五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 最後の試験が二乃の場合単品だと四千文字くらいしか書けなかったのでくっつけました。

 とうとう花粉が飛ぶ時期になりましたね。全く……この時期は私を殺しに来てますね。正直花粉は人を殺せると思っています……エッグシ! あ、鼻血でた。





第59話 最後の試験が二乃の場合そして攻略開始

 

『これで試験はすべて終了です』

 

 先生に試験の終了を伝えられた私は、筆記道具を片付けながら考えていた。

 

 ありえない……ありえないわ! 私が上杉のことを好きだなんて、絶対に認めない!

 

 多分……私があいつを気にし始めたのはクリスマスイブの時からだわ。でもその時は気のせいだと思ってた。ただ、キンタロー君のことを忘れられないだけだから……。

 

 それなのに今この瞬間もあいつの事を考えている私がいるわ。遊園地の時は後ろ姿がキンタロー君に重なってしまうし、三玖のチョコ作りの時はキンタロー君との会話を思い出してしまった。

 

 意識しないように努力すればするほど、ふとした時に上杉とキンタロー君が重なってしまう。それに雪斗に会う時にも思い出してしまう。……でも彼についてはまだマシね。変装が上手かったからキンタロー君と姿が被るなんて滅多にないわ。思い出すときは雪斗がコーヒーを飲む時だけだし……。

 

 うまく制御できない自身の感情をどう発散するかを考えながら私は帰路に着いた。

 

 

 

 試験結果返却日の放課後

 

『試験なんてどうでもいい、五人で一緒にいてほしいんだ』

 

『五人で一緒にいてほしかったんだ』

 

 二人して同じことを言うんだから……。

 

 私は改めて試験結果に目を通す。その内容は全教科赤点回避。努力が実を結んだことにほっと安堵の息をこぼした私は、つい頬が緩み、無意識に上杉に褒めてもらおうと考えてしまった事実に気づいた。

 

 ……ッ、何考えているのよ! あいつは私の白馬の王子様じゃないの!

 

 頭で否定すればするほど心は暖かい気持ちで溢れていることに気づかない振りをして、私は目的地に向かう足を速める。冷たい風に当たっていればきっと冷静になれる筈。 

 あいつは私の事なんて何とも思ってない。勿論、私もあいつの事なんて思ってない。だからもうあいつには会わない。これ以上一緒に居たら、私はおかしくなっちゃうわ。

 

 

 

 

二乃の試験結果

 

 

 

国語32点

 

数学33点

 

理科40点

 

社会48点

 

英語56点

 

 

 

総合点209点

 

 

 

結果:合格

 

たいへんよくできました!

 

 

 

 

 

 

 間もなく夕暮れから夜へと変わる時間帯。私はペンタゴンの前でパパに会っていた。

 

「帰ってきていたか、二乃君」

 

 私の前で、久しぶりに見るリムジンからパパが姿を現した。

 

「その君づけ、ムズムズするからやめてって何度も言ってるでしょ」

 

 全く、いつまで他人行儀で居るのかしら。普通家族の事は君付けで呼ばないわ。

 

「それは悪かったね、二乃。先ほど姉妹全員の赤点回避の連絡を受けたよ。君たちは見事7人で成し遂げてみせたね。おめでとう」

 

「あ、ありがとう……」

 

 まさかパパから労りの言葉が出るなんて思いもしなかったわ。

 

「どうやら、上杉君と白羽君を認めざるを得ないようだね。明日から二人の立ち入り禁止を解除しよう。だから明日からはこの家で……」

 

「いいえ、あいつらとはもう会わないわ。それと……もう少し新しい家にいることにしたわ」

 

 私はアパート暮らしで感じたこの気持ちを伝えるために来たのよ。断じて戻るために来たわけじゃないわ。

 

「……なんだって?」

 

 パパはいつもの無表情が崩れ、眉間に皺が寄っている。ちょっぴり怖いけれど、認めてもらうためにもここで引くわけにはいかないわ。

 

「試験前に5人で話し合って決めたの。当然一花だけに負担はかけさせない。私も働くわ」

 

「……」

 

「自立なんて立派なことしたつもりはない。正しくないのも承知の上。でも、あの生活が私たちを変えてくれそうな気がするの……。少しだけ前に進めた気がするのよ。今日はそれだけ伝えたくてきたの」

 

「……理解できないね。前に進むなんて抽象的な言葉になんの説得力もない。君たちの新しい家とやらも見させてもらった。僕には逆戻りしてるようにしか見えないね。五年前のようなあんな暮らしはしたくないだろう?」

