五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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 ……原作で言うスクランブルエッグ①のスーパーの話がないため、こうなりました。

 アンケートの回答ありがとうございます。雪斗の過去については、ちまちま書いていく事にします。内容自体によっては、時間列がずれることを念頭に置いといていただけると助かります。




第62話 スクランブルエッグ ①

 春休みに入ったある日。五月から電話がかかってきた。

 

『……只今、電話に出ることが出来ません。ご用件がありましたら電子音の後にお伝えください。……ピー!』(機械音声の声真似)

 

『……もしかしなくてもふざけてます? 勘違いするので止めてください』

 

 ごもっとも。

 

「ごめんて。それでどうしたの?」

 

『来週家族旅行に出かけるので家庭教師は無しでお願いします』

 

「あらら、じゃあしょうがないね。楽しんできてね~。お土産話楽しみにしてる」

 

『こちらの都合に振り回してしまってすみません』

 

「別にいいよ。家庭教師の予定が決まったら教えてね。バイバ~イ」

 

『はい。一杯お土産話用意しますので楽しみにしていてください!!』

 

 五月の元気な声で耳をやられてしまった。……旅行かぁ……僕もどこか行こうかな?

 

 ピコン。

 

 スマホで良さげなところを探していると上杉からのメールが届いた。

 

『来週家族で温泉に行ってくる』

 

 ブルータス、お前もか! ……いいもん! 僕も来週どっか行くからぁ!

 

 真っ白な春休みの計画に色を塗るために、ネットの海を漂うこと数十分。良さげな情報を見つけた。……この離島に温泉があるらしい。ただ本島から船を使って数時間かかるらしいのでそこまで人気は無いらしい。……ここに決めた! 自然豊かな島で温泉に入るとか最高に気持ちいいんじゃないか?

 

 

 という訳で当日。僕は離島に向かう中型船に乗っていた。

 

 しかしあれだね。

 船って頻繁に揺れて船酔いすると思っていたんだけど全然違うね。大きな波が来ない限りは基本静かに揺れるだけで船酔いするほどでもないし。

 なんて取り留めのないことを考えてたら開けた広い場所にでた。いわゆる甲板である。

 潮風に靡く髪を押さえつつ、船首へと近づく。やっぱり船といったら船首に立ってタイタ〇ックの真似をするべきだよね。真似をする前に、周りに人がいないか見渡せば、こちらをジッと見つめる幼女が居た。

 あっぶね。気づかずに真似してたら恥ずかしい思いするところだった。

 そっか、にわかがしゃしゃんなって神は言いたいんだね。

 

「……」

 

「…………」

 

 どっか行ってくれないかな~、と凝視していれば幼女も黙って見返してきた。

 

「………………」

 

「……………………」

 

 

 ……………………………この勝負、目を先に逸らしたほうが負けという訳か……いいだろう。集中力において僕の右に出る者はいなぁい!

 

「お客様。先ほどから一体何を……?」

 

「すいませんなんでもないですはい。お気になさらず~!」

 

 それだけ言い残してとんとことことこ、とんとことことこ、と豚走。

 

 警備員さんの、明らかに不審者だろコイツの目には誰も勝てないよ。しょうがないよね。ブタ箱にぶち込まれたくないもん。

 第三者の介入というのはいただけないが、今回はドローということにしておいてやる。

 

 さて、何故だか僕の後ろをついてくるこの幼女はどうすればいいのだろうか?

 

1. 走るのを止めて理由を聞く。

2. このまま撒く

3. 自己紹介

 

 ……このまま撒いて怪我をさせてしまったら僕のせいになりそうだし、1でいこう。

 

 結論を出した僕はキキッと止まり、膝をついて目線を合わせるようにして話しかける。

 

「え~と、初めまして。なんでさっきから追いかけてくるんだい?」

 

「あ、えっと……」

 

 急に目を泳がせ始める幼女に、落ち着いて話すように言って続きを促す。

 

「兎みたいだったから……」

 

 そう言う幼女は僕の白い髪を触りたいのか手を伸ばしてきた。

 ふ~ん。物珍しさからだったか。今度から旅行するときは変装しておこう。

 

「……そっか、触ってみるかい? 兎のように柔らかくもないけどね」

 

 幼女が触りやすくするために抱っこしてみれば、両手で僕の髪の毛をぐちゃぐちゃにした。

 

「……思ってたのと全然違う」

 

 ほう、人の髪の毛をぐちゃぐちゃにしてその感想か。将来大物になりそうだな。

 

「……嬢ちゃん。お名前言えるかな?」

 

「知らない人に名前教えちゃダメって言われてる」

 

 弄ぶ手を止めて真剣な顔で言われた。

 

「うん。そうなんだけどさ……じゃあ両親は何処にいるんだい?」

 

「どっか行った。パパとママは迷子によくなるから困る」

 

 迷子になってるのは君では?

