五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第67話 バイトと進級

 温泉旅行から数日経ったある日、風呂上りの一花は自室で通帳に目を通していた。

 

「ん~、この調子だと家賃が払えなくなるな~」

 

 今日明日で困窮するとまでは行かないが、支出が収入を上回っている時点でこの先苦労するだろうと予測がつく。

 

「困った時のユキト君だね♪」

 

 君の声が聞きたかったんだ……とか言っちゃってね! キャー!

 

 ドキドキしながら軽やかにスマホを操り、相手が出るのを待つ。

 

 

 

 

 勉強の合間の一休みとして電子ピアノを弾いていると、電話が鳴ったので相手を確認しつつ出る。

 

『と言うわけで手伝ってください』

 

 と一花が開口一番ツッコんできた。

 

『……急に電話かけてきたと思ったら何だ? 前略どころか、全略されて何がなんだか分からないし。っていうか’もしもし’位言わせろ』

 

『それがね~、家計がやばくなってきたからみんなに働いてもらおうと思ってるんだけど、何かアイデアとかある?』

 

 アイデアね~……アルバイトしかなくね?

 

『お金に困っているのならマンションに帰ってきなさい。帰ってくれば今までの事は目を瞑ろう』(マルオボイス)

 

『お父さんの声で言うのはやめて、ヒヤヒヤする』

 

『ハイハイ……普通にアルバイトしかないでしょ。後で姉妹たちに向いてそうなものを送っとくね』

 

 頭の中でリストを作成しながら、一花の声に耳を傾ける。

 

『ありがとね! このお礼はまた今度に……』

 

『見返りなんて求めてないわ、じゃあね』

 

『え? ちょっ…』

 

 ……まだ言いたげな様子だが、話は終わったんだし別にええやろ。さて、Revivalと向かいのパン屋さんでアルバイト募集してたな。二乃と三玖はそこに勧めよう。三玖は料理が下手くそだが、流石に数をこなせば上達するだろう。それに真剣に取り組むからきっと何とかなると思う。女店主に丸投げだ。頑張ってくれ女店長。そして四葉は清掃業だな。一花のお部屋を掃除したりするらしいし、接客とかは基本しないから覚えるのが苦手な四葉には向いているだろう。五月は先生になりたいらしいし塾の手伝いとかならいけるんじゃないかな?

 

 考えを纏めてメールに書き込み、姉妹全員に送信……うん、これでオッケ。僕は方向性を定めるだけでいいだろう。働くのは彼女らだし、後は各自求人とか集めるだろう。  

 

 

 

 

 

 

 いよいよ来週から高校三年となるその矢先に、長女である一花が妹たちを集め、ニッコリ笑顔で口を開く。

 

「みんな集まってくれてありがと」

 

「前置きはいいから早く話しなさい」

 

 こうして一花が姉妹たちを集めて何か言うということは、昔から厄介事であることを理解している二乃は続きを話すように促す。

 

「……ゴホン、来週からお家賃を五等分しようと思います」

 

『!?』

 

「払えなかった人は……前のマンションへ強制退去だから」

 

 アパートに越してきてから今日に至るまで、一花一人に背負わせてきたのだ。それをみんなで分け合えるというのは、姉妹として喜ばしいことだが正直不安が募る。

 

「みんなで一緒にいられるように頑張ろ! ということで…よろしくね♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どおりで白羽君から私たちにお勧めのバイトを紹介してきたのですね……」

 

 そして五月はコップに浮かぶ氷を鳴らしながら喉を潤す。

 

「そうね、一花ったら事前に雪斗に相談していたみたいね」

 

 一度場所を変え近くの喫茶店にて、バイト探しの為に求人雑誌に目を通す姉妹たち。雪斗から送られてきたメールには、あくまで適性だからちゃんと自分で探して納得する場所を探しなさい。と書かれていたため、家に散らばっていた求人雑誌をかき集めて来た。

 

「コンビニ……新聞配達……どれも大変そうだなー」

 

 両手にビラを持った四葉が、自分が働いている様子を想像し始める。

 

「全員で同じところでできたら安心なのですが…」

 

「そんなに募集してる場所はないわ……そもそも私たちは得意な事も違うんだし」

 

「そうですね」

 

