五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第73話 家庭教師への五羽鶴

次の日の放課後 一花、三玖、四葉で勉強会をしている。二乃と五月は用事らしい。僕の右に三玖が座り、左に一花が座っている。向かいに上杉で、上杉の左に四葉が座っている。

 

「白羽」

 

「分かってる、みんなそろそろ休憩しようか」

 

 僕の一言で張り詰めていた空気が霧散するのを感じる。

 

 背筋を伸ばして座っていた四葉が机に伏せ、上杉は目の下にくっきりと残る隈をこさえているのを見て、上杉と四葉に外に行って気分転換して来いと伝える。

 

「……そうだな。外の空気でも吸って来るか。行くぞ四葉」

 

「はい!」

 

 席を離れる二人に行ってらっしゃいと声を掛け手を振る。……四葉よ少しでも上杉に近づくのだ。二乃に負けるなー! 押せー! 押せー! 抱けー! 抱けー! ……おっとこれ以上考えたらセンシティブになっちゃうな。 ライン超えしてしまう……ちなみに僕は両方応援してる。

 

「ねぇユキト」

 

「ん?」

 

 上杉と四葉の遠ざかっていく背中を内心にやにやしながら見ていれば三玖が話しかけてきた。やっべもしかしたら僕のゲスイところを見られたかもしれん。

 

「うん 実はフータローの誕生日の件なんだけど」

 

 良かったバレていなかったみたい。内心ほっとしつつ口を開く。

 

「それがどうかしたの「私を除け者にして何の話してるの?」がぁ……」

 

 詳しく内容を聞く前に一花が僕の首をぐりんと自身の方に無理やり動かした。

 

「おい首が取れるだろ。やめい」

 

 首をグリグリ回したりしても幸いなことに特に痛めた様子もなかったことに安堵。

 

「私も混ぜてよ♪」

 

「一花、今のは危ない」

 

「ごめんごめん。それで何の話してたの?」

 

 一花は三玖に睨まれてもよそ吹く風のようで懲りた様子もなく、いけしゃあしゃあと会話に混ざる。

 

「上杉のプレゼントの話だよ」

 

「……一花は何あげるか決めた?」

 

 脱線していたのを元に戻せば、三玖は何をプレゼントすようとしているのか一花に尋ねる。

 

「私はギフト券かな。それだったららいはちゃんに何か買ってあげられるだろうし」

 

 なるほど……それはいいアイディア。ある意味お金を渡しているようなもんだし上杉は喜ぶだろう。

 

「……ところで、誕生日プレゼントと言えばユキト君の誕生日っていつ?」

 

「んー、内緒♪」

 

 僕の誕生日なんてバチクソどうでもいい。自分で自身の誕生日なんて祝うつもりもないし祝われても反応に困るだけだ。自分の年齢さえ分かればいいんだよ。

 

「……教えて」

 

「……これにてドロン」

 

「「あ、逃げた」」

 

 二人に問い詰められる前にこの場から逃走する。後ろから追いかけてくる二人を巻くのは容易い。それに四葉がこちらに向かっているようだし三人で上杉の誕生日について悩んでいるといい。その間僕は上杉の所にでも行こうかな。四葉がなぜこんなに早くも撤退してきたのかその原因でも探るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三玖と共に逃げるユキト君を追いかけるも姿を見失ってしまった。

 

 そこまで本気で走ってはいないとはいえ息は多少乱れる。

 

 徐々に収まっていく鼓動とは別に、罪悪感でずきんと胸が痛くなる。

 

 元々フータロー君の誕生日に合わせてあげる予定だったけど、昨日の時点でプレゼントを渡す機会を遅らせた。だから当日は姉妹の中で私だけがユキト君へプレゼントを上げられる。そうなればきっとユキト君は私に特別感を感じてくれるはず……勝率はある。だって姉妹の中で1番彼に近いから。……まぁフータロー君にも上げるんだけどね。

 

 だから自分のやり方に後悔してちゃダメ。迷ってる余裕なんてないんだから。

 

「あ~、迷ってたら遅れちゃったわ……って一花?」

 

 図書館の入り口付近で歩いていると、丁度二乃が入って来た。

 

「二乃……昨日のメッセージは見た?」

 

「あぁーあれね、でもあげたいものはあげたいわ」

 

 忘れてた……二乃のブレーキは壊れてるんだった。

 

 二乃を押さえるには一言二言の意味は無く。今もこうして大事そうにフータロー君に上げるプレゼントを両手で抱えている。

 

 ……羨ましいと切実に思う……ここまで素直になれたならどれだけ楽か……姉妹なのに私には素直さが欠けていることに落胆さえ覚える。それに自分の気持ちに気づくのが遅すぎた。

 

「でもあんたもプレゼント用意してたでしょ」

 

「……一応持ってきてる」

 

 私の目的はユキト君に上げることだけど、フータロー君への恩はある。だから何だかんだと言いつつも私も当日に祝ってあげたいと欲が出てしまった。

 

 ポケットからフータロー君に上げる予定のギフトカードを取り出せば、二乃は呆れた様子を見せる。あはは……。

 