 そう思ったが口にはせず、一緒に探すことを提案すれば、目を左右に泳がせながら否定してきた。……幼女よ。さては貴様、なにかやらかして逃げてる最中だな。

 

 面倒くさいことになる前に乗務員か警備員に引き渡そ。……さっき不審者のような目で見られたが、人のためにやってるんだから捕まらないよな? ……うん大丈夫。大丈夫。そう、大丈夫だ。

 

 大丈夫は世界一汎用性が高い言葉だから。大丈夫、きっと大丈夫。多分恐らくメイビー……。

 

「……兎さん」

 

 自分は怪しくないと思い込んでいれば、幼女が僕の裾を引っ張ってきた。

 

「……それって僕の事? ……呼びづらいだろうし、特別にお兄ちゃんと呼ぶことを許可してあげよう」

 

「兎さん」

 

 無視すんなや。

 

「あそこ行きたい」

 

 そういう幼女は目の先にある物産展を指さしていた。

 ふむ。僕はさっさと君を引き渡したいのだが……いやしかし、ここで泣かれたら困る。幼女が泣く=僕が死ぬ。

 

 だからしょうがないか。

 

「何を見たいんだ? っておい」

 

 僕が一瞬悩んでいた隙に、幼女はキラキラと物産展で目を輝かせていた。

 

「このぬいぐるみほしい!」

 

 そう言って幼女は手のひらサイズで、どぎつい色をした鳥と思われるキーホルダーを差し出してきた。

 

「まじでいらん」

 

 それ嘴ついてなかったら鳥だと分からないぞ。カモノハシの突然変異種かな?

 

 見た感じ電子ペットのようなものだったので、電源入れてみる。

 

「ナデナデシテー」

 

「「……」」

 

「ナデナデシテー」

 

 ……ほれ撫でてみろ。

 ナデナデシテーとしつこいコイツを幼女に渡し、撫でるように言う。

 

「えっ? あ、うん」

 

 お前もひいてるじゃないか。

 

 幼女が死んだ魚の目みたいになりながら撫で続けること数分。

 

「ナデナデシテ、モット、オネガ、アハヒャ、モト、アヒャヒャ」

 

 ……少しずつおかしくなってんじゃねーよボケ。

 

「ファー……ブルスコ……ファー……ブルスコ……ファー」

 

 段々気持ち悪くなってきたんでつい首元にチョップしてしまった。すると目玉が飛び出て、ウオオオオオ! の断末魔とともに一言。

 

「モルスア」

 

 なにその鳴き声。聞いたことねぇよ。

 

「ほら、早く探しに行くよ」

 

 きっと買う気もなくなっただろう……そう思って元の棚に戻す。……にしても周りに複数の男女の組が居るというのに、この娘の両親はいないのか……。

 まあいい。僕が幼女に対して不審な行為をしなければ怪しまれる可能性は無い。大人しくしておこう。

 

「ほしいほしい。ほしいったらほしい!!」

 

 ……大人しくして……。

 ごろんがー、ごろんがーと駄々をこねる幼女に白い眼を送っていると近くのお客さんの声が聞こえて来た。

 

「買ってあげたらいいのに」

 

 はっ、いかん! ほかの乗客に聞こえているということは警備員の人にも聞かれているはず……!!

 

『普通兄妹だったら買ってあげるもんだろ。怪しい奴め。さては誘拐犯か』

 

 ゲスな奴め。逮捕だ。

 とまで頭の中で想像してしまった。

 どっちだ! 買ってあげるのが怪しまれないのか!? 幼女を餌で釣ってると思われないのか!?

 だってこれどう見てもいらんだろ!! 教育上よくなさそうな気がするし! さっき死んだ目してたろ! なんでこれを欲しいと思うんだ!?

 

「モルスア」

 

 うるせぇお前は黙ってろ。

 

 ……いやしかし、選択を誤れば死の危険が……!! うーん買うべきか否か……。よし! 買おう! 何故ならば僕は怪しくないからだ!

 

「……僕が悪かった。この鳥? を買ってあげよう。船旅の思い出にすると良い」

 

 僕は普通の兄。良き兄。そう。僕は決して怪しい人物ではない。駄々をこねる妹に呆れながらも買ってあげる良き兄だと周りには思われている筈ッ! 約1万円の出費となってしまうが、1万円で捕まらないと考えれば安いものだ。

 

 

 

 

「やっぱりいらない」

 

 

 

 

 は?

 僕の苦悩を返せよ。っていうかなんだよその顔。一体どんな表情? 怒り? 悲しみ?

 

 幼女は口をへの字に曲げ僕を睨んでくる。

 

 あれの購入を否定されただけでそんなに傷つくものなのか? 情緒不安定な年頃なのか!? 泣かせずに機嫌を取るにはどうすれば……!? 泣かれてしまったら良き兄から意地悪な兄になってしまう!

 

 お菓子をあげればいいのか? いや、ここでお菓子買ってあげるから泣かないでって言ったらそれこそ勘違いされる。そうだ、今こそ手品だ。

 

 よし。

 

「嬢ちゃん。良いものを見せてやろう」

 

「や!」

 

 幼女は首を左右に振り、拒絶を露わにする。

 

「いいからいいから」

 

 否定する幼女の手を握ってカウントをする。

 

「ワン、トゥー、スリ「君ちょっといいかな?」 ……はい?」

 

 僕の肩を叩き、中断させた人物は先ほどの警備員だった。

 

「何か?」

 

 僕怪しい行動していないはず……。

 

「それは君自身の行動を振り返ってみれば分かるよ」

 

 警備員はさり気なく幼女を自身の後ろに回し、腰についている銀色の輪っかに手を掛けた。

 

「え?」

 

 自身の行動を客観的に振り返る。

 

 幼女が男性を睨んでいる。

 男性が「良いものを見せてやろう」と幼女に近づく。

 幼女拒絶。

 男性が拒絶している幼女の手を取って、何かしようとしている。

 

 王手やん。僕も見てたら止めに入るレベル。

 

「いやいやいや勘違いですよ! 僕はその娘の両親を探しに一緒に居ただけですって!」

 

 だから応援を呼ぼうとしないで下さい!