 五月は、たとえ同じお店で働けたとしても、得意な事が異なるため、いずれはバラバラになってしまうだろうと考える。

 

「私に接客業何て出来るかなー、うーーん……クビになる未来が見えてしまった……お金を稼ぐって大変だなぁ。私は白羽さんのアドバイス通り清掃業に絞ろうかな」

 

 自分には接客業は難しいと判断した四葉は、早速清掃業のアルバイトを探すため求人雑誌を漁り始めた。

 

「それでもお金が必要なんだもの……まさか急に言いだすとはね。念のため求人雑誌を集めておいてよかったわ」

 

 いつまでも一花におんぶに抱っこはよくないと考えていた二乃は、求人雑誌だけゴミに出していなかったようだ。

 

「でも……一花のあの感じ懐かしい」

 

「あ、私もそれ思った!」

 

「むしろ今まで一花に無理をさせすぎましたからね」

 

「そうね,ああなった一花はなかなか手強いわ。それにしても強制退去ということは……」

 

『緊張感しかない……』

 

 強制退去になったら広いあの家で父親と二人で食卓を囲むことになるだろう。正直緊張感で味なんて分からない気がする。そうならない為に姉妹たちは再び雑誌を手に取る。

 

「五月は目星つけた?」

 

「いえ……まだ決めかねています。白羽君には塾の手伝いを勧められていますが、まだ踏み出せないです」

 

 五月に送られていたメールには、お金にはあまりならないかもしれないが、教育の現場を教師の立場から見る事は将来のためになると書かれていた。

 

「あ! 上杉さんたちと言えば! こんなバイト募集を見つけました!」

 

『『!!』』

 

 四葉が頭上に掲げているチラシはRevivalのアルバイト募集の紙だ。

 

「私はそこにするわ」

 

 既に二乃はアルバイト先をrevivalと決めていたようだ。

 

「……私もそこにする!」

 

 Revivalのチラシに目聡く反応した三玖に、二乃が横槍を入れる。

 

「料理音痴なアンタがケーキを作れるとは思えないわ。バレンタインのチョコも私の御蔭でしょ? そもそもこれは私の得意分野よ」

 

「むぅ……なんでわざわざユキトたちのいるところなの?」

 

「うっ…あいつらがいるのは不本意……ふふっ、不本意だわ……味音痴のあんたはおとなしく諦めなさい」

 

 不本意と述べる彼女の表情は傍から見ても分かるほどにやけている。どうやら言葉だけで心は正直らしい。

 

「私はやっぱりみんなで一緒にお仕事したいなー! ねぇー三玖ー、このお掃除のアルバイト一緒にやろうよ。人見知りな三玖でもこれなら大丈夫だよ!」

 

「むむむ……」

 

 雪斗がいるRevivalに行くか、四葉と一緒にやるか、それともメールに書いてあった通り向かいのパン屋にするか、三玖は悩みに悩んで一枚のチラシを手に取った。

 

「挑戦は大事……だよね」

 

 ユキトに振り向いてもらうって決めたんだ。……でも、きっと今の私のままじゃ振り向いてくれない。だから私は変わらないと……。この挑戦(1歩)を繰り返せば、きっと私は変われるよね……。

 

 

 

 

 

 

 Revivalでのアルバイト中、休憩室で僕は上杉に話しかけていた。

 

「今日、二乃と三玖がアルバイトの応募に来るらしいよ」

 

「へー」

 

 逆向きに椅子に座り、背もたれに腕を置いた僕は、上杉の反応に眉を顰めた。

 

「……それだけ?」

 

 同級生と同じ職場で働くんだからこうなんかあるだろ。淡白な反応を返す上杉にもっと話せと促す。

 

「……そうだな、出来れば……に、二乃が欲しいな」

 

「だよね~」

 

 二乃を口にする上杉が、前髪をいじって目を逸らす様子を見てついニヤニヤしてしまう。相変わらず分かりやすい照れ隠しだ。

 

「それで上杉は二乃の告白にはどう答えるの?」

 

「二乃の件は……って何でお前がそれを知ってるんだよ!」

 

「現場にいたからに決まってるじゃん。なんなら二乃を焚きつけた張本人だし。これ証拠」

 

