五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 新年あけましておめでとうございます。

 改めて地の文とか書くのは難しいなと思う今日この頃。その原因は簡潔に書きたくなる気持ちか、それとも私の文章能力が圧倒的に低いせいか……一体どっちなんだろう? ……明らかに後者。


第52話 今日はお疲れ その①

「もうこんな生活うんざり!」

 

 朝の9時頃、三玖に鍵を開けてもらって上杉と共にアパートに入って早々二乃の叫びが聞こえた。それと同時に背後にいた雀が飛んで行った。 

 

 冷たい朝の空気を纏いつつ、そのまま寝室に足を運ぶと二乃と五月が喧嘩している。

 

 三玖は言い合いをしている二人をよそに毛布にくるまり暖を取る。布団を出てから数分しか経っていないのにもかかわらず、爪先は紫色に変色し始めていた。

 

「五月! なんで私の布団に入り込んでくるのよ! それにあんたの髪がくすぐったいし、ばっさり切っちゃいなさい!」

 

「さ、寒かったんです! それに髪は自分が切ったからってずるいですよ!」

 

 寝相が悪かったんだろうな。五月の髪の毛がいつもより乱れている。具体的に言えばどれがアホ毛か分からない。はっ! 今こそ愛が問われるとき! ……いや分からんわ。髪の毛に愛もくそもあるかボケ。

 

「でもお布団は久々で、ぐっすり眠れないんですよねー!」

 

 あはは! と起きたばっかの四葉は寝起きが良いのか、既に元気溌溂。

 

「四葉はもう少し寝付けない方がいいと思う」

 

 そう言って三玖は左頬に手を当て、四葉に非難の目を送る。

 理由を訊けば、寝相が悪い四葉に殴られたらしい。

 

「あれま。少し赤くなってるね。僕の手で冷やしてやろう」

 

 そう言って僕は自身の右手を三玖の赤みがかった頬に当てた。

 

「……冷たくて気持ちいい」

 

 ここに来るまでの時間で、冷えてかじかんでいた僕の右手は三玖の熱を奪うには最適だったようだ。

 

「でしょ!」

 

 猫のように目を細める様子は見ていて可愛らしい。

 

「あはは、ごめんね三玖。でもベッドから落ちなくなったのは良かったです!」

 

 ごめんごめん、と顔の前で両掌を合わせる四葉は、悪びれた様子は一切なかった。

 

「四葉、それはあんただけよ」

 

 ベッドから落ちるってどんだけ寝相が悪いんだ? 足元にも枕が置いてあるし。さてはマンションでも足元に枕を置いてるな。寝ながらベッドの上下逆転するとは恐ろしい子。

 

「でも私の毛布が消えたのは不思議です」

 

「ほんとに不思議」

 

 何時の間にか喧嘩は終戦しており、五月が自身の毛布を探すために部屋を見渡す。

 

「………三玖が二枚の毛布を使ってるけど、一枚五月のじゃないの?」

 

 やけに厚くなってる三玖の毛布をめくってみると、内側にもう一枚あった。

 

「ああーー!! それ私のです!! 三玖! 泥棒はだめですよ!」

 

 五月はそう言って三玖を剥いだ。三玖は毛布が一枚無くなったことによって暖かさが逃げてしまい、体を震わせる。

 

「……うぅ、寒い」

 

「……はぁ、新生活早々これか。これだけの騒ぎの中でぐっすり寝ている一花を見習え!」

 

 そう言って上杉は先ほどから五月蠅くしているにもかかわらず、部屋の隅で惰眠を貪る一花を指さす。

 

「既に汚部屋の片鱗が見えるのですが……」

 

「見習っちゃあいかんだろ。汚部屋にするのも早いし……まっ、それはともかく、起きて一花、朝だよ」

 

 そう言いながら一花の首元に四葉の毛布を掛けた。コイツは家だと脱ぐらしいからな。マンションでの印象は今も覚えているぞ。

 

「……むにゃ……あ、ユキト君。おっはー」

 

「おっはー。じゃねえよ。服を着て早く来い。勉強するよ。それとも着させてほしいのかな?」

 

「あはは……恥ずかしいから勘弁して」 

 

 布団の周りに散らばっている服に目を向けながら言えば、一花は苦笑で返す。

 

「って言うか……仮にも乙女の寝室に入って来てんじゃないわよ!」

 

 今更気づくのか……と思いつつ、枕を投げようとしてくるので大人しく撤退しよう。

 

「ごめんごめん。起きたばっかだから朝ごはんまだだろ? 勝手にキッチン借りるね~」

 

