五等分の花嫁と七色の奇術師(マジシャン)   作:葉陽

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第74話 男の戦い

 上杉の誕生日を迎えてから約1週間ついに全国模試当日を迎えた。

 

 前日位8時間寝ろと強制的に上杉を眠らせた。睡眠不足で試験中居眠りとかやっちゃいけないだろ。

 

 朝になれば食パン片手にあと五分とギリギリまで机にかじりつく上杉をなんとか引き剥がす。遅刻したらどうするつもりじゃボケェ!

 

 まったく手のかかる同居人だこと。呆れながら最近お世話になりつつあるゼリー飲料とカ〇リーメイトを腹に入れていざ決戦の舞台へ。

 

 

 

 

 黙々と二人で二宮金次郎となりながら学校の門前に着けば五つ子たちと出会った。 

 

「二人ともおはようございます!」

 

「うんおはよ。……隈がひどいねってそれはみんなか」

 

 挨拶をしてきた五月に返事をしつつ、みんなの顔を見ればハッキリと隈がついていた。二乃だったらメイクで誤魔化してそうだけどね。

 

「頑張りましょう!」

 

「ってかなんでアタシたちよりもアンタたちの方が隈がましなのよ……」

 

「前日に8時間睡眠取ったから。模試中に寝たら元も子もないからね」

 

 布団に横になったはいいものの、気づいたら朝だったからあまり寝た感じはしないけどね。

 

「……ふぁ~、どうりでスッキリした顔なんだね」

 

「……ユキトとフータローは十位以内いけそう?」

 

「問題ない」

 

「勿論だ」

 

 話しは程々に学校への階段を上るとき、何処からか笑い声が聞こえる。

 

「はははは! 上杉君に白羽君。逃げずにここに来たことをひとまず褒めておこう!」

 

 朝っぱらからやかましい声を出しやがって……階段の上で仁王立ちする武田に苛立ちが募る。

 

「出た…」

 

「だがしかし、君たちは後悔することになるだろう! あの時逃げておけば良かったと!」

 

「朝からうるさいわね…」

 

「上杉さんも白羽さんも負けません!」

 

「君たちには話してない!」

 

『………』 

 

 こいつこんな熱血キャラだったっけ? 見てないうちにキャラ変してないか……。

 

 まぁどうでも良いし素直にそこを通らせてもらおう。

 

「ここが僕と君たちとの最終決戦……一騎打ちで雌雄を決し…」

 

「お前ら急げ」

 

「少しでも悪あがきしていくぞー」

 

「はーい」

 

「悪いが一騎打ちじゃない……こっちは7人なんでね」

 

「ふふふ…それが君たちの弱さだ」

 

 弱さね……一人でやるのは限界があるが、同じ目標を掲げる仲間がいるのは存外気持ちの良いものだぞ。それに気づいていないなんて勿体ない……。

 

 何処か苦い顔をする武田を置いて、教室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「机の中は空にして着席してください。問題用紙は合図があるまで裏にしてお待ちください。……では、全国統一模試を開始します」

 

 遂に始まった全国統一模試。

 

 一斉に捲られる紙の音に緊張感が体に走るが、程よい緊張感だ。最高なコンディションだと考えつつ問題を次々解いていく。

 

 全国1位を目指す以上些細なミスは認められない。自分の解答に違和感を感じれば何度も見直し、すらすらと解き進める。

 

 

 

 そして第一科目の終了を知らせる鐘がなる。

 

 解答用紙が回収されると同時に生徒たちが教室から去る。固まった体をほぐす者。友達と解いた問題を話し合い落胆する者。

 

 落胆する位なら勉強しとけばいいのに……。

 

「上杉は問題ない?」

 

「ああ」

 

 上杉の顔を見る限り問題無さそうだな。数秒にも満たない身近なやり取りを終えれば、次の科目の勉強を始める。

 

 

 

「武田なら200点満点いったんじゃね?」

 

「ははっどうだろうね……漢文に少しばかり時間を取られてね。一問くらいは落としてるかもしれない」

 

「いや……ワンミスでも十分凄ぇよ」

 

「って事は今回も武田がこの学校のトップで決まりだな」

 

「……猿山の大将……というわけでもなさそうだ」

 

「えっなんて?」

 

「何でもないよ……おっと用事が出来た。すまない通してもらうよ」

 

「ああ」

 

 

 

 理事長室へと向かう傍ら思考の整理を行う。 

 

 上杉と雪斗の短い会話を聞いていた武田は、全国1位を宣言していた上杉の様子と今の彼の様子を比較し、一筋縄ではいかないだろうと感じていた。

 

 ここまで自身の夢を叶えるために脇目も振らず勉強してきた自分と、手のかかる生徒……それも5人を教えつつ勉強してきたであろう彼ら。

 