 

 私の考えを伝えたらパパは口を開いて否定してきた。

 確かに昔は貧乏で苦労が絶えなかった。それでも姉妹たちが居たから乗り越えられた。だから今回もきっと乗り越えられるわ。

 

「いい加減わがままは……」

 

 パパの言葉を遮るようにブレーキ音が鳴り響き、一台のバイクが私たちの目の前で止まった。

 

「……一体何よ? ……って上杉?」

 

 顔に当たっていた光が止み、ヘルメットを外したその人物は上杉だった。私は用済みだと伝えた筈……どうして?

 

「ここにいたのか二乃。帰るぞ」

 

「はあ!?」

 

 上杉がここに来た理由を考えていた私に、上杉は突拍子もないことを言いだした。

 

「な、何よそれ!? ここに来た理由位教えてくれたっていいじゃない!」

 

「いいから早く乗れ。もうすぐバイトが始まる時間だ。お前が渋れば渋るほど俺の給料が手に入らなくなるだろ」

 

「たかが数十円でしょうが!」

 

 俺は10分前にINする人間だ。とか宣う上杉に私はそう返した。

 

「二乃」

 

「! パパ……」

 

 おっと、私としたことがつい熱くなってしまったわ。

 

「君が行こうとしているのは茨の道だ。うまくいくはずがない。後悔する日は必ず訪れるだろう。こちらに来なさい。何も自ら苦難の生活を送る必要はないだろう」

 

 パパの言う通り後悔する日が来るかもしれない。それが明日かもしれないし一週間後かもしれない。それでも私は進みたい道を選ぶわ。

 私が進みたくて進んでいる道だもの。その時が来たら私は笑ってそれを受け入れるわ。

 

 だから

 

「パパ、これからの私たちを見てて」

 

 それだけ言い残して私は上杉の後ろ座席へ乗り込み腕を回す。

 

「上杉、行って!」

 

 これ以上ここに居たらパパから何か言われるかもしれないわ。

 早く行くよう上杉を急かせば、上杉はパパに何か言った後にエンジンを吹かしてその場を去っていく。

 

 

 

 上杉は後ろに流れていく街の灯りを視界に収めつつ口を開く。

 

「……二乃、たかが数十円と言っても10分前にINすることを6回繰り返すだけで1時間働いたとの同じだけの給料が手に入るんだ。勉強と同じ。普段の努力が塵積って山となる」

 

「しつこいわよ! いつまでそれを引っ張るつもりかしら? ……っていうかあんたはもう用済みって伝えたはずなんだけど」

 

 ……上杉はもう一つヘルメット持ってないのかしら? 顔に風が当たるせいでコンタクトが乾きそうだわ。それに髪も乱れちゃうじゃない。

 

「ああそれな……ちゃんと伝え聞いたさ。だが面倒くさいことに人間関係ってのは、片側の意見だけじゃ話は進まないということだ」

 

「はあ? 何よそれ?」

 

 話し合いをしてからだって言いたいわけ? それが面倒くさいから伝言にしたっていうのに……。

 

「……っていうかこのバイク……」

 

 上杉ってバイク持ってたかしら?

 

「これか? 店長に借りた。前に出前のバイトをしてた時に無理して免許を取ったんだ」

 

「ふーん……ビックリするほどに似合わないわね」

 

 バイクに乗った上杉にときめいたとかそんなんじゃないから……。

 

「ほっとけ……もう知ってるかもしれないが他の姉妹も試験合格だ。頑張ったな」

 

「え? 試験が何!? 風で聞こえないわ! もっと大きな声で言ってちょうだい!」

 

 試験って単語は聞こえたけど、それ以外は風でよく聞き取れなかった。もっとよく聞こうと一層体を上杉に密着させようと手を動かせば、かさりと何かに指が触れた。何を触ったのかと目を向ければ、試験の紙らしきものが風に靡いているのが見えた。

 

「これのこと?」

 

 何? お約束をやりたいわけ?