「一つ聞きたいことがあるの……あの日何でパパを足止めしなかったのか……弁解はある?」

 

「ないよ……あれは私が関係が変わるのを恐れたから……二乃はさ、フータロー君が好き?」

 

「好きよ」

 

「私はねユキト君が好きなの」

 

「! ならどうしてパパの足止しなかったのよ!」

 

「私が恐れていたからって言ったでしょ」

 

「……昔の一花に戻ったように意地悪になってるわね…」

 

「それは自分でも自覚してる」

 

 それから勉強していた場所に移動する傍ら、二乃にフータロー君との邪魔はしないと言い、二乃も私とユキト君との邪魔はしないと約束した。要は互いに良い結果を得られるように協力するということだ。

 

 

 

 

「わっ!? ……なんだ一花と二乃か…」

 

「?」

 

「びっくりしたー! 上杉さんたちが帰ってきたのかと思ったよ」

 

 

 一花たちが勉強を行っている場所まで戻れば四葉が声をあげて驚いている。何しているのかと話を聞けば彼等の為に千羽鶴を作っているらしい。

 

「上杉さんあれからずっと疲れてるように見えるんだ。言わないだけで私たちに教えながらってのが凄い負担になってるんだよ。だからせめて体を壊さないようにと思って……出来た!」

 

 天高く掲げた赤色の鶴は四葉の願いが込められているのがよく分かるくらいに丁寧に作られていた。

 

 しかし、掲げた鶴を机に置けば四葉は、でも……ともう一人の家庭教師について不安を語り始める。

 

「……白羽さんの体調が悪くなっても私には分からないんだ。一花たちもそうでしょ?」

 

 思い返すは白羽さんに私の過去を教えた日。

 

 私の手を包んでくれたその両手は夏の陽射しのように暑かったと感じたけど、それは風邪による高熱のせいだったと次の日に気づいた。

 

 いつから体調を崩していたのか全く気付かなかった。

 

 そう言えば一花たちも確かにそうだと頷く。

 

「そうね。あいつ次の日休んでたから看病しに行けばそれなりに熱が出てたわ。今思えば体調が悪い中よく学年1位を取れたわね」

 

「……ユキトは弱音を吐かないから心配」

 

「ユキト君は人に心配をかけるのが好きじゃないみたいだね…………あとプレゼントは中止だよ」

 

 図らずともしんみりとした空気を払拭するために、一花が四葉に真実を伝える。

 

「あっ!」

 

 四葉は当日に渡す計画がなくなった事を思いだし、わんわん泣きだした。

 

「ごめーん! そんなつもりはなかったんだー!! 自分で自分が許せないよー! これじゃ私だけずるしてたみたいだもん! 約束を破るなんて人として最低だーー!」

 

 うわ……めちゃくちゃ心に刺さるなぁ。

 

「ごめん……私給料日割りで貰ってて……スポーツジムのチケットを上げようと思ってたんだ。お世話になってるから……抜け駆けしてごめん」

 

 四葉の言葉が刺さったのは私と二乃以外にもいたようで三玖が謝罪と共に名乗り出た。

 

 やることも好みもバラバラなのにこういう時は結束する……改めて五つ子だなぁと思う。

 

「じゃあ……こうしようか。やっぱり模試前に渡すのは勉強の妨げになっちゃうから、この模試を無事に乗り越えたらみんなで渡そう」

 

「うん!」

「それがいい」

 

 

「なに勝手に決めてるのよ…!」

 

「まぁまぁ、しょうがないでしょ」

 

「…そうね。プレゼントを上げられることに違いはないし……多めに見る事にするわ」

 

 勝手に決めてしまったが、収まる所に収まった気がする。

 

「じゃあ当日は何もなしか…」

 

「うーーん、こんなのはどうかな! ―――」

 

 四葉らしい提案にみな頷く。それならきっとフータロー君もユキト君も喜んでくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来たる4月15日 そう、上杉風太郎の誕生日だ。

 

 この日の為に三人には大きいホールケーキを買い、既に上杉家の冷蔵庫に鎮座している。その他にもいくつか食材を入れてある。誕生日位豪華でも良いよね。らいはちゃんと勇也さんはそこまでしなくても……と渋い顔をされたがゴリ押しして納得してもらった。

 

 あと今まで上杉を僕が借りる交換条件でらいはちゃんにいくつか料理を教えていたのだ。上杉が僕の家にいるからこそ出来たこと。

 それにしても小学生なのに料理が上手とか凄いねぇ。僕も学ぶことがあったし。失敗もせずに美味しい料理を作れていたから今日の誕生日会でもその腕を振るってくれるだろう。

 

 

 そうそう、結局五つ子姉妹たちは上杉への誕生日プレゼントは全国模試が終わってから渡すことにしたらしい。

 うんうんそれが良いよ。そして僕の上杉への誕生日プレゼントは今日この日まで行ってきた行動の結果だ。形が残る物だけが誕生日プレゼントじゃないし。決してめんどくさいから。とかそういうものじゃない。決して。

 

 

「そろそろ帰るか……」

 