 二乃に追い出されるよりも早く寝室を出る。尚、上杉は締め出された。

 

 

 

 それから30分後、5人が寝室から出てきた時、タイミング良く朝食を作り終えた。女子は準備に時間がかかるからな。暇つぶしには丁度良かった。

 

「ほれオムレツだ。食べる時にこの卵を割ってね」

 

 普通のオムレツとは違い、隠し味にマジックソルトが入っている。これを入れるとより美味しい。ベーコンを焼くときにも使える。

 

 みんなの前に皿を並べて手を合わせる。

 

「ではでは、みんな揃ったところで」

 

『いただきまーす!』

 

「我が主よ、あなたの慈しみに感謝してこの食事を…」

 

「ユキト君はカトリックだった?」

 

 胸の前で十字を切る仕草をしながら言えば一花からのツッコミを頂いた。

 

「この卵には何が入ってるの?」

 

 一花に冗談だよと返し、久しぶりにツッコミを頂いた気がすると考えていれば、二乃が卵を自身の耳元で揺らしながら訊いてきた。

 

「この卵の中にケチャップが入ってるんだ。だからケチャップが欲しい人は使いな」

 

 卵の底に穴をあけ、中身を出した後に洗浄してケチャップを入れる。そして白身を使って蓋をする。すると一見ただの卵だが、実はケチャップが入っているという驚き。簡単に作れるからお洒落にしたい時にやってみる価値あり。

 

「へ~。こういう使い方もあるんだ」

 

「面白いでしょ。今度やってみな」

 

 ケチャップ以外にもソースとか入れられるからね。

 

 そうして二乃にやり方を教授しながら食事は進んだ。

 

 

 

 朝食を終えて机を囲む姉妹。ようやく勉強できる。と思った矢先一花が夢の世界に誘われている。

 

「一花ー。夢の世界に行くのはまだ早いぞ~」

 

「………あっ、ごめんごめん。それと、朝はお見苦しいものをお見せしかけて申し訳ない」

 

 舟を漕いでいた一花は頭を振り、眠気を吹き飛ばそうとしているが、あまり効果は無さそうだ。

 

「……全く、服着ないと風邪ひくぞ。夏はまだしも今は冬だ。女優なんだし気をつけな」

 

 季節関係なく服を脱ぐ癖は止めた方が良いが……。

 

「習慣とは恐ろしいもので、寝てる間に着た服を脱いじゃってるんだよね。まぁ、家限定だけど」

 

 変な習慣だな。……あれ? 一花が服を脱いでしまうということは他の姉妹もそういう可能性があるわけで……ってことは朝起きたら全員……………これ以上は考えるのやめとこ。

 

「それと、これからは勉強に集中出来るように仕事をセーブさせて貰ってるんだ。次こそは赤点回避したいからね」

 

 眠そうな雰囲気を出す一花は、にこやかに笑いながら目標を掲げた。

 

「うん」

「そーね」

「今度こそは合格しましょう!」

「ええ、そうですね」

 

 一花に続いて他の姉妹も同じ目標を掲げ、意志を一つにする。

 外の冷気に負けないその熱意がいつまでも続いてほしいけど。途絶えてしまった時の事を今のうちに考えておこう。

 

「三学期の期末のテストが正真正銘のラストチャンスだ」

 

 上杉は真剣な眼差しで、次がラストだと語る。

 

「ああ、ぜひとも赤点回避をしてほしい。前回のテストを見た感じみんなの赤点回避は夢じゃない。共に頑張ろう」

 

 家庭教師として雇われている以上、少なくとも一度は全員が全教科赤点回避を達成してほしい。そう思ってしまうのは野暮だろうか。

 

「それじゃあ早速始めるぞ! まずは冬休みの課題からだ!!」

 

 意気揚々と自身の課題をテーブルに叩きつける上杉の瞳に、みんなの誇らしい顔が映った。

 

「課題なんてとっくに終わってるわ」

 

 二乃が姉妹を代表して言った後、5人はそれぞれ課題を書き込んであるノートを僕らに見せてくる。お~。ちゃんと終わってる。正解しているかどうかは別だが。それでも、赤い丸の数が今までの努力の証だと思うとちょっぴり嬉しい気持ちになる。

 

「あれ? もしかして上杉終わってない?」

 

 不思議そうな顔をして固まる上杉に話かける。

 

「いやちゃんと終わらせてある。………ただお前たちが終わらせてるとは思ってなくてな。驚いていた」

 

 ふ~ん。いつも通りの通常営業でいいじゃないか。

 

「とにかく始めようよ」

「ああ」

 

 三玖の一言で勉強会を開始。

 

「ユキト、ここが分からないんだけど」

 

 開始から10分、早速三玖からのお呼び出し。

 

「どれどれーっと………指数関数の問題か。

(1) 関数 y=2^(2x+1)-2^(x+1)+3 (x≦2) における最大値と最小値を求めよ。

これは2^x=tとおくと、yはtの2次式になる。tの範囲に注意して最大値、最小値を求めればいい。……ハイ一花寝な~い」

 

 少し目を離しただけで寝ようとしない! 

