五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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どうもお久しぶりです。葉陽です。
海老天つきの蕎麦の所は弟の作品から引っ張ってきました。許可済みです。


第70話 学級長の噂

 どうも、先日二乃の初バイトの日に回収した録音を聞いてニヤニヤが止まらない白羽雪斗です。

 

 まさか慰めから二乃のラブコールに繋がるとは思いもせず、優雅に足を組み、お茶を飲んでたらつい吹き溢してしまい……虹が出来ました。後イケ鳩さんがびしょ濡れになりました。ごめんね。

 さて、上杉は二乃に告白され、バイト先までが同じとなる神の悪戯(僕の思惑)に頭を悩ませているが、最近になって四葉と上杉が付き合っているという噂が流れ始めている。

 

 まぁ……上杉本人は学級委員としての職務以外で、他人との交流を拒んでいるからこの噂には全く気付かず、四葉は四葉で人一倍動いているせいでこちらもまだ噂に気づいていない。二人は今日も共に学級委員としてクラス中を動き回っている。

 そんな忙しなく日々学級長として働く上杉は、喜ばしい事に徐々に周りの人間から評価を受け始めている。特に先生方から。しかし残念なことに、学級長として認識されているものの、名前を出せば頭を傾げられるという悲しい立ち位置になっている……。上杉は自身の名前を学級長に改名したほうが良いのかもしれない。

 

 

 そんな僕は上杉に改名を勧めるべきか悩みながらも体育の授業をしている。今は体力テストの50メートル走のタイムを測るためクラスのみんなが汗水垂らして全力で走っている。

 

「はぁはぁ……もう動きたくない」

 

「おつかれー」

 

「体力のある…はぁ……お前が羨ましい」

 

 上杉は走り終えた僕の所に来た途端、膝から崩れ落ち息も絶え絶え…。その体力不足は結構深刻だと思うぞ。

 

「それでタイムは?」

 

「11秒」

 

 上杉は喋るのも辛いのか、苦し紛れに言う。

 

「……何もいえねぇ」

 

 男子高校3年生の平均タイムは7.16だ。如何に上杉が遅いのかが分かる。

 

「ほっとけ」

 

 上杉の足の遅さに嘆きながらも女子の方を見れば、にこやかに走り息も切らさずゴールする四葉と、5秒程遅れてゴールしその場に倒れる三玖。

 

「中野さん6.9」

 

「鬼速ぇ…」

 

 女子高校3年生で6.9秒は上位2.5%に位置している。

 そりゃ、そんだけ速ければ陸上部に勧誘されるわな。

  

 クラス全員のタイムを測定し終えたため、教員が授業の切り上げを口にする。教員が体育委員を探すがどうやら今日は休みのよう。そこで学級委員に片付けの命が下った。

 

「僕も手伝うから行こ~」

 

「助かる」

 

 重い腰を上げる上杉と共にそちらに向かう。

 

「じゃあ僕がこの二つの籠を持つから、カラーコーンの回収よろしく」

 

 膝が未だに笑っている上杉が、カラーコーンを回収しに向かうのを見届けた僕は、測定用の機材が諸々入った籠とハンドボールの籠を持って歩いていた。すると三玖と一花がやってきた。

 

「ヤッホー、一花に三玖お疲れ~」

 

「……はぁはぁ、お疲れ。手伝うよ」

 

「……三玖大丈夫か? 辛いなら手伝わなくていいから休め?」

 

「そうだよ三玖。これは私とユキト君で持っていくから三玖は休んでなよ」

 

 一花と一緒に呼吸が荒い三玖に休むよう伝えても、三玖は手伝うの一点張り。

 

「……みんなでやれば早く終わるでしょ」

 

「……じゃあ頼むよ」

 

「うん」

 

 『絶対に手伝う』と意志を曲げない雰囲気を感じたため、籠を一つ渡し、一花と共に持つよう伝える。

 

 そんなやり取りをしている内にカラーコーンを肩に担いだ上杉と、ふらつく上杉を支える四葉が戻ってきた。

 

「回収してきたから倉庫に向かうぞ」

 

『おー!』

 

 五月を除いた5人で倉庫に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前には秘伝のタレが染みた黄金の衣に、蕎麦麺。鼻腔をくすぐる上品な香りにこれでもかと食欲が刺激される。

 

 食堂でエネルギーを補給するために、僕は海老天つきの蕎麦を注文したのだ。

 

「いただきまーす」

 

