今回のは三玖サイドのお話です。
完全弟作。
これで弟のほうがいいと言われたら泣いて押し入れに引きこもります。
~三玖side~
「行け! 信玄!! 敵を討つのだ!!」
思わず大声で言いそうになり、慌てて口を手で塞ぐ。………良かった。二乃と四葉は起きてないみたい。
「勝つのだ!」
極力声を抑え、パソコンのエンターキーをパチンッと押す。
布団を頭から被り、パソコンを熱心に見ている三玖の顔は白く照らされている。その顔は真夜中にも関わらず、庭を駆け回る犬のようにキラキラとしていた。
しばらく食い入るように見ていた三玖はバッと立ち上がった。そのせいで布団がずれ落ちる。それを気にも留めず、三玖は握りしめた拳を掲げる。
「やった! やった! 勝った!!」
喜色に滲んだ声が、暗い部屋にコロコロと転がる。
「ふふふ、褒めて遣わそう」
しっかりねぎらうのが主の務めだ、と三玖は画面越しのキャラに声をかける。
その顔はとても嬉しさに満ちた顔だった。
―――………
私がいまやってるゲームは『天地を駆ける戦国武将』。これは四葉に借りた、『野原を駆ける戦国武将』の続編だ。
中学当時、私は特に趣味もなく、部活にも入ってなかった。熱心に打ち込めるものもなかった私は、妹である四葉にこれを借りた。なんとなく気になって借りただけで、こんなにハマるとは思ってもみなかった。
野心溢れる武将達、彼らを守る鎧や武器の刀剣。それに触発されてたくさん本を読んだ。そのおかげで日本史は自信がある。でもテストの点数は悪いけど。まあ、それはさておき、誰かに聞かれたら何時間でも話せるくらい武将達が好き。
けれども………。
『ねぇねぇ、この人イケメンじゃない?』
『うわ! マジじゃん! 誰よこれ? うちにも教えなさいよ!!』
周りの女子生徒達はテレビや雑誌に夢中で、特にその顔が良い人について騒ぐ。
分かってる。私の趣味はおかしいって。趣味で語り合うのは無理だって。だから。
『ねぇ、アンタも見なさいよ。この人マジイケメンだから』
『そうだね、凄いかっこいいね』
よく分かんない人のことも周りに合わせた。正直めんどくさい。この人は二乃と同じタイプで、顔もうるさい。
それでも、いじめられるよりは遥かにまし。だから私は自分の趣味も姉妹達にも言わない。もしかしたら姉妹達もいじめられるかもしれないし、何より拒絶されるのが怖い。
『あ~あ、私もこんな人と付き合いたいなぁ~』
『諦めな、偏差値高くてもそれに比例して顔面偏差値も高くなるわけないんだから』
『ヒドイ! ヒドイこと言った今!』
『現実は夢じゃないからね、甘んじて今を受け入れるしかないのさ』
『なに黄昏てんのよ』
この時の私は知らなかった。現実には夢みたいな出来事があるって。
期末テストの後日、私達は別の高校に転校した。そこで私は彼に会った。
『こんにちは~。僕は白羽雪斗です!』
この時の第一印象は兎。彼の赤い目と白い髪が兎を思い浮かばせた。続いて四葉を思い浮かばせた。トレードマークのリボンが兎の耳みたいと思ったから。ちら、と自己紹介をする四葉を見て、気が合いそうと思ったのは内緒。
そしてその数日後。ユキトに秘密がバレた。
私と彼しかいない屋上で、ユキトは人差し指を立てて語りだす。
その推理はその通りで、まるで探偵みたいだった。声も変えて探偵になりきっていたのも、そう思わせた要因かも。
『誰にも言わないでね』
そう頼めばあっさりと頷いてくれた。
そんな流れで、思わず武将達を好きになった理由を話してしまった。聞いた途端、嫌になって拒絶されたらどうしようと不安に思ったけど、ユキトは変わらずそこに居た。そして肯定してくれた。
『自分が好きなものを好きと言って何が悪いの? 趣味なんて人それぞれ十人十色。それが当たり前だし、周りがどうとかなんて気にしてたら生きづらいと思うぞ。人には好きなことを言わせておけ。そんなの気にしたら負けだ。三玖は自分が好きになったその趣味に対して自信と誇りだけ持っていれば良いんだよ。自分の趣味に対してよく知らないくせにあーだこーだ言ってくる奴なんて無視してしまえ。周りの目なんて気にしなくていい。ありのままでいいんだよ。ありのままの自分を殺して、人の目を気にして人生を生きていくなんて酷く勿体無いし、本来たった一度の人生なんだから正直に生きたほうがずっと良い』