 

「いやー、ごめん。寝て………ない………よぉ………zzz」

 

 仕事による疲労が抜けていないからか、話しながら一花は眠りについてしまった。

 

「……とか言いつつ寝てるし」

 

 穏やかな寝息を立てる一花を叩き起こすのは偲ばれる。今の一花は勉強する事に対して消極的……という訳ではないし、頭が覚醒していない状態で勉強しても意味がない。

 

「この野郎何が全科目赤点回避したいだ」

 

 そんな僕の内心とは裏腹に、上杉が一花を叩き起こそうと身を乗り出せば二乃が口を開く。

 

「少しは寝させてあげなさい。さっきはあんな風に言ってたけど、本当は前よりも仕事を増やしてるみたいなの。明日も仕事があるみたいだし」

 

 一花を一瞥した二乃は、言外に寝かせてあげなさいと伝えている。

 

「私たちの生活費も払ってくれてますし」

 

 ……5人分の生活費は馬鹿にならんぞ。

 

「貯金があるから大丈夫って言ってたけど………」

 

 高校生の貯金などたかが知れている……。マルオさんの事だから銀行の口座に生活費や家賃諸々振り込んでいるだろうけど、この様子だと手はつけていないみたいだな。経済的自立も考えてるという訳ね。

 

「こうやって教えてもらえてるのも一花のおかげ」

 

 三玖は一花を後ろから抱きしめ、そっと呟いた。

 ……そっか長女してんな、一花。…………ただ、姉妹の前でかっこつけたはいいが、当の本人たちにはバレてるみたいだぞ。

 

「…………だからって無理して勉強に身が入らなきゃ本末転倒だ」

 

 それはそうなんだけど。ちょっとくらい寝かせてあげようよ。

 そう思ってまだ諦めようとしない上杉を止めようとすると、五月がおそるおそると言った様子で手を挙げて提案する。

 

「あのー……少しでも一花の負担を減らせるように私たちもバイトしませんか? もちろん勉強に支障が出ない程度で」

 

 一理ある。が………。

 架空の面接室を脳内に描く。

 

「………えー、じゃあ聞いてみようか。五月はどこにするの?」

 

「そうですね…………あ! 家庭教師はどうでしょうか? 教えながら学ぶ! これなら自分の学力も向上し一石二鳥です!」

 

「ハイ却下でーす」

 

 眼鏡をカチャカチャ鳴らし、意気揚々と提案する五月に速攻で否定する。まだ無理に決まってるだろ。

 

「ええ!?」

 

 即答されるとは思っても居なかった五月は、体を硬直させ驚いた様子を見せる。

 心無しアホ毛も固まっているように見える。

 

「五月はまだ人に教えられる程の学力はないでしょ。てんやわんやになるのが目に見えている。では次、四葉ー」

 

 面接室を出て行くイマジナリー五月を見送り、次の面談を開始。

 

「はいはーい! スーパーの店員はどうですか? 近所にあるのですぐ出勤できますよ」

 

 我が妙案に穴は無し! といった様子の四葉。

 

「レジの操作、品出し、時には理不尽なクレーム。それらに対応できる自信はある? 覚えることもたくさんあるよ。それらを踏まえて再度問おう。汝はスーパーで働けると思うか?」

 

 拘束時間で考えてみると、アルバイトだったら長くても四五時間くらいで終わると思う。近所なら出勤ギリギリまで勉強できるし、メリットはあるのだが……同じスーパーに四人全員が採用される訳ではないし、二乃か五月だといけそうだな。

 

「……………………ムリデス」

 

 具体的な内容を挙げていけば、四葉は腕を組み、自身がその場にいたときどんな対応を取るか考え、無理だと悟った。

 

「……お巡りさん! 私はやってない! 私は無実です!」

 

「お、おい急にどうした?」

 

 唐突に無罪を叫び出した四葉を上杉が抑える。

 

「上杉、四葉に暖かい毛布と飲み物をやってやれ。それでは次の人」

 

 発言からの推測だが、どうも四葉は警察に捕まったらしい。……どんな想像をすれば警察が出てくるんだ?