 口腔に溜まりはじめた唾液を、ごくりと飲み込みながら箸で海老天の衣をつつく。すると箸の先から海老の弾力が伝わってきた。それをサッと天つゆに通らせ、がぶりと頬張る。するとどうだろうか、ふわふわとした衣が破れるや否や、海老の濃厚な旨味が口いっぱいに広がってくる。これは新鮮な海老を使っているせいなのか、それとも職員の腕が高いのか。

 

 今日も美味しい食事を作ってくれる職員さん方、農家の方々等には感謝状を送りたい。

 

「相席失礼します」

 

 頭の中で感謝状を読み上げつつ海老を嚥下する。五月が目の前に座るのを視界の端に捉えながらも、箸を動かし今度は蕎麦に狙いを付ける。

 

 麺を挟むように掬ってみれば、ツルツルとした滑らかさで、さぞ喉ごしが良いのだろうと察せられる。

 

 掬った麵の三分の一ほどを、チョンチョンとつゆに浸らせる。あまりつゆを付けすぎてはいけないのだ。蕎麦本来の香りや味が損なわれしまう。

 

 つゆの水面に浮かぶ薬味とともに啜れば、予想以上の滑らかさ。

 

 麺から滴るつゆが飛ぶのに目もくれず、ちゅるちゅる音を立てて頂いていく。

 

 熱々の麺で舌を仄かに焼きながらも、箸を持つ手は止まらない。はふぅ、と息を吐けば白い蒸気が食堂の空気に溶けていった。

 

「で? 何の用?」

 

 まだ微かに香る蕎麦の匂いを堪能しつつ五月に問いかける。

 

 僕の前が自身の特等席だと言わんばかりに座っている五月は美味しそうに唐揚げを口に運んでいる。

 

「相席ですが何か?」

 

「……」

 

「先ほど四葉から相談したいことがあると言われまして……」

 

 白々しい五月に白い眼を送れば本題を話し始めた。

 

「うんそれで? ……あむ、うん美味い」

 

 プリっとした触感に頬が落ちそう。

 

「……美味しそうですね」

 

「……食べたいの?」

 

「そ、そんなわけないじゃないですか!」

 

 とかいう五月の口の端には光るものが。

 

 まだ口をつけていない海老天を五月の目の前に掲げ、右に左に動かせば五月の目線も釣られて動く。

 

「はい、あ~ん」

 

 そう言って五月の開いた口に突っ込めば五月は美味しそうに頬張る。……やっぱり食べたかったんじゃないか。

 

 五月は食べ終えた後、は! と意識が覚醒し、謝りながら代わりの唐揚げをくれた。

 

 五月のくれた唐揚げはサクサクジューシーで噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる。五月がよく唐揚げ定食を頼む理由が分かった気がする。

 

「……それで相談事の内容は?」

 

「それはまだ聞いていませんが……来たみたいですよ」

 

「五月に白羽さん!」

 

 四葉はコロッケパンを片手に颯爽と現れ、五月の隣に座る。

 

「四葉、相談事って何?」

 

 ちゅるりと最後の蕎麦を胃に送り込んだ後四葉に尋ねれば、彼女は少し間をおいて両手を合わせた。

 

「五月! ……学級委員代わって! パンあげるから!」

 

 四葉は机の上に置いたコロッケパンを五月に献上。五月は四葉に感謝の言葉を送りつつ口に運ぶ。

 

「その理由は?」

 

 自ら学級委員に立候補したというのに、辞退したいだなんておかしな話よ。そもそも学級委員って辞退できるものなのか?

 

「すみません私では無理です」

 

 と、パンを飲み込んだ五月はきっぱりと四葉の頼みを断った。

 

「……理由はあの噂?」

 

「白羽さんは知ってたんですね……」

 

 最近耳にした噂のせいかと口にすれば、その通りだと四葉は頷く。

 

「噂? どういうことですか?」

 

 どうやら五月の耳には入っていなかったらしい。気になった五月は四葉に内容を話すように促す。

 

「噂……それは…その…上杉さんと私がつ、つき」

 

「突き? 突っつき合ってるのですか?」 

 

 分かってなさそう。

 五月は首を傾げ何かを浮かべているがきっと四葉が思っている事と五月が想像してる事は限りなく遠いだろう。

 四葉は相談相手を間違っているんじゃないだろうか。恋愛事は一花に訊くべきだ。でも姉妹の中では五月が学級委員長に向いているかもしれないが……。

 分かって無さそうな五月に分かり易く噂の内容を搔い摘んで話せば、五月は目を丸くする。

 

