『お兄ちゃんをよろしくお願いします!』
『息子をよろしく頼むぜ!』
二人と軽くこれからの事を話し一つ条件を決めた後、上杉を明るく送り出してくれた上杉家に感謝を伝えマンションへと連れて帰る。
家に着けば早速勉強を開始する。戦う相手は全国の高校生だから生半可な勉強では上位に行くことも不可能だろう。
僕がリビングの机に勉強道具を広げ問題を解き始めれば、隣で上杉が、参考書片手に呪文のように言葉の羅列をずーっと唱えている。……こわ。それ上杉家でやったららいはちゃんに泣かれないのだろうか……。
「この問題だとこの数式だな。この問いは確実に出てくるだろう……。∫(sinxcosx)dx……へっ、この程度楽勝だぜ!」
……うるせぇ。ここまでテンション高く勉強する奴初めてだよ。絶滅危惧種認定されてもおかしくないな。
上杉がぶつぶつと解答を呪文のように唱える。……耳栓付けとこ。何かあればアクション起こすだろ。
特に何もなく夜の22時を迎えたところで上杉に一言伝えて床に就く。おやすみ~。
翌朝の7時に起きればテーブルにメモがあり、覗いてみれば家に忘れ物をしたらしく先に学校行っているらしい。
あいつ朝ごはん食べずに行ったのか? ……ならスタミナをつけてもらうためにも焼肉弁当でも作って持ってくか。
学校に行く時間になり戸締りと荷物。特に弁当を確認し家を出る。
あなた~弁当忘れてるわよ~!
……キモチワル。
登校中もイヤホンで暗記系を流して覚える。覚えなければいけない単語や公式などを録音して流しているのだ。自分の声を聞くのはなんかあれなので中野姉妹たちの声で録音した。聞いてるとなんだか五つ子たちに教わっているようでヤキモキする。
そうそう。片耳イヤホンだから周りの音もバッチリ聞こえていますので安心してください。
姉妹たちに教わっている違和感に心を燻ぶらせていれば、視線の先で眼鏡をかけた一花を見かけた。
「おはよ」
「おはよ~ユキト君。これ差し入れ。頑張る少年に大人なお姉さんからの贈り物だぞ」
「サンキュ」
受け取ったコーヒーは暖かく。眠気覚ましにはぴったりだろう。
「フー、フー、姉妹たちは一緒じゃないの? フー」
「えっあーうん……ちっと飲み物を買いにね……今日は別行動なんだ」
「へー。フー、フー」
一瞬目線を宙に漂わせた上で、『別行動』ね。姉妹には嘘ついてここに来たという訳か? それに、飲み物……ね。わざわざ暖かい飲み物を手に、この寒空に? 背後に若者に人気なコーヒーショップがあるとはいえ、いつ僕がここを通るか分からない状況で一人待っていたと? 確かに一花の手には中身が半分入ったフラッペが握られていた。中身から推測するに、そのフラッペは最近でた新発売の奴か。それを買うために姉妹に嘘でもついたのか? そんな訳ないよな。飲み物買う程度だったら嘘をつく必要ないし。そう考えると僕に会うこと自体が目的か。……なにか姉妹には相談し辛い事でも言うつもりか?
「……飲まないの? もしかしてユキト君ってさ猫舌?」
薄桜色の口紅が付いたストローをいじる一花は、未だコーヒーを冷まそうと努力する僕を小馬鹿にしてくる。
……邪推はここまでにしておこう。一花が姉妹に嘘をついて(推測)までここに来たという理由は、気になる所ではあるが、一花の事だ。どうせすぐに行動を起こすだろ。
「そ。僕は猫舌なんだ……アチチ。さて遅刻するし行くか一花よ。……あ゛っつ!」
一度目に含んだ時は大丈夫だったのに二度目の時に逆襲を食らった。コイツめ猫舌の人間をいじめて楽しいか!