 そのことを踏まえた上で客観的に見れば、優勢に立っているのは僕だろう。そう思い立てば少しの慢心も出てくるが、それは足元を掬われると考えだと頭を振り冷静になる。

 

 いくら周りの生徒が武田ならば学校でトップだと言われても、それは彼らの意見。それを真に受けて油断すれば目も当てられないことになる。

 

 それにしても第二科目が迫るというのに、連絡をよこす父さんは何を考えているのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理事長室

 

 目的の部屋に着いた武田はノックをし、声が掛かってから部屋の中に身を滑らせた。

 

 こちらに背を向ける理事長に呼び出してきた理由を聞けば、先ほどの試験の結果を言われた。、

 

 武田祐輔 200点中三問不正解で190点

 

 その結果を受けて父は落胆した。今回の模試の結果でこれからの中野医院長との関係は大きく変わる。それなのにこんな点数では中野院長の期待に応えられない、と。

 

 お金持ちが集まる社交界において、名の知れた名医と懇意な関係であるということは、それだけで多くの利益を生む。名声も、お金も大切だが何より人脈がものをいうのだ。多くの人脈を持つものが社交界のトップに立つと言っても過言ではない。あくまでお金や名声は新たな人脈獲得の手段でしかない。

 だから今の立場を保つためにはどうしても息子には、全問正解をして貰わないと困る。一度揺らいでしまった信用は、再び獲得するのは多くの労力がいるのだから。

 

 だから、 

 

「あまり父さんを心配させるな……何をすればいいかは分かってるね?」

 

 理事長は机の上にある、今回の模試の答えが書いてある封筒を持って行くように言う。

 

「父さん…僕は…」

 

「さぁ早く戻りなさい…期待しているよ」

 

 もうすぐ試験が始まると言い、部屋を出るように促す。

 

 小さい頃から母と同じ医者になりたいと語っていた息子だが、このままではそれすら難しい。夢を叶えるためには多少の汚いことに目を瞑るのも必要だろう。

 

 終始顔を合わせることもなく、満足気に革の椅子に深く腰掛ける理事長はついぞ顔を歪ませる息子の気持ちに気づくことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は流れ残り2科目。

 

 五つ子たちは食堂へエネルギー補給をしに行ったが、僕と上杉はゼリー飲料とカ〇リーメイト、数粒のチョコを腹に入れて終了。

 

 消化に悪い食べ物を胃に入れてしまうと、その分脳に回る血液が少なくなってしまう。よくご飯を食べた時に眠くなるというのは、消化、吸収するのに多くの血液が消化器官系にいってしまい、その結果脳に行く血液が少なくなりぼーっとしてしまうということだ。

 

 だから少し物足りない程度が丁度いいのだ。空腹の方が頭は回るって誰かが言ってたし。

 

 そんな事を考えつつ、ブドウ糖タブレットをガリガリと食べてキメる。

 

「うぃ~、世界が輝いて見えるゼェ~……ヒック」

 

 私が見ているのはぁ~輝かしい未来でありますぅ!

 

「酔っ払いみたいなことしてんじゃねぇよ」

 

「ノンアルならぬノン薬だから酔っぱらってないよ。あとトイレ行っとこ?」

 

 ふざけるのは程々に、上杉とトイレに向かう。

 

 コツコツと歩いてくる音が聞こえそちらを見れば武田がトイレにやって来た。そしてそのまま用を足す僕と上杉の間の空いた便器に武田が割り込んできた。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 ……デジャヴ。どうせなら前回みたくボケるか悩んでいる内に武田が封筒を見せてきた。

 

 用を足した後、その封筒が気になるので訊いてみる。

 

「何それ?」

 

 そう訊けば武田は爽やか笑顔を崩さずにっこり微笑む。

 

 ………だから何なんだよそれ。言えよ勿体ぶるなよ無性に気になるだろ。上杉も気になるのか微妙な表情で武田を眺めている。

 

「ふふふ気になるだろう。……この封筒の中身はね模試の答えだよ。ここに全て書いてある」

 

「そんなもんよく手に入れられたね。流石理事長(顎と首の区別がつかない人)の息子だ。業の深いことを平然とやってのける……そこに痺れて顎割れちゃうね」

 

 ピヨリからのアッパー昇竜ってね。

 

「……君は父さんをそんな風に思ってたんだね…」

 

 あら、口が滑ったみたい。可笑しいな油っこいもの食べてないのに。

 

「……って! 待てよそれさえあれば…」

 

「そう…これがあれば確実に君たちに勝てる。君たちが1点でも落とした時点で僕の勝ちだ」

 

「めちゃくちゃ不正じゃねーか!」

 

 それで満点とっても武田にとっては汚点だと思うけど……それに開けた様子が見られないが……。まだ中身見てないのかな?