 

「あ! やめろ! 見んな!」

 

 もしかしたら今日で上杉とはもう会わないかもしれないと思って、上杉のお約束を聞くために試験結果を見る。聞き納めってやつね。

 

 

 

 上杉風太郎の試験結果

 

 

 

国語89点

 

数学97点

 

理科94点

 

社会91点

 

英語88点

 

総合得点459点

 

 

 

 

 

「……っ、あんた」

 

 その紙には私の想像していた満点の文字はなく、全教科点数を落とした上杉の結果が記されていた。

 

「一生の不覚。マジで恥ずい」

 

 上杉が成績を落とした原因なんて一つしか考えられない。

 

「……私たちのせいよね……」

 

「んなわけねーよ。そんなこと気にすんな。とにかく、飛ばすぞ。しっかり掴まってろ」

 

 どう考えても私たちのせいなんだから見栄張らなくてもいいのに……そんな事を考えつつ振り落とされないように力強く上杉に密着すれば、一瞬体が後ろに引っ張られるような感覚がした。そのまま上杉の背中に顔を埋めていれば、上杉の体温を肌で感じていることに気がついた。

 

「……」

 

 また意識しちゃって恥ずかしいわね。意識を向けないように会話を続けようかしら。

 

「……寂しくなるな」

 

 信号待ちで私が会話の糸口を探っている内に、上杉からぽつりと呟くように聞こえた。

 

「……!」

 

 ……そうね。約半年間一緒に居たんだもの。……私だって寂しいわ。

 もう会わないと決めていた心が揺れ、まだ一緒に過ごしたい感情が溢れてくる。

 

「……ていうか、なんで私だけノーヘルなのよ! おかしいでしょ!」

 

 これ以上これからの事を話していると、決意が鈍ってしまうから、私はノーヘルのことを口に出す。

 

「だってお前が行けっていうから……」

 

「危ないでしょ! バイクの死亡率を知らないの!?」

 

「つーかヘルメットはこれ1つしかねーわ。白羽にヘルメット忘れるなよって言われたけど忘れてたわ。すまん。我慢してくれ」

 

「はあ!? 何で忘れてんのよ! ならあんたのをよこしなさいよ!」

 

「わかった! わかったから! とりあえず止めるとこを探すから暴れんな! 事故るだろ! こう見えてゴールド免許目指してるんだからな!」

 

「……全く嫌になるわ……あんたはずっとそうだったわ……」

 

「……」

 

 出会った時から今の今まで上杉は人の気持ちを考えずに。自分勝手、身勝手、ノーデリカシーの三拍子。でもそれに振り回されるのに不快に思わない私がいる。

 

「ほんと、最低。最悪」

 

 それはこいつにも私にも当てはまる言葉。

 

「後は……そうね……」

 

 心ではもう上杉を認めてしまっている私がいるから、会えないと辛いと叫んでいるから、温かく脈打つこの鼓動を無視することは出来ないから、

 

「好きよ。他の誰よりも」

 

 心のままに口を開けば、飾ることのない私の本心が出た。やっぱり私はコイツの事が好きだったんだ。

 上杉は私の白馬の王子様だった。見た目は貧乏のせいでどこかみずぼらしいけれど、性格は捻くれてるけれど、間違いなく私の王子様。きっとそれを変えるのは神様にだってできないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今か今かと告白の返事を待っている内に姉妹たちが待つRevivalに着いてしまった。

 

「いらっしゃ……なんだ上杉と二乃か。姉妹らは上杉の右側、奥のソファー席にいるぞ」

 

「あ! 上杉さ~ん! こっちですよ~!」

 

「今行く」

 

 ……言っちゃった、言っちゃった! 確かに心のままに口に出したんだけど……そもそも初めての告白なのに……あんな雰囲気のない場所で言っちゃうなんて……初めての告白はもっとロマンチックな場所でって決めてたのに! ………じゃなくて! 何で突然言っちゃったのかしら……あー! どうしよう! ……っていうか。

 

「なんだ、お前らまだ注文してなかったのか」

 

「二乃を待っていたんですよ」

 

 なんでこんなに無反応なのよ! さっきから返事を待っているのに……せめてYES or はいで答えなさいよ! 何でなんの反応もしないなんて……! 美少女からの告白なんて泣いて喜ぶものでしょ! なんでいつも通りなのよ!