「大丈夫?」
「らいじょうぶ」
舌を火傷し、僕は一時的に滑舌を失った。一花の事を邪推した罰かもしれん。
「そう…? まぁ大丈夫なら行こうかユキト君」
舌を外気に晒して冷やそうとする僕を、一花は笑いをこらえて見る。
……別に気にしないから笑いたきゃ笑えよ。
リスの様に頬を膨らませる一花にジト目を送り、話しかける。
「
「あはは! 何喋ってるか分からないよ! む、無理して喋らなくても良いよ?」
一花は堪えるのが限界だったらしく、吹き出しながらそう言う。
「む……『それで何か用か?』」
舌はまだひりひりするが、一旦口内にしまい、腹話術で話しかける。
「…腹話術まで出来るんだ……もうびっくり人間だね」
笑っていた一花は今度は僕に呆れた目を送ってきた。
『僕だって一人の人間だぞ♦ まったく失礼なやつめ♠ でもコーヒーをくれたお礼に教えてあげる♣︎ 奇術師に不可能はないの♥』(ヒソ〇ボイス)
腹話術と変声の組み合わせだって出来るんだぞ。一花にドヤァと胸を張れば呆れた目線が増々強くなった気がする。
一花は一層呆れた目線を僕に送った後口を開いた。
「みんなから聞いたよ…。お父さんとひと悶着あったんだって?」
「『まぁ何時もの事だろ。それに今回クリアすれば卒業まで邪魔してくることは無いだろう。そう思えば気が楽さ』」
「確かにそうだけど相手があの武田君でしょ」
「『知ってる人? 僕あの人とのファーストコンタクト、トイレだったんだけど一花は? 一花もトイレ?』」
トイレで武田を揶揄ったことを思い出せばつい口元が緩む。実に良い反応だったし、試験が終わった後は僕のおもちゃにでもなってもらおうかな……最近上杉と姉妹たちの反応がつまらないんだよね。
「そんなわけないでしょ。2年の時同じクラスでね。あの時からキラキラしてたよ。あれはあれで大変そうだと思うけどね」
やっぱり一花もそう見えたんだ……。まぁ、肩の力を抜くよう武田に伝えるのは気が向いたらにしよう。縁があればきっと機会が巡ってくるさ。
「『武田については気にしてないけどね。それよりも試験まで勉強漬けになるだろうから覚悟しときな』」
……あ、舌治った。まだ若干ヒリヒリするが喋る分には問題ないだろう。
「えー、私たちもかぁ」
「当たり前だろ。でも一花はいままで仕事と勉強を両立してきたわけだし、僕たちは心配してないよ」
「ふふ…乙女の扱いが相変わらずうまいですね~。その内背中を刺されるかもよ?」
舌、治ったんだねと最後に告げる一花にこれ見よがしにコーヒーを飲み干し、言葉を告げる。
「怖いこと言うなよ……でも慢心せずにちゃんと取り組めよ」
「……前向きに検討するということで…」
「はぁ、まあいいや。勉強の話はこれで終まいにしよう。……今日の一花は眼鏡なんだね」
一花の伊達眼鏡に視線を向けて言う。
「どう少しは知的に見える?「見えないね」……即答しなくたっていいじゃん!」
いやだって普段の一花の様子を見れば、知的というよりもお洒落でつけてるんだろうなぁとしか思えんし。それか知的に見せようと背伸びしてるんだなぁと思っちゃう。それに本人は変装のつもりらしいが、まったくもって変装になってない。たしかに一花であると気づく人は減るかもしれないが、美人であることをまったく隠せていない。
眼鏡をかけたことで知的な美人感が強くなった。こっちのほうが好みという人も少なくないだろう。それで変装した気になってるあたり、知的とはとてもじゃないが言い難い。
「一応は変装なんだ」
「変装ねー……昨日一花が出た映画の完成披露試写会があったから?」
タマコちゃんの奴でしょ? 今朝のニュースでもやってたねとまで言えば。一花は嬉しそうに顔を綻ばせた。顔は真っ赤だけどね。
『タマコには分からないですぅ~』(タマコボイス)
一花に一番印象に残っている台詞を言えば僕の口元を押さえようと腕を伸ばしてきた。…だが甘い! 伸ばしてきた両腕を押さえて耳元で再び同じセリフを吐く。
「もー恥ずかしいから言わないでーー!」
あー楽し! 人の嫌がることを率先してやるのは気持ちのいいものだな!