 もう外は暗いし早めに上杉を返して家族の団欒をしてほしい。

 

「何か言ったか?」

 

「そろそろ帰らないか? 今日上杉誕生日だろ」

 

「そういや今日だったな……だがあと少しだけ待ってくれ」

 

「……あと10分だけな」

 

 そう言って勉強を再開。今日は五つ子たちもいないし猛勉強しないとね。眠気に誘われかける自身の頬をピシャリと叩き眠気を飛ばす。勉強に睡眠は必須だと考えているが、最近は長くて4,5時間しか寝てない。今までは8時間睡眠だったのに……。お陰で僕も隈が出来てしまった。ちゃんととれるかな……。

 

 淡いオレンジ色の照明が机を照らす中、僕たちのほかには誰も居ないはずの図書室に誰かの足音が聞こえて来た。

 

「お二人はまだ帰ってなかったのですね。こんな時間まで自習とはご苦労様です……。これ差し入れです」

 

「五月か」

 

 てっきり司書さんかと思っていたがどうやら五月だったらしい。

 

「悪いな」

 

 眠気覚ましのドリンクをごくごくと飲む上杉は強気な発言を五月に返す。頼もしい限りだ。

 

 ところで五月は今日も一体どこで何をしてたんだろうか。ここ最近どこかに行っているらしいが…。

 

「先日塾講師をなされてる下田さんという方の元へ出向いて来ました」

 

「へ~とうとうバイトし始めるのか」

 

「バイトと……とまでは言えないかもしれませんが下田さんのお手伝いをしながら学力向上を目指します」

 

「俺たちじゃあ力不足かよ」

 

 五月の発言はまるで僕たちを必要としていないかのようで、上杉が拗ねた。

 

「そういうことではありませんので拗ねないで下さい。模試の先、卒業の更に先の夢の為に教育現場を見ておきたいのです」

 

 じー、と胸を張る五月を見つめる。

 

「……恥ずかしいので見ないでいただけますか…」

 

「恥ずかしがることは無い。凄い輝いているように見えるぞ」

 

「お前らのやることは本当に予測不可能だよ…」

 

 堂々と語る五月はかっこよく、キラキラしているように見えた。母親を追っていた五月が教師になるという夢を持ち、それを実現させるために追いかけるようになる事はとても良い事だ。五月もまた前に進めるな。

 

「僕たちも負けてられないね上杉……あれ?」

 

「すぴー」

 

 返事がないと思えば、上杉が気が抜けたようで爆睡していた……目を開けたままで。そのうちドライアイになるぞ。

 

「……さて、もういい時間だ。帰るなら送って行くよ? ただ上杉を届けた後になるけど……」

 

「ふふ……いえ大丈夫ですよ。私はこれを渡しに来ただけなので」

 

 五月が差し出してきたものを受け取れば微笑みが零れる。

 

「! ふふ……頑張っているようだね。……ありがとう。負けてられないし僕も頑張るよ」

 

「そんな貴方たちと比べれば些細なことかと……」

 

「そうでもないさ……じゃあまた明日」

 

「また明日お会いしましょう」

 

 

 僕が受け取った五羽の鶴。これはここ数日姉妹たちが受けたテストの中でも特に点数が高いもので作られたようだ。相変わらず得意教科がバラバラだな……。

 

 これを見れば上杉も今まで以上に全力を出してテストに挑めるだろう。

 

 上杉の懐に、潰れても大丈夫なよう羽を閉ざせた鶴をしまい込み、上杉を背負って学校を後にする。ちゃちゃっと送り届けてあげないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道の途中で起きた上杉と共に上杉家に到着し、インターホンを鳴らす。 

 

ピンポーン

 

「いらっしゃい白羽さん! お帰りお兄ちゃん!」

 

「ただいま」

 

 パタパタと足音を鳴らしながら向かい出てくれたらいはちゃんに話しかける。

 

「こんばんは、らいはちゃん。お兄ちゃんを返しに来たよ」

 

 まぁまた明日から借りるんだけどね。取り敢えず僕はこれにて御免。

 

 上杉とらいはちゃんが仲良く家の中に入っていく様子を見てその場を後にする。

 

「お兄ちゃん誕生日おめでとうー! 白羽さんも早く……あれ? 帰っちゃったのかな…」

 

 らいはが玄関に振り返っても既に雪斗はおらず、一枚のカードが落ちていた。

 

Happy birthday and have a nice dream

 

「キザなことをしやがる」

 

 記された英文に笑みをこぼす上杉は大事そうに懐にしまうが、懐に手を入れた時に5羽の鶴が出てきた。

 

 ……これはテストで作った鶴か……あいつらも頑張ってんだ俺も負けられねぇな。

 

 他人にとってはどうでもいいテストの紙だが、上杉にとってはこれ以上ない吉報の紙。父親と妹の早く! と呼びかけるに我に返り居間へと向かう。

 

『誕生日おめでとう!』

 

 その日上杉家では今までにない豪華な誕生日会が行われ、上杉はいつの間にかすり減っていた精神が回復するのを感じていた。

 

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