 ポケットに入れておいた録音機を机の上に置き、その時の音声を流し始める。すると、告白のシーンに近づくほど上杉は狼狽え始め、消そうと録音機に手を伸ばした。

 

「ダメ! 消そうなんてさせないぜ。これで暫くからかうんだ~♪」

 

 上杉が録音機を手に取る前に取り上げ、取られないよう席を離れ距離を取る。

 

「一番渡っちゃいけない奴に渡ってしまった……」

 

 無事音声が流れ終わる頃には、上杉は耳を真っ赤にしていたが、心を落ち着かせようと深呼吸をし始めた。

 

「……ふぅ、……二乃については変に構えない様しようかと思ってる」

 

 ちっ、落ち着くのが意外と早いな。もう少し羞恥に悶える上杉の様子を眺めていたかったのだが……。

 

「そっか、でも二乃は本気みたいだよ」

 

「……何が正解なのか俺には分からない……告白なんて俺には無縁と思ってたからな」

 

「ふ~ん。答えが何にせよ、キチンと向き合って伝えるんだぞ」

 

「分かっている」

 

 なら問題ないだろう。大いに悩め青年よ! そして恋に振り回される様子を見せてくれ!

 

「そろそろ面接の時間だ。行くぞ~」

 

「ああ」

 

 倉庫に向かえば、店長と二人が椅子を並べていた。そのまま店長の後ろに立てば、向かいに座る二人と目が合った。 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 なんか気まず。

 

「えー今日は面接ということで……まずは募集を見て来てくれて嬉しいよ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「しかしまさか二人も同時に来るとは」

 

 二乃に紹介したから二乃がここに居るのは分かるのだが……三玖もこっちに来るとは……てっきりパン屋のほうに行くかと思ってた……。

 

「なぜお前らがここのバイト受けてるんだ!」

 

「なんでこの子がいるのか、アタシも知りたいくらいだわ」

 

「出来るならうちも二人ともに採用してあげたいんだけどね、向かいの糞パン屋のせいでギリギリなんだ。だからチラシにも書かれている様に定員は一人だよ」

 

 パン屋さんが出来てからは売り上げが少し下がっているらしい。パン屋とケーキ屋の客層は一部被っちゃうもんな。

 

「……上杉君が辞めてくれたら二人とも採用できるんだけどね」

 

「ははは、店長冗談やめてくださいよ~笑えないですよ」

 

 笑い飛ばす上杉だが、店長の目を見ると意外と本気で考えている目だった。上杉よ、からかうためにも頑張って残ってくれ。

 店長と上杉が二言三言交わしていると、三玖が口を開いた。

 

「ケーキ作りたいです」

 

『!?』

 

 唐突な三玖の発言に、三玖の腕前を知っている僕らに衝撃が走った。

 

 ……三玖がケーキを作れるようになるまでどれ位かかるかな……。そして一人前に出来るようになるまでにどれくらい犠牲者が……うん。考えるのは止めよ。腹痛くなりそうだ。

 

「へぇ、得意なんだ……じゃあ君に」

 

「ちょちょっと! 私の方が得意です!」

 

 あっさりと採用しようとする店長に二乃が食い下がった。

 

「うーーん、上杉君、白羽君。彼女たちは友達だったよね……ここは任せた」

 

「「は?」」

 

 店長め、自分じゃ決められないからと言って投げてきやがった。自分の店なんだから自身で決めなよ。

 

「ユキトどうするの? 私にできることなら何でもするよ?」

 

「アンタたち、当然私を選ぶわよね?」

 

「「だから選んで!!」」

 

 まぁ正直答えは決まっているのだが、二人が納得してもらうためにケーキを作ってもらおうかね。

 

「じゃあこれから二人にはケーキを作ってもらう。それの良し悪しでどっちを採用するか決めるね」

 

 店頭に商品として並べるし、味も見た目も大事だから二乃が有利なんだけど……見たところ引き続き三玖も努力しているみたいだし、三玖の努力を確認するにもこの勝負は丁度いいだろう。指に残る目新しい切り傷を見てそう捉える。もしかしたら三玖はアパートで試作してみたのかもしれない。

 

「二乃には負けないから!」

 

「アタシが勝つに決まってるでしょ!」

 

 バチバチと火花を散らしている二人。う~ん、やる気があるようで何より。

 