一通り一花の反応を楽しんだ後、話を戻そうと口を開く。
「それにしても変装ねー…。君たち得意だもんね」
「まぁね。ユキト君には負けるけど」
逆にそうやすやすと僕を超えられて堪るかってんだ。
「いざという時の為に何時も常備してるんだ」
「おー……重そうだね」
「そうなんだよね~」
一花が見せてくれた袋の中には、蝶々を模した髪留め、ヘッドホン、ウサリボンに星形のヘアピン…など様々な小物が入っていた。
「まぁ。一花が別の姉妹に変装したところで見破れるけどね」
「……」
? 急に一花が固まったがどうしたのだろうか……。
「といっても本気で変装されたら見破りずらいけどね……旅館の時はマジで焦った」
「……ならユキト君を超える日も近い?」
まぁ僕を騙せるくらい変装が上手くなれば女優としてのスキルアップにもなるだろうな。
「それは一花次第かな。……そうそうヘッドホンとか中の機械を外せば意外と軽くなるよ。ほら」
そう言ってリュックから僕が持つ三玖になるための変装用のヘッドホンを渡す。
「わ! ホントだ軽いね」
「でしょ……ってあそこにいる上杉と姉妹たちがいるじゃん」
歩道橋の下に目を向ければ上杉たちがいた。
「いるね…」
「上杉のやつ二宮金次郎を体現してるし…………あれ? 四葉が参考書読んでる! 僕の目がおかしくなったのか…? それに比べ五月はまた肉まん食べてるし……そうそう、二乃はうちの所でバイトしてて、三玖は向かいのパン屋さんで働いてるんだけどさ、店長が向かいの店の客足が減ったって喜んでたよ。めっちゃ生き生きしてた」
(やめて………私はここだよ。妹たちの名前は今呼ばないで……私だけを見てよユキト君……君を想ってる子が隣にいるんだよだから……。)
「あ! 上杉たち信号で止まったな。なら少し走ればすぐに追いつけそうだ。行こうよ」
「ねぇ……ユキト君」
「何~?」
僕が上杉たちを眺めて思ったことを口に出していれば、僕の手を一花が掴んだ。
「このままさ……二人でサボらない?」
「? いやダメでしょ」
「一限目は体育だよ」
「だから? 僕は体動かすの好きだから体育は好きだよ」
「いいじゃーん!」
「ほら行くよ」
「むぅ、なら私はユキト君がサボるって言うまでここから1歩も動かないからね!」
一花はそう言ってその場で体育座りをした。
「駄々こねてないで行くよ」
「……」
「一花ー?」
「……」
ダメだこれ。僕を無視して本格的にここに居座る気だ。……しょうがない。
「じゃあ一花は動かなくていいから。舌噛まないように気を付けてね。後悲鳴上げないで」
「へ?」
よく分かっていない様子の一花をお姫様抱っこし、歩道橋からビルの非常階段に飛び乗る。一花の喚く声を聞き流してそのまま屋上へ。
「まったく登校で空を飛んでいく生徒は僕たちだけだな」
「何する気?」
「愛の逃避行ってね♪ 空を駆けるのは癖になるぜ。気をつけないとトぶぜ」
物理的にも飛ぶんだけど。
そのままビルから落下し勢いがついたところでプロペラ付きハンググライダーを展開しビルの更に上空へ。耳元で聞こえる甲高い声に鼓膜がやられそう。反応が五月そっくり。
空を見上げる人はいないだろうし、人目を気にしないままそのまま学校への直線方向に向きを調整する。
「ほら。周り見てみ? 綺麗だよ」
「わ~!」
僕の腕の中で縮んでいた一花に声を掛ければ、一花は恐る恐る顔を上げ感嘆の声をこぼした。
眼下には灰色の世界。眼前から上に向かって灰色から青へ、青から黒へと変わりゆく空がある。
景色を楽しみ始める一花を眺めつつ学校の屋上へ。
