五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第68話 学級委員長のお仕事

 教室に入れば何やら騒がしい。どうやら姉妹らが五人揃っているのは珍しく見えるそうで、クラスメイトたちは五つ子を取り囲み、あれこれ質問を投げかけていた。まるで動物園の見世物のようだな。一先ず上杉に挨拶しとこ。

 

「上杉おっは~、今年も同じクラスだな」

 

「みたいだな」

 

「それにしても姉妹たちが一緒のクラスになるとかやっべぇな」

 

 僕の席は上杉の4つ後ろのようだ。五月と隣だな。

 

「厄介事しか起きない気がする……」

 

 既に自主勉を始めている上杉に話しかければ不平不満な返事が返された。でも心の中では同じクラスになれてうれしそうな感じがするぞ。

 

「中野さん本当五つ子なんだねー」

 

「すげー可愛い」

 

「みんなそっくりー!」

 

 上杉と会話をしていると、クラスメイトたちの興奮した声が耳に入って来る。

 先程も思ったが、見慣れない人からすれば全員が揃った姿は物珍しいのだろう。クラスメイトが姉妹たちを囲み似たような質問ばかりを投げかけている。テレパシーとか使えるわけないだろ。

 

「みんな楽しそうだね~」

 

 ……まぁ五つ子たちは迷惑そうな雰囲気を出しているが。

 

「同じなのは顔だけにしてほしいがな」

 

 性格とか姉妹たち異なるから、クラスの人たちは接していくうちになんとなく区別がついていくだろう。

 

「……ではお困りのような姉妹たちを解放させに行きますか」

 

 早くしないと、二乃がキレちゃいそうだし。二乃が手を握りしめているのを見て、いそいそと其方へと向かう。そのまま教室の中を把握しつつ、姉妹たちを囲んでいる人込みに暫し紛れ、タネを仕込む。何かに夢中になっている人っていうのは扱いやすくて助かる。

 

 Now loading……只今タネを仕込み中。………お待たせしました……では早速。

 

 ポポポポポン!

 

 ポップコーンが出来る音の様に小高い音がクラスに響き渡る。

 

「わ!」

 

「なんだなんだ!」

 

 姉妹たちを囲んでいた生徒の肩や袖口、ポケットから鳩が飛び出す。

 

 急に現れた白い鳩に目が点になるクラスメイト。

 

 彼らが冷静になり姉妹たちの方に意識が戻る前に片をつけましょう。

 

「せっかく同じクラスになったのだから、マジックショーの開演といたしましょう!」

 

 クラス中を羽ばたく鳩たちを僕の頭上に集め、軽く頭を下げる。

 

 五つ子鑑賞会はこれにて終了。今からは私の独壇場といたしましょう。

 

 パチン!

 

 と指を鳴らせば、天井から色とりどりのリボンと風船が飛び出す。

 

「おお~!」

 

「キレイ!」

 

 視界を彩る物に視線を奪われれる彼らにもう一つプレゼント。

 

 パチン!

 

 もう一度鳴らせば、頭上に飛んでいた鳩たちが各クラスメイトの頭に留まる。

 

 クラスメイトが自身の頭を突き始める鳩に意識が向いたところで口を開く。

 

「最後はとっておきですよ」

 

 最後に手を鳴らせば、鳩たちは一声高く鳴いてから煙幕を出して消えた。

 

 咽る声が聞こえるが、一際濃い煙幕が晴れるころには歓声へと変わっていった。その理由は女子生徒の制服はドレス、男子生徒の制服は燕尾服に変わったからだ。

 

 各々が自身の格好を確認しようと躍起になっている内に朝のSHRの時間になった。

 

「夢の時間はこれにて終了」

 

 再び指を鳴らせばドレスと燕尾服はポンと音を立てて元の制服に戻った。この服たちは演劇部の所から拝借してきた奴だからまじまじと見られるとバレてしまう…。ヌスンデハナイヨ!