その言葉が酷く、酷く、私の心に響いた。
そしてユキトの目が弧を描いた。
『そうしたらほら、胸が軽くなるでしょ!!』
思えばこの時だったかも知れない。この気持ちに気付いたのは。
ユキトの姿は、まるで今日の夕日みたいに温かかった。
軽くなった体で布団に飛び込み、貰った花を透かすように天井のライトに当てる。
「この花の名前ってなんだろう?」
そう疑問に思った私は、スマホを取り出して検索。花の色合い、形でヒットしたのを見ると、名前はマネッチアというらしい。
「ええっと………」
下の方にもスクロールしていけば、花言葉が載っている。
『たくさん話しましょう』
「そっか。ふふふふふふ………これからもよろしくね」
使わないコップに水を入れ、窓際に飾る。
さらりと揺れたマネッチアを見て、溶けるように眠りについた。
この次の日、決定的な事が起こった。
何がきっかけで追いかけっこを始めたのか忘れたけれど、私とフータローは武将しりとりをしながら走っていた。今思えば良く分からない行動をしていたと思う。
体力がない私は、ベンチで座ってた。
へろへろだったせいか、この時の私の心はネガティブな方に傾いてた。
姉妹にも秘密にする必要があるのか、と言われたけれど、言えないよ。ゲームを貸してくれた四葉にさえ、言えないのだから。昨日今日で変われるほど、私は強くない。それは私が一番よく知っている。
『姉妹だから言えないんだよ。だって、私が五人の中で一番落ちこぼれだから。それに私程度にできることは他の四人もできるに決まってる。五つ子だもん』
昨日励ましてくれたユキトに顔向けは出来ず、膝を抱えて顔を隠した。
『だからフータローも、ユキトも私なんか諦めて……』
諦めてくれれば期待なんかしないのに。
それなのに、二人揃って。
『『それはできない』』
っていうんだもん。
五人揃って笑顔で卒業してもらう。というユキト達の最終目標は無理だと思ってた。五人合わせてやっと100点だから。
けれどそれは、屁理屈で返された。
『自分に出来ることは他の4人にも出来る。なら他の4人に出来ることは私にも出来る』って。
それでも納得しない私に実力テストの分析表を見せられた。
数学、国語、理科、社会、英語。全員分の回答が載ってるそれに、私は正解した問題が1問も被ってないことに気付いた。
極めつけにユキトが言った言葉。
『皆には100点の潜在能力がある』
その屁理屈に、私は貰った抹茶ソーダを飲みながら笑った。
ほんと、五つ子を過信しすぎだよ。
次の日の放課後、図書室で勉強を見てもらうことになっていた四葉は、他の私達に声をかけた。けれど一花は眠いから帰る。そして二乃はメンドクさいからパス。五月は用事でいけない。と。結局私と四葉で勉強を見てもらうことにした。途中、私はお手洗いに寄って、四葉は先に行った。お腹が痛いと嘘を言ったけど、本当は顔を合わせるのがまだ、恥ずかしいだけ。もう少し、あと少しでいいから時間が欲しかった。
無駄に広い鏡とにらめっこして、いつもの顔であることを確認。
「よし、行こう」
お手洗いを出て、階段を上り、図書室の扉を開く。
フータローにリボンを掴まれている四葉の横を通り過ぎ、ユキトの前に立つ。
少し深呼吸。
「ユキトに言われてほんのちょっとだけ考えちゃった。私にも出来るんじゃないかって…………だから、責任取ってよね」
上手く笑えているかな?
フータローにお礼を言ったあと、私は四葉の隣に座る。すると、四葉が口元を耳に寄せてきた。
「もしかして三玖の好きな人って…………白羽さん?」
ち、違うよ。そんなわけないでしょ。
私は聞かれてないか、ちらっとユキトとフータローを見る。
「ないない」
顔、赤くないよね?
少し慌ててしまったが、大丈夫そうだ。四葉は首を捻って気付いてない様子。ユキトは何か考え事してるのか目を閉じてるし、フータローは教科書とにらめっこしてる。
「じゃあ、上杉さん?」
ううん。
「違うよ」
どっちも否定すれば、四葉はむむむっ…と頬を膨らませた。思わず人差し指を伸ばして四葉の頬を刺す。
「ぶはっ! もう!」
「あはははは」
ねぇ、四葉、楽しいね。私この時間が楽しいよ。
十中八九いらないでしょうがオイラーの定理の証明が知りたい人は感想で言ってください。こちらも弟作デス。