来た。

 

「そ、それはそうですが………」

 

 どうしようと今度は別の意味で頭を悩ましていると、本物の四葉がやって来た。

 

「みんな、ごめんなさい。さっきのは実は二乃なんです」

「なら………!」

「ごめんなさい。二乃が言ったことは本当です。私は陸上部を辞めたいです」

 

 期待させてからの落とすという所業、そのせいで空気が天国から地獄へと行ったり来たり。

 

「でも、大会には出ます」

「ホント!? 今のホント!!?」

「うぇっ、ほ、本当です」

「やったー! みんな聞いた!? 中野さん出てくれるって! これなら駅伝に出られる!!」

 

 江端部長に迫られ狼狽えた四葉の手を取り、空へと突き出した。

 しかし四葉はまだ続きがあるのか、ちょっと言い澱んだように口をもにょもにょしてる。

 

「四葉、何か他にあるのか?」

 

「はい、その駅伝は出ますが、練習は出ません。なので、合宿も出ません」

 

 喜ばせといて落ち込ませるのが辛いのか、四葉は意味もなく手を組み視線を泳がせた。

 けれどその杞憂は杞憂で終わり、江端部長は構わないよと許した。

 

「よし、良い感じでまとまって良かった。さぁみんな、出発しよう」

「「「「はい!!!」」」

 

 これにて一件落着、万事解決オールオッケー。

 肩の荷が下りたなぁ………と下ろしていた荷物を肩にかける。今度は物理的に重い。

 歩き出した部員たちに遅れないように、僕も歩き出す。

 

「白羽さん、ありがとうございました」

 

 振り返れば、四葉は僕に向かって頭を下げていた。

 

「うん、元気になってよかったよ」

 

 それだけ返して前を向く。あ、そう言えば忘れるところだった。

 

「五月にも言ってあるけど、僕の家の冷蔵庫にご飯あるから持っていってあげて。五月一人じゃ三往復くらいはするだろうから」

 

 じゃーねーと手を振り返して、間が空いてしまった部員たちとの間を詰めた。

 

 空は青く澄み渡り、程好い冷気が吹き抜ける。

 今日は本当に、良い天気だ。

 

 

 

 

 

 上杉たちは中野家に戻り、そこには土下座をする四葉の姿が。

 

「この度はご迷惑をおかけしまして………」

 

「朝から大変だったねー」

 

「ご飯を食べたのは早朝だったのでお腹が空きました………早く食べたいです」

 

 五月は雪斗の家から持ってきた料理に目を向け、そこから漂ってきた良い匂いで空腹感が増したのか、ぐぅ、とお腹を鳴らした。

 

「全ては私の不徳の致すところでして」

 

「ユキト君随分と豪勢なもの作ったね」

 

 一花が二乃と五月が持つ料理に目を向け、美味しそうと顔を綻ばせる。

 

「うん。毎朝毎晩ご飯作って貰ってて申し訳なかった。でも今日からはシェフがいる」

 

「誰がシェフよ。ってかアイツに毎回ご飯作って貰ってたの?」

 

「うん。お陰で毎食出前は防がれた。あと栄養バランスも保たれた」

 

 中野家は雪斗の御蔭で栄養失調になることは免れた模様。

 

「自分たちで作りなさいよ!」

 

 四葉スルーは続いていた。

 

「大変申し訳なく………」

 

「その前に、おかえり」

 

 一花が目を向けた先には、二乃と五月があと一歩で玄関に入るギリギリのラインにいた。

 

「早く入りなさい」 

 

「お先にどうぞ」

 

「じゃあ同時ね。せーの」

 

「「………」」

 

 二人とも動かず。

 

「なんで動かないのよ!」

 

「二乃こそ!」

 

「さっさと入れ」

 

 再び争いを始めそうな二人を見て、三玖と一花は久々の賑やかな光景を嬉しく思った。

 

「よーし、じゃあこのまま………」

 

「試験勉強だな」

 

 三玖と一花の後ろには、他の選択肢を出させないように上杉が言葉を被せてきた。

 

「忘れてないだろうな。明後日から期末試験だ。文句ある奴いるか?」

 

「も、もちろんそう言おうとしてたよねぇ」

 

「もーみんな、ちゃんと聞いて………」

 

「あ? いつまでそんなこと気にしてんだ。早く入れ」

 

 上杉は正座で謝罪しようとする四葉を強制的に立ち上がらせて家に入れた。

 全員気にしている様子もなく、四葉は拍子抜けしつつも、受け入れてくれる家族の温かさを感じ、目を潤ませた。

 

「もちろん勉強は飯食ってからだ。俺はそこまで鬼畜じゃないからな」

 

 冷凍されていたものは温め直し、食卓には様々な料理が並ぶ。

 

「「「「「「いただきます!!」」」」」」

 

 この場にいない雪斗を思って上杉は残念だと思う。せっかく姉妹がひとつに戻ったこの光景は、上杉一人の力じゃできなかったからだ。だからこそ、この光景を雪斗にも見せたかった。

 

「で、陸上部とはどうなった?」

 

「あの後ちゃんとお話しして、大会だけ協力してお別れする事にしました」

 