「なるほど、そんな噂が……」

 

「五月もお願いー…コロッケパンあげたんだからー」

 

「あむ…。食べ物で釣ろうとは…。あむ無駄ですよ。さっきも言った通り、私は代わりませんよ」

 

 賄賂(食べ物)は頂くものの、頷かないとは……悪女だ。

 

 五月は、コロッケパンを食べ終われば再び唐揚げ定食を口に運ぶ…。たくさん食べてるのに太っている様子は見受けられない。ちゃんと運動してるんだー意外。

 

 にしてもこの小さい体によくそんな入るな。先日も沢山ケーキ食べてたのに……お金大丈夫なのだろうか……。まぁそれはさておき置いといて。

 

「でも気にしなくても良いと思うよ。他のどのクラスも男女で委員長をやっているわけだし、彼ら彼女らよりも四葉と上杉が仲良く見えただけでしょ? ならいいじゃん。他の人から見て上杉も四葉も充実していたという訳だし」

 

 何より人の噂も七十五日って言うしね。

 

「なるほどそういう見方もあるんですね! 私はただ上杉さんは凄い人だってみんなに知って欲しかっただけなのに、そう勘違いしてしまうとは皆さん見る目がありませんね!」

 

「「……………」」

 

 ありがとうございます! と言ってその場を後にする四葉を無言で見送る。

 たった一言二言で四葉をノせることが出来たのは良いが、将来騙されないように気を付けてな……。

 

 

 

 

 そして放課後まで時間は進み、教室に残るは僕と上杉、そして四葉の三人のみ。

 

 僕は上杉と四葉の学級委員の仕事を手伝うために残ったのだ。なぜなら、上杉と四葉の噂に対抗するべく、僕もこれからしばらく共に行動しておこうと思ったからだ。三人で居るという状況が続けば、徐々に上杉と四葉が付き合っているという噂は無くなっていくだろう。四葉が噂を否定した時点で、この噂に信憑性がない事がみんなには分かっただろうし。

 

 2、3週間手伝えばいいかなと思いながらノートやプリントを配布し終われば、上杉がトイレに寄ってくると言って教室を抜け出した。

 

 

 

 …………丁度いい。今一度四葉の想いを確認しておこう。

 

 茜光が教室に降り注ぐ中、僕は窓枠に腰かけ廊下の様子に気を配りつつ四葉に話しかける。

 

「四葉は今、幸せか?」

 

「? 急にどうしたんですか? やばい宗教にでも入りました?」

 

 四葉は僕の唐突な『幸せ』発言に目を丸くした後、ヤベェ奴を見るような目を向けてきた。

 

「そう、実は『死は救済』を掲げる宗教に……ってなわけあるか。至って大真面目だよ。だから正直に答えて欲しい……四葉は今幸せか?」

 

「えー……」

 

 急なことで頭が回らないのか、はくはくと小さく口を開け閉めする四葉に、続けて言葉を投げる。

 

「……抽象的過ぎたかな。分かりやすく聞こう。四葉はまだ自分を許せないかい? 自分のせいで姉妹たちを転校させてしまった事等にまだ負い目を感じているのかい?」

 

 改めて真面目だと伝えれば、四葉は少し悩んだ内、小さく口を開く。

 

「……正直に言うと、よくわかりません。ですが姉妹たちと過ごす時間は幸せだと思っています。……それでも、ふとした瞬間……自分が嫌になることはあります」

 

 例えば、二乃が部屋着としてたまに着る、前の学校のジャージを目にした時。

 例えば、黒薔薇女子に通う、名も知らない姉妹を見かけた時。

 普段は何も思わないのに、心の奥から唐突に嫌悪感が湧き上がってくる。

 

「……そうか」

 

「でも」

 

 そう、言葉の先を口にすれば。

 

「自分自身はもう許せてきているんじゃないかと……そう、思います。それが赦されるのかもまだ、わかりませんけど」

 

 思い浮かぶのは、この学校に転校してから出会ったたくさんの人々の顔と、ありがとうという言葉。

 それは自分に向けられたものもあれば、自分が口にしたものもあって……そういう時間の全てが。

 たぶん、私の今に繋がっているのではないかと。そう、思っている。

 

「……心ってのはね」

 

 雪斗は、静かに唇を開く。

 