 

「私…………メイド喫茶やってみたい」

 

 恥じらう表情を見せながら三玖が希望を述べる。

 

「どこをやるの? 接客? 厨房? 言っちゃあ悪いが、接客するなら一花や四葉みたいに明るく振る舞う必要があるし、料理は人に出せるほどのレベルではないよね?」

 

 接客だったら猫かぶりすれば問題ないかもしれんが、長期間それが通用するかどうか……マニアックな人には受けそう。

 

「むぅ…………」

 

 三玖は自身の案まで否定されるとは思わなかったようで、頬を膨らませて不満気な表情を見せる。

 すまん三玖。人の生活に関わる以上責任は自身で取らなきゃいけなくなるんだ。だから厳しい事を言ったが嫌いにはならないでおくれ。 

 

「……二乃はお料理関係だよね」

 

「まぁ、やるとしたらね」

 

 二乃は頬杖をついて四葉の言葉に肯定する。

 

「だって二乃は自分のお店を出すのが夢だもん……温まる」

 

 部屋の隅で毛布にくるまり、震えていた四葉はコンポタを飲みながら口に出す。……なんか哀れ。

 

「へ~。そうなんだ。いいんじゃない?」

 

 出来たら通お。デザートの種類は多めがいいな。

 

「初めて聞いたな」

 

「…………子供の頃の戯言よ。本気にしないで」

 

 二乃は子供の頃の夢をばらされたからか、少し顔が赤い。

 

「居酒屋、ファミレス、喫茶店、和食に中華、イタリアン、ラーメン、蕎麦、ピザの配達…………今まで様々なバイトをしてきたが、どれも生半可な気持ちじゃこなせなかった」

 

 バイトするなら料理関係という話になったからか、上杉が嬉々として話し始める。

 そんなに飲食系のバイトしているのなら、料理できるのかな? はたまた全部接客か配達だったのかな?

 

「食べ物系ばっかり」

 

「賄いが出るからでしょう」

 

 でも賄いって気になるよね。場所によっては自分オリジナルのご飯を作れるらしいじゃん。 

 

「仕事を舐めんなってことだ! 一花が女優を目指す気持ちも分からんでもないが、今回ばかりは無理のない仕事を選んでほしいもんだ」

 

 さっきまで一花を叩き起こそうとしていた上杉は態度を改め、一花に心配する視線を送っている。

 そうだな。無理のない程度に働いてほしい。体調崩されたら困るし。

 

「……んー…………暑い…」

 

 これは………習慣が出ちゃうんじゃないか?

 一花が脱ぎだす前にマントで包む。すると一花は服の裾に手を掛け脱ぎ始めた。

 

「あぶねー」

 

 ふいー、と流れていない一筋の汗を拭い取り、一仕事をした達成感に身を包まれていると三玖が目隠しをしてきた。

「ユキト、フータロー見ちゃダメ!」

 

 三玖が背伸びしてまで僕の目を隠そうとしていると考えると、背後で必死になって僕の目を隠そうとする三玖に対し笑いが零れそう。そもそもマントで包んだから大丈夫だと思う。

 

「一花、まだ二人がいます!」

 

 雪斗と上杉がまだいるのにもかかわらず、脱ぎだした一花に五月はてんやわんやになっている。

 

「見てんじゃないわよ上杉! この変態!」

 

「何で俺だけ!?」

 

 二乃は目を三角にして上杉を罵倒するが、上杉は自身が罵倒されることに対し不服を示す。

 まあ僕は未然に防ごうとしてますからね。妥当な対応かと思います。

 

 結局一花は寝かせることにし、勉強会を再開。窓から入ってくる正月の陽気にあてられながら、滞り無く進んだ。

 

 

 

 

 次の日の昼前。空が澄み渡っており気持ちの良い天気。

 僕は上映会の時にもらったスイーツ店の無料券を片手に、そのお店(Revival)までやってきた。

 

「…………このお店って上杉が働いていたお店じゃないか」

 

 記載されている住所に間違いはない。ならここで合ってるんだろう。友だちのお店で爆食いするのは気が引けるが、だからと言って食べないという手段はない。

 

 そんなわけで、

 

「すいませーん! このチケット使えます?」

 

 ドアベルを鳴らして入っていき、厨房の奥から顔を出した店長に尋ねる。

 