 

 武田の持つ封筒に目を向ければ、持ち歩いたことによる皺はあっても、開けたことによる封筒の口には開けた形跡は見当たらなかった。

 

 少し間が開いて武田は持っていたその封筒をビリビリと破り……トイレに流す。

 

「あ」

 

 武田がためらうことなく紙を流したので、トイレットペーパー以外流さないで下さいと書かれた注意書きをこれ見よがしに指さすが無視された。

 

 詰まったらどうするんだよ……清掃の人泣くぞ。

 

「お前…」

 

「……安心してくれ前半の科目でもあの封筒は開けてない」

 

「偉いじゃん」

 

「上杉君、白羽君……僕はね宇宙飛行士になりたいんだよ!」

 

「ん? は?」

 

「うんそれで?」

 

 一から説明してくれと頼む上杉に、武田は生き生きと話し始める。

 

 

 生まれてからずっと親に敷かれたレールを歩む毎日。 

 

 親の操り人形のまま生涯を終えるのかと思い悩んでいた時、宇宙の生中継を見た。青く輝く地球に、闇よりも濃い漆黒の世界。もちろん知識としては知っていた。だが、目にした時、体に衝撃が走った。そして魅入られた。

 

 地球の常識が通用しない未知な世界。何にも縛られない広大な存在。

 

 だから、何もないあの空間に憧れた。

 

 ずっと縛られて生きてきたこの人生で、唯一見出した光明。

 

 一握りの人だけが選ばれるあの世界に行くためにはどんな妥協も許されない。そしてライバルは全人類。

 

 だからこそ、ここでこんな小さな国で、小さな学校で終われない。

 

 宇宙飛行士になる。これが僕の夢だから。

 

 

 語り部のように夢を話す武田の目には、宇宙への憧れが、情景が強く灯っていた。

 

「夢のために実力で君たちを倒す! 不正して得た結果なんてなんの意味も持たない!」

 

 自分の行動理念と目指す目的を言い切った武田は何処か満足気ですっきりした顔をしていた。

 

 そして去って行こうとする武田に上杉は言葉を贈る。

 

「受けて立ってやるよ。お前の全力をぶつけて来い」

 

「ははは! 何を今更! 当たり前さ僕らは永遠のライバルなのだからね!」

 

「試験が終わったら話詳しく聞かせろよ」 

 

「君たちになら僕の夢を語る価値がある。首を長くして待っているといい」 

 

「楽しみにしてる」

 

 トイレで行われた宣誓は、改めて3人を熱くさせた。残りの2科目が決める決戦は如何に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時が経った…4月25日。

 

 前回行われた全国統一模試の結果が発表されている。黒のリムジンに乗り込むマルオは自分の持つ端末を操作し娘たちの結果に目を通す。

 

 成績不振に陥り結果的にこの学園へと訪れたあの頃と見比べればその成長は目を見張るものがあり、まだまだ成績に満足は出来ないが、十分な出来と言えよう。先生の娘を引き取って以来娘たちの頭の出来に悩んでいたが、家庭教師という選択は間違っていなかったようだ。

 

 内心口角を上げるが、相変わらず表情には出ない。

 

 踊るようにタブレットを操る人差し指は家庭教師らの結果欄で止まった。

 

「武田様は…全国3位の快挙でございます」

 

「それで…彼らは?」

 

「素晴らしい事に上杉風太郎様は1位、白羽雪斗様は2位となりました……ですので旦那様には残念な報告となりますが…彼の宣言通りとなりました」

 

「確かに彼の言う通り…。10位以内……どうやらあの二人は思った以上の逸材だったようだね」

 

 二人で全国1、2位になるという普通では考えられない事態。娘たちの為に、共にいるためにここまで覚悟を見せてくるとは見事としか言いようがない。

 

「旦那様? どうかされましたか」

 

「……彼らには悉く邪魔されてばかりだ……彼らと関わる度に僕の予定は狂わされる。困ったものだよ…でもその覚悟は見事なものだ」

 

 マルオの脳内にはあの日の言葉が蘇っていた。

 

 一つは武田君を娘たちに顔見せしに行った日の言葉。

 

『俺はなって見せます。そいつに勝ち再び学年一位に……全国模試一位に!』

 

 もう一つは五月君にマンションに戻るよう促した時の言葉。

 

『僕は友だちを見捨てたくない。五つ子たちとずっと笑っていたい。そのためならちょっとぐらい無茶をすることになったって、僕は精一杯に頑張りたいと思ったんです』

 

 ………彼らを家庭教師に選んだ理由は娘たちと同い年で学年1位だから選んだのだが……娘たちに勉強を教えつつここまでの成績をたたき出すとは……そこまで娘たちに入れ込んでいるということか……見極める必要があるね。

 

「それでは…目的の場所へと…」

 

 報告が終わり次第正式に家庭教師と伝えるため武田含めた彼らに合流する予定であり、江端が車を出す。

 

 

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