「それじゃ勝負の説明をしようか。二人にはショートケーキを作ってもらい完成品を僕たちで試食。味も見た目も大事だから注意するように。……そうそう、アレンジも追加点になるからね。怪我に気を付けて……よ~いドン!」

 

 ショートケーキはケーキの王道だからね。多くのお客様が買っていく。王道を完璧に作ることが出来ればここでは一人前……って店長が言ってた。

 

 審判として立ち会う僕らを横目に、彼女たちは黙々とケーキを作り上げていく。

 

 さてさて結果はどうなることやら……真剣に取り組む二人を見ればどっちでも良いかなと思う気持ちが出てくるが、公私混同しないようにしないとね。

 

 

 

 

 

 

 …………どうやら両者とも終わったようだ。二人とも真剣に、全力で取り組んだんだ。勝っても負けても文句はでないだろう。

 

 さて、まずは見た目から判定しよう。二乃の作ったケーキは、何一つ崩れたものは無く、飾られた果物も綺麗に並べられている。このまま店に出せるレベルだ。

 

 三玖のケーキはというと……ホイップクリームがどろどろと滴り落ち、上に載せている苺もバラバラになってしまっている。一言でいえば、購買欲は絶対に湧かない見た目だ。

 

 次に実食。

 

「じゃあ俺からいこう……うーん二人共普通にうまいな」

 

 上杉の感想はオムライスの時と全く変わらない。コイツに味の感想を求める方がおかしいか。上杉の美味しい発言で店長は見た目だけ悪いと思ったのか、三玖のケーキを躊躇いなく食べる。

 

「うっ……うん、まぁあれだね。独創的な味だね」

 

 感想を伝えた店長は、さり気なくトイレへと向かった。

 

 最後は僕だな。まぁ答えは既に決まっているのだが……判定を待つ二人にちゃんと答えないと失礼か……。

 

 先に三玖の作ったケーキを試食しよう。

 

 フォークを差し込めば抵抗感なく吸い込まれていく。

 

「じゃあいただきまーす……ふむ、クリームが溶けていて風味や舌触りはよろしくないが……腕を上げたな、三玖」

 

 三玖は作業効率が悪かったのか、クリームが溶けてしまっていた。しかし試作した効果があったのか、味は少し良くないけれども、十分食べれるレベルだった。……まぁたくさん食べたらきっと店長のようになるな。

 

「……うん」

 

 誉められたことが嬉しかったのか、頬を赤らめる三玖を尻目に二乃のケーキに移る。

 

「次は二乃だね」

 

「ちゃんと判定してよね」

 

「分かってらい……いただきまーす。……うん文句なしに美味しい。お店に出せるレベルだね」

 

 見た目を裏切らない、頬が落ちる味だ。二乃の料理はいつ食べても美味しい。

 

「ってことは」

 

「うん。今回は二乃の勝ちだね」

 

 今回は三玖の負けだが、三玖が二乃に手ほどきを受け、練習を重ねればお店に出せるレベルに到達できるだろう。残念だが、三玖には向かいのパン屋さんに行ってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ来週からよろしく」

 

 店長のその声を最後に店を出る二人。

 

「負けた……」

 

「料理対決となればこうなるのは目に見えていたでしょ」

 

 雪斗と一緒にアルバイトできなくなり落ち込む三玖は、一息ついた後向かいのパン屋さんに足を運ぶ。

 

「じゃあ私、こっちにする」

 

「なっ!?」

 

 ケーキ屋を選んだ理由はユキトと一緒になりたかっただけだから。それが叶わない今、ユキトの勧めてくれたパン屋さんで働くのもやぶさかではない。

 

「随分と切り替えが早いわね……そのパン屋には雪斗はいないけどいいの?」

 

「うん、私の今の目的はユキトだけじゃないから」

 

「!」

 

「今日ケーキを作って、改めて思った」

 

『……腕を上げたな、三玖』

 

 先ほどの彼の言葉を思い出せば胸が温かくなる。この気持ちはきっと料理を始めてなかったら抱かなかっただろう。

 

「私、どうやら作るのは好きみたい」

 

 彼に美味しいと言ってもらえるためにも、まずはパンをものにして食べてもらおう。

 