「いらっしゃい。あ~、この後お店を閉めちゃうから使うのがもったいないと思うけど、どうする?」

 

 この後の予定を頭に浮かべた店長はバツの悪そうな顔をして訊いてくる。

 

「そうですか………じゃあまた今度使います。普通に注文するのは問題ないですよね?」

 

 このプラチナチケットはまた今度だな。

 

「ああ、大丈夫だよ。席に座って待っていてくれ」

 

 良かった。気分がもうスイーツだからな。これで食べられなかったら食い煩いを起こすところだ。

 

 入り口に一番近い席で座ってメニューを見ていると、上杉がアップルパイを持ってきた。

 

「やっほ~。今日上杉バイトだったんだね」

 

 僕のほうに歩いてきた上杉に軽く手を振る。

 

「ああ」

 

「? このアップルパイがどうしたの?」

 

 コトリ、とテーブルに置かれたアップルパイに目を移す。

 何? 食べていいの?

 

「そのアップルパイ俺が作ったんだが、失敗した。何か作るコツとかあるか? ……腹壊すかもしれんがそれでもいいなら食べてもいいぞ」

 

 ………客にコツを聞いてくる店員なんてお前しかいないだろうな。あと僕の心読んだ? 気のせい?

 

「……念のため言っとくが僕はアップルパイを作ったことは無いし、レシピも知らない。そしてこのお店のレシピを知ることになったらそれは情報漏洩になってしまう。そこんとこ大丈夫?」

 

「……店長に訊いてみる」

 

「聞いてから来いよ」

 

 上杉が退席してから数分。待ってる間に失敗作を一口食べてみた。生っぽいけど頑張れば食えなくはない。腹壊すことは確定だろうけど。三玖の料理とどっこいどっこいだな。なまじ食べられると思わせるこの味がイラつく。

 …………強いて言えば火力の問題かな? 外側はしっかりと火は通っているが、中までしっかりと火は通っていない。オーブンの設定ミスか?

 

「友だちだし別にいいってさ。俺のスキルが上がるなら是非だと」

 

 上杉が席に着くなりそう言ってきた。

 あの店長頭大丈夫か?

 

「あっそう、じゃあ聞くけどレシピ通りに作った?」

 

 料理が失敗するのはレシピに忠実に作らないのがほとんどの要因。

 それなのに頭の緩い人は「これ入れたら絶対美味しいよ!」とか言って何でもかんでも鍋やフライパンにぶち込んでくる。そして完成した時にこう言うのだ。「なんか思ってたのと違う」と。馬鹿か? 当たり前だろ。お前の頭はハッピ-セ〇トか? と言いたくなる。そういう人間はぜひとも一度眼科に掛かることをお勧めする。そしてその帰りに料理教室に行ってしこたま怒られろ。

 

「…………いやそもそもレシピを知らないな。見た記憶ないし。隣で店長に教わりながら作ったわ」

 

 作っている時の記憶を遡った上杉は、レシピを見た覚えがない事に気づいた。

 

「じゃあそれだろ。正しいレシピが分からないならどこを間違えたのかも分からない。レシピを書き出してもらってその通りに作ってみな。後火加減が間違ってるから見直したほうが良い。それとショートケーキ一つくれ」

 

 矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、最後に注文。

 

「分かったサンキューな」

 

 そう言って上杉は失敗作のアップルパイと一緒に厨房へと消えていった。がんばれ~。

 

 水で空腹を紛らわせていると、来客を告げるベルが鳴った。なんとなく気になったのでそちらを見てみると三人の女性が立っていた。

 

「わ~美味しそ~!」

「よろしくお願いしま~す!!」

 

 見た目は大人っぽいが、何処か幼い顔をして居るし女子高校生かな? よく分からんがキャピキャピしていて眩しい。陽な人は、我々陰な人には毒だから遮光カーテンを被せてやりたいと思う。そんな阿呆な考えを抱いていれば、もう一人女性が入って来た。

 

「よろしくお願いしまーすぅ……」

 

 その人は髪を両サイドに結んで、普段の印象とはだいぶ離れた…どこか幼い印象を出していた。

 ……ああ、あの女の人一花か。バッチリ目と目が合ったのでニッコリ笑顔で手を振っておく。

 

 一花がここに居るということは映画の撮影か。ちょっと無理言って暫くいさせてもらおう。面白くなりそうだし。

 

 




 週一投稿をやめて、文章の質が充実したら投稿しようかな。と弟に軽い気持ちで相談したところ、お前の上達速度はナメクジより遅いから変わんねぇよ。と言われました。……う~ん、納得!


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