 

「ええ~!」

 

「もっと味わせてよ~!」

 

 不満が飛び交い始めるが、教室に入ってきた担任の先生の静まれの一言で終わった。

 

「白羽。マジックをするのは良いが、やりすぎるなよ……みんな席につけ~、オリエンテーションを始めるぞ~」

 

『は~い』

 

 すっかりと有頂天となっていた空気は霧散し、緊張感のある雰囲気となって来た。

 

「助かりましたね……」

 

「相変わらず気を遣う奴ね」

 

「まぁまぁ、お陰で解放されたんだし良かったじゃん」

 

「……うん、マジックも楽しめた」

 

「白羽さんは良い人ですね!」

 

 

 

 

 担任の低音ボイスをBGMに、配られたプリントを読んでいると、急に担任の声が聞こえなくなった。何かと思えば四葉が元気よく手を挙げたみたい。

 

「……なんだ中野姉妹その①」

 

 席順と名前が書かれたプリント持ってねぇのかよ先生。

 

「このクラスの学級委員に立候補します!」

 

「まだ誰にも聞いていないのだが……」

 

「そこを何とかお願いします!」

 

「反対もしてないが……まぁいいや。男子でやりたい奴はいるかー」

 

 担任がクラスに呼びかけ有志を募るが誰も名乗り出ない。まっそんなもんだよな。学級委員長になると人前に出ることが多くなるし、先生からの雑用も多いから好まれない委員だしね。

 

「皆さん困ったら私になんでも言ってくださいね!」

 

 ちらりと一花の方を見れば机に顔を突っ伏していた。耳が赤いということは四葉の行いが恥ずかしかったのだろう。

 

 さてさて、このままだと推薦、多数決ということになりそうだ。……アイツに学級委員長押し付けちゃえという、人間の黒い欲望に呑み込まれる哀れな被害者が出てくるな。

 隣の男子の声を聞けば武田が妥当だろうと話をしている。でも誰も彼を推薦しようと声に出す人はいない。誰しも先陣切るのは嫌がるみたいだ。

 

「私、学級委員にピッタリな人知ってます!!」

 

 停滞した教室の中四葉が動いた。

 武田が推薦されるのだとクラスが騒ぎだす中、四葉は彼を指定した。

 

「上杉風太郎さんです!」

 

 四葉の一声でクラスは大きくざわめき、上杉は動揺で体を揺らす。

 上杉が学級委員か……まぁ大丈夫か。四葉は周りをよく見ており、どんな時でもすぐに動けるようにしているし、きっと四葉なら上杉を上手くサポートしてくれるだろう。

 

「……他に意見がある奴はいないようだし、上杉が学級委員長に決定な」

 

 結局武田を推薦しようとするものは出てこず、上杉が学級委員長の席に着いた。

 

 陰ながら見守っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 退屈な授業も終わり現在は昼休みの食堂帰り……授業が始まるにはまだ余裕があるしトイレにでも行こうかね。上杉を連れてそのまま流れるように男子トイレに入り用を足す。特に話すこともなく花を摘んでいると僕と上杉の間の空いた便器に武田が割り込んできた。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 なんでコイツこんなに僕と上杉を見てくるんだ?

 

「ごきげんよう」

 

「誰?」

 

 誰かは知ってるが敢えて惚ける。自分が有名だなんて思いあがるなよ。

 

「誰だって?」

 

 ものすごく驚いた声で武田は言った。同じクラスメイトなのに? とでも思っているのか、訝しげな表情を浮かべている。

 

「上杉の知り合い?」

 

 武田を挟んで向かいに居るであろう上杉に尋ねる。すると上杉も知らないのか、無言で肩を竦めた。

 上杉も知らないってよ。ケケケ、残念だね!