 ユキトに好きになってもらえる私になるんだ……。それに、将来の進路として料理学校とか検討するのも良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 春休み明けの登校日。朝から部屋の外にいた一花と共に登校中。この前の二乃と三玖のバイトの件について話していた。

 

「……っていう事があったんよ。結果としては二乃を雇うことになったんだ~」

 

「あはは……みんなには困らせること言っちゃったなぁ」

 

 一花は僕の話を聞き終えれば苦笑いをする。

 

 まぁ今回の事は、姉妹たちにとっては良い経験になったんじゃないかな。勉強以外にもバイトとかで社会経験でも積んで欲しいしね。

 

「で、何で僕は一花と登校してるの? 他の姉妹は?」

 

 部屋を出た先に立っていた一花。僕を視界に収めるや否や腕を取って引っ張って来たので理由はまだ聞いていなかった。

 

「ん? お姉さんが寂しいユキト君と一緒に登校してあげようかなと思ってね」

 

「へ~………それで本音は?」

 

 人を寂しく思うのなら五月とでも一緒に登校してやれ。

 

「……少しは嬉しがる表情でもしたら?」

 

 そう言うのならば仕方あるまい。ふっ、と少し息を吐きだして意識を切り替え、営業スマイルを浮かべて口を開く。

 

「……わ~!! 朝から一花の顔を見られるなんてついてるなぁ~! 今日はいい日になりそうだ!!」

 

 一花の両手を握り、目をキラキラさせれば、一花は耳まで顔を赤くした。……何顔を赤くしてるんだか……女優なんだし言われ慣れてるだろ。

 

「……急に反則だよ…」

 

「嬉しそうにしろって言ったのそっちだろ。僕は悪くない」

 

 一花はまだ恥ずかしいのか両手で顔を覆いながら歩く。……電柱にぶつかるぞ。

 

「……むぅ………スゥー-、うん…よし。……私は今までは家賃や生活費のためで確実な仕事しかやってこなかったけど」

 

 一花は深呼吸をして心を落ち着かせ、本題を切り出した。

 

「私もやりたい事に挑戦しようかなって……思ってて…」

 

 どう思う? と小首をかしげて尋ねてくる。あざといその仕草が似合うのは美人だからか、女優として身に着けたスキルなのか……どうでもいっか。何はともあれ、別に否定するつもりはないし。

 

「……やればいいんじゃない? 今まで姉妹の為に色々やってきたんだろ? なら自分の為に時間やお金を使ってもバチは当たらんさ」

 

 一花は今まで家賃や生活費のために仕事をしてきたわけだし、そろそろ自分の夢のために行動を開始してもいい頃だろう。五月以外は無事バイトが決まったわけだしね。………五月に塾の手伝いを勧めたのはいいが、まさか足踏みをしているとは……飲食店が良かったのかな? 

 

「……いざとなったら力になるし、いつでも頼ってきなさい。あとせっかく上がった成績は落とさないようにね」

 

 最悪赤点だけは取らなければ良い。そうならないように僕も頑張らないと。

 

「あはは……ここまできたら卒業したいしね……これからも頼りにしてるよ、せーんせっ」

 

 まだ少し顔の赤い一花の微笑みにちょっぴりドキッとしたり……。魅力的な笑顔をするようになったなぁ……。

 

「私が言いだしたことなんだけど、少し寂しくもあるんだ」

 

「みんな働き出すしね、一緒に居られる時間も減るだろう」

 

「うん……そしてそのままバラバラになって、大人になっていくのかな」

 

 目先の事で言えばクラス替えでバラバラになったりね。

 

「そうだね……でもそれは悪くはないだろう。離れていても姉妹を思う気持ちは変わらないのだろう?」

 

「そうだねっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に到着し、上履きに履き替えてクラス分けの貼りだされた掲示板に向かう。まずは3年1組から見ていこう。人込みをかき分け視線を掲示板に向ければ上から順に、

 

 上杉と、僕と、中野姉妹たち全員と………まさかみんなと同じクラスになるとはね。……マルオさんの指示かな?

 

 それはそれで、今年最後は五つ子全員と同じクラス。実に楽しくなりそうな一年間となりそうだ。

 

 新しいクラスへと向かう足取りは軽かった。

 

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