「あっという間だったね」
「すごかった! もう一回!」
「だめ。もう学校が始まるし。諦めな」
「えぇー」
今度は違う意味で駄々をこね始める一花の手を引き屋内へと走って向かう。
屋上から下駄箱に靴を入れ、上履きに履き替えたと同時に鐘が鳴る。
「やべー。また走るぞ」
「もー真面目だねー。あと走るの疲れてるんだけど」
一花は女優業で体力はそれなりにあるのか、息は切らしてはいないがだるそうな雰囲気を出している。
「真面目も僕の取柄みたいなもんだしー。疲れたそぶりはやめてさっさといくぞ~」
(……私はいい加減17なんですけど! ……華のJKなんですけど! もう少し女子として意識してもいいんじゃないかな! さっきまで息がかかるぐらい近い距離にいたんだからさ! この堅物め! ホントに背中包丁で刺されるぞ! ……それに私抜きで話も進めてるみたいだし…。うまくいかないなぁ………私はユキト君が好きなのに……空回りばかり)
一花がむすっとした顔からよく分からない顔になった。一人百面相でもしているのだろうか? でもその表情になってしまう原因が僕なんだろうとなんとなく察しはつく。三玖や五月が同じような顔をすることがあるからな。だが口に出してくれないと分からん。表情や仕草からある程度の心情は読み取れるとは言え、あくまでそれは推測でしかないし。その推測が合ってると思い込んで、話をして痛い目に遭いたくないしね。
「セーフ!」
「私からすればアウトだよ」
「アウトって……物事は視点を変えれば違く見えるというが、こんなところで実感したくなかったよ」
教室の前に着いて少し話し、一息入れてから勢いよく扉を開ける。
『一花さん! 朝のニュース見たよ!』
『びっくりしたよー!』
『有名人が同じクラスだなんてスゲー!』
「へー。これが有名になった弊害か……めんどくさいね」
クラス中の人が一斉に一花に押しかけるのを横にずれて眺める。
「冷静に分析してないでよ」
「ふふふ他人事だからね。でもオーディション受けて良かったな。あの時受かってなければこの光景はあり得なかっただろう……これからもがんばれよ一花。応援してる」
それだけ伝えて上杉の所に向かう。
「!!」
トクン
(……こんな単純でいいのかな……君が私を気にかけてくれた。たったそれだけがクラスメイトのどんな賛辞より……胸に響いてしまうんだ……。)
「おはよう上杉。お前朝ごはんどうした?」
「家で食った」
「……あっそ。ならいいや。ならこの焼肉弁当は昼に食えよ」
「まじか! サンキュー助かるぜ!」
弁当をドンと机に乗せてやれば、魚の死んだ目のような上杉の目が輝いた。やっぱり高校生には肉だよな!
「そうかそうか。なら感謝を込めて僕を神のように崇めるといいぞ。人の子よ」
「神になったつもりか?」
そうさ、俺は新世界の神になる!
「……おっと忘れてた。ところでそれはそれとして、もう一つプレゼント。参考書だよ」
そう言って一冊の本を上杉に渡す。タイトルは「友達が出来ると思い込んでいるあなたに、本当の友達ができない理由~真の友達は七つの要因をもっている!~」っていうやつ。本屋で見かけてビビって来たね。これは上杉の為に存在している本と言っても過言でもないって。
「お前が俺にどう思っているのかはっきりわかった。そしてお前に対する感謝の気持ちはこれでマイナスになったぜ……」
あらま。感謝の思いがマイナスになっちゃった? それは困るけどよければ読んで感想を聞かせてね。人間関係で悩んでるのかなと思ったからそれをあげたんだし。それとも恋に関する本が良かったかな?