「思ったよりも簡単に歪む。たとえば、自分で自分を責めて過ごしたり、どうしようもない悩みで今までを生きていたり、自分の心を騙し続けて本音が分からなくなったり……。そういうことがあると、どんなに頭のいいやつでもどっかおかしくなるんだ。正しく物が見れなくなる」

 

「…………っ」

 

 これは、自分のことを指しているのだと。四葉は悟った。

 

「自分のことが嫌いになる。やることなすこと全部ダメに見える。何でも自分のせいで、悪い結果に見えて、いいことなんか一個もなくて……時々そうやって、人が死ぬ」

 

「……はい」

 

「だから、自分がどこにいるかを、忘れちゃだめだよ」

 

 きっぱりと。

 しかしどこか、慈しみすら感じるような声音で……雪斗は、そう言った。

 

「四葉はまだ自分自身が許せるかを、はっきりと断言できる状態ではないかもしれない。今までは姉妹たちの後ろを歩いていたかもしれないけど、これからは姉妹たちと前を向き、横に並んでいれば自然と許せるだろう。それだけは、よく覚えておいて」

 

 姉妹の為に自分の事は後回しにしていた四葉が、胸張って歩いてくれればそれでいい。

 そうなる手助けが出来ることが、友人として、親友としての最大の特権だろう。

 

「はい!」

 

「いい返事だ……さて、今の事を踏まえて聞こう。四葉はさ、上杉の事が好きなんだよね?」

 

「うえっ!? い、いえ別に好きではありませんよ!」

 

 急な話題転換に四葉は驚きつつも右手を顔の前でブンブン振り回し否定する。

 

「……そうか、二乃が上杉に対してかなり積極的にアピールしているが、二人がくっついても冷静でいられるとでも?」

 

「……はい。私は二人を祝福します」

 

 そう言う四葉の顔にはいつもの天真爛漫な笑顔が浮かんでいた。きっと他の人が見たら、四葉は文字通り祝福するということに嘘はないと捉えるだろう。

 しかし、雪斗から見ればそれは作り笑顔だと判別できる。雪斗がそれを見破れたのは、偏に今まで姉妹たちを観ていたからだ。

 

「この先上杉さんが誰を好きになってどんな恋をしても私は味方でありたい。全力で応援したいのです……」

 

「……さっき言ったよね。自身の心を騙していると心は歪むって、それなのに自身の心に嘘をつく気かい?」

 

 そう伝えれば、その笑顔は長続きすることは無く、愁いを帯びた顔になっていた。

 

「……」

 

「自身の胸に問いかけてみろ。君の心はなんて言ってる?」

 

 四葉の胸を指させば、彼女は口をもごもごさせ始めた。

 

「上杉はまだ来ないし、他の人が来る気配も感じないから言ってみ?」

 

 上杉はまだ来ないだろう。武田がトイレの方向に歩いていくのが見えたし、多分そのまま上杉の所に行くだろう。彼もまた思うことがあるようだが……今のところ僕には関係ないしほっとこ。

 

 やはり他人の耳を気にかけていたのだろうか、四葉は小さく口を開いた。

 

「好きです」

 

 

 

 

 

「……うん。それを聞けて満足。君の恋事だから……見守るも、アピールするも好きにすると良いさ。ただ、後悔はするなよ」

 

 今はまだ四葉の本心を聞けただけ良しとしよう。

 

「……はい」

 

「……いざというときは背中を押してやる」

 

 四葉が最終的にどう転ぶかは分からないが、相談に乗ることは出来るだろう。

 

「……そう言う白羽さんはどうなんですか?」

 

「さっ仕事も終わったし帰りましょか~」

 

 話しはこれで終わり、傍に置いておいた荷物を持ち、立ち去る準備をする。

 

「ああ~!! 私は話したのに逃げるんですか! ずるいですよ!」

 

 四葉も自身の荷物を持って僕を追いかけようとするが、甘い!

 

「僕の話が聞きたきゃマンションに着くまでに僕を捕まえるんだな!」

 

 それだけ言い残し、窓からfly away。僕は今イカロスとなったのだ!

 

 四葉の、絶対に捕まえて吐かせますからね! の声を聞きながら窓下の木の枝に着地。そのまま地面に飛び降り、靴を履き替えてマンションに向かって逃走。上履きを明日忘れないようにしないと……。

 

 今回で四葉は改めて前向きに生きようと思うだろう。でもまだ足りない。あともう一押し欲しい。……そうなると直近では修学旅行が良いかな。さてさて、どう行動していこうか……。

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