 

「ね、ねぇ……さっきの話だけど」

 

「上杉君お帰りなさい。今は客足収まったけどお店に入ってくれるかい?」

 

「あ、店長。バイクありがとうございました」

 

 アタシが声をかけようとしたらこの店の店長が出てきたわ。

 

「流石に正式な店員ではない白羽君をキッチンに入れるわけにはいかないからね……でも後で勧誘しといてね」

 

「わかりました。……店長が聞いてみては?」

 

「あ……」 

 

 そのまま上杉は店長と一緒に裏の方へ入っていった……。まだ告白の返事聞いてないのに……。

 

「二乃ー! 早く早くー」

 

「……まあいいわ。後で話すことにしましょう」

 

 とりあえず今は姉妹たちと赤点回避を祝いましょう。告白の返事は食後の楽しみに取っとく事にするわ。

 

 

 

 

「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」

 

「ありがとねユキト君。では、飲み物とケーキが来たということで……」

 

 品を並び終えた雪斗に一声かけた一花がコップを掲げる。それに合わせて私たちも自身の目線の位置にコップを掲げる。

 

『期末試験突破! おめでと~! かんぱーい!!』

 

「本当に赤点回避できるとは思わなかった」

 

 そのまま喉を潤せば、三玖がそう切り出した。

 

「うんうん! この答案用紙を額縁に入れて飾りたいよ」

 

「それは……もうちょっといい点を取ってからにしよっか」

 

「お祝いだからって、こんなに贅沢しても大丈夫かしら……」

 

 お祝い事だからと言っても、家の貯金が危ない危ないことに変わりはないから、少しヒヤッとするわ。

 

「それなら大丈夫です。店長さんがご祝儀としてご馳走してくれるみたいですから」

 

 既にケーキの半分を胃に収めた五月が教えてくれた。

 

「まぁ、その代わりレビュワーとかで星5を入れてって言われちゃったけどね」

 

 ……そういうことなら、甘えてたくさん食べないとね。

 

「それにしても、私たちの注文する商品はやはりバラバラですね……」

 

「まぁこれは平常運転だよね」

 

 四葉の言う通り、今更気にしたってどうしようもないわ。

 

「はい、四葉。あーん」

 

 三玖は唐突に自身のケーキの一切れを三玖に食べさせたわね。急にどうしたのかしら?

 

「あ、あーん……急にどうしたの?」

 

 ひとまず咀嚼し飲み込んだ四葉は三玖の行動の意味を尋ねた。

 

「現代文の問題、四葉の予想とドンピシャだった。そのお礼」

 

 ……三玖の言う通り、四葉の予想していた範囲が含まれていたおかげでスイスイ解けたわね。

 

「そうでしたね」

 

「あれは助かったわ」

 

「じゃあ私もお礼しなきゃね、はい」

 

「私もも」

 

「私もです」

 

「えええ!」

 

 選んだケーキは違くても、姉妹に対する気持ちは同じだからか、みんなが同じタイミングでケーキを差し出したわ。

 

「……あーん……ししし、おいしいね!」

 

 ずーっと試験の事で思い悩んでいた四葉だけど、乗り越えられたからか輝く笑顔を見せてくれた。やっぱり四葉は笑ってこそよね。

 

「あ、でも、私もみんなに助けてもらったからお返ししないと……」

 

「それを言ったら私たちも……」

 

「では、少しずつシェアしましょう。きっとこの試験もそうやって突破できたですから」

 

 そうね。きっと私たちが誰か一人でも欠けていたらこの試験は突破できなかったでしょうね。

 

「それに、いろんな味が楽しめてお得です!」

 

「……本当はそれが狙いじゃ?」

 

 ほんとそれ。相変わらずうちの末っ子は食べ物に目がないんだから。

 

「はい、一花」

 

「!」

 

 みんなでシェアし始める前に、一足先に三玖が自分のケーキの一切れを一花に向けたわ。

 

「数学、教えてくれてありがとう。三角関数分かりやすかった。それに姉妹で一番だね。おめでとう」

 

「まさか一花が一番とはね。意外……といったら失礼かもだけど、どこにそんな力を隠してたのよ」

 

 てっきり今回も三玖が一番だと思ってたわ。仕事もあったでしょうに。

 

「あはは……運がよかっただけだよー」

 

「……次は負けないから。次こそは一番を取って告白するから」

 

「……うん」

 

 一花と三玖は小声で何か言った後互いにケーキを一切れを食べたわ。

 

「わっ! 五月のケーキすごいおいしい!」

 

「ええ、私のオススメです。もう一度食べてみたかったんですよ」

 

「もう一度って」

 

「あんたいつの間に一人で来たのよ」

 

 試験勉強で忙しくてケーキ屋に来ることは難しかった筈なのに……そこまでして食べたかったのかしら。

 

「えっと……その時もご馳走になりまして……みんなに話しておきたいのですが……私、学校の先生になりたいんです」

 

『……』

 

 ……学校の先生? ……そっか、ママのような教師になりたいのね。良い夢じゃないかしら?