「大会も断ればよかったのに。まぁ、大会は期末試験後だから別に良いか」

 

 ケッ、と上杉は嫌悪感をあらわにして呟いた。

 

「一度お受けした以上、それはできません」

 

「まあ、それも四葉の良い所だ。今更どうこう言う気はない。…………うん美味い」

 

 陸上部の話はもうおしまい。そのままワイワイ食事を続け、雪斗が作ってくれた料理に舌鼓を打つ。

 

「よし、試験勉強だ!!」

 

 ご飯を食べ終わり、気を充実させた上杉は立ち上がり宣言する。

 

「明後日から期末試験! 全ての問題が解決したんだから、これからは勉強に全振りだ!」

 

「私たちは今、ユキト君から貰った『これであなたもステップUP!』をやってるよ」

 

 一花と三玖、そして五月の3人は二段階目の問題集を机の上に出した。

 

「あいつ、いつの間にそんなヤツ作ってたのか……一体いつ寝てんだ?」

 

「中身は流石に手書きじゃないけどね……」

 

 上杉が一つ手に取り、中身を検分してみると、どうやら応用問題らしい。所々イラストが描いてあり、楽しく解ける様に工夫がされてある。またヒント付きで載っている。

 

「私達ちゃんとレベルアップしてるのかな?」

 

 そこがなんとなく気になったが、一花の声で顔を上げ、どうでもいい事だと割り切った。

 

「元が村人レベルだからな。ようやくザコを倒せるようになったくらいだ。そこでだ。俺は秘策のチートアイテムを持ってきた」

 

 自信満々にポケットから取り出されたのは白い紙。

 

「カンニングペーパ! これがあればボス期末試験を倒せるぞ!」

 

「あ、あなたはそんなことしないと思ってたのに…………」

 

 当に反則(チート)。上杉のらしくない言動に、五月以外もたじろいだ。

 

「なら、もっと勉強するしかない! カンペなんて使わなくてもいいようにこの2日でみっちり叩き込むぞ! 覚悟しろ! …………と、いう感じで進めていきますがよろしいでしょうか二乃様」

 

「……全く今まで散々好き勝手にやってたくせに。今まで通り、そのまま好き勝手にやればいいじゃない。………やるわよ。よろしく」

 

 上杉は勉強を始める五つ子を見て、心の中が達成感で満ちるのを感じた。

 

『なんてお節介焼いてくれるの?』 

 

『ぶっちゃけ家庭教師なんていらないんだよねー』

 

『頭いいって言ってたけどこんなもんなんだ』

 

『全部間違ってました!』

 

『あなたからは絶対に教わりません!』

 

 出会った当初、そしてつい先日まで関係は険悪だった。

 

 だが今はどうだ。家庭教師の日でなくとも自主的に勉強へと取り組み、ついにはあの分厚い問題集まで終わらせて見せた。

 

「よかったね、フータロー」

 

 それを見た三玖は、嬉しそうに微笑んだ。

 

「……そうだな」

(この光景を見せてやりたかったぜ)

 

 

 

 

 

 怒涛の二日間を終えとうとう期末試験当日。

 

 

「ついに当日ですね」

 

「少し不安だねー。大丈夫かなー」

 

「やれることはやったから大丈夫」

 

「あれ、上杉さんたちはどこに行ったんだろう?」

 

「らいはちゃんに電話ですって。白羽君は上杉君とこれからについて話し合うそうです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の屋上にて

 

 

「今日をもって家庭教師を退任させていただきます。あいつらはこの土日、机にしがみついて勉強をしていましたが、まだ赤点は避けられないでしょう。…………ただ勉強をさせる家庭教師ではなく、あいつらの事を考えられる家庭教師でなければ話は違ってたはずです。俺にはそれが出来ませんでした」

 

『そうかい。引き留める理由がこちらにはない。お勤めご苦労だったね。今月の給料は後程渡そう』

 

「ええ、ありがとうございます。…………あの、家庭教師ではなく父親としてやれることがあったと思います。ご存じですか? 二乃と五月が喧嘩をし、家出にまで発展したことを」

 

『初耳だね。もう解決したのかい?』

 

「はい」

 

『そうか。ならいい。教えてくれてありがとう』

 

「…………それだけですか? なぜ喧嘩したのか気になりませんか? あいつらが何を考え、悩んでいるのかを知ろうとしないんですか?」

 

『…………』

 

「ってすいません。雇い主に向かって生意気なことを…………あ、もう辞めるんだった」

 

少しは父親らしい事をしろよ馬鹿野郎が

 

 ピッ。

 

「あ、今月の給料もらえるかな」

 

「んーどうだろうね。しかし思い切ったことをしたな」

 

 スマホを返してもらいながら言う。

 

「別にいいだろ。スカッとしたぜ」

 

 そう言って二人してフェンスに寄りかかり、口を開く。

 

「「一花、二乃、三玖、四葉、五月」」

 

「お前たち五人が揃えば無敵だ。頑張れ」

 

「今までの努力を出し切ってみせろ。赤点でもいい。五人で頑張れ」

 

 

 僕たちはどこまでも青い空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 




テスト前だというのに屋上でのんびりする二人。これが学年首位の余裕か!
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