 

「それの証拠は?」

 

 無線に向かって人員を呼んだ警備員が、証拠を出せと言ってきた。

 

 どうしたものかと考えあぐねていれば、わらわらと警備員がやってきた。わ~。これで僕が怪しまれていなければ野次馬していたのに……。

 

「僕はただあの娘が泣きそうになっていたので、笑わせようとしていたんです」

 

 僕を囲い始める警備員を視野に収めつつ話す。

 

「なら笑わせるために手を握ったのはどうしてだい?」

 

「それはこういうことです」

 

 そう言ってパチンと指を鳴らせば、幼女の手から鳩が飛び出した。

 

「僕マジシャンなので」

 

「わ~!」

 

 警備員はしばらくの間、僕らの頭上を旋回している鳩に目を取られていたが、幼女が楽しそうに手を伸ばしている様子を見て、勘違いだったことに気づいたのか、一言謝罪してくれた。

 

「いえ。貴方は正しい対応を取ったにすぎませんよ。それでは失礼します」

 

 それだけ言ってちょっとした煙幕を張り、姿を消す。

 

「うわ! ……あの男消えたぞ!」

 

「一体どんな手を……」

 

 警備員らは目の前で消えた男性がどこに行ったのかと、辺りを見渡す。

 

『私はこの娘を親御さんの所まで連れて行きますね』

 

 警備員に変装した僕は、周囲の警備員にそう告げ、幼女の手を引いて堂々とその場を後にした。

 

 

 

「……はぁ~」

 

 僕は人気が無いところに足を運び、ビリビリと変装を解いてため息をつく。そのまま幼女置いてくればよかったな……。

 

「兎さん別の人に成れるんだね!」

 

 ニッコー! とすごいねと話す幼女に少しばかりの怒気を抱く。おめぇがあの場で僕が無罪だと言ってくれればこんな事しなくて済んだのに……。

 

「……まぁね。次怪しまれたら弁護頼むよ」

 

 次弁明してくれなかったら、紙縒を鼻に突っ込みくすぐるの刑に処してやろう。それはさておき、念のため服装と髪色、目の色を変えておく。僕の第一印象は白だと警備員の人たちは認識したはずだ。僕の着てきた服も白系だしね。それを黒に変えるだけで僕が僕だと気づかれる可能性はぐっと低くなる。

 

 さて、探しに行きますかね。

 幼女を引き連れてあっちへフラフラ。こっちへフラフラ。待てど探せどそれらしき人物には出会えない。すれ違いがひどい。

 

 ……それにしてもめっちゃ懐かれたな。これだったらもう僕を不審者だとは思わんだろう。

 ここを凌げたらの話だが。

 

「すまん、僕は行かねばならんのだ。頼むからここで待っててくれ」

 

「やだああぁぁああああ!! 兎さんやだぁぁああああ!!」

 

「兎言うなや。そもそも無理なんだよ」

 

「やだああぁぁああああ!!」

 

「そんな事言っても、僕の膀胱は限界だと叫んでいるんだ」

 

 これで僕が負けて幼女が中に入ることを許してしまい、それを親御さんに見られたりしたら捕まる。そしたら僕は社会的に死ぬし。

 

 

 

 

 

 

 

 死ぬし!(重要)

 

「……すまないっ、さらばだ!!」

 

 ポンと音を立てて姿を眩し、トイレに駆け込む。

 

 

 

 美しい風景映像をお楽しみください。

 

 

 

 

 ふぅー危なかった。あとちょっとで暴発するところだった。

 

 手を拭き拭きとハンカチで拭けば外が騒がしい。耳をすませば、幼女が親に見つかり怒られているようだ。どうやらまだ帰りたくないからという理由で船内に隠れていたらしい。つまりこの御家族は1往復しなければいけないわけだ。……そりゃ怒られないように逃げるわな。とにかく、無事見つかってよかったね。感動の再会(拳骨の時間)を邪魔したくはないし、変装して行こうか。

 丸眼鏡をかけた白髪のお爺さんに変装。所謂、阿笠博〇verだ。

 

 そのまま我が物顔で行けば僕だとバレることもなく、その場を後にした。

 

 

 

 

 そして中型船に揺られに揺られて数時間。

 

 到着しました~! 離島! 空気が美味しいね! 地面が揺れているような感覚がまだするが、いずれ治るでしょう。

 

 変装を解いた僕は他の乗客よりも一足先に降りて船着き場で仁王立ちをする。さぁ最高な旅行の始まりだ!