 

「も、もちろん過ぎた夢だと自負していますが……」

 

「いいと思う!」

 

 静かになった私たちを前に言い淀んだ五月。それを打ち払うかのよう四葉が声高に賛同した。

 

「五月の授業、わかりやすかったもん! ピッタリだよ!」

 

「四葉……」

 

 そうね。確かに五月の説明は姉妹の中でも断トツに解りやすかったわ。

 

「当然、私たちも応援するよ」

 

「……ということは五月は大学受けるんだ」

 

「いよいよ3年生になるって感じね」

 

 こうして将来について話していると、私たちが無事に進級できることが実感できるわね。

 

「……あ、進級といえばお父さんに連絡しないと」

 

「それなら私がしといたけど返事が……」

 

「あー、大丈夫よ。さっき私が直接話してきたから」

 

「やっぱりマンションに行ってきたんだね」

 

「それでお父さんはなんと……」

 

「当たり前だけど、いい反応はもらえなかったわ」

 

 分かりきっていた反応とは言え、多少は期待していたんだけど……。

 

「今はまだ甘えさせてもらってるけど……いつかけじめをつけないといけない日が来るはずだわ」

 

「でもマンションに行ったにしては帰ってくるのが早かった」

 

「それが聞いてよ。笑っちゃったんだから」

 

 それから私は上杉が迎えに来てくれたことを話した。勿論後ろに乗せてもらってこともね。

 

『ええっ!? バイク!?』

 

 バイクの事を口に出せば、一斉にみんなが驚いた。そう反応するのもしょうがないわよね。いつもの上杉の姿を知る人からすれば、バイク乗っている姿は想像できないんだもの。

 

「なんだか想像つかないね……」

 

「イメージと違いすぎるね……」

 

「今度見せてもらおう」

 

「そうですね」

 

「ほんと、似合わなかったのよ。調子狂うわ。だから……あんなこと言っちゃったのよ……」

 

 普段のアイツをかっこよく思うことなんてなかった筈なのに、あんなギャップがあるなんて……。

 

「あんなこと?」

 

「なんでもないわ! ……あ! それよりお皿片付けないとね!」

 

 つい口に出ちゃったわ。みんなにバレてなきゃいいんだけど。

 

「それに店長さんにお礼言ってこないと」

 

「あ、私もお手洗いのついでに手伝うよ」

 

 私は空になったお皿を持って、上杉や雪斗、店長さんがいる方へと向かっていく。……五月の皿が私たちのより二枚増しで多いわね。……口には出さないけど、太るわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……うまく隠せてたかな……?」

 

 誰も居ない女子トイレで、一花は一人思い悩んでいた。

 お手洗い場で一花は自分の手を洗いながら、三玖のことでモヤモヤを感じていた。

 

 私は確かに三玖を応援していた。それは間違いない。それなのに私が一番だと分かった瞬間ホッとした私がいた。

 三玖は一番になったら告白するって言ってたけど……今回は私が1番だった。なら……。

 

『早い者勝ちだから……』

 

「……私が告白しても……いいのかな……」

 

 三玖が早い者勝ちと言っていた。それならば、自分が告白しても……という考えが脳裏をよぎった。

 

 

 

 

 

 さて、取り敢えずお皿を持ってきたのはいいものの、上杉のいるキッチンはここかしら?

 カチャカチャ皿を鳴らしつつ、キッチンを覗き込めば目当ての人がいた。

 

「ご馳走様でした……って、雪斗もいたのね。……あら? 店長さんは?」

 

「やっほ二乃。店長は休憩に行ったよ」

 

「そう……なら少し待とうかしら」

 

 店長にご馳走になったお礼を言いたいし。

 

「そうか……」

 

「「「…………」」」

 

 いままでどんな会話してたっけ? 今までこういう時なんて話をしてたっけ……。会話のきっかけを探していると、ふと上杉と雪斗が洗い物をしているのに目が入った。

 

「そ、そうだわ、待つついでだから洗い物、手伝ってあげるわよ」

 

「え? いや、別に手伝い要らねぇよ。姉妹の所で待ってろ。折角の祝賀会なんだから……」

 

「お客様を働かせるわけには……」

 

「アタシがやるって言ってるんだから素直に甘えときなさいよ」

 

 このままでは追い出されそうだし、これ以上何か言われる前に腕まくりをして洗い物に手をつける。

 

「お、おう……」

 

「ご、ゴリ押ししてきた……ならちょっと頼む。僕トイレ行ってくる」

 

 そう言ってトイレに向かう雪斗の足音が聞こえなくなってきた時、上杉が話しかけてきた。

 

「……悪いな二乃。洗い物を手伝ってくれて」

 

「ご馳走になったお礼よ。これくらい当然だわ」

 

 あれ? 今二人っきりじゃないかしら?