 

「待て待て待て。君たち、本当に僕を知らないのか?」

 

 武田は僕と上杉が頭を傾げている様子を見て、目を丸くしつつ僕らに詰め寄って来た。

 

「や、すまない。今日はコンタクトをしてなくてね。人の顔がよくわからないんだ」

 

「そうだったのか……ちなみに今何本に見える?」

 

 武田は右手の指を折り曲げ訊く。

 

「う~ん……8?」

 

 目を細めて眉間に皺を寄せてふざけて答える。

 

「それはやばいね。視力は幾つ何だい?」

 

「コンタクト付けて視力は3.0」

 

 日常生活に視力3.0は要らないだろ。とか言う上杉の呟きはスルーする。

 

「……裸眼だったら?」

 

「2.0」

 

「……見えてるんじゃないか!」

 

「うん。ふざけただけ。それで僕と面識が?」

 

「いや、ないけど」

 

 じゃあわかるわけねーだろ。

 

 心の中でだけそんなツッコミを入れながら、うっすらとこんなことに勘付いている。

 

 なんかこいつ変な奴っぽいな、と。

 

「それじゃあ、今日を以てその脳にきっぱりはっきり焼き印しておくといい」

 

 脳に焼き印したら死ぬだろ。馬鹿なのかこいつ。

 

「僕の名前h「それで本題は?」……君は真面目に人の話を聞く気があるのかい?」

 

「ない。それより早く本題を話せ」

 

 顎でしゃくって本題に入れと促す。

 

「……はぁ、そうすることにしよう。……上杉君。君は随分中野さんたちに慕われているみたいだ…ね?」

 

 大きなため息をつき、少し疲れた様子を見せた武田は、家庭教師について切り込んできた。最初は慕われていなかったけどね。……つうか、その言い草だと僕が慕われていないみたいじゃないか。前言撤回しろ。

 

「だから何だ? 勉強の足枷にしかならんぞあの役職」

 

 本当に足枷にしかなってないというならば、今日に至るまで、無償で五つ子たちに勉強を教える必要はないだろうに。五つ子たちには将来給料払えと言ってるが、それって建前上言っただけじゃねぇの? まったくもー素直じゃないんだから。

 

「ふふふ、君も昔から何も変わらないね。流石僕のライバルだ」

 

 やれやれと上杉に暖かい目を向けていたら、武田は用が済んだのか、それだけ言い残して去って行った。……アイツそれだけ言いにわざわざ来たのか……あと僕を見てきた理由位話してけよ。

 

「あいつは何がしたかったんだろうね」

 

「さぁな」

 

 武田のよく分からない用事は水に流し(トイレだけにね!)廊下に出れば三玖が話しかけてきた。

 

「ユキトにフータロー……聞きたいことがある」

 

「ん~?」

 

「ここに魔法のランプがあります」

 

 三玖はそう言って胸の前に手で皿を作る。

 

「無いが」

「無いね」

 

「あるの……五つ願いを叶えてくれるとしたら何を望む?」

 

 五つも叶えてくれるんだ……某神龍も見習うべきだね。

 

「……心理テストかなんかか?……まぁお金持ちを望まない奴はいないだろう」

 

 そうだな。お金は何をするにも必要となるし……。

 

「他には?」

 

「う~ん、そうだな……体力向上、疲労回復、運気アップ……と寝付きの改善かな」

 

「分かった……ユキトは?」

 

 上杉の望みを復唱した三玖は、何処か期待した目で僕を見つめてくる。

 

「特にないんだが……強いて言えば、五つ子たちと上杉と一緒に何かしたいかな~程度」

 

「それだけ? あと4つ叶えられるんだよ?」

 

 そう言われても特に困ってることもないし……捻りだすか…。

 

「……じゃあ、ランプが望んだ好きなもので。これなら残りの3つの願いも叶えられるんじゃないかな」

 

「……分かった」

 

「……そうか、それで心理テストの結果は?」

 

「……」

 

「え? なんで答えてくれないの?」

 

 答えがない心理テストは楽しくないじゃないか! 1回目は見栄を張った場合の結果を見て、2回目は本心でやるのがセオリーだよね。……僕の答えは本心だよ? 勘違いしないでね?