 

 雲が若干漂っているが絶好のピクニック日和。

 人の手が入った山道を散策しながら歩いていると、

 

「「ヤッホーーー!!」」

 

 ヤッホ― ヤッホー

 

 と、どこか知ってる人の声に似ているやまびこが聞こえた。大声を出したくなるほどの景色か……楽しみだな。ウキウキしながら登り続けると、ちょっとした広場に出た。

 

 絶景とはまさにこの事。大きな山々を前に叫びだしたくなる気持ちもわかるってものだ。

 

 荷物の重さなんて忘れて柵の所まで駆け寄り大きく息を吸って肺を膨らす。

 

「「「ヤッホーー!!」」」」

 

「「「…………」」」

 

 声の主が誰かと、聞こえて来た方向に顔を向ければ、旅行に行っていたはずの上杉と五月がいた。

 

「五月……来てたんだ」

 

「白羽君も!?」

 

「まさかお前らも居るとは……世の中狭いな」

 

「あ、上杉居たんだね」

 

「お前さっき目合ったろ!」

 

 わざと惚けたのに殴ってきやがった。らいはちゃ~ん! 君のお兄ちゃん友達に殴ってくるぅ~!! 

 

「あ! あそこに鐘があるじゃん。鳴らしに行こ~!」

 

 まだ固まっている二人をよそに、何処となく神聖な感じがする鐘の下に向かう。

 

 鐘を鳴らすための紐を握りしめ、思いっきり揺らす。

 

 カラーン! カラーン!

 

 鼓膜を揺らす気持ちの良い鐘の音に心を清められる。……神社の鐘のように鳴らしてしまったけど大丈夫だよね……?

 

「あれ! 上杉さん白羽さん! 来てたんですね!」

 

「……ハァ、ハァ……き、来てたんだ……」

 

 声のした方を向くと、そこには良く目にする中野一家。

 

 どうやら僕とは違う道から登って来たようだ。……帰りはそっちから降りようかな。

 

 驚いたけれども折角会えたんだし、何か話でもしようかと思い、鐘の場所から一歩踏み出した途端に空気が重くなるのを感じた。……この感じ……まじかぁ……いや家族旅行だって言ってたし居るとは思っていたけど……。

 

 そちらを見れば思った通りマルオさんがいた。せっかくの旅行だと言うのに相変わらずの無表情。少しくらい楽しそうな顔すればいいのに……何なら笑顔verのマルオさんの顔作ってあげよっか? ……想像したらなんか気色悪いな……。

 

「まさに家族旅行だ。だが気をつけなければいけないよ。旅にトラブルは付き物だからね」

 

「こんにちわ。マルオさん」

 

「やぁ白羽君。君たちが来ていたとは驚いた」

 

「たまたまですよ……」

 

 今日のマルオさんは穏やかだな。挨拶無視するかと思ってた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この鐘は随一の観光スポット『誓いの鐘』です。この鐘を二人で鳴らすとその男女は永遠に結ばれるという伝説が残されています」

 

「は…はは…どこかで聞いたことある伝説だ。そういうのどこにもあるんだな。コンビニか!」

 

 ……もしかして僕は独身になることが決まってしまった感じか……? 嘘だよな……一人で鳴らしたら独身貴族街道まっしぐらになるとかそんな話無いよな? ……いや所詮伝説、気にすることは無い……よね?

 江端さんの話に戦慄を覚える。

 

「………さて、ここで昼食にしようか。全員準備を始めてくれ。ただし足元には気を付けるように」

 

「なぁ白羽。いつの間にあいつらは父親と和解したんだ?」

 

 それな。腹割って話し合ったんかな?

 

 今姉妹たちはマルオさんの力は借りず、出来る範囲でやり遂げると言ってアパートに住んでいるはず……なんだけど、マルオさんと一緒に居るし……やはり和解できたと考えるべきだろうか。折角の家族旅行なのだから僕たちは部外者。しかし事情は聞きたい。勿論邪魔はしないように。

 

「……さぁ? 僕も知らない。無事進級したからかな? ……でもそうなると僕たちの立場ってどうなるんだろうね? 聞いてみよっか」

 

 無事赤点回避して進級できたんだから雇用されるんじゃなかったっけ? 直接は聞きずらいし一花にでも聞いてみよ。

 

 たまたま近くにいた一花の所に上杉と一緒に尋ねに行く。

 

「ねぇねぇ一花」

 

「あはは……ごめん、忙しいから後にしてくれる?」

 

「わかったー……なら四葉…」

 

「う~緊張するなぁ……」

 

 だめだこりゃと、少し呆れていると二乃がこちらにやってきた。おっとこれは面白くなりそうだ。上杉は二乃に対して告白の返事をまだしていない。どっちに転ぶかな?

 

「さっきからどうしたのよ? 言いたいことがあるならサッサと言いなさい。フータロー」

 

 おっとこれは予想以上。まさか宣言した通りグイグイ行く感じかぁ。上杉呼びからフータローへの変化。呼び方一つ変わるだけで二乃の成長を感じるよ。

 

 だが呼び方のそれが完全に三玖と被っていたせいか、隣で準備をしていた三玖が反応する。

 

「! 待って二乃……今、フータローって……呼び方変えたの?」

 

「え? 私たちも出会って半年も過ぎたわ。だからそろそろ距離を詰めてもいいと思わない?」

 

「……それは常々考えてはいるけど…」

 

「……そうだわ! あだ名とかどうかしら? 三玖なんか考えなさいよ」

 

「えっ私っ?」

 

 突如上杉のあだ名命名を任さられた三玖はテンパり始める。

 

「どう…しよう……上…すぎ……フータ……君………フー君?」

 