 それを意識した瞬間顔が赤くなってきたわ。

 

「そうか……っと、ここまででいいぞ。元々少なかったとはいえ助かった。後は俺らがやっとく。店長には言っとくから席で待ってろ」

 

「そ、そうね! そうするわ!」

 

 顔が赤い事を上杉に見られたくなかったから私はキッチンを後にしようとした……けど、思い止まった。

 

「? 二乃どうした?」

 

「……バイクで言ったこと、やっぱり忘れてちょうだい」

 

「!」

 

 あの時上杉から返事は無かった。それはつまり私に告白されて困ってるという訳じゃないかしら。そりゃそうよね。今は勉強にきちんと取り組んでいるとはいえ、初対面が最悪だったんだもの。きっと嫌われてるわ。

 

「困らせちゃうのは当然だわ。突然すぎたもの。少しアクセルを踏みすぎたみたい。何やってんだろ私……」

 

 ……私は十中八九嫌われてる。だから忘れてくれたら嬉しい。

 

「……」

 

 忘れてくれたら嬉しいけれど、それでも告白に良い返事をされるのを待つ私はどうかしちゃったのかしら……。

 

「二乃」

 

「!」

 

「……すまん、二乃は何について話してるんだ?」

 

 ……え?

 

「ええっ!?」

 

「正直心当たりがないんだが……。ていうか、あの時は結構風強かったし……もしかしたら、聞き逃してたのかもしれん」

 

「な、何よそれー!」

 

 私の一世一代の告白を聞き逃したですって!? 信じられないわ!

 

「だから何について……」

 

「何でもないわ!」

 

 私は投げ捨てるかのように言ってキッチンから出ていった。

 

 ……聞こえてなかったんだ。そうよね、風が強かったんだもの。私が試験云々を聞き取れなかったんだから上杉も聞こえないに決まってるじゃない……。結局私の独りよがりだったんだわ。それにあいつにとって私たちは恋愛対象外よね。

 

 キッチンから出ればすぐそこで雪斗が腕を組んで立っていた。

 

「……何も言わずにいて後悔するなよ」

 

「……ふん! 余計なお世話よ! 黙って見てなさい!」

 

 そう啖呵切ってアタシは上杉のいるキッチンに引き返す。ちょうど皿洗いが終わったところね。

 

「店長、皿洗い、全部片付きましたよ」

 

「あんたを好きって言ったのよ」

 

 聞いていなかったんならもう一度言うだけだわ。言わないで後悔するより言って後悔よ!

 

「……は? え? 何……?」

 

「返事なんて求めてないわ。ホントムカつく」

 

 私の告白に困惑しているようだけど、そんなのどうでもいいわ。

 

「恋愛対象外なら……無理やりにでも意識させてやるわ!」

 

 恋愛対象外なら、ありとあらゆる手を使って上杉を振り向かせてやればいい。そうそれだけ。

 

「あんたみたいな男でも好きになる女子が地球上に1人くらいいるって話したことあるわよね?」

 

「あ、ああ」

 

「それが私よ! 残念だったわね!」

 

「……っ」

 

 この私を惚れさせたんだから責任位取ってもらわないとね。勿論、私を好きになるという責任を!

 

 




 二乃が雪斗を見てキンタローを思い出してしまうのは、二乃が、雪斗が上杉に変装した時にコーヒーに睡眠薬を混入させた事を覚えているから。だから雪斗がコーヒーを飲むところを見ると、そのシーンを思い出してしまい、結果としてキンタローの事も思い出してしまうということです。

 原作で四葉が予想した現代文の問題は、『少年の日の思い出』というやつかなと思っています。エーミールという名前の少年が蝶の標本を魔が差して盗んでしまった小説です。
 『そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな。』の台詞が、私の学校では一時期流行ったりしました。読者様もきっと友達同士で言い合ったりしたんじゃないでしょうか? 懐かしいですね。
 会話の吹き出しで良く見えませんが、内容が標本の虫関係と言ったらこれしか思い浮かびませんでした。

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