 

「ああー-! 見つけた! こんな所にいたんだね。先生が呼んでたよ四葉ちゃん」

 

 何とか三玖から答えを聞き出そうとする所に、二人のクラスメイトがやってきた。

 

「む……」

 

 三玖は間違えられたことに口をへの字に曲げる。

 

「ほらほら」

 

「行くよ~」

 

「そいつは四葉じゃない。三玖だ」

 

 上杉は三玖を連れて行こうとする女子に注意する。

 

「え!?」

 

「そうなの!?」

 

 三玖は二人の疑問に何回も首を縦に振る。

 

「ついでに言えば三玖は首にヘッドホン掛けてるから、慣れないうちはそれで区別したほうが良いよ」

 

 上杉に続いて補足説明をしておく。

 

「分かった覚えとくね!」

 

「三玖ちゃんゴメンね! まだ覚えきれてなくて……」

 

「問題ない、慣れてる」

 

「あ! 今度こそ四葉ちゃんだ!」

 

 そう行って向かう先は五月の所。

 

「彼女は五月だよ~」

 

「え~、も~みんな同じ顔で分からないよ~」

 

 ニアピンで外してく二人にイライラしたのか、上杉はすこし強い口調で説明する。

 

「いいか! 五月はこのセンスの欠片もないヘアピンをしている! これで覚えろ! 俺もそうしている!」

 

「いきなり失礼ですね……」

 

 五月は急に上杉に貶された為、白い目を上杉に向ける。

 

「後アホ毛と敬語口調ね」

 

 上杉と五月の間からひょこっと顔を出し再び補足説明。

 

「四葉は悪目立ちしているリボンをつけている。それだけ覚えれば問題ない!」

 

 勢いよく言い切った上杉を見て、クラスメイトは顔を見合わせて口を開く。

 

「上杉君凄いね!」

 

「ありがと!」

 

「ちゃんと中野ちゃんたちのこと見てたんだ!」

 

「流石学級長だね!」

 

 上杉は二人に詰め寄られ、褒められたため照れた時の癖をしている。

 

「もっと五人の事教えて!」

 

「は?」

 

「ほら! あそこにもう一人いる! ……お~い! 四葉ちゃ~ん!」

 

 呆然とする上杉の腕を掴み二乃の所に連れて行く二人。

 

「いやあれは二乃!」

 

 遠ざかっていく上杉の背中を見送る。頑張って交流深めるんだぞ! お兄さん見守ってるからな!

 

「上杉君も変わってきていますね……」

 

「うん……四葉がフータローを推薦した時はびっくりしたけど、良かったかもしれない」 

 

 ……しかしまぁ、さっきの女子生徒は先程五つ子たちに質問を投げていた奴らだが、その時に誰がどういう特徴を持っているのかとか確認しなかったのか? 少なくともヘッドホンを身につける女子生徒なんて三玖しかいないだろうに……。

 

 3年生になっての初めての登校は、問題なく無事に終わり下校。

 

 

 

 

 

 その日の夜。五つ子姉妹の住むアパートでは姉妹会議が開かれていた。

 

「聞いてきたよ、ユキトとフータローの願い事」

 

 三玖が紙に書きだした二人の願い事が、一体何かと他の姉妹が覗き込む。

 

「ユキト君のは、ランプが望んだもの……つまり私たちの選んだものなら何でもいいってことかな? あとは私たちとフータロー君とで何かをやりたい…か」

 

「う~ん、少し難しいですね。何をあげれば喜んでくれるんでしょうか……」 

 

「……それでフー君のはお金持ちになりたい、体力の向上、寝付きをよくして疲労回復……運気アップってどうすればいいのかしら?」

 

「どうしよっか?」

 

「いずれにせよ急いだほうが良いわね」

 

「もうすぐですからね」

 

「上杉さんの誕生日!」

 

 カレンダーには小さく赤い丸が付けられていた。

 

「……白羽君の誕生日は不明ですからいつものお礼という形になりますけどね……」

 

 

 

 

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