「フー君……いいじゃない。それにしましょ」

 

 フー君、と舌の上で転がした感触が気に入ったのか、二乃は三玖の提案を受け入れた。

 

「僕にはなんかないの~?」

 

「雪斗? アンタはそのままでいいじゃない」

 

 ……二乃は好きな人とそうじゃない人との対応の差が激しいタイプか……。

 

「……まぁいっか」

 

 ダメもとで聞いてみただけだしね。

 

「……それより二乃準備しないと」

 

「はいはい、分かったわよ」

 

「なんだ一体」

 

 三玖が二乃を連れて準備を進める傍ら、僕らは首を傾げる。

 

「少しの間会ってないだけでみんな余所余所しくなっちゃったね」

 

 そうなってしまった原因は何なのだろうかと思案していると視線を感じた。感じるがままにそちらに顔を向けると五月と目が合った。

 

「何か用?」

 

「……」

 

「五月君、何をしているんだい? 江端から弁当を受け取ってくれ」

 

 五月は一体何がしたいのだろうか……?

 

「久々に全員揃ったからね。家族水入らずの時間だ」

 

 何か言いたげな五月に声をかけたが、五月の真意を計っている内にマルオさんに遮られて五月を連れて行かれた。

 

「な~んだかなー、距離を感じるよなー」

 

「……そうだな」

 

「おせーぞ風太郎、心配で戻ってきちゃったじゃねーか」

 

「遅いよお兄ちゃー…………あれー? 何でみんないるの?」

 

「らいはちゃん!」

 

「やはり上杉君も家族でいらしてたのですね」

 

「じゃあ、あの人がお父さん?」

 

「む…………似てるわね……」

 

「そう?」 

 

 どうやら先に下山していたらしい勇也さんとらいはちゃんが何時までもこない上杉を心配して戻って来たらしい。

 

 ふと、勇也さんは5人の奥にいるマルオさんに目を向ける。

 

「ん? ありゃ……」

 

「おや、雨が降ってきたね」

 

「……雲一つない快晴だけど……」

 

 山の天気は変わりやすいというけれども、僕らがいるこの山はそこまで標高高くないんだから気にしなくてもよくね?

 

「山は天気が変わりやすいものだね。下山して宿に行こう。江端、片づけを頼むよ」

 

 マルオさんはそう言い残し、一人先に下山し始めた。

 

「え~っと……」

 

「あはは、仕方ありませんね……」

 

「じゃあね、ユキト」

 

「多分同じ旅館よね」

 

「あの、白羽君」

 

「何~?」

 

「えーっと あの白羽君と上杉君に後程お話があります」

 

「OK、じゃあまた後で……楽しみなよ」

 

「はっはい。では」

 

 話して分かった。五月は何処か僕を避けている……あれれ~? 接し方も口調もいつもと変わらないのに壁のようなものを感じるぞ~?

 

「今雨降ってるかな~?」

 

「これから降るんだろうね~……面倒な事が起きそうな予感」

 

「同感だ」

 

 五月の話がどういったものかすぐに聞きたいが、マルオさんの言う通り家族の時間を邪魔するわけにもいかない……ああ゛メンドクサ。旅行しに来たのに頭を悩ませるようなことになるなんて……。

 

 その後上杉家の写真を撮ったり、ぶらついてから上杉一家と一緒に宿に向かった。

 

 

 

 

 

 林間学校の時とは違い、手の入っている森の中を歩くと年季の入った大きな旅館が見えてきた。名前は虎岩温泉。老舗な雰囲気が漂っていて歴史を感じる店構え。中に入れば木の匂いが呼吸をするたびに感じられる。

 

「わぁ、お化け屋敷みたい」

 

 旅館に着いたはいいものの、灯りがないのでとても営業してるようには見えない。らいはちゃんがそう思うのも頷ける。

 

「思っても口にしてはだめだよらいはちゃん。悪意のない純粋な言葉の刃は思いの外傷つける」

 

「なんか重みを感じます……」 

 

 まぁね。四葉にやられましたから。

 

 一応旅館が合っているか確認するが、やはりここで間違いない。あとは五月に会うだけなのだが、何時話せるのだろうか。時間がアバウト過ぎる。後程って何時だよ。せめて今日なのか明日なのかハッキリして欲しかった。取り敢えずチェックインを済ませ、廊下を歩く。

 

「さっきのカウンターにいる人に五月の部屋を訊いて行ってみるか?」

 

「電話の方が確実だろ。そもそも客様の個人情報教えるわけねーだろ」

 

 そう言って電話帳を開き電話を掛ける。

 

 プルルルル、プルルルル。

 

 ………出ないな。なんでだ?

 

「なぁ白羽、あそこにいるの五月じゃないか?」

 

 上杉の言う通り中庭を見ると五月がいるのを発見した。といってもすぐに視界から消えてしまったが、アホ毛があったからあれは五月だろう。相変わらず出ない電話を切りそちらに向かう。携帯は部屋に置いてきていたのか。はたまたマナーモードにしているのか。

 

「らいは、親父。俺も行ってくるから先に部屋に行っててくれ」

 

 と言う訳で中庭へ向かう。見つけてからそこまで時間は経っていないのでそこら辺に居ると思うのだけれど………ってか僕荷物置きに行きたいんだけど……後にしね?

 

「……どこに行ったんだ……あっ!? あそこに五月がいるぞ!」

 

 やっと見つけたかと思い、上杉が指さす方を向くと旅館の2階の廊下を歩く五月の姿が見えた。……なんでそんなところにいるんだよ。

 

「……行くか」

 

 五月の進行方向に出るように階段を駆け上がる。到着する頃には上杉は息を切らしていた。いくら走ってきたとはいえ、やはり体力がないな……。それで五月は何処に? 上杉から目を離し、廊下に視線を向けると、トイレに入っていくのを見た。

 

「さて、ようやく捕まえることが出来るという訳だが……出てくるまで時間がかかるだろうし、僕は荷物を置きに行ってくるから。後よろしく」

 

「分かった」

 

 力強く頷いた上杉をその場に残し、自身の部屋に向かう。幸い同じ階にあるし直ぐに戻れるだろう。

 

 チェックインした時に貰った案内図を見ながら部屋にたどり着く。襖を開けて中を覗き見ると綺麗に掃除され、畳の匂いが鼻を擽る。このまま寝転がりたい気持ちを押さえ、荷物を置いて部屋を出ると、勇也さんとらいはちゃんと出会った。どうやらお隣らしい。

 

「お! 雪斗じゃないか!」

 

「お隣だったんですね!」

 

「みたいですね……後もう少し上杉を借ります。すみません」

 

 一言謝罪し軽く頭を下げる。

 

「いや別にいいってことよ!」

 

「お兄ちゃんのことは好きに使ってね!」

 

「あはは……ありがとうございます」

 

 気持ちの良い家族だこと。会釈をして上杉の元に戻る。

 

 

 

 

 

「お客様」

 

「すみません」

 

「不審者が女子トイレ前にいると聞きまして」

 

「すいません」 

 

「他のお客様が怯えていますので」

 

「すいません」

 

 戻ってみれば上杉が女性スタッフから注意されていた。まさか女子トイレの前で待つとは……。こいつは頭が良いのか悪いのか……。スタッフが立ち去るのを見計らって声を掛ける。

 

「そりゃ女子トイレの前で立っていればそうなるだろ」

 

「くっ…………あぁっ!?」

 

 びっくりした~。急に大声出すなよ。

 

「今度は何? ……あれま」

 

 また上杉が指さした方を向くと、先ほどの中庭に五月の姿があった。

 

「……女子トイレの前に立ってたんじゃないの?」

 

 見つけはするのに捕まえられないなんて陽炎みたいだな。それか逃げ水。

 

「あ、ああ。ちゃんと目の前に立っていたからな。………いつの間にトイレから出てたんだ? 気付かなかった……」

 

「ふむふむ。ということは今トイレにいるのは中野姉妹の誰かということだな……」

 

「どういうことだ?」

 

「考えてみろ。このトイレって入り口ここしかないじゃないか。となれば、何か訳があって姉妹たちは五月に変装しているんじゃないか? そう考えればあの瞬間移動モドキの説明がつく」

 

「なるほど」

 

「という訳でもう少し待とうか」

 

 再びトイレの前で待つ……ことはせずに階段の方まで撤退する。待つこと2,3分思った通り五月(偽)が出てきた。

 

「ゴーゴー!」

 

「今度こそ捕まえてやる!」

 

 気合十分。今までヤキモキされていたからか上杉の目が血走ってる。

 

「ねぇねぇ。なんだ五月の真似してるの?」

 

 後ろから五月(偽)に話しかけると、アホ毛がピン! となってからこちらを振り向いた。………四葉じゃん。

 

「あ、えっと、その……すいません!」

 

「おい待て!」

 

 僕と上杉の姿を確認するや否や、脱兎のごとく走り去って行った。

 

「「………」」

 

「……あれ四葉だからね」

 

「……そうなのか、……いや分かってたし!」

 

 どうだかな~。嘘つけという視線だけ送っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 結局あの後誰も捕まえることが出来なかった。切り替えるためにも一旦風呂入ってさっぱりしますかとなり、僕と上杉は入浴中。上杉は混浴で家族で入るらしい。俺は男湯、しかも今現在は貸し切り状態で満喫中。つまり以下の方程式が成り立つ。

 

 温泉+貸し切り=最高。

 

 さらに両辺にコーヒー牛乳をn回掛けると”最高”は”神”へと単位変換される。尚、nは自然数で、∞へと収束する。∞に収束した時、”神”は”ア゛ァァァァ神…”になる。

 

「温泉サイコー!」

 

 世界(温泉)の中心で()を叫ぶ。僕は今自由だぞー!!

 

「白羽ー! 聞こえてるぞー!」

 

「ガハハハッ、構わねぇだろ。気持ちよくて叫ぶなんて気持ちは分かる」

 

「……びぶべいびばびた(失礼しました)…」

 

 鼻先まで温泉に浸かりながらそう呟く。ちょっと恥ずかしい。……しかし、結局みんなが余所余所しい理由は分からずじまいだったな……。

 まぁそれは未来の僕に託すとしよう。頼んだぞ未来の僕! うん分かった! ……ハイ。未来からの返事を頂いたので、僕は満喫するとしよう。

 

 あー、泳げるほどの広さあるってさいこー。

 

 

 お風呂、大好きー。

 

 

 

 ぷかぷか浮かびながらそんなことを考えていた雪斗であった。

 

 全身の力を抜きぷかぷかと浮いて楽しんだ僕は、もう1度体を洗ってから温泉を後にした。

 

 

 

 

 

 さて、温泉から上がったらやることは一つ。コーヒー牛乳を求めて自販機に足を運ぶ。

 

 おいおいマジかよ!? コーヒー牛乳と、イチゴオレ、さらにバナナオレだと!? しかもレモン牛乳にメロン牛乳なんて!? なんでも牛乳と混ぜればいいってもんじゃないぞ!

 

 うーん。どれにしようか……どれもこれも興味が惹かれるものばかりだ。全部試したい気持ちで溢れてるが、流石にこれ全部飲んでしまったらお腹壊しちゃう。

 僕が飲むのは一本だけだと決めている。なのにこんなに魅力的なナントカ牛乳があるなんて! この中から、僕はどれを選べばいいというのだ!?

 

 いやこういう時はシンプルイズベスト。そう、いつも飲んでいるコーヒー牛乳を飲むことにしよう。お気に入りに勝とうなんざ百年早いんだから。

 

 ささっと購入して右手を腰に当て、一気に呷る。

 

「んっんっんっんっ……………かぁ~! 骨の芯まで温まった体に、冷たいコーヒー牛乳がまるで砂漠のオアシスのように染み渡るぅ~!」

 

 やっぱりお気に入りが一番だね! コーヒー牛乳を改めて認めた僕は、飲み干したガラス瓶を回収ボックスに入れる。

 

「さて、この後は~っと」

 

 温泉に来たらやりたい事ランキング9位の娯楽施設で遊ぶ(wik〇調べ)、を是非ともしたいのだが……。何があるのだろうか……出来れば一人でもできる奴がいい。

 

 少し辺りを散策してみると卓球台、ホッケー、小さなゲームセンターがあった。……なるほどなるほど、はいはい、分かった分かった。……ソロプレイは出来ない感じか……しゃあねぇ、上杉誘お。

 

 お一人様には優しくないこの施設に目から水がちょちょ切れちゃうね。

 

「おい白羽、やっと見つけた」

 

「僕も探していたとこ」

 

 どうやら僕らは相性がいいみたいだね!

 

「この紙をお前に見せようと思ってな」

 

 そう言って見せられたメモには『今日の0時に中庭へ』と記されていた。0時まで起きている自信がないんだが……目覚ましかけとこ。

 

「了解。寝過ごさないようにしないとね」

 

「そうだな」

 

 さて、一通りの目処が立ったので遊ぶとしましょう。 

 

「上杉遊ぼ~。ここの施設お一人様には向いていないみたいでさ~、手持ちぶたさなんだよね」

 

「俺も運動したい気分なんでな。付き合うぜ」

 

 上杉はそう言って屈伸し始める。

 

「わぁ珍しい。どんな心境の変化?」

 

「気分だ、気分。」

 

 ふ~ん。……ならそういうことにしておこう。問い詰めてやっぱりやめるなんて藪蛇はしたくないし。

 

「じゃあ、卓球かホッケーだね。どれにする?」

 

「温泉に来たんだ。卓球一択だろ」

 

「いいね、そうこなくっちゃ!」

 

 短い会話を終えて位置に着く。

 

「……そうだ、負けたほうが罰ゲームなんてどうだ?」

 

 上杉の方から罰ゲームを言い出すだなんて……運動に自信ないと思っていたんだけど。

 

「いいよ~」

 

 僕卓球はあまり経験ないし、罰ゲームがあったほうがより楽しめるだろう。

 

「3本先取にしようか」

 

「それでいこう」

 

「いくぞ~」

 

 呑気な口調で球を打つ。

 球はネットを超え上杉の手元へ。

 

「しゃあ!」

 

 スカッ。

 

 思い切り振ったラケットに球は当たらず、風の切る音だけ響かせた。

 

「あれ? おかしいな。ラケットが悪いのかもしれん」

 

 上杉は自身のラケットを見ながらそう呟いた後、ラケットを交換。

 

「次は俺の番だ! おりゃ!」

 

 球は縦に大きな弧を描きながら僕の元へ。

 

「ほい」

 

 気持ち強めにラケットを振り、球は小気味良い音を立てて上杉の元へ。

 

「おら!」

 

 先ほどと同じように上杉は強くラケットを振り、見事球を捉えた。

 

「わお」

 

 僕の反応がギリギリ遅れ、1-1となった。

 ……上杉が運動したくなったのって、卓球やりたかったからか?

 

「じゃあ次は僕の番ね。……ほれ」

 

 バックスピンがかかるように打つが、気持ち変わった程度しか変化が見られず、そのまま上杉に返された。

 

「こんにゃろ」

 

 ならパワーこそ正義! と言うことで思いっきりラケットを振る。

 

「痛ぇ!」

 

 かなりのスピードを出した球は、空振った上杉の腕に当たった。

 

「あはは! ドンマイ! 僕リーチだぞ!」

 

 腕を摩る上杉にそう言い、罰ゲームになるぞと唆す。

 

「うっせ。それよりいくぞ。……あ、あれ何だ?」

 

「あれ?」

 

 上杉が指さしたほうに目を向ければ、僕の真横を球が通り過ぎた。

 

「おい! そんなのありかよ!」

 

「勝てばいいんだよ。勝てば」

 

 そこまでして僕に罰ゲームをやらせたいのか!?

 

「へぇ。言うじゃん。なら文句言うなよ」

 

 そう啖呵を切ってピンポン玉を打つ。球は遅く、緩い軌道を描きながら上杉の元に行く。勝ちを確信したのか、上杉は笑みを浮かべた。

 

「チョレイ!」

 

 どっかで聞いたことのある掛け声をした上杉だったが、不自然に球の軌道が変わり、打ち返すことは出来なかった。

 

「はい、僕の勝ち」

 

 ニヤニヤしつつ、手元の小型扇風機を元の場所に戻す。

 

「それはずるいぞ!」

 

 負け犬がよぉ吠えとるわい。

 

「勝てばいいんだろ? 勝・て・ば! そう言ったのは上杉じゃないか」

 

 ずるいずるくない。勝負はまだこれからとか言ってると、勇也さんとらいはちゃんを視界に収めた。

 

「一先ず、勝負はついたから罰ゲームな。内容は僕にコーヒー牛乳奢る事ね!」

 

「……それ位ならいいぞ」

 

 言質取ったかんな!

 

 その後、卓球をやってみたいと言ったらいはちゃんと一緒に遊び、客室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM:0:00

 

 約束の時間になってから部屋を出るという鬼畜。間違いなく五月の話に遅刻しているだろうが、散々僕らを振り回したのだから少しくらい良いよね。 少し緩んだ浴衣を締め直し、部屋を出て階段を下る。

 

「さみぃ。……現在進行形で寒シング。上杉と五月はもう話してるのかな?」

 

 スリッパをパカパカ鳴らしながら1階へ。廊下には電気がついてなく、月明りだけが廊下を照らしていた。

 

 ………受付のおじいちゃんまだいるんだ……。この時間そこに居ても客こないんだから休憩室に行くなりすればいいのに。

 

「あっ上杉おはよ~」

 

「……こんばんわだろ」

 

 どうやら上杉も今来たみたいだ。

 

「なんでもいいでしょ。あ!」

 

「あっ」

 

 ちょうど階段を降りてきた五月。……結局僕が1番か……。集合掛けたくせに重役出勤とは偉くなったな……。

 

「え、えーっと……取り敢えず中庭へ……」

 

「別にここでもいいでしょ? 他に誰もいないし。あのおじいちゃんは耳遠いだろうし」

 

「そうだ、今言え。もう逃がさないぞ」

 

「え、えっと………貴方たちは私たちとの関係をどう思っていますか?」

 

 関係?

 

「……そりゃ友達だろ」

 

「………」

 

 え? 違うの?

 

「教師と生徒の関係ともいえるな。パートナーとも言える」

 

「……」

 

 上杉の解答でもダメなの? ならもうヤケクソだ。

 

「……しかし、昨今の現代日本において”関係”と言われましても複数の意味がありますし答えも勿論複数出るでしょう。その答えをすべて言えば貴方は満足する回答を得られえるのでしょうか? そもそもあなたがどんな回答を望んでいるかによっては質問が悪いという考えもできますね。その意味を踏まえたうえで改めて”関係”と言われましても最早口を噤むしk「もう私達はパートナーではありません」」

 

 ……僕の早口による猛攻に耐えきれなくなったのか、口を開いてくれた。勝ったな。

 

「……ん~、まぁ確かに最近は授業とかやってないけど、僕らの目標は”5人揃って笑顔で卒業させる”だからな。まだ家庭教師は続くぞ」

 

「もう結構です。後は私たちだけでできそうです。この関係に終止符を打ちましょう」

 

「「………え?」」

 

 ……まさか五月から解雇を言い渡される日が来るなんてびっくり。そもそも僕はまだ雇用されていないんだけどね。

 でも冬の勉強を通して色々成長したんだろう。きっとこの数日間五月はこれからの事を彼女なりに考え、悩みに悩んで出した答えなんだ。……なら僕の返事は決まってるか。

 

「そうか……お前ら姉妹がそれを選んだなら僕は何も言わん。……寂しくなるな」

 

「白羽君……」

 

「何言ってんだ説明しろ。何か父親に言われたのか?」

 

 上杉は五月の肩を掴んで揺らすが、力が強かったせいか五月は太腿の裏をぶつけてしまった。

 

「痛っ」

 

 ん? 今の声質は……。

 

「なぜ今そんな事を言っ」

 

 上杉の言葉はおじいちゃんに投げられたせいで続かず、宙に溶けた。

 

 ……気配が希薄すぎて気づかなかった。そもそも流麗な技だったな。柔道……いや合気道か?

 

「爺さん、生きてたんだ」

 

 流石にそれは失礼だろ。

 

「…………、………」

 

 身を屈め上杉の耳元で何か喋るおじいちゃん。

 

「え? 何ですか?」

 

「……………、…………」

 

「はぁ?」

 

 僕も気になるので聞き耳を立てる。そしてその内容は、

 

「わしの孫に手を出すな………殺すぞ」

 

「「………」」

 

 ……モルスア。……殺意激強おじいちゃんだったか。……てか、孫って事はこの人祖父だったんだ。

 

 それよりも五月だな。もしかしてもしなくても、この五月、五月じゃねぇな。

 


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