ムフフ。二乃と四葉が上杉とどうなっていくのか楽しみで仕方ない。
放課後まで時間は過ぎ、教室には一花の話を聞くためクラスメイトの女子生徒が数名残り、普段よりも賑やかだった。
朝からずっと一花の話題で持ち切り。当の本人は今も囲まれ困っている様子。
何時もだったらさり気なくその輪をぶった切りにでも行くが、今回は一花の努力のお陰だしほっといておこう。いざとなれば助けを求めてくるだろう。
しかしまぁ思っていたよりも情報の広まりは早かったな。隣のクラスの連中のみならず先生方も来てたし。
そのまま一花たちを眺めていれば、一花は一言謝り一瞬の隙をついて逃走を開始。数人の生徒が後を追いかけていった。どっちも頑張れ~。
「上杉先に行ってるね」
「あぁ……この問題解き終わったらすぐ行くから……」
「分かったー早く来いよ~」
必要なものはリュックに入ってるし忘れ物はないだろう。
教室から立ち去り姉妹たちが待っている図書室に足を向ける。
上杉の誕生日は良いとして、五つ子たちの誕生日はどうしようか……。いっそ一人ずつ聞いてそれを叶えるといった形の方が確実かな? だがしかしそうすると相手を驚かせることは出来ない。う~んどっちにしよう……。
図書室への道すがらそんな事を考えていると廊下で壁に寄りかかった一花(三玖に変装済み)がいた。生徒たちから逃げるために変装したんだね。三玖に変装するなら口紅落としとけよ~。まぁそこに気がつく人はそもそも追いかけないか……。
「ほら一花。図書室に行くぞ」
周りに生徒いないし一花と言っても大丈夫だろう。
「え? あ、うん。本当に区別つくんだね」
「前から区別出来てたし、今日登校するときも区別できるって言ったでしょ」
僕の言葉を信じていなかったのか? 僕は奇術師であって詐欺師じゃないんだけど……まぁ同じ嘘つきなんだけどね。
「ほれ行くべ」
「……うん」
どこか上の空な一花を連れて図書室へ。
図書室に着けば既に一花以外の姉妹たちが勉強道具を机に広げたまま待機していた。
「お待たせ」
「さっさと始めましょ」
「一花はなんで私の変装してるの?」
「ほんとだ!」
「私は先に始めてますね」
三者三様ならぬ五者五様の反応を返してくる姉妹たち。
「いやー、生徒たちに追われててさ。それで三玖の姿を借りたんだ」
一花は頭を掻いて三玖に謝罪し変装を解いた。
……変装解いちゃうんだ。……見つかったらどうするんだろう……基本僕は手を貸さんぞ。
「それにしても一花は忙しそうね」
「むむむ……」
二乃の言葉に五月が頬を膨らませて反応した。
「どうした五月?」
「……どこか納得できません……以前から応援していた私たちを差し置いて……たかだがテレビで見たからと……ファン気取りして……一花は私たちのものなのに……」
どうやら五月は一花がクラスメイトに盗られてしまうのではないかと危惧しているようだ、
「複雑な妹心か……取り敢えず勉強始めよう。上杉ももうすぐ来るだろうし始めてなかったら何言われるか分からないしね」
『はーい』
最初はいやいやながらに勉強していたのに今では素直に取り組んでくれるようになった。成長を感じるねぇ。
姉妹たちを眺める雪斗を見つめる一対の視線。
いつも通りの柔らかい瞳で妹たちを眺めるユキト君の隣には、姉妹の姿が寄り添っているように見える…。
何故だろう胸が苦しくなる…。
けど私一人の家庭教師じゃない……みんなの家庭教師なんだからそんな中で私が抜け駆けするのはやっぱり駄目なのかな……。
ユキト君を慕う者は私だけじゃなくて三玖に五月ちゃんがいるのに……私だけを見てなんて……。
『お好きにどうぞ 負けないから』
『蹴落としてでも叶えたい…』
『一花だけ我慢しないで…したいことしてほしいな』
『愛さえあれば見抜けられる』
『一花が別の姉妹に変装したところで見破れるけどね』
彼を想う三玖の言葉が、フータロー君に恋をする二乃の言葉が、私の異変に気づき心配してくれた四葉の言葉が、そして今は亡き母親の言葉がぐるぐると頭の中を駆け回る。
ユキト君が私を見分けられるのは愛があるから……なら両想いと捉えてもおかしくないんじゃないかな……。
……決めた。
三玖…それに五月ちゃん。私は自分勝手にやっていく事にするから……恨まないでね。
その日の夜、一花は妹たちに家庭教師へのプレゼントは白紙にしようと持ち出した。
という訳で三玖に変装した一花が雪斗に好意を露わにはしませんでした。まぁしたところで見抜かれるので意味は無かったんですが……。
仮に言われたとすると、見抜かれる→一花が恥ずかしくなって逃走→雪斗は言葉を咀嚼して意味を理解→今どうこうしても意味がないと判断しいつも通り振る舞う→一花がぎくしゃくし気まずい雰囲気に
大雑把にこんな